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分 裂 病 心 性 - の 接 近

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弘 前 医 学 第 1 7 巻 第 1号

分 裂 病 心 性 ‑ の 接 近

□ :「ひ と りでにそ うな る」 とい うこ との精神病理学

布 施 活

FUSE̲ KI YOKAZU

弘 前 大 学 医 学 部 神 経 精 神 医 学 教 室 (主任 和 田 豊治 教授つ

(1 り.XI.1 964 受 付)

緒 看

稽 禅分裂病 (以 下分裂病 と略 す) の病 因解 明へ の努 力は,すべての精 神医学 者に よ り続 け られ ,現在におい て も絶 える ことな く続 け られ てい るとい って も過 言 では ない .

分裂病 の身体病理 学的追求は.神経 化学的 方 向,神経生理学的側面か ら精 力的 な検索が 進 め られ てい るに も拘 らず,殆 ん ど未知 の ま

ゝで あ ることも周知 の事実 で あ る.

勿論 この事実 の蔭には,分裂病 と呼 ばれ る 疾 患が,研究者夫 々の立場に よ り多 少の差異 が あ り, また疾 患その もの も単一の もので な く,病 型 ・経過 ・予後等の面において,極 め て多彩 な もの を包含 してい る ことに起 因 して い るため とも考 える ことが 出来 よ う.

近年,非定 型精神病 ・非定 型分裂病等 の疾 患 名が 盛んに用 い られ るよ うにな り, これ ら 疾 患群 の身体病理学 的追求か ら,定型分裂病

の病 因解明が企 図 され てい ることは,荊述 の 理 由か ら当然の帰結 と考 え る こ とが 出 来 よ

ラ.

一方,分裂病心性 の精神病理学的追 求 も, 幾多 の先人に よ って行 なわれ て来 てい るが, 本病 の心理学的本 質 に関す る見解 も極 めて多 様 で,各研究者 の基盤 とな ってい る心理学 ・ 苦学的立 場 よ りその意 見が別れ てい る.

J as pe r s , 氏.Sc hnei der , Gr uhl e 等の現象 学的立場 の学者は,分裂病 者の多数に認め ら

‑ 1 61

れ る幻覚 ・妄想等の詳細 な現 象学的研 究 を精 力的 に行 な って きたが ,分裂病的人格 の変容 は , 了解不能 に して規定 し得 ない もので あ り, 病 的 体験 と人格変容 との間に何等かの関係を 設定 しよ うとす る試 みは,すべ て仮説 に しか 過 ぎない として,精 神病 医は病者 の述 べ る病 的体験 及び客観的所 見 をあ りの ま ゝ記載 す る こ とに努力 をは ら うべ きこ と を 強 調 し て い

る .

力動精神 医学的立 場 を基盤 とす る多 くの研 究者は,分裂病 を 「一定素質者 において不適 応状態 が,長期 間持続 した 場 合 に 起 こ る疾 病」 と考 えて,本疾 患 の力動的心理機制解 明 と心理療法的接近が さか んにお こなわれ てい る .

Bi ns wanger ,St or ch 等 の哲学的人 間 学 派 の研究者は,分裂病的人 間の現存在 を 「世界 一 内一存在 」 の根本的変容 にあ る として,分 裂病世界構造 の解 明に努力を払 ってい る .

Mi nkows ki は分裂病 の本質 を 「現 実 に 適 応 す る行動 の規範 としての直観」 の障害に よ る 「現実 との生け る接触 の喪失」 で ある と考 えた .

著者は,前論文において,分裂病 自閉が分 裂病 心性 の根 元的 な特性 で あ る こ と を 詳 述

し ,3 型 の 自閉が あ る ことを述べ た .

今 回著者は,二人 の女子分裂病者の症状 を

もとに して.比較 的陳 旧な分裂病 者に屡 々認

め られ る自我意識障 害,即 ち 自己の行動 ・思

(2)

l t う コ ‑

考 ・感情 ・意志等 の精神機能が,作為感情 を 全 くともなわずに 自然発生的に生 起 し,病 者 は 「ひ と りでにそ うな る」 と表現す る奇妙 な 心理 の解 明を.病 者 と共 同世界の変容 との関 連 においてお こない,分裂病 」性へ の接近 を 試み る.

症 例

症 例 こ1 〕 女 子,農業 ,29 才 .

L / 遺 伝歴〕 父方 叔父が分裂柄 で,説在 監者 の家 で起居 し,結婚 もせず,定職 な く無為 な 生 活 を送 ってい る.

〔 性 格傾 向〕 幼 少時か ら神経 質 で,人見知 りをす る傾 向が顕著 で無 口であ った .然 し非 常な母思 いで,繊細 な感情 の 持 ち 主 で あ っ た .小 さい時か ら一人遊 び を す る こ とが 多

く,就学後 も殆 ん ど友人が なか った .

〔 現病歴〕 田舎 の中学校 を普通 の成 績で卒 業 後,家業であ る農業 の手伝 い等 を し,農閑 期 には近所 の裁寺 逢塾に通 うとい った生 活 を送 っていた .20 才頃か ら何度 か結婚 の話が あ っ たが,余 り気乗 りせず,家人 も本人 の性格 を 考 えて無理強いせ ずにいた とい う.26 才時, 同 じ村の 2才年長 の男 子 と見合結婚 を した.

この結婚 には本人 も比較 的積極 的 で乗 り気で あ った とい う.結 婚後 6カ月 日頃か ら,特 に 誘 因 もな く, 「姑が 自分 の悪 口を村 中に云 い 歩 く」 , 「村 の人達 が皆 自分の噂 を してい る」,

「外に出 るのが嫌 だ」等 と云い出 し,実 家に 戻 って きて しまい, ど うして も婚家に戻 る こ とを聞 き入れ ないので,その ま ゝ離舜 昏とい う 形 にな って しま った .

離婚後 も被害 ・注察 ・関 係 妄 想 は 変 わ ら ず,次第に不眠 ・嫌人傾 向 ・独語 ・空笑 ・し かめ眉等 も認 め られ るよ うにな り, 日常生活 は全 く不規則 で,家人に対 して も怒 り易 く, 食事 も拒否す るこ とが多 くな り ,3 6 年 7 月当 科 受診 .直 ちに入院 した .

〔 初診時所 見〕 表情 は硬 く,動 きに も乏 し く,態度は拒絶的で Kat al eps i eを認 めた . 問診では断片的 に被害的 内容 の言語性幻聴,

思考 化声,注 票 ・関係 ・被害妄想等 を述べ た 那,強い接触感は得 られず,深 い精 神 内界を 窺い得ない とい った感が強か った .

入院 後 Chl or pr omaz i ne250nl g O l , 投 与を お こないなが ら経過 を観察 したが ,病棟 再を 落 ち付 きな く歩 き廻 り, 他の患者に文 L l jをつ け,看護 者の注意 に も反抗的 で,時 に拒食や 服薬拒 否が あ り, 独語 も多 く看護 に置難が あ ったため EST 4 回施行 した所 , これ らの急 性症状 は急速に消失 し,発病 当初及ごフ、 院 当 時 を回想 し, 「何 とな く周 りの様子が不気味 に感ぜ られ た」 , 「誰かに何時 もね らわれ てい るみ たいで恐 ろ しか った」,「考 えてい ること を皆が先 を越 してや るので,裸 に され てい る よ うな気が した 」 . 「悪 口を云 ってい る声 が頭 に響 いて, 始 られ なか った 」 ,「何 だか 自分が 自 分 で な くな って.身 体 も消 えて行 くよ うな気 が した」 と詳細 に語 り, 「急に明るい世 の中 に出て来 た よ うな気 がす る」 と晴 々した表情 で語 った .

然 し,急性症状 消失一 カ月 日頃 よ り, 「夜 ね てい る と口がひ と りでに動 いて喋 って しま うんです」 とい う訴 えが多 くな り,夜間の独 語が著 明に認 め られ るよ うにな ったが, この 訴えの背後には,作 為感情 は全 くともな って はい なか った .この訴えは約20 日間持続 した れ I ST lク‑) i , 終 了時 には確固 とした病識 も出現 し,約 6カ月で完全寛解状態 に達 して 退院 した .

退院後家事手伝い等 を していたが, 3 カ月 日頃 よ り次第に拒絶的傾 向がみ られ るよ うに な り,幻覚 ・妄想 も激 化 したため,再入院 し

た .

再入院時所 見は,初 回入院時 と略 同様の状

態 であ った .す なわ ち,入院 当初 反抗的不隠

傾 向,拒絶傾 向が顕著 に認 め られ たが,次第

に平静 とな った,然 し 1 カ月 日頃 よ り, 「頭

の 中で考 えた ことが抜 き とられ て空 っぽにな

って しま う」 , 「無理 に誰 か が喋 らせ る」,「歩

きた くないのに無理 に歩 か され る」等 の作 為

体験 が 目立つ よ うにな って来た .

(3)

分裂病心性へ の接近 Ⅱ 然 し これ等の症状 は,薬物療法や EST に

よ り約 2カ月で消失 し,軽 度 の関係念慮 ,不 安 感, 易疲労感 ,集 中力困難等が残存 してい た .入院後 4カ月 目に急性肋 瞭炎に罷思 して 高熱が持続 し, それが略・ 々治 まった頃か ら時 一 々, 「何 か解 らない力に押 えつけ られ, 自由 な くな って しま うよ うな気がす る 」 , 「 何 を考 えて も,や って も自分 の思 うとお りな らない んてす」 とい う訴 えが現 われ た .然 しこれ ら の訴 えは何時 とは な しに次第 に変化 し, 「押 えつけ られ るよ うな感 じは な くな ったが , 冒 が ひ と りでに同 じ所 に行 って しま う」 , 「見 よ うと思わ ないのに,ひ と りでに 日が そ っちに 行 って しま う」 とい う訴 えにな った .これ ら の 体験 は約 5カ月間持続 した後,完全 に消失 した .現在 は 尚入院 中であ るが,比較 的確 実 な病識 を有 し,軽 い感情 鈍麻は残存 す るが, 略 々寛解に近 い状態 に達 してい る.

症 例 〔 2: 女 子,漁業 ,31 才 .

〔 遺伝症 〕 母方祖父 の甥が精 神病であ った とい う.母方叔母が 1 カ月位精神病状態 を呈 した こ とが あるが,現 在は略 々正常 な家庭生 活 を営 んでい る.

こ 性格傾 向〕 幼 少時 よ り非常に勝気 ,我俵 であ った .友 人 も多 く,派手好み であ った と い う.

〔 現病歴〕 家庭 は比較 的貧 しか ったが,女 の子が 少なか ったため,両親 の愛情 を一身 に うけて育ち,多少の我瞳 は大 目にみ られ , 中 学校 は比較 的上位 の成績 で 卒 業 し た . そ の 級,家業 の漁業や家事手伝 い等 を してい た.

昭和30 年隣村 の男子 と見合結嬉 し,一子 を も うけた .夫婦 の間柄は比較 的 円満 であ り, 経済的に も一応安定 した生活 であ ったが, 姑

との折 り合 いは余 り良 くなか った とい う.

産裾期が終 わ る と間 もな く,子供 を残 した ま ゝ無断で実家 に戻 って来 た .家人 が理 由 を 尋ね て も , 「皆んな良い人 だけ どい られ ない」

とい うのみで要領 が得 られ なか った .家人が 婚家 に連れ戻 して もす ぐ戻 って来て しま う, とい った ことが数回繰 り返 され た .その頃 よ

一一

1 6 3

りノ、 が 変わ った よ うに無 口 とな り,家か ら出 よ うともせず, 日常 生活 も不活潜 とな り,独 語 ・空笑 も認 め られ,た然 と 日を送 る とい っ た状態が続 いた .

3 2 年頭初 よ り,無為傾 向の増強が認め られ るよ うに な ったが,それ とともに, 「着物 や 金物 を盗 みに来 る奴が い る 」 , 「蔭 で悪 口をい ってい る」等 とい うことが多 くな り,時 に訳 もな く興奮 し,夜 中大声で歌 を唄 う等 の異 常 行 動 も出現 し,某精 神病院 に入 院 した .

入院後約 4 年半 に亘 り,薬物療法 ・EST ・ I ST ・作業療法等 を うけ,好裾傾 向 ・感 情 妄 屯 麻 ・不 閲状態 を残 し,病識 もない ま ゝ退 院 し た .退 院後は実家 で比較 的 平 静 な 生 活 を 送

り,気が 向けば家事 な とを手伝 うこ ともあ っ た .

36 年1 2 月頃 よ り独語 ・空笑が時 々み られ る よ うに な り, 自発性 の減退 が著 明 とな り,不 眠 を訴え る と共 に, 「誰 か私の後 をつけて来 る」等 とい って家 を出な くな り, 日常生活 も 全 く不規則 とな った .洗髪 ・洗面 もせず ,時 に客が来 た りす ると,突然客 間に不作法 な態 度 で入 りこみ,大声 で訳 の解 らない こ とを早 口で喋 り立 て,阻止す る と家人に乱暴 を働 く とい った状態 とな って来院 し,直 ちに入院 し た .

〔 初 診時所 見〕 表情 の動 きは比較的乏 しか ったが,不安 で疑 い深 そ うな視線 を診察者に 向けていた .姿態 は不 自然 で ぎこちな く,脂 装 もち ぐは ぐな印象が強か った .応答 は低 く 遅 か ったが,問診に よ り断片的に追跡 ・被害 妄想 ,被害的幻聴 ,思考奪取等 の症状 を認め たが,深 い感情接触 は得 られ なか った .

入院後 chl or pr omaz i neの投 与 を 行 な い なが ら EST lクール ,I ST lクー

/

1を行 な い,急性症状 は殆 ん と消失 した .

入 院後 5カ月頃 よ り.独語が多 くな り , 「誰

か に喋 らされ てい るみ たいJ とい う訴 えが 目

立 って来 た .それ と同時 に不眠 をひんぽんに

訴 え,看護者 に 「ど うしてなの」 と不安気に

問いかけ ることが多 くな った .然 し こ うした

(4)

1 64 ‑ 叩

訴えは,t r aqui l ar ]1 50 Hl gの 投 与 に よ り一 見軽快 したかにみ えたが,注意深 く問診す る と, 「時 々誰か に喋 らされてい るよ うな気が します」 と答 えた .然 し, その話 し方 の調子 は比較 的無関心 で不安感 もみ られず ,患者が す ゝんで周囲 に訴え る ことはな くな った .

38 年初 め頃 よ り, 「誰かが私の ことを喋 っ てい るんだなあ と思 うと,喋 ってい る声 がは っき り聞 こえて来 ます」 とい う訴 えが屡 々み られ るよ うに な り,その訴 え も次第 に, 「ひ と りでに 口が動 くんです .私は何 も喋 るつ も りは ないんです」 , 「 、 誰に も命令 され て るんで は ないのに,私 も喋 ってい るつ も りもないの に, ち ゃん と耳 に聞 こえ るんです」 , 「で も何 を喋 ってい るのかは っき り解 らないんです」,

「喋 ったなあ と思 うのは,私 の耳に も聞 こえ る し,返事 も壁 の向 こ うか ら聞 こえて来 るか らなんです」 とい った変化がみ られ るよ うに な った .しか もその返事 の内容は, 「いや」

とか, 「そ うだ」 とかい う断片的 な ものであ った .また患 者は こ うした訴 えを しなが ら, これ らの奇妙 な症状 に対 して全 く不安 を示 さ ず,無関心 な態 度 を示 していた .

現在 において も, こ うした訴 えは時 々出没 してお り,感情 の鈍麻や不 関傾 向は増強 し, 自閉的 な生 活 を送 ってい る.

考 察

これ ら 2症例 は何れ も,典型的 な分裂病患 者 と考 えて も異論 はないであろ う.

これ ら 2症例 の発病 ・症状 ・経過 ・転 帰等 に多少 の差異 はあ るにせ よ,ひ と りでにそ う な る (ひ と りで に 目が 同 じ所 に い っ て し ま う,ひ と りでに 口が動いて しま う) とい う訴 えは,そ の発生 ・経過 が非常 に良 く類 似 して い るこ とが印象的 であ る.

また,症例 の観 察か ら, これ らの症状 と離 人症 ・作為体験等 の 自我意 識 障 害 と の 間 に は,密接 な関連 のあ ることは想像 にか た くな

い .

正 常心理 において,我 々の精神機能 は,そ 施

の機能 の種類 を問わず,すべ て必ず 自我 の統 制の下に, 自我 の活動 の表 現 に基づ くもの と して体験 され る ものであ る.然 し勿論, これ ら自我 の統 制は,その瞬 間,画然 と自己に意 識 され る ものばか りでは ない .それ にして も 一見, 自動的 ・無統制 に精 神機能が生 じてい る よ うに見 え る場合 において も,詳細 に これ らを観察すれば,その背後 に濃 淡 ・強弱は あ るに して も,必 ず 自我意識 の裏付け を読 み と る ことが出来 る.

Jas per sは, 自我意識 を対象意識 と対立 さ せ , 自我意識,即 ち自我が 自己自身 を如何 に 意識す るか の様式 を次 の 4 型 に分類 した .

〔 1 〕活動 の感 じ,即 ち 自 我 の 能

性 の 意 識 .

〔 2〕 同一瞬 間に 一人 であ る とい うこと,那 ち 自我 の単一性 の意識 .

〔 3 〕 以 前か ら同一人 である とい うこと,那 ち 自我 の 同一性 の意識 .

〔 4〕外界 と他人 に対す る 自我 の意識 , 即 ち 限界性 の意識 .

彼 は, 自我意識 の異 常 を上記 4 型式 の 自我 意識 の脱落 ・変容 に よる もの とし,人格喪失 感 ,作為体験 ,二重人格等 を,その典型 と考 えた .

自我 の能動性意識 の障 害に よ り,優 々の精 神的要素が , 「私 の もので ない」, 「私 のあず か り知 らない もの であ る」,「自動的 であ り, 独 りでに起 こる 」 , 「どこか他 の所か ら行 なわ れ る」 等 とい う意識 と共 に現 われ るな ら, こ れ 等の現 象は人格喪失感 (離 人 現 象 ) で あ

る と述べ てい る .

H. Ey は影響感情 ( Sent i mentd'i nf luer ] ce) が著 明で な く, 「突然 自分の考 えでない考 え が探ぶ」 , 「ひ と りでに手が動 く」等が訴 えら れ る場合, これ らの感情 を 自動感情 ( Se nt i m‑

entd'aut umat i s me) と呼 んで, 影響感情 と 区別 した .

P.C1 6r anbau l t は 分裂病過 程に よ り, 自我

の統制 に従わ ない様 々な心的現象が生 じ,そ

の結果つ くり出 され る ものを想定 し,それ を

(5)

分裂病心性への接近 Ⅲ

心的 自動症 (Aul omat i s m ment al e) と 名 付 け た .

本邦 において,島崎 教授は, これ らひ と り でにそ うな る とい う精 神現 象 を \ \ 無律性精 神

現 象

"

と呼 び, その詳細 な精神病理学的記述

を行 な ってい る.

即 ち,無律性精 神現象 ない しは無律的 に生 滅 す る精 神作用 を,それ と認 知 す る 主 観 の 意識がは っ き り し て い る場 合 の 無 律 体 験 ( Anon‑ Er l ebni s ) と呼ぶべ き もの (離人症 , 二重思考 ,言語運動幻覚)が あ る.さらに 自 動的に生起 す る精神作用 に対 し,それ を 「自 分 の外」 と感ずべ き自我 その ものが稀薄化 し て しま ってい る状 況 であ り,病者 自身 これ ら 行為が, 自我 の外 で起 こる とい うことを既 に 気が付か な くな ってい る無律行 動 ( Anomous behavi or 一 即ち咳 き声 の独語,常 同行 為,衛 奇行為 ) と呼ぶべ き ものが あ る とし,分類 し

た .

また同教授は,分裂病者 の他律性 ・無律性 精神現 象 を病態 の新 旧 との関連 において とら え,精 神活動 の 自律性 の障害の 系列 と,分 裂 病 の病期 の進 行 との間には明瞭 な相 関関 係が

ある ことを指摘 してい る.

即 ち, 自我 と自我 外に生 じた精神活動 との 対立 を, 「生地 の ま ゝ凄 じ く」意識す る病 者 もある.さらに.加工 され ない純粋 な他律 体 験 を感 ず るのは初期 の病者 であ り,病期 の進 行 とともに他律体験 は以前程人格 を妨害 しな くな り, また判 断的加工 を受けて影響妄想 に 変化す る.さらに病 勢が進 異す る と,他律感 は次 第に色越 せ, 自我感 ・反 自我感 は共に薄 れ ,主観的 自動現象が主症状 とな って来 る.

最 も古い病者 にあ っては,主観 的 な精神 自動 性 も, も早存在 せず,支離滅裂 な独語 ・空 笑

・常 同症 の如 く, いわゆ る 「外化 され た心的 作用」 のみか らな る と述べてい る.

翻 って 2症 例 の発病 ・経過, 「ひ と りでに そ うな る」 とい う症状 の発現状 況 を詳細 に考 察 してみ る と,第 1 ・第 2 例何れ も発病 当時 , 迫害 ・関係 ・注 察的色彩 の強烈 な妄想気分,

‑ 1 65

不安 感,離人 体験 等 を もって 初発 してい る.

この こ とは患者が軽快時期 において,初 発当 時 の ことを回想 して語 った内容か ら も明 らか であ る.

また これ らの症状 は次 第 に 幻 覚 (特 に 幻 聴), 作 為体験へ と進 展 し, 急性症状 の消 越 とともに奇妙 な 「ひ と りでにそ うな る」 とい う体験 が出現 してい る .

即 ち,症例 1においては,初 回入 院時 に, 離 人感 ・妄想 ・思考奪取 等の症状 の消失 した 頃か ら, 「口がひ と りでに うごいて しま う」

とい う体験が生 じてい る.

再 入院時 におい ては,幻 覚 ・妄想 ・作為感 と進行 し, 自由の被 圧迫感 ,行 動の強 い束縛 感 が顕著に認め られ た時期 を経過 してか ら次 第 に, 「ひ と りでに 臼が そ っちに行 って しま

う」 とい う訴 えが 出現 してい る.

また,症例 2 において も,妄想 ・幻覚 ・作 為体験 の軽快 とともに, 「ひ と りでに 口が動 く」 とい う体験 が生 じてい る.しか も両症例 において, この体験 の初期 には軽度 の不安感 を示 しなが ら,次第 に この体験 に 対 して無関 心 とな ってい ったのは,病勢 の進行 に よる不 関傾向の増強 に よることは勿論 であ るが,他 者か らの被圧倒感 や作為感 を ともなわなか っ た ことに起因 してい る もの と推定 出来 るで あ ろ う.

以上 の観 察は,島崎教授 の記述 と略 々一致 した結果 を示 してい る.

一方, こ うした状態 に あ る病 者 を我 々が 目

の前 に した時,何 か 明確にす る ことの出来 な

い異質 な厚 い壁,即 ち "断裂

を感ぜずには

い られ ない .これ は分裂病 者全般に感 ぜ られ

る奇異感 ,異質感 ,感情移入 の大 きな障害 ,

感情的接触 の罪薄 さ と同種 の ものに違 いない

とい うもの ゝ,発病 当初の暗 く不安 な中に,

なお共 同世界へ指向 しよ うとす る苦悩 に充 ち

た病者 の姿は失われ , また回復期に ある病者

の, 明 る く比較的生気に充 ちた,開かれ た未

来へ の指向を もった姿 とも極 めて異 な った世

界に住 んでい る とい うよ うに強 く印象づけ ら

(6)

1 6 6 ‑

る .

病 者の持つ奇妙な体験 に対す る訴えは,そ の当初 においては 苦痛 を もって訴 え られ るに も拘 らず,次第に奇異感 ・異和感 を失い,更 には症状 に対す る関心 さえ も失われて, 自ら 訴 える こともな くな り,尋ね られ る とは じめ て,常同的にその有無 を答 えるのみ とい った 不 関的 な態 度 を示す よ うにな る.

そ こには不安 さ も明 るさ もな く,不透 明 な 動 きの ない,未来 と過 去か ら殆 ん ど断裂 され て,世 界性 と歴史的 (時 間性) を失 った 「あ る もの」が あ る と表 現す る以 外に何 もない姿 のみが見 出 され るよ うに思われ る.

然 しこれ らの病 者の姿は, Jas per sの述べ る如 く, Pr oz es sに よる了解不能 な 「あ る も の」 としてのみ突 き放 し得ない,何か を含 ん で い る よ うに思われ る .

一方,分裂病 者 を共同世界 との言語的 ・非 言語的 ( Kommuni kat i ons wei s e)の障害 され た人 々,或 いは前論 文に示 した如 く,病者 の 住 む共 同世 界の変容 の前におのの き,そ の 中 にのみつ くされ よ うとしてい る人 々 と考 え る な らば, これ ら 「ひ と りでにそ うな る」 とい う体験 は,既 に 、 、 Mi t wel t 〝 との深 い 共 感 を 喪 失 した病 者の深い 自閉 の姿 とい ゝ得 るので は ないであろ うか .

即 ち,発病初期においてみ られ た ,混 沌 と して不分 明な外界変容感 ・不気味 さ ・奇怪 さ に充 ちあふれ た共 同世界は,次第 に明確 な恐 ろ しい迄 の力で迫 害 ・圧 倒 して,病者 を苦悩 の 中に投げ入れ る 「あ る もの」 としての形 を 作 りあげ,病者 は病 者 自身 の存在 の根元 を揺 り動か す恐慌 の真 只 中に さらされ ,悪意 と憎 悪 を含 んだ許す ことを知 らない他 者の まなざ しの 中に裸 の ま ゝでさ らけ 出 され, 呪 縛 さ れ ,病者 を覆 うべ き何 もの もない ま ゝに, 自 我はその力強 さ と独立性 を失 って作為感情 を 形成 し,病 者は全能 の他者の前 に屈服 し,他 者 の1 鬼偏 としての 自己を見出 し,開かれ た未 来へ の明 るい飛躍 を失 って しま うほ かは ない のでは あ るまいか .

▲r/ I,.rTIJ.

こ うした被 圧倒感 ・呪縛感 ・作 為感 ・迫 害 感情 は,病勢 の進行や不 関 の増強, 自我 の衰 弱 と共 に次第に薄れ ,他者の住 む世 界 との共 振 ・共感は失われ, 自己の精神活動 の社会性 を奪 われ てその基盤 を見失 うと同時 に, 自由 を失 った 自己の精 神活動に対す る関心 も減退 し,現実検討機能は崩解 して能動性 を失い, 病 者は これ ら自動行 為に対す る新鮮 な奇異の 念や不安感 を も忘れ ,現実 を と りもどそ うと す る努力の感情 さえ失 って, 自動的精 神 作用 の 中に沈潜 してし ま うので は な い で あ ろ う か.

分 裂病者の示す多彩 な病状 (特 に急性期 に み られ る妄想 ・幻 覚 ・離人体験 ・作為 体験 ) を,かつ ては親 しみ にあふれ ,希望 に充 ちた 未来に開かれ て生 き生 きと感せ られ た共 同世 界 との僅かに残 され た接触手段 としての,今 は失われつ ゝあ る信号 ,或 いは病者 の苦悩 に 充 ちた共 同世 界においての他者‑ の気弱な愛 着 を示す指標 と考 えるな らば, 「ひ と りでに そ うなる」 とい う病者 の体験 は,碍 よ うとし て も板 り戻 し得 なか った,共感すべ き共 同世 界 との大 き く深 い断裂 の中にのみ こまれ て作 りあげた患者 の,最 後の防衛 の鎧 ともい うべ き ものでは ないであろ うか .

そ こに あ る病 者の姿は, 自己の固有 の 自由 さを失い,世界所属性 と時 間性 を喪 失 した,

「ある もの 」に惰 した姿 といい得 るので あろ う.

結 論

2 例 の女子分裂病者 の, 「ひ と りでにそ う な る」 とい う訴 えを, J as pe r sの 自我意識及 び島崎 教授 の無律性 ・他律性精神現象の所論 と比較 しなが ら考察 し, これ らの症状 を病者 の住 む世界 と共 同世界の変容 との関連 の上 に とらえて,次 の結論 を得 た .

〔 1 〕 「ひ と りでにそ うな る」 とい う症状 は , 疾病 の進 展に よる自我 の統制の非薄化に よ り 発生 し,作為体験 とは極 めて密接 な関連 を有

してい る.

(7)

分裂病心性‑ の接近

Il

〔 2〕 これ らの訴 えを もつ病者 と "Mi t wel t 〝 とのか ゝわ りあいは,共 同世界 との深 い断裂 の 中に落 ち こみ ,\ 、 Mi t wel t 〝に於け る存在の 世界所 属性 ・時 間性 を失 った,いわば閉 ざさ れ た世 界関連 とい うべ き ものであ る.

〔 3 〕 これ ら症状 は,他者 の圧倒的 なまな ざ しの前に圧倒 されつ くした病者が住 む不関の 世界 の 中に生ず る症状 と考 え られ る.

〔 4 〕 「ひ と りでにそ うな る」 とい う病者 の 症状 は,島崎 教授 の述べ た無律 体験 と一致す

る .

参 考 文 献

l )BI \S l \ ' Ål T GER , L.:新海 ・宮本 ・木村訳 :精 神分裂病 1,1 9 6 0,Ⅱ 1 961 ,みすず書房 .

2 )J As p ERS ,K.:A日gc me i nePs yc hopa t hol o一 gi e ,6. Au

fl

. ,Ber l i n,1 9 5 3.

3 ) MI YKOWS KI ,E. ,:村上 ・野村訳 :精神分裂

1 ( う 7

柄 ,1 9 4 6 ,弘文堂 .

4) 村上 仁 : 精神分裂病の心理 ,1 9 51 ,弘文

覚 .

5)村上 仁 :異常心理学 ,1 9 5 2.

6) 越賀一雄 :時空間体験 の異常 畦異常心理学講 座 ) ? ,1 9 54 ,みすず書房 .

7)

新福尚武 ・池田数好 :人格 喪失感 d l 異常心理 学 講座 》 ,1 9 54 ,みすず書房 .

8) 宮本忠雄 :精神医学 .1 96 l ,3,1 7 9.

9) 荻野恒‑ :精神医学 .1 9 61,3,3.

1 0) 小木 良孝 :精神医学 .1 9 61,3,1 5.

l l ) 小川信男 :精神経誌 .1 9 61,6 3,6 1 ) . 1 2) 宮本忠雄 :精神経誌 .1 9 5 9,61 1 3) 島崎敏樹 :精神経誌 .1 94 9,5 0 1 4) 島崎敏樹 :精神経誌 .L 9 4 9,51

1 31 6.

3 3.

日∵

1 5) 島崎敏樹 :心でみ る世界 . 1 9 6 0.

1 6 ) 中修三編 :精神分裂病 ,1 9 5 9. 医学書院 . 1 7 ノ笠原 憲 :精神経誌 .1 9 5 9,61 ,1.

1 8) 尾野成治 ・森慶秋 :精神経誌 . 1 9 63, 6 5, 7 5 5.

1 9) 小尾いね子 :精神経誌 . 1 9 5 9,61,8 9.

2 0) 越賀一雄 :精神経誌 1 9 5 4,5 5,6 5 7.

21 ) 布施清一 :弘前医学 .1 9 6 4,1 6,4 3.

AN APPROACH TOW ARI )THE SCHI ZOPHRENI C PSYCHI CALS Par t 2 :PS yC ho pat hol o gy o f "Be ham' ng Inde pendent l y"

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De par t me r l tO fNe t L r ( , P S yC hi at r y,Fac ul t y o fMe di c i J 上 e , Hi r o s akiU7 l i T ・ e r S i E 3 J( Di r e c t o r:Pr o f.T.WADA)

Theaut hors oughtt he char ac t er i s t i c compl ai ntof"behavi ngi ndepe ndent l yf r om s el f ‑ mi nd"i nt woc as esofs chi z ophr eni aanddi s cus s edi tps ychopat hol ogi c al l y,keepi ng i nmi ndJ as per ' S "s e l f ‑ cons ci ous nes s "andShi maz aki ' S "Anon‑ Er l e bni s " .

1) Theps ychi cale xper i encei snot hi ng butas ympt om ofpat i ent swhoar es t ar ed atandper s ecut e dbyout s i der s ,t he r ef or es chi z ophr eni cpat i ent sl i vei nadi f fer entwor l d f r om t henor malone.

2) Be t weent hepat i ent swi t hs uc h as ympt om andt hei rl i vi ng wor l d (Mi t wel t ) , t her ei sadee ps pl i t:us ual l yt he y,i nt hei rownmi nd,ar es hutoutf r om s uc h awor l d・

3) Thes ympt om de ve l ops ,when t hepr oces soft hedi s eas e‑ s chi z ophr eni al s poi l st hecont r ol l abl eabi l i t yoft hes e l f mi ndandappr oac hesaut omat i s m.

4) The e xpr es s i on "behavi ngi ndependent l y" ma y be e xpl ai ned by t he t heor y name d"Anon̲ Er l e bni s H.

( Aut oa bs t r act )

参照

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