職業イメージに関する研究
島勝正*・松本卓三**
*岡山理科大学工学部
**岡山理科大学理学部
(1998年10月5日受理)
目的
職業選択には,数多くの要因が影響している。仙崎(1988)は,職業選択の規定要因と して,大きく環境的・文化的・社会的要因と個人的・心理的決定要因の2つを取り上げて いる。小川・田中(1979b)は,個人の職業選択に関係する要因については,個人の側に おける要因と,環境的要因とに大別して考えることができる,と述べている。そして,前 者については,職業興味,能力,価値観,職業知識・イメージ,自己概念,パーソナリティ,
などの諸要因をあげている。後者としては,個人が生活している文化,個人が成員である 下位文化,個人が居住するコミュニティ,個人の直接的環境(家族.学校),などの諸要因 を述べている。これらのことから,職業選択に影響を及ぼす要因としては,主として個人 的要因と環境的要因の2つが考えられる。
本研究では,前述した諸要因のうち,主として個人的要因と考えられる職業イメージ の問題を取り上げる。職業を選択する際に,個人が抱く希望職業に対するイメージが,職 業選択にかなりの影響をすると考えられる。イメージという言葉は,普通,心の中に浮か ぶ像という意味で使われることが多い。しかし,それは,不十分な知識,不確かな,ある いは,ときには誤った認識という意味で用いられることもある。岡本(1972)は,職業 イメージとは個々の職業に対して個人がもっている知識,評価(それは,正しいにせよ,
正しくないにせよ)を意味する,ととらえている。そして,職業イメージを調査する項目 を,職業の諸側面にしたがって次のように構成している。即ち,①仕事の単調さ外②仕事 の自律性,③疲労,④収入,⑤作業環境,⑥身体の汚れ,⑦早朝.深夜の労働,⑧日曜.
祝日の休み,⑨世間の評価,⑩親の反対,⑪技能習得の困難度,⑫将来性,⑬適性,と いう項目を取り上げて,中学生,高校生を対象として調査している。雇用職業総合研究所
(1986)は,高校生が自分が就きたいと思う職業についてどのようなイメージを抱いてい るかを,①仕事と自己のかかわり,②仕事の特性,③労働条件.労働市場条件,④将来に ついての見通し,⑤社会的評価・位置づけ,⑥周囲の条件.親近性,についての20項目で 調査し,職業群により特徴的なパターンがみられたと報告している。また,西山(1990)
も,教師という職業への印象について,「楽しみの多い-楽しみの少ない」,「自分に向い
三島勝正・松本卓三 96
ている-自分に向いていない」,「家族に教師がいる-身内に教師がいない」他の計10項 目で調査し,教育学部生は経済学部生よりも,教職に対して好意的なイメージが強いよう であると報告している。
これらの職業イメージを取り上げた諸研究は,職務内容の記述のような,より具体的な 諸側面についてのイメージを調査している。しかし,岡本(1972)も指摘しているように,
職業に関するイメージは,職業が極めて多様な側面をもっているのと同じだけ,多くの側 面をもっていると考えられる。そこで,本研究では,より一般的な,より抽象的なレベル で,できるだけ多くの形容詞対を用意して,SD法によって多様な側面をもつ職業イメージ をとらえることにした。
なお,本研究では,大学生男子の教職希望者(以下,教職と略す)と工業技術者希望者
(以下,工技と略す)を調査対象として取り上げた。両者を調査対象に選んだ理由は,次 のことによる。松本(1993)によると,教職と工技を比較すると,職業的同一性の確立が,
前者が後者よりも,よりなされていると述べている。このことから,両者の間には,職業 イメージにかなりの差異があるのではないかと考えられるからである。以上のことから,
本研究では,個人が抱く希望職業に対する職業イメージについて,大学生男子の教職と工 技の間の差異を比較する。
方法 1.調査対象
大学理学部・工学部1~3年生の男子学生171名(教職84名,工技87名)。
2.調査
「あなたは,自分が希望している職業について,どのようなイメージを持っています か。」という質問をして,40個の形容詞対からなるイメージ項目(Tablel参照)につい て,「どちらともいえない」を中心として,順に,「やや」,「かなり」,「非常に」の7段階 尺度(SD法)で評定を求めた。職業イメージに関する項目は,渕上(1984),岩下(1983),
吉良・佐藤・篠原(1974),小川・田中(1979a)を参考にして作成した。
結果と考察
1.職業イメージの希望職種間の比較
館・松本・渡辺・松本(1984)によれば,大学理学部と工学部はかなり職業興味が類似 していると述べているので,学部ごとに分けないでまとめて分析することにした。
希望職種ごとに,各職業イメージ項目に対して評定させた平均値(以下,〃と略す)と
標準偏差(以下,SDと略す)を算出した(Tablel)。〃が5.00以上のポジティブな項目
は,次のとおりであった。教職も工技もともにそれに該当する項目は,「2勤勉な」,「4知
的な」,「10専門的な」,「26魅力的な」,「29慎重な」,「31価値のある」の6項目であっ
職業イメージに関する研究 97
Tablel
希望職業に対するイメージの平均値と標準偏差及び/検定の結果 教職希望者(1V=84)工業技術者希望者UV=87)
イメージ項目
NC 〃 SD 〃 S、 t値
正直なずるい 勤勉な怠慢な 進歩的な保守的な 知的な知的でない 清潔な不潔な 大胆な小心な 厳しい あまい 几帳面な粗雑な 柔らかい 固い 専門的な専門的でない 温かい 冷たい 積極的な消極的な 民主的な権威的な 活発な活発で・ない 安定した不安定な 複雑な単純な ゆったりとした窮屈な 視野の広い 視野の狭い 個'性的な個性的でない しゃれた野暮つたい 融通が効く融通が効かない 開放的な閉鎖的な 活動的な活動的でない 創造的な創造的でない 派手な地味な 魅力的な魅力的でない 親切な不親切な 高尚な低俗な 慎重な軽薄な 機敏な鈍感を 価値のある価値のない 豊かな貧しい 力強い 弱々しい 美しい 汚い 礼儀正しい礼儀正しくない 陽気な陰気な 理性的な感情的な 冷静な衝動的な 科学的な科学的でない 明るい 暗い
1234567890123456789012345678901234567890
11111111112222222222333333333340359877268073186616190390250464290909616 5111587800956559433612397087146132161858
●●●●■●●●●●●■●●●●●●●●●●●●●a。c■●●●●■●●⑪●●●4535434435443454344333432544545444544444
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屯1勺1(注) .p<、05,中やく.01,***p<、001.
イメージ項目は7段階尺度で評定。高I
イメージ項目は7段階尺度で評定。高い評定平均値ほどポジティブなことを示す。
通常の/検定:〃=169
"w”は,Welch'smethodの/検定を示し,それを実施したイメージ項目の番号 は,Welch'smethodの/検定を示し,それを実施したイメージ項目の番号とその〃を下記に示す。
2(〃=154),5(〃=159),9(〃=161),20(〃=144),29(〃=134),39(〃=149)
三島勝正・松本卓三 98
た。教職だけでそれに該当する項目としては,「15安定した」,「35礼儀正しい」の2項目 であった。他方,工技だけでそれに該当する項目としては,「3進歩的な」,「7厳しい」,
「8几帳面な」,「12積極的な」,「16複雑な」,「24創造的な」,「37理性的な」,「38冷静 な」,「39科学的な」の9項目であった。また,〃が3.00未満のネガティブな項目は,教 職と工技ともに「25地味な」の1項目であった。
次に,〃の/検定の結果を述べる(Tablel)。教職が工技よりも〃が有意に高い 項目は,次のとおりであった。「5清潔な-不潔な〔教職:〃=4.58(SD=0.94)>工 技:M=3.93(SD=1.25),/(,59)=3.83,,<、001(以下,こうした記述のうち,〃
とSDは略して表記する)〕」,「1l温かい-冷たい〔教職:4.90(1.26)>工技:3.45
(1.35),/(,69)=7.21,わく.001〕」,「15安定した-不安定な〔教職:5.58(1.24)>工技:- 3.98(1.38),t(,69)=7.92,,<、001〕」,「27親切な-不親切な〔教職:4.85(1.19)>
工技:3.91(1.06),/(,69)=5.43,,<、001〕」,「34美しい-汚い〔教職:4.20(0.94)>
工技:3.56(1.00),/(,69)=4.28,,<、001〕」,「35礼儀正しい-礼儀正しくない〔教 職:5.19(1.01)>工技:4.15(1.08),/(,69)=6.46,,<、001〕」,「36陽気な-陰気な
〔教職:4.60(1.09)>工技:3.49(1.00),/(,69)=6.90,,<、001〕」,「4O明るい-暗い
〔教職:4.86(1.18)>工技:3.77(1.23),/(,69)=5.88,,<、001〕」の8項目であっ た。逆に,工技が教職よりも〃が有意に高い項目は,次のとおりであった。「2勤勉 な-怠慢な〔教職:5.13(1.25)<工技:5.83(0.95),/(154)=4.09,,<、001〕」,「3進歩 的な-保守的な〔教職:3.15(1.31)<工技:5.79(1.57),/(,69)=11.85,,<、001〕」,
「4知的な-知的でない〔教職:5.19(0.96)<工技:5.71(1.16),t(,69)=3.17,,<、01〕」,
「7厳しい~あまい〔教職:4.77(1.19)<工技:5.67(1.03),/(,69)=5.26,,<、001〕」,
「8几帳面な-粗雑な〔教職:482(1.22)<工技:5.62(1.24),/(,69)=4.23,,<、001〕」,
「10専門的な-専門的でない〔教職:5.08(1.33)<工技:6.33(1.10),/(,69)=6.67,
,<、001〕」,「12積極的な-消極的な〔教職:4.57(1.39)<工技:5.00(1.28),/(,69)=
2.09,p<、05〕」,「16複雑な-単純な〔教職:4.96(1.41)<工技:5.48(1.27),t(,69)=
2.52,,<、05〕」,「24創造的な-創造的でない〔教職:3.99(1.27)<工技:5.51(1.18),
/(,69)=8.06,,<,001〕」,「26魅力的な-魅力的でない〔教職:5.02(1.31)<工技:5.41
(1.24),Z(,69)=1.99,p<、05〕」,「30機敏な-鈍感な〔教職:4.46(1.18)<工技:4.98
(1.12),/(,69)=2.94,p<、01〕」,「32豊かな-貧しい〔教職:4.12(1.24)<工技:4.61
(1.04),/(,69)=2.79,p<、01〕」,「33力強い-弱々しい〔教職:4.39(1.24)<工技:4.78
(1.22),/(,69)=2.06,’<、05〕」,「37理性的な-感情的な〔教職:4.19(1.24)<工技:
5.09(1.04),/(,69)=5.12,,<、001〕」,「39科学的な-科学的でない〔教職:
4:51(1.21)<工技:6.30(0.86),/(,49)=11.05,P<、001〕」の15項目であった。
以上のことから,教職,工技の両者とも,希望職業は,価値があり,魅力的で,知的な
専門職であり,地味で,勤勉さ,慎重さが求められる職業だととらえていると,思われる。
職業イメージに関する研究 99
また,教職は工技と比べ,明るく,陽気で,温かみがあり,礼儀正しく,親切で,清潔で,
わりと美的で,安定した職業イメージを持っていると考えられる。工技は教職と比べ,豊 かで,機敏で,複雑で,力強いイメージを持っているが,知的で,理性的で,進歩的であ ることが必要とされ,科学的,創造'性,専門性がより要求され,厳しさ,積極性,勤勉さ,
几帳面さ,冷静さが求められているととらえていると考えられる。工技は,より魅力的な 職業という認識もみられた。
なお,形容詞対からなるSD法を用いた職業イメージに関係した研究としては,吉良 他(1974)がある。これは,教育学部4年生を対象として,教育実習の前後で,20個の形 容詞対からなるSD法で教職に対するイメージ(印象)を調査したものであり,直接比較 は難しい。
2.職業イメージの希望職種ごとの因子分析での比較
希望職種ごとに,どんな因子構造かをみるため,主因子法で得た11因子解(固有値 1.00以上)をバリマックス回転をした。回転後の教職と工技の結果は,それぞれTable2 とTable3に示すとおりである。その結果で,因子名をそれぞれ次のように命名した。
教職については,第1因子は「活動性」,第2因子は「寛容さ」,第3因子は「価値的」,
第4因子は「純粋さ」,第5因子は「豊かな心」,第6因子は「安定`性」,第7因子は「理`性 的」,第8因子は「厳格さ」,第9因子は「格好よさ」,第10因子は「融通性」,第11因子は
「快活さ」と命名した。他方,工技については,第1因子は「厳格さ」,第2因子は「活動 性」,第3因子は「柔軟`性」,第4因子は「美的」,第5因子は「,快活さ」,第6因子は「理 性的」,第7因子は「寛容さ」,第8因子は「融通性」,第9因子は「豊かな心」,第10因子 は「純粋さ」,第11因子は「安定性」と命名した。
このことから,教職と工技ともに,共通した因子としては,「活動性」,「寛容さ」,「純粋 さ」,「豊かな心」,「安定性」,「理`性的」,「厳格さ」,「融通'性」,「快活さ」の9つの因子が 認められた。その他,特徴的な因子として,教職では,「価値的」,「格好よさ」の2因子が,
工技では,「柔軟'性」,「美的」の2因子がそれぞれ認められた。両者とも,各因子の内容は 若干異なっているが,かなり類似した因子構造であると考えられる。各職業イメージにつ いて,特に,教職は価値や安定性に,工技は厳しさや柔軟'性に重きをおいている構造とみ
られる。
Table2
希望職業に対するイメージの因子分析結果(教職希望者:1V=84)
』つつ
イメージ項目 F1F2F3F4F5F6F7F8F9F10F11共通性
NOL
活発な活発でない 活動的な活動的でない 積極的な消極的な 大胆な小心な 温かい冷たい
明るい 暗い
視野の広い 視野の狭い 力強い 弱々しい 柔らかい 固い 進歩的な保守的な 民主的な権威的な ゆったりとした窮屈な 魅力的な魅力的でない 価値のある価値のない 親切な不親切な 個性的な個性的でない 清潔な不潔な 正直なずるい 知的な知的でない 勤勉な怠慢な 豊かな貧しい 開放的な閉鎖的な 専門的な専門的でない 創造的な創造的でない 高尚な低俗な 安定した不安定な 慎重な軽薄な 美しい 汚い 冷静な衝動的な 理性的な感情的な 厳しい あまい 几帳面な粗雑な 複雑な単純な 科学的な科学的でない 派手な地味な しゃれた野暮つたい 融通が効く融通が効かない 礼儀正しい礼儀正しくない 陽気な陰気な 機敏な鈍感な
3255354952496570575042700280713554744429
1020310200307755102200140324000022000211
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固有値 寄与率(%)
5.15 12.88
3.09 7.71
3.05 7.63
2.90 7.25
2.29 5.72
2.15 5.38
2.10 5.26
1.95 4.86
1.84 4.61
1.77 4.43
1.71 4.28
28.01
70.01
Table3
希望職業に対するイメージの因子分析結果(工業技術者希望者:1V=87)
F1F2F3F4F5F6F7F8F9F10F11共通性 イメージ項目
NC
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●■の●●●の●●c□7675566776675564667787666677667765666767 8913524289396656835406745807522490628064
8770756474930855213666269236858236329896 0003030010030000301100010020100010217640
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●●●●■●◆●●●●●●⑰●●■●●●●●●●巴●●●●●●●●●●●●Ce●’’’’’’’一4818993257394874650197411347710941963455 1131002111113100011301000021101175441001
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明るい 暗い
冷静な衝動的な 理性的な感情的な 科学的な科学的でない 民主的な権威的な 親切な不親切な
温かい 冷たい
複雑な単純な 派手な地味な 融通が効く融通が効かない しゃれた野暮つたい 豊かな貧しい 礼儀正しい礼儀正しくない 高尚な低俗な ゆったりとした窮屈な 正直なずるい 知的な知的でない 勤勉な怠慢な 安定した不安定な
3718506882317819034620807900990621809693 1201020021020110138711010012113411220200
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●●●●●●●●●ロロ●●●●●●●●●●■⑪●●●●●巳●●●●●●■●●●●|||’9070481462333629985460879371651025871425 231231132221133433312112223321
1 壼維へx池行圏斗か草閉26.81 67.02 2.16
5.41
2.11 5.27
1.67 4.19 2.24
5.59
2.19 5.48 固有値
寄与率(%)
2.45 6.13
2-30 5.76 3.39
8.49
3.27 8.17
2.55 6.37
2.46 6.15
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