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I 契約関係にない助言者の責任

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Academic year: 2022

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(1)

はじめに 第 一 章 ロ ー マ 法 文 第二章一九世紀のドイツ普通法学 第三章一九世紀のドイツ普通法における判例の展開 第四章一九世紀のドイツにおける立法例と

BGB

の立法過程

むすびに代えて

I

現代的な関心によるその歴史的な考察|—ー

契 約 関 係 に な い 助 言 者 の 責 任

九 九 教

12‑2 ‑221 (香法'92)

(2)

問 題

が あ

る ︒

この問題は哭約の内容にしたがって規律される︒ X は Y の助言にしたがって A と契約した︒しかし︑ Y の助言には過失に基づく瑕疵があり︑

(2 ) 

て損害を受けた︒ X は Y に助言に際しての過失を理由として損害賠償を請求できるか︒

X

Y 間において助言することについての契約関係が存在すれば︑

契約の性質や具体的な内容については問題が残るが︑過失ある助言は契約に基づく義務の違反であるとして︑契約責 任を承認することができる︒しかし︑助言についての契約関係がない場合には︑責任が発生する法的な根拠からして

もちろん︑契約関係にない場合であっても︑不法行為責任を承認することができる︒しかし︑助言の場合には︑

とえ助︱︱︱口をするに際して過失があり︑助言にしたがった結果︑損害が発生したとしても︑なお︑違法性の要件につい

て検討する必要があるように思われる︒たとえば︑先の例では︑ Y が X の権利に直接に損害を与えているのではなく︑

いわゆる純粋財産損害である︒したがって︑ X に Y の助言に促されて︑ X が A と取引をした結果損害を被っている︒

損害が発生したからといって直ちに不法行為が成立し︑損害賠償請求権が認められるわけではない︒

とはいうものの︑損害賠償責任を承認する必要があると考えられる場合も存在する︒たとえば︑売主が依頼した土

地家屋調査士の測量図を基礎にして土地を購入したが︑測量図が不正確で買主が損害を受けたような場合については︑

専門知識があり︑

その情報に高い信頼が寄せられる土地家屋調査士に対して買主が直接責任を追求することができな

は じ め に

X は A との契約によっ

1 0 0  

12‑2 ‑222 (香法'92)

(3)

芙約関係にない助言者の責任(田中)

もちろん︑前世紀に形成された近代民法の原則が︑今世紀も終わりに近づいている現代社会において︑

は妥当しえないことは疑いない︒しかし︑

意味ではあるまい︒近代民法の原則がどのように変更されたのか︑ なぜ変更される必要性があったのかということを

(7 ) 

知ることなくしては︑現代の民法の意味を知ることはできないであろう︒

近代民法の原則が︑

ある︒変更されたか否かの基準となるべき近代民法の原則それ自体が必ずしも自明のものではなく︑

代民法の原則であるのかが問題とされざるをえない︒他方︑現代において通用しているとされる民法が具体的にはど のような内容を持っているのかを正確に把握することも難しい︒学説においては多くの見解の対立があり︑判例も相

互に矛盾がないとは必ずしも言い切れないであろう︒このように︑ 認してみたい︒ このような議論状況を前にして︑本稿では︑助言者の責任に関する近代民法の原則はそもそも何であったのかを確

ど の

よ う

に ︑

者の責任を肯定しようとしている︒ そこで︑このような契約関係にない助言者の責任について︑ドイツでは︑黙示の情報契約︑隠れた本人との喫約︑

第三者のための保護効を伴う契約を擬制したり︑権利外観論︑信頼責任論︑表示責任などによって契約責任あるいは

それに類似する責任を肯定しようと試みられているようである︒日本においても︑最近の判例は︑その傍論において︑

不法行為責任との関係ではあるが︑信頼という観点を示唆している︒つまり︑助言者の過失ある行為を︑擬制された

契約関係あるいは特別の法的な債務関係に基づく義務の違反としたり︑信頼に反した違法な行為であるとして︑助言

(4 ) 

いのかは一考を要する︒

なぜ︑変更されたのかという問題に解答するためには︑

1 0  

そのままで

そのままで妥当しえないからといって︑近代民法の原則は現代に対して無

そもそも何が近

どのような近代民法からどのような現代民法に変 いくつかの困難な問題が

12‑2 ‑‑‑223 (香法'92)

(4)

近代民法の原則が確立したのは︑ いうことになるのではなかろうか︒ 変更されたのかという問題に目を閉ざすことは︑ の意味を問うことを止めることである︒それは︑目前の問題の本質︑ いる問題なのか︑

それとも近代民法の限界を示す問題なのかということを理解せずに︑感覚に頼って場当り的な解決

を重ねることになるのではないだろうか︒あるいは︑自己を規律する法律に対して批判的観点を持つことなく︑

意味もわからないままに法律の要求するところにしたがい︑

そこで︑本稿では︑近代民法の原則が︑ どのように︑なぜ変更されたのかという問題の準備作業のひとつとして︑

(8 ) 

そもそも近代民法がどのような判断をしていたのかということを確認することを課題とする︒その判断がどのような

背景をもっていたのか︑どのように変更されたのか︑なぜ変更されたのかは︑私の関心からして重要な問題であるが︑

. .

本稿の直接の対象ではない︒  

一九世紀に実現した市民社会においてであり︑ この市民社会を背景とした市民法

(9 ) 

学であった︒その市民法学の一類型が一九世紀のドイツ普通法学であることには異論はないであろう︒その一九世紀

のドイツ普通法学の集大成であるとされるドイツ民法典において︑本稿が考察の対象とする助言者の責任が明文︵六七

( 1 0 )  

六条︶によって否定されている︒そこで︑本稿では︑このドイツ民法典の規定に至るまでの一九世紀のドイツ普通法に

し か

し ︑

ロい様がないというのが実際であろう︒ 更されたのかを確定することすら困難が伴うが︑なぜ変更されたのかに答えることにはそれ以上の困難が伴う︒政治︑ 社会︑経済など実に様々な原因が考えられる︒

おそらくそれらの原因が複雑に絡みあって法の変更を帰結したとしか

このような困難を前にして︑問題に目を閉ざす訳には行かない︒近代民法の原則が︑

﹁自由﹂をはじめとする近代民法の積極的な意義を忘れ去り︑現代法

その不当な結果に対しては︑ つまり︑近代民法が解決の指針を十分に与えて どのように︑なぜ︑

そ の

ただ諦めの気持ちを持つと

1 0  

12 ‑ 2  224 (香法'92)

(5)

契約関係にない助言者の責任(田中)

で ︑

ともかく私なりの考察をはじめてみたい︒ く限定しても︑私にとってはなお荷が重く︑ とができるであろう︒ 況の変化に伴って︑ このことによって︑助言者の責任についての近代民法の原則が︑ その後の社会状

今日のような状態に変化せざるを得なくなった理由を明らかにするひとつの基準点を獲得するこ

このように考察の対象を︑ 助︱︱百者の責任についての一九世紀のドイツ普通法における議論に狭

粗雑な考察しかできないが︑何時までも躊躇していても埓があかないの

粗雑な点は本稿に対する批判を受けてから後に修正することとし︑

( l )

本稿では︑考察の便宜のために事例をこのように簡略化するが︑実際の事例では︑たとえば証券取引を想定すると︑次のような場

合が考えられる︒

x

︵顧 客︶ が

Y

︵証券会社︶から証券の購人に際して助言を受け︑

Y

を介してA︵証券の売主あるいは発行会社︶か

ら証券を購入したが︑証券を発行している会社が倒産したという場合である︒ここでは︑

X

Y

の間に委任契約が存在し︑

X

A

の間 に ︑

Y

を介して直接︑間接に売買芙約が成立する︒そのため︑瑕疵ある助言についての

Y

の責 任は

X

Y

間の委任哭約の効力とも関係

して︑きわめて複雑な問題を提供する︒

( 2 )

この事例におけるXの救済としては︑たとえば︑錯誤や詐欺によって

X

A間の契約を無効にしたり︑取消すことが考えられる︒哭

約を締結する際の助言や推薦が意思表示の効力に与える影秤という問題は︑

Y

のような第三者ではなく相手方自身が助言や推薦する

場合とも関連して興味を引く︒例えば︑相手方が契約の交渉に際して契約の有利な点を誇張したり︑不利な点を黙秘したりした場合に︑錯誤や詐欺が考えられるのか。あるいはそれ以外の根拠で相手方に責任が発生するのかなどが問題になる。Vgl•

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  4 88 , 

519 

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その紹介として︑円谷峻︑﹁契約交渉上の過失﹂に関するメディクスの鑑定意見︑法学志林八五巻二号(‑九八七年︶四九頁以

下︒このほかに︑後藤巻則︑フランス喫約法における詐欺.錯誤と情報提供義務︵一︶ー︵三︶︑民商法雑誌一

0

二巻二号︵一九九

0

年 ︶

五八頁以下、森田宏樹、「合意の瑕疵」の構造とその拡張理論(一)ー~(三)、NBL四八二号、ニニ頁以下参照。

この問題については︑喫約の解釈や詐欺・錯誤という意思表示に関連する大きな問題を含んでいるので本稿では直接には取り扱わな

い︒後に紹介する判例でも︑

X

A間の喫約の有効性は前提にされているようであり︑また︑注ーであげた証券取引などの場合には︑A

1 0

三 おける議論を考察することにする︒

12‑2 ‑225 (香法'92)

(6)

が破産しているとすれば︑売買の効力を否定しても必ずしもXを救済することにならない︒疑問なしとしないが︑将来の課題として留

保し︑一応

X

A

間の喫約が有効であることを前提として考察を進めたい︒

( 3 )

松本恒雄︑ドイツ法における虚偽情報提供者責任論︵二︶︑民商法雑誌七九巻三号(‑九七八年︶六一頁以下︑岡孝︑情報提供者の

責任︑現代喫約法大系第七巻サービス・労務供給契約︑有斐閣一九八四年︑三

0

九頁 以下

︒ ( 4 )

岡︑大系七巻三

0

七頁であげられている事例である︒

( 5 ) 松本︑民商七九巻三号八八頁以下︑岡︑大系七巻三一五頁以下︑田慮博之︑ドイツ法における情報提供者の責任ー銀行情報を中

心として││︑早稲田法学会誌三八巻︵一九八八年︶四八頁以下︒

( 6 )

東京地裁判決平成二年九月一七日判例時報一三八七号九八頁︒

( 7 )

このような問題提起に対しては︑個人の自由を最優先させていた近代とは異なり︑現代では︑個人は社会の中の個人として把握さ

れ公共の福祉が優先するのであり︑個人の意思を重視し喫約を中心として構成された近代民法は変更されざるをえず︑﹁契約の締結が

ないにも関わらず︑なぜ﹂という問題を設定すること自体が︑近代民法に必要以上に固執した結果であり︑現代民法を理解する妨げと

なるだけであるという批判があるいはあるかもしれない︒私のこのような批判の先取りが杞憂であれば幸いである︒

( 8 )

現代ドイツの情報提供者の責任についての議論の状況については︑注3引用の文献参照︒なお︑松本︑民商七九巻二号二九頁以下

は ︑ BGB

六七六条の成立史にも触れている︒

( 9 )

もちろん︑イギリス︑フランスにおいても︑市民社会が形成され︑ドイツとは異なる市民法学の類型が存在していたことを否定す

るものではない︒

( 1 0 )   We r  e

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﹁ 伽  

g A

に肋字︱︱口あるいは雄ヰ鷹をした虫口は︑英約あるいは不法行為に基づいて発生する責任を

除いて︑助言あるいは推薦にしたがった結果発生した損害を賠償する義務を負わない﹂︵拙訳︶

1 0

12‑‑2 ‑226 (香法'92)

(7)

契約関係にない助言者の責任(田中)

さ ら

に ︑

らかにするということであるから︑ ただ︑本稿の主題が︑ になされていることになり︑ このようなやり方をとる場合には︑

資料の限定

ロ ー マ 法 文

1 0

五 一九世紀のドイツ普通法学の文献で︑しかも私が利用できた 一九世紀のドイツ普通法における議論を理解するためには︑

まず︑当時の議論が依拠したローマ法文について一定

の予備知識を備えておく必要がある︒しかし︑歴史を専門としていない私は︑ローマ法に関する資料や文献を渉猟し︑

かつ検討を加えることはできない︒そこで︑本稿では︑

文献に限って︑そこで使用されている法文を中心として概観することとしたい︒

も ち

ろ ん

ローマ法の素材に関して一九世紀のドイツ普通法学者による一定の選択がすで

ローマ法を古代ローマにおいて理解されたそのままの形で再現することにはならない︒

ローマ法を古代ローマで理解された意味で忠実に再現し︑それと一九世紀のドイツ普通法学における理解

との違いを明らかにできれば︑一九世紀のドイツ普通法学の特殊性をより詳しく明らかにできることに間違いはない︒

一九世紀のドイツ普通法における議論を考察し︑助言者の責任についての近代民法の原則を明

一九世紀のドイツ普通法学の議論においてどのような法文が問題にされていたか

(1 ) 

を明らかにすることにも︑一応の意義があろう︒ローマ法についての知識を持たない私は︑ここで妥協せざるをえない︒

一九世紀のドイツ普通法学の文献についても︑

第一節

第一章

その全てを網羅することはできない︒内外への複写依頼等 を十分に活用すれば︑この問題はある程度解決するわけであるが︑資料が相乗的に増大する一方で︑私の怠慢が主た

12‑‑‑2 ‑‑227 (香法'92)

(8)

10K 

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D. 17, 1 (mandati vel contra), 2, 6 

Gaius libro secundo cottidianarum 

Tua autem gratia intervenit mandatum, veluti si mandem tibi, ut pecunias tuas potius in emptiones praediorum colloces quam 

faeneres, vel ex diverso ut faeneres potius quam in emptiones praediorum colloces: cuius generis mandatum magis consilium est 

quam mandatum et ob id non est obligatorium, quia nemo ex consilio obligatur, etiamsi non expediat ei cui dabatur, quia liberum 

est cuique apud se explorare, an expediat sibi consilium. 

,....)全,...)r全心心僅沢#如)

s

心全S縣出(mandatumtua gratia)~w~心゜ど心ぺ~,.,Q +.:! ̲) (~ 出如)芯全迄心:.',~~~f;4r,l

(9)

哭約関係にない助言者の責任(田中)

D .   5

0,

17  

( d e   d i v e r s i s   r e g u l i s u r   i i s   a n t i q u i ) ,  

47 , 

p r .   U l p i a n u s i b   l r o   t r i g e n s i m o   a d   e d i c t u m  

同じことは︑

次の法文でも確認されている︒

にしたがって行為する義務のほかに︑

この場合の義務の中味としては︑ なぜなら︑

なるだけの委任が助言に類似している︵あるいは助言そのものである︶ことを理由として︑

助 ︱ ︱

1 t I

からは義務が発生しないことが当然の前提である︒

今日で言う履行義務︑

損害賠償義務︑

1 0

古代ローマにおいて義務につい つまり助言にしたがって行為した結果として助言を受けた人に 発生した損害について助言者が責任を負うことも含まれると考えられる︒

もちろん︑

てこのような区別が存在していたかどうかはなお検討を必要とする問題である︒

つまり助言者側の助言する義務︑

助言 を受 けた 人側 の助

︱︱

︱口

せないと述べている以上︑

このような委任は債務を発生さ 本法文において問題になっている﹁あなた﹂

~

(6 ) 

のための委任

(m an da tu t m u a   g r a t i a )

つまり受任者の利益に

銭を︑利子を付けて貸すよりも︑土地の購入に使うようにと委任する

( m a n d a r e ) 場 合︑ ある いは

︑反 対に

︑土 地の 購入 に使 うよ りも

︑利 子を付けて貸すようにと委任する場合である︒この種の委任

( m a n d a t u m ) は︑ 委任 ( m a n d a t u m ) とい うよ り助 言 ( c o n s i l i u m ) であ る︒ そ れゆ え︑ 債務 を発 生さ せる もの ( o b l i g a t o r i u でs ) はな い︒ なぜ なら

︑助 言 ( c o n s i l i u m ) に基 づい ては

︑誰 も義 務を 負わ され ない ( q u i a n em o  ex o n   c s i l i o   o b l i g a t u r )

︒たとえ助言が助言を受けた人

( e i c u i   d a b a t u r ) に役 に立 たな いと して も︵ であ る︶

︒な ぜな ら︑ 助言 ( c o n s i l i u m ) が自 分に とっ て役 に立 つか どう かを 調べ るこ とは

︑誰 にも 自由 だか らで ある

︒ この法文から︑次のようなことを読み取ることができよう︒

助 ︱ ︱

︱ 口 ( c o n s i l i u m ) から義務は発生しない

( n e m o o b l i g a t u

r ) ︒

12‑2 ‑‑229 (香法'92)

(10)

( s

u p

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v a

c u

u s

)

とされている︒ただし︑ 普通法学の文献では引用されないが︑ ガイウス三︑

ここでは︑委任が余計なのは︑自分の利益に関することは自分の意見でなすべき

三 ︑

二 六

六の前半部分では︑

学 ︑

一 七

二 ︑

部 分

で は

︑ 委任は余計なもの

( s

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)

あ り

C o n s

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l o

  a c t i o   c o m p e t i t .   詐欺 的で ない 助言 につ いて は( co ns il ii

no

n  f ra ud ul en ti )︑ 義務 は存 在し ない

︒反 対に

︑悪 意で 狡猾 であ る場 合に は悪 意訴 権が ある

︒ D .  

17, 

1,  2 , 

p r .  

G a

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m  s i v e   m ea   e t   a l i e n a   s i v e   me a  e t

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an

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tu

m  e t   o b  i d   n u l l a   e

x  e o  o b l i g a t i o a s   n c i t u

r .  

わたし︵委任者︶のためだけにわたしがあなた︵受任者︶に委任するのであれ︑他人のためだけにであれ︑わたしと他人のためにであ れ︑わたしとあなたのためにであれ︑あなたと他人のためにであれ︑われわれの間に委任が約束されている︒わたしがあなたのためだけ

にあなたに委任する場合には︑委任は余計なもの(supervacuum)であり︑それゆえに︑その︵委任︶に基づいて債務は発生しない(nulla

o b l i g a t i o   n a s c i t

u r ) ︒

債務

( o b l

i g a t

i o )

も委任訴権

( a c t

i o m

a n

d a

t i

)

も発生しないとされ︑

六とほぼ同じ文言が繰り返されている︒

( 1 0 )  

一五六においても︑

﹁ あ

な た

﹂ のための委任が余計なものである

ま た

一九世紀のドイツ

提 ︑

以上の二点は︑

学説彙纂以外でもほぼ同じことが述べられている︒

た と

え ば

﹁ あ

な た

のための委任については︑ 次のような法文も存在している︒

二 ︑

﹁ あ

な た

﹂ のための委任

(m

an

da

tu

mt

u a

  g r a t i a )

は ︑

助 ︱

︱ ︱

口 と

同 じ

よ う

に ︑

提 ︑ 三 ︑

(8 ) 

二 六

( d e

ma

nd

at

o)

︑序の後半

(7 ) 

債務を発生させない︒

1 0

12‑2 ‑230 (香法'92)

(11)

哭約関係にない助言者の責任(田中)

し た

い ︒

猾である場合には︑悪意訴権がある﹂としている︒他にも︑

が肯定されていか︒

わされることについては争いはなかった︒最も争われたのは︑

うことである︒これは︑ 後に触れるように︑ 先に挙げた学︑五 0 ︑ ﹁あなた﹂のための委任である

か︑助言であるかは不明であるが︑﹁あなたがわたしを説得した

( s u a s e r i

s )

﹂場合について︑﹁わたしはわたしの事務

( r e s )

を行った

( g e s s i )

からである﹂として

第 三 節

﹁あなた﹂が委任訴権によって責任を負わされることはないとしている︒

法文において︑悪意の場合には悪意訴権によって責任を負うという例外が明示されている︒

一七︑四七︑序は︑助︱︱︱口については責任がないことを確認した上で︑﹁⁝⁝反対に︑悪意で狡

一九世紀のドイツ普通法においても︑悪意による助言の場合には︑例外的に助言者が責任を負

それ以外にも助言者に責任が生じる場合があるかとい

﹁あなた﹂のための委任についての規定を巡って議論されたので︑節を改めて検討することに 助言者の責任についての例外︵その一︑悪意︶

さ ら

に ︑

学 ︑

一 六

︑ 三

( d e p o s i t v i e l   c o n t r a

)

︑ との関係には言及されていない︒

であり︑委任によってなすべきではないからであるとされ︑学︑一七︑一︑二︑六や提︑三︑二六︑六にある助言

( c o n s i l i u m ) ( 1 1 )

 

一四では︑問題になっている行為が︑

1 0

九 いくつかの法文によって︑悪意による助言の場合の責任

12‑2 ‑‑231 (香法'92)

(12)

触れておきたい︒ この問題に決着を付ける能力は私にはないが︑

,1

,  , I ,  

,1 , 

体的にどのような場合なのか︒

例外が承認される条件である

﹁ も

し ︑

わたしが委任しなければ︑ あなたがそうしなかったであろう場合﹂

こ こ

で ︑

﹁ あ

な た

﹂ 問題になるのは︑

助言と同じに取り扱われる

次の二点であり︑

﹁ あ

な た

︵ そ

の 二

のための委任についてはもうひとつの例外を規定する法文がある︒

D .  

17, 1, 

6,

 

U l

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n  e s s e s a c   f t u r u

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r i t  

m a

n d

a t

i   a

c t i o

.   あなた︵受任者︶に利害のあることを︑わたし︵委任者︶があなたに委任した場合に︑もし︑わたしにも利害がなかったならば委任訴 権がないことは明白である︒それに対して︑もし︑わたしが委任しなければ︑あなたがそうしなかったであろう場合には︑たとえ︑わた しに利害がなかったとしても︑それにもかかわらず︑委任訴権はあるであろう︒

これらは一九世紀のドイツ普通法学における議論の中心でもあった︒

のための委任についての例外は助言の場合にも承認できるのか︒

この問題を検討する際に留意するべきと思われる点について︑

第 四 節 助 言 者 の 責 任 に つ い て の 例 外

1 0  

少し とは具

12~2~232 (香法'92)

(13)

契約関係にない助言者の責任(田中)

二六︑六やガイウス三︑

︑ m の問題に関係するが︑﹁あなた﹂

二六︑六やガイウス三︑

二 六

︑ 六

一 五

六 後

半 で

は ︑

ガ イ

ウ ス

三 ︑

﹁あなた﹂のための委任と 一五六で﹁あなた﹂のための委 のための委任と助言を区別することはきわめて困難であったと考えられる︒

なぜなら︑まず︑﹁あなた﹂のための委任と助言は︑内容的にきわめて類似している︒たとえば︑学︑

六で挙げられている﹁あなたの金銭を利子を付けて貸すよりも︑土地の購入に使うように﹂という言葉は︑特定の第 三者から土地を購入するようにと委任する際にも︑あるいは︑購入する際の契約相手を問題にすることなく︑純粋に

助言を受ける者のために助言する際にも使用できそうである︒

す る

( m a n d o

)

という言葉のほか如何なる文言

( a l i o

( 1 5 )  

p r a e s e n t e   e t   n on

eXOrecustante)~..,;µ-1-6いわぃス{4

」、匡匹、=『

  3O

する﹁あなた﹂

二︑②の問題に関係するが︑先に挙げた提︑三︑

の区別が問題になったのは信用委任である︒

提 ︑

三 ︑

qu oc um qu e 

一 ︑

二 ︑

しかも︑委任する際の言葉や︑助言する際の言葉によって︑﹁あなた﹂のための委任と助言を区別することもきわめ

て困難であったと推測される︒諾成の誠意芙約である委任では︑一定の言葉を使用しなければならないという問答喫

約のような制限はない︒たとえば︑委任する行為については︑﹁私は懇願する﹂

( r o g o )

﹁ 私

は 欲

す る

( v o l o )

﹁ 私

は 委

v e r b o )

でもよいとされていか︒さらに︑認容

( p a t i o r ;

任の例とされる遊金の例では︑

ho

rt

ar

i

が使用されている︒このように多様な言莱を使用できたとすれば︑内容が類似

のための委任と助言は︑仮に法的な区別が存在していたとしても︑実際にその区別をすることには困

( 1 6 )  

難が伴ったであろうことは容易に想像される︒

一五六では︑﹁ティティウスに金銭を利子付きで貸すようにと委任した

( m a n d a r e )

場合が念頭にあり︑﹁あなたに委任がなされなければ︑あなたはティティウスに貸付なかったであろう

( c r e d i d i s s e s

)

一 七 ︑

12‑2 ‑233 (香法'92)

(14)

1  1  11 

や~~」叫⇒い置出芯江翌初~\--';

心゜

宦國~~ぐい均D,

%的 ⇒ ▽匹庄祢出 S 苔尽や埒沿凶湘ぺ心ニ心゜

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哀迫

1"'l‑0

垢以芯'

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~j~jや竺'

粘塞蒙朦旦盆こい芸'

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1 , 

ば忌匹王炸出如 i 吾翠旦 ⇒ い二

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l'  い呪

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宦心合旦匹モ料出如i臣認心⇒~t-0叫呪や芸l]lltI~

漉こ゜ 111, 

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認' 111,  ⇒ 心芯

0¥‑‑.J' 

111('  茫'

裟&染←

6,¥Hi)  (N 

888I 文翠

111, 

初心~, (三)

縣出如芯祢出如翌[ヒ ⇒ 心湿瞑旦いこい迎築如〒的叙芯 ¥‑J ; 

l-0心;A因琴祠耳追紅忍迄S苔志芯巨國旦~l-0゜

王餅喋迫紅悩迄ざ

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8' 

~Jふ如ゃS蔀辻心竺⇒;,{::.6;

mandati actionem existimo.  心心ペ-~, 匹巴歯出S弓A\"~抵111如8~全

S 祢出や

‑IQ!-(a~J心&’

"V'~

王初菜心茫' l ギ'

D. 17, 1, 32 

Iulianus libro tertio ad Urseium Ferocem 

Si hereditatem aliter aditurus non essem, quam cautum mihi fuisset damnum praestari et hoc mandatum intercessisset, fore 

si quis autem mandaverit alicui, ne legatum a se repellat, longe ei dissimile esse: nam legatum 

adquisitum numquam illi damno esse potuit : hereditas interdum damnosa est. 

俎忠 S 塩こ如ヤ心

]1111さ合$8A\\~坦やや茶i‑0

et in summa quicumque contractus tales sunt, ut 

quicumque eorum nomine fideiussor obligari posset, et mandati obligationem consistere puto: neque enim multo referre, praesens 

quis interrogatus fideiubeat an absens vel praesens mandet. praeterea vulgo animadvertere licet mandatu creditorum hereditates 

suspectas adiri, quos mandati iudicio teneri procul dubio est. 

翌祉

n

芯正迷初:;;~(damnum praestari)心こ^醒坪誌よ心

山恥虹ニ女(cautummihi fuisset)叡芦~tl~註四給心全0+.;: や‑IQl'0 

'I'~[Iや'令0'S'l'~\K¾出芯~~:;;(mandatumintercessisset)叡ロゴ祢出苓追令~Wr"~凶兵女

豆翌罰゜

令,.̲),~

(15)

喫約関係にない助言者の責任(田中)

ま た

次のような問題の多い法文もある︒ ための委任であるから責任があるとも考えることができる︒

つまり︑あなたが誰にでも貸

﹁あなた﹂のための委任ではあるが︑ 損害担保契約によって責任があるというのではなく︑

つ ま

よ ︑

, 1  

債権者が債務者の相続人に︑ このような事例では︑

できそうである︒

し か

し ︑

この責任の根拠が︑ するようにという

る人が他の人に遺贈

( l e g a t u m

) を拒絶しないようにと委任した場合には︑事情は全く違う︵と考える︶︒なぜなら︑遺贈は決してかの人の

損失たりえないからである︒相続は時には損失となることがある︒要するに︑どのような契約であれ︑それを原因として

( e o r u m n o m i n e )   保証人が債務を負わされることがあり︑わたしは委任債務が成立すると思う︒なぜなら︑ある人が現在し︑質問されて保証するのか︑不 在のまま委任するのか現在して委任するのかは︑たいして項嬰ではないからである︒さらに︑債権者の委任によって︑疑問のある遺産が 相続されるということがよく見受けられその債権者に委任訴訟によって責任があることに疑いはない︒

﹁ あ

な た

本当に損害担保哭約であるのかどうかについては疑問がある︒末文で

相続をするようにと委任している事例が指摘されている︒

続が行われるについては債権者にも利益があるので︑ ﹁わたし﹂と﹁あなた﹂のための委任であると考えられる︒

そもそも﹁わたし﹂の

D.17, 

1,   48 , 

C e l s u s   l i b r o   s e p t i m o   d i g e s t o r u m   C e t e r u m   u t i t   b i   n e g o t i u m   g e r a s ,   t u i   a r b i t r i i   s i t   n

o m e n ,   i d   e s t   u t   c u i v i s   c r e d a s ,   t u   r e c i p i a s   u s u r a s p ,   e r i c u l u m u   d m t a x a t   ad   me

  p e r t i n e a t ,   ia m  e x t r a a   m n d a t i   f or ma m  e s t ,   qu em ad mo du m  s i   ma nd em ,  u m t   i h i   q u e m v i s u   f nd um   e m a s .   しかし︑あなたのために

( t i b

i ) 事務を管理し︑債務名義はあなたの任意である

( t u i a r b i t r i i   s i t   n o m e n

) ︑

のための委任であっても損害担保哭約がある場合には︑ この法文を理解するに際して注意すべきことがある︒

>

t

し 力

t この法文によれば︑ 一見したところ︑遺産を相続

委任者に責任が発生すると理解

12‑‑2 ‑‑235 (香法'92)

(16)

し付けてもよく

( c u i

v i s

c r

e d

a s

) ︑あなたが利子を受け取り︑危険だけがわたしに及ぶという場合は︑委任の範囲を越えている

( e x t r a

ma

nd

at

i  f

or

ma

m)

︒あなたがわたしのために

( m i h

i ) 任意の

( q u i

v i s )

土地を購入することをわたしが委任する場合も同じである︒

817 

f f . ) ・  

後に触れるように︑ 損害担保契約という観点は︑

こ の

よ う

に ︑

﹁ わ

た し

ローマ法において︑損害担保契約によって責任が発生したのかについては疑問なしとしない︒しかし︑

( 1 )

素材の選択については︑ドイツ普通法学を参考にするとしても︑それを検討する際には︑できるだけドイツ普通法学の理解に囚わ

れずに︑自分で直接にローマ法文を検討する︒本立早の目的は︑一九世紀のドイツ普通法学が索材としたローマ法文はどういうものであ

ったかということを示すことであり︑その理解をポすことではない︒それは次章の課題である︒(2)G.クラインハイヤー、J.シュレーダー/小林孝輔監訳•田山輝明訳、ドイツ法学者事典、学陽書房一九八三年、三二0頁。

( 3 )  

Be

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W i n d s c l z e i d ,

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9.  A u f l a g e ,  

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Ma

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  1

90 6,

A  

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  1

98 4,

 §

4 1 2  ( S ・  

(4)原田慶吉、ローマ法1改訂'~有斐閣全書、有斐閣一九五五年、二九頁によれば、Digesta(学説彙纂︶は︑法律を統一し︑古

典時代の栄光を回復しようとした

I u s t i n i a

n u s

帝︵以下ユ帝と略す︶の勅法によって︑紀元五︱二三年︱二月一六日に公布されたもので︑

古典時代を中心とする法学者の学説を採録したものである︒

この学説彙纂に限らないが︑資料としてのローマ法文それ自体について問題がある︒伝来のローマ法文が︑そもそも古代のローマ法

をそのままの形で正しく伝えている資料なのかどうか︑つまり︑ユ帝が公布した時の原文が再現できているのか︑ユ帝が編集した際に︑

古典期の法学者の見解そのままではなく︑修正が加えられているのではないか︑今日我々が手にすることができる写本と一九世紀のド

後半では

れらの場合は委任ではないとされている︒ 前半では危険を引き受けており︑

一九世紀のドイツ普通法学との関係では無視できないものである︒ のための委任であると考えられる︒ それにもかかわらず︑

一 四

12‑2 ‑236 (香法'92)

(17)

哭約関係にない助言者の責任(田中)

( 6

)  

る︒

RE CO GN OV IT  

イツ普通法学において使用された写本が一致しているのかなど多くの問題がある︒そのような問題に当然私の能力は及ぶべくもなく︑

本稿 では

︑ CO RP US IU RI S  C I V I L I S , E   DI TI O  S TE RE OT YP A  T ER TI A  D EC IM A, O  V LU ME N  P RI MU M, N  I ST IT UT IO NE S  PA UL US   KR UE GE R, I  D GE ST A  R EC OG NO VI T  T HE OD OR US   ( 7

)   ( 8 )  

つま り︑ s u

a   e t   a l i e n a

̀ 

 

s i v e   t u a   e t   a l i e n a .  

原田︑ローマ法二九頁によれば︑法学提要は︑

録を主たる素材とした︑教科書の役割を持つ法典である︒

( 9 )   Tu a  g r a t i i n a   t e r v e n i t   m a n d a t u m , e l   v u t i   s i   t i b i   m a n d e t ,   u t   p e c u n i a s   t u a s   p o t i u s n     i e m p t i o n e s   p r a e d i o r u m   c o l l o c e s ,   q

ua m  f e n e r e s , v e   l   e

x  d i   v e r s o   u f e t   n e r e s   p o t i u s ,   q

ua m  i n   e m

p t i o n e s   p r a e d i o r u m   c o l l o c e s .   c u i u s   g e n e r i m s   an da tu m  m a g i s o   c n s i l i u m   e s t  

ユ帝によって五三三年

o b l i g a t i o   n e e a   m n d a t i   i n t e r   v o s c t   a i o   n a s c i t u r ・  

一 五

一月 ニ︱

H

に公布されたもので︑ガイウスの法学提要と日常

KR UE GE R, E  B RO LI NI

  MCMXX 

(1 92 0)

に原則として依拠する︒学説彙纂の訳については邦語訳やドイツ語訳︑

しているが︑できる限り自分で訳するように努めた︒

(5 J)

ローマ法文においては︑二人称で記述されていることが多いのでここでも特に断わらないかぎりこれにしたがう︒ただし︑

法で は第 一

1者を示すために﹁テイティウス﹂が使用されることがあるが︑固有名詞は分かり難く︑混乱を招きかねないので訳以外では

できる限り第三者に読み変える︒﹁わたし﹂︵委任者︶︑﹁あなた﹂︵受任者︶︑第三者として︑委任をめぐる法律関係を表すこと

原田︑ローマ法一五二貝︑一九八頁によれば︑委任は諾成の誠意哭約である︒つまり︑問答喫約や要物喫約のような芙約を締結す

る際の制限がなく︑これに基づく訴権は誠意訴権として︑厳正訴権のように当事者の意思表示に限ることなく﹁契約当時の状況︑取引

の慣習︑詐欺強迫の有無︑反対訴権の存否その他信義誠実の原則に照らし参照することが公平妥当な事情の一切の綜合﹂が判決の基礎

になる︒また︑原則として無償であり︑非継続的で高尚な事務を内容とするとされる︒V

g l . G   a i u s   3 ,  155 

D .

  1

7, 

1,   1,  4 . 

なお︑広中

俊雄︑哭約とその法的保護︑創文社一九七四年︑一六九頁では︑﹁現実の社会生活においては必ずしも常に無償のものではなかった﹂

と推測している︒

後に検討するように︵第四節︶︑﹁あなた﹂のための委任と助言を区別することが︑そもそも可能であるのかには疑問がある︒

Ma nd at um   co n t r a h i t u r   q u i n q u e o   m d i s , s i   v e   s u a   t a n t u m   g r a t i a   a l i q u i t i s   b i   m a n d e t , i v   s e   s u a   e t   t u a ,   s i v e   a l i e n a   t a

n t u m ,   s i v e   a t   s i  

t u a   t a n t u m   g r a t i a   t i b i   m an da tu m  s i t   s u p e r v a c u u m s t   e m   an da tu m  e o t   b  i d   n u l l a   e

x  e o  

ロー マ

英訳などを参考に

MO MM SE N, E  R TR AC

T  A 

VI T  P

AU LU S 

12‑2 ‑‑237 (香法'92)

(18)

/ヽ

'﹄

︐ 

︐ 

cum liberum cuique sit apud se explorare, an expediat consilium.  quam mandatum et ob id non est obligatorium, quia nemo ex consilio mandati obligatur, etiamsi non expediat ei cui dabitur, 

itaque si otiosam pecuniam domi te habentem hortatus fuerit 

aliquis, ut rem aliquam emeres vel earn credas, quamvis non expediet tibi earn emisse vel credidisse, non tamen tibi mandati 

tenetur. et adeo haec ita sunt, ut quaesitum sit, an mandati teneatur qui mandavit tibiutTitio pecuniam f enerares : sed 

optinuit Sabm1 sentent1a obligatonurn esse m hoc casu rnandaturn, quia non aliter Titio credidisses, quarn si tibi rnandaturn 

esset. 

逗S袋S歯

:±i

.[tj: 1"'叫芸'茎記已,姿全渓S俎如莱惹仁起呈茶ぐ心丹=

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心如芸祢出苓~8迄如江芸~(やや)心l-0l‑0 -Q--も令芸潔叫中心~+.!0'条拭心キ山一区i‑<8云溢竺:a8芽ぐこ旦盆こい将辻翌父巴婆社注甘ヤ

9出挙

女ミ,\雑江涎~~出ギ心ニ兄こ匂心~,

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令K芸江的芦ゎミ

l;:j, l‑0''< !;; ~',!j l;:j, 0」(ぷ王1ffiR~';i;\1克怜蕊睾臣K=1

三{出社如号全出゜芸~K芸王そ)

6?U (N 

如︶

oo

8│8 IN[ 

(三)Nam si tua gratia tibi mandem, supervacuum est mandatum; quod enim tu tua gratia facturus sis, id de tua sententia, non  ex meo mandatu facere debes. Itaque si otiosam pecuniam domi te habentem hortatus fuerim, ut earn faenerares, quamvis 

earn ei mutuam dederis a quo servare non potueris, non tamen habebis mecum mandati actionem. Item si hortatus sim, ut rem 

aliquam emeres, quamvis non expedierit tibi earn emisse, non tamen tibi mandati tenebor. Et adeo haec ita sunt, ut quaeratur 

an mandati teneatur qui mandavit tibi, ut Titio pecuniam faenerares. Sed Servius negavit nee magis hoc casu obligationem 

consistere putavit, quam si generaliter alicui mandetur, uti pecuniam suam faeneraret. 

sentientis, quia non aliter Titio credidisses, quam si tibi mandatum esset.  Sed sequimur Sabini optionem contra 

(19)

哭約関係にない助言者の責任(田中)

﹁何となれば若し予が汝の為めに或事を嘱託するときは其の委任は無用なればなり︑其の所以は次の如し汝は汝の利益の為めに為す

べき事を汝の意見に依りて之を為すべくして予の委任に依り之を為すべきものに非ざればなり︑故に若し汝が汝の家に利用せられざ る金銭を有するに当りて予は汝に勧告して其の金銭を貸付け利殖を図らしめたる場合に於て縦令汝が其の金を某に貸与し某より返金 を受け得ざりしと雖も汝は予に対して委任訴権を有せざるべし︒又若し予が汝に勧告して或物を購入せしめたる場合に於て汝が其の 物より何等の利益を享受せざりしと雖も予は汝に対して委任訴権に依り責を負わざるべし︒此の如き規則なるに因り甲あり﹁チチウ

ス﹂に金銭を利息付に貸さんことを汝に委託したるときは甲は委任訴権に拘束せらるべきや否やの疑問を生ずるに至れり︒﹁ゼールヴ

ィウス﹂は消極説を採り謂へらく此の如き場合は甲が金銭を利息付に貸出すべきことを汝に勧告したる場合と異ならず債務関係を発

生することなしと︒然れども吾人は﹁ザビーヌス﹂の反対説を採る如何となれば汝は甲の勧告なかりせば﹁チチウス﹂に金銭を貸与せ

ざるべければなり﹂︵テキストは︑

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1923による︒和訳は︑春木一郎訳︑

法学協会雑誌三二巻四号以下

1

カタカナをひらがなにし︑一部旧字体を改めた︶1

春木一郎︑﹁ガーイウス﹂羅馬私法講義案紅本発見一百年ノ記念︑法学協会雑誌三五巻一号(‑九一六年︶

ガイウスの法学提要は︑古典期の学者である

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s による概説書で︑一八一六年にその写本が発見された︒

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一 七

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( 1 1 )  

一七七頁以下によれば︑

12‑‑2 ‑239 (香法'92)

(20)

1 1 

<︑

gratia alium falso laudasti, de dolo iudicium dandum est. 

fJや芸'芸~~齢忘~{!:(や全心J心如呈0('0 (scires eum facultatibus labi)'江念ぷ忌涅S心全旦(tuilucri gratia)' 

哩己や

‑IQi‑0(mihiidoneum esse)遥]IIII

心叡叫(adfirmasti)'印癖讀塁涎諮釣菜や2心゜

D.17, 1, 10, 7 

Ulpianus libro trigensimo primo ad edictum 

pecunia credita sit, Sempronium, qui nihil dolo fecit, non teneri.  ゃS如芯

Si quis ea, quae procurator suus et servi gerebant, ita demum rata esse mandavit, si interventu Sempronii gesta essent, et male 

et est verum eum, qui non animo procuratoris intervenit, sed 

6,1[£)  (N 

OV8│18 NI

affectionem amicalem promisit in monendis procuratoribus et actoribus et in regendis consilio, mandati non teneri, sed si quid 

dolo fecerit, non mandati sed magis de dolo teneri. 

「…… ⇒

⇒ , 

½Q~Jふ竺出こ゜~~苔姿赳II1I臣‑<Q羮日釘J<::::‑<ヤ1‑0Qや竺~'v,祢孟苔迩ijnn囲-<~赳皿囲-<~:出懐~,....)(in monendis 

procuratoribus et actoribus)'盆lliiこヤ心心こ'"}J凶や(inregendis consilio)'~ 翌如1恰ヤトJ叫如迄咲

心(affectionem 

殿製や迄

心寄ぐこ旦芸縣出苓送旦‑'‑1,I'いや芸~'v,聡艇苓I!~ amicalem 

promisit)如竺祢出苓送旦.J.‑{,['臼Jill(~4ll;,("""\~J..lJ竺屯二゜

.J.‑{, \--'拡出芯~l'-0

sei¥¥匪゜(~)

(コ)

⇒  ‑R  ̲)' 

D. 17, 1, 1, 2 

Paulus libro trigensimo secundo ad edictum 

Item sive'rogo'sive'volo'sive'mando'sive alio quocumque verbo scripserit, mandati actio est. 

ほ)

D. 17, 1, 6, 2 

Ulpianus libro trigensimo primo ad edictum 

Si passus sim aliquem pro me fideiubere vel alias intervenire, mandati teneor et, nisi pro invito quis intercesserit aut donandi 

animo aut negotium gerens, erit mandati actio. 

D. 17, 1, 53 

Papinianus libro nono quaestionum 

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