地価高騰のメカニズム
その他のタイトル A Study in the Mechanism of Rising Land‑Prices
著者 守谷 基明
雑誌名 關西大學經済論集
巻 14
号 2
ページ 233‑255
発行年 1964‑06‑30
URL http://hdl.handle.net/10112/15402
233
所得格差の是正︑国際競争力の強化︑等︑ 不思議なことだが︑緊急を要するにもかかわらず戦後一八年間︑投げ出されたままの問題がある︒地価である︒諸物価の中でこれほど騰貴率が高く︑しかも多方面に深刻な経済的社会的諸問題を提起しているものはない︒そういう意味では︑現在は﹁地禍時代﹂を迎えているといってもよい︒かかる傾向が最も強く現われているのは︑わけ
(1
)
ても大都市近郊地`地域開発の新拠点地︵新産業都市︑工業整備特別地域︑工業開発地区︑等︶︑新幹線道路建設地およ
びその沿線︑高速道路インターチェンジの周辺部︑等においてであるが︑そこでは開発の進行に伴って土地の入手が
困難を来たしていることはもとより︑
り︑いまや宅地需要の分散︑
性と計画性が侵蝕.喪失されようとしているのである︒この総合性と計画性の欠除は︑ 工業の地方分散︑公共施設の整備・拡充︑輸送力の増強対策︑等にさいしてその総合
(2
)
﹁宅地﹂難の解消︑地域間
ぎつぎと露呈せしめることになる︒
最近︑政府および地方公共団体もやっと地価に取組む構えをみせてきているが︑まだこれといって﹁地禍﹂を取
地価
高騰
のメ
カニ
ズム
︵守
谷︶
ひいては土地利用の競合・混乱が惹起され︑ないしは惹起されようとしてお
は し が き
一連の効果を半減するばかりか︑他面︑根深い経済的社会的諸矛盾をつ
地 価 高 騰 の メ カ
二
ズ
ム 守
谷
基
六七
明
234
特に工業地︑住宅地の値上がりがひどく︑昭和三八年九月現在で住宅地は三0年三月ごろに比べ八・五倍︑
第1表 地域別六大都市市街地価格推移表
(昭和30年3月=100)
1~1 商業地 1 住宅地工業地闘噂冒:
昭和30年3月 100 100 100 100 彩
II 9月 104 108 106 106 6
31年3月 116 113 117 115 8
II 9月 125 130 136 130 13
32年3月 137 150 160 149 15
II 9月 152 172 188 171 15
33年3月 161 191 213 188 10
II 9月 163 211 240 205 ,
3坪 3月 173 236 270 226 10
9月 197 269 311 257 14
35年3月 231 303 361 294 14
II 9月 291 348 486 380 29
36年3月 370 436 675 494 30
9月 471 557 915 644 30
37年3月 500 614 1,017 708 10
9月 524 693 1,107 778 10
38年3月 558 763 1,192 839 8
II 9月 598 846 1,301 915 ,
(資料出所)日本不動産研究所調ぺ。
開西大學﹃網済論集﹄第一四巻第二号
除くキメ手は当分︑でてきそうにない現状である︒しかしここらで地価高騰の真犯人を追及し︑総合的集中的な用
地対策を講じなければ︑経済全体に累が及び︑取返しのつかないことになるのである︒
いま試みに昭和三0年三月以降の地域別六大都市市街地価格推移指数をみてみると第1表のごとくである︒
六八
工業
235
地は一三倍となっている︒
このように地価が高水準・割高にあるということは︑
和三八年九月末の日銀卸売物価指数は︑三0
年を
一
00
とする指数でみると︑
10•三、消費者物価指数(東京)にしても同じく―10•三である。
この地価の異常ともいえる値上がりは︑物価に大きな影響がある︒工業用地が高ければ︑生産コストがそれだけ
(3
)
高くなる道理だし︑商業地のばあいも同様である︒住宅地の高騰は地代・家賃にハネ返る︒これら一連の影響が諸
物価の上昇にかなりな役割を果していることは否定できぬところである︒
(4
)
また地価騰貴による公共用地取得の困難︑買収費の急増︑等はスプロール︵散慢な市街地化︶を進展せしめ︑かつ
税負担を増加せしめることになり︑附近住民の生活に直接︑間接の被害を永続的にもたらすのである︒
ところで土地価格のある程度の上昇は︑経済成長に伴う土地需要が旺盛である今日︑他の一般物価が生産性の増
大にみあう分だけ一律に下落しないかぎり︑現状ではやむをえないことである︒なぜならば︑土地は︑他の一般の
諸財と異なってつぎのような特性︑すなわち﹁①自然的特性として︑地理的位置の固定性︑不動性︵非移動性︶︑永
続性︵不変性︶︑不増性︑個別性︵非同質性︑非代替性︶などを具有しており︑
六九
②人文的特性として9
(5
)
︵用途の競合︑転換および併存の可能性︶︑社会的および経済的位置の可変性などを具有している﹂からである︒ 用途の多様性
しかるに現実には︑土地価格の騰貴率は︑第2表のごとく︑わけてもこの数年間︑国民総生産の増加率︑国民所
得の増加率はいうまでもなく、販売額•生産額増加率をも大きく上回っているのである。
工業地の取得が︑当該地での採算を当初から無視してかかるか︑なこのことは︑換言すれば︑商業地︑住宅地︑
地価
高騰
のメ
カニ
ズム
︵守
谷︶
101•五、東京小売物価指数は 一般物価と比較することによって理解できる︒すなわち昭
236
いしは不労所得をつぎこむか︑
すものである︒例えば住宅地のばあい︑その土地代は都市で自力建設住宅の総建設費の五割を占め︑東京都区部で
(6
)
は実に七割を占めているといわれ︑標準家計のサラリーマンが買える地価の限界は坪入︑000円といわれてい
第2表 土地価格騰貴率と関連経済成長指標増加率との比較
そ れ と も より劣悪な土地を求めるかでもしなければ、不可能になっていることを示
I昭贔こ I34年 I 35年 36年 37年
A
E 8.3 1.2 2.9 3.3 2.3
B 2.9 1.0 1. 9 3.5 1. 3
F
C I 2.6 2.1 1.8 2.8 1.5
D J 1.1 2.0 4.2 2.1
B 0.8 2.2 3.2 3.9
G
B 1.0 1. 7 3.1 3.3 o. 7
H
D 1.1
K 2.4 4.7 4.5
(註)
A 六大都市市街地用途地域別平均価格推移指数前年同月
比増加率 (9月甚準)
六大都市商業地価格推移指数前年同月比増加率 (9月
基準)
六大都市住宅地価格推移指数前年同月比増加率 (9月
基準)
六大都市工業地価格推移指数前年同月比増加率 (9月
基準)
名目国民総生産前年度比増加率 卸小売業国民所得前年度比増加率 卸売業阪売額指数前年度比増加率 小売業販売額指数前年度比増加率 勤労者分配国民所得前年度比増加率 製造業国民所得前年度比増加率 製造工業生産指数前年度比増加率
(資料出所)
A、B、C、Dは日本不動産研究所「地域別六大都市市街 地価格推移指数表」からそれぞれ算出。
E、F、I、Jは経済企画庁調ぺの資料からそれぞれ算出
G、H、Kは通産省調ぺの資料からそれぞれ算出。
開西大學﹃網済論集﹄第一四巻第二号
B c D
E F G H I J K
七
0
237
拠点地︑等においてである︒
当該
地で
は︑
七
その結 街地の地価を指している︒
(7
)
る︒しかるに通勤時間三0分から四0分︵生理的限界︶の範囲で宅地をさがすと︑大阪周辺ではだいたい坪五万円︑
(8
)
東京周辺だと一0万円以下のものは見当たらない︒
もっとも︑最近の地価は非常な高水準にあるため︑地価はもう限界に近いのではないか︑
段と鈍化するのではないか︑という見解もあるが︑それはたいていのばあい︑都︑しての最ー9回価格地ないしは既成市 しかし︑数多くの経済・社会問題を惹起せしめるほどの地価の騰磐ぶりは︑主として市街地周辺開発地︑新開発
投機的散落状的買占め︑ よって地価の騰勢は一
地主のゴネ得︑等が公然と行なわれ︑
果︑高騰地価の飛び火的累積的拡大がみられているのである︒このばあいの地価の高騰は︑単純な量的需給の関係 では説明がつかない︒そこでは︑土地はあるが︑効率的な利用がなされ難いか︑なされていないか︑
れようとしないかのいずれかなのである︒そしてその騰貴対象地の造成前の地目はほとんど農地か山林である︒参 考までに転用農地価格については︑水田の﹁公共用目的﹂の全国平均転用価格のばあい︑
それともなさ
昭和三七年度で前年比一
六・七%の上昇︑三八年度で六・七%の上昇︑地域別で大巾に値上がりしているのは関東︑近畿︑
北海
道で
あり
︑ 水田の﹁その他目的﹂の全国平均転用価格は三七年度一七・九%︑三八年度九・八%の上昇︑地域別では近畿の
1 1 1 1
・ 1
%︑関東の一八・一%が上昇率が大きい︒また畑の﹁公共用目的﹂転用価格全国平均値増加率は昭和三七年
度でニニ・五%︑三八年度で一1
一・
三%
︑
(9
)
となっている︒
地価
高騰
のメ
カニ
ズム
︵守
谷︶
「その他目的」のそれでは、三七年度二三•五%、三八年度一七・三%
従って︑以下︑地価高騰のメカニズムの解明にさいしては︑これらの諸点に中心をおいて論議を進めていきたい︒
238
隅西大學﹃繹清論集﹂第一四巻第二号
また地価対策を論じていくさい︑何が何でも地価を引下げればそれで万事よしといったことで解決しないところ に地価問題の難かしさがある︒なぜなら地価の騰賞が土地の量・質の低下によってカバーされてしまっては用地不
足下における未利用地の発生︵需給のアンバランスの拡大︶︑都市施設の負担︑等をますます激化させ︑都市の発展を
阻害することになるからである︒換言すれば︑地価抑制・引下げと同時に︑地主が政府ないし地方公共団体の広域 的土地利用計画に沿って﹁良好﹂な土地を﹁大量﹂に放出できるような体制にしなければならないのである︒すな わち地価対策は用地対策と並行して考えていくべきである︒そのばあい公定価格制とか公営土地市場などは︑公益
( 1 0 )
が私益の増大によってふみにじられたときの﹁最後﹂の手段なのであり︑それまでに何らかの有効な対策を採るペ
( 11 )
きである︒.要するに地価対策は︑地禍解消の問題であり︑ないしは﹁土地戦争﹂終結の問題であって︑単なる地価
抑制の問題ではない︒従って地価対策には︑必然的に総合性︑計画性︑集中性および構造的性格が要求されること
になる︒かかる意味での地価対策を究明していくためにも︑
十分な分析が必要なのである︒ その病源体ー—ー錯綜せる地価高騰のメカニズムーの
(1
)
新産業都市は︑昭和三七年五月に成立した﹁新産業都市建設促進法﹂に基づき三八年七月︱二日の閣議で選定された一三大
拠点︑すなわち①道央︑③八戸︑⑧仙台湾︑④常盤・郡山︑⑥新潟︑⑥富山・高岡︑⑦松本︒諏訪︑⑧岡山県南︑⑨徳島︑⑩東予︑⑪大分︑⑫日向・延岡︑⑬不知火・有明・大牟田を指し︑工業整備特別地域は︑同様にして選定された六大拠点︑
①鹿島︑③東駿河湾︑⑧東三河︑④播磨︑⑥備後︑⑥周南を指す︒また工業開発地区は︑昭和三六年︱一月に成立した﹁低開発地域工業開発促進法﹂により都道府県知事の申請に基づき指定された中小拠点で︑第一次指定は三七年九月に七ーカ
所︑
三八
年一
0月始めの第二次指定のときは三四カ所︑区域変更二九カ所がなされた︒これらの新拠点開発は優遇によるエ
業分
散へ
の誘
華政
策で
あっ
た︒
(2
)
﹁宅地﹂とは︑﹁農地︑採草放牧地及び森林並び
追路︑公園︑河川その他政令で定める公共の用に供する施設の用に供せ} g
七
239
られている土地以外の土地をいう︒﹂︵宅地造成等規制法第二条第一号︶要するに﹁建築物︑工作物又はそ.の他の施設の敷
地で︑公共施設の用に供するもの以外のものをいう﹂わけである︒︵新住宅市街地開発法第二条第六項︶
(3
)
総理府統計局の調ぺによると︑東京の消費者物価は昭和三0年から三六年までに一六%しか上昇しないのに家賃は実に九六
彩も上昇しているという︒公営︑公団の家賃も毎年上昇しているが︑値上がり分の六割近くは土地代の値上がりによるもの
であ る︒
(4
)
一般にスプロール
(S pr aw l)
現象といわれている事柄を列挙すれば︑つぎのごとくである︒
﹁ー︑都市施設が不備で生活に不便︒2︑都市施設の建設費が非常に高額になり︑収入とのパランスがとれない︒3︑農地
が無計画に浸蝕されて農活動を阻害する︒4︑そのまま発展する場合には︑将来︑都市に解決のつかぬ癌的存在になる︒﹂
︵﹁大都市周辺地区の開発・規制に関する研究﹂﹃都市計画﹄第九巻第四号・第一0巻第一号合併特輯号︑一0
一ベ ージ
︒︶
( 5 )
昭和三九年三月二五日︑宅地制度審議会第四次答申︵不動産の鑑定評価基準の設定に関する答申︶より︒
(6
)
昭和三八年︱一月二日付﹃日本経済新聞﹄より︒
(7
)
国鉄労働科学研究所の﹁遠近調節速度調査﹂という資料によると︑人間の機能が最高潮になるのは︑起床後一時間ごろであ
るから︑一時間以内に会社につくとペスト・コンディッョンで仕事にとりかかれるわけである︒
(8
)
昭和三九年三月六日付﹃読売新聞﹄より︒
( 9 )
この調査は︑昭和三七年五月より三八年四月までの一年間で︑全国農業会議所︑都道府県農業会議︑市町村農業委員会を通
じて行なわれたもの︒
( 1 0 )
﹁最後﹂の手段といったのは︑私有財産の不要な侵害は極力避けるぺきだからである︒
( 1 1 )
﹁現在のわが国における宅地問題は︑土地戦争ともいうべきもので︑交通戦争にまさるとも劣らぬ大きな社会問題になって
いる︒﹂︵昭和三七年︑宅地制度審議会最初の会合における中村建設相の挨拶︶
用地需要の増大と仮需要︑仮想需要
開発地での用地需要の大なるものには︑住宅地需要︑
地価高騰のメカニズム︵守谷︶
七
工業用地需要︑公共用地需要︑等がある︒これらの需要が
2ム0
実績をかなり越えているものと考えられる︒ 賜西大學﹃繹済論集﹄第一四巻第二号
年々ほぼどのくらいの大きさで増大しているかを示す指標としては︑住宅地および公共用地については︑農地転用
実績をみてみればよい︒昭和三三年以降の用途別農地転用許可実績を示せば︑第3表のごとくである︒
玉膨淫涯滓択遡雫ユ潰藻
︵津逹煕濾4冷祢片q濾5
冷〇滋袖丙ドが津丼ゞ岡︑酋曇
0
翠 ユ. ︶
︵鴻章王魂︶津菩曲廂滓郡置入︒
︵慨 官弓 浩︶
(1
)
しかしこのほか︑用地の造成前の地目が山林のばあいがある︒これは特に民間による﹁宅地造成﹂に最近よくみ
られるケースであり︑例えば大阪府下で最も民間宅地造成が活撥に行なわれている京阪沿線のばあいをみれば︑
ぎのごとくである︒すなわち枚方市︑寝屋川市︑両市内における昭和三三年一月以降三八年七月一日までの民間宅
地 造 成 に よ る 三 六 団 地 の う ち
、 造 成 前 の 地 目 が
山林一
00%のばあい六団地、八0%以上―一団地、五0%以上一
(2)
四 団 地となっており、全然山林なしは一四団地を数えるのみである。従って住宅地需要のほうは、さきの農地転用
g ほ 器 ま 搾昌器
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夏念
瀕3浙
七四
つ
241
第4表
地価高騰のメカ︱ーズム︵守谷︶
こご
I総 人 口 都市人口 郡部人口
1950年
(S25) I
万人 形
8,320 100 3,120 37.5 5,200 62.5
移1形3汀
0 6 3
ヽj
0 5 4
゜3 推 の 年
Sー
5 (
5人8 ロ人
1 9
万
9 20 2
9 89 9
9 9 ,
8 5 3
別部郡市都
1960年 (S35)
万人 %
9,342 100 5,933 63. 5 3,408 36.5
(資料出所)
北野利明「宅地の需給とその流通について」
究』第1巻第2号161ページより。
第5表
『都市経済研
人口と世帯の増加状況
(昭和30年 35年)
区 分 l30 年 I 35 年 l増 加 数 l増 加 率
千人 千人 千人 96
東 尽一 8,039 9,626 1,587 19.7 (1,柑66帯5). (2,世18帯3) 塁 (31.2)
神 奈 川 2,( 919 3,(4715 6 497 17.0
595) 5) (160) (26. 9) 愛 知 3 769 4,(284819 ) 450 11.9
'(729) (119) (16. 3)
大 阪 4,( 620 5,496 876 19.0
986) (1,233) (247) (25.1)
兵 庫 3,( 621 3,(908728 ) 287 7.9
763) (109) (14. 3)
計 22,968 (4, 738) 26,665 (5,891) 釦3,697 I 16.1
151) (24.4)
全 国 I(8197., 276 383) (9139., 347 571) I (42,,017818) I (124.6 . 6)
(資料出所)第 4表のばあいと同じ。
第6表 住宅の1人当たり畳数(市部)
七 五
年 次 I 畳/人
昭和16年 3.78 23 3.20 25 3.31 30 3.50 33 3.85 35 3.98
(資料出所)第4表のばあいと同じ。
また工業用熊屡の増大傾向については︑用地取得面積が昭和三五の四三︑九一八︑
00
0平方米から三六年六
(3
)
一︑
四三
七︑
000平方米へと急増しているのをみればわかるであろう︒
つぎに用地甜要の増大要因の分析であるが︑まず住宅地のばあい︑第4︑5︑6表の示すごとく既成の大都市へ
2.li2
れて
いる
︒
――•六%、﹁その他﹂が三五・六%となっており︑﹁その他﹂の大半は投機的需要と推定さ の著しい人口集中︵国民所得の地域間格差に追随して動く人口の地域的移動現象︶︑結婚による別居など家族制度の近代化からくる世帯の細分化︑国民所得の向上に伴う居住水準の上昇︑等が考えられる︒
ところが都心部はビル街か盛り場であり︑住宅の入り込む余地はほとんどない︒新しい需要者層はわれ先と土地
を求めて周辺部へはみ出し︑
工業用地の需要増大は︑高度成長下における国際競争力の強化︑国内市場での優位的シェアの確保をめざす生産
能力
拡大
︵技
術革
新と
合理
化を
伴っ
た︶
った
用地
︑
採算可能な土地を求めての工場の大都市周辺ないし地方進出︵過密地帯からの脱出︶によるものである︒
最後の公共用地のばあいは︑開発地でのスプロール化を未然に防ぎ︑都市化の近代性と合理性を具備するために
も︑公共施設の整備・拡充に必要な用地の確保が工場誘致および住宅地開発の規模に比例して︑しかも先行してな
されなければならないので︑需要増大要因は主として当該地での住宅地および工業用地の大規模かつ散落状の需要
ということになる︒
ところで用地需要には︑
用を見越したもの﹂ これがまた周辺部での地価高騰となってハネ返ってくるのである︒
への意欲からくる新工場建設︑企業集団コンビナート建設︑等のため︑まとま
上述のいわゆる実需のほかに思惑の対象としての仮需要がある︒仮需要には売買差益を
目的とする投機的需要のばあいと将来の地価騰貴を見越しての先物買いとがある︒こうした仮需要が多いところに
問題があるのである︒宅地を例にとれば︑昭和三五年八月の総理府調査では︑土地術要者のうち﹁五年以降に建て
るつもり﹂というのが四五%も占めている︒また三六年の建設省の実態調壺でも﹁実需﹂五ニ・八%︑
隔西大學﹃網清論集﹄第一四巻第二号
﹁将
来の
利
七六
243
そのうえ以上の実需︑仮需要は︑市場には仮想需要と折り重なってあらわれてくる︒なぜなら候補地がかりに三
カ所あれば︑三カ所の需要であるかのごとく市場では受取られるからである︒
路を通って形成された土地価格は︑いわゆる﹁政策地価﹂と呼ばれる性格のものである︒
七七
そしてこのような仮需要︑仮想需要に拍車をかけるものが︑政府ないしは地方公共団体などによる地価対策を伴
わない開発計画の先走りである︒たとえば先頃︑新産業都市指定予定地に公表された一三カ所の例をみると︑いず
れも公表と同時に地価が
1 1︑三倍に値上がりしたし︑築波山ろくの研究学園都市のばあいも同様である︒かかる経
(1
)
﹁宅地造成﹂とは︑﹁宅地以外の土地を宅地にするため又は宅地において行なう土地の形質の変更で政令で定めるもの
︵宅地を宅地以外の土地にするために行なうものを除く︒︶をいう︒﹂︵宅地造成等規制法第二条第二号︶﹁造成宅地等﹂
とは︑﹁造成施設等のうち︑公共施設及びその用に供する土地以外のものをいう︒﹂︵新住宅市街地開発法第二条第九 項 ︶
(2
)
建設省計画局﹁民間宅地造成事業の実態調査﹂より枚方市︑寝屋川市︑両市に関する分を集計したもの︒(3)昭和三八年工業用地統計より。•
今後の用地の必要確保面積と需給関係
まず住宅地のばあいであるが︑建設省の策定した﹁住宅建設七カ年計画﹂によると︑昭和三九年から四五年まで
に七八0万戸の住宅を建てるためには︑1
一億
一︑
六
00
万坪の土地を要すると推計している︒また通産大臣の諮問機
関である産業合理化審議会産業立地部会︵部会長北野重雄氏︶が昭和四五年における工業適正配置構想︵試案︶に基
づいて試算した昭和三九年から四五年までに新規に必要とする工業用地は︑
地価高騰のメカニズム︵守谷︶ 工業開発拠点を中心に内陸部一億四︑
244
ところで仮に用地の需給関係が均衡しているとしよう︒ も
ない
︒
らぬ用地需要であるといえる︒ 000万坪︑臨海部約五︑七
00
万坪︑合計約1一億坪が必要であるとの見通しをたてている︒
これらの計画に伴い︑膨大な公共用地の確保が必要になってくることはいうまでもない︒例えば道路についてみ
ると︑建設省では三九年度から発足する﹁新道路五カ年計画﹂において︑
従って今後七年間に住宅地︑
しかるにこのばあいでも︑例えば住宅地についてみる 五年間の事業費四兆一︑000億円のう
これは現行道路整備五カ年計画︵昭和三六年度t四0年度︶のそれをは
工業用地︑公共用地︑等︑いわゆる空間構造再編成のために必要とされる土地は︑
約五
億一
︑
000
万し
五億
四︑
000
万坪と推定されることになる︒これは今日︑約一七億一︑000万し一七億
四 ︑
000万坪と推定される民有の宅地︵市街地︶の三0%強の膨脹を必要とする計算になるのであるから容易な
これに対して現在︑農地は一七一億し一七四億坪にのぽるから︑
(1
)
ればよい計算になる︒
だが問題は︑今後の用地需要が主として地域的に大都市周辺地および新開発拠点地に集中していることと︑思惑
による仮需要︑さらに数倍の仮想需要が加わっている現状にある︒かくして用地儒要は用地の有効供給量を大きく
上回ることになり︑地価はこのままでは依然として天井知らずの高値へと向っていくというわけである︒これらの
用地が将来︑計画通り︑しかも予定価格で確保できぬときは︑錯綜せる経済︑社会問題を惹起することはいうまで るかに上回るものである︒ ち用地関係費を約一兆円と推定しているが︑
賜西大學﹁網清論集﹄第一四巻第二号
マクロ的にみれば︑この農地の三%強を壊廃す
七八
245
と︑宅地の供給がたんに数量的に増大しても︑宅地需要者の個々の経済能力に対応せる供給が行なわれなければ︑
よしんば行なわれても現実に住宅が建てられなければ︵需要者の資金難︑交通開発の不備︑粗悪な宅地造成︑住宅環境の
意味をなさず︑
き下げにはもとより︑地価安定にも寄与しえないことはいうまでもない︒工場用地︑等についても同様なことがい
えるのである︒ 一見︑宅地の需給は均衡しているようにみえても︑そこでは宅地の供給量の大きさ如何は何ら
いたずらに住宅難をめぐる構造的諸矛盾を醸生・拡大せしめることになるのである︒これが地価引
(1
)
櫛田光男﹁総合的な空間構造対策古﹂昭和三九年四月二0日付﹃日本経済新聞﹄より︒
(2
)
北野利明﹁宅地の需給とその流通について﹂﹃都市経済研究﹂第一巻第二号︑一六五ページ参照︒
七九
これまでの地価高騰のメカニズムについての解明は︑主として需給のアンバランスという面からのそれであった
つぎにそれでは何故︑実需︑仮需要および仮想需要の激増を惹起せしめ︑用地の確保を困難にさせるのか︑ま
た何故︑呼び値のなかでの最高価格および造成による処分価格がその周辺地価に電撃的に波及するのか︑などの問
題についての究明︑端的にいえば︑地価高騰のいわゆる構造的究明が必要になってくる︒したがって以下︑三︑
五︑六においては︑上述の問題の究明に努めていくことにしたい︒
四
その第一は︑用地取得にさいしての取得主体相互間の競合と暴走である︒すなわち産業資本︑個人資本︑公共資
本の三者相互間の︑あるいは産業資本相互間の︑個人資本相互間の︑または公共資本相互間の無秩序な用地取得に 令`△ヽヵ
地価
高騰
のメ
カニ
ズム
︵守
谷︶
用 地 取 得 に さ い し て の 取 得 主 体 相 互 間 の 競 合 と 暴 走
︒
不良
︑等
によ
って
︶︑
246
もな
い︒
賜西大學﹃網済論集﹄第一四巻第二号
おける競合関係であり︑暴走である︒そこでは︑地価高騰の第一歩は︑当該地での最も大規模な開発主体の買収価
格︵補償費も含めて︶を以って始まり︑それが周辺地の地価をその水準にまでつり上げさせ︑そしてその結果は︑常
に弱者が強者の前に敗退し︑不利な条件に耐えながら地価のより安い地域へと移動していくのである︒
まず目につくのは︑民間企業の行き過ぎた工場用地の買いあさりである︒多くの企業は昭和三五︑六年ごろの投
資ブーム期にはっきりした目算もないまま他の競争企業に遅れをとるまいとただひたすらに土地だけを探し求め
通産省所管の重要産業の用地買収費は昭和三四年度の1一六四億円︑三五年度五四二億円︑三六年度六九0億
いる︒全国市街地価格の上昇率も三四年から三七年まで平均
1 1 0
%も値上がりしてきたが︑三七年以降は一0%
台に落ちている︒これは企業の土地買収熱の上がり下がりを反映しているものといえる︒そしてこの工業用地需
要は
︑
工業立地センターの調査で用地買収の理由について﹁安いから買った﹂と答えた企業が四八%もあるよう
(1
)
に︑企業の実需ではなく思惑需要である︒かくして工業用地価格が必要以上に上昇することはもちろん︑それが類
(2
)
地の価格を引き上げることにより住宅用地の入手を困難にし︑公共用地の最低限の確保すら危ふくさせてしまうの
である︒これが︑ゴネ得ないし便乗地主を蔓延させ︑当該市町村全体の福祉をおびただしく損なうことはいうまで
つぎは︑地方公共団体︑日本住宅公団︑等による大団地開発とその周辺での民間宅地造成業者による宅地造成に
伴う買収ー宅地分譲をめぐっての悪循環による地価つり上げ競争である︒すなわちそこでは︑前回の分譲価格は本
来︑時問の経過による地価上昇分のほかに宅地造成︑等による価値の増加分が含まれているにもかかわらず︑需要 円と三五年度から急上昇している︒それが三七年度になると七一九億円︑
一八
年度
七三
0億円と横ばいに転じて
t こ ︒
八〇
247
一兆円の公共用地需要は1一倍の土地需要をうむ計算になります︒しかも
(3
)
このばあいはふところが暖かいのですから︑気にいれば高くてもよいわけです﹂と︒このように公共用地需要はし
地価
高騰
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一ズ
ム︵
守谷
︶
1+
0 . 5 +
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0 . 1
2 5 +
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hノ ︑
t こ ︒ 側の激烈な競合と︑つぎに述べる地主側の地価騰貴待ちとの合成作用によって︑ 者
にさいしての決定的基準になるという︑
ため宅地開発それ自体が︑
られ
るが
︑
このばあい︑当該業者は分譲価格の決定にさいして︑分譲コスト︵買収費︑
たことは︑年々増加する総造成面積およびその大規模化がそれを示しており︑
はだんだん山林•原野、等、住宅環境の不良な地へと移り、
ので
ある
︒
八
その分譲価格が次回の類地買収
いわゆる地価つり上げの拡大反復がみられるのである︒そして地価高騰の
だんだん遠隔の地点に追いやられるという結果にな
つまり私鉄︑等の大手業者と中小ないし零細業者相互間にもみ
造成
工事
費︑
広告
費︑
負担
金利
類地での時価の動き︑そこでは当該業者の資金需要︑
等の不合理的要因が介入してくるのであり︑したがって当該地での土地価格の高騰はいっそう激化したものになる
のである︒特に︑地価の高騰を通じて行なわれる利潤の再配分にたいして最近︑大資本が大きな関心を払いはじめ
そのため中小・零細業者の宅地開発
これがまた当該地での土地価格の上昇に寄与している
﹁公共投資用地として買収をうけた人は︑周辺地区に同程度の広さの代替地を買い︑課税対象から代替地取得
額を控除してもらうのが普通です︒この代替地取得額を︑かりに買収された価格の半分だとしましよう︒ところが
代替地を売った人は︑またその価格の半分で︑さらに周辺地区へ土地を求めるでしよう︒これを繰り返すと結局︑ 最後は︑公共用地需要の地価刺激効果とその競合・暴走である︒ およびその他の諸経費︶に一定の利益率を乗ずるのではない︒ る︒なお同様な関係は︑民間宅地造成業者相互間︑ そこに未利用地を残したままで︑
ある若い信託銀行マンがこんな話をしてくれ