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2017年度授業実践報告と英語習得に関する一考察

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〈 論文 〉

2017年度授業実践報告と英語習得に関する一考察

萱 嶋  崇 要約 本稿では、1 節で 2017 年度の授業実践報告を行い、2 節で英語習得に関する問題点の報 告とこれに対する提案を行う。授業実践報告は、言語教育センターの設備の活用をテーマ としている。スピーキングの授業は日本人の性格から、学生が積極的に参加できないこと が問題点として頻繁に挙げられるが、ヘッドセットや録音機能がこの問題を解決したこと を報告する。一方で、ペアワークには絶大な効果を持つ同設備であるが、グループワーク に用いるには問題が残る。英語習得に関する問題点は、日本語の「は」に関するものと、 品詞に関するものの 2 点を挙げる。普段何気なく頻繁に使っている助詞の「は」だが、話 者が認識している以上に多様な分布を持つ。その頻度から、英語でもこれに対応する表現 が必要となるが、学生の多くはその表現の方法を知らないだけでなく、誤った認識を持っ ている。これは、豊かな文法知識を持ちながらスピーキング等のアウトプットができない という、日本の学生に特徴的な問題の一因となっており、これを解決するためには学習過 程のどこかで「は」に関する学習を行う必要があることを主張する。2 点目の品詞に関す る問題もアウトプットに影響するもので、品詞に漠然とした理解しか持っていないことで、 英文がスムーズに生成できないことを示す。3 節を結語とする。 1. 2017 年度授業実践報告 本節では、2017 年度に主に言語教育センターで実施した授業の内容、及び結果を記述 する。当然のことでもとにかく記述し、具体的にイメージしやすいように授業のマテリア ルも掲載しており、他の先生方に少しでも参考にして頂くことを目的としている。本年度 初めて西南学院大学で教鞭を取らせて頂いたが、学生の学習に対する意欲が高く、アクティ ブラーニングが有効だった。学生が受け身にならないよう、こちらからの説明は極力避け、 できる限り多くの時間を学生に自発的に考えてもらうために割くことが重要であることを 実感した。後述するが、グループで協力して調査、企画を行いプレゼンテーションにする という、学生の自発的な行動を要求するようなアクティビティであっても、非常に高い完 成度の成果を見せた。以下、1 年次と 2 年次について順に報告する。

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1-1. 2017年度に行った授業の主な構成 2017 年度に行った授業の構成は以下の通りである。 ● 1 年次 使用テキスト : World English (Cengage) 時間 アクティビティ 概要 0 -10 単語テスト 前回のユニットの Vocabulary から出題 10-20 洋楽聞き取り 歌詞の 3 カ所を穴埋め形式にして聞き取り 20-30 文法解説 扱うユニットで強調されている文法事項を解説 30-60 コミュニケーション ランダムに作成したペアで行う 60-90 リーディング ランダムで作成したグループで行う ◦単語テスト 使用しているテキストには毎ユニットに「Vocabulary」というセクションがあり、同 ユニットのコミュニケーションやリーディングのマテリアルに関連のある単語が 10 個程 度出題される。これらの単語について、授業では各自で調べてくるよう指示するだけに留 め、講師による確認は行わなかった。授業中に確認すると学生が受け身になる時間を作っ てしまうというデメリットを避けると共に、各自で調べることによってより記憶に残りや すくしようとした。単語テストの得点は学生にとってわかりやすい成績の指標となり、ま た毎授業の積み重ねを実感できるようだった。また授業の始めにテストの静かな時間を設 けることは、学生が授業に集中する良いきっかけとなっていた。テストは以下のように、 英単語の定義を英語で答えるものとなっている。

borrow lend budget cash have debt income bargain expenses 1. something good for a low price _______________ 2. to give money to a person for a period of time _______________ 3. money that you spend _______________ 4. money in coins and bills _______________ 5. money owed to a bank or a company _______________ 6. money that you receive for working _______________ 7. a plan for spending your money _______________ 8. to receive a loan that you will return _______________ ◦洋楽聞き取り 単語テストの後に行う洋楽のディクテーションは、逆説的にディクテーションを主な目 的としない。英語を身近に感じることで、中等、高等教育で「覚えるもの」として学んで きた英語を、「使うもの」として意識させるために行う。具体的なアクティビティの説明

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としては、まず選曲について Bill Board ランキング上位、もしくは CM 曲を扱うように する。どこかで聴いたことがある、もしくは街中で流れている曲を選択する。学生には曲 中で繰り返される部分(主にサビ)の 3 カ所を穴埋め形式にした歌詞を配布し、曲を聴き ながらディクテーションを行う。難易度はかなり高いため、聴き取れなくて当然であるこ とを学生にしっかり伝え、ワークシートにはカタカナでも良いので必ず聞き取った音を記 入するよう指示する。日本の学生は間違いを極端に恐れるため、この指示がうまくいかな いとワークシートは白紙、もしくは正解を写しただけの状態で提出され、アクティビティ の効果が薄れる。穴埋めについては、wanna や gotta など、中学校や高校で習わないが日 常会話では頻出の表現や、リエゾンや音の消失などが確認できる部分を中心に作成する。 以下は Stay(作詞作曲:Zedd, Alessia Cara, Mood Melodies, Sarah Aarons, Noonie Bao, Linus Wiklund)を引用して作成したものである。 Stay Zedd ft. Alessia Cara

Waiting for the time to pass you by Hope the winds of change will change your mind I could give a thousand reasons why And I know you, and you've got to 時間がただ過ぎるのを待っているだけ 風の流れが自分の心を変えてくれるのを願って 理由なら数え切れないほどあるの 私はあなたを知ってる、あなたも私を

[Pre-Chorus]

Make it on your own, but we don't have to grow up (① )

Living on my sofa, drinking rum and cola Underneath the rising sun I could give a thousand reasons why But you're going, and you know that 自分でやるべきだよ でも大人になる必要はない 永遠に若いままでいられるの ソファに寝そべって ラムコークを飲むの 明け方 太陽が昇るまで 理由なら数え切れないほどあるの でもあなたは行ってしまう、わかってるわよね [Chorus] (② ) is stay a minute Just take your time

(③ ) so stay (② ) is wait a second Your hands on mine

(③ ) so stay 少し待ってくれるだけでいいのよ 私の手を取って 時計はチクタク 時間は過ぎてしまう だからここにいて 少し待ってくれるだけでいいのよ 手を重ねて 時計はチクタク 時間は過ぎてしまう だからここにいて (② ) is (② ) is stay ここにいてくれるだけでいいの

Won't admit what I already know I've never been the best at letting go I don't wanna spend the night alone Guess I need you, and I need to 知ってしまったことを認めたくない 上手く別れられたことなんてないの ひとりの夜なんて過ごしたくない たぶんあなたが必要なの [Pre-Chorus] [Chorus] (② ) is (② ) is stay (② ) is stay So stay, yeah [Chorus] (② ) is stay 図1

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Stay は 2017 年に Bill Board ランキングトップ 10 にランクインした曲で、街中でもよ くかかっている。曲を選ぶポイントとしてミュージックビデオの面白さも重要である。穴 埋めの答え合わせをした後に、もう 1 度確認のため曲を流すが、その際 You Tube でミュー ジックビデオも流すようにしている。最近のミュージックビデオはかなり凝ったものに なっており、例として挙げた Stay もまるで映画のような仕上がりになっている。ミュー ジックビデオが面白いと、確認の後に内容に関して学生と会話を挟むことができ、授業の 導入としてかなり良いものとなる。 穴埋めを作る際は、上記の例からわかるように繰り返される部分を選ぶようにする。① はサビ前の部分なので 2 回、②と③はサビとそれ以外の部分で合計 5 回以上聴くことにな る。また実用的な文法事項を含んでいることも重要である。①から③の解答は以下の通り となっている。 (1) ① We can stay forever young ② All you have to do ③ The clock is ticking ①では、stay という動詞の使い方についての解説が入る。「滞在する」という意味で覚 える単語だが、この意味と同等の頻度で「〜のままでいる」という意味で用いられること を説明する。天候が荒れている時などに別れ際用いる Stay safe.(気を付けてね)などの フレーズを教え、様々な応用がきくことを教える。②は「〜さえしてくれれば良いから」 という意味で用いるが、重要なのは is stay というように be 動詞の後に原形不定詞がある という事実である。SVC の C の部分は名詞か形容詞でなくてはならないため、動詞は本 来であれば to か〜 ing を付けて名詞化しなくてはならないはずで、②は例外的な表現と いうことになる。③では動詞 tick についての話ができる。カチカチ音を立てるという意 味で、音がそのまま動詞になったものである。日本語は擬音語や擬態語が動詞になること がないため、日英語間の違いを考えるきっかけとなる。既に述べたように音に関する解説 も行う。①では young の部分で文末の子音は発音しないことを教えることができ、②の all you や③の clock is の部分でリエゾンの説明ができる。以上のように、洋楽という身近 な題材を使って、かなり実用的な指導を行うことができる。 ◦文法解説 各ユニットで 2 項目の文法事項が取り上げられており、これについて解説を行う。一度 中等、高等教育で学んだ知識であるので、テキストを確認するのではなく、ワークシート に文法事項を盛り込んだ短い英作文を作っておき、覚えているかどうか確認という形で解 いてもらう。こちらの方が、学生が「懐かしい」という感覚を覚えたりして効果的である。 解答はホワイトボードに書いてもらい、これを添削しながら解説を行う。少し個人で考え させた後は周囲と話し合わせ、無言の時間を長く作らないようにする。

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◦コミュニケーション テキストには「Conversation」「Communication」のセクションが複数あり、この中か ら選んでアクティビティを行う。ワークシートには以下のような記載があり、スピーキン グ中は基本的に相手が話した内容を日本語でメモにとってもらうようにする。 2Communication ① p.156 のリストにある技術の中から、自分もしくは身の回りの人に役立つものを選び、 何故、どのように役立つのかを英語で言う。 ②聞き手は相手が言ったことを日本語で記入し、コメントを英語で言う。 ③話し手はコメントを日本語で記入する。 相方の言っていたこと(日本語で) ________________________________________________________________________________ ________________________________________________________________________________ ________________________________________________________________________________ 相方のコメント(日本語で) ________________________________________________________________________________ ________________________________________________________________________________ ________________________________________________________________________________ ペアはアプリケーションを使用してランダムに作成する。言語教育センターの LL 及び CALL 教室では全ての学生の席にヘッドセットが備え付けてあり、教卓からのコントロー ルで学生同士をランダムにマッチングすることができる。学生の会話は教卓から確認する ことができ、特定の個人やペア、グループと通話することも可能である。更に録音機能が あり、一括して全員の会話を録音、保存することができる。スピーキングの授業における 最大の問題の 1 つは、学生が羞恥心から積極的に発話できないことである。この問題はま ず、教室の学生全員がヘッドセットを着用しているためペアの会話が他の学生に聞こえな いこと、またペアの相手と直接顔を合わせないことからほとんど解決される。大人しい学 生や、人と話すのが苦手だという学生でも問題なくアクティビティに参加している。更に 決め手となるのが録音機能である。日本の学生の特徴の 1 つとして、積極的な姿勢を恥ず かしいと考える傾向がある。このような学生には、積極的に参加するだけの「理由」を与 えてあげなくてはならない。学生は本音では積極的に参加したいのであり、背中を一押し してくれる「理由」を欲している。そして録音機能は非常に自然にこれを提供することが

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できる。学生にはこちらが録音ボタンを押した後は一切日本語を使ってはならないこと、 また録音データは後に確認され成績に影響することを伝える。こうすると、学生は英語を 話すことに対する十分な理由を得たことになり、話しやすい環境も相まって全員が積極的 にスピーキングを行う。 LL 及び CALL 以外の教室におけるスピーキングアクティビティの運営は、上記に挙げ た方策はほとんど使えないためより難しいものとなった。ランダムにペアを作ることはで きるが、録音機能がある部屋とは違って英語を話す動機付けがどうしても弱くなってしま う。もちろん学生はアクティビティに参加してくれるが、LL 教室や CALL 教室程の緊張 感を演出することができない。現状はこちらの方が学習効果が低いと言わざるを得ないが、 学生が実際に顔を合わせるということは決してネガティブな要素ではないはずであり、機 材を用いた学習とは違った学習効果を生むような指導法を考案することが今後の課題であ る。 ◦リーディング リーディングはグループワークで行う。TOEIC 等で素早く文意を把握する必要性があ ることから、パラグラフリーディング、スキミング、サーチング(スキャニング)を重視 するため、まず各段落の簡単な要約を短時間で作る。個人で 5 分間だけ黙読してもらった 後は、沈黙の時間を作らないために全員で話し合い、ホワイトボードにグループ毎に要約 を書いてもらう。添削しながらパラグラフリーディングとスキミングについて解説し、次 に問題を短時間で解いてもらう。ここでも個人で数分考えてもらった後は、グループで話 し合いホワイトボードに解答を書いてもらう。答えだけではなく、サーチングを行った際 のキーワード、答えがあった場所も明記する。 グループワークにおいても LL 及び CALL 機材を使うことを試みた。可能ではあるが、 4 人から 5 人を超えるとむしろ逆効果になることがわかった。顔を見ながら間を図れない ためか、コミュニケーションの効率が下がり、答えが出揃うのにかなり時間がかかる。し かしながら、グループでマッチングすることは学生のモチベーションを高めることも事実 であり、あらかじめグループ内での役割を決める等、何らかの手段でコミュニケーション の効率を上げることができれば、グループマッチングも積極的に導入すべきである。現状 ではグループワークは実際に学生に席を移動してもらい、顔を合わせながら行った方が学 習効率が良いと言わざるを得ないが、来年度も何らかの方策を探る。

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●2年次 使用テキスト : 21st Century Reading 時間 アクティビティ 概要 0 -10 単語テスト 前回のユニットの Vocabulary から出題 10-20 洋楽聞き取り 歌詞の 3 カ所を穴埋め形式にして聞き取り 30-60 リーディング ランダムで作成したグループで行う 60-90 TED Talk TED Talk を視聴しながら問題を解く ◦ TED Talk テキストには、TED Talk を視聴して答える問題がある。テキストには該当する Talk を収録した DVD が付属しているものの、日本語字幕がついていないので、字幕無しか、 英語字幕での視聴を前提としている。これはやや難易度が高く、ブラウザで TED Talk のサイトにアクセスし、該当する Talk を日本語字幕で視聴してもらった方がよい。問題 は全て英語で表記されているため、それだけでも学生にとっては十分な難易度である。 ◦ Project テキストには「Project」というセクションがあり、TED Talk に関連する調査や企画を 行い、成果をプレゼンテーションにする。この授業は学生の高い自発性を要求するが、問 題なく授業を運営することができた。一例として、架空の「食」に関するイベントを企画し、 そのフライヤーを作成してくるという Project において、学生が提出したものを掲載する。 授業では、フライヤーの提出だけでなくイベントの説明、他グループとの質疑応答を行っ た。 図 2

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2. 英語の習得に関する一考察 2.1 日本語が英語の習得に与える影響 リーディングやライティングではあまり顕在化しないが、スピーキングにおいて顕著に 表れるものとして、日本語の「は」の影響がある。日本語が母語でない人に日本語の「は」 について説明する場合、多くの人がまず思い浮かべるのは「主語を表す接尾辞」である。 これは以下の例から判るように、正しい一般化ではない。 (2) a. 太郎はりんごを食べた。 b. 太郎がりんごは食べた。 c. 太郎は足が速い。 (2a)では、確かに意味上の主語に「は」が付加している。一方(2b)では、意味上の目 的語に付加しており、「複数の選択肢の中からりんごを選んで食べた」というような意味 合いを表す。(2c)では一見「太郎」は主語に見えるが、「足」に主語を表す主格の「が」 が付加しており、このような例はそもそも主語とは何かというような混乱を学生に与える。 このように、日本語ではかなりの頻度で、また異なる意味で「は」を用いる。 この「は」が英語の習得に与える影響は、英語の学び始めに現れる。日本の英語教育で は、文法の中では be 動詞を始めに教えるため、学生は以下のような文に最初に触れる。 (3) a. I am a student. b. 僕は学生です。 学生は(3b)の「は」も文法的な要素として認識しているため、英語にも対応する要素 を求める。I や a student は明らかに「僕」や「学生」に対応するため、残る候補は am しかない。このようにして学生は、英語の be 動詞を日本語の「は」と同一のものと認識 してしまう(同様の理由で「です」と be 動詞を同一視する場合もある)。もちろんこれ は誤りで、この認識があると以下のような誤りを生む。 (4) a. I am play baseball. b. 僕は野球をします。 be 動詞が日本語の「は」に対応するならば、(4b)の日本語には「は」が存在するため 当然 be 動詞が必要であり、(4a)のような誤文が生じてしまう。これが誤りだと本当に理 解するのはかなり後で、中には中等教育を終えてもこの誤解を持ち続ける学生もいる。事 実、大学 1 年生でも(4a)のような間違いは珍しくない。確かに偏差値の高い大学であれば、 ライティングでは(4a)のような誤りは見られない。しかしながらスピーキングとなると、 必要のないところで be 動詞を発話してしまう現象が見られる。2017年度に行った授業の 録音データにも、このような類の誤用が多く見られる。 スピーキングの能力を向上させるためには、この問題の解決は不可欠である。既に論 じたように、「は」及びこれに対応する英語表現に関する誤解は英語の学び始めに生じる。 しかしながら、「は」に関する指導はこの時期に開始するにはやや難度が高い。例えば、 この指導においては以下のような文例を説明する必要がある。 (5) a. そのりんごは太郎が食べました。

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b. That apple, Taro ate (it). (5a)では、「そのりんご」が「は」表示されており、意味上は目的語だが文頭に移動し ている。対応する英文である(5b)では、トピックである that apple が文頭に移動してい る。元々 that apple があった位置には、代名詞の it が選択的に現れる。このような文は 実際のコミュニケーションでは一般的に観察されるものであり、いつかは習得しなければ ならないものであるが、これを中学生に教えることは可能だろうか。考えられる説明とし ては、「日本語で「は」が付く名詞は、英語でも文頭に移動させてよい」というものがある。 しかしながらこれは、従来の日本における英語教育の方針に則れば、大いに混乱を招く恐 れがある。何故なら中等教育でも高等教育でも、SVOC をかなり厳密に教えるからである。 5 文型を教わった学生は、「英語では必ず主語が文頭」という認識を持つ。(5b)では O に あたる要素が文頭に来ており、この認識にとって明らかな反例となる。自由語順を持つ日 本語を母語とする学生にとって、そもそも SVOC を理解することが困難である上、「実は S 以外でも文頭に来られる」という情報は容易に受け入れられるものではない。ではいつ が適した時期かを考えると、やはり大学の初年度ではないだろうか。ある程度英語につい て理解しており、主語以外が文頭に来るのが例外的であるということがわかる。また、ど うやらこれまで学校で教わったのはあくまで基本であり、日常会話ではこれ以外の何らか のスキルが必要であるようだと感じている。学生に混乱が生じないように注意しながら、 中等、高等教育で学んだ英語を実用的にするための 1 つの技術として、「は」についての 指導を行う必要がある。 ただし、英語の指導要領は初等教育から大学にかけて変化している。初等教育に英語が 組み込まれ、中等教育以上ではリスニングやスピーキングにより重きを置いた指導が行わ れる。それならば、「は」に関する指導はこの時期に行ってしまった方が良い可能性がある。 文法の習得と平行してアウトプットの訓練を行うことになるため、学生はより直感的に英 語の習得に臨むことになる。その場合、母語である日本語の影響はこれまでより大きくな ることが予測される。そのような状況ならば、日本語の「は」に対応する表現として、英 語に文頭への名詞句の移動があるということが教えやすくなる。もちろん語順に関する理 解が遅くなる危険性はあるが、アウトプット能力が高まるメリットを考えれば問題ないと 思われる。 2.2 品詞に関する問題 多くの学生が品詞について漠然とした理解しか持っていないこともわかった。品詞は英 文をどのように構成するかを理解する上で非常に重要である。SVOC について説明する際、 以下のような点も解説しなければならない。 (6) S V O C 名詞 動詞 名詞 名詞・形容詞 (6)のように、V 以外の要素は多くの場合名詞で構成される。もちろん不定詞や動名詞 等の文法事項を理解するために必要ということもあるが、それ以上にアウトプット能力に

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影響する。日本の学生は文法等の知識はかなり多いが、ライティングやコミュニケーショ ン等アウトプットになると途端にパフォーマンスが下がる。品詞についての理解不足はこ の現状の一因である。英文を生成する際に最低限守らなくてはならない規則は非常に少な い。具体的には(6)と、あとは 5 文型のいずれかに当てはまっているかどうかである。こ れさえ守れば、自然かどうかという問題はあるが間違った文章ではなく、少なくとも通じ る英語になるのである。多くの学生はこのことが解っておらず、英語はあたかも暗号のよ うな、自分では到底扱えない難解なものという認識を持っている。間違いを極端に恐れる 日本人特有の性質も相まって、ライティングやスピーキングで 1 文を作り出すにもかなり 時間がかかってしまう。 この問題を解決するために、品詞については学習過程のどこかで学生に理解してもらう 必要がある。言うまでもなく、現在の英語教育において品詞の説明をしていないわけでは ない。中等教育から何度も指導を受ける。しかしながら、「〜詞」という表現は学生にとっ て英語を難解なものに思わせる原因の 1 つであり、英語に苦手意識を持つ学生であればこ の表現を聞いただけで学習意欲を失う。多くの学生が本当はシンプルな英語の規則に対し て難解なイメージを持ったまま大学に進学する理由はここにある。大学初年度の英語の授 業では、まずそのようなイメージを払拭してもらい、積極的なアウトプットを促す必要が ある。その過程で、唯一守らなくてはならないルールとして、5 文型に関連した品詞の指 導を行う。 3. 結語 本稿では、1 節で 2017 年度の授業実践報告を行い、言語教育センターの設備が英語教 育に対してどのような意義を持つかを論じた。スピーキングの授業では、学生が恥じらい から授業に積極的に参加できないという問題がある。この問題に対し、相手と直接向かい 合うことなく話すことができるヘッドセットと、英語を話す「理由」を与える録音機能は 明らかな効果を示した。グループワークにおいても同設備の活用を試みたが、人数が多く なると効率がかなり下がってしまうことがわかった。2 節では、授業を行う上で明らかに なった英語教育における問題を 2 点論じた。1 点目は日本語の「は」に関するもので、日 本人が普段意識しない「は」の性質と、英語習得の初期に生じる誤った認識によって学生 が誤文を生成しやすいことを報告した。この問題の解決のためには日本語において「は」 を用いるような表現を英語でどう表すか、学習過程のどこかで教える必要があり、現状で は大学の初年度が適切であることを主張した。英語教育の方針は変化しつつあり、スピー キングが中等、高等教育で重視されるようになるならば同時期における指導が望ましい。 2 点目は品詞に関する問題で、品詞に関する理解不足からアウトプット能力が下がってい る現状を報告した。

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