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放置自転車対策としての返還費用増加政策の効果について
放置自転車対策としての返還費用増加政策の効果について
放置自転車対策としての返還費用増加政策の効果について
放置自転車対策としての返還費用増加政策の効果について
<要旨> <要旨> <要旨> <要旨> これまで自治体による放置自転車対策は,駅周辺の駐輪場整備を中心に行われてきた。しかし,駅周辺 空間は限られている。自転車の放置行為は人々の選択行動であることから,放置自転車を減少させるには, 放置費用をコントロールし放置抑止のインセンティブ付与政策が有効と考えられる。そこで本研究では, 返還料値上げ政策や返還場所までの距離といった,自転車を撤去された人々の返還費用の増加が放置自転 車台数にどのように影響があるかを理論・実証分析した.その結果,自転車を撤去された人々の返還費用 が自転車利用者の放置費用として機能し,放置抑止のインセンティブとして働いていることを確認した. さらに,返還費用増加政策の限界をまとめ,デポジット制や過料等の制定の政策提言を行っている. キーワード:放置自転車の理論モデル,インセンティブ,負の外部性2014
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平成
26
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政策研究大学院大学
まちづくりプログラム
MJU13617
平野
亮
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目次
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目次
1. はじめにはじめにはじめにはじめに ... 3 2. 自転車法と自治体の放置自転車対策自転車法と自治体の放置自転車対策自転車法と自治体の放置自転車対策自転車法と自治体の放置自転車対策 ... 4 3. 返還費用増加政返還費用増加政策の効果に関する理論分析返還費用増加政返還費用増加政策の効果に関する理論分析策の効果に関する理論分析策の効果に関する理論分析 ... 5 3. 1 放置自転車の理論モデル放置自転車の理論モデル放置自転車の理論モデル放置自転車の理論モデル ... 5 3. 2 返還料値上げ政策について返還料値上げ政策について返還料値上げ政策について返還料値上げ政策について ... 7 4. 返還費用増加政策の返還費用増加政策の効果に関する実証分析返還費用増加政策の返還費用増加政策の効果に関する実証分析効果に関する実証分析効果に関する実証分析 ... 7 4. 1 実証分析の方法と推計モデル実証分析の方法と推計モデル実証分析の方法と推計モデル実証分析の方法と推計モデル ... 8 4. 2 推計結果推計結果推計結果推計結果 ... 10 5. 考察考察考察考察 ... 11 5. 1 経済学的に最適な状態経済学的に最適な状態経済学的に最適な状態経済学的に最適な状態 ... 11 5. 2 返還費用増加政策の限界返還費用増加政策の限界返還費用増加政策の限界返還費用増加政策の限界 ... 13 6. 政策提言政策提言政策提言政策提言 ... 13 7. おわりにおわりにおわりにおわりに ... 14 謝辞 謝辞 謝辞 謝辞 ... 15 参考文献 参考文献 参考文献 参考文献 ... 153 1. はじめにはじめにはじめにはじめに 内閣府の調査 1 によれば平成23年度時点の駅周辺の放置自転車の台数(各都道府県の市, 東京都特別区及び三大都市圏の町村)は合計で1 日あたり 17.7 万台であり,昭和56 年の 98.8万台をピークに減少傾向にある.また,自転車駐輪場の整備台数は昭和 56 年の 133.4 万台から増加の一途たどり,平成19年の437.7万台をピークに平成21年度には432.1万台, 平成23年度では346.1万台に減少した.このことから,これまでの放置自転車への主な対 策は駐輪場整備であったこと,その駐輪場整備に一定の効果があったことが言える. 放置自転車への自治体(政府)の介入根拠は,放置自転車による歩行スペースの占有や 美観を損ねるなどの負の外部性への対処である.これまで駐輪場整備等により一定の効果 があったものの,放置自転車は依然無くならず,かつ放置台数そのものをゼロにすること には多大な費用がかかり実現が難しい.特にこれまでの主な対策である駐輪場の整備にそ の手段を求めるのは,建設費や維持費の問題,駅前のスペースの有効利用等の問題より難 しいと言える.また調査等から,駐輪場に空きスペースがあるにもかかわらず放置される という実態が読み取れる.さらに自治体は常に,費用対効果の高い政策手段を選択する必 要に迫られていると言えよう.つまり,放置自転車に対する政策手段を選択する判断材料 として,それぞれの駅周辺の特性や政策実行状況をコントロールしつつ,政策を変化させ た場合の放置自転車の台数に与える定量的効果を明らかにすることが重要であると言える. 家田・加藤(1995)は大都市郊外部への鉄道駅へのアクセス交通としての自転車利用者 の行動原理を,アクセス手段選択と自転車駐輪場場所選択の 2 段階選択として捉えたモデ ルを分析している. 唐渡・八田・佐々木(2012)においては,違法駐輪に対する自治体の政策手段として駐 輪場の整備台数,駐輪場の料金,撤去率を変数として,駐輪場選択問題に注目した.違法 駐輪台数割合比率データに基づいた推定モデルを提案し,撤去頻度を増加させると放置自 転車台数が減少することを分析している. これまでの論文は放置自転車台数等を被説明変数とし,駐輪場の整備,撤去活動の頻度 を変数として推計しているが,自転車利用者の放置費用としての機能があるはずである返 還料,撤去自転車保管場所までの距離等を考慮している論文はこれまでにない.放置自転 車の問題は,自転車利用者の合法駐輪かあるいは放置かの選択行動であると考えられる. さらに,経済学の十大原則には「人々は様々なインセンティブ(誘因)に反応する」 2 とあ る.法と経済学の観点からは,自転車利用者の放置費用をコントロールし,放置抑止のイ ンセンティブ付与する政策の効果を分析し,政策実行に役立てることが重要であると考え られる. そこで本研究では,自治体の制御可能な政策が駅周辺の放置自転車台数に与える影響に ついて,駅単位で集計されたデータを利用して分析を行う.自転車利用者の合法駐輪か放 1 内閣府「平成23年度 駅周辺における放置自転車の実態調査の集計結果」 2 N・グレゴリー・マンキュー(2013)10-12参照.
4 置かの選択を,Becker(1968)が提唱した犯罪行動モデルと同様に決定されることを仮定と し,駅ごとの放置自転車台数のクロスセクションデータを用いて,自転車を撤去された人々 が支払う返還費用が,自転車利用者の放置費用として機能しているかを実証分析により検 証する.ここでの「放置自転車」とは,各自治体の定める「放置禁止区域に自転車駐車場 以外の場所におかれている自転車であって,当該自転車の利用者が当該自転車を離れて直 ちに移動することができない状態にあるもの 3 」を言う.自治体が放置自転車対策としてコ ントロール可能な政策とは,駐輪場の整備,撤去活動,返還料の設定などになる. 本研究では,第2章で放置自転車対策の根拠となる法律,自治体の政策について述べる. 第3 章では放置自転車の理論分析について,第 4 章では実証分析について述べている.結 果,返還費用の増加には放置自転車減少効果があることが分かった.第 5 章では,理論分 析と実証分析の結果から放置自転車対策としての返還費用増加政策について考察を述べて おり,第 6章ではその考察より政策提言を行っている.最後に第 7 章では,論文の総括と 今後の課題について述べている. 2. 自転車法と自治体の放置自転車対策自転車法と自治体の放置自転車対策自転車法と自治体の放置自転車対策自転車法と自治体の放置自転車対策 放置自転車に関する法律は昭和55年に公布(昭和 56年施行,平成 5年に改正)された 「自転車の安全利用の促進及び自転車等の駐車対策の総合的推進に関する法律」(以下「自 転車法」という.)である.自転車法の第一条には,「この法律は,自転車に係る道路交通 環境の整備及び交通安全活動の推進,自転車の安全性の確保,自転車等の駐車対策の総合 的推進等に関し必要な措置を定め,もつて自転車の交通に係る事故の防止と交通の円滑化 並びに駅前広場等の良好な環境の確保及びその機能の低下の防止を図り,あわせて自転車 等の利用者の利便の増進に資することを目的とする.」とある.自転車法に定められてある 各自治体に委ねられている主な政策についてまとめると,放置禁止区域を設定し放置自転 車を撤去すること,駅前に公共の自転車駐車場の整備をすること,撤去した放置自転車の 返還料を設定することの 3 つが挙げられる.さらに,自転車法は放置自転車対策の主体は 市区町村などの基礎自治体であるとしている.言い換えるならば,撤去活動,駐輪場整備, 返還料の設定についてはすべて市区町村の判断に任されているということである. 自治体の放置自転車対策の中でこれまで最も重要でかつ対策の基盤となるのが撤去活動 と駐輪場整備であった.撤去活動については自転車法が施行されたことで可能になった自 治体の放置自転車対策の肝である.撤去活動を行うには,まず駅周辺等の放置自転車の状 況を確認し,駐輪場の整備などのインフラ整備を行わなければならない.その後,地元住 民や関係者と調整し放置禁止区域を条例にて指定してから撤去活動が行える. 前述の内閣府の調査によると,撤去した自転車は全国平均約92日間保管所で保管される. 駅ごとに,自治体内に数か所ある保管所が指定されており,保管場所が撤去自転車の返還 場所となる.持ち主が返還を受けに来た場合,返還料として1台あたり全国平均で約1,596 3 自転車法第五条6項
5 円を徴収する.保管日数を越えても保管所に自転車の持ち主が返還を受けに来なかった場 合は処分または売却される. 3. 返還費用増加政策の効果に関する理論分析返還費用増加政策の効果に関する理論分析返還費用増加政策の効果に関する理論分析返還費用増加政策の効果に関する理論分析 本章では,法と経済学の観点から合理的な自転車利用者に与える放置費用の放置抑制効 果について分析する.3.1 節では一般的な犯罪モデルを基に自転車の放置モデルを経済理論 で示し,3.2 節では足立区で行われた返還料値上げ政策の効果について経済理論分析を行う. 3. 1 放置自転車の理論モデル放置自転車の理論モデル放置自転車の理論モデル放置自転車の理論モデル 放置自転車問題は,犯罪に似た要素が多い.犯罪と経済学の分析としてはBecker(1968) の理論モデルが有名であり,放置自転車についても,佐伯(2010)や唐渡・八田・佐々木 (2012)で述べられているとおり,Becker の理論モデルに従うと考えられる.以下その理 論を簡単に紹介する. 犯罪行為を経済学的に分析する際には,人々は合理的に効用を最大化しようとするとい う考え方が基礎になる.つまり,犯罪発生は犯罪行為の費用と便益に応じるものであり, 犯罪を抑止するインセンティブに反応するということである.このことは犯罪捜査の厳し さ,有罪判決の可能性,刑罰の重さが犯罪発生に影響を及ぼしていることを示している. 犯罪行為の費用とは,犯罪が発覚することのよって受ける損失である.犯罪が発覚し捕ま り罰せられる確率が上がれば,犯罪の期待効用は減少することとなる.また罰をより厳し いものにすることによっても犯罪の期待効用を減少させ犯罪を抑止することになるであろ う.このBeckerの理論を定式化したものが次の式である 4 . E[U]=pU(Y-f)+(1-p)U (Y) U:主体の不確実性下での効用関数 p:逮捕され有罪となる主観的確率 f:有罪の判決を受けたときの刑罰の貨幣等価物 Y:犯罪からの利益 E:期待値を表す演算子 E[U]>0であれば主体は犯罪を行う. この式を基に放置自転車の理論モデルを考える.返還場所まで行き返還料を支払い,返 還を受ける一連の手間は,自転車利用者が放置を選択し撤去された自転車を取り戻すため の費用であり,返還費用として考えることができる.注意が必要なのは,返還システムの 性質を考慮することである.自転車を撤去された時に,合理的な人々は,自転車の主観的 価値が返還費用よりも低い場合には自転車を手放すという費用を選択する.この時の放置 4 秋葉弘哉 (1993)32-36参照.
6 0 放 置 費 用 ・ 撤 去 確 率 放 置 自 転 車 台 数 図 1 放 置 自 転 車 台 数 と 放 置 費 用 ・ 撤 去 確 率 と の 関 係 費用は,自転車の主観的価値のみになる.よって,合理的な自転車利用者は,返還費用と 自転車の主観的価値のいずれか低い方を選択し,放置費用とすることになる.このことを 踏まえ放置自転車問題に当てはめると次の式になる.
E[U]=pU(Y-min{f,V})+(1-p)U (Y) U:主体の不確実性下での効用関数 p:撤去確率(撤去頻度) f:返還費用(=返還料,返還場所までの距離など) V:自転車の主観的価値 Y:放置による利益 E:期待値を表す演算子 E[U]>駐輪場に止めたときの期待効用 であれば主体は放置を行う. すなわち,自転車利用者による放置自転車の台数は図 1 が示す通り,放置費用と撤去確 率pとの関数として示される. 経済学の十大原理には「合理的な人々は限界原理に基づいて行動する」 5 とある.ここで 合理的な自転車利用者は自転車の放置から得られる限界便益と放置に要する限界費用に直 面していることになる.限界便益は放置して撤去されないことによる期待利得であり,限 界費用は期待放置費用となる.したがって,期待利得が期待放置費用を上回る場合に放置 を選択する.期待利得は人により異なるが, 仮に同一だとしたとき,図2のように限界便益 曲線MBと限界費用曲線MCが交差する点まで放置を選ぶこととなる. 5 N・グレゴリー・マンキュー(2013)8-9参照.
7 MB MC 0 費 用 ・ 便 益 図2 自転車利用者が直面する限界便益・ 限界費用曲線 Q P 放置自転車台数 P MB MC´ MC 0 図3 費 用 ・ 便 益 足立区の返還料値上げ政策により自転車利用者が 直面する限界便益・ 限界費用曲線への影響 Q Q´ P´ P 放置自転車台数 3. 2 返還料値上げ政策について返還料値上げ政策について返還料値上げ政策について返還料値上げ政策について 東京都足立区では,平成22年に条例 6 を改正し平成23年度より撤去された自転車の返還 料を2,000円から3,000円へと値上げした.これまでの理論分析を踏まえると,この返還料 値上げ政策は返還費用を増加させる政策である.もし自転車を撤去された人の返還費用が 自転車利用者の放置費用として機能しているのであれば,人々に放置抑止のインセンティ ブを与え,図3のように限界費用曲線 MCが上昇し,放置自転車台数は減少するはずであ る. 4. 返還費用増加政策の効果に関する実証分析返還費用増加政策の効果に関する実証分析返還費用増加政策の効果に関する実証分析返還費用増加政策の効果に関する実証分析 本章では,自転車を撤去された人々の返還費用が自転車利用者の放置費用として機能し, 6 足立区自転車等の駐車秩序及び自転車等駐車場の整備に関する条例
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その返還費用の増加による放置自転車台数減少効果があることを示した前章の理論分析を 検証するために実証分析を行う.
4. 1 実証分析の方法と推計モデル実証分析の方法と推計モデル実証分析の方法と推計モデル実証分析の方法と推計モデル
実証分析は,政策の対象となったトリートメントグループと,コントロールグループそ れぞれの事前と事後の差を推定するDifference in Difference分析(以下「DID分析」という.) を行う.本研究では,平成23年度より返還料の値上げを行った足立区内の駅をトリートメ ントグループとし,隣接する荒川区内,北区内の駅をコントロールグループとした.放置 自転車の台数は,人々による,合法駐輪するか放置するかの選択の積み重ねであり,返還 費用増加の効果を図るには,その地域の自転車利用性向や,自転車の価格,周辺住民や駅 の特性等に大きく左右される.そのため,似ている地域あるいは同一地域での比較,トレ ンドの変化を除去することが必要である.つまり単純横断的なOLS分析よりも,返還料の 効果についは同一近似地域のDID 分析が適当であると言える.使用するデータは,東京都 発行の「駅周辺の放置自転車の現況と対策」と,各区から提供されたデータの平成 21~24 年度分を用いる.分析に用いた推定モデルは下記のものである. ln(放置自転車台数/100台) = α+β1(ln(撤去日数))+β2(ln(駐輪場整備台数))+β3(ln(乗入台数))+β4(返還場 所までの距離)+β5(トリートメントグループダミー)+β6(政策後ダミー)+β7 (トリ ートメントグループダミー*政策後ダミー) +β8(各沿線ダミー)+ε1(誤差項) 被説明変数は放置自転車台数/100台の対数値を用いる.今回用いるデータは,放置自転 車100台以下を0台として評価されるため,推計を行う上で 0台として評価されている駅 については100台として修正し,100台を下限値としてトービットモデルでの推計を行う. 説明変数については以下のとおりである. ① ln(撤去日数) 各駅における撤去頻度として,各駅の1年間の撤去日数を用いる.データは足立区・荒 川区・北区から提供された.撤去頻度の上昇が放置を選択する人の減少への効果がある とすれば符号は負となる. ② ln(駐輪場台数) 環境的要因として,各駅周辺の駐輪場の整備台数を用いる.前述の「駅周辺の放置自転 車の現況と対策」の数値を用いている.駐輪場の整備が十分であると,放置を選択する 人の減少効果があると予想されるので符号は負となる.本来であればその料金や距離に ついても環境的要因の変数にすべきであるが,データの制約より今回は変数に入れてい ない.
9 ③ ln(乗入台数) 機会的要因として,各駅周辺の自転車利用人口をコントロールするための説明変数であ る.前述の「駅周辺の放置自転車の現況と対策」の数値を用いている.自転車利用人口 が多ければ,放置される可能性のある自転車台数が増えるので,符号は正となるはずで ある. ④ 返還場所までの距離(100m) 各駅からその駅で撤去された場合の返還場所までの歩行距離 7 である.返還場所までの 距離が遠ければ,返還を受ける際にかける手間が多く,自転車を撤去された人の返還費 用が上昇すると言える.この返還費用が自転車利用者の放置費用として機能しているの であれば,返還場所までの距離の上昇は放置を選択する人を減少させ,符号は負となる. ⑤ トリートメントグループダミー 返還料の値上げ政策を行った足立区内の駅を1,それ以外の駅については0とするダミ ー変数である. ⑥ 政策後ダミー 足立区では平成23 年より返還料値上げ政策を行っている.その前後のタイムダミーと して,3区のすべての駅の平成23,24年度のデータは1,平成21,22年度のデータに ついては0となるようなダミー変数である. ⑦ 交差項(トリートメントグループダミー*政策後ダミー) DID分析で返還料の値上げ政策効果を計るための交差項である.返還料が放置費用とし て機能しているのであれば,放置抑止のインセンティブとなり,符号は負となる. ⑧ 各沿線ダミー 沿線住民の特性等をコントロールするための変数であり,各路線の駅であれば1それ以 外であれば0となるダミー変数.路線は,埼京線,山手線,京浜東北線,東武スカイツ リー線,舎人ライナー線の5沿線である. 以上の説明変数の基本統計量は表1のとおりである. 7 Googleマップにより検索した歩行最短距離を利用している.
10 観測数 平均値 標準偏差 最小値 最大値 ln(撤去日数) 14 8 0 .16 1 0 .46 3 0 .00 0 2 .2 2 1 ln(駐輪場台数) 14 8 4 .62 6 1 .08 9 0 .69 3 5 .8 8 6 ln(乗入台数) 14 8 6 .82 4 1 .35 3 3 .91 2 9 .5 8 6 返還場所まで の距離( 1 0 0m) 14 8 1 9 .7 1 0 1 3 .8 1 2 1 .40 0 6 4 .8 0 0 トリート メントグループダミー 14 8 0 .59 5 0 .49 3 0 1 政策後ダミー 14 8 0 .50 0 0 .50 2 0 1 トリート メントグループダミー*政策後ダミー 14 8 0 .29 7 0 .45 9 0 1 埼京線ダミー 14 8 0 .67 6 0 .25 2 0 1 山手線ダミー 14 8 0 .08 1 0 .27 4 0 1 京浜東北線ダミー 14 8 0 .12 2 0 .28 0 0 1 東武ス カイツリー線ダミー 14 8 0 .18 9 0 .39 3 0 1 舎人ライナー線ダミー 14 8 0 .35 1 0 .47 9 0 1 表1 基本統計量 被説明変数: ln(放置自転車台数/ 1 0 0 台) 推定値 限界効果 [ 標準誤差 ] [ 標準誤差 ] - 0.2 4 9 - 0 .0 2 2 [ 0.2 4 4] [ 0 .0 2 2] - 0.1 6 5 - 0 .0 1 4 [ 0.3 5 6] [ 0 .0 3 1] 1.2 8 1* * * 0 .1 1 2* * * [ 0.3 1 5] [ 0 .0 3 3] - 0.0 4 9* * * - 0 .0 0 4* * * [ 0.0 2 0] [ 0 .0 1 4] - 0.5 0 5 - 0 .0 4 4 [ 0.5 7 1] [ 0 .0 4 8] - 0.4 1 6* - 0 .0 3 6 [ 0.2 4 4] [ 0 .0 2 3] - 0.9 9 1* - 0 .0 8 6* * [ 0.5 0 3] [ 0 .0 4 3] - 0.4 3 8 0 .0 3 8 [ 0.3 2 4] [ 0 .3 1 2] - 2.1 2 8* * * - 0 .1 8 5* * * [ 0.4 4 0] [ 0 .0 4 2] 1.0 6 7* * * 0 .0 9 3* * [ 0.3 3 3] [ 0 .0 3 8] 0.2 2 2 0 .0 1 9 [ 0.3 4 5] [ 0 .0 3 1] 1.4 9 7* * * 0 .1 3 0* * * [ 0.3 7 2] [ 0 .0 3 0] - 6.5 3 3* * * [ 1.0 3 9] 観測数 1 4 8 自由度調整済決定係数 0.5 5 8 ※* * * ,* *,* はそれぞれ1%,5 %,1 0 %で 統計的に有意で あることを示す. 表2 推計結果 政策後ダミー ln( 撤去日数) ln( 駐輪場台数) ln( 乗入台数) 返還場所まで の距離(1 0 0 m) トリートメントグループダミー 定数項 トリートメントグループダミー*政策後ダミー 埼京線ダミー 山手線ダミー 京浜東北線ダミー 東武ス カイツリー線ダミー 舎人ライナー線ダミー 4. 2 推計結果推計結果推計結果推計結果 推計モデルの推計結果を表2に掲げる.
11 ⅰ.ln(撤去日数) 限界効果の係数の符号は負であるが統計的に有意ではない. ⅱ.ln(駐輪場台数) 限界効果の係数の符号は負であるが統計的に有意ではない. ⅲ.ln(乗入台数) 限界効果の係数の符号は1%の水準で統計的に有意に正であり,予想どおりの結果であ る.駅周辺への自転車乗入台数が1%増えると放置自転車台数が11.2%増えるという結 果である.例えば足立区の北千住駅は平成22年度の乗入台数が3,762台で放置自転車台 数が162台であるが,他の条件が一定であれば乗入台数が3,800台に増えると,放置自 転車が178台になることになる. ⅳ.返還場所までの距離(100m) 限界効果の係数の符号は1%の水準で統計的に有意に負であり,予想どおりの結果であ る.100m遠くなるごとに0.4%放置自転車台数減少効果があるという結果である. ⅴ.交差項(トリートメントグループダミー*政策後ダミー) 限界効果の係数の符号は5%の水準で統計的に有意に負であり,予想どおりの結果であ る.足立区の返還料値上げ政策は,8.6%の放置自転車台数減少効果があるという結果で ある. 推計結果の説明変数が示す傾向は予想どおりの結果が得られた.これらの結果から,自 転車を撤去された人の返還費用は自転車利用者の放置費用として機能しており,その返還 費用の増加により,人々が放置抑止のインセンティブに反応していること分かった.つま り,駅周辺の自転車利用者が駐輪場に駐輪をするか,あるいは周辺に放置するかは犯罪と 同様に選択行動であり,人々の選択行動をコントロールするような,放置抑止のインセン ティブ付与政策がより確実な効果があることが分かった. 5. 考察考察考察考察 第 3 章の理論分析,第 4 章の実証分析によって,自転車を撤去された人々の返還費用は 自転車利用者の放置費用として機能し,その増加政策が人々に負のインセンティブを与え, 放置抑止に確実な効果があることが分かった.それでは,各自治体が目指すべき政策は, 返還費用増加による放置自転車の駆逐であるだろうか.経済学的に考えるとそうではない. 5.1 節では,経済学的な最適な状態はどういう状態なのかを考察し,5.2 節では返還費用増 加政策の限界を考察する. 5. 1 経済学的に最適な状態経済学的に最適な状態経済学的に最適な状態経済学的に最適な状態 前述のとおり,合理的な自転車利用者は,放置による限界放置便益 MB と放置による限 界費用 MC に直面している.駐輪場台数や撤去頻度を所与とし,自転車利用者が直面する
12 P MB 0 費 用 ・ 便 益 外 部 性 図4 放置費用がゼロだった場合 Q1 Q* 放置自転車台数 SMC 死荷重 P MB 0 費 用 ・ 便 益 外 部 性 図5 最適な政策 Q* 放置自転車台数 MC´ ( =SMC) 返還費用増加な ど 限界放置費用がゼロと仮定すると,すべての人々は放置選び,放置自転車台数は図 4 のよ うにQ1となる.この時には,社会的放置費用SMCとして,放置自転車による負の外部性 が発生してしまうため,図4のように死荷重が存在してしまう. ここで経済学的に最適な放置自転車台数は,限界放置便益曲線 MB と社会的放置費用曲 線 SMC との交点の放置自転車台数である Q*ということになる.つまり,各自治体が目指 すべき政策は,図 5のように,返還費用増加などの政策により私的放置費用 MC´を上方シ フトさせ,放置自転車の負の外部性を完全に内部化させる理想的な状態を実現させること である. 本論文の実証分析では,返還料,返還場所までの距離などの返還費用が私的放置費用曲 線を上方へシフトする要因となっていることが分かった.しかしながら,どの程度が最適 なのかについては,放置自転車の便益と外部性の計測をしていないことから本研究では分
13 P MB 0 図6 最適水準は未分析 外 部 性 費 用 ・ 便 益 Q* 放置自転車台数 SMC MC´ ´ MC´ 析しておらず(図6),今後も放置自転車問題を分析する上で必要な課題とも言える. 5. 2 返還費用返還費用返還費用返還費用増加政策増加政策増加政策の限界増加政策の限界の限界の限界 自転車を撤去された人々の返還費用は,放置自転車による負の外部性を内部化させる手 段の一つであることが分かったが,返還費用はその性質が故の限界がある.返還費用が自 転車利用者の放置費用として機能するのは,あくまで自転車の主観的価値 V が返還費用 f を上回る自転車利用者に対してである.言い換えると,返還費用増加は自転車の主観的価 値V が返還費用 f を下回る自転車利用者が増加し,自転車利用の時点で返還を受けるつも りがない人が増えることも意味する.つまり,返還費用を増加させ続けるとそのうちに返 還費用が放置費用として機能しなくなることが考えられる. 自治体の目指すべき政策は放置自転車の負の外部性を最適に内部化させる理想的な状態 を実現させることである.推測になるが,放置自転車の負の外部性は放置場所や駅の性質 によって異なると考えられる.例えば点字ブロック上,狭い歩道,駅利用者が多い駅など は負の外部性が大きいと考えられる.このことから,負の外部性を適切に内部化させるた めには,場所や駅の性質によって異なるような私的放置費用曲線 MC´を設定しなければな らない.しかしながら現状では,返還料は自治体ごとに一律に設定されており,駅ごとや 放置禁止区域内でも場所によって異なるわけではなく,撤去頻度で対応している. これらは,返還料はあくまで返還時に自治体が負担する返還・保管費用を徴収する目的 のものであり,罰則としての法的意味合いを持っていないことによる限界ともいえる. 6. 政策提言政策提言政策提言政策提言 本章では,これまで得られた分析結果や考察を基に政策提言を行う. 放置自転車には犯罪の行動選択モデルと同様に,人々の選択をコントロールすることが 有効であり,放置費用をコントロールし放置抑止のインセンティブ付与政策を行うべきで
14 ある.これまでの各自治体の放置自転車対策は駐輪場整備,撤去活動を主な政策としてき たが,返還料等の人々の支払う返還費用は放置費用として機能し,放置自転車による負の 外部性を内部化させる 1 つの手段であり確実な効果が得られるため,返還料の値上げ等の 返還費用増加政策も併用勘案し,放置自転車対策を設計すべきである. しかし,現行の返還料の値上げ等,返還費用での対応では放置費用としての機能するこ とに限界があると予想される。そこで2つの方法でこの限界に対処できると考える. まず1つ目は,自転車の主観的価値Vが返還費用fを上回る自転車利用者を減らさない ために,返還費用増加政策だけでなく,自転車の主観的価値V を増加させる政策を併せて 行うことである.例えば,自転車の購入時等にデポジットをとる政策である.このことに より人々の自転車の主観的価値を一定以上に保つことができる.返還費用とデポジットの 関係を調整すれば,自転車を撤去された人々は返還を選択することとなる.デポジットの 存在により返還費用がすべての人に放置費用として機能することとなる. 2つ目は,すべての人々にとって放置費用として機能するような罰則を設定する,つまり 放置自転車による負の外部性に対しては,過料等の罰則設定が有効と言える.それに対し 返還料は,放置自転車による負の外部性を内部化させるためではなく,自転車法に定めの ある,自治体の負担する返還・保管費用の徴収という目的に則り機能させることを考える と,撤去自転車の保管日数に応じた費用徴収等が適当と言える.当然,この 2 つの政策の 実現のためには取締りの主体である自治体による住民の自転車の管理把握が必要となり, 社会的費用が増加することも考慮しなければならない. 7. おわりにおわりにおわりにおわりに 本研究では,自転車を撤去された人々の返還費用増加が,自転車利用者の放置費用を増 加させ,放置抑止のインセンティブを与える政策が確実に機能することを明らかにし,ま た返還費用の限界についても述べた.しかし,放置自転車台数の最適水準は分析できてい ない.放置場所や駅ごとに負の外部性の大きさが異なるはずで,最適水準は各々違うと考 えられる.そのことを踏まえると,同じ自治体内の放置禁止区域内でも点字ブロックのあ る歩道や駅利用人数の多い駅に対する放置は罰則を重くするなど,場所により重さの違う 最適な放置費用設定が適当と言える.そのためには,駅ごとや場所ごとの外部性の計測等, 今後さらなる研究が必要であり課題と言える.
15 謝辞 謝辞 謝辞 謝辞 本論文の執筆にあたり,福井秀夫教授(まちづくりプログラムディレクター),主査を担 当してくださった西脇雅人助教授,副査を担当してくださった安藤至大客員准教授,三井 康壽客員教授をはじめ,まちづくりプログラムの教員の皆様には,ご多忙の中,熱心な指 導をいただきましたこと,また各種データの照会等に関して,内閣府,東京都,足立区, 荒川区,北区等の放置自転車対策担当の皆様より多大なる御協力をいただきましたことを 改めてここに深く御礼申し上げます.また,政策研究大学院大学での 1 年間の学生生活を 共にした同期の皆様,研究機会を与えていただいた派遣元であるつくば市にも感謝申し上 げます. なお本論文における見解及び内容の誤りはすべて筆者に帰します.本論文は筆者の個人 的な見解を示したものであり,筆者の所属機関の見解を示すものではないことを申し添え ます. 参考文献 参考文献 参考文献 参考文献
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