1) 2) 3) 4)
1)
2) 3)
神 野 賢 治
1)千 代 島 隆 利
2)折 居 憲 司
3)大 谷 善 博
4)近年, 我が国における地域スポーツの振興, あ るいは人々の生涯スポーツ普及の担い手は, 目紛 るしく変化する地域の情勢, 人々の生活意識, あ るいは少子高齢化などの社会変化によって多様化 に向かっている。 この場合, 「担い手」 とは, ス ポーツ実施者 (するスポーツ), 観客や視聴者・
読者といったスポーツ消費者 (みるスポーツ), ボランティアスタッフ (ささえるスポーツ) など に分類され, 「スポーツの人的資源」1) とも呼ば れる。
この人的資源の中でも, 「体育指導委員」 に着 目してみると, 稲田 (1998) はその地域スポーツ の中心的指導者である体育指導委員の役割や任命 の方法がスポーツ振興の点から大きな課題である と捉え, スポーツ行政担当者の意識からその現状 と課題を明らかにしている2)。 また, 中 (1999) は体育指導委員の指導観から, 地域スポーツ (ク ラブ) はそれぞれ地域で発展してきた特徴を有し ており, 多様化するスポーツ需要の充足を考える と, それに呼応する形で個性ある体育指導委員の 必要性を挙げ3), 荒井 (1993) は, 体育指導委員 は当初レフェリー的存在であり, その後コーチ的 存在からマネジャー的存在と変容してきていると その役割変遷を指摘している4)。
これらのことから, 地域スポーツ振興の担い手 に体育指導委員が根強く候補者として挙げられる 一方, その位置づけや役割に関しては変化を求め られていると捉えられよう。
昭和32年, 文部省 (現・文部科学省) 文部次官 通達 「地方スポーツの振興について」 において, はじめて 「体育指導委員」 という名称が使われて いる5)。 それまで, 社会教育主事や行政担当者が 体育・スポーツ・レクリエーション活動の専門的 指導を担っていたが, スポーツ振興の為さらなる 指導者の確保が不可欠となったため, 全国に約2 万人の体育指導委員の設置が奨励され, それに伴 う経費の助成処置も施された。 その後, 昭和36年 にはスポーツ振興に関する唯一の法律である 「ス
ポーツ振興法」 (第19条) により, 体育指導委員 は市町村教育委員会に非常勤公務員として任命さ れるようになり, 体育指導委員制度が事実上, 法 的に保障される発端となった6)。 現在では, 平成 11年に 「任命・必置」 から 「任意・委嘱」 とされ, 設置は市町村教育委員会の判断とされている (具 体的な委嘱方法や選考の基準等については後述す る)註1)。
このようにして, 46年余り体育指導委員は地域 スポーツ振興の担い手として全国の市区町村に存 在し, 地域スポーツを支え, 住民の生きがいや健 康づくり, さらにはコミュニティの醸成に貢献し てきた。 しかし, スポーツニーズの多様化に伴い 専門的な技術指導能力を有していない体育指導委 員, 委嘱されても活動に理解を示さず非協力的で 活動実態が明確でない体育指導委員などが長年に わたり問題視され註2), 近年では, 行政改革の一 環として行われた市町村合併の影響とも相俟って, その人数も減少する傾向にある。 全国の体育指導 委員数は平成11年度に62 098人 (全国体育指導委 員数のピーク時) から平成19年度には54 934人と 8 年 間 で 7 164 人 減 少 し て い る ( 減 少 比 率 13 0
%)7)。 市町村合併などを例にとり, 地域をめぐ る環境の大きな変化は, 体育指導委員自体の活動 やその存在にも変化をもたらしている実情がある といえよう。 つまり, 今日までの体育指導委員の 活躍とは裏腹にその役割や存在などが再考されて いるような 揺らぎ をみることができる。
本稿では, 体育指導委員制度の 揺らぎ なる ものが 地域スポーツ振興の直面している一課題 であると捉え, まずは体育指導委員の本来的任務 や活動理念を再度整理したうえで, 福岡市を事例 として取りあげ, 実際に活動を行っている体育指 導委員の実態と諸意識, 及び体育指導委員を取り 巻く現状の組織マネジメントについて把握する。
これらから, 地域スポーツ振興推進の中心的存在 となるべき, 体育指導委員の今日的役割等につい て検討することを目的とする。
1. 調査対象者
現在, 福岡県福岡市7行政区で活動している体 育指導委員を対象に質問紙調査を実施した (表1)。
この調査は, 平成18年度福岡市市民スポーツ実態 調査 (福岡市市民局スポーツ部) の一部として位 置づけられた調査であり, 287名から回答が得ら れた (回収率98 6%)。 それらの結果をもとに分 析 (解析) および統計処理等を施した。 なお, こ の作業に関しては当局の協力・合意のもとに行わ れた。
また 質問紙調査と並行して福岡市体育指導委 員の今後の活動や組織的なビジョンをより具体的 に把握するために, 福岡市体育指導委員協議会会 長 氏, 体育指導委員 氏に対し, ヒアリング 調査を実施した。 福岡市の体育指導委員を率いて いく側と各地域で実践活動を行う側, 双方の意識 を相互補完的に抽出する意図がある。
2. 調査期間及び方法 1) 質問紙調査
平成18年12月〜平成19年2月に実施され, 質問 紙の配布及び回収は, 体育指導委員の統括部局で ある福岡市市民局スポーツ部が執り行った。 集計・
分析 (解析) にあたっては, 11 01 を用いた。
2) ヒアリング調査
平成19年10月に福岡市体育指導委員協議会事務 局 (福岡市スポーツ振興事業団) 一室にて実施さ れた。
3. 主な調査内容 1) 質問紙調査
①基本的属性について訊ねる9項目 (職業, 経験 年数, 競技歴, 取得資格など)
②体育指導委員になった動機や他の役職等につい て訊ねる6項目
③日常の指導活動 (体育指導委員以外) 及び指導 意識について訊ねる10項目
④体育指導委員としての活動状況及び意識につい て訊ねる15項目
⑤スポーツ振興施策や福岡市の国際スポーツイベ ントに対する意識について訊ねる7項目
⑥総合型地域スポーツクラブに対する意識につい て訊ねる5項目
2) ヒアリング調査
①福岡市体育指導委員の歴史的歩みについて
②行政担当者との連携
③今後の取り組み等について
これら, 調査の結果については, 次章のⅢ−2 後半, 及び, Ⅲ−3にて考察する。
表1 調査対象者の内訳
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1. 体育指導委員の任務と役割の変遷
― 全国的な体育指導委員制度の変遷から ―
前述したように, 体育指導委員の任務・役割に 関しては, この半世紀間で試行錯誤されてきた経 緯がある。 具体的には, 昭和32年の文部事務次官 通達 「地方スポーツの振興について」 から平成12 年の 「スポーツ振興基本計画」 などにみることが できよう。本項では, 体育指導委員に係る制度等について 整理し, その行政的な役割期待について確認して みたい (表2)。
体育指導委員は制度発足当初, 「社会体育振興 に必要な事項全般」 という大枠の中で, 「体育の 啓蒙・宣伝」, 「適切なプログラムづくり」, 「スポー ツ組織の育成拡充」, 「総合的連絡調整」 などのキー ワードからも読み取れるように, スポーツの指導・
助言はもとより地域スポーツ振興の世話役的な働 きが期待されていた。 つまり, 社会の中で体育・
スポーツの指導にとどまらない役割や活動自体を 模索していた時期ともいえるであろう。
その後, スポーツ振興法 (昭和36年6月) 第19 条の中で, 体育指導委員は市町村の教育委員会か ら任命され, 非常勤公務員として明確に規定およ び必置され, その役割は 「地域住民に対する実技 指導」 に重点が置かれることとなった。
ところが, 上記のような地域住民に対する実技 指導の支援体制がとられたにも関わらず, 昭和40 年代後半頃から全国各地の地域スポーツ活動は飛 躍的に活発化・多様化し始めた。 よって, 限られ た数の行政担当職員や体育指導委員だけでは, 実 技の指導に限らず, 他の振興事業の推進等に十分 に対応していくことが困難な状況が生じてきた。
一方では, 昭和47年には日本体育協会が, 地域 においてスポーツ活動の普及・推進や基礎的な実 技指導を担当することができる 「スポーツ指導員」
の養成を始めることとなる。 資格付与や現在でい うリーダーバンク制などの導入により, 指導者の 数及び質を高めていく傾向が全国各地に広がるが,
その地域独自のスポーツ指導者もまた体育指導委 員と共に活動する傾向がみられるようになった8)。 このような状況の下, 現在, 我が国の体育・ス ポーツ振興施策の基本となっている 「体育・スポー ツの普及振興に関する基本方策について」 (昭和 47年12月文部省保健体育審議会答申) において,
「体育指導委員は, 市町村の行う体育・スポーツ 推進事業の企画に参画し, その推進者としての任 務を重視していくべきである。 スポーツ教室等に おける実技の指導については, 今後はむしろ, 民 間のスポーツ指導員等の協力を得るようにしてい くべきである。」 などの指針が示された。 これは, 民間スポーツ指導員と体育指導委員を区別する必 要性からなるものと考えられ, 体育指導委員の任 務は, 「実技指導中心」 から, 「コーディネート重 視」 へとシフトしていくこととなる。 また, 実技 指導を行う体育指導委員に関しては, 市町村がそ の職務に見合った報酬を検討すべきという内容も 明記され始めるが, 現在に至るまで全国的に統一 されたものとはなっていない。
平成元年11月の保健体育審議会答申 「21世紀に 向けたスポーツの振興方策について」 では, 具体 的に コーディネーター と位置づけられ, スポー ツニーズの高度化や多様化に対応できる能力が求 められている。
また, 平成9年9月の同審議会答申 「生涯にわ たる心身の健康の保持増進のための今後の健康に 関する教育及びスポーツの振興の在り方について」
では, 一層の資質向上を図るために 「スポーツ指 導者資格」 取得者を優先的に体育指導委員として 任命すること, その際, 女性の登用促進を促すこ と等が組み込まれている。
さらに, 平成12年9月のスポーツ振興基本計画
「政策目標達成のための基本的施策」 では, 具体 的に 「総合型地域スポーツクラブ」 の創設や活動 の充実, 「子どものスポーツ環境」 の充実など, 計画遂行の中心的な役割を果たすよう位置づけら れている。
以上のことから, 体育指導委員の任務, 役割に ついての変遷を大まかではあるが, 概観すること
表2 体育指導委員制度の変遷
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ができる。 つまり, 体育指導委員には, 「地域ス ポーツ振興の世話役」 → 「実技指導員」 → 「コー ディネーター+実技指導員」 から, 現在では,
「コーディネーター (むしろマネジメント的存在)」
としての役割が期待されている。 その背景には, 我が国が目指してきた地域スポーツの姿や地域生 活の有り様に鑑みて, 体育指導委員の役割や組織 の確立を確固たるものにし, その社会的な存在価 値を絶えず見出していこうとした政策的意図があっ たといえよう。
しかし, このような体育指導委員の任務・役割 の変遷はスポーツニーズの多様化と指導者養成事 業の充実などに対応し, 体育指導委員の役割体系 を明確にしていく様相を呈しつつも, 現場レベル では実に多面的な活動が求められているために, 実際はどのようなことが任務なのか, 本来体育指 導委員が成すべきことは一体何なのか, といった 理念の不明瞭化を招いていることも留意すべきで ある。
2. 福岡市体育指導委員の歩み ―福岡市体育指 導委員を取り巻く組織的マネジメント―
前節では, 体育指導委員に関する制度の変遷と いう観点から, 体育指導委員の任務や役割期待に ついて整理した。
続いて本節では, 地域 (地方自治体) の一例と して福岡市を例に挙げ, 体育指導委員のより具体 的な活動やそれらを取り巻く組織的マネジメント について考察する。 以下では, 主に①福岡市にお ける地域スポーツ振興の背景に若干触れ, ②その 中で体育指導委員がどのような位置づけにあるの か, ③福岡市体育指導委員協議会のマネジメント や今後の展望などを参考に述べていきたい。
1) 福岡市におけるスポーツ振興の歴史的背景
9)10) 福岡市の人口は増加傾向にあり, 平成19年4月 1日 (推計) で, 1 414 747人, 世帯数は664 883 世帯である。 また年齢構成は, 平成17年国勢調査 結果によると, 年少人口 (0〜14歳) 13 4 , 生産 年齢人口 (15〜64歳) 70 2 , 老齢人口 (65歳以上) 15 2 の比率構成となっており, 政令指定都 市の中では, 比較的若い年齢構成で, 平均年齢は 40 3歳 (政令指定都市中第1位) である11)。
しかし一方では, 人口の集中化・連帯意識の希 薄化等の社会状況を招いていることから, 市民の 健康・体力づくりやコミュニティづくりが長年に わたり重要課題として浮かび上がってきている。
よって, 福岡市では, 「健康で充実した豊かな 市民生活づくり」 を実現するために, 昭和36年発 刊 「福岡市総合計画 (マスタープラン, 以後5年 ごとに改定)」 に基づき, 昭和50年に政令指定都 市では最も早く 「市民スポーツ振興総合計画 (16 ヵ年計画)」 を策定した。
その具体的実現を図るため, 昭和51年, 57年, 62年と3次にわたる実施計画が策定され, それに 基づく施設づくり, 指導者づくり, 組織づくり, プログラムサービス, 情報サービスを中心とした 施策を積極的に推進し, 市民レベルでの体育・ス ポーツ・レクリエーション活動の日常化に努めて きた。
また, 福岡国際マラソン, 福岡国際クロスカン トリー大会など国際レベルのスポーツ大会の開催 や, 市民総参加による市民スポーツ総合大会, シ ティマラソン福岡など各種競技大会の充実を図っ ている。 第45回とびうめ国体, 平成7年にはユニ バーシアード福岡大会開催などを機に, 「国際ス ポーツ都市宣言」 を行い, 平成13年には世界水泳 選手権大会福岡2001を開催, 平成18年には2016年 オリンピック大会を福岡・九州へ誘致する活動も 行った。
上記のほかにも毎年福岡市で開催される各種国 際スポーツ大会も様々であり, プロスポーツにお いては, 近年では平成15年に福岡ダイエーホーク ス (現ソフトバンクホークス) が日本シリーズ優 勝, 平成18年にはサッカーアビスパ福岡がJ1へ 昇格 (現在はJ2) している。 これらのことは, 市民のスポーツに対する意識を高揚させる契機に なり得たであろう。
「福岡市新・基本計画」 によると, 福岡市にお けるスポーツ振興の基本方針としては, 2015年の
望ましい姿について 「スポーツや文化活動も活発 で, こうした多様な活動に生きがいを感じ, 自己 実現を図る人も増えている…(略)」 と具体像を掲 げ, 主要な施策として, ①身近なスポーツ施設の 整備・活用, ②拠点的なスポーツ施設の整備・活 用, ③地域におけるスポーツの振興, という3つ の柱を立てている。 全体に関わる具体的な成果指 標として, 身近なスポーツ環境への満足度 (スポー ツをする場や機会が身近にあると感じる市民の割 合) を2002年の48 6%から2015年までには目標値 として70 0%を設定している。 つまり, 市民の3 人に2人が満足するスポーツ環境の充実を目指し ている12)。
以上のことから, 福岡市は, スポーツ振興に極 めて積極的な自治体の一つといえるであろう。
しかし, 地域 スポーツ振興といった場合は, さらに詳細な地域区分による考察が必要である。
つまり 地域スポーツの全体像を理念的に描くと 同時に, 最も身近で基本的な単位であるコミュニ ティからビルド・アップして 広範域の地域スポー
ツ像を描く作業も不可欠であろう。 そういった意 味では, 体育指導委員は校区毎に選出されている ため, その校区を越えた広がりはあるにしても, その対象となる地域 (コミュニティ) は限定され てくるのである13)。
よって, 以降は体育指導委員を取り巻く組織や その方向性についてまとめてみたい。
2) 福岡市における体育指導委員制度
9)10)体育指導委員を取り巻く組織
体育指導委員は, 教育委員会から委嘱された非 常勤職員として行政施策を推進する立場から, 関 係団体・機関との関わりを明確にしておく必要が ある。 すなわち, 体育指導委員は福岡市事業 (公 民館事業を含む) への積極的参画が基本であり, 関係団体等については, 求めに応じ協力し, 教育 的配慮に基づいた育成・援助をするものとされて いる。
これらのことから, まずは体育指導委員を取り 巻く組織について概観しておきたい (図1)。 福
図1 福岡市体育指導委員を取り巻く行政のしくみ
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岡市の場合, 体育指導委員の委嘱に関しては, ス ポーツ振興法によって教育委員会の事務に位置づ けられているが, 福岡市では, 地方自治法第180 条3項によって市民局スポーツ部に補助執行を委 ねている。 市民局スポーツ部は, 市体育協会, 市 レクリエーション協会に対して助成を行い連携・
協力のもと, 各種スポーツ事業を推進している。
また, 市の第3セクターとして設立されたスポー ツ振興事業団は, 市からの委託事業を中心にスポー ツの振興・推進を図っている。 福岡市体育指導委 員協議会事務局もこの中に置かれ, 事業団と一体 となり, 活動を展開している。
さらに, 公民館の地域体育振興事業には, 館長・
主事と一体となって取り組まなければならないた め, 体育指導委員は普段から公民館との連携を密 にし, 館区における体育・スポーツをどのように 進めていくかを常に考え, いわば公民館の執行部 の一員としての立場で活動するように指導されて いる。 同様に, 区体育振興会の事業との連携・協 力も行うことになっている。
実際に, 体育指導委員の活動の基本的な足場は, 校区体育振興会が中心となっている。 各校区で実 施されている行事等のプログラムは, 体育指導委 員や地域スポーツ指導者, 校区体育振興会役員な どが中心となり, その地域のニーズに沿った事業 であるため多種多様である。 よって, 活動の詳細 については割愛するが, 今後, 校区毎の特色ある プログラム等を横断的・縦断的に把握していく必 要性があろう。
体育指導委員の選考
福岡市における体育指導委員選考の詳細につい ては, 全国的な条件とほぼ同じである。 以下に概 要を示す。
①選考の対象 a. 地域のスポーツ指導者 b. 各種のスポーツ・レクリエー
ショングループ・団体の指 導者
c. 男女を問わないが, 年齢はお おむね30歳以上65歳以下
d. 実働できる者
②選考の条件 a. スポーツに関する指導, 助言 及び実技指導ができる者 b. 社会的に信望があること c. 自己の資質向上のために, 研
修会などに出席できる者 以上の人材を, 公民館長が推薦する。 任期は2 年間 (再任をさまたげない) である。
体育指導委員の委嘱に際して福岡市の重視する ところを挙げるならば, ①体育指導委員の役割を モデル化していること, ②領域体育指導委員を委 嘱していること, という2点であろう。
前者は, 体育指導委員の職務として, 前述して きたように実技指導にとどまらない各団体とのコー ディネーターとしての多面的な活動を求めている が, 福岡市は段階に合わせて体育指導委員の活動 を割り当て, 育成していくことに重点をおいてい る (図2)。 1〜2期 (2〜4年) は プレイリー ダー とし, 現場に近いかたちで実技指導, プロ グラム展開に携わる。 2〜3期 (4〜6年) にな ると, グループリーダー として, 企画・立案 からそれらに係るグループや人を動かすような立 場, 4期 (8年) 以上になると 全体リーダー として計画・組織全体をマネジメントする役割を 目指している。
領域体育指導委員に関しては, 体育指導委員の アドバイザー的役割を担い, 学識経験者・民間ス ポーツ施設からそれぞれ各1名ずつ, 福岡市全体 で教育委員会より計2名が委嘱されている (設置 当初は, 40名程度であったが, 定数の見直しを繰 り返し, 現在の定数は5名である)。
これは, 福岡市独自の方策であり, 一般の体育 指導委員とは役割が異なる。 市民のニーズを的確 に捉え, 体育指導委員が重点的に取り組んでいく べき内容について, 市への意見具申や地域担当の 体育指導委員の資質向上のために情報を提供して いくことが領域体育指導委員の主な役割となって いる。
3) 福岡市体育指導委員協議会のビジョン
これまで, 福岡市のスポーツ振興方策や, その 中での体育指導委員の位置づけ等について考察し てきたが, 体育指導委員の現状や課題, これから の具体的活動について, より適確に把握するため, 福岡市体育指導委員協議会会長A氏ならびに事務 局業務に精通する体育指導委員B氏に対するヒア リング調査を実施した (概要については第2章方 法を参照)。以下に, 調査員Cとのやりとりを①体育指導委 員の役割, ②今後の福岡市体育指導委員の活動, あるいは③今後の課題, という3つの観点から, 主要部分を抜粋するかたちで列挙する。
①体育指導委員の役割について 調査員C :
「体育指導委員の役割をステージで捉え, 活 動・育成していくことは大変重要なシステムの 一つと捉えられますが, 留意している点はどの ようなことがありますか。」
会長A氏 :
「スポーツだけではなく, 文化面においても 間 (地域・団体) を取り持つことができます ( かお ができる)。 その際, 体育指導委員
という肩書きを持っていなかったら中々推進で きないことも多くあります。 しかし, その裏に は, 新人からベテランに関係なく, 毎年研修会 (年に5回程度) 等に参加して自身のレベルを 上げている努力の積み重ねが隠れているのです。
実際, 実技指導に関しては, ステージ的に上 の者は, ほとんどできない状態なのです。 体育 指導委員としての経験が上 (中堅以上) になれ ばなるほど, 市の行事や県の行事に関わること が多々あります。 実技指導の方を集中的にやる と, 体育指導委員の活動はできなくなっている 実情があるわけです。 極端に言うと, 指導がそ こまでできなくても, 人々をまとめる力があれ ば, スポーツ行事は遂行できますし, 何か大き な行事を行おうと思ったときは, やはり体育指 導委員が担う役割は大きいのです。」
体指B氏 :
「校区で当てはめると, 経験を積めば積むほ ど, 地域の代表的な存在になってきます。 しか し, 育成という観点から見れば, 校区に2人ず つのうち, 1人は新人, 1人はベテランといっ たケースも自然に生じてきているでしょう。」
調査員C :
「では, 各ステージを若手, 中堅, ベテラン
図2 体育指導委員の段階モデル
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とするならば, そこに意識差のようなものは生 じないのですか。」
会長A氏 :
「体育指導委員としては1期でも, 他の団体 で長年活動している人が就任する場合もありま す。 よって, 体育指導委員の活動や取り巻く状 況などの中身の理解もものすごく早いです。 逆 に地域にも溶け込みやすいですし。 そういった 形で, 1年目から活発に動ける人もいます。 一 方で, これまでまったく関わりがない人がなる 場合もあります。 オールラウンドにすべてを体 育指導委員に求めるのは難しいですが, むしろ, その個人個人がこれまで積み重ねてきた様々な 経験を上手に活かすことを考えています。」
②これからの体育指導委員の活動について 調査員C :
「体育指導委員に求められている活動 (役割) は, 以前とは変わってきているようですが, 今 後の活動の展望などについては, どのように考 えていますか。」
会長A氏 :
「実技指導だけではなく, 地域の各団体との 連携など, 調整者 (コーディネーター) として の役割がやはり大きいといえます。 研修は, 社 会的な課題等やニュースポーツなどについては 既に行っています。」
体指B氏 :
「地域の皆が行うことができるようなスポー ツ (ニュースポーツを含む) の研修はやってい きたいです。 グラウンドゴルフ 普及には体 育指導委員も貢献しています。 ニーズに合った 様々なスポーツを校区に提供する役目があると 考えています。」
会長A氏 :
「福岡市が制度として公民館中心で行ってい るスポーツ教室には, これからも体育指導委員 は携わっていくことになります。 しかし, 今ま では, 研修も同じパターンでやってきましたが, 現在は率先して, 子どもの体力向上 をテー
マとし, 新体力テストを各区で1校区以上はや ろうと取り組んでいる最中でもあります。 市民 局だけではなく, 教育委員会や様々な組織に働 きかけていますし, 我々が協力しますよ, とい う言葉が教委, 現場の先生方からでれば だとも思っています。 子どもを通した親の考え 方 (朝ごはん抜き, 夜更かしなど) も変えてい く必要がありはしないでしょうか。
地域の大人や高齢者は頑張っています。 まず 今は, 子ども達の為ならば, と (子どもに) 特 化して頑張ろうという意気込みです。 この先駆 けがこの子どもの体力向上構想であります。
これからは, この構想を広めていくために地 域で独自のプログラムを自発的に展開している 体育指導委員に集まってもらい, 懇談会を開こ うと思っています。 どういう形で作ったかや, 活動内容なども, 協議会で全部拾い上げて, 全 体に還元していきます。
地域の中でも, 体育指導委員が関わっている グループからまず, 新体力テストというかたち で継続的に追跡調査を行い, 全校区に広めてい きたいです。」
体指B氏 :
「現在は教育委員会が全体的に小学校での新 体力テストを実施していますが, 実施できない 学校もあります。 また, 放課後の子どもたちは 誰が見てあげるのかなど, 学校の先生にそこま で責任を持たせるのは困難ではないでしょうか。
そういったつながりをつくってあげなければい けない, それも地域側の役割である捉えていま す。 その音頭をとることができるのは, 体育指 導委員ではないでしょうか。」
調査員C :
「子どもの体力向上に関する構想や, 現実に 取り組んでいる活動を考えると, 総合型地域 スポーツクラブ にリンクしてきますが, 総 合型地域スポーツクラブ についてはどのよう に捉えていますか。」
会長A氏 :
「確かに, そうですね。 総合型地域スポーツ クラブと内容が相通ずるところは皆が考えてい ることであり, 実際に, 全国的な発表事例を聞 いても, 既に校区で行えていると思われる組織 連携, プログラムがあります。 だから, 将来的 には総合型につながるのではないでしょうか。
子どもからスタートしても将来的には総合型地 域スポーツクラブにつながるかもしれません。
地域が子どもを育てなければならない, 大人が 熱くならないと子どもは燃えないのです。 やは り, 地域の大人が子どもに関心を持ち, 守って いく姿勢や役割を地域で持っておけば, 連帯感 は高まりますし, そういった姿勢や理念が将来 的に総合型地域スポーツクラブ設立の際には根 底になければならないでしょうね。」
③これからの体育指導委員の課題について 調査員C :
「全国的には市町村合併などの影響も受け, 体育指導委員の人員が削減される傾向にありま すが, そういった体育指導委員が抱える諸々の 課題についてどのように考えていますか。」
会長A氏 :
「福岡県全体で見れば, 約1800名から約1700 名へ, 100名ほど減少しています。 福岡市の場 合は合併がなかったため, 関係ないように思わ れますが, これからもっと減る可能性は高いわ けです。 だからこそ, 体育指導委員はこれだけ やっているということをアピールしなくてはい けない時代なのではないでしょうか。 任務的に 事を終えるだけではダメなのです。 福岡市の子 どもの体力向上に関する取り組みは, 全国的に みても先進的であると自負しています。 また, それらの取り組みの中心となっている事務局に は大変感謝していますし, 事務局があるとない とでは, 団体の活動は全く違うことも認識して います。
同時に, 体育指導委員の必要性を理解しても らいたいです。 今, 体育指導委員の役割が地域
住民に理解されているとはいえないでしょう。
あの人はよく頑張っているなぁと感じていても, 体育指導委員 とは知らないことがほとんど です。 体育指導委員を宣伝するわけではありま せんが, もう少し行政側から体育指導委員の明 確な位置づけがあればいいと思います。」
体指B氏 :
「我々は, 報酬のために活動しているわけで はありません。 仮に, これからの行政の動きの 中で, 報酬減などが出てきた場合, そういった きっかけで, 辞める人には辞めてもらう他ない と思っているくらいです。 だからこそ, 今この 状況で真の体育指導委員が出てくるかも知れま せん。 しかし, 体育指導委員がいなくなっても, そういった組織や仕組み・システムを行政がま た作らないといけませんし, もったいない 以外の何ものでもないでしょう。
現状の体育指導委員の意識改革も必要だけれ ども, 行政がどうやって体育指導委員を捉え, 動かしていくかもキーポイントではないでしょ うか。
福岡市のスポーツ振興は全国的にみてもトッ プレベルでしょう。 しかし, 地域を詳細にみた 場合においては, 16ヶ年計画以降停滞期にあり ます。 計画遂行当時は, 教育委員会が何とかし てくれるという気持ちでいましたが, 今は, 自 分達で研修内容を企画して, 講師を呼んだりす るという形をとらないといけません。 そういっ た行政との関わりも模索していかねばならない と思います。」
以上の3つの観点から, 福岡市の体育指導委 員協議会のビジョンについて触れた。
福岡市という地域から, 全国的な傾向までを視 座にいれ, 独自の活動や体育指導委員の 在り 方自体も模索していかねばならないという福岡 市体育指導委員協議会の強い意思が汲み取れる。
よって, 次節ではそれらのビジョンに対して, 把握しておかねばらならない, 地域の現場で活 動している体育指導委員の意識について考察し ていく。
3. 福岡市における体育指導委員の意識
本調査は, 福岡市全域で活動している体育指導 委員289名を対象に, 「体育指導委員の指導活動及 び意識に関する調査」 として実施されたものであ る (概要についてはⅡ 方法を参照)。 その中から, 体育指導委員が日常の活動の中で感じている事柄 について, 今後の体育指導委員の活動にとって重 要と思われるものを中心に考察していく。
1) 体育指導委員になった動機
体育指導委員になった動機としては, 「地域や 社会のために貢献したかったから」 (41 6%) が 最も高い結果となった (表3)。 地域スポーツ振 興に積極的な体育指導委員が, 数多く存在するこ とを確認できるが, 一方で, 「特別な動機はない が推薦されたから」 (26 4%) という回答も多かっ た。 つまり, 各公民館長推薦で委嘱されてはいる が, 就任の時点では前向きではないケースも考え られる。 就任時には, 前向きではない者について も, 体育指導委員の任務や使命を理解し, 職務に やりがいを感じることができるような研修・活動 等の働きかけが必要となるであろう。
2) 現在の活動に対する意識
体育指導委員としての活動の自覚
校区において, 地域活動に関わる際に, 体育指 導委員の職務として関わっているのか, または, 体育指導委員の職務と関わりなく行っているもの かを明確に区別できているかどうかについて訊ね た (表4)。 その結果, 約7割が明確に区別でき ており, 現在, 自身が体育指導委員として地域の 中でどのような役割を担い, 活動すべきか理解で きていると捉えることができる。
また, 「曖昧なものがある」 (13 7%) と回答し た者のうち, 「自分が他組織の役員を兼任してい る場合」, 「公民館長, 自治協役員の方から個人的 に地域行動やイベント等の協力を依頼された場合」,
「すべての校区行事に出ないとならない場合」 な どが挙げられており, 多様なケースが生じている ことも留意しなければならない。
地域スポーツ振興の使命感と期待感
体育指導委員が, 日常, 地域住民を対象に, 地 域スポーツを普及・指導しなければらないという 使命感をどの程度感じ, 地域住民と接しているの
表3 体育指導委員になった動機
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表5 「地域住民に対する使命感」 と 「地域住民の期待感」 の関係性 (%)
表4 体育指導委員としての活動範囲が明確に区別でき
ているか
か, またどの程度市民からの期待を感じているか についてクロス集計を行った (表5)。 その結果 から, 地域住民の期待感を強く感じている者ほど, 使命感も強く抱いているという有意な差を確認で きた。
すなわち, 前節のヒアリング調査結果からもう かがえるように, 地域住民に体育指導委員の活動 が認知されていない, つまりは期待感すら持ち得 ない状況は, 体育指導委員の使命感を低下させて しまうことを確認できる。 よって, 今後はさらに 地域住民が体育指導委員の活動をより認知できる ような働きかけが必要となろう。
また, 地域住民へのスポーツ振興に対して使命 感を 「強く感じる」, 「まあ感じる」 と回答した者 を 「使命感強群」, 逆に, 「あまり感じない」・「全 く感じない」 と回答した者を 「使命感低群」 とし, 実際に地域住民に対する指導・助言を行う場合に 重視している事柄の関係性について分析した。 分 析にあたっては, 各事柄に対する回答数値を間隔 尺度とみなし, 平均値を算出し, 表にまとめた (表6)。 なお, この有意差の判定に関しては, 平 均値の差の検定手続きとしてt検定を用いた。
その結果, 「健康・体力の向上」, 「技術の向上」,
「スポーツの楽しさ」 など従来的なスポーツ指導・
助言の目的はもちろんのこと, 「仲間づくり」,
「スポーツによる健全育成」 など地域コミュニティ 形成に大きく寄与する事柄についても, 使命感が 強い者ほど重視していることが確認できる (有意 差あり)。 よって, 体育指導委員に対してさらな
る使命感を与えられるような働きかけが体育指導 委員協議会にも求められてくるであろう。
活動による支障や継続上の問題点
体育指導委員としての活動によって, 生じた生 活上の支障や, 体育指導委員として活動を継続し ていく上での問題について複数回答で訊ねたとこ ろ, 「行事への参加者の減少」 (46 0%) が最も高 く, 続いて 「家族とともに過ごす時間が少なくなっ た」 (41 5%) などが回答としては多かった (図 3)。
さらに, 上位の項目として, 「スポーツ行事の マンネリ化」 (37 8%), 「労働時間に活動時間が くいこんできた」 (34 8%), などが確認できる。
つまり, ①自身が取り組んでいる (関わっている) 行事などの運営と, ②それらに時間を費やすこと で, 自身の生活時間に影響を及ぼす, という大き く2点に体育指導委員の不安要素を確認できよう。
また, 「地域において体育指導委員の認知度が 低い」 (31 0%) という点も, 前述してきたよう に無視できない項目であろう。
よって, さらなる研修内容の吟味はもとより, 体育指導委員の生活状況等についても留意すべき であり, むしろそれらに対する協議 (体育指導委 員活動を取り巻く検討会開催等) の必要性のほう が高いといえよう。 あわせて, 地域住民に対する 体育指導委員の活動の理解促進も肝要となる。
3) これからの地域スポーツ振興について
体育指導委員の現状意識を踏まえ, これからの 福岡市における体育指導委員の活動, 並びに地域 スポーツ振興に対する意識について考察していく。まず, これからの福岡市におけるスポーツ振興 に関して, 「重要と思われる事柄」 について, 市 民の意識と比較検討してみたい (表7)。
両者とも, 「身近なところで手軽に使えるスポー ツ施設を整備」, 「気軽に参加できるスポーツ行事 や教室の開催」 が上位2項目であり, 身近なスポー ツ施設でのスポーツニーズに重点が置かれている。
この点に関しては, 市の政策目標と合致する点で
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表6 「使命感」 と 「指導・助言で重視するもの」 との関
係性 (平均値)
あり, 行政は的確に市民ニーズを把握できている ともいえよう。
特に体育指導委員に関しては, 半数以上が施設 整備を重視している (「身近なところで手軽に使 えるスポーツ施設の整備」 59 2%)。 換言すれば, 活動等で使用できる施設の不足等が課題とされる ところでもある。 さらに, 体育指導委員に関して は 「少年スポーツの振興やスポーツを通じた青少 年の健全育成」 (35 2%) に関心がみられ, 体育 指導委員協議会が推進しようとしている 子ども の体力向上 に対する理解・協力が得られやすい 状況と捉えられる。
市民に関しては, 「施設の利用料金や利用手続
きへの配慮」 (29 9%) が全国的な状況とも類似 し, スポーツ活動に必要な条件として浮かび上がっ てくる14)。 利用手続きに関しては, 体育指導委員 の指導・助言等によっても解決できる事柄ではな いだろうか。
また, 上記に続いて両者ともに比較的高い回答 傾向にあるのは 「高齢者スポーツの振興」 であり, 逆に 「国際的なスポーツ競技会の積極的な誘致」,
「総合型地域スポーツクラブの育成」 などは両者 ともに, あまり重要視されていないことがわかる。
「総合型地域スポーツクラブ」 に対する認知度 については, 体育指導委員協議会も将来的に地域 でクラブ展開していく必要性を認めているが, 実
図3 活動によって生じた支障や継続上の問題点 (%)
1.4 1.4
2.4 5.9 6.6 8.4
8.7 9.4
10.1 20.2
24.7 25.4
25.8 29.6
31.0 32.8
34.8 37.3
41.5 46.0
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