• 検索結果がありません。

経済発展のパターンと構造的パラメーターについて

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "経済発展のパターンと構造的パラメーターについて"

Copied!
15
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

経済発展のパターンと構造的パラメーターについて

1

経済発展のパターンと構造 的パラメーターについて

児  玉  元

1

 経済発展の国際的乃至は地域的格差は,それぞれの国または地域の示す時間的成長パタ ーンの差異による。そして,その成長パターンは,それぞれの国または地域のもつ構造的 パラメーターと,歴史的時間において経験した初期条件の差異による。

 初;期条件の重要性を後進経済について証明した最も重要な分析は,ライベンシュタイン の分析である。ライベンシュタインは,臨界的最小努力の命題をもって,初期条件の発展        (1》

プロセスにたいする意味を明らかにする。彼によれば,初期条件として平均所得水準の上 昇程度が十分に大きく,低位均衡よりの離脱が一定の限界線を越える程大きければ,恒常 的な発展を確保することができるかもしれない。体系の構造的パラメーターがたとえ,発 展に有利なものであっても,初期における投資導入額が臨界的最小限の水準まで平均所得 水準を上昇せしめるには余りにも少なすぎるものであるならば,経済発展の果実はみのら ないかもしれない。ライベンシュタインの発展モデルでは,人口要因がきわめて重要視さ れており,彼の低位所得水準の均衡は彼のいう臨界的限界線までは安定的均衡の性質をも つという思考が背景的に存在しており,マルサス的均衡を分析の基礎としている。

      (2)       (3}

 もし,経済体系がサムエルソン的な第1種の安定性をもつものであるならば,持続的発       (4)

展に必要な外生的擁乱要因にたいする臨界値という概念はでてこない。初期条件の必要性 は論議の対象とはならない。経済発展にたいする初期条件の重要性を強調するのであれ ば,その体系は,安定的となるか,不安定的となるかの平均所得水準の低位均衡トラップ からの離脱についてその臨界的水準があるものでなければならない。かくて,ライベンシ ュタインの分析は,均衡の安定分析の応用であり,初期条件一一彼においては投資導入の 大きさで示される一の重要性をとく強調するものであることが理解される。

 もっとも,経済発展プロセスにたいする経済体系の構造的パラメーターが重要でないと いうのではない。経済発展のパターン,したがって所得水準の格差は,構造的パラメータ ーと初期条件とに依存することを再び指摘しなければならぬ。しかし,従来の経済学者の 中には,初期条件よりも構造的パラメーターの方を重視し強調する傾向があった。かかる 傾向にたいして,ハーベルモーはつぎのように述べている。「動学的モデルの分野にたつ さわる多数の経済学者のなかには,動学体系の初期条件は,ある意味で,モデルの構造的

(2)

性質ほど理論的には重要でなく,また興味あるものではないという奇妙な考え方がおこな われている。このような考え方はおそらく単純なリニヤー体系の研究から派生したもので あろう。」いま仮りに二つの体系が同一の構造的パラメーターをもつとしても,初;期条件

  (5)

がことなれば,一つの体系は累積的に発展し,他の体系は累積的に沈滞化するか,また二 つの体系の発展スピードが異なるであらう。むしろ,経済発展に有利な初;期条件を確保す ることが、かえって,構造的パラメーターを発展に有利な方向に改善せしめるかもしれな い。出発点でおくれをとるということが,それ以後の発展にとって致命的に不利な立場を あたえる可能性がある。ハーベルモーの言葉を再び引用すると,「ある地域が人口過剰の 状態であり,その資本量はきわめて少なく,したがって,その生産量もまたきわめて低い 状態に達していると,こめ状態は,人口数を突然に減少せしあることによって容易に改善 せしめうるようなものではない。そのような環境が歴史的に或る時点であたえられている

という事実は,長期的にでさえその環境の改善に障害となる。経済的発展は初期条件の差 異によるという仮説を別の言葉で述べれば,一地域はゆきづまる以前に利口となったので あり,他の地域は利口となる以前にゆきづまってしまったのである。」ここで,初期条件        (6)

の差異とは,各地域の自然的条件の差異と同じものではない。自然資源,気候,人種的性 質等の差異は構造的パラメーターの差異として示される。初期条件は,体系が動的な発展 径路をはじめる以前に生じた発展プロセスの結果である。

 経済発展の構造的パラメーターはハーベルモルにしたがえばつぎの四つの類型に分けら れる。(1)自然的条件ともいうべきもので,土地面積利用しうる自然資源,気候等の条件 を示すパラメーターである。②技術的知識の水準を示すパラメーターで,これによって 生産資源の投入と生産物の産出とめ関係があたえられる。(3)人間の態度と行動をのべる パラメーターで,これには労働性向,消費性向,人口増殖性向のごとき内生的な行動を示 すパラメーターである。(4)他の地域の行動と決意によって受ける影響を示すパラメータ ーである。勿論パラメーターをこのように分類する問題は一見するほど単純なものでな

   (7)

い。モデルの構造的方程式をできるだけ少ないパラメーターで形成すると,これらのパラ メーターは,他のもっと基本的なパラメーターの函数と看倣さねばならぬであろう。例え ば,a1とa2とが基本的パラメーターとする。モデルの構造方程式にはただ(a1+a2)の 形で導入されているとすると,この表現は一単純なパラメーターβでおきかえることがで きる。ここで、a1は純粋に技術的パラメーターであり, a2はもっぱら行動に関連したペ ラメーターであるとすると,βは上述のどのカテゴリーにも入らない。そこで,ハーベル モーの上述の分類にはつぎのような仮定がなされている。即ち,基本的且つ純粋なパラメ ーターの有限的な集合があり,構造的方程式の形成において,これらのパラメーターを陽 表的に使用するか,或いは,この基本的集合におけるパラメーターの既知函数であるペラ メーターを使用するかいつれかの仮定がとられる。

 経済発展の時間的径路を決:定する二つの要因,初期条件と構造的パラメーターの区別は

(3)

経済発展のパターンと構造的パラメーターについて

3

つぎのようによってあたえられる。即ち,構造的パラメーターは,ある一般的な推理の原 理によって演繹され,且つわれわれが説明したいと欲する特定の現象が,その中で見出さ れるような一群の現象内では絶対的に不変的なものと看倣される。構造的パラメーター は,もし,それが既知と仮定されるならば,この群を決定する。われわれはこれを理論の 与件とよぶ。初期条件は,理論的に推論された群の特定メンバーを決めるたあに必要な付 加的知識である。例えば,複利計算で4%であるとすると,この利子率で計算されたどの 投資も約17.5年置2倍になる。しかし,保有したいと考えられる貨幣額を知るためには,

投資額がまずあたえられねばならない。初;期の投資が100であると1年後には104となり,

17.5年後には200となる。

 構造的パラメーターは,体系の行動性向,経済活動に対する自然的,技術的制約条件,

外部より体系の経済にあたえる影響等を反映している。構造的パラメーターは,客観的な 経済的可能性に対する体系の数量黒蟻応力を測定している。これらが,体系間で(または 地域聞で)異なるということは,それだけ,人間行動における非類骨性を示している。経 済的感応のこのような相違はまた考察の・出発点t−o以前に出じたところの発展のプロセー スに由来するかもしれない。換言すれば,当該地域の経済的社会的歴史のずっと以前の相 違によるものであるかもしれない。ある社会,ある地域が過去において受けた刺激は,ま たそれが将来において引出される感応のタイプを条件づけるものであると考えられる。そ れ故に,その社会乃至は地:域の過去の経済的自然的環境の性質それ自身は,新しい周囲の 事実に対す量的質的反応に影野をあたえる。そのように考えと,地域間における構造的パ

ラメーターの差異を説明せんとするならば,経済学と歴史,社会心理学,人類学,社会 学,政治学と総合化が必要であることは明らかである。初期条件に差異がなくても,行動 的パラメーターの大きさの差異は勿論経済発展の水準,時間的径路に差異を生ぜしめる。

構造的パラメーターは定常的な状態における変数の値を決定するだけでなく,動学的解の 安定的性格,循環的変動の幅,均衡解の一意性に影響する。構造的パラメーターの僅かの 差異も,場合によっては経済の長期的状態にきわめて大きな差異を生ぜしめることがあり うる。経済理論家が景気循環モデルや成長モデルの形成において構造的パラメーターを重 視するのは上述の意味においてである。われわれは以下において経済発展の諸タイプと経 済発展のプロセスにおいて見出される地域間(または部門間)の諸関係の決定について,

構造的パラメーターの果す役割を明示する一つの理論モデルをあたえよう。

      (8)

2

 二地域或いは一経済における工業部門と農業部門の経済発展過程において示すところの 相互関係について,定石方程式を利用して考察してみよう。いま,一地域についてつぎの 方程式をあたえる。     .

(4)

   Y1(t)=a、、Y、(t−1)十a21Y2(t−1)       (1)

他の地域についても同じ形式の式をあたえる。

   Y2(t)=a22Y2(t−1)十a12Y2(t−1)      (2)

ここで,Y、(t)はt;期における第1地域の所得, Y,(t)は第2地域の所得を示し,パ ラメーターのa、、は第工地域にとっては直接的衝撃係数とよばれるもので,前期(t−

1)の所得水準が今;期(t)の所得にあたえる影響を示す。このa、、はまたつぎのような 係数から構成されるものと考えることができる。

・H一 mCls1(IFm12)+・] (3)

 ここでC、は資本産出比率,s、は貯蓄率、 m12は第1地域における第2地域の商品にたい する限界消費性向,η、は第1地域の商品にたいする需要の価格弾力性を示す係数であ  る。a,,も同様に考えることができる。 a,、は交叉的衝撃係数とよばれるもので,前期に  おける第2地域の所得水準が今期の第1地域の所得にあたえる影響を示す。これは,例え

ば,地域間の資本移動を示すものと考えると,第2地域で(t−1);期で所得が増加して 第1地域でそれが投資されると第1地域のt;期の所得が増加する。例えば,第2地域で  △Y,一20であって,第1地域の投資が増加して,t期の第1地域の所得が10単位増加す  ると,a,、一1/2となる。この係数は資本移動,投資の所得造出効果(乗数効果)を示す 係数から構成されるもの考えることができる。a、2は第2地域における交叉的衝撃係数を  示し,・上述の推理がまたあてはまるであろう。

  し

  上の定差方程式はリニヤーである。長期的には,aを規定する諸ファクターの変化によ  って変化するかもしれない。例えば,収穫逓減の傾向は,資本蓄積とともに資本産出比率の

低下を生ぜしめるであろう。また商品需要を規定するファクターは商品間の限界代替率の  変化によって影響をうけるであろう。場合によっては非線型性は線型性の仮定より誘導さ  れた結論の実際的有用性を無効にするかもしれない。さらに上の定差方程式は内生助変数        (9)

 で示されているが,サムエルソン的な歴史的時間という要因は導入されていない。謙る期       α①  間では一つの変数は他の変数の今期以前の値によって影響をうけるだけでなく,直接的に  時間的経過によって影響をうけることがある。つぎのような式をあたえると、

    Y、(t)=a、、Y(t−1)十a2、Y2(t−1)十f(t)      (4)

 時間tは直接的にYに影響をあたえる。このような歴史的時間は,技術的進歩とか人口増  加による影響を示し,所得水準とは独立的なものと看守される。しかし,われわれはいま  (1×2)の園丁方程式を使用する。パラメーターはコンスタントと仮定する。

  定差方程式の解を求める。(1)より,

      U1)

      Y、(t)一a1、Yユ(t−1)

      (5)

    Y2(t−1)=・

       a21 期間を1期間進あて,

(5)

経済発展のパターンと構造的パラメーターについて

         Y1(t十1)一a11Y、(t)

   Y,(t)一

      a21 上の二式を(2)式に代入して,

   Y1(t)=Y1(t−1)[a11十a22]十Y1(t−2)[a12a2、一alla22]

同様の操作によって,

   Y2(t)=Y2(t−1)[a1、十a22]十Y2(t−2)[a12a21−alla22]

(7)式と(8)式とでは係数は同一である。そこで共につぎのような特性方程式をもつ。

   X2=[aH十a22]X十[aエ2a2、一aロa22]

2個の特性根が求められる。

X一[…+…]±γ[…+a22]2−4[…a22一・・2a・・]

5

(6)

      2

さらに,

   [a1ユ十a22]2−4[alla22]=a112十a222−2alla22       〃       =[a11−a22〕2

であるから,⑬の特性根は,

   X、一…+a22+γ[a…a22]2+4旦・・a・・

       2

   X,一…+a22イ[・…a22]2±4・・2a・・

       2 連立定差方程式の一般解として,

   A、Xlt十A2×2も

がえられる。ここでA、とA,は初;期条件によってきまる未定係数である。

(7)

(8)

(9)

(1①

(11)

(12

3

 特性根のうちX、は支配項で,これによって成長プロセスがきまる。a、、>1, a22>1 であると,この体系は最も優勢的な体系であると名付けることができる。この場合,たと       働

え,a、2a21−0であっても,各地域において発展が生ずるであろう。この結果は, X、>1 であると,tの増大につれてX、tが益々大となることから理解される。一A、一〇となる ような場合を除く。そして、もし,a、、>1であるとa、2a,、が1より小,またたとえ零 であってもX、は1より大となる。

 a、1>1,a,,>1でX、>1である場合,体系は衛星的体系とよばれるような体系とな る。a22〈1であるから,第2地域はa12とa2、とを通じて第1地域と関係がなければ発 展しないであろう。X1>1であるから,第1地域と第2地域とを合せると,両者は発展 することができる。しかし,a22<1である1から,第2地:域だけでは発展できない。この 意味で,第2地域は第1地域の衛星的地域ということができる。もし,第1地域が第2地

(6)

域にとって衛星的地域であると,a、、<1,a22>1でX、>1である。

 a、、<1,a22<1で, X、>1であると,共生的体系が生じる。第1地域と第2地域と は相に独立的には発展することはできない。しかし、各地域が他に依存する関係に立てば 発展することができる。それは,X、にたいするa、2a2、の効果がX1を1より大なら七め

るからである。そこでこのような場合,第1地域と第2地域とが一つの経済体系より分離 して,貿易制限のような制度が生じるとa、2a,、が低落してX、が1より小となり,第1 地域も第2地域も独立的にも発展できない状態が結果するであろう。

 いま,a、、, a22, a、2, a21に各数値をあたえることによって,体系の発展パターンを グラフで示してみよう。a、2=a,、一1/2とおく。パラメーターa、、を横軸に,パラメー          ⑬

ターa22を縦軸に測る。そこで, a、、とa22の値に応じて,各地域は優勢的発展⑪,衛星 的発展(C),共生的発展(B)のパターンを示し,さらにまた,非発展的地域(A)を示すことにな る。そこで,一つの領域から他の領域へ移行するためには,a、、とa22がいかに変化しな ければならぬかを知ることができる。例えば,a、、一5/8でa22−1/2であると,対応領 域はB領域である。両地域は共生的発展領域にある。a、、が1/4に上昇すると,体系はC領 域,即ち衛星的領域に移行する。

第1図

α毘

1

0

  1

α12詣α2ド渥

α11

第1図で,A領域では発展プロセスは生じない。この場合,

X1_…+a22+ゾ[…一a22]2+4・・2a・・

       2

この式より,

  a11一←a22−alla22<1−a12a21

〈1 (16)

(7)

経済発展のパターンと構造的パラメーターについて

aユ2=a21=1/2の場合では,

   a、、+a22−a、、a22<3/4       ⑬

Bの領域では,

   a11+a22−a、、a22>3/4       ⑲

しかし,a、、〈1、a,,〈1であるから,発展は共生的であって第1地域と第2地域とは 独立しては発展できない。両地域が共生してはじめて発展しうるのである。

Cの領域では,{a1、>1,a2,<1}か{a、、<1,a22>1}の場合である。

この領域では発展は衛星的で,第2地域は独立的に発展できず,その発展は第ユ地域に依 存する。反対の場合では,第1地域は独立的に発展できず,その発展は第2地域に依存す

る。

 ここで,われわれは,後進地域の発展問題に関するミュルダール的な逆流効果(back−

wash effect)と波及効果(spread effect)について言及しておこう。ミュルダールは 低開発地域の低い経済水準を,ライベンシュタイン的な安定均衡の考え方を排して,循環 的因果関係の思考をもって説明する。この思考の源泉はウィクセルがその貨幣分析で示し

た累積的過程(curnulative process)の思考のうちに求めることができる。ミュルダー       qの

ルによれば,安定均衡の概念では経済発展の格差及びその増大過程を説明することはでき ない。「私の出発点はこういう主張である。つまり,安定均衡という観念は,多くの場 合,干る社会体制の変化を説明する理論を構成する場合に選ぶのには間違った類推である

ということである。社会的現実に適用した場合の安定均衡という仮定について間違ってい ることは,社会過程というものは一たとえ循環的な仕方でその方向に向って動くとしても 一なんらかの意味で諸力の聞の均衡の状態とよびうるような状況に向う方向にしたがうも のであるというその観念である。このような観念の背後には,もうひとつのさらにいっそ うの基本的な仮定がある。それは,あるひとつの変化は,いつもきまって,その体系の中 に、大体において最初の変化と反対の方向に動く変化の形態における反作用をひきおこす ということである。私が,本書において解明しようと思う観念は,それと反対に,正常の 場合には,社会体系における自動的自己安定化に向うそのような傾向はないということで

ある。体系は,それ自体では,増力聞のなんらかの種類の均衡に向って動いているのでは なく,むしろ,常にそのような状態から乖離する動きをとっている。正常の場合において は、或る変化は平衡的な変化をひきおこすのではなく,むしろ反対に,最初の変化と同じ ような方向に,しかも更に進んで体系を動かすような促進的な変化をひきおこす。そのよ うな循環的な因果関係のために,ある社会過程は累積的となり,また,しばしば,加速度 的な度合で速度を早めるのである。」経済的格差の増大は,この累積過程の循環的因果関       ㈲

係の仮説によって説明せられる。

 ミュルダールの循環的因果関係の思考はさらに逆流効果という考え方と結びつく。ミュ        (16)

ルダールは,相隣接する地域乃至経済における発展と沈滞の外生的要因を重視するのであ

(8)

るが,彼によれば,逆流効果とは後進地域が先進地域の発展より受ける不利な影響をさし ているのである。彼の定義はこうである。「私はその場所以外で起きるあらゆる意味の反 対の変動を,ある場所の経済的拡大の逆流効果とよぶ。」この効果のなかには,資本移       q7)

動,貿易,労働移住を通じての経済的要因の効果のみでなく,経済外的要因による効果も 含まれている。いま,逆流効果を資本移動についていえば,多くの場合低開発国をさけ

る。先進国自身がますます急速に発展しているような場合には,資本所有者は十分な利潤 と高き安全率とが保証されるからとくにそうである。このことはヌルクセル指摘している ところである。アメリカの高き利潤が低開発国への投資を困難ならしめている。また,国       ⑱

際貿易それ自体は,低開国に強力な逆:流効果をあたえる可能性があり,事実,低開発諸国 における今日の生産パターンがこの逆流効果を反映しており,これらの地域乃至国々にお ける低廉且つ柔順な労働の存在自体も多くの場合近代的工業を誘引するものではない。

 ミュルダールは逆流効果と反対に市場の拡大等によって一地域が他地域の発展より有利 な影響を受けることも指摘している。これらの考え方は或る意味でマーシャル的な外部的        ⑲

経済と外部的不経済の考え方と共通する点をもっている。ミュルダールはこの有利な効果 を波及効果とよんでいる。「しかしながら,逆流効果にたいして,経済的拡張中心から他 の地域にたいする拡張惰性のある種の遠心的波及効果もある。拡張の結節中心点をめぐる 全地域が,農産物のハケロの増加によって利益をえ,そして,つねに技術的進歩の刺激を 受けることは当然である。また,中心地における成長工業にたいする原料を生産するのに 好都合な条件をもつもっと遠隔な場所にたいする他の方面の遠心波及効果もある。もし

も,これらの他の場所において十分野多くの労働者が雇用されるようになるならば,そこ では消費財工業さえ拍車をかけられることになるであろう。新しい出発がおこなわれ,そ れがうまくいっているこれらの場所でも,他のあらゆる場所でも,もしもそのような拡張 惰性が旧来の中心地からの逆流効果にうち勝つほど強力であるならば,次には自立的な経 済拡張の新しい中心地となる。」ミュルダールによれば,低開発地域乃至経済の宿命的な        ⑳

特徴は,波及効果が弱いという事実である。国際間の弱い波及効果は大部分はその国が到 達した低い発展水準によって引き起された低開発国自体の内部における地域的な弱い波及 効果の反映にすぎない。「たとえば,殆んど世界中の至る所で起ることであるが,国際貿 易や海運が,或る港のすぐ近付の土地を経済拡張の中心地たらしめるような場合には、そ の拡張中性はその国の他の地域までは波及してゆかないのが普通である。」波及効果が逆        ⑫1)

流効果より弱いかぎり,発展の地域的,国際的格差は増大する。そしてまた波及効果自体 が経済水準の函数でもある。ところで,波及効果と逆流効果とが互に均衡を保ち,そのよ        ⑳

うな地域は停滞的となるかもしれない。しかし,そのような均衡自体はライベンシュタイ ンのようなマルサス的均衡モデルで示されるごどき安定均衡ではない。均衡を成立せしめ る諸力の変化は累積的な上昇的,あるいは下降的な運動を生ぜしめるのである。低開発国 乃至地域の後進性はまさしく波及効果の弱いことに由来する。

(9)

経済発展のパターンと構造的パラメーターについて       9

 ここで,われわれは再び定差方程式の解を吟味する。a、,とa,、のいつれが十分なマイ ナスの値をとり,絶対値において,

   41a12a211>[a11−a22]2      (20>

が成立するならば,X、とX,とは複素根となり,第1地域についてつぎのような解が示 される。

  ㈱   Y1(t)=Mt[A、 costθ十A2 sintθ]     .      ⑳ この式では,

   M−1ゾ[…+a22]・一[・…a22]・+4・・2a・・一画・a22+・・2a21麗〉

   θ一t。n一・ゼー空ζ・2−a・一己工…k・二勉]E        ⑳        a11十a22

   。。、θ_趣+勉       (25)

         2M

   ・inθ一ゾ4a・2a・・嶽a・・一a22]2     ⑳

複素根の場合において係数に数値をあたえて第2図をうる。発展の地域はEとFの領域内 にあり,ここではM>1である。たとえば,la、21−1/2,でa,、一1/8であると,M>1        第2図

       α22

1

実根

       /       £卜  /     ノ ◎\£㌧/

 非発展 /      /

/          昏

 F//

携素根

E

 £1・

実根

0

α1L

α12一一渥 α21一 %

(10)

であるためには,a、、a,,>15/16の条件が成立たねばならぬ。しかし,根が複素根であ るためには,

   [a11−a22]2〈4ia12a2、「      (27)

 第2図では付加的な条件があたえられる。

    {:::二1:=:1};;::::.li   ⑳

そこで二つの直線が根が複素根となる境界線となる。

a、,>a,,+ 1 また:はa,,>a、、+ 1 であると,X、は実根となり,成長プロセ        2 ,      2

スは第1図で示されたようになる。

 ミュルダールにしたがえば低開発国では,逆流効果が波及効果よりも強力である。そこ で,a、2, a2、のいつれがマイナスである。そして,もし,21/la、,a2、1>[a、、一a22]

であるならば,複素根をもつことになる。さらにまた,もし,a、2〈0, M>1,a、、>

a,2であり,成長プロセスで変化しないならば,第1地域においては所得は上昇する傾向 があるが,第2地域の所得は低下する傾向を示すであろう。この結果はつぎのようにして 証明させる。t=0ではsino−0,cosO=1であるからY、(O)一A、,さらに, t=1

においてはY、(1)一M[A、cosθ+A、 sinθ]そこで,未定係数は,

   A1=Y、(0)       侶0)

   A・一狂叫r認甜豆)劃一一     G1)

      2・Y1(1)一Y1(0)[a1ユ十a22コ    A2=

       62)

      1/ 41a12a211一[a11−a22]2 成長適程でパラメーターが変化しないと,

   Y1(1)=aエ1Y(O)十a21Y2(O)      (33)

そこで,

   A,一Y・(O)[a1・一a22]+2…Y・(O).

       γ・4;。、2a,、1一[。、、一a22]・       図

最終解として,

(11)

経済発展のパターンと構造的パラメーターについて

11

Y、(t)一M− x、(0)。。stθ+[a・・一a22]sintθ

       1_       1/ 41a12a21}一[a三1−a22]2        2Y2(0)a2、sintθ

         十

       1/ 4}a12a211一[a11−a22]2 _ ここで,costθ>0の領域では

65)

   Y・(・)[ゾ41・、2a21ト[・、、一a22]・]

   +[[・・一a22]Y・(・)+2Y・(・)…]t・ntθ〉・   66)

であると,Y、(t)は上昇的である。そして,この領域では, tantθはcostθ>0では零 から無限大となるから,上式の第2項は第1項を圧倒し,終局的は,Y、(t)の符号は第

1地域にとっては,

   [a11−a22]Y1(0)十2Y2(0)a21      〔鋤 によってきまるであろう。第2地域にとっては,

   [a22−a、1]Y2(0)十2Y1(0)aユ2      (38}

によってきまるであろう。もし,a、,<0で, a、、>a22であると,剛は正となり(38)は負 となる。第1地域の発展は第2地域に逆流効果をあたえるであろう。もっとも,この条件 は,costθ>0の領域でtantθが零から無限大となる領域においてのみ妥当し, costθ<

0となれば,そのことは結果的には第2地域の所得は零となりマイナスとなることを意味 する。そこで第1地域の所得も第2地域の影響を受けてマイナスとなるであろう。このよ

うな結果は非現実的である。ミュルダールでは,第2地域の所得水準の絶対的な低下より も,むしろ,先進的な第1地域の所得成長に比較した相対的な低落が考えられているので ある。そこで,costθ〈oの場合は考察の視界外におとすことができる。そして,第2 地域の所得水準が上昇しつつある場合でも,第1地域の急速な所得成長がかえって第2地 域に強い逆流効果をあたえ,その所得成長の速度をにぶらすことが考えられる。ミュルダ ールの逆流効果による発展の格差は,本来的にこの場合を意味するものである。

 ところで,Y、(1), Y、(1)をY、(0)とY,(0)に関係なく十分に大きくとると,

costθ>0の領域でA,が十分に大きな値をとり, A, sintθがAI costθを圧倒するなら ば,Y、(t), Y2(t)は共に正に正であることは明らかである。

      Y1(1)一MY1(O)cosθ    A2=

       69        Msinθ

において,Y、(1)を十分に大きくとると, A,もまた大きくなる。これは発展過程にお ける初期条件の重要性を示している。投資計画の初期において,十分に大きな投資を導入 し,急速な所得水準の上昇を生ぜしめることによって,有利な発展の軌道を開くことがで きる。これは所謂big push論の根拠でもあり,ままたライベンシュタインモデルにお        (24)

けるcritical minirnum effort thesisでもある。「後進的な状態から脱して,堅実な

(12)

長期成長を期待しうるいっそう発展した状態に移行することに成功するためには,必要条 件として一必ずしも十分条件ではないが,一楽る点まで,または或る期間にその経済 は臨界的な最小規模より大きな成長への刺激をうけねばならぬ。」

      (25)

4

 以上われわれは,定連方程式の解によって経済発展の若干のタイプを示すことができ た。これらの方程式は,二経済二地域間の累積的因果関係のパターンを示している。勿 論,低開発経済の全てがこのような分析的フレームワークの中で解釈できるというわけで はない。しかし,例えば一a、2の絶対値の増加は,二つの経済乃至地域をして発展可能 な領域に移行せしめるであろうが,もし,Ia,、1が十分に大でないならば,一a、2の同じ 変化も一地域が後退,他地域が発展するような状態を現出せしめるかもしれない。このよ

うに,経済発展を促進する手段を求める以前に,少なくとも原理的には当該経済をしてそ のようなパラメーター領域に位置せしめることが重要であることが理解されるであろう。

 ここで提示された方程式は線型で同次であった。そこで非線型と歴史的時間の問題は無 視されている。ハーベルモーによれば,純粋に確率的な要因は類以のパラメーター構造を もった経済においても全く異なった発展パターンを生ぜしめるかもしれない。勿論,発展       (27)

の格差を説明するのに確率的なプロセスの方法を使用するのに反対すべき理由はない。生 物学においてはよく見られるように地質学的な変動によって異なった成長パターンが生じ ることがある。偶然性ということが或る;期間では他の期間よりももっと重要な要因である ことは考えられることである。しかし,われかれがここでいいたいことは,われわれの使 用したパラメーターの図では領域の境界線に近接していない点では,発展の差異を生ぜし める機会の確率はそれほど大きくないということである。おそらく,パラメーターのわっ かな変化は,パラメーター領域を変化せしあないであろうし,またそれゆえに,経済発展 のタイプを変化せしめないであろう。勿論,黒死病というような偶発的な大事件は,経済 がパラメーターマップの上にどこに位置するかにかかはらず,経済発展の型態を変化せし あるかもしれない。しかし,偶発的な小事件は問題とならない。もっとも,パラメーター 領域の境界線の近くでは,たとえ偶発的な小事件であっても,発展のタイプに影響するか

もしれない。その意味では偶然的な機会の確率は大きいということができよう。

 もし,経済がパラメーター領域の中心近くにあるならば,偶然も,社会的行動も経済発 展のパターンに影響をあたえる可能性は少ないであろうρしかし,もし,経済がパラメー ター領域の境界線近くにあるならば,適当な社会的行動は発展パターンに影響を及ぼすで あろう。さらにまた,歴史的時間というのも経済をして一つのパラメーター領域から他の パラメーター領域へ移行せしめるかもしれない。そこで,パラメーターがパラメーター領 域の境界近くにない期間では社会的行動は役に立たないかもしれない。しかし,後の;期間

(13)

経済発展のパターンと構造的パラメーターについて

「3

で,歴史的時間が経済をしてパラメーター領域の境界近くに移動せしめ,社会的行動によ って発展パターンの変化を可能ならしめるかもしれない。

(註)

(1}H,Leibenstein, A Theory of Economic−Demographic Development,1954.

  H:.Leibenstein, Economic Backwardness and Economic Growth,1957, p.6, p

  94.      ・

(2)H.Leibenstein, A Theory of Economic−Demographic Development,1954, P.34.

(3) H.Leibenstein, ibid.,P.19.

(4)サムエルソンは4種類の安定を区別している。

 ①第1種の完全安定一もし,どのような初期条件からも,すべての変数が時間が無限大になる   ときの極限において,その均衡値に近づくならば,体系は第1種の完全安定をもつ。この種の完   全安定は性質において非振動的な均衡のみに適用される。

 ②小範囲における第1種の安定。一均衡よりの小なる離脱を票す体系の初;期状態から変数が時   間が無限大となる極限において,均衡に近づく場合をいう。小範囲における安定は完全安定の中   に含まれるが,逆に成立しない。

 ③第2種の完全安定一一つの体系の均衡は定常的均衡でなく連続的に振動するものであること   がある。即ち,変数の値は定常的均衡のまわりを限りなく振動するかもしれない。もし,どの初   期状態からでも体系の変数がこの種の振動即値をとるならば,体系は第2種の完全安定をもつと

  いう。

 ④小範囲における第2種の安定。

  A.Samuelson, Foundations of Economic Analysis,1958, p.260.

  ライベンシュタインは、さらにもう一つ安定概念を付加している。即ち,第3種の安定はつぎの   場合に成立する。どのような初期状態からでも,体系が有限系列の連続的な離脱を経験し,そし   て最後の離脱の後に,体系の変数が時間が無限大となる極限において均衡値に近づくならば体系   は第3種の完全安定をもつということができる。H. Leibenstein, A Theory of Economic−

  Demographic Development,1954, P.38.

(5)T.:Haavelmo, A Study in the Theory of Economic Evolutions,1957, P.57.

(6)T.Haavelmo, ibid.,P.6.

(7》T.Haavelmo, ibid, P.47.

⑧ 前差方程式を利用して経済変動のパターンをその構造的パラメーターによって説明する仕方につ   いては例えば,」.R. Hicks, A. Contribution to the Theory of the Trade Cycle,

  1950.参照。

(9)Jan Tinbergen, On the Theory of Economic Policy,1952, P.14.

α① Pau玉A. Samuelson, Foundations of Economic Analysis, ch. Xi.

q1)William J. Baumo1, Solution of Simultaneous Linear Difference Equation   Systerns、 published for the Project for Advanced Training in Social Research

(14)

(13}

(1の

(1④

(18)

(19

⑫1)

(22)

(23)

at Columbia University.

Wiliam Baumol Economic Dynamics, Second Edition,1959, p.279.

Bert F. Hoselitz,鯉Patterns of Economic Growth, Canadian Journal of Econo−

mics and Politcal Science,1955, PP.416〜431.

Paul A. Samuelson,禦rntersections between the Multiplier Analysis and the Principle of Acceleration,勢Review of Economics and Statistics,1939, reprinted in Readings in Bllsiness Cycle Theory,1951, pp.261〜296,

J.R. Hicks, A Contributiorl to the Theory of Trade Cycle,τ950.

Knut Wickse11, Geldzins and iG廿tterpreise Jena,1898.(Translated as rnterest and Prices, London,1936)

Gunner Myrda1, Economic Theory and Under−Developed Regions,1957, pp.

12〜13.

G.Myrdal, ibid,,p.27.

G.Myrdal, ibid.,p30.

G.Myrda1, Asian Drama:An Inpuiry into Poverty of Nations, Volume H,

1968,p.1173.

R.Nurkse, Problems of Capital Formaton in Under−developed Countries,1953,

P.27.

G.Myrdal, Economic Theory and Ullder−Developed Regions, p.31.

G.Myrda1, Asian Drama p. l185.

G.Myrda1, Economic Theory and Under−Developed Regions, p.31.

G.Myrda1, ibid.,P.55.

G.Myrdal Asian Drama, Volume【rl, p.1900.ここでまた、ミユルダールは、この波 及効果は一般的に南アジアでは弱いと述べている。

W.Baumo1, Economic Dynamics,1959, pp.197〜205.

P.N. Rosentein−Rodan,鰻Notes on the Theory of the Big−Push, Economic Development for Latin America, H:oward S. E五1is ed., MacmiUan, London,

1961.

ミユルダールはこのbig−push thesisについてつぎのように述べている。「出発点で、運動のプ ロセスを開始せしあるためには大きな努力が必要である。その後は努力をゆるめ,或いは比例的に 持続的な努力からより大なる且より早い収穫を獲得することができる。低開発国が漸進的なアプ ローチに頼ることができないということ,益々多くの経済学者が疑big plaバを支持するよう になったのはこの理由による。後進性と貧困とはもともと一国をして大きなプランのために十分 は資源を動員せしめることを困難ならしめるものであるが,後進性と貧困それ自体が効率的であ るためにはプランが大きくなければならぬ理由なのである。一つの観点からいえば,発展をはじ めるには計画が必要であり,市場の剛力それ自体ではなしえないという考え方そのものはbig pllshの論題を含意しているのである。………南アジアにおける諸状態とその因果的相互依存

(15)

経済発展のパターンと構造的パラメーターについて

15

  関係に関するわれわれの一般的知識から,われわれはつぎのように結論することができる。即   ち,努力はcritical minimumより大でなければならぬこと,そしてまた,努力は同時的に   非常に多くの状態に向けられねばならぬし,短期的に集中的になされねばなぬし,また合理的に   釣り合いのとれた方法で適用されねばならない。」G.Myrda1, Asian Drama, Volume

  IH, P.1899 and p.1901.

(25}:H.Leibnstein, Economic Backwardness and Economic Growth,1957, P.6.

槍6)T.Haavelmo, A Study in the Theory of Economic Evolution,1953, PP.64

  〜81.

参照

関連したドキュメント

そこで本章では,三つの 成分系 からなる一つの孤立系 を想定し て,その構成分子と同一のものが モルだけ外部から

1、研究の目的 本研究の目的は、開発教育の主体形成の理論的構造を明らかにし、今日の日本における

節の構造を取ると主張している。 ( 14b )は T-ing 構文、 ( 14e )は TP 構文である が、 T-en 構文の例はあがっていない。 ( 14a

式目おいて「清十即ついぜん」は伝統的な流れの中にあり、その ㈲

テキストマイニング は,大量の構 造化されていないテキスト情報を様々な観点から

これは基礎論的研究に端を発しつつ、計算機科学寄りの論理学の中で発展してきたもので ある。広義の構成主義者は、哲学思想や基礎論的な立場に縛られず、それどころかいわゆ

実際, クラス C の多様体については, ここでは 詳細には述べないが, 代数 reduction をはじめ類似のいくつかの方法を 組み合わせてその構造を組織的に研究することができる

(2011)