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裁判員制度

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Academic year: 2021

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~もしもわたしが裁判員になったなら~

花村 充留 安部志帆子 小林 沙紀 長谷川力也 担当教諭 二木 明

1.研究の動機

裁判員制度は,平成 21 年(2009 年)5月までに導入される。私たちが選挙権を持ち,裁判員に なることができるようになるのは,その翌年である。最も早くて2年後には私たちが裁判員となり, 事件を裁く立場に立つ可能性がある。そこで,この制度について知識を得,自分たちなりの意見を 持つ必要があると思い,この研究をスタートさせた。

2.制定までの経緯と目的

司法制度改革の三本柱の一つとして「国民の司法参加」を掲げ,その中核として,この制度を位 置づけた。 意義としては一般の国民が,裁判の過程に参加し,裁判内容に国民の健全な社会常識がより反映さ れるようになることにより,国民の司法に対する,理解・支持が深まり,司法はより強固な基盤を 得ることができるとした。 要するに…国民にとって身近な司法を実現するための手段。 そのほかの利点として,刑事事件が抱える審理の長期化などを迅速にするためとしている。(細か いことを言えばその他にもあるがここでは端折ります…難しいので。)

3.裁判員制度とは

法律家などを除いた有権者の選挙人名簿から,くじで選ばれた裁判員6人が,3人の職業裁判官 とともに,刑事事件を審理する制度である。対象となる事件は,殺人・強盗致傷などの国民の関心 が高い重大事件で,刑罰に死刑や無期懲役があるものも含まれる(資料1)。裁判への市民参加は, 戦前に実施されながら,15 年間で停止された陪審制以来である。 1) 裁判員の選ばれ方 ① 裁判員候補者名簿の作成 選挙権のある人の中から,翌年の裁判員候補者となる人を毎年抽選で選び,裁判所ごとに 裁判員候補者名簿が作成される(資料2)。 ② 事件ごとにくじで,裁判員候補者が選ばれる 事件ごとに,①の名簿の中からさらに抽選でその事件の裁判員候補者を選ぶ。選ばれた人 には,裁判所に行く日時等が通知される。 ③ 裁判所で,候補者から裁判員を選ぶための手続が行われる 裁判長から,被告人や被害者と関係がないかどうか,不公平な裁判をするおそれがないか どうか,辞退希望がある場合はその理由などについて質問される。検察官や弁護人は,その

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質問の結果などをもとに裁判員候補者から除外されるべき人を,双方4人まで理由を示さず に,指名することができる。 ④ 裁判員が選ばれる 除外されなかった候補者から,裁判員が選ばれる。選ばれた人は,原則として辞退できな い(資料3)。 資料1 【裁判員の担当する事件】 死刑、無期懲役・禁錮にあたる罪 法律によって合議で裁判することが定められ、故意の犯罪行為によって被害者を死亡させ た罪 1.人を殺した場合(殺人) 2.強盗が,人にけがをさせ,あるいは,死亡させてしまった場合(強盗致死傷) 3.人にけがをさせ,死亡させてしまった場合(傷害致死) 4.泥酔した状態で,自動車を運転して人をひき,死亡させてしまった場合(危険運転致死) 5.人の住む家に放火した場合(現住建造物等放火) 6.身の代金を取る目的で,人を誘拐した場合(身の代金目的誘拐) 7.子供に食事を与えず,放置したため死亡してしまった場合(保護責任者遺棄致死) その他 強制わいせつ致死傷 強盗強姦 覚せい剤取締法違反 偽造通貨行使 銃砲刀剣類 所持等取締法違反 通貨偽造 組織的な犯罪の処罰および犯罪収益の規制等に関する法律違 反 集団強姦致死傷 麻薬特例法違反 麻薬および向精神薬取締法違反 逮捕監禁致死 資料2 【裁判員になることができない職業】 国会議員,国務大臣,国の行政機関の幹部職員,裁判官及び裁判官であった者,検察官及 び検察官であった者,弁護士及び弁護士であった者,弁理士,司法書士,公証人,司法警察 職員としての職務を行う者,裁判所の職員(非常勤の者を除く),法務省の職員(非常勤の者 を除く),国家公安委員会委員・都道府県公安委員会委員・警察職員(非常勤の者を除く), 判事・判事補・検事または弁護士となる資格を持つ者,学校教育法に定められた大学の学部・ 専攻科または大学院の法律学の教授・准教授,司法修習生,都道府県知事,市町村長,自衛 官,逮捕されている者,勾留されている者 【裁判員になることができない経歴】 国家公務員になる資格の無い者(例…成年被後見人・被保佐人・懲戒免職の処分を受けた 日から2年を経過していない者など),義務教育を終了しない者,禁錮以上の刑に処せられた 者,心身の故障のため裁判員の職務の遂行に著しい支障がある者 【その事件について裁判員になることができない人】 被告人,被害者,被告人または被害者の親族・親族であったもの,被告人または被害者の 法定代理人・後見監督人・保佐人・保佐監督人・補助人・補助監督人,被告人または被害者 の同居人・被用者,事件について関わりがあるもの〔告発または請求をした者,証人または 鑑定人になった者,被告人の代理人・弁護人または補佐人,検察官または司法警察職員とし て職務を行った者,事件について検察審査員または審査補助員として職務を行った者,補充 員として検察審査会儀を傍聴した者,裁判の基礎となった取調べに関与した者(受託裁判官 として関与した場合を除く)〕,裁判所がこの法律の定めるところにより不公平な裁判をする 恐れがあると認めた者

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‣ 父母の葬式への出席など社会生活上の重要な用務がある 資料3 【裁判員を辞退できる理由】 裁判員は,特定の職業や立場の人に偏らず,原則として辞退できない。ただし,国民の負 担が過重なものとならないようにとの配慮などから,法律で次のような辞退事由を定めてお り,裁判所からそのような事情にあたると認められれば辞退することができる。 ・ 70 歳以上の人 ・ 地方公共団体の議会の議員(ただし会期中に限る) ・ 学生,生徒 ・ 5年以内に裁判員や検察審査員などの職務に従事した人,3年以内に選任予定裁判員 に選ばれた人及び1年以内に裁判員候補者として裁判員選任手続の期日に出頭した人 ・ 一定のやむを得ない理由があって,裁判員の職務を行うことや裁判所に行くことが困 難な人 やむを得ない理由としては,例えば… ‣ 重い疾病や傷害 ‣ 同居の親族の介護・養育 ‣ 事業上の重要な用務を自分で処理しないと著しい損害が生じるおそれがある 2) 裁判員の仕事や役割,義務ほか ① 公判に立ち会う 裁判員に選ばれたら,裁判官と一緒に,刑事事件の法廷(公判という。)に立ち会い,判決 まで関与することになる。公判は,連続して開かれる。公判では,証拠書類を取り調べるほ か,証人や被告人に対する質問が行われる。裁判員から,証人等に質問することもできる。 ② 評議,評決 証拠を全て調べたら,今度は,事実を認定し,被告人が有罪か無罪か,有罪だとしたらど んな刑にするべきかを,裁判官と一緒に議論し(評議),決定する(評決)ことになる。 評議を尽くしても,意見の全員一致が得られなかったとき,評決は,多数決により行われ る。(ただし,裁判官,裁判員のそれぞれ1名以上の賛成が必要)。 有罪か無罪か,有罪の場合の刑に関する裁判員の意見は,裁判官と同じ重みを持つ。 ③ 判決宣告・裁判員の任務終了 評決内容が決まると,法廷で裁判長が判決を宣告する。 裁判員としての役割は,判決の宣告により終了する。 ④ 裁判員の出廷義務及び守秘義務 裁判員および補充裁判員は,公判期日や,証人尋問・検証が行われる公判準備の場に出廷 しなければならない。正当な理由なく出廷しない場合,10 万円以下の過料が課される。 また,裁判員及び補充裁判員並びにこれらの職であった者は,評議の経過や各裁判官,裁 判員の意見など職務上知り得た秘密を漏らしてはいけない。正当な理由なく秘密を漏らした 場合は,6か月以下の懲役,50 万円以下の罰金が科せられる。 ⑤ 裁判員の報酬 裁判所に行く日の日当や交通費のほか,裁判所から家が遠いなどの理由で宿泊しなければ ならない場合は宿泊費が払われる。日当の具体的な金額は,裁判員候補者に対しては,1日 当たり 8000 円以内,裁判員および補充裁判員に対しては,1日当たり1万円以内である。ま た,宿泊する地域によって 7800 円または 8700 円になる。

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3)裁判員制度の流れ +長野県を例に考えてみると… ・・・ 地方裁判所の管内にある市区町村選挙管理 委員会が,有権者からくじで候補者を選んで 名簿を作成する。 前年 12 月までに 裁判員候補者名簿を作成 ・・・ 長野県松本市で裁判員制度の対象となる事 件が起きると,松本市の事件を担当する長野 地方裁判所松本支部の管轄する地域の裁判員 候補者から,くじで,さらに裁判員候補者を しぼっていく。 長野県には裁判員裁判を行う裁判所が長野 地方裁判所本庁と松本支部の計2つある。 詳しい管轄区域は以下のとおりであるが, 選任手続,裁判のために行く裁判所は,東北 信に住む人は本庁へ,中南信の人は松本支部 へ行くことになる。 長野地裁本庁…長野市,須坂市,上水内郡, 上高井郡 上田支部 …上田市,千曲市,東御市, 小県郡,埴科郡 佐久支部 …佐久市,小諸市,南佐久郡, 北佐久郡 松本支部 …松本市,塩尻市,安曇野市, 東筑摩郡,木曽郡,大町市, 北安曇郡 諏訪支部 …諏訪市,茅野市,諏訪郡, 岡谷市 飯田支部 …飯田市,下伊那郡 伊那支部 …伊那市,駒ヶ根市,上伊那郡 連 日 的 開 廷 本庁(東南信) 松本支部(中南信) 候補者に通知が届く 候補者は調査票を返送 裁判の6~8週間前に事件 ごとにくじで裁判員を選ぶ 候補者に「呼び出し状」と 「質問票」が届く 候補者は質問票を返送 選任手続(裁判長と面接) 裁判員6人を選出 事件発生 公判・審理 評議・評決 判 決 公 判 前 整 理 手続(資料4) 公 訴 提 起

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資料4 【公判前整理手続】 公判期間は,できるだけ連日開かれ,集中した審理が行われる。こうした審理に対応するため,裁判 官,警察官,弁護人が初公判前に非公開で協議し,証拠や争点を絞り込んで審理計画を立てること。 検察官は証明予定事実を明らかにし,証拠を開示。弁護人も争点を明示し,自らの証拠を示さなければ ならない。手続には被告人も出席できる。採用する証拠や証人,公判日程はこの場で決まり,終了後は 新たな証拠請求が制限される。 公判前整理手続の終了後は新たな証拠請求が制限されるため,被告人に不利になる場合もあると言わ れている。

4.海外との比較

裁判員制度との類似制度としては陪審制度と参審制度がある。 世界各国では以前から市民が裁判に参加する制度として主にこの2つが行われてきた。しかし, 一口に陪審制度や参審制度と言っても国によって内容が異なるため,ここでは代表例としてアメリ カの陪審制度,ドイツとフランスの参審制度,そして日本の裁判員制度を比較する。 1) 参審制度 一般的に裁判員制度は参審制度に似ているといわれている。人数や任期,評決方法など細か い部分は異なるものの,職業裁判官と参審員が一緒に話し合い,判決や量刑を決めるという重 要な部分は同じである。だが実際に「参審制度」といっても国によって微妙に異なる部分も多 く,ここでは省いたがイタリアでは次ページの表に掲載してあるフランスとドイツの2ヶ国と は違う参審制度が行われている。 2) 陪審制度 次に陪審制度だが,裁判員制度と陪審制度には大きな違いがある。それは,陪審制度は判決 を陪審員のみで話し合って決定し,その後職業裁判官が量刑を決めることである。 陪審制度が行われている国としてはアメリカがあげられる。表に掲載してあるものは最も一 般的なものであるが,アメリカは州によって法律が定められているのでそれによって制度も微 妙に異なる。 例えばカリフォルニア州では検察,弁護側双方が陪審員の候補者に直接質問し,その結果に よって偏った判断をする恐れがある候補者の排除を求めることができる。このため,選任だけ で数日,時には数週間かかるというというケースさえある。一方,ニューハンプシャー州では 殺人事件以外では裁判官が候補者全員に質問を読み上げ,選任に 15 分前後しかかけない。 また,陪審員の意見が一致するまで協議を続けるか,多数決で意見を決めるかも州によって 異なっている。 アメリカ以外で陪審制度が行われている国としてはイギリスがあげられる。 このように比較してみると,裁判員制度,陪審制度,参審制度の3つの制度は市民が裁判に参加 するという大前提は一緒であるが,詳細は異なる。よって日本で実施される裁判員制度という制度 は参審制度に似ているものの,厳密には異なる新しい制度だということが分かる。

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日本の裁判員制度,諸外国の陪審制度・参審制度の概要

日 本 裁 判 員 制 度 ド イ ツ 参 審 制 度 フ ラ ン ス 参 審 制 度 ア メ リ カ 陪 審 制 度 対 象 事 件 殺人,強盗致死,放 火,通貨偽造,傷害 致死,覚せい剤取り 締まり法違反などの 重罪事件 4年を超える自由刑 →地方裁判所 2年~4年の自由刑 →区裁判所 法定刑が無期,また は最低 10 年以上の 重罪 1年以上の有期の犯 罪 自 白 ・ 否 認 事 件 自白・否認とも 自白・否認とも 否認事件のみ 否認事件のみ 構 成 裁判員 6人 裁判官 3人 or 裁判員 4人 裁判官 1人 (地方裁判所) 裁判官 3人 参審員 2人 (区裁判所) 裁判官 1人 参審員 2人 裁判官 3人 参審員 9人 裁判官 1人 陪審員 12 人 ただし,より少ない 人数(6人など)を導 入している州もある 選 任 方 法 裁判員候補者をくじ で選んで候補者名簿 を作る。その後事件 ごとの裁判員が名簿 の中から更にくじで 選ばれる。 政党の推薦が重視さ れる所もあれば 無作為抽出に近い所 もある 参審員候補者を抽選 で選び,候補者名簿 を作る。具体的な事 件の参審員はその名 簿の中から更に抽選 で選ばれる 無作為抽出された候 補者の中から,質問 手続きを経て選出 任 期 1回の公判のみ 4年間 数週間(開廷期) 事件ごと 評 議 方 法 裁判官との合議 裁判官との合議 裁判官との合議 陪審員のみの判断 表 決 方 法 多数決 ※特別多数決 特別多数決 全員一致が原則 (ただし多数決の州 もある) ※自由刑………刑罰の一種で,受刑者の身体を拘束することで自由を奪うもののこと 自由刑以外の刑罰は死刑,身体刑,財産刑がある ※特別多数決…被告人に不利益な判断をするためには,裁判官と参審員を合わせた3分の2以上の賛成 が必要な多数決

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5.裁判員制度の問題点

1) 模擬裁判から見えること 全国各地の裁判所を中心に模擬裁判,模擬選任手続きなどが盛んに行われている。その中か ら見えてきた問題点,改善点について,最高裁判所,日本弁護士連合会の対応をまとめてみた。 ★1 難しい法廷用語 今までの裁判は,法律の専門家である裁判官,検察官,弁護士のみで行われていたため, 法廷用語には日常生活で口にしない言葉や,難解な専門用語が数多く存在する。しかし, 裁判員制度では口頭のやり取りが中心に審議が進められる。そのため,これらのことばは 一般の人にわかりやすい語に置き換えられることが求められる。 ① 模擬裁判体験者の声 ・ 専門家でない人が常識に照らして判断するのが制度の趣旨。難しい用語は困る。(朝 日新聞 2007 年6月2日付) ② 日本弁護士連合会の取り組み 法廷用語の日常語化に関するプロジェクトチームを発足し,難しい法廷用語の言い換 えを行った。2007 年 12 月 21 日,計 61 語の検討結果を含んだ最終報告書をまとめた。 2008 年春に報告書を収めた書籍が刊行される予定である。 主な言い換え案(朝日新聞 2006 年1月 15 日付) ・ 公訴事実 ⇒ 検察官が裁判を求める事件の要点。裁判のはじめに検察 官が朗読する起訴状に書かれている。 ・ 冒頭陳述 ⇒ 検察官が描いた事件のストーリー。 ・ 自白の任意性 ⇒ 脅かされたり,だまされたりすることなく自らの意思で 自白すること。 ・ 合理的疑い ⇒ 証拠に基づいて,常識に照らして有罪であることに少し でも疑問があること。 ・ 未必の故意 ⇒ 必ず殺してやろうとまで思っていなくても,死ぬなら死 んでもかまわないと思うこと。 ③ 考察 日本弁護士連合会の取り組みは,裁判員の視点から見て評価されると思う。裁 判員が積極的に参加できる裁判となるためには,①裁判員裁判では使ってはいけない言葉 を定める,②難解用語は口頭だけではなく,プロジェクター等で文字で表記しながら使う ようにする,等の工夫がまだまだ必要だと思う。 ★2 裁判官の誘導 裁判長一人を含む裁判官3人とともに評議し,有罪・無罪を決定する際に,裁判官の誘 導が問題となる。法律や裁判に関して全くの素人と言っていい裁判員には,裁判官にある 片側からの意見を主張されたら,それを覆すことは困難である。しかし,裁判員一人一人 が個人として意見を持ち評議に参加しなくては,国民の意見を取り入れた裁判という目的 は達成されない。裁判員そして裁判官それぞれの意見が,尊重される裁判にするためには, どのような工夫が必要だろうか。 ① 模擬裁判体験者(裁判員)の声 ・ 裁判員3人が同じ考えなら,裁判員2人を取り込めばいい。「裁判員に納得させよう」

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ではなく,評決が自分たちと同じになるように,というのが見え見えだった。 ・ 疑わしきは被告人の利益に,という原則を意識していたが,裁判長の『殴ったと考 えるのが自然』という意見に影響されて,有罪に一票を投じた。(以上,朝日新聞 2007 年4月 10 日付) ・ 裁判官は裁判員の発言を引き出して,後から意見を言う。この形だけは崩してはい けないと思った。(朝日新聞 2007 年6月2日付) ② 模擬裁判体験者(裁判官)の声 ・ 裁判員に自由に意見を言ってもらうのは大変。誘導的になってはいけないと裁判官 が遠慮しすぎることもある。(朝日新聞 2006 年 12 月 15 日付) ③ 最高裁判所の意見 「裁判官の意見に誘導されるおそれはないのでしょうか。」という問いに対して最高裁 判所は次のように述べている。 そのようなことはありません。事件について裁判員と裁判官が議論(評議)する際, 裁判長は,裁判員に対して必要な法令に関する説明を丁寧に行うとともに,評議が裁判 員に分かりやすいものとなるように整理し,裁判員が発言する機会を十分に設けるな ど,裁判員がその仕事を十分に行えるように配慮しなければならないとされています。 裁判員制度には,法律の専門家ではない裁判員の経験,感覚を裁判に生かすという目的 がありますので,裁判官は,評議において,裁判員が気軽に意見を言えるような雰囲気 を作るとともに,裁判員の意見を先に聴くなど,裁判員に意見を十分に述べてもらえる ような工夫をすることになります。(最高裁判所 HP より) ④ 考察 裁判官一人一人の意識の中にまず裁判員の意見を聞きだす,という考えが必要 だと思う。おそらく裁判官が誘導しようと思えば,容易に出来ると思われる。しかし, どんなに裁判官が誘導しないように気をつけていても,なくすことは出来ないだろう。 なぜなら,日本社会の中で裁判官は正しい判断が出来るための勉強をしてきた人,とい う信頼が培われてきているからである。裁判員制度を実施する中でどうしたら裁判員・ 裁判官双方の立場で,それぞれの意見を主張することが可能な裁判となるか,模索が必 要だと思う。 ★3 量刑の判例の有無 現在の刑事裁判ではプロの裁判官が「相場」に応じて判断するため,量刑のばらつきが 非常に少ない。「健全な市民感覚の反映」を目的とする裁判員制度において,これまでの「相 場」は必要なのだろうか,必要でないのだろうか。裁判官と一般市民の間には,少なから ず刑の重さを判断する材料として何を利用するか差があるようだ。 例えば,各地の裁判所が同じ強盗致死事件を題材に模擬裁判を行ったところ,被告に宣 告された刑の重さは無期懲役から懲役 16 年まで幅が出た。(朝日新聞 2007 年8月6日付) また,最高裁判所は過去の刑事裁判で言い渡された刑をパソコンで調べられる「量刑検 索システム」の開発を進めている。このシステムは評議の場で使われることを想定してい る。その検索条件の項目には,①罪名②犯行の態様③凶器④傷害の程度⑤被害額⑥計画性 ⑨共犯関係⑩反省…など 10 余りに絞られる見込みだ。このシステムの使い方に対しても, 意見は分かれている。

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裁判員制度向け最高裁調査

飲酒で被告の判断力が低下していた場合の刑 (裁判官側) どちらで もない 63% 軽くする 2% やや軽 くする 31% やや重 くする 3% 重くする 1% 被告が少年である場合の刑〈市民側〉 やや重く する 13% 重くする 12% やや軽く する 19% 軽くする 6% どちらで もない 50% 被告が少年である場合の刑(裁判官側) 重くする 0% やや軽く する, 47% 軽くする 44% どちらで もない 9% やや重く する0% 飲酒で被告の判断力が低下していた場合の刑 〈市民側) どちらで もない 56% 軽くする 2% やや軽く する 5% やや重く す る 19% 重くする 18% (朝日新聞 2006 年3月 16 日付より作成) 被害者が配偶者の場合の刑(市民) 重くする 20% どちらで もない 58% やや重く する 16% やや軽く する4% 軽くする 2% 被害者が配偶者の場合(裁判官) どちらで もない 80% 重くする 1% やや重く する 5% やや軽く する 13% 軽くする 1% ① 模擬裁判体験者(裁判員)の声 朝日新聞が 2005 年8~9月に実施したアンケートに対して市民の 82 パーセントは「量 刑を決めるには類似事件の裁判例が必要」と回答している。 ② 模擬裁判体験者(裁判官)の声 過去の類似事件での量刑を一覧にまとめた〔量刑分布表〕を配布した模擬裁判で。 ・ 評議の最初は意見がばらついたが,資料を見せて議論すると,あまり外れた量刑に ならない。 ・ 資料を最初に渡すより,まず第一印象の量刑を述べてもらった後に配ったほうがい い。(以上,朝日新聞2007 年8月6日付) 被告が少年である場合の刑 被害者が配偶者の場合の刑 <市民側> <裁判官側> <市民側> <裁判官側> 飲酒で被告の判断力が低下していた場合の刑 <市民側> <裁判官側>

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・ 公平性を維持するため「相場」を裁判員に理解してもらうべきだ。 ・ 相場を絶対視するべきではない。(以上,朝日新聞 2007 年 10 月8日付) ③ 最高裁判所より 「刑の内容を決めるにあたって何か基準は示されるのですか。」という問いに対して最 高裁判所は次のように述べている。 どのような刑にするかについては,検察官や弁護人が自ら適正と思うところを主張し ますし,審理を一緒に担当する裁判官から,必要に応じて,同じような事件で過去にど のような刑が科されているのかが分かる資料などが提供されることも考えられます。こ れらを参考にした上,裁判員は自分自身の感覚を前提にして,どのような刑にすべきか, 意見を積極的に述べていただきたいと思います。(最高裁判所 HP より) ④ 考察 量刑の判例は使われても問題ないと思う。ただ,判例はあくまで参考であるか ら,それを見たうえで自分の意見をもつ強さが求められることになるだろう。また,死 刑判決についてなど,思想の違いをどのように調節するか課題はまだ残っている。 2) 制度上の問題点,課題 ★1 被告人は裁判員裁判を拒否できない 裁判員制度は被告人のための制度ではないため,被告人には裁判員裁判を拒否する権利 はない。裁判官と一緒に裁判を行うといっても,裁判員は法律の素人であり,絶対に性別, 年齢,容姿,社会的地位に影響され,偏見を持たないという保証はない。 「くじ引き」でたまたま選ばれた人たちに有罪か無罪かを判定され,刑罰まできめられ てしまう。 ★2 裁判員のプライバシー保護 裁判員法は,裁判員等の氏名,住所,その他の個人を特定するに足りる情報を公にして はならないことを明記している。過去に裁判員等であった人を特定する情報も,本人が同 意しない限り,公にされない。また,評議の際にどの裁判員がどんな意見を述べたかは明 らかにされない。 裁判員の思想や信条,プライバシーにかかわる情報が裁判所に保存される。公にはなら ないとしても,不安ではないか。また,裁判所内の人間には裁判員の選出時,質問票に多 くの個人情報を書き込んだ上,裁判官,検察官,弁護人のさまざまな質問に答えなければ ならない。この場合プライバシーはどうなるのか。 ★3 どんな判決も多数決で決める 裁判員は全員一致を目指して議論するが,どうしても全員一致に至らない場合には多数 決による評決を行う。この場合,裁判官1人以上が多数意見に賛成していることが必要だ が,1票差で量刑が決まることは十分ありえる。わずか1票差で死刑を決めてもいいのか。 重大判決を決める際にはもっと慎重に行うべきではないのか。 また,多数決の場合,裁判員と裁判官の意見は同じ重みを持つ。しかし,被告人が犯人 かどうかについて,裁判員5人が「犯人である」という意見を述べたのに対し,裁判員1 人と裁判官3人が「犯人ではない」という意見を述べた場合には,「犯人である」というの が多数意見だが,この意見には裁判官が1人も賛成していないので,裁判官1人以上が多 数意見に賛成していることが必要という要件を満たしていないことになる。したがって, この場合は,被告人が「犯人である」とならずに「無罪」ということになる。裁判員の多

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数の意見はよりも,裁判官の意見が尊重されることになる。 はたしてこれは裁判員と裁判官の「意見の重みは同じ」であるといえるのだろうか。

6.裁判員制度についての意識

2学年 150 人に対して,裁判員制度に対するアンケートを行った。それを基に内閣府が行った同 内容のアンケート(朝日新聞 2007 年度 12 月 30 日付)と比較した。 Q1 裁判員制度を知っているか?(数値は%) 木曽高校2年生 一 般 1 知っている人 80.0 80.7 2 知らない 20.0 19.3 知らない 20% 知ってい る 80% 1 2 知らない 19.3% 知ってい る 80.7% 1 2 Q2 裁判員として,裁判に参加することについてどう思うか?(数値は%) 木曽校生 一 般 1 参加したい 2 6 2 参加してもよい 14 15 3 あまり参加したくないが,義務であるなら参加せざるをえない 52 44 4 義務であっても参加したくない 18 34 5 わからない 14 1 木曽高生 参加し たい 2% 参加し てもよ い 14% 義務で あって も参加 したくな い 18% わから ない 14% あまり 参加し たくな いが、 義務で あるな ら参加 せざる をえな い 52% 木曽校生 木曽校生 朝日新聞 わから ない1% 義務で あって も参加 したく ない 34% あまり 参加し たくな いが、 義務で あるな ら参加 せざる を得な い44% 参加し てもよ い15% 参加し たい6% 一 般 一 般

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考 察 グラフを比較して見ると認知度は同じ数字を表した。8割の人は少なくとも名前だけは知ってい る。しかし,2割の人(150 人中 21 人)は知らないという結果であるが,これは問題ではないだろ うか? 私たち高校生は確かに今,裁判員候補の対象となる年齢に達してはいないものの実際に施行が始 まる翌年には,私たちに選挙権が与えられる。少なくとも,裁判員に選ばれる確率が0パーセント ではないのだから,制度のことを簡単にでも知っておくべきである。 次に「裁判に参加することについてどう思うか」という質問に対してであるが,2学年に行った アンケートと,一般のアンケートではわずかながら差があった。2学年,一般のアンケートとも「あ まり参加したくないが,義務であるなら参加せざるをえない」というのが多かったことに変わりは ないが,一般では「義務であっても参加したくない」と答えた人が 34 パーセントと多かった。これ はやはり,「専門家でない自分が実際に人を裁いていいのだろうか?」という不安や「政治お上任せ」 という今の日本の体質が影響しているのではないだろうか。(…あくまで推測なので(-_-;)) 裁判所としては,この裁判員制度のまだまだ拭い切れない不安要素をいかに解決して,国民の支 持・理解を得て施行までにもっていくかがこれからの課題であるのは勿論のこと,実際に裁判員制 度を行って浮上してきた問題にも柔軟な対応が求められるだろう。

7.考察

「裁判員制度はもう決まってしまったことで仕方がない」で終わらせ無関心のままではいけない。 これが大前提だろう。 海外の制度を調べたら,裁判員制度との意識の違いが分かり始めた。陪審制度,参審制度これは調 査をするうちに共に国民が勝ち取った権利であると感じた。それに対し,わが国の裁判員制度は市民 の権利を守るために市民が勝ち取ったというよりも,国から「与えられた」ものであると思い始めた。 確かに今までのものとは違い法律の専門家でない国民が他人を裁く,という重大な責任もある。裁判 員になれば,さまざまな義務も課されてくる。今の制度のままでは不安な部分がたくさんあることは 否定できない。しかし国民が直接的な権利が持てる素晴らしい制度である。この制度が吉と出るか凶 と出るかは私たちにかかっているし,これが日本の司法制度についてよく考えるよい機会なのだろう。 〔参考文献及びホームページ〕 『解説 裁判員法 立法の経過と課題』 池田 修 著 (弘文堂 2005 年) 『裁判員制度』 丸田 隆 著 (平凡社 2004 年) 『朝日新聞』(本文中に記載) 『中日新聞』(2007 年 7 月 29 日付) 最高裁判所 HP http://www.courts.go.jp/ 検察庁 HP http://www.kensatsu.go.jp/ 日本弁護士連合会 http://www.nichibenren.or.jp/ 裁判員制度はいらない大運動 http://no-saiban-in.org/ 陪審員制度を復活する会 http://www.baishin.sakura.ne.jp/

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[研究を終えて]

今回研究の中で裁判員制度を取り上げたDVDを数本みたのだが,その中に「何一つ他人事では ない。無関心こそ,最大の罪である。同じ社会に生きる人間として,一人ひとりが問題を共有し, 考えようという意識を作り上げることが裁判員制度の意義である。」というセリフがあり,とても 印象に残った。今回選挙権を持つ年齢になる前に制度について知識を深められたのは良い経験にな ったし,もし自分が裁判員に選ばれることがあったら誇りに思って責務を全うしたい。 花村 充留 この研究を通して,裁判員について私なりの意見を持てるようになれた。将来裁判員に選ばれる ことがあったら今回の研究で得た知識を生かして積極的に参加したい。それまでに今回提起したよ うな問題点が少しでも改善されていることを願う。 反省としては,もっとアンケートなどを多くとり,具体的な点を上げられればよかった。 安部志帆子 平成 21 年 5 月までには導入されることになっており,これをストップさせることはできない。 私たちが選挙権を持ったときにはすでに導入されているはずだ。だからこそ,今回の研究で浮かび 上がった問題点がよりよいかたちで反映されればと思う。 小林 沙紀 今回の研究により,裁判員制度の形がぼんやりとだが見えてきたような気がした。 メリット,デメリットなど把握をして自分の意見をしっかり持ってこの制度と向き合いたいと思 った。(選ばれる割合が 67 人に1人なのでホントに他人事じゃないし…。) 長谷川力也

参照

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