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新制度における裁判員の役割とは

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Academic year: 2021

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第25回模擬裁判

国士舘大学法学会 主催

新制度における裁判員の役割とは

【第 1 回】法廷教室

日時 2 0 0 8 年1 2 月4 日(木)

開場 1 2 時3 0 分/開演1 3 時0 0 分 会場 国士舘大学梅ヶ丘キャンパス

3 4 号館 B 棟3 階法廷教室(模擬法廷)

【第 2 回】多目的ホール

日時 2 0 0 8 年1 2 月6 日(土)

開場 1 2 時3 0 分/開演1 3 時0 0 分 会場 国士館大学世田谷キャンパス

中央図書館地下1 階多目的ホール

(2)

目次

1 .あいさつ

(1)第2 5 回模擬裁判の開催にあたって

法学部長・法学会長 教授 高橋 敏

(2)裁判員制度を想定した模擬裁判

法学部教授 杉原 弘泰

(3)身近になる刑事裁判

模擬裁判実行委員長 川島 彩香

2 .レジュメ

(1)刑事訴訟における基本原理

(2)手続きの流れ

(3)裁判員制度の概要

3 .事案の解説

(1)プロローグ

(2)検察官の主張する犯行前後の経緯

(3)登場人物

(4)関係書類等

4 .スタッフ紹介

5 .謝辞

(3)

1.あいさつ

(1)第2 5 回模擬裁判の開催にあたって

本学法学部には、教員と学生が国士舘法学教育の発展充実に寄与し、その成果を共有す る共同体として国士舘大学法学会が組織されています。その法学会の実践的行事として、

法律討論会と模擬裁判を隔年ごとに開催しており、本年は模擬裁判の年にあたり、第25 回を数えます。

法学部では、リーガルマインド=法的思考力、法的判断力を備えた健全な社会人、法的 専門知識をもった職業人を育成することを教育目標として、教員・学生の対話や議論など ツーウェイ・コミュニケーション教育を一貫して実施しており、模擬裁判は、法学部創設 以来、そうした国士舘法学教育の根幹をなす実践行事と位置付けられています。

模擬裁判は、学生諸君が裁判官・裁判員、検察官、弁護士など司法関係者となったり、

事件当事者あるいは関係者として演技をし、実際の裁判過程の流れを通して法の実践を学 ぶものです。学生諸君は、実行委員、演技者となって参加することはもちろん、演技者以 外の学生諸君も傍聴人として参加することで、他人事として観るのではなく、本日の模擬 裁判での自らの役割を想定し、たとえば裁判官・裁判員として、検察官・弁護人としてど う対処すべきかを考えて欲しいと思います。

さて、本日の模擬裁判は、来年の2009年から始まる裁判員制度を想定した刑事訴訟 事件です。本年度、法学部の象徴的な施設として設定された模擬法廷教室から、来年から 新たに実施される裁判員型刑事裁判のあり方を先行的に社会に発信しましょう。また、本 日の法廷において自分が裁判官・裁判員だったらいかなる判決を下すか、そうした積極的 な態度で参加をすることで、日常の教室での講義やゼミナールにおいて習得した基礎的法 律知識を応用する能力を発揮する機会となり、かつ自発的自主的研究態度の育成にも効果 をあげることになるでしょう。

最後に、本日の法学会主催の伝統ある模擬裁判の開催に向け努力をされた教職員・模擬 裁判実行委員の学生諸君に厚く御礼を申し上げたいと思います。

法学部長・法学会長 教授 高橋 敏

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(2)裁判員制度を想定した模擬裁判

いよいよ来年5月から新しい裁判員制度による裁判が始まる。この制度は、国民が司法 の運営に主体的に参加することによって、刑事裁判に国民の健全な社会常識を反映させ、

司法に対する理解と信頼を深めることを期待して創られた。有権者の中から無差別に選ば れた約30万人の裁判員候補者に対し、まもなく裁判所からの通知が届くという。

この制度が導入されたことより、これまでの捜査や裁判のあり方が大きく変った。証拠 開示の拡充、法廷の連日開廷、審理促進のための公判前整理手続き、被疑者の国選弁護、

捜査官の取調べの可視化などがそれである。これらの改革によって裁判遅延の問題等が解 消し、裁判が国民に判りやすいものとなれば幸いである。

裁判員による裁判では、全国で年間約3000件の殺人等の重大事件が対象とされ、原 則として6人の裁判員が3人の裁判官とともに法廷の壇上に座って審理に参加し、被告人 の有罪・無罪を判断し刑の重さを決める際に平等の評決権をもつことになる。

これに対し、アメリカで行なわれている陪審員制度では、一般市民である陪審員は専ら 有罪・無罪の事実認定のみに関与し、量刑判断は裁判官が行なう。また、陪審員による裁 判と職業裁判官だけによる裁判とのいずれによるかの選択権が被告人にあるのに対して、

我が国の裁判員制度の下では、そのような選択は許されず、一律に裁判員による裁判を受 けなければならない点が異なる。

ドイツなどで採用されている参審制も含め、先進諸国では何らかの形でこうした司法へ の国民参加の制度が導入されていることを考えると、我が国もようやくその仲間入りをし たとも言える。しかし、事実認定と量刑の両方につき評決権を有する点でこれら海外の制 度に比べ我が国の裁判員制度は極めて特異なものであるとも言えそうである。

世論調査などでは裁判員制度に対する国民の理解度は未だ十分ではなく、特に死刑判決 が予想されるような重大事件について、非専門家の立場で果たして適切な判断が出来るか どうかを危惧し、そのような重い責任を担うことに躊躇する声も聞かれる。

いずれにしても誰も経験したことのない未知の世界のことであり、制度開始後新たな問 題が生ずることも予想されるので、これらの課題を解決しながらこの制度の定着を図って いかなければなるまい。

そのような時にあたり、裁判員制度を想定した模擬裁判を企画されたことは、誠に時宜 を得た有意義な試みであり、学生諸君の熱意と研究の成果に大いに期待したい。

法学部 教授 杉原 弘泰

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(3)身近になる刑事裁判

「裁判員制度」―それが、今回の模擬裁判のテーマです。裁判員制度は、国民が裁判 員として刑事裁判に参加し、被告人が有罪か否か、有罪の場合はどのような刑にするのか 裁判官と一緒に決める制度です。裁判員制度についての法律「裁判員の参加する刑事裁判 に関する法律」 が平成16年5月に成立し、 平成21年5月21日に施行される予定です。

果たして裁判員制度とはどのようなものか。自分が裁判員になったときに判断が下せる のか、などの不安があろうかと思います。

このような状況の下、本年度の模擬裁判は、裁判員制度を利用した裁判を開催すること にいたしました。本日開催する模擬裁判をご覧になって、裁判員制度とはこういうものか とか、裁判員制度や法律に興味を持っていただけたなら、幸いです。ただ、自分が裁判員 になる可能性も否定できないので、 裁判員制度について知っている方が良いかと思います。

ところで、このような法学部学生による裁判員裁判を利用した模擬裁判は、我が国士舘 大学では、初めての試みであります。また、「模擬裁判実行委員長」をいう立場になるの は初めてです。このように「初めて」物事をやるのは正直に言って、緊張します。成功す るかどうかもわかりません。しかし、それでも私達は新たなことをやる機会を我が国士舘 大学で頂いたので、結果がどうであれ、次に生かせるようにチャレンジしていきたいと思 います。

最後になりますが、本日の模擬裁判を開催するにあたって、協力してくださった先生方 や実行委員、ならびに関係者の皆様に深く御礼を申し上げます。

第25回 模擬裁判実行委員長 川島彩香

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2.レジュメ

(1)刑事訴訟における基本原理

「こいつはあやしい」と思っただけでは、逮捕や勾留をすることはできません。

ましてや、被告人を有罪にして、刑罰を科すということなどできようはずがありま せん。では、どのようなときに、被告人を有罪にして、刑罰を科すことができるの でしょうか?

ひと言で刑事手続といっても、「捜査手続〜公訴提起〜公判手続〜判決、刑の執 行」と様々な段階があります。このパンフレットは、この模擬裁判を鑑賞してもら うための手引きとなることを目指したものですから、このうち公判手続における基 本的なルールを中心に説明をすることにします。

① 無罪推定法理(疑わしきは被告人の利益に)

検察官が主張する事実について、その存在が合理的疑いを超えて証明されない限 り、被告人は無罪とされなければなりません。これを無罪推定法理または無罪推定 原則といいます。被告人は弁護人選任権などの色々な権利を保障され、公開の裁判 において法律に基づく有罪の立証があるまでは、無罪と推定されます。より正確に いうと、有罪判決が確定するまで被告人を犯罪者として扱うことはできません。こ のことは、1948年の世界人権宣言でも保障されています。

あくまでも仮定の話ですが、例えば被害総額が数億円に達するような詐欺事件が 起こったとして、その被疑者が逮捕されたというニュースを目にしたとき、皆さん たちはその被疑者に対してどういうことを考えますか?「あ、やっと犯人が捕まっ たんだ。」と思ったことはありませんか?しかし、少なくとも法律の上では、たと えその被害者(後の被告人)が自白していても、彼に対する有罪の判決が確定する までは、まだ「犯人」と見なしてはならないのです。

この無罪推定法理は、起訴された被告人のみならず、刑事手続全体において適用 される原則だと考えられています。そのため、捜査段階における被疑者にも保障さ れることになります。例えば、ただあやしいだけでは被疑者を逮捕することはでき ません。なぜなら被疑者はまだ無罪と推定されるからです。公判手続においては、

この後で説明する証明責任との関係でこの原則が重要な意味を持ちます。

② 証拠裁判主義

刑事訴訟法317条は、「事実の認定は証拠による」と規定しています。これを

「証拠裁判主義」といいます。証拠裁判主義は、近代刑事裁判における大原則とも

いえます。しかし、中世においては、わが国はもちろんヨーロッパ諸国でも証拠に

基づかない裁判が行われていました。代表例として、被告人の有罪・無罪の判断を

(7)

神に委ねる神判があります。例えば、火神と呼ばれる神判では、被告人は熱く焼け た鉄の棒をつかまされます。もし、無罪の者であれば神の加護により火傷すること はなく、真犯人であれば神の加護がなく火傷する、というものです。さすがに、こ のような方法で事実の認定を行っていたのでは、ほぼすべての被告人が有罪とされ てしまうでしょう。そして、その中には多くの無辜(無罪)の者が含まれるという ゆゆしき事態が生じてしまいます。そこで、近代以降国家による裁判が人権思想の おこりとともに発展し、刑事裁判における有罪・無罪の認定には証拠が求められる こととなったのです。

③ 検察官の証明責任

では、無罪と推定される被告人を証拠に基づいて有罪とするためには、具体的に はどのようなルールがあるのでしょうか?ここでの問題は、誰が事実を明らかにし なければならないかです。例えば、「被告人が被害者を殺した」という事実が裁判 の対象となっている場合(これを殺人被告事件といいます)、「検察官が、被告人 が真犯人であることを証明する義務を負う」のか、「被告人は、自分は真犯人では ないことを証明する義務を負う」のか、どちらでしょうか?

無罪推定法理を念頭において考えれば、答えは導かれますね?検察官は、被告人 が真犯人であることの証明責任を負うことになります。また、「なかったこと」の 証明は、「あったこと」を証明するのに対してかなり困難だと考えられています。

そのため、被告人は自分が真犯人ではないことを積極的に証明する責任は負いませ ん。検察官の証明が失敗に終われば、被告人の無罪の証明が十分になされていなか ったとしても、有罪とすることはできないのです。

サスペンスドラマでは、被告人は自らの無罪を証明するために、アリバイの存在 をはじめその他自分に有利な証拠をたくさん集めようとします。もちろん、このこ と自体は間違いではありません。自分に有利な証拠をできるだけ多く集めてそれを 裁判官にみてもらう方が、その分検察官の証明は成功しにくくなるからです。ただ し、注意しなければならないのは、被告人は必ずしも自ら無罪を証明し、証明され なければ無罪にならないわけではない、という点です。「検察官の証明の失敗=無 罪」なのです。もともと無罪と推定されていた被告人の無罪が、有罪ではないとい うことで確認されたにすぎません。したがって、これは特別なことではないのです。

④ 合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の立証

さて、無罪と推定される被告人に対して有罪判決を下すために、検察官はどの程 度まで証明を尽くす必要があるのでしょうか?一般に「合理的な疑いを差し挟む余 地のない程度の立証」(beyond the reasonable doubt)が必要だとされています。

問題は、それがどのレベルまでなのかということです。例えば、被告人が自白して

いたとします。そして、その自白の中に、被告人しか知らない「秘密」の暴露が含

まれていたとします。具体的には、犯行に使われた凶器を捨てた場所は被告人しか

知らなくて、その凶器の在りかを被告人が告白し、実際にその場所からその凶器が

出てきたとします。検察官は、凶器等の証拠を示しながら、この一連の事実を公判

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廷で主張することになるでしょう。この場合、被告人が犯人である疑いはきわめて 強いものといえます。そして、被告人が真犯人であることについて「合理的な疑い を差し挟む余地のない程度の立証」が尽くされたと言うことはできそうです。

この「合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の立証」に関して、興味深い最高 裁の判例があります。この事件では、被告人が特殊な爆発物を作り被害者に郵送し た真犯人であるか否かが争点となりました。最高裁は、(1)被告人が事件の8日 ほど前にこの爆弾の作り方の掲載されたホームページを閲覧していたこと、(2)

起爆剤などの構成部品を多数購入、所持していたこと、(3)爆発物を入れた封筒 に貼られた切手と、被告人宅で見つかった切手が同じ自動販売機で近接した時間

(2分くらいの間)に発行・販売されたこと、(4)同封等に貼った住所ラベルを パソコンで作成するために、被告人がある会社のホームページを閲覧していたこ と、(5)投函推定日時同封等を投函できる大きさの投入口をもつ郵便ポストのあ るところまで被告人が行っていることなどを総合的に勘案し、また被告人の動機を も考慮に入れて、被告人が爆発物を送った真犯人であることについて、「合理的な 疑いを差し挟む余地のない程度に証明された」と判断しました。

この事件では、被告人以外の者が同じ行為(爆発物を作り被害者に郵送する)を 行うことができた可能性を全く否定することはできませんでした。しかし、最高裁 は、「合理的な疑いを差し挟む余地がないというのは、反対事実が存在する疑いを 全く残さない場合をいうものではなく、抽象的な可能性としては反対事実が存在す るとの疑いがあっても、健全な社会常識に照らして、その疑いに合理性がないと一 般的に判断される場合には、有罪認定を可能とする趣旨である」としています(な お、この事件の詳細の詳細については、最1小決平成19年10月16日刑集62 巻7号677頁参照)。

(2)手続きの流れ

先に触れたように、典型的な刑事手続は、「捜査手続〜公訴提起〜公判手続〜

判決、刑の執行」という流れをたどります。実は、刑事手続全体の中で、実際に 公訴提起がなされ公判手続が執り行われる事件というのはごくわずかなのです が、ここではすべての段階を踏んで進行していく典型的な刑事手続の流れについ て説明します。

次ページの図のように、犯罪が発生すると多くの事件はまず警察が

捜査を行います。警察である程度の嫌疑が固まると、事件は検察に送られます。こ

れを送検といいます。送検後は、検察と警察は協力して捜査を行い、さらに被疑者

を取り調べたり、証拠の収集を行います。また、検察官は、その事件が公判廷で有

罪か無罪かを判断するに値する事件であるかどうかを判断します。あまりに軽すぎ

る事件などは、検察官の判断で公訴提起しないこともできます。この措置を不起訴

処分(起訴猶予)と呼びます。事件の重大性、被疑者の情状等を考慮して、被疑者

が犯罪を行ったことを法的に確認し、刑罰を科すべきだと考えたときは、検察官は

被疑者を起訴します。わが国では、起訴は公訴提起とも呼ばれます。起訴は、起訴

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状という書面を提出することによって行われます(後掲・関係資料参照)。起訴状

には、被告人の身元に関する事項と、検察官が証明しようとする事実(公訴事実)

(10)

【刑事手続の流れ】

犯罪の発生

【警察等】 捜査の端緒

↓ 捜査の実行

↓ 検 挙

↓ 検察官送致

【検察庁】 受 理

↓ 捜査の実行

起 訴・・・・・・・・・・・・・・不起訴

【裁判所】 受 理

略式手続・・・・・・・・・・・・・ ・・・・↓

(公判前整理手続)・・・・・・・裁判員裁判では必ず行われる

(罰金・科料) 公判手続

↓ 判 決

(控訴・上告)

↓ 判決確定

およびその事実に対応した罰条(例えば、この模擬裁判では「傷害致死、刑法第2 05条」)が示されます。公訴提起後は、被疑者は被告人となります。

次に、起訴(公訴提起)を受けた裁判所は、その手続きに問題がなければこれを

受理し、公判手続の準備に入ります。裁判員裁判では、一般国民が裁判に参加する

ことになるため、公判が行われる日(公判期日)はできる限り短くなければなりま

せん。そのため、公判前整理手続という手続きによって、検察官と被告人・弁護人

が争うべきポイントを絞り込んでおく必要があります。この公判前整理手続は、平

成16年の刑事訴訟法の改正で新たに導入されることとなりました。もちろん、裁

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判員制度の導入をにらんで取り入れられたものですが、裁判員制度の対象とならな い事件でも利用されることが予定されています。

公判前整理手続では、裁判所の指揮の下、検察官、被告人・弁護人が、それぞれ公 判廷で主張する内容を明らかにし、これに関して争うべき点を明らかにします。例 えば、検察官の有罪の主張に対して被告人は無罪を争うのか、あるいは有罪は認め るがより軽い犯罪であること(例えば、「殺人ではなく傷害致死だ」)を主張して 争うのかが決定されます。これにあわせて、各主張ごとに提出される証拠が明らか にされ、その証拠が法的に問題がないものであるかを確認します。この証拠が違法 な手段を用いて獲得された証拠であることを理由に、使用することに被告人が同意 しない場合は、公判前整理手続においてその証拠の使用が許されるかどうかを判断 することになります。したがって、公判手続では法的な問題をクリアーした証拠の みが提出されることとなります。

公判手続は、まず、冒頭手続から開始されます。まず、被告人が人違いではない かの確認(人定確認)がなされ、検察官は起訴状を朗読することによりこれから証 明しようとする事実を明らかにし、これについて被告人は意見陳述をすることがで きます。その後、証拠調べ手続が行われます。証拠調べ手続とは、主張する事実が 実際に存在することを推認させる証拠を、裁判所(裁判官と裁判員で構成される9 人のグループ)に取り調べてもらう手続きです。この証拠には、犯罪に使用された 凶器などの物証だけでなく、自白や証人および鑑定人の供述なども含まれます。証 明予定事実を述べてこれを推認させる証拠を提出することにより、検察官と被告 人・弁護人の双方は、裁判所に対して自らの主張を行っていくわけです。

証拠調べ手続が終わると、公判手続の最終局面では最終弁論が行われます。とく に検察官による最終弁論のことを論告と呼び、科されるべき刑罰の主張を求刑と呼 びます。検察官による論告・求刑が終わると、最後に被告人・弁護人による最終弁論 が行われ、公判手続は終了します。

裁判員裁判では、この後、裁判官と裁判員は評議室に移り、有罪か無罪かの評議 を行うことになります。この作業を事実認定とよびます。先ほど述べたように、検 察官により、被告人が真犯人であることについて「合理的な疑いを差し挟む余地の ない程度の立証」が行われたと考えられる場合、被告人に有罪判決を下すことが決 定されます。その場合は、さらに被告人に対してどの程度の重さの刑罰を科すべき かが判断されることとなります。この刑の量定作業を量刑または量刑判断と呼びま す。

評議が終わると、公判廷において判決の告知が行われます。判決は書面で作成さ れ、口頭で朗読されます。判決書は主文と判決理由から構成されており、主文では 有罪か無罪か、有罪である場合は罪条および刑の宣告が言い渡されます。また、判 決理由では、その有罪または無罪になった理由が述べられこととなります。この判 決に対して不服がある場合、被告人は上訴することができます。地方裁判所から高 等裁判所への上訴は控訴と呼ばれ、最高裁判所に対する上訴は上告と呼ばれます。

上訴を行うことができる期間は14日間であり、この期間に上訴が行われなければ

判決が確定することになります。また、最高裁判所で判決が告知されたときは、そ

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の時点で判決は確定することとなります。

(3)裁判員制度の概要

いよいよ、来年の5月より裁判員の参加する裁判が実施されます。ここでは、

裁判員の参加する裁判がどのようにして実施されるのかを、最高裁判所のホーム ページの内容に従って説明することにします。

(最高裁 HP: http://courtdomino2.courts.go.jp/saibanin.nsf)

① 裁判員の選定手続

ⅰ)裁判員候補者の名簿作成

選挙権のある人の中から、翌年の裁判員候補者となる人を毎年抽選で選び、裁 判所ごとに裁判員候補者名簿を作ります。

ⅱ)当該事件の裁判員候補者の選定

裁判員候補者が選ばれると、さらに抽選をして、その事件の裁判員の候補者を 選びます。この人達には裁判所に来てもらうことになり、その後6名の裁判員へ 絞り込みが行われます。

ⅲ)当該事件の裁判員の選定

裁判長から、被告人や被害者と関係ないかどうか、不公平な裁判をするおそれ がないかどうか、辞退希望がある場合はその理由などについて質問されます。検 察官や弁護人は、その質問の結果などをもとに裁判員候補者から除外されるべき 人を指名することができることになっています(双方4人まで理由を示さずに、

指名することができます。)。

除外されなかった裁判員候補者から、裁判員6名が選ばれます。

② 裁判員の仕事と役割

裁判員に選ばれたら、以下のような仕事をすることになります。

ⅰ)公判に立ち会う。

裁判員に選ばれたら、裁判官と一緒に、刑事事件の法廷(公判といいます。)

に立ち会います。裁判員は、判決まで関与することになりますが、裁判員の方に 過重な負担とならないよう工夫して審理が行われます。

公判は、できる限り連続して開かれます。公判では、証拠書類を取り調べるほ か、証人や被告人に対する質問が行われます。あなたから、証人等に質問するこ ともできます。

ⅱ)評議・評決

証拠をすべて調べたら、今度は、事実を認定し、被告人が有罪か無罪か、有罪

だとしたらどんな刑にすべきかを、裁判官と一緒に議論し(評議)、決定する(評

決)ことになります。評決は、多数決により行われます。ただし、裁判官、裁判

員のそれぞれ1人以上の賛成が必要とされています。有罪か無罪か、有罪の場合

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どのような刑にするかといったあなたの意見は、裁判官と同じ重みを持つことに なります。

ⅲ)判決宣告・裁判員の任務終了

評決内容が決まると、法廷で裁判長が判決の宣告をします。あなたの裁判員と しての仕事は、判決の宣告により終了します。

③ 裁判員裁判の対象事件

代表的なものをあげると、次のようなものがあります。

ⅰ)人を殺した場合(殺人)

ⅱ)強盗犯が、人にけがをさせ、あるいは、死亡させてしまった場合(強盗致死 傷)

ⅲ)人にけがをさせ、死亡させてしまった場合(傷害致死)

ⅳ)泥酔した状態で、自動車を運転して人をひき、死亡させてしまった場合(危 険運転致死傷)

ⅴ)人の住む家に放火した場合(現住建造物放火)

ⅵ)身の代金を取る目的で、人を誘拐した場合(身の代金目的誘拐)

ⅶ)子供に食事を与えず、放置したため死亡してしまった場合(保護責任者遺棄

致死)

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13

3.事案の解説

(1)プロローグ

10月の初旬、もう日が暮れるのもずいぶん早くなってきた頃、ある死亡事件が 発生した。現場は閑静な住宅街に位置する公園であった。第1発見者の通報により、

所轄の警察官が現場に急行し、被害者栗原義人の死亡が確認されると、すぐに実況 見分が行われ、被害者の死因が後頭部に対する強い衝撃による脳の損傷であること が判明した。同時に付近の住民に対する聞き込み捜査が行われた。

司法解剖の結果、死因は頭部を強打したことによる脳内出血であり、死亡推定時 刻は翌10月4日午前1時頃であることが明らかになった。この死亡推定時刻か ら、被害者が頭部に打撲を受けたのは遅くとも10月3日の午後11時50分頃ま でであったと考えられる。他方、周辺住民の証言より、被害者が何者かと口論をし ていたこと、そして、その口論の相手が被害者栗原を押し倒し、転倒させたという 証言が得られた。警察官は、現場周辺の住民に対する聞き込み調査と同時に、被害 者の勤務する用品店従業員への聞き込みを行ったところ、普段から被害者と折り合 いの悪かった被告人織田一朗が被疑者として浮上することとなった。そこで、目撃 者に再度確認したところ、そのうちの1人が被告人こそがその人物に間違いないと いう。警察は、被告人織田を、傷害致死事件の被疑者として任意同行を求めたが、

被告人がこれを強硬に拒んだため、10月10日付けで、被告人織田を傷害致死(刑 法205条)被疑事件の被疑者とする令状を請求し、同日発付を受け、翌10月1 1日午前9時半頃に、被疑者宅にてこれを執行した。

被告人は、以前より被害者との関係が良好ではなかったという点、当日死亡現場 に被害者と居合わせた点に関しては認めた。しかし、「被害者を突き飛ばしたので はないか」という取調官の質問に対しては、「酔っている被害者に絡まれるように 説教を受けたが、突き飛ばしたり、ましてや死に至らしめたということはない」と 答えるなどして、傷害致死およびその前提となる暴行行為については、完全に否認 した。

検察への身柄送致後も、被告人は一貫して否認し続けたが、担当検察官は勾留期 限の切れる11月3日をもって、被告人を本件傷害致死被疑事件の被告人として公 訴を提起した。

公判前整理手続において、争点は以下の数点に絞り込まれた。まず、検察官は、

被告人は日頃から折り合いの悪かった被害者と何らかの事情で口論になり、被告人

を突き飛ばして後頭部を公園内にある水飲み場の水道の角に強打させ死亡させた

と主張し、これを証明する事情として以下の証言等の証拠調べを請求予定であると

した。すなわち、被告人と被害者が口論をしていたとする目撃証言、被害者を突き

飛ばしたのが被告人であるとする目撃証言、日頃から被害者と被告人との関係が良

くなかった点などである。これに対し、被告人および弁護人は、犯行当日現場で被

害者と口論になった事実は認めるが、被害者を突き飛ばしてはいないとして、上記

検察証人の証言の信憑性等を争うこととなった。

(15)

14

(2)検察官の主張する犯行前後の経緯

店長+バイト

6

人(被告人含む)【ぼろたま】にて飲み会

織田帰宅 犯行?

10/3 10/4

21:30 23:30 23:45 00:00 01:00

2

時間 栗原死亡推定時刻

刑法

205

条 傷害致死罪

*身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、3年以上の有期懲役に処する 栗原の死因:頭を強く打ったことよる脳内出血

検察官の主張:水飲み場の縁石に頭部を強打し、これによって脳内出血となり死亡するに 至った。

検察官の論告:死因は後頭部の打撲による脳内出血だが、この打撲は転倒によるものでは なく、外部から強い衝撃が加えられたことによるものである。

織田の行為が原因か?それとも第三者の介入?

被告人の有罪?

転倒した理由として考えられるもの

(1)織田が肩に乗っている栗原の手を振り払った勢いで転倒

(2)織田が栗原の胸部を前方へ強く押したため体勢を崩して転倒

(3)酷く泥酔していたため足がもつれて自ら体勢を崩し転倒

(4)織田とは別の第三者の介入による転倒

*(3)については、足元がふらついており、ろれつが回らない程の泥酔状態であったこ とが考慮される。

攻撃が加えられる

(犯行可能時間)

(16)

15

プロローグ:話を聞かずに帰ろうとする織田を栗原は容赦なく罵倒

被告人質問:織田は帰るにあたり栗原から許可をもらっている。栗原は拍子抜けするくら い簡単に許す。

Q.

どちらが真実か−説教をし始め、罵倒を浴びせている栗原が、簡単に織田を帰宅さ せるのだろうか?

5

栗原 織田

説教開始 帰ろうとする

23:30 23:35

7

23:42-23:45

退店 公園到着 織田帰宅

家までかかる時間(3 分)

仕事上の内容か ら人格否定的な 個人内容に至る まで

この7分の間に犯行が行われ

たことになる?

(17)

16

(3)登場人物

・被告人 織田 一郎(大学生、Men’s tyc のアルバイト)

・被害者 栗原 義人(Men’s tyc の店長)

・検察官 刑部 法子

・弁護人 勝又 利雄

・証人1 林 昭弘(ウォーキングを日課としている会社員)

・証人2 川崎 佐知子(主婦)

・証人3 佐々木 光(Men’s tyc のアルバイト)

・証人4 飯島 美穂(大学生、被告人の元交際相手)

・証人5 長嶋 純(殺害現場の近所の住民)

・鑑定人 石原 千尋(心理学者、目撃証言の信憑性について)

・裁判長裁判官 嶋倉 翔治

・裁判官(右陪席) 城島 和美

・裁判官(左陪席) 斉藤 健二

・裁判員 福留 資仁(運送会社係長)

・裁判員 田中 翔(鉄工所勤務)

・裁判員 与謝野 二郎(新聞記者)

・裁判員 世良 恵(保育園教諭)

・裁判員 北沢 ゆり(主婦)

・裁判員 安藤 真希(美容師)

・書記官

・刑務官

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(4)関係書類等

逮 捕 状 (通常逮捕)

被 疑 者

氏 名 年 齢 住 居 職 業

織田 一郎

昭和62年1月10日生(21歳)

東京都世田谷区世田谷松ヶ丘1丁目6番3号 7110 学 生

罪 名 傷害致死 刑法第205条 被疑事実の要旨 別紙の通り

引致すべき場所 警視庁または逮捕地を管轄する警察署 有 効 期 間 平成20年10月25日 まで

有効期間経過後、この令状により逮捕に着手することができない。この場合には、これを 当裁判所に返還しなければならない。

有効期間内であっても、逮捕の必要性がなくなったときは、直ちにこれを当裁判所に返還 しなければならない。

上記の被疑事実により、被疑者を逮捕することを許可する。

平 成 20年 10月 10日

裁判所 東京地方裁判所 裁判官 篠塚 辰徳

請求者の官公職氏名 警視庁松が丘警察署司法警察職員 清水 慎之介 逮捕者の官公職氏名 警視庁松が丘警察署司法警察員 坂本 拓也

逮捕の年月日時 及 び 場 所

平成20年10月11日午前9時32分 被疑者居宅で逮捕

記 名 押 印

引致の年月日時 平成20年10月11日 午前9時55分 記 名 押 印

送致する手続をした年月日時 平成20年‑ ‑月‑ ‑日 午‑ ‑時‑ ‑分 記 名 押 印

送致を受けた年月日時 平成20年‑ ‑月‑ ‑日 午‑ ‑時‑ ‑分

記 名 押 印

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平成20年検第12345号

*受領印

起 訴 状

東京地方裁判所 殿

東京地方検察庁

検察官 検事 刑部 法子 ○

下記被告事件につき公訴を提起する。

本 籍 茨城県水戸市本町3丁目8番7号

住 所 東京都世田谷区松が丘1丁目6番3号−7110 職 業 大学生

勾 留 中 織田 一朗 昭和62年1月10日生

公 訴 事 実

被告人は、平成20年10月3日午後9時頃、被害者のバイト先店長栗原義人を含む 従業員バイト仲間7人で2時間半程飲酒し、午後11時30分頃帰宅方面が同じ栗原と 店を出た後、帰宅途中の世田谷区松が丘公園内において被害者と口論し、その結果激昂 するに至り、被害者の胸部を両手で突き飛ばし、もって被害者を仰向けに顚倒せしめ、

その頭部を後方にあった水飲み場の水道に強打し死亡させたものである。

罪 名 及 び 罰 条

傷 害 致 死 刑法第205条

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4.スタッフ紹介 省略 5.謝辞

今回の模擬裁判で、私たちは「傷害致死事件」という題材を扱いました。今回ご 覧になって頂いたみなさんは裁判員制度のイメージは掴めましたでしょうか?今 後、刑事裁判は裁判員制度を通じて身近なものになります。この模擬裁判を通じて 少しでも刑事手続きに興味を持っていただけたのであれば、幸いです。

ところで、今日の日を迎えるにあたり、私たち実行委員会のメンバーは、川島委 員長を中心に各自分担された作業を協力し合ってこなしてきました。かくゆう私は、

ゼミの指導教員の先生に半ば強引に広報の役職を担わされ、今回の仕事に追われて いた感じです。また、私だけでなく、多くの学生が未経験者であり、経験不足から 来る苦労は絶えませんでした。しかし、皆で協力してひとつのものを作り上げるこ とができたことはこれからの学生生活にも大いに有益だったと思いますし、また、

学生時代の良い思い出として各人の胸の中に残ることと思います。

この模擬裁判を作り上げるにあたってお世話になった高橋先生、杉原先生、また 斎藤印刷の岡部様、河井工務店様、そして慰労会の資金援助を頂いた先生方にはこ の場をかりて感謝申し上げます。本当に、ありがとうございました。

色々なことがありましたが、今はまた、「次回の模擬裁判もぜひ成功させたい」

という思いでいっぱいです。今回ご覧になって頂いたみなさまの中で、「来年は僕 もやりたい!」「私もやりたい!」という学生さんは、ぜひ模擬裁判実行委員会の 扉を叩いて下さい!法律大好きな私たちが待っています。(編集担当:喜屋武)

実は、この後の「慰労会」こそが、皆が最も期待する楽しみなのです。

参照

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