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売主の担保責任と債務不履行責任に関する 法改正について

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売主の担保責任と債務不履行責任に関する 法改正について

2

―「債権法改正の基本方針」批判―

戸田 知行

【要旨】

「債権法改正の基本方針」が,契約当事者の意思(「引受け」)に基づく責任とし て,契約責任を「債務不履行責任」に統一する立法提案に反対し,責任について 当事者に合意がない場合を認め,そのための要件・効果を立法すべきだ(理論で はなく具体的な基準の設定が立法の役割であると考える)として,若干の立法提 案を行う.

【キーワード】 売主の担保責任,債務不履行責任,債権法改正,補充規定,契約 の解釈

目次 はじめに

第一章 「債務不履行責任」規定の検討 第二章 売主の担保責任に相当する規定の検討

第一節 売買契約

第二節 権利の瑕疵  以上第624 第三節 物の瑕疵

3.2.1.16(目的物の瑕疵に対する買主の救済手段),3.2.1.17(救済手段の

(2)

要件と相互の関係),3.2.1.F(目的物の原始的一部滅失の場合),3.2.1.H

(数量超過の場合の特別規定)

序―適用範囲 第一項 責任の構造

第二項 追完請求権をどのように具体化したのか?

第三項 損害賠償請求 第四項 解除

 検討したその他の規定:【3.1.1.77(解除権の発生要件),【1.5.13(錯誤)

第五項 代金減額請求及びそれと矛盾しない損害賠償請求 1 要件

  ⅰ 瑕疵

     検討したその他の規定:【3.1.1.05(瑕疵の定義)

  ⅱ 買主の主観的態様(原始的瑕疵についての善意(・無過失))

2 具体例による検討 3 性質づけ

4 私見 第六項 代金増額 第四節 強制競売等

3.2.1.20(強制競売等における買受人の救済手段)

第五節 債権の売主の責任

3.2.1.22(債権の売主の責任)

第六節 同時履行規定の準用

3.2.1.24(同時履行規定の準用)

第七節 期間制限,瑕疵の検査・通知義務

3.2.1.D(期間制限),3.2.1.E(期間制限),3.2.1.18(瑕疵の通知義務),

3.2.1.19(事業者買主の検査・通知義務)

第一項 基本方針の論理 第二項 疑問点

第三項 検討

(3)

第四項 まとめ

第三章 「売主の担保責任」規定と「債務不履行責任」規定の総合的検討と提案 第一節 何が問題なのか―合意がない場合を認めるか?

第二節 前提問題の検討

第一項 契約当事者は常に合意をしているのか?

第二項 理論としての合意

 検討した規定3.2.1.23(売主の債務不履行責任に関する特約),

3.2.1.G(消費者売買についての特則)

第三項 私見

 検討した規定3.1.1.77(解除権の発生要件)  以上本号 第三節 立法提案―合意がない場合の処理

おわりに―立法・法改正と理論

第三節 物の瑕疵

3.2.1.16(目的物の瑕疵に対する買主の救済手段)(対応する現行民法の規定

570条,565条)

1 買主に給付された目的物に瑕疵があった場合,買主には以下の救済手段が 認められる.

〈ア〉 瑕疵のない物の履行請求(代物請求,修補請求等による追完請求)

〈イ〉 代金減額請求

〈ウ〉 契約解除

〈エ〉 損害賠償請求

2 瑕疵の存否に関する判断については3.2.1.27に従って危険が移転する時 期を基準とする.

3.2.1.17(救済手段の要件と相互の関係)(対応する現行民法の規定570条,

565条)

3.2.1.161で定められる各救済手段の認められる要件と相互の関係は,以 下のとおりとする.

〈ア〉3.2.1.161〈ア〉の代物請求は,契約および目的物の性質に反する場

(4)

合には認められない.

〈イ〉3.2.1.161〈ア〉の修補請求は,瑕疵の程度および態様に照らして,

修補に過分の費用が必要となる場合には認められない.

〈ウ〉3.2.1.161〈ア〉において,代物請求と修補請求のいずれも可能であ る場合,買主はその意思に従って,いずれの権利を行使するかを選択するこ とができる.

この場合において,買主の修補請求に対し,売主は代物を給付することによっ て修補を免れることができる.

また,買主の代物請求に対し,瑕疵の程度が軽微であり,修補が容易であり,

かつ,修補が相当期間内に可能である場合には,修補をこの期間内に行うこ とによって代物給付を免れることができる.

〈エ〉3.2.1.161〈イ〉は,売主に免責事由がある場合でも,また買主が履 行請求権を行使することができない場合でも,認められる.ただし,買主に

〈ア〉の救済手段が認められる場合,買主が〈ア〉の履行を催告しても売主が これに応じない場合に限って認められる.

〈オ〉3.2.1.161〈ウ〉は,瑕疵ある物の給付,または催告があっても瑕疵 のない物を給付しないことが契約の重大な不履行に当たることを要件とする.

〈カ〉 売主が免責事由を証明した場合には,【3.2.1.161〈エ〉の救済手段は 認められない.

〈キ〉3.2.1.161〈ア〉の追完請求が可能な場合,【3.2.1.161〈エ〉の救 済手段は,買主が相当期間を定めて,〈ア〉の追完請求をし,その期間が経過 したときに行使することができる.ただし,期間が経過したときは,売主は 追完請求の時点から損害賠償債務について遅滞に陥るものとする.

〈ク〉 買主が3.2.1.161〈イ〉の権利を行使した場合,【3.2.1.161〈ウ〉

の救済手段は認められない.また,【3.2.1.161〈イ〉の権利と相容れない

3.2.1.161〈エ〉の救済手段は認められない.

3.2.1.F(目的物の原始的一部滅失の場合)(対応する現行民法の規定565条)

物の原始的一部滅失に関する現民法565条の規定を削除し,物の瑕疵に関する 売主の責任の問題として処理するものとする.

(5)

3.2.1.H(数量超過の場合の特別規定)

売主が,当事者の合意または契約の趣旨に従って目的物が備えるべき数量を超 過する給付を行った場合については,とくに規定を設けないものとする.

*売主が,当事者の合意または契約の趣旨に従って目的物が備えるべき数量を超 過する給付を行った場合について,売主に一定の救済手段を認める規定を設ける とする考え方もある.この場合に,以下のような案を考えることができる.

[甲案]

1 売主の給付すべき目的物が,契約の当事者の合意または契約の趣旨に従っ て備えるべき数量を超過している場合,これを知った売主は,買主に対して,

相当な期間を定めて,数量が超過する部分に相当する価額の支払に応ずるかど うかを確答するように催告することができる.ただし,数量の超過が軽微なも のである場合には,この限りではない.

2 買主は1の催告に対して,契約を解除する意思を表示することができる.

31の催告期間内に買主が確答をしなかったときは,契約は解除されたもの とみなす.

[乙案]

1 売主の給付すべき目的物が,契約の当事者の合意または契約の趣旨に従っ て備えるべき数量を超過している場合,売主は1.5.13に従って売買契約を取 り消すことができる.

21の規定にかかわらず,買主は,数量が超過する部分に相当する価額を提 供することにより,売主の取消権行使を妨げることができる.

序―適用範囲

基本方針は,給付された目的物に物的瑕疵があった場合に,特定物(代物給付 が否定される点だけ異なる)と種類物を問わず,また原始的な瑕疵と後発的な瑕 疵とを問わず,同一のルールに服せしめる.また,瑕疵は隠れたもの(=買主の 善意・無過失)である必要はなく,瑕疵の基準となる性状は,合意により定めら れ,対価との関連付けがなくともよいとする.これらすべての場合に,売主は合 意により瑕疵のない状態で物を引き渡す義務を負っており,その不履行がある点

(6)

で共通しているからだとする.例えば,【3.2.1.Fで,「物の原始的一部滅失に関 する現民法565条の規定を削除し,物の瑕疵に関する売主の責任の問題として処 理する」理由として,「売買契約の合意によれば,滅失を生じていない状態で物を 引き渡す義務を認めるものであるとすると,一部滅失が原始的に生じていたか,

後発的に生じたかを問わず,売主がその債務を履行していないという点では同様 であると考えられる.」(詳解Ⅳ84頁)とする.

このような統合は,果たして可能なのか.確かに,特定物のドグマ・原始的一 部不能の理論を否定すれば,特定物売買においても,完全物給付義務を生ぜしめ ることは可能になる.だが,基本方針の統合には,売買契約の当事者の意思が常 に同じもの―完全物給付義務を生ぜしめるというものである必要がある.契約 当事者の個別的な合意(意思)を問題とする基本方針のもと,当事者が特定物売買 とした意思は,代物給付を否定するだけで,それ以外はすべて同じであるという ような認定はできないのではないか.瑕疵担保責任の債務不履行責任化という理 論のために同じにするというのであれば,理論の正当性が求められよう.

 当事者の合意→瑕疵のない状態で物を引き渡す義務→債務不履行

基本方針の提案は,一見,非常に簡明な処理になり,また買主の救済も広がり,

よいようにも思えるが,果たしてそうなのか.当事者の意思が,明確に完全物給 付義務を生ぜしめるというものであれば,問題はない.問題は,当事者の意思が 明確でない場合の処理の妥当性である.従来,任意規定の解釈の問題とされてき たことを,基本方針は,当事者は合意をしているとして,契約の解釈の問題とす る.もっとも,常に完全物給付義務を生ぜしめるものと解釈するようである.そ の結果,当事者(事業者や消費者)による区別もなく,買主が瑕疵につき善意でも 悪意でも区別されず,代金と対応した性状が欠ける場合とそうでない場合の区別 もなされない.

基本方針は,基本的に不完全履行(債務不履行責任)の処理を瑕疵担保責任の 問題に拡張しようとする.買主が消費者,売主が事業者(代物給付や修補能力が ある)の種類物売買において,目的物に瑕疵(代金に反映した性状が欠ける)

(7)

あり,買主が受領時に瑕疵につき善意の場合に,基本方針の提案は最も妥当しよ う.だが,その対極にある買主が事業者,売主が消費者(修補能力がない)の特 定物売買において,目的物に原始的瑕疵(代金に反映しない性状が欠ける)があ り,買主が契約時に瑕疵につき悪意の場合も同様に扱うべきなのだろうか.以下 では,担保責任の問題とされてきた特定物の原始的瑕疵についての売主の責任が,

債務不履行責任への統合によりどう変わるのかを中心にみていく.そして,当事 者の意思の点から,また実際の妥当性の点から,統合が成功しているのかを検討 する.

第一項 責任の構造

まず,責任の構造についてみる.【3.2.1.16は,目的物に瑕疵=契約不適合

(【3.1.1.05】)があれば,買主に履行請求,代金減額請求,契約解除,損害賠償請

求の救済が認められるとするが,これは債務不履行責任ではなく,契約違反の責 任ではないだろうか.債務について不履行があり,それにより瑕疵が生じたとい う判断を経ていないからだ.それを債務不履行責任と呼ぶ意味が分からない.ま た,もし債務不履行責任であれば,損害賠償請求権と履行請求権は債権者に帰属 することになる.細かい話だが,契約当事者と債権者が分離する場合(第三者の ためにする契約),債権が発生しない場合(代物弁済)もあるわけだから,厳密に 区別する必要がある.

次に,救済内容だが,「代物請求や修補請求は,【3.1.1.57(追完請求権)で定 められる追完請求権を売買契約に即して具体化したもの」であり,契約解除と損 害賠償請求は,「債務不履行責任の一般原則に従ったもの」ということである.ま た,代金減額請求権の趣旨は,「【3.2.1.11(権利移転義務の一部不履行)と同様」

ということである(詳解Ⅳ72(強調は戸田)).

第二項 追完請求権をどのように具体化したのか?

〈意思の内容〉

債権一般の効力の具体化ということだが,「売買」契約による債務であること は,無関係なのだろうか.請負契約ではなく売買契約を選択した当事者の意思に

(8)

差はないのだろうか.売買契約を締結することで,売主は,抽象的に契約で定め た目的物を取得できるよう手を尽くす債務を負担すると合意をしているというの だろうか.基本方針は,そのように考えているようである.すなわち,売買契約 の当事者の意思としては,特定物,種類物を問わず,瑕疵のない完全な物を「給 付する」というものだが,特定物のドグマ,原始的不能の理論により,「給付義 務」が制限されていた.特定物のドグマ,原始的不能の理論を否定することで,

当事者の意思に即した給付義務が認められ,売買目的物の瑕疵の問題は債務不履 行責任の問題として処理される.担保責任を債務不履行責任とするためには,売 主に常に完全物給付義務を負わせる必要があるが,基本方針は,常に完全物給付 義務の合意があるとすることでそれを達成しようとする.

問題は,当事者の意思である.基本方針は,当事者の意思は様々であるとして,

いくつもの補充規定の削除提案をしてきたにもかかわらず,ここでは契約当事者 の意思は常に同じ(買主に完全な目的物を取得させるため,売主ができることは 何でもする)であることを前提としている.これは,御都合主義ではないだろう か.当事者の通常の意思としては,特定物,種類物を問わず一定の性状を備えた 物を「引き渡す(所有権を移転する)」というものであろうが,「売買」という契 約類型を選択したにもかかわらず,常に,引渡しを超えて一定の性状を生じさせ る義務(修補義務など)を負担する意思が売主にあるとは解されない.ここで,注 意しなくてはならないのは,担保責任について法定責任説を採っても,修補義務 等の特約をすることは可能だということである.従って,当事者の意思がはっき りしていれば問題はない.どの説を採ろうと変わらない.問題は,当事者の意思 がはっきりしない(あるいは,ない)場合をどう処理するかである.基本方針は,

売買契約を締結した以上,常に完全物給付義務の合意があるとみるのに対し,法 定責任説では,売主は現状引渡しの義務しか負わず(現行民法483条),信義則等 の法規を根拠に修補義務を課すことで,不都合に対処しようとしてきた.

では,どう解するべきか.基本方針は,意思の認定に無理がある.売買契約に,

常に完全物給付義務の合意が含まれるとみることはできない.仮にそうみたとし ても,契約自由の原則により,別の名称のもと現在の特定物売買と同じ契約類型 が生まれるであろう.そうしたら,また,その契約のもと目的物に瑕疵があった

(9)

場合の処理を考える必要がある.従って,いずれにせよ,合意がない(はっきり しない)場合の処理を任意規定として決めておく必要がある.規定すべきは,修 補義務(を含む完全物給付義務)の合意がない場合ではないだろうか.以下,若干 の検討を行う.

当事者が請負契約ではなく売買契約という契約類型を選択したこと,かつ目的 物を特定物としたことをどう評価するのか.まず,売買契約であっても,目的物 を製造した売主には,修補の能力があるし,また修補を求められれば,それ欲す ることが多いであろう.そこで,目的物を製造した売主には,修補義務を認めて よい.そして,それは事業者にまで広げて良いのではないか.自らは製造してい なくても,グループ企業が製造していることもあるだろうし,そうでなくとも,

修補能力をもつ業者とつながりがあるであろうから,修補義務を負わせても過度 な負担にならない.また,同種の契約を繰り返し締結することから,修補を欲し ないのなら契約に修補義務を排除する条項を入れておくことが可能だからである.

それ以外の売主の場合は,普通,代金はお返ししますが,修補は勘弁してくださ いと考えるのではないだろうか.例えば,消費者が中古の家屋,自動車あるいは パソコンを売る場合,修補請求されるとは,考えてもみないだろう.代金減額や 解除,場合によっては損害賠償を請求されることは覚悟するかもしれないが,そ れ以外考えないだろう.今後,循環型社会が進むと,消費者が最終の使用者とな らないことが増えるであろうことを考えると,売主一般に修補義務・代物請求を 認めるのは,「循環」を妨げることとなり,適当でない.基本方針は,事業者と消 費者の区分を事業者買主の検査・通知義務3.2.1.19に関して認めるが,売主の 義務についても認めるべきである.

次に,当事者が特定物売買としたことをどう評価するか.基本方針は,特定物 売買の場合,3.2.1.17〈ア〉(「代物請求は,契約…に反する」)により,代物請求 の余地がない(詳解Ⅳ78頁)とするが,それ以外は,種類物売買の場合と全く同 じに解するようである.

「売主の責任を売主の債務不履行責任として捉える本試案の立場においては, 疵ある物に対する売主の責任は,特定物・不特定物を問わず,同一のルールに服

(10)

することになる」(詳解Ⅳ78頁).

その根拠は,担保責任につき契約責任(債務不履行責任)説を採るからだとするだ けである.だが,特定物の売主が修補義務を負う意思を有し,またそのような合 意をしている可能性は,完全物引渡義務を負う種類物の売主の場合よりも,ずっ と少ないのではないか.このことを任意規定にどう反映させるかが問題である.

特定物売買では,売主は「この物」を引き渡す義務を負い,代物引渡義務は負 わないことは争いがない.目的物の性状については,単に1.「この物が一定の性 質を備えているという合意」が付加されている場合と,さらに2.「この物に一定 の性状を備えさせる(義務を発生させる)という合意」が付加されている場合があ るはずである.基本方針は,当事者の合意内容を重視するといいながら,常に2 であるとする.だが,契約自由の原則からして,1のこともあるはずであり,実 際には1の場合が多いのではないかと思う.立法で決めなくてはならないのは,

瑕疵があった場合の処理につき,当事者の意思がない・はっきりしない場合の処 理であり,従来の瑕疵担保責任の規定(現行民法570条,565条)がこれに当た る.今回,法改正をするのであれば,任意規定(救済内容の規定)として,新た に,事業者である売主に限り,修補義務を規定すべきであると考える.なお,種 類物売買においては,売主(事業者)は,原則として,履行義務の内容として修補 義務を負い,同じ修補義務でも位置づけ,そしてまた要件が異なると考える.

第三項 損害賠償請求

損害賠償請求については,債務不履行の一般原則が適用されるとするだけで,

その適用の結果,従来の判例がどのように変わるのか,およびその結論の適否は 示されていない.特に,法定責任説と契約責任説の間での最大の対立点の一つで ある履行利益の賠償請求を認めることの適否が全く論じられていない.このこと からも,基本方針の提案は,学説(契約責任説)の立法化が目的であることがよく 分かる.

「本試案の立場に従えば,債務不履行の一般原則自体において,債務者は免責事

(11)

由を証明できないかぎり,債務者は損害賠償責任を免れることができず,また,

この場合に拡大損害についてどのように考えるかについても,一般原則における 損害賠償の範囲に関する考え方(具体的には,3.1.1.62(債務不履行を理由とす る損害賠償)以下の諸提案を参照)に依拠することになる.」(詳解Ⅳ83頁)

直前で,「とりわけ,履行利益賠償が当然に認められるか,またいわゆる拡大損害 について,売主の過失を要件とするかどうかについては議論が激しく対立してい た.」(詳解Ⅳ83頁)としていながら,履行利益賠償の問題は,どこかに行ってし まっている.例として挙げられているものも,拡大損害が生じた場合,それも種 類物売買についてだけである.これは,履行認容事例でないから,従来からの債 務不履行責任の問題であり,これまで担保責任とされてきた問題でどうなるのか は何も説明がない.仕方がないので,その例について若干の検討を加える.

サルモネラ菌が混入した食品をAから買ったBが食中毒になったという共通 事案で,Aがみずからその食品を生産していた場合(適用事例3–1は,「売主に 対して,その食品が安全性を備える物であることを引き受けていると考えること ができる.」とする.これに対して,ACから密閉された食品を買い受けB 転売した場合(適用事例3–2は,「適用事例3–1と同じ意味でその安全性につい てすべてのリスクを引き受けているといえるかどうかが問題となりうる.この点 は,債務不履行における免責事由がどのような範囲で認められるか,すなわち売 主が契約において『引き受けていなかった事由』(【3.1.1.63(損害賠償の免責事 由))に当たるとされるのはどのような場合かに依存する.」(詳解Ⅳ83頁)

なにやら禅問答のような説明である.適用事例としながら,一般論の繰り返しに 戻ってしまっている.結局どうなるのか分からない.

〈安全性の問題を「引受け」の問題とすることはできない〉

契約利益と異なり,安全性については,「引受け」があるとみるにしても,多く の場合,抽象的に引き受けるということになるのではないか.食品として物を売っ た売主は,食品としての安全性を引き受けていると言うこともできるだろう.で

(12)

は,売主はどのような表示をすれば,安全性を引き受けていないことになるのか,

それを示す必要がある.仮に,表示による免責が認められないのなら,売主の責 任は「引受け」によるものではないだろう.また,自己製造の食品の売主はすべ ての安全性を引き受けているのに対し,密閉された食品を転売した売主は「安全 性についてすべてのリスクを引き受けているといえるかどうかが問題となりうる」

というのは理解できない.むしろ逆になるのではないか.自己製造の食品の売主 は,製品の性質等について十分理解しているわけだから,個別のリスクを認識し ている(あるいはその可能性がある)ので,個別のリスクごとの引受けということ になりやすい(引き受けていないリスクもありうる).これに対して,密閉された 食品を転売した売主の場合は,自ら製造していないわけだから,多くの場合,個 別のリスクの認識が困難である.安全性の引受けと構成すると,多くは抽象的・

包括的な引受け(個別的に引き受けていないリスクはない)になるのではないか.

このように,安全性の問題を「引受け」の問題とすることは,契約利益以上に問 題である.自己製造の食品の売主と密閉された食品を転売した売主の責任の違い は,引受けの違いではなく,安全性へのコントロールの可能性の違いから生じる のではないか.ここで,「引受け」理論に無理があることが,一層,明確になっ た.

私は,「引受け」理論が特定物の原始的瑕疵の責任にどのように適用されるのか に興味をもって,解説を読んだが,何も書いていない.立法は基準の設定である のに,基準を示す気はないようである.こちらで考えて論じても,違うなどと言 われては困るので,いくつかの疑問点を指摘するにとどめる.まず,免責につい て,瑕疵は契約締結時に既にあったのだから,引受けを「契約締結時に瑕疵がな いこと」の引受けとしてとらえ,瑕疵があれば責任を負う,すなわち免責はない ととらえるのだろうか.あるいは,契約締結前の瑕疵の発生原因について引受け を問題にし,免責を認めるのだろうか.次に,賠償範囲について,例えば,土地 の数量指示売買で面積不足による履行利益の損害賠償が問題になった判例(最(一 小)判昭和五七年一月二一日(昭五四(オ)一二四四 民集36171頁))の結 論がどう変わるのだろうか.通常の値上がり益については,契約締結時に両当事 者が予見可能であったとして,損害賠償の範囲に含まれることになりそうである

(13)

(【3.1.1.67】).そうであれば,面積の表示が「特段の意味」を有するときにだけ,

履行利益の賠償を認める上記判例を変更したことになる.それでよいのだろうか.

解除権と代金減額請求権は,追完請求権と損害賠償請求権から一転して,契約 に根拠を求めることなく構成する.まず解除である.

第四項 解除

基本方針は,解除の要件として,現行民法566条の「契約をした目的を達する ことができないとき」に代えて「契約の重大な不履行」(【3.2.1.17〈オ〉)を規定 することを提案する.その理由は次のようなものである.

「物の瑕疵を理由とする契約の解除についても,債務不履行の一般原則による解 除として位置づけることが可能であり,また,その一般原則とは別の要件のもと で解除を認めるべき理由がないと考えられる」(詳解Ⅳ82頁).

現在の基準では契約の解除が認められない不都合な場合があるから,解除の範囲 を広げ,解除できるようにするというのではない.瑕疵担保責任を債務不履行責 任とするため,「債務不履行の一般原則による解除」の要件と同じにするというも のだ.では,「一般原則による解除」はどう規定されているか.

3.1.1.77(解除権の発生要件)

1 契約当事者の一方に契約の重大な不履行があるときには,相手方は,契約 の解除をすることができる.

〈ア〉 契約の重大な不履行とは,契約当事者の一方が債務の履行をしなかった ことによって,相手方が契約に対する正当な期待を失った場合をいう.

以下省略

「契約の重大な不履行」の「重大」とは,「相手方が契約に対する正当な期待を 失った場合」を指すということだが,これと「契約をした目的を達することがで

(14)

きないとき」とどう違うのか.提案要旨によると,無催告解除に関する判例実務 等を包摂するため「本提案1〈ア〉は,契約の重大な不履行の一般的な判断基準 を,『契約の目的を達し得ない場合』よりも広い定式を採った.」(詳解Ⅱ294

(強調は戸田))ということである.では,瑕疵担保責任に相当する基本方針の責 任において,解除は認められやすくなったのか(買主の善意・無過失,催告の問 題はおいておく).そのようにも思えるが,「判例実務等を包摂」が変更の目的な ので,実際には変更を意図していないのかもしれない.

このように変更は,判断基準の変更が目的ではなく,債務不履行責任の一般原 則をもってくること(瑕疵担保責任の債務不履行責任化)が目的であるので,その 適否は理論の適否の形でしか論じられない.理論全体の検討は別のところでやる.

ここでは,判断基準の形式を,契約責任の中での一貫性の点から問題としたい.

債務不履行があれば,常に契約解除が認められるのではないという点には,異 論はないと思われる.これを,「『重大な』債務不履行があれば契約を解除できる」

と定式化しておく.立法上,契約解除権を制限する仕方として,大きく三つの仕 方が考えられる.まず,Aそのまま,「重大な」債務不履行があれば契約を解除 できるとする仕方がある.契約解除が制限されることのみを示し,裁判所が「重 大な」を認定する仕方に制限を加えない.具体的な制限の基準は,判例の集積を 待つということになる.これは,帰責事由について「責めに帰すべき事由」と規 定したり,損害賠償の範囲について「相当因果関係に立つ損害」と規定したりす るのと同じである.次に,B「重大」か否かは,基本的に債権者の主観を基準に して,それが一般的にみて正当かで絞りをかける仕方が考えられる.債務不履行 責任ではないが,現在の担保責任における解除も同じ考え方に立つ10.それから,

C「重大」か否かは,両当事者を基準にして,例えば,当事者が重要であると考 えた事項につき債務不履行があれば契約の解除ができるとする仕方も考えられる.

これを,契約解除権の発生を合意した場合に解除権の発生を認めると構成するか は理論の問題である.

基本方針の「契約の重大な不履行」はAの規定の仕方であり,これを「相手方 が契約に対する正当な期待を失った場合」とBの規定の仕方に言い換えている.

だが,これらの規定の仕方は,他の「当事者の合意を基軸にすえた債務者の責任

(15)

という考え方」(シンポ102頁)に基づく規定の仕方Cとは一貫しない.特に 免責事由についてまで合意(「引受け」)があるとみるのなら,当然,契約の解除に ついても合意があるとみることになるのではないだろうか.基本方針も,おかし いと思ったのか,解説の中で次のように述べる.

「この期待とは,当事者に『契約規範』によって認められた利益を意味し,この 利益の内容も『契約規範』によって当事者が引き受けているリスクは何かという 観点によって決定される.ここでいう『契約規範』とは,当初契約意思を出発点 として,『契約の解釈』(【3.1.1.40】〜【3.1.1.42参照)および法律による『補充』

をとおして決まる,契約当事者間の権利義務関係の総体を指す.」(詳解Ⅱ297

(下線は戸田))

この解説は,「期待」が「利益」であるとするなど,全体として理解不能である.

解除を無理やり「引受け」と結びつけるためのこじつけとしか思えない.

基本方針の上記の考え方が一貫していないのは,同じ契約の解消の問題である 錯誤においても同様である.

1.5.13(錯誤)

1 法律行為の当事者または内容について錯誤により真意と異なる意思表示を した場合において,その錯誤がなければ表意者がその意思表示をしなかったと 考えられ,かつ,そのように考えるのが合理的であるときは,その意思表示は 取り消すことができる.

2 意思表示をする際に人もしくは物の性質その他当該意思表示に係る事実を 誤って認識した場合は,その認識が法律行為の内容とされたときに限り,〈1 の錯誤による意思表示をした場合に当たるものとする.

34 省略

(強調は戸田)

錯誤においては,物の性質の錯誤は動機の錯誤であることを前提に,性質の認

(16)

識=動機が法律行為の内容とされたら,法律行為の錯誤として取消しの可能性を 認める.提案要旨は,「本提案2では,事実錯誤について,判例にみられる考 え方に従い,事実についての誤った認識が法律行為の内容とされたときに限り,

意思表示の取消しを認めることとしている.」(詳解Ⅰ105(下線は戸田))とす る.ここでは,物の性質は給付義務の内容にならない=動機であるとする現在の 判例の立場を追認して,判例の定式化をおこなっているのである.現在の判例の 立場では,また,売買目的物が特定の性質を有することを合意したとしても,給 付義務の内容になるのではなく,現行民法570条の瑕疵の基準になるにすぎない

(例えば,大判昭和八年一月一四日(昭七(オ)八一五 民集1271頁)).とこ ろが,基本方針は,契約責任においては,これとは異なった立場を採る.当事者 の合意の及ぶ範囲を広く認め,合意を根拠に法効果を導き出そうとする.それで 一貫させると,動機の錯誤の処理が従来の判例と異なってくるはずである.

基本方針の債務不履行責任の考え方からすると,「物の性質」の「認識」が「法 律行為の内容とされた」ら,実際の物の性質を認識した物の性質に合わせる債務

(完全物給付義務)が発生するのではないか.そして,債務不履行の問題として処 理されることになるのではないか.基本方針は,たとえそれが原始的不能であっ たとしとても,瑕疵のない物の給付義務を認めるからだ.なお,給付の対象でな い事実の錯誤についても,誤った認識が「法律行為の内容」になったのなら,錯 誤という法規による処理ではなく,合意による処理ということになるのではない だろうか.すなわち,三宅・高森説(「合意そのものを直視し,条件・前提・保証 など合意された動機という視角によって処理しようという立場」11が基本方針の 立場に適合的である.

以上,基本方針では,当事者の合意のとらえ方が一貫していないことを確認し て,次にいく.

第五項 代金減額請求及びそれと矛盾しない損害賠償請求

基本方針は,代金減額請求権においては,もはや合意による根拠づけを放棄す る.それだけではなく,「引き受けられた債務の履行がないことに対する売主の責 任とは異なる性質のもの」(詳解Ⅳ58頁)とするだけで,どのような性質の責任

(17)

かを示していない.それにもかかわらず,規定上は債務不履行の効果のような書 き 方 を し て い る.だ が,代 金 減 額 請 求 及 び そ れ と 矛 盾 し な い 損 害 賠 償 請 求

(【3.2.1.17〈ク〉参照)は,実質的には担保責任ではないか.そのため,債務不履 行責任理論による契約責任統一の立法をしようとしている基本方針が,ぴたりと 理論づけをやめてしまったのではないか.これはちょうど,債務不履行責任の原 則規定で,引受けによる責任に「債務者が債務不履行時までに予見可能な損害に ついての損害回避義務違反による損害賠償責任」(実質的には過失責任)を潜り込 ませるやり方に似ている.

代金減額請求及びそれと矛盾しない損害賠償請求については,すでに一部他人 物売買のところで検討した.だが,そこでは,基本方針の立場に立った場合の矛 盾点,疑問点の指摘が中心であった.ここでは,さらに踏み込んで,独自に性質・

要件の検討を行う.その際,基本方針とは異なり,権利の瑕疵と物的瑕疵の違い にも考慮が払われる.

(1) 要件

ⅰ 瑕疵

3.2.1.16は,給付された目的物に瑕疵があったら,代金減額請求できると規

定するが,代金減額に適する瑕疵とはどのようなものだろうか.もちろん,明確 な合意をすれば,どのような瑕疵であっても構わない.だが,そうではない場合,

買主が代金減額を欲し,それがもっともであると考えられる瑕疵についてだけ,

代金減額が正当化される.まず,考えられるのは,対価と関連づけられた性状(数 量も含む)が欠けた場合である.一定の性状を備えているということで,その分 代金を増やしたのだから,その性状が備わっていなければ,損害賠償請求は認め られなくとも,少なくともその分代金を減額して欲しいと買主が考えるのは,一 応もっともなことである.ところが,基本方針は,瑕疵の基準となる性状につい て,対価との関連付けを積極的に排除する.

3.1.1.05(瑕疵の定義)

物の給付を目的とする契約において,物の瑕疵とは,その物が備えるべき性能,

(18)

品質,数量を備えていない等,当事者の合意,契約の趣旨および性質(有償,無 償等)に照らして,給付された物が契約に適合しないことをいう.

*「物の瑕疵」の文言を「物の契約不適合」とする考え方もある.(強調は戸田)

3.1.1.05(瑕疵の定義)は「いわゆる量的瑕疵をも含むものである.したがっ

て,数量不足の場合について,現民法565条のような特別規定を置くことは不要 となる.また同条においては,その適用の前提としていわゆる数量指示売買に当 たることが要件とされていたが,本試案においては,瑕疵に当たるかどうかが重 要であり,量的瑕疵について,従前の数量指示売買と要件が同じではないことに 留意が必要である.」(詳解Ⅳ73頁,75(下線は戸田))

基本方針の姿勢が,よく表れた一節である.これを読んで,多くの人が感じる であろう疑問は,「結局どう変わるのか」ということではないだろうか.現在の法 律及び判例のその解釈「民法五六五条にいう『数量ヲ指示シテ売買』とは,当事 者において目的物の実際に有する数量を確保するため,その一定の面積,容積,

重量,員数または尺度あることを売主が契約において表示し,かつ,この数量を 基礎として代金額が定められた売買を指称するものである.」12(下線は戸田) どのような問題があり,それを解決するために,このように修正するという説明 はない.ただ,基本方針はこのような立場に立つから,現行民法が変わるのだと しか言っていない.こう良くなるという具体例一つすら挙げられていない.これ では,「そうですか」としか言い様がない.これは,理論を立法化することに基本 方針の主眼があるからではないだろうか.

ここで確認しておきたいのは,基本方針では,売買目的物に一定の性状がある と当事者が合意で定めれば,それが代金に反映しなくとも,瑕疵の基準となる性 状になることである.だが,そのことは,「隠れた」=買主の善意・無過失要件の 削除と相まって,おかしな結果をもたらす.この点は後にまとめて,具体例を挙 げながら説明する.

基本方針は,自説の根拠づけの場面では,瑕疵の内容をすり替えている.まず,

「隠れた」=買主の善意・無過失要件を削除する理由を説明する中での瑕疵は,代

(19)

金額に反映した性状が欠けた場合を意味する.

現行民法570条の瑕疵が「隠れた」という要件(=買主の善意・無過失)は,

「瑕疵の存否が,契約当事者が何を合意したか,あるいは契約の趣旨や性質に従っ て判断されることになる場合,それと整合的とはいえない.たとえば,売買契約 の当事者が目的物に一定の性能・品質・数量が備わっていることを合意し,これ に応じて代金を決定したような場合には,その目的物について備えるべき性能・

品質・数量が備わっていなかったことについて,買主がこれを知りえたとしても,

売主が履行すべき義務を履行していないことに変わりがないと考えられるからで ある.」(詳解Ⅳ73(下線は戸田))

代金減額を認める理由を説明する中での瑕疵も同様である.

「一般に,契約上の債務を引き受けた債務者は,一定の場合には履行義務そのも のを免れ,また不履行が生じた場合においても,免責事由が認められるときには 損害賠償義務を負わない.しかし,これらの事情が認められる場合であっても,

売買契約当事者が,売買代金を決定するに際して,目的物の一定の性質・状態等 を前提として対価を決定したときは,何らかの事情に基づいて目的物がそのよう な性質・状態等を備えることができず,かつ,そのことについて売主が履行責任 を負わず,また損害賠償義務を免れるとしても,売主が合意された対価全額を保 持することは,合意された等価性に反するものと考えられる.買主は,少なくと も,合意されていた等価性が失われる場合,過剰に支払った,ないし過剰に支払 うべき代金の限度において,その減額を求めることができるものと考えられる.」

(詳解Ⅳ58(権利移転義務の一部不履行))(下線は戸田)

本来,規定を変えようとする場合,変わる部分(代金と対応しない性質,数量) 例に説明すべきなのに,変わらない部分(変わっても数量指示売買の延長線上に あるもの)を例に説明をしている.これでは法改正の趣旨になっていない.もし,

こちらの「瑕疵」が本当に意図されているものなら,数量指示売買(現行民法565

(20)

条)を削除するのではなく,数量指示以外に代金と対応させた性状が欠けた場合 にも代金減額を認めるというように変えるべきであろう.その上で,削除するの は,瑕疵担保責任(同570条)ということになる.さらに瑕疵の定義についても,

代金と結びつけられた数量・性状が欠けた場合というように変わることになる.

〈物的瑕疵と権利の瑕疵の違い〉

現行民法では,563(権利の一部が他人に属する場合における売主の担保責 任)565(数量の不足又は物の一部滅失の場合における売主の担保責任)にお いては代金減額を認め,566(地上権等がある場合等における売主の担保責任)

570(売主の瑕疵担保責任)においては代金減額を認めない(損害賠償がその 機能を兼ねる).その区別は,瑕疵による減価の割合を知ることが容易(前者) 困難(後者)かによる.

基本方針は,後者の場合にも代金減額を認めようとする.

まず,利用を妨げる権利の存在等3.2.1.13についてみる.

「権利の一部移転不能や数量不足等の場合においても,割合的算定が必ずしも容 易とは限らず,この区別に合理性があるとはいえない.また,売主が免責事由を 証明できる場合であっても,代金減額請求権による救済手段を認める必要がある ことから,ここでは代金減額請求を損害賠償請求とは別にあらたに認めることと した.」(詳解Ⅳ68(下線は戸田))

「代金減額の算定の困難性は,権利の量的な不足の場合にも生じる問題であり,

現民法563条の場合と566条の場合のような相違を正当化することができないこ とはすでに述べたとおりであるが(【3.2.1.11の解説参照),たとえば留置権によ る権利の制限について代金減額請求における減価の算定がどのように行われるか については問題も指摘された.この場合に限らず,減価の算定が容易でない場合 が生じうることは否定できないが,それが困難であれば,損害額の算定について も同様の問題が生じ,その困難性は,代金減額請求権という救済手段を否定する ことにはならないことだけを指摘するにとどめる.」(詳解Ⅳ68(下線は戸田))

権利の一部移転不能や数量不足等の場合も,「割合的算定が必ずしも容易とは限

(21)

ら」ないとするが,具体例が挙げられていない.民法制定以来100年以上の期間 中に出た判例で,代金減額に不都合があったものがあるのだろうか.少し考えて みても,数量指示売買は容易である.権利の一部移転不能は,同種の複数の権利 の売買で一部が移転不能の場合は,容易であろう.1個の権利の売買でその一部 が移転不能の場合は,(準)共有の持分権であれば容易である.1個の物の一部分 の権利(所有権)が移転不能というのは,一物一権主義からしてその物は土地に限 られるだろう.土地は基準となる価格があるので,割合的算定はさほど困難では ないだろう.問題は,売買目的物の一部滅失であるが,全ての一部滅失ではなく,

効果から考えて滅失分の割合が確定できる一部滅失に限り13,それ以外は瑕疵担 保責任の問題にするとすれば,不都合は生じない.

また基本方針は,減価の算定が困難であれば,「損害額の算定についても同様の 問題」を生じるとするが,理解できない.損害賠償請求は,具体的に発生した損 害について証明できた分についてだけ認められるのであり,権利の瑕疵による損 害全部を主張・立証する必要はない.基本方針が挙げる留置権については,留置 権の存在により目的物を利用できなかったことによる損害額の証明はさほど困難 ではあるまい.これに対し,代金減額をするためには,前提として瑕疵がある目 的物の価額を評価する必要がある.基準時における留置権付きの目的物の価額を 評価するのは,はるかに困難であろう.

現行民法570条の物的瑕疵の場合は,権利の瑕疵に比べて減価の算定がはるか に困難であると考えられるが,基本方針はそうは考えない.

570条における「代金減額請求については,民法の起草者は,現民法563条の 場合と区別して,自覚的にこれを否定し,実質的に代金減額請求に当たる部分に ついても損害賠償請求の問題として処理することを前提としていた.しかし,す でに3.2.1.11(権利移転義務の一部不履行)3.2.1.13(利用を妨げる権利の 存在等)においても指摘したとおり,このような区別が適切かどうかは疑問があ る.また,代金減額請求と損害賠償請求の趣旨は異なるものであり,買主は,権 利移転の一部不履行や権利行使を妨げる権利が存在する場合におけると同様に,

売主に免責事由が認められる場合であっても,また履行請求権を有しない場合で

(22)

あっても,代金に相応する価値を備えた物の給付が得られない場合の最小限度の 救済手段として,代金減額請求を行使できるものと解される」(詳解Ⅳ80(目 的物の瑕疵に対する買主の救済手段)).そして,〔適用事例2–1(詳解Ⅳ80頁以 下)では,家屋の売買において,契約締結時に「構造部分に重大な欠陥が存在」 た事例を取り上げる.

基本方針の論理はおかしい.現行民法の,割合的算定が容易なものについては代 金減額を認め,割合的算定が困難なものについては損害賠償でいくという区別に 対して,「適切かどうかは疑問がある」とするが,その理由は,代金減額が認めら れる現行民法563条と566条の場合も「割合的算定が必ずしも容易とは限ら」な いというものである.実例が挙げられていないので分からないが,仮にそれが無 視できない事実であるとしても,そこからは,線引きを変えるとか,全ての場合 に損害賠償でいくという提案は導かれても,割合的算定が困難でも代金減額を認 めるという提案は導かれない.割合的算定が困難な場合の,代金減額の方法を規 定するなら分かるが,そのような手当ては全くなされていない.解説でも,具体 的な適用事例を掲げるとしながら,〔適用事例2–1には代金減額の仕方はまった く書いていない.

ここでもまた,基本方針の関心が理論の立法化であることが分かる.担保責任 における契約責任(債務不履行責任)説を採用するというのがまずあって,その不 都合と考えるところ(損害賠償責任が無過失責任ではなくなり,売主が免責され る場合が生じる)の穴を埋めるために代金減額を持ち出したのだろう.理論とし ては,契約責任説だけがあって,穴を埋めの代金減額については,その理論づけ はもちろん方法など関心の埒外である.

基本方針は,物の瑕疵の基準となる性状(数量も含む)について,対価との関連 付けを積極的に排除したうえで,権利の瑕疵と物の瑕疵を区別せず,また代金減 額の難易を問わず,瑕疵があれば代金減額を認める.だが,代金減額の場面で,

その難易は別にして,権利の瑕疵と物の瑕疵に違いはないのだろうか.

代金減額の前提として,権利・性状と代金との対応があげられる.

権利の存在は常に代金に反映する.目的物の権利があってもなくても(制限さ

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