高等学校教員対象 アクティブ・ラーニング研修会実践報告
――事例に学ぶ具体的手法――
鈴 木 浩 子* 1.はじめに
東京都教育委員会は、次の学習指導要領改訂や大学入試改革の動きを踏まえ、学習する人が主体的に学ぶ
「アクティブ・ラーニング」の視点に立った授業の研究などを行い、全ての都立高校に向けて成果を発信し ていく学校として、「アクティブ・ラーニング推進校」を指定している。平成
28
年度、平成29
年度、それ ぞれ15
校が指定され、期間は3
年間である。アクティブ・ラーニング推進校の取り組みとしては、「校内研 修の実施」「先進的に取り組んでいる高校や大学の視察、「アクティブ・ラーニング」の視点に立った授業の 研究等が紹介されている。東京都立福生高等学校は、「平成
28
年度アクティブ・ラーニング推進校」の指定を受け、3
年計画でアクティ ブ・ラーニングの視点に立った指導方法や指導資料の研究開発を進めている。定時制教諭の三五琢磨先生と 西谷真一先生は、平成29
年度の本学の授業公開に参加され、その後、公開研修「アクティブ・ラーニング 研修会」を学内で開催された。その講師として招かれ研修を実施したので、本稿では、研修内容、受講者の 反応について報告する。また、今後さらに高大接続を進め、学生の主体性を育む教育を実践するために何が 必要となるかについても考えたい。2.「アクティブ・ラーニング研修会」実施概要
2-1.開催の経緯
明星大学明星教育センター主催のアクティブ・ラーニング(以下
AL
)授業「自立と体験1」公開授業は、平成
29
年6
月9
日(土)10
日(日)に実施された。第2
日目に福生高校の教諭2
名が参加され、その場で研修 会の実施についての打診があった。その後正式な依頼を受けて、6
月23
日に、明星教育センター課長と研 修担当者2
名で打ち合わせに訪問し、詳細を決定した。開催日時は、
7
月13
日(木)15
時30
分〜17
時、福生高校内にて実施する。ねらいは、①AL
実践事例から、その効果を知る、②
AL
を実践するきっかけをつくる、③AL
の具体的なコツを知るとした。福生高校は「ア クティブ・ラーニング推進校」として活動しているが、実際にAL
型授業を実施している教員と、なかなか 踏み出せないでいる教員とがいることを前提に、「まずやってみようと思えるようになる研修会」を目指した。そのため進め方は、①
AL
について、AL
型の研修で学ぶ、②授業内のワークを体験してみるとした。明星 大学で実践している授業で実施されているワークを紹介し、活用できそうなものは、高等学校の授業でも使っ てもらうことを目指した。2-2.実施概要
「アクティブ・ラーニング実践 事例に学ぶ具体的手法」というテーマで実施された研修会当日のプログ ラムは、①校長挨拶、②講師紹介、③研修会、④質疑応答、⑤講評であった。参加者
13
名は、全日制教諭3
名、* 明星大学明星教育センター常勤教授
定時制教諭
8
名、その他2
名で、4
グループに分かれて実施した。研修会の内容は表1
のとおりである。表 1 研修会内容
時間 項目 詳細 準備物等
15
:35
(
5
) 導入 ①あいさつ・講師自己紹介②研修会のねらい・進め方
・学生役で体験、教員の立場でコツを知る。
4
人グループ着席机上には配布資料、名札用紙、
ポストイット、マーカー、
A
2
用紙、15
:40
(
10
) 受 講 者 自 己紹介 ①名札の作り方説明・作成
②自己紹介シート記入・発表リレー 名札用紙・マーカー ポストイット
15
:50
(
10
) アクティブ・ラ ー ニ ン グ とは
①アクティブ・ラーニングとは何か
②アクティブ・ラーニングの定義
③頭の中がアクティブであること
④ラーニングピラミッド
⑤アクティブ・ラーニングが求められる背景
16
:00
(
15
) 実践事例「自立と体験1」 ①「自立と体験1」開講の経緯(初年次教育の導入)
②教育目標
③授業の特徴
④授業の構成
⑤学習の流れ
⑥専門科目とのつながり
⑦実践の成果
⑧学生の反応
⑨アクティブ・ラーニングを支える仕組み
⑩担当教員の反応(アンケート抜粋)
16
:15
(
30
) アクティブ・ラ ー ニ ン グ 型 授 業 の た め の 具 体 的 な授業手法
1
.AL
型授業を行うために①目的を知らせる
②方法を理解する
③スキルを身につける
④前向きな意識の醸成
2
.授業手法体験①一問一答インタビュー
・今までに体験した
AL
だと思う学習 (実施する側・受講する側どちらでも)②ポストイットワーク
・
AL
を実施するにあたって気がかりなこと3
.手法の紹介①他者紹介 ②概念化
・振り返りシートの問いの作り方
ポストイット マーカーA
2
用紙16
:45
(
5
) アクティブ・ラ ー ニ ン グ 実践のコツ
1
.実践のコツ ①教員の関わり方②ファシリテーターとしての教員の行動 ③体験学習のステップと教員の役割 ④机の配置、グループ替え
⑤グループ分け ⑥介入の仕方 ⑦アイスブレイク
2
.情報共有とツールの活用・ツールを活用する⇒えんたくん 青バッグ えんたくん
16
:50
(
10
) 学 び の 振 り返り えんたくんを用いて、グループ内共有。
・理解したこと・学んだこと
・実践してみようと思うこと
・難しそうだと思うこと
えんたくん マーカー
研修会前半は、本学の「自立と体験1」の紹介、後半は
AL
の具体的手法と、AL
実践のコツを紹介した。また、研修会そのものが
AL
型で進められるように配慮した。実際に体験頂いた手法は、「自立と体験1」から、名札の作成、自己紹介、一問一答インタビュー、ポストイットワーク、概念化の問い、振り返りである。
講義内容のポイントを、具体的に取り上げておく。
【アクティブ・ラーニングとは】
AL
は、「学修者の能動的な学習への参加を取り入れた教授・学習法の総称」であり、グループワークやディ スカッションは学生が「頭の中でアクティブに考える」ための1
つの方法であることを説明した。そのうえ で、AL
にはさまざまな方法があり、現在行っている授業内容の「AL
の要素」を工夫することにより、ま ずは始めてみることを推奨した。
AL
に取り組んでいない人にとっては、どうしても準備の手間や苦手意識が先立ってしまう傾向がある。まずはミニテストや振り返りなど慣れ親しんだ方法を改善することから行動してもらうことを目指した。
【実践事例「自立と体験1」】
本学で実践している初年次教育授業「自立と体験1」について、大学全体で取り組んでいる様子や、学生 の反応・変化を紹介した。
【アクティブ・ラーニング型授業のための具体的な授業手法】
AL
型授業を行うための準備として、学生を次のような状態にすることが必要である。①目的:なぜAL
型(グループワーク)を行うのかを学生が理解していること、②方法:どのように行動すればよいのか(態度 目標)を理解していること、③スキル:実際に行動することができるように練習の場があること、④前向き な意識:グループで話しあうことに自信を持ち、楽しさを感じていることの4
点である。AL
型授業を実施 する際、最初にうまくいかないと止めてしまうということがあるが、最初の頃は「AL
の練習」と捉えて、学生が
AL
に馴染むようにしていくことが必要である。準備が整えば、その後は学生たちが楽しんで取り組 むようになる。これらの
4
つの点について「自立と体験1」でどのように実現しているかを説明した。スキルについては、初めの数回の授業で、意識的に実践させ身に付ける機会をつくっている。また学生が
AL
に前向きな意識を 持つために、「人と関わることの楽しさ」「グループで話しあい多様な意見を知ることの意義」「グループで 話しあうことができる自信」「自分がスキルを獲得している実感」を体験できる場をつくり、その後の専門 科目でAL
を行うための準備としている。高等学校の科目の授業の中でスムーズにAL
を取り入れるには、初回にこういった準備を行うことがきっかけになるのではないかと提案した。
実際の
AL
体験として、「今までに体験したAL
だと思う授業」についての一問一答インタビュー、「AL
型授業を実施するにあたって気がかりなこと」のポストイットワークを行った。ここでは様々な意見が出た が、手法の体験に重点を置いたために、解決策の検討についてはやや消化不足になった点があり、最後のア ンケートで「ヒントに答えてもらいたい」というご意見を頂いた。【アクティブ・ラーニング実践のコツ】
実践のコツとして、「自立と体験1」教員研修用資料より、次のような点を抜粋して説明した。ファシリテー ターとしての教員の関わり方、体験学習のステップと教員の役割、机の配置、グループ替え、グループ分け、
介入の仕方、アイスブレイクである。
また環境を整えることで、多くの教員が実践しやすくなるとして、教員同士での情報共有の場づくり、必 要資材が整えられていること等の例をあげた。また活用できそうなツールも紹介した。
【学びの振り返り】
最後に、「理解したこと・学んだこと、実践してみようと思うこと、難しそうだと思うこと」を少人数で 振り返った。その際、三ケ日紙工の「えんたくん」を実際に使ってみた。身近にあるものを活用するだけで なく、
AL
のために予算を取ってツールを整えることも、学生たちが興味を持ってAL
に取り組むためのきっ かけになる。3.受講者アンケート結果
研修会終了後に、記述式のアンケートを実施頂いた。回答者数は
13
名であった。「アクティブ・ラーニングの具体的手法が明確にわかった」については、
11
名が「当てはまる」と答えた。「当 てはまる」と答えた方に授業に生かせそうな手法を尋ねたところ、「机の配置、一問一答インタビュー、生 徒の他者と話すスキルを上げるための方法を知ることができてよかった」「一問一答は自己紹介にもつなが るので、その後の活動がやりやすい。(一問一答 他4
名)」「話し合わせたり、意見を言わせたりするため の質問段階設定」「今やっていることがAL
に当てはまると分かった」「発表リレー、ポストイットの使い方(ポストイット 他
2
名)」「雰囲気づくりとツール、アイデア」が上がった。一方、1
名が「当てはまらない」と答えており、理由として「授業の一方法として考えるものなのか、学生の人間関係構築不全のサポートと して考えるものなのか、目的が判然としない。わからない」と記述している。
AL
は手法であり、目的では ないことを説明しきれなかった点があったかもしれない。またグループワークを行うことで副次的に得られ る他者との関わり方等の汎用能力については、さらに説明が必要だろう。「研修会の内容は充実したものであった」には、「当てはまる」
9
名、「ややあてはある」5
名であった。具 体的に充実していた点としては、「さまざまなき具体的な手法を知るとともに体験できて良かったです。ぜ ひ色々と授業で試してみたいです」「えんたくんがとても楽しい」「実際に明星大学で行っている実践を知る ことができたこと」「内容がしっかりしていた」「気軽なAL
もありだと思った」「具体的な話が聞けてよかっ た」「グループの先生方と意見を共有できた」「具体的に自らが実践したことで、やりにくさ・やりやすさが 良くわかった」「実践の一端を垣間見られた」「自分たちも実践したこと」の記述があった。これらの記述を 見ると、参加者にAL
型授業を行うための4
つのポイント、目的、方法、スキル、前向きな意識を持って頂 くことができた。この体験が今後の実践につながることを期待する。「仲良しグループが集まると
AL
が効果的になると思う。人見知り同士だと難しいと思う」という意見も あった。前にもふれたように、授業を実施しながらAL
に慣れ、AL
のスキルを身に付けさせる意識を持っ て頂くと、見え方が変わってくると考える。また「人見知り」はスキルを身に付けることにより改善できる と、教員・学生の双方が考えることも効果的である。特に印象に残った点として「えんたくん」を挙げる声が多かった。「えんたくんが印象的でした。みんな でやると様々な意見が出るのでとても参考になると思う」との意見があり、導入として使いやすいツールを 揃えることが、学校全体での実践を促進する可能性を感じた。自由意見には、「準備が万全だと思った。
AL
で大事なのは準備だと思った」という意見もあった。
4.まとめ
今回の実践を通して、大学での実践の紹介や体験的な研修は、高等学校での
AL
の実践にも有益なヒント になることが分かった。大学で初年次教育を実施していく上で、高等学校での学びと接続していくことは必 須であり、今後も機会があれば高等学校との連携を深めていきたい。今後に向けて、注意すべき点を挙げておく。実践していない人にとって取り組みやすくするために、今の 授業の取り組みに
AL
の要素があることをお伝えしたが、そのことが「このままで良い」という方向につな がらないように留意することは大切である。アンケートの自由意見で頂いた「コミュニケーションが苦手な 子であっても、頭の中(考える)アクティブ・ラーニングもあり!でよかった」とのご意見はその通りでは あるが、コミュニケーションの苦手さを改善することも、汎用的能力の育成の1
つであることは忘れてはな らない。学生のコミュニケーションスキルの向上を目指す意味でも、また学生がより深く学ぶためにも、「書 く・話す・発表する」などの認知プロセスの外化を伴うAL
を、高等学校で実践いただく意義は大きい。今回の研修の中で、
AL
を実施する際の気がかりとして、科目の授業では「教えねばならないこと」が多 く、AL
を取り入れることで時間が不足することが大きな悩みであるという話を伺った。この点については、明確な解決策を示すことはできなかった。今回の研修会は、大学の実践と
AL
の方法の紹介であったが、今 後は、高校の授業の実情をご存知の先生方とともに、具体的にどのように授業に取り入れ高校の学びと大学 の学びを接続していくかについて、より研究を深めていくことが必要と考える。参照
『段ボール
.NET
』 有限会社三ケ日紙工https://www.
段ボール.net/
『多様なタイプの学校の紹介』 東京都教育委員会
www.kyoiku.metro.tokyo.jp/pickup/p_gakko/29pamphlet_j/06.
追記
今回の研修会の実施にあたり、東京都立福生高等学校定時制課程副校長江沼直樹先生、三五琢磨先生、西谷真一先 生に、多くのご協力を頂いた。またアンケート結果のご提供等もご配慮いただいた。深く感謝を申し上げます。