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研 究 ノ ー ト

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Academic year: 2021

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(1)

−25−

    インフレ率と為替レート

       村  本     孜

      一 フロート制と実効為替レート

 各国通貨が全面フロートに移行して既に五年が経過し︑当初IMF規約違反で一時的な措置と考えられたが︑

IMF協定も改定され︑公式な制度として認められるに到った︒フロート制の現状については別の機会に触れた

ので︑本稿では﹁実効為替レート﹂ettectiveexchangerateをめぐる問題を考察したい︒

 フロート制の下において︑単独変動している通貨の対外的な競争力︑相対的な位置を見定めるためには︑その

通貨の対米ドル・レートでは対米ドルとの関係しか判らず︑十分とはいえない︒そのため︑一国通貨が単独フロ

ートしている場合には︑対外的なポジションを見るとき︑﹁実効為替レート﹂の概念を必要とする︒しかし︑総

フロートの下で︑対米ドル・レートの変動は通貨当局の市場への介入にょって管理されてきたが︑それ以外の通

貨に対するレート︑あるいは世界市場におけるレートの地位という視点は殆んどなかったし︑また事実上管理す 研究ノート

(2)

― 26 ―

戦後主要7通貨の実効レートの変化

(3)

る意味はなかった︑というのが一面の真実であり︑その意味で看過されてきた問題でもある︒

 円レートについてこの点を明らかにしておこう︒たとえば︑一九七四年一二月において︑スミソニアン通貨調

整時を基準とすると︑円レートは米ドルと英ポンドに対

してはそれぞれ約三パーセント︑一五パセントの切上げ

となっていたが︑ドイツ・マルク︑フランス・フランに

対しては︑おのおの約二四パlセント︑一二パlセント

程度の大幅な切下げ状態なった︑といわれる︒このよう

に︑各国通貨に対する円レートをフォローしているだけ

では︑円と各国通貨との相対関係︑あるいは円の世界全

体における住設を把握することができない︒

 したがって︑このような場合に︑円レートの実勢をト

ータルにとらえるには︑各国通貨のそれぞれの動きと円

との関係をある時点毎に統合して︑一つの指標にするこ

とが必要となる︒これに応えるのが﹁実効為替レート﹂

ないし﹁実効レート﹂effectiverateの考え方である︒

ところが︑実効レートの算出方法が問題で︑どのように

して複数通貨の動きを一本化するかが重要である︒一般

−27−

(4)

代表的な実効レート

― 28 ―

(5)

的には︑各通貨の対円レートの対基準時変化率に何らかのウェイトを付して一本の円レートを算出する方法が考

えられる︒このような実効レートの算出は既にIMFや各国で行なわれ︑為替レlト安定化の尺度としても使用

されている︵第一︑二図︑第一︑二表︶︒現在のスタンダード・バスケット方式によるSDRの価値も一種の実効レ

ートといいうるものである︒

      二 円の実効レート

 円の対米ドル・レートは︑第三図に見るような推移を示し︑ヌミソニアン・レート以後︑一貫して上昇トレン

ドにある︒このような推移に即して︑円の実効レートの算出が東京銀行にょって行なわれているので︑次にそれ

を掲げよう︒東京銀行は四通りの方式で円レートの変化を比較している︒つまり︑日主要通貨国貿易額加重平均

方式︑I主要貿易相手国輸出入額加重平均方式︑呻スタンダード・バスケット方式︵SDR価値︶︑紬対米ドル円

レート︑を採り上げ︑いずれも基準時点としてはスミソニアン通貨調整時を採り︑またウェイトは一年間の固定

ウェイトである︒

 第四図を参照しよう︒一九七三年二月にフロート制に移行してから以後︑紳の対米ドル円レートは最高一六・

三パlセント切上ったが︑七五年十年には二・ニパーセントの切上げ率までに下った︒これを実効レートでみる

と︑0の方式では一四パlセントの切上げ率が最高水準であり︑また∽の方式では一二・七パlセントの切り上

げ率が最高水準である︒そして︑七五年十月には︑㈲の方式︑㈹の方式とも僅かに〇・ニパーセント︑〇・四パ

lセントの切上げ率で円の実勢はほとんどスミソニアン時点に戻っていると考えられる︒ただし︑句の方式の円

−29−

(6)

のSDR価格は他の実効レートと比較して安定的とはいえず︑円の実効レートとするにはやや問題がある︒

      三 IMFの分析ーインフレ率と為替レートの関係ー

 IMFの一九七五年の年次報告では︑主要七ケ国について実効レートの動きと︑各国の卸売物価と七ケ国の加

重卸売物価の相対価格変化を合成して対外競争力を比較している︵第五図︶︒これによれば︑日本は他の国より物

−30−

(7)

円の実効レート(スミソニアン通貨調整時基準)

価上昇の時期が早く︑七四年半ばから既に安定してい

ることがかわる︒実効レートも期を追うごとに低下し

ており︑円の過小評価になっている︒

 さて︑第五図は﹃IMF年報一九七五年﹄の﹁為替

相場の趨勢と競争力﹂によるものであるが︑インフレ

率と為替レートに関して重要な説明を与えている︒す

なわち︑﹁インフレ率は︑為替レートで8mpensate

されるし︑またされてしかるべきである﹂という通説

に対し解答を与えている︒この通説自体は︑為替レー

トが購買力平価説に依って決定されるものと考えれば

不自然なものではない︒購買力平価説によれば︑A︑

B二国間の為替レートは︑二国間の物価水準の比とし

て表わされる︒すなわち︑RをA国通貨のB国通貨建

の為替レート︵A国通貨の外貨建の交換比率︶とし︑瓦

をA国の物価水準︑瓦をB国の物価水準とすると︑R

は︑

−31−

(8)

1973年第1・四半期〜1975年第1四半期の実効為替レー ト,工業品の相対卸売価格

−32−

(9)

    Pb  咄11⁚⁚11    Pa

で示される︒たとえば︑A国のインフレーションが二倍︑B国のインフレーションが三倍ならば︑為替レートは

旧水準に比べて五〇パlセント上昇することになる︒

  ゛IMF年報 一九七五年﹄︵心`第五図を用い︑国際競争力の計測︑インフレ率と為替レートの変動の関係を

明らかにしている︒これにょれば︑イタリア︑イギリスおよび日本は他の主要工業諸国の平均よりははるかに急

速な物価上昇を経験した一方で︑西ドイツは非常に小幅の国内インフレを経験したことが認められる︒他方︑こ

れ以外の三国すなわちアメリカ︑フランス︑およびカナダの物価の動きは︑七カ国全体の二年間の平均水準近く

を上下している︒全期間についてみれば︑相対的物価水準の格差は為替レートの変動と関連しているものと推定

しうるが︑基準時点のとり方に問題が残っており︑直接的な因果関係を見出すことはできない︒卸売物価水準の

騰貴がもっとも急速だったイギリス︑イタリア︑日本の通貨であるポンド︑リラ︑円の為替レートの下落は大幅

であった︒このうち︑イタリア︑日本の場合は︑為替レートの下落が物価水準の格差を相殺してあまりがあっ

た︒イギリスだけは物価水準の高騰が大きく︑それは為替レートの下落にょっても相殺しきれなかった︒すなわ

ち︑一九七五年第一四半期の相対物価水準が一九七三年三月よりはるかに高くなったのはイギリスだけである︒

 西ドイツでは︑ドイツ・マルクがフロートして以来︑為替レートはかなり大きく変動した︒しかし︑一九七三

年第一四半期から一九七四年第一四半期の間のドイツ・マルクの実効切上げは︑同期における西ドイツとその有

力な競争国の間の物価趨勢の格差をほぼ相殺したと考えられる︒また︑アメリカについては︑ドルの実効為替レ

−33−

(10)

ートの変動は︑一九七三年三月から一九七五年第一四半期の間の製造工業品の調整済相対卸売物価指数をいささ

かも変化させなかったことが明らかである︒

 以上のことから︑為替レートの変動は相対的インフレ率の格差をほぼ相殺したといって差し支えないと思われ

る︒この意味で︑フロート制は国際収支の調整過程として有効に機能したことになるといえよう︒ところで︑一

国の為替レートの下落が︑当該国と他の諸国との間の卸売物価水準の格差を相殺するならば︑その国には国際競

争力があるということができる︒この点で︑日本は競争国に対する物価水準がかなりの程度累積的に改善され︑

国際競争力があるとされた例である︒

 ただし︑東京銀行︵河西宏之︶︹13︺の試算はこの点について異なった結果を導いており︑必要な限りで触れて

おくこととする︒この試算は購買力平価説の拡充モデルを用いて︑一九七四年七月から一九七六年三月までの月

次別データを活用して︑主要七ケ国︵アメリカ︑日本︑イギリス︑西ドイツ︑イタリア︑スイス︑フランス︶について為

替レートの変動要因を計測している︒これによれば物価要因が為替レートに与える影響度は米ドル︑スイス・フラ

ン︑イタリア・リラおよびイギリス・ポンドについて顕著であり︵これら諸通貨の場合︑内外物価比が一パーセント上

昇すると〇・八〜一・ニパーセントの当該通貨の為替レートの下落をみる︶︑反対に日本円とドイツ・マルクについては

物価要因が為替レートに与える影響は僅少であるという計測結果が得られてぺ砧︒日本について︑IMFの分析

と東京銀行の計測とは異っているが︑これは﹃IMF年報﹄が一九七三年三月の指数に基づくものであり︑対象

とした時期が異っていることに両者の結果ないし結論の相違の所以の一端があるものと思われる︒

−34−

(11)

スミソニアン以降の為替レートとインフレ率の関係

      四 インフレ率と為替レートの

        関係︵H︶

  ﹁インフレ率格差は︑為替レートで8mpensateさ

れる﹂という通説は以上の考察から支持されることが

判った︒以下では︑この通説を支持する大場︹11︺によ

るいくつかの図を掲げて︑この結論を補強することと

したい︒第六図は︑卸売物価と輸出価格をとってイン

フレ率の指標とし︑これと実効為替レートとの関係を

考察したもので︑期間はスミソニアン調整から一九七

五年一二月までのものである︒第六図に見る限り︑イ

ギリスやイタリアのようにインフレ率の高い国ほどそ

の国の通貨がフロート・ダウンし︑国際競争力が維持

される傾向があり︑一方西ドイッやスイスのようにイ

ンフレ率の低い国ほどその国の通貨が強くなってい

る︒日本やアメリカなどは︑これらの強い通貨と弱い

通貨とのほぼ中間に位置しており︑スミソニアン以降

−35−

(12)

において実効レートはほとんど変化していないことが明らかである︒

 イギリスと西ドイツを比較すると︑インフレ率では︑イギリスが約八〇パーセントの上昇︑西ドイツが約三〇

パーセントの上昇で︑イギリスの競争力は差引き約五〇パーセント悪化しているといえる︒他方︑実効レート

は︑イギリスが約三〇パーセントのフロート・ダウンで︑西ドイツが約二〇パーセントのフロート・アップとな

っており︑イギリス・ポンドと西ドイツ・マルクとの間では︑イギリス・ポンドは実質的に約五〇パーセント切

下がっていることになる︒すなわち︑イギリスと西ドイツとの間のインフレ率の格差のほとんどが為替レートの

変化によって8mpensateされているといえよう︒他の諸国のインフレ率と為替レートの関係についても︑第六

図の点線枠内に入っている国同士では︑イギリス・ポンドと西ドイツ・マルクと同様な関係があることを示して

いる︒ 次に第七図を用いて︑固定レート制の期間とフロート制の期間におけるインフレ率と為替レートの関係の比較

を行なっておこう︒固定レート制の期間としては︑一九六五年から一九七〇年までの五年間をとり︑フロート制

の期間としては︑一九七〇年から一九七五年までのIMF固定レート制の崩壊からフロート制移行を含む期間を

とることとする︒一九六五年から一九七〇年までの固定レート期に行なわれた通貨調整は︑一九六七年十一月の

イギリス・ポンドの一四・三パーセントの切下げ︑一九六九年八月のフランス・フランの一一・一パーセントの

切下げ︑同年十月の西ドイツ・マルクの九・三パーセントの切上げの三回であるが︑第七図ではこの三カ国につ

いてはインフレ率が通貨調整によってある程度8mpensateされていることがわかる︒しかし︑その他の諸国に

ついては︑インフレ率の格差は為替レートの変動によって調整されておらず︑ほとんど縦軸に平行に位置してい

−36−

(13)

固定レート時代とフロート時代の比較 卸売物価上昇率

る︒とはいえ︑各国のインフレ率格差は大きくないの

で︑各国とも座標軸の原点に近いところに位置してい

る︒これに対して︑フロート制の五年間︵一九七〇年か

ら一九七五年まで︶には︑第七図にみるように︑各国の

位置にバラツキがみられ︑各国のインフレ率格差が大

きく︑フロート制の下では︑このインフレ率格差が為

替レートの変動によってほとんど8mpensateされて

いることがわかる︒

 第八図は︑このような関係を別の角度からみたもの

である︒第ハ図によれば︑一九六〇年代には︑年々生

ずる各国のインフレ率格差はそれほど大きくなかった

が︑それでも年々の不均衡が累積してある程度の水準

になると︑ある時点で突然通貨危機が生じ︑大きな通

貨調整に追い込まれたととがわかる︒ところが︑一九

七〇年代に入ると︑総フロートに移行した一九七三年

以降各国のインフレ率格差が急激に大きくなって︑こ

れに伴って各国間の為替レート調整の幅が大きくなっ

−37−

(14)

各国の経済変動と為替レート変動

ていることがわかる︒こ

のことは︑フロート制の

下で︑各国間の経済変動

とこれに伴う国際競争力

の変動を反映しているこ

とを示すものといえよ︵9︶

  四 結びにかえて

 従来︑IMF固定レー

ト制の下では為替レート

が対米ドル・レートを意

味しており︑フロート制

の下においても︑為替レ

ートの概念としては対米

ドル・レートが用いられ

てきたと言って差し支え

−38−

(15)

ない︒しかし︑冒頭に示したように︑一国通貨の世界的視野でのポジションを見るには︑実効レートの概念が必

要となる︒実効レートはその算出が容易ではないが︑ロイター・カレンシー・インデックスなどは通常よく使用

されるに到っている︒

 実効レートを導入することによって︑インフレ率と為替レートの関係についてより厳密な議論を試みることが

可能になる︒本稿では︑今迄に行なわれたいくつかの研究を予掛りにしてこの問題にアプローチしたが︑一九七

七年以降急騰している円の対米ドル・レートを踏まえ︑この問題を考察するのが今後の課題である︒

      ︵一九七八・四・三〇︶

−39−

(16)

−40−

lilackb.W.FloatingExchangeRatesandNationalEconomicPolicyYaleUniversityPressNew

HavenandLondon1977

iSrillembourgA."PurchasingPowerParityandtheBalanceofPayments:SomeEmpiricalEvidence"

IMFStaffPapersVol.24No.1Mar.1977pp.7799

InternationalMonetaryFundAnnualReport1975Washington])('

internationalMonetaryFundInternationalMonetaryStatisticsWashingtonD.C'

tticerL.H."ThePurchasingPowerParityTheoryofExchangeRates:AReviewArticle"IMF

StaffPapersVol.23No.1Mar.1976pp.1l

RhibergR.R."IndicesofEffectiveExchangeRates"IMFStaffPapersVol.23No.1Mar.1976

pp.88112.

貿

(17)

― 41 ―

︹9︺ 村本孜﹁変動相場割と開発途上国﹂﹃成城大学経済研究﹄第五九・六〇合併号︑一九七八年一月︑二五一l二七四

   頁︒

︹10︺ 村野孝﹁続変動為替相場とその展開過程︵上︶︵中︶︵下︶のI︑2︑3﹂﹃世界経済評論﹄Vol.20No.10.11&12.

   Vol.21No.2&3.一九七六年十︑十一︑十二月︑一九七七年二︑三月︒

︹H︺ 大場智満﹁国際競争力に開する一考察11︲インフレ率と為替レートーー﹂﹃財政金融統計月報﹄第二九〇号︑一九

   七六年六月︑一八頁︒

︹12︺ 大蔵省国際金融局﹃第一回大蔵省国際金融局年報 昭和五二年版﹄金融財政事情研究会︑一九七七年︒

︹13︺ 東京銀行︵河西宏之︶﹁主要心力国通貨の為替相場の変動要因﹂﹃東京銀行月報﹄第二八巻第九号︑一九七六年九

   月︑四︱一九頁︒

︹14︺ 東京銀行︵幸路祥夫︑田村勝省︶﹁日本における変動相場制の経験︵下︶﹂﹃東京銀行月報﹄第二七巻第四号︑一九七

   五年四月︑四l四五頁︒

︹15︺ 東京銀行月報︵幸島祥夫︶﹁変動相場制移行後の円相場﹂﹃東京銀行月報﹄第二七巻第一一号︑一九七五年十一月︑

   四l二六頁︒

参照

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