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ラーニングコモンズにおける学修モデルの開発

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Academic year: 2021

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ラーニングコモンズにおける学修モデルの開発

著者 稲垣 忠

雑誌名 日本教育メディア学会研究会論集

号 39

ページ 25‑30

発行年 2015‑06‑13

URL http://id.nii.ac.jp/1204/00000355/

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ラーニングコモンズにおける学修モデルの開発

Development of a Learning Model in a Learning Commons

稲垣 忠

Tadashi Inagaki

東北学院大学 Tohoku Gakuin University

高等教育において,学生の主体的な学修を支援するための環境として,ラーニングコモンズを開 設する動きが広がっている.2016年度に大規模なラーニングコモンズの運用を開始する大学にお いて,主に授業時間外の学修を支援するにあたり,どのような活動が想定され,どのような環境・

道具・人材が求められるのかを調査した.各学部教員からのヒアリングをもとに6つの学修活動 モデルのプロトタイプを開発し,意見聴取を行った.その結果,学修活動に日常活用,イベント 利用を加えるとともに,運用上の人的配置を検討し,モデルの修正を行った.

<キーワード> ラーニングコモンズ,学修モデル,高等教育,情報教育

1.はじめに

近年,大学教育の質的転換が叫ばれ,予測 困難な時代を生き抜く「学士力」を育成する 手法として,主体的な学修(アクティブラー ニング)の実施が求められている(中央教育 審議会 2012).学生が主体的な学修体験を 積み重ねるためには,授業時間内での教員の 工夫のみならず,授業時間外の学修をどのよ うに支援,促進するのかが問われている.

ラーニングコモンズ(以下,LC)は,「複数 の学生が集まって,電子情報資源も印刷物も 含めた様々な情報資源から得られる情報を用 いて議論を進めていく学習スタイルを可能に する「場」」(科学技術・学術審議会 2010)

である.一般的にはグループ学習ができるテ ーブルや議論のためのホワイトボードに加え,

コンピュータやプロジェクター等の ICT

( Information and Communication

Technology:情報通信技術)機器が整備され,

学生は授業時間外にこれらの環境をいかして

さまざまな学習活動を展開することができる.

1990年代に米国において「インフォメーショ ンコモンズ」として大学図書館内に情報検索 等を目的としたICT 環境の整備が進められ たことを背景に,2000年代以降,多様な学習 活動を支援するLCとして日本にも取り入れ られつつある(加藤・小山 2012).2014 年 時点での設置率は国内の国公私立大学全体の

43.4%である(文部科学省 2015).過去3年

間では約2.5倍増と急速な広がりを見せてお り,今後も普及が進むことが予想される.

LC のような新しい学習環境は,どのよう に活用すればよいのか,どのように運用する のかといったイメージの共有は容易ではない.

複数の学部・学科からなる総合性の高い大学 ほど,学科ごとに学びのイメージがつくられ,

学部学科に寄らない,特定の空間(LC)におけ る学修活動をイメージすることは困難と考え られる.

LC における学修をモデル化した例には,

(3)

玉川大学(2014)のダイアローグ(対話)を軸 とした「学びのサイクル」がある.講義室と LC を往復しながら情報獲得,交流,表現の サイクルを積み重ね,アクティブラーニング を実践する過程がモデル化されている.一方,

米澤 (2013) は,多数のLCに関する研究の レビューを試みている.特に事例報告に関す るものを,図書館利用や情報リテラシー,ラ イティング支援を目的とした「従来型学習支 援」,討論や問題解決型の学習の総称である

「アクティブラーニング支援」,学生と教職員,

地域住民などが交流する「拡張的学習支援」

の3種に大別されたことを報告している.文 献整理上の区分けではあるが,想定する学修 活動の質的な差異に基づいて分類されている.

LC における学修活動は,設置大学が目指 す学びのビジョンと結びついたものであるこ とは重要である.一方で,大学には多様な学 部,学科があり,講義,実習・演習,ゼミな ど科目の種類により,学び方も多様である.

本稿では,LC の設置を進めている大学にお いて,学びの多様性を担保しながらも,大学 が目指すビジョンを志向した学修モデルの開 発プロセスについて取り上げ,その開発経緯 を報告する.

2.対象・方法

2.1.対象

筆者の所属する東北学院大学(以下,本学)

では,中央図書館に小規模(席数:52)のLC が既に開設されている(図1).自習,プレゼ ンテーションの練習,ゼミなどで日常的に活 用されている.2016年に新規に開設を予定し

ているLC「コラトリエ(仮称)」は,新築す

る建物の1階および2階を使用し,広さ約 1200㎡,席数300席以上を確保する計画で 進められている.大きく3つのエリアから構 成される.

(1) コモンズ:3エリアの中でも最大の 空間を確保したオープンなLC空間.

移動可能なテーブルや大型のスク リーンと提示装置,壁際にはボック ス席コーナーを設け,各テーブルに 電子黒板を配置する.

(2) リエゾン:喫茶と隣接し,学外との 交流拠点とする.提示機器,グルー プテーブルや大型のベンチなどを 備える.

(3) サヴォア:2階部分を使用し,グル ープ活動用の部屋,アカデミックサ ポートを受けるための移動式や大 型のテーブル,国際交流ラウンジ,

ソファの並ぶインフォメーショ ン・ラウンジなどが設けられる.

図1 現状のLC「アクティブ・コート」

ICT環境としては,天吊りの大型プロジェ クター,移動可能な電子黒板,貸し出しのノ ート型PC,常設のデスクトップPC,プリ ンターなどが含まれる.

なお,このLCが設置される土樋キャンパ スでは2015年現在,文・法・経済・経営の 4学部の3〜4年生および関連する研究科の 大学院生が通学しており,1〜2年生は本 LCの対象にはなっていない.

2.2.モデル開発のステップ

学修モデルの開発にあたり,以下の手続き で行った.

(1) ニーズ調査

本学に設置されている6つの学部に所属し,

(4)

LCの検討委員会に参加している教員(以下,

LC委員)を対象にした質問紙調査を実施した.

質問項目は次の3点である.

(a) 学部として学修の集大成の場でどんな ことをしているのか?(発表,論文等)

(b) (a)のために,専門知識ではなく学び方,

学習スキルの観点から学生の「得意なと ころ」と「欠けている」と感じられてい るのはどんなところか

(c) 3年生の授業の中で,学び方や学習スキ ルを生かした活動や,身につけられる授 業の具体例

各LC委員から提出された情報を整理し,

本学のディプロマ・ポリシー(学位授与の方 針)との整合性を考慮し,本学の学生が共通 して持つととらえられている特質を整理した.

(2) プロトタイプ開発

各学部で3年次および4年次に設定されて いる学修活動を情報の収集場面と発信場面に 区分けし,6つの活動モデルを設定した.LC の空間および使用ツールとの整合性を図りな が ら モ デ ル

ご と に 3 ま

たは4段階の学修プロセスを定義し,必要な 支援を明示した.

(3) モデルの改善

プロトタイプをLC委員に示し,学修モデ ルに対する意見聴取を行った.得られたフィ ードバックをもとにモデルの改善を試みた.

3.結果・考察

3.1 ニーズ調査

6学部計9名のLC委員である教員を対象 に書面によるニーズ調査を実施した.学部ご とに集約した結果の概要を表1に示す.

学修の集大成(a)には,卒業論文や発表 会が挙げられているが,学部によっては必須 としていないところもある.頁数や発表時間 もさまざまだが,学問領域も異なるため,比 較することは難しい.なお,ゼミ単独で実施 しているところと,他のゼミと合同で取り組 む学部がみられた.

学生が得意とする学習スキル(b1)では,

口頭発表や与えられた課題への取り組みは評

学部 A B C D E F

(a)ゴール

卒業試験or卒 業論文と口頭 試問

ゼミごとに論 文集を作成

ゼミ単位,あ るいは合同で の論文報告

卒業レポート と発表会

卒業研究と発 表会

合同による卒 論指導,年3 回の発表会 (b1)得意

課題準備や口 頭での発表

個々の試験に は真面目に取 り組む

指示されたこ とに取り組む 和やかに議論 する

資料検索やプ レゼンテーシ ョン

与えられた課 題をこなす

プレゼンテー ション,自分 で学ぶ姿勢

(b2)課題

資料を深く読 む,批判的思 考,学習のマ ネジメント

系統的な学習 成果の積み上 げ

問題設定力,

議論する力,

学習への主体 性

文献を深く読 む,論理的な 文章表現

自分で課題を 発見する,文 章表現

文献を深く読 む,統計デー タの扱い,論 理的な説明 (c)科目・機会

アカデミック ラ イ テ ィ ン グ,フィール ド調査

1年次に討論 の仕方などを 指導

学外ゼミとの 共同発表,企 業訪問の機会

初年次教育,

実習科目,ゼ ミの設定

その他

語学の学習や 教員を目指す 学生への支援

リアルタイム に情報を入手 しながら討議 すること

深く考えるた めの思考法を どう身につけ させるか

学生が 24時 間いられる共 同の場の必要 性

ゼミにおける 個別指導の重 要性 表1 教員を対象としたニーズ調査の結果

(5)

価されている.一方,課題な点(b2)では,

文献資料の読み込み,深い思考,論理的な表 現等が指摘された.

学習スキルの獲得に関する科目には,初年 次教育以降では,実習や調査などスキルを発 揮する場面や,専門分野に関わる研究方法等 の習得に関わる科目が設定されていた.学習 スキルそのものの獲得を目的とした科目は3 年次以降ではみられない.

以上の結果をもとに,学生の現状について 次のように整理した.

(優れている点)

・与えられた課題は真面目にこなす.

・プレゼンテーション力(明るく,積極的に 人と関わり,自分の思いを伝えようとする)

(課題のある点)

・深く資料やデータを考察し,論理的に説明 する

・自分で課題を発見し,方法を考えて学習を 遂行する.

3.2 プロトタイプ開発

本学は文系,理系,学際性のある6学部か らなる総合大学である.そのため,各学部に 所属する教員がイメージする学修活動は多様 である.LC が目指す学びのイメージとの間 を橋渡しするものとして,ニーズ調査の結果 をもとに,学修モデルのプロトタイプを開発 した.

学習者の主体的な活動プロセスは,従来か ら情報教育,図書館情報学の分野でモデル化 が試みられている.まず,典型的な学修活動 をモデル化することを試みた.例えば,

Eisenberg & Berkowitz (1999)によるBig6

Skillsでは,課題設定-探索方法-特定と収集-

活用-統合-評価の6段階が示されている.稲 垣(2014)の「情報活用型授業」では,授業に 取り入れやすくするため,情報の収集,編集,

発信の3段階に簡略化したモデルを提案した.

LC における学修活動をモデル化するにあ たっては,特に授業時間との関連性を意識す

る必要がある.教員の立場からみれば,自分 の担当科目の中で,どんな時にLCが役に立 つのかを示す情報がほしい.学生の授業への 準備や事後課題として何を課し,その遂行に どうLCが機能するのかを表現することが適 切と考えられる.そこで,授業時間内に実施 が難しい情報収集の場面と,授業で編集・討 議した結果を事後課題や成果発表として伝達 する場面を対象とした.

図2が全体像である.情報収集に3場面,

情報の伝達に3場面の計6種類のモデルとし た.各モデルに含まれる文言は,LC 委員会 にてLC空間使用を定義するために用いられ ていた8種類の学習行動を配列した.中央に ある「教わる・相談・教える」は6つのモデ ルに共通して機能するものとして中央に配置 した.

図2 学修モデルプロトタイプの全体像

図3 図書・文献に関するモデル

図書・文献を深く読む

めざす姿

さまざまな文献資料を検索・収集し、批判的に読解し、自分 の考えを持つことができる

活動イメージ

学生の実態

+定められた資料を読解・要約する ー自分で収集し、批判的に読解する

場所 サヴォア:ラーニングサポートエリア

コモンズ:オープンスクエア

道具 図書・貸し出しPC・ホワイトボード

資料を広げられる机 資料を持参 アドバイ

ザに相談

読みを深 める

レポート 等の作成

(6)

情報収集には,本学の実習科目や卒業研究 の際に指導されている研究方法の代表的なも のとして,文献検索,フィールド調査,調査・

実験の実施を設定した.情報伝達場面では,

課題提出や成果発表として,レポートなどの ライティング,口頭のプレゼンテーションの 他,「グローバル」として,留学生等と交流し ながらワークショップ的な交流を図ることを 意図した.

図3は,6種類の学修モデルのうち,図書 資料や文献の読解に関するものである.モデ ルには次の情報を含めた.

・学生の実態:ニーズ調査をもとに該当する 学習活動に関する学生に関する評価

・場所:大きく3つのエリアからなるコラト リエのどの空間の活用を想定するか

・道具:設置された,あるいは貸し出し可能 な機材のうち,使用する可能性の高いもの

・活動イメージ:学生がLCでどんな行為を するのかを3〜4ステップのプロセスに

・めざす姿:本学のディプロマポリシーのも とでの該当活動に関するゴール

3.3 プロトタイプの改善

LC 委員を対象に学修モデルのプロトタイ プを示し,ヒアリングを実施した.得られた 意見は次のようなものだった.

・学生へのアドバイスはどのような立場,能 力を持った人材がするべきか

・アドバイスする人材と教員との間での共通 理解,連携のあり方

・学修モデルは授業からの延長でつくられて いるが,LC が主体となったイベント等も考 えていく必要がある

・モデルに該当しない日常的な使い方はどう 扱うのか

・教員側の視点であり,学生のニーズをつか めていないのではないか

・モデルをどう見せるか.イラストなどでイ メージしやすくする必要性

学修モデルのイメージを共有することはで

きたものの,LC の活用イメージ全体をとら える枠組みの必要性,サポート体制の明確化,

学生ニーズの収集,広報の仕方等が課題とな った.そこでまず,学修支援を含む活用イメ ージについて討議した結果,図4に示す3要 素からなる活用モデルを提示した.

図4 LCの活用モデル

① 日常利用:LC 空間を提供しておくこと で日常的に行われる活用として,コモン ズ,リエゾン,サヴォアの3つの空間の 特性にあわせて想定される学生の行動 をリストアップした.自発的な学修の他 に学生が集う場,カフェと連動した休息 利用も対象とした.

② 学修支援:プロトタイプにおいてモデル 化した教員やサポートスタッフの支援 を伴う学修活動を指す.

③ イベント:LC 内で開催されるイベント として,学習スキルや施設利用に関する 講座,ゼミや実習科目の成果発表,就職 課,国際交流課など他部署との連携企画,

学生による自主的な企画,地域と連携し た交流企画の5つを設定した.

4.今後の課題

LC の設置を進めている大学において,活 用イメージを共有するための学修モデルの開 発を試みた.教員を対象としたニーズ調査,

プロタイプ開発,モデル改善のプロセスを経 る中で以下の点が明らかになった.

③イベント

(啓発・交流・発 信)

②学修支援

(支援・指導・

協働)

①日常利用

(居場所づく り)

(7)

・ニーズ調査の結果,特に学部3年,4年を 対象とするLCにおいて,文献の深い理解や 論理的思考など,高次な学力の育成に関する 課題が確認された.

・プロトタイプでは情報の収集場面と伝達場 面に着目し,6種類の学修活動のモデル化を 試みた.各モデルでは,学生の実態,使用空 間,道具,プロセス,期待する姿を明確にし た

・モデル改善では,学修支援の他に,日常利 用,イベント企画に関して想定される事項を モデル化することで,包括的な活用モデルへ と改善することができた.

本稿において報告した学修モデルは現時点 では教員間でのLCの構築に向けた共通理解 を図るためのモデルにすぎない.学生視点か らのモデルの評価,修正・改善が必要である.

教員にとっても各学部学科,科目担当の立場 からモデルとカリキュラムとの整合性を高め ていくことが求められている.

なお,現時点では現行のラーニングコモン ズであるアクティブコート(図1)の使用状 況の把握や,学生による活用講座の開催など のトライアルを重ねている.本稿に示した学 修支援を含む活用全体をモデル化した結果,

運用体制やサポートスタッフの資質能力に関 して明確にしていく共通認識を得ており,

2016 年のオープンに向けて検討を続けてい るところである.

謝辞

本稿の執筆にあたり,ニーズ調査にご協力 いただいた北キャンパスラーニングコモンズ 開設準備委員会の先生方に感謝申し上げます また,図書部図書情報課の佐藤恵氏には,ヒ アリングデータの処理等にご協力いただきま した.ありがとうございました.

参考文献

中央教育審議会 (2012) 新たな未来を築くた

めの大学教育の質的転換に向けて~生涯 学び続け,主体的に考える力を育成する 大 学 へ ~ ( 答 申 ), 文 部 科 学 省, http://www.mext.

go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/t oushin/1325047.htm (2015年5月23日 閲覧)

Eisenberg & Berkowitz (1999) Teaching Information and Technology Skills:

The Big6 in Elementary Schools, Linworth Pub, OH

稲垣忠 (2014) 情報活用能力育成のための授 業設計, 学習情報研究 2014 年1月号, pp.22-25

科学技術・学術審議会 (2010) 大学図書館の 整備について(審議のまとめ)-変革す る大学にあって求められる大学図書館像

- , 文 部 科 学 省 , http://www.mext.go.jp/b_menu/

shingi/gijyutu/gijyutu4/toushin/130160 2.htm (2015年5月23日閲覧) 加藤信哉, 小山憲司 (2012) 『ラーニング・

コモンズ:大学図書館の新しいかたち』

勁草書房, 2012.

文部科学省(2015) 平成26年度「学術情報基 盤 実 態 調 査 」 に つ い て ( 概 要 ), http://www.mext.go.jp/component/b_m enu/other/__icsFiles/afieldfile/2015/03/

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玉川大学 (2014) Tamagawa Vision 2014, http://www.tamagawa.jp/vision_2020/e _bldg/concept.html (2015年5月23日 閲覧)

米澤誠 (2013) 研究文献レビュー:学びを誘 発するラーニング・コモンズ. 『カレン トアウェアネス』 317, pp.22-26

参照

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