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(1)

長崎大学教育学部自然科学研究報告第19号141‑148 (1968)

茶わん蒸しの加熱条件について

野口道子

(長崎大学教育学部家政科教室)

Studies on the Japanese Cooking "Chawan‑mushi"

The Optimum Temperature

Michiko NOGUCHI

Summary

The problems in a Japanese cooking "Chawan‑mushi" on its conditions and the obtained dish taste were studied by the procedure of its functional tests and mechanical analysis.

In the cooking, "Chawan‑mushi" is constructed from the cracked whole egg with soup and is moderately steamed in the cup holding in a steamer. In this case, the ratio of the egg to soup is 1 : 3.

The following attentions in their cooking were appreciated.

(1) The temperature in a steamer was fixed at 85‑C for about 18 minutes or 90⊃C, 12 minutes. The overheating the materials within 5 minutes was neglected.

(2) Using cover on the cup was nicely resulted but the heating time was longer, so the gas guantity of fuel was larger than no cover.

(3) Preheating soup was used when the egg was not coagulated on their mix‑

ing, and in this case good result was obtained.

緒言

調理実習の茶わん蒸しにおいて,往々すだちという現象のため風味や外観を著しくそこなう 場合がある。これは中味の卵たんばくの凝固が起こったのである。たんばくほ一般に60‑70‑C で熱変性が起こり,凝固するのであるが,調理においてはそれをゲル状に固め,調味料などと 卵たんばくの融合したものが昧・感触の点から賞味されている。

ところでゲル形成に関係するものとして,たんばくの濃度, pHなどがあるが,温度の碁饗 はきわめて大きく,普通の化学変化は温度10‑Cの上昇で速度が2‑5倍になるのに対して, ゲル形成の際は600倍の速度変化があるといわれているO

(2)

 よって調理科学的見地から,形成されたゲルを官能検査,機器測定などの方法を用いて細か に表現し,製品と加熱条件の間の関係を求め,よい製品を得るには(1)蒸し器内の温度を比較的 低温に保つ(2)蒸し茶わんにふたをする(3)だしじるを高温にするなどの方法をとり,急激な温度 上昇を防ぐのが有効であることを再認識した。

 今後,これらの点を実地に応用することによって,すだちによる風味の損失を防ぎ得るので はないかと考え,実験の概要を報告するしだいである。

 実験1 加熱のしかたの影響  1.蒸し器内の温度を変えた場合

 A蒸し茶わんのふたをしない場合       一   1)方法

  (1)試料

   鶏卵(卵黄係数0.4程度の新鮮なもの)

   だしじる(市販化学調味料0.05%入り水道水)

   食塩(市販精製塩)

   しょうゆ(市販しょうゆ)

   配合割合 鶏卵とだしじるの割合は一般によく用いられる1:5とし,食塩はこの卵     液の0.8%,しょうゆは1%を用いた。

  (2)器具

   蒸し器 アルマイト製角型蒸し器(図1)

   ガスこんろ    蒸し茶わん

    外のり 上部 9.0翻 下部 7.0伽 深さ 5.5伽 糸底φ4.2伽 高さ 0.5伽

    容量200cc 重量1559 個数4個

  (3)測定

   硬度 カードメーター(飯尾・M 501−A型,おもり 2009,感圧軸φ8.6襯)

       1

   ガス消醒湿式実験用ガスメーター(品川●1… 型)

   温度 水銀温度計,電位差計式熱電温度計(飯尾・54型)

  (4)条件

   試料重量 1個につき1509

   加熱前の試料温度 20。Cとし,気温による差がなるべく現われないようにした。

   蒸し器内の蒸し茶わんの位置(図1・2)

   蒸し器内の水量800cc    温度測定位置(図1)

    蒸し器内蒸し器の中央,蒸し板直上     試料 下部 蒸し茶わん内中央,内底面       中部 同上,内底面より1.5翻上       上部 同上,内底面より5伽上

(3)

茶わん蒸しの加熱条件について 145

翅。 ..塑

6㎜

8.5㎝

8.5㎝

ト・一23.5伽 →

 図1使用蒸し器と温度測定位置

 卜一 22.8佛 →

図2蒸し板上の蒸し茶わんの位置

  蒸し器内の温度が65〜70。Cになった時,試料入りの蒸し茶わんを入れ,1〜2分  で蒸し器内温度を85,90,95,100。Cに上昇させ,以後一定(士2。C)に保った。

  加熱し始めた時から5分問隔で試料の温度を測定した。

  試料中部の温度が78。Cに達した時,加熱をやめ,その時の時間および試料の温度  を測定した。

  直ちに蒸し茶わんを200Cの水中に保ち,試料中部の温度が70。C (食べる時の適  温)に下った時,カードメーターで硬度を測定した。

  次に茶せん型のあわたて器で試料を1回切り(分離液量測定の条件をなるべくそろ  えるためである)φ12傷のロートに移し,5分ごとに15分間,分離液量を測定した。

2)結果

 結果は表1のとおりである。図5は試料温度の変化をグラフにかいたものである。

表1 蒸し器内温度の影響(蒸し茶わんのふたをしない場合,気温22。C)

隠魍階

  、

  \試料温度

時間  \、、(。C)

(分)   一\

5 6 9

12 15

85

上部

59.0 75.2 75.2 76.5 77.5 78.0

中部

46.0 65.5 72.6

ワ5.1 ワ6.8 ワ8.0

下部

(1ワノ58〃)

62。0

ワ2.5

77.0 80。0 81.5

90

上部

65.0 75.5 81.0 81.5

中部

46.0 66.0 75.0

ワワ.8

78.0 下部

(12/19〃)

65.0 77.0 80.5

95

上部

62.0 78.0 85.0

中部

49.5 71.0 77.8 78.0

下部

(9/50

67.0 80.0

100

上部

69.0 87.0 90.0

中部

45.0 76.0 78.0

下部

(7 と1〃)

77.0 85.0

(4)

硬  度(9)

分離液量

 (cc)

5

10 15

1.5

2.5 6.5 9.0

状1

ガス消費量(!)1 55,652

2.5

5.0

9.5 15.5

20,247

5.5

7.0

12。5 16.5

25,651

4.0

9.0

15.5 21.0

×

40,807

◎表面が最もなめらかで,すだちがなく,口当たりがよい。

◎表面周囲にごく小さいすだちが数個みられるが,◎とたいして変わらない。

O表面周囲のすだちがやや多いが,だいたいなめらかである。口当たりがややかたい。

△表面は周囲に小きいすだちが多いが,他はなめらかである。口当たりはややかたい。

× ほとんど全面に大きいすだちがあり,口当たりがかたい。

80

科 60

ンハ旧 50

℃ 40

30

20

   蝋  ×/

一』」____」L一」」

0 3 6 9 10 15

     加熱時問(分)

18

図3蒸し器内温度の相違による試料温度の変化   (蒸し茶わんにふたをしない場合)

  ○蒸し器内温度  850C   ×  〃     900C   ●  〃    950C   ム  グ    1000C

5)考察

(1)蒸し器内の温度は,予備実験の結果,調理における実用的な範囲として85〜100。C  とした。

(2)試料中部の温度が78。Cになった時に加熱をやめたのは, 予備実験の結果,この試  料配合の場合は78つC以下では固まらないことを認めたからである。

(3)製品の性状は蒸し器内の温度が低いほどよかったのは,当然のことながら試料温度  の上昇がゆるやかに行なわれ,かつ,部分による温度差が少なく過熱される程度が少  ないためと思われる。

  凝固温度以上になるとゲルはすだち状態となって離漿するから,高温で蒸したもの

(5)

茶わん蒸しの加熱条件について 145

  ほど分離液量が多くなっている。

   硬度も温度とともに大きくなっていて,95QCの製品(5.5)になると感覚的にもや   やかたくなったことがわかるが,85。Cのもの(1.5)と900Cのもの(2.5)の間の差   はほとんどわからない。つまり85〜90。Cで蒸すのがよいと思われる。

 (4)ガスの消費量は90。Cが最少で95。Cがこれに次ぐ。90。Cは経済的にも適温である   と思われる。

 (5)蒸し器内の温度を85〜90。Cに保つには,温度計を用いなければ多少の経験を必要   とする。蒸し器のふたをすかせるのは簡便であるが,ガスの消費量は約2倍となる。

  温度計を用いるのはそれほど手数のかかることではないので,初心者にはこの方法を   すすめたい。

B蒸し茶わんのふたをした場合  1)方法

  蒸し茶わんのふたとして,厚さ5襯のガラス板に温度計がはいるだけの穴をあけたも  のを用いた。他はAと同様である。

 2)結果

 表2および図4のとおりである。

表2 蒸し器内温度の影響(蒸し茶わんのふたをした場合,気温15。C)

、\型裸響

    \\

    試料温度

時間    (。C)

(分)

5 6 9

12 15 18 21 24

度(9)

分離液量

 (cc)

5

10 15

ガス消費量(1)

85

上部

47.0 60.5 68.8 74.5 75.4 76.0 76.1 76.8 77.0

中部

52.0 65.8

ワ0.8 ワ4.0 ワ5.2

76.2 77.2 78.0

下部

(25 5ち )

51.5 64.5

ワ2.0

76.5 78.8 79.8 81.5

81.ワ

1.0

1.5

5.5 8.7

50,004

90

上部

61.0

ワ4.0

78.0

ワ9.0

80.0 81.2

中部

44.0 66.0 75.2 75.5 76.5 78.0

下部

(17・2η〃)

64.0

ワ9.0

79.5 82.8 85.0

1.8

5.0 7.8

11.6

45,614

95

上部

61.5

ワ9.0

85.0 85.0

中部

44.0 70.8 76.0 78.0

下部

(U 58

69.5 81.0 85.1

2.6

5.5

11.5 15.5

44,584

100

上部

64.5 81.0 85.5 86。8

中部

48.0 74.8 77.2 78.0

下部

(10 ゴ1〃)

76.0 84.5 86.5

5.0

8.0

12.2 17.G

54,418

(6)

80

70

試60 聾50

(40C

30

〃/xンーつr一 ×

200 3 6 9 12 15 18 21 24

       加熱時問(分)

図4蒸し器内温度の相違による試料温度の変化    (蒸し茶わんにふたをした場合)

27

  5)考察

   蒸し茶わんのふたをした場合に製品の性状がよいのは,ふたをしない場合に比べ熱伝   導がゆるやかに行なわれるためと思われる。特に表面のすだちが少ないのは,上からの   熱伝導が遅くなるためで,茶わん蒸しの場合,たいせつな条件であると思われる。

2.だしじるの温度を変えた場合  1)方法

  だしじるの温度を600Cとし,これと200Cの鶏卵とを合わせ50〜510Cの試料として用  いた。他は1のAと同じである。蒸し器内温度は900Cとした。

 2)結果

  結果は表3および図5のとおりで,製品の硬度および分離液量は20。Cの試料を用いた  場合とほぼ同じであるが,表面は特に美しく口当たりがなめらかである。

表3 600Cのだしじるを用いた場合 (気温25。C)

\遡瀬(QC)

時間(分) X〜一.、

5 6 9

12

分離液量

 (cc)

5

10 15

上部

68.0 80.0 85.0 85.0

中部

57.0 75.0 76.5

ワ8.0

下部

52.0 69.0 76.0

ワ9.8

2.0

6.5

11.0 15.9

図5 80

ア0

60

    _×

  半/メ

500  3  6  9  12      加熱時間(分)

60。Cのだしじるを用いた場 合の試料温度の変化

 (蒸し器内の温度gooρ)

(7)

茶わん蒸しの加熱条件について 14ワ

3)考察

 プディングを作るとき,よい製品を得るために加熱した牛乳を鶏卵に加えたり,合わせ  てから600Cぐらいまで加熱して用いる方法がとられることがある。

 茶わん蒸しにこのことを応用し,調理の手間を考慮して60◎Cのだしじるを用いた。結果  は予想どおり,著明ではないがよい製品を得ることができた。従来,茶わん蒸しのだしじ  るは冷えてから用いる乙とが強調されているが,卵が凝固しない範囲で温度が高い方が,

蒸す間の温度の上昇がゆるやかに行なわれるためよい結果をもたらすことがわかった。

実験豆 加熱時間の影響 1)方法

 蒸し器内温度は900Cとした。加熱し始めてから5分間隔で試料温度を測定し,試料中 部の温度が78,80,82,84,86,88。Cに達した時,加熱をやめ,その時の時間および試  料の温度を測定した。他は実験1のAと同様である。

2)結果

 表4のとおりである。

  表4  加熱時間の影響(蒸し器内温度90。C,気温20つC)

6

9

12 15 18 21 24 27 50 55 56

硬度(9)

(cc)

5

10 15

性状

ワ8

上部

65.0

ワ8.0

81.5 85.2 85.5

中部,

65.8 74.0 76。8 78.0

下部

64.0 77.0 82.5 85.8

(15 26〃)

2.5 4.0 8.5

12,5

80

上部

58.0

ワ8.0

79.2 81.0 82.2 82.8

中部

68.5 75.0 77.0

ワ9.5

80.0 下部

66.0 76.5 81.8 84.5 85.0

(15も6〃)

5.0 5.0

9.5 14.0

82

上部

58.0 75.8 79.5 80.0 82.0 85.0 85.4

中部 下部 84

64.0 74.8

%.8 79.5 81.8 82.0

上部

62,0

ワ6.0

80.8 84.8 86.5

8ワ。0

(18も1〃)

60.0

ワ4.0 ワ8.0

80.0 82.0 84.0 84.0 85.0

中部

65.0

ワ2.5

75.2 78。0 80.5 82.5 84.0

下部

5.2 5.5

12.0 16.5

61.8

ワ4。5

80.0 85.8 86.5 87.0 88.0

(25も2〃)一

5.8 6.0

12.5 17.5

86

上部

62.0 75,0 80.0 81.5 82.0 85.0 85.5 85.0 86.0 86.0

中部

65.8

ワ5.5

76.0 78.5 81.0 85.0 84.0 85.0 86.0

下部

62.5 75.0 81.5 84.5 86.5 87.0 88.0 89.0 89.2

(29も4〃)

4.0

6.5

15.5 18.0

O

88

上部

59.5 72.0 79.5 81.0 82.0 85.0 85.8 85.0 85.5 85.5 85.5 87.0 87.5

中部

60.5 75.5 76.8 80.0 82.0 85。8

85.G、

86.0 86.8

8ワ.0

87.5 88.0

下部

60.0

ワ4,5

81.5 84.5 86.5 87.5 88.5 89.0 88.9 88.9 90.0 90.5

(58も5

4.5 ワ.0

14.0 19.5

(8)

5)考察

 調理における実用性を考慮して蒸し器内の温度を900Cとし,蒸し茶わんのふたをしな いで蒸した場合に,加熱時間が長くなって,試料の温度が凝固温度を過ぎれば,製品の性 状にどのような影響があるかをみた。

 試料の温度が高くなれば,表面のすだちが多く,硬度・分離液量ともに大となるが780C  (2.5)から82。C(5.2)までは製品の口当たりはほとんど変わらない。88。Cになると周

囲のすだちはかなり多くなるがはなはだしくはない。

 つまり,この試料配合の場合には,適温(85〜90。C)で蒸せばよい製品の得られる幅 はかなり広く,約5分までなら加熱時間が超過しても製品にほとんど影響を与えないと思 われる。

 茶わん蒸しの加熱条件と形成されるゲルの性状との関係を調べるために官能検査,機器測定 などの方法を用いて(1)蒸し器内の温度(2)だしじるの温度(3)加熱時間について実験を行ない,調 理の実際的な方法として次のことを認めた。

 (1)この試料配合の場合は,蒸し器内の温度を85〜90。Cに保ち,85。Cでは約18分,900C   では約12分蒸せばよい結果が得られる。

   この温度であれば,約5分までの加熱時間の超過は製品に大きな影響は与えない。

 (2)蒸し茶わんにふたをすれば,よい性状の製品が得られやすく,特に香りがよいが,時問   は長くかかり,ガスの消費量が多くなる。

 (3)だしじるの温度は,卵が凝固しない範囲で高い方がよい。

 (4)ガスの消費量は90。Cのときが最も少ない。

 終りに本稿をまとめるに当たり御教示を賜わった本学大宮満男教授に厚くお礼申し上げま す。また,実験に協力された富永陽子嬢に感謝いたします。

1)山脇:お茶の水女子大学附属高校紀要7,26(1961)

2)山脇・松元:家政学雑誌14,(3)7−12(1965)

5)山脇・松元:家政学雑誌15,(5)4−7(1964)

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