代理懐胎と法―日仏比較法と通じて―
著者 高山 奈美枝
雑誌名 明治学院大学法学研究 = Meiji Gakuin law journal
巻 84
ページ 1‑54
発行年 2008‑01‑31
その他のタイトル Maternite pour autrui et droit: droit compare japonais et francais
URL http://hdl.handle.net/10723/1998
代理懐胎と法
︱日仏比較法と通じて︱
高山奈美枝
はじめに第一章代理懐胎と法第二章フランス法における代理懐胎第三章フランス法における代理懐胎により生まれた子の親子関係定立の試みおわりに
はじめに
平成一九年三月二三日に最高裁第二小法廷は︑外国において代理懐胎・出産により出生した子につき︑依頼者であ
る女性を母とする嫡出子出生届に関する特別抗告の申立てに対し︑以下のような決定を ︵1︶下した︵以下においては本最高
裁決定とする︶︒それによれば﹁母子関係は出産という客観的事実により当然に成立すると解されてきた︵最高裁昭和 三七年四月二七日 ︵2︶判決︶﹂としたうえで﹁現行民法の解釈としては︑出生した子を懐胎し出産した女性をその子の母と
解さざるを得ず︑その子を懐胎︑出産していない女性との間には︑その女性が卵子を提供した場合であっても︑母子
関係の成立を認めることはできない﹂︒また﹁民法が実親子関係を認めていない者の間にその成立を認める内容の外
国裁判所の裁判は︑我が国の法秩序の基本原則ないし基本理念と相いれないものであり︑民訴法一一八条三号にいう
公の秩序に反するといわなければならない﹂と判示した︒本最高裁決定においては︑代理懐胎・出産を認容する外国
において生まれた子の嫡出母子関係の出生届けの受理に関して︑実親子関係の存否に関する外国裁判所の判決は︑我
が国の身分法秩序の基本原則ないし基本理念と相いれず︑民訴法第一一八条三号にいう公の秩序に反するとし︑また
出生した子を出産した女性とその子に係わる卵子を提供した女性が異なる場合においては︑出生した子と第三者に代
理懐胎および出産の依頼した女性との間に嫡出母子関係は認められないということが確認された︒
本最高裁決定において一つの争点となった﹁代理懐胎﹂とは︑依頼者との合意に基づいて人工授精によりあるいは
体外受精を行ったうえでの胚移植の方法によって懐胎・出産を行うものである︒かかる方法によれば︑依頼者の女性
の生殖細胞が用いられる場合は遺伝的繋がりのある子の出生が保障されるという特色を有することから︑医療上等の
理由により懐胎が不可能もしくは困難な女性が遺伝的繋がりのある子を持ちたいという要請と大きく合致することは
明らかである︒
しかし︑代理懐胎については多岐にわたる問題点を指摘することができる︒倫理的レベルにおいては︑代理懐胎の
実施それ自体が許容されるか否かを問うことができる︒そのことは代理懐胎に伴われる心身への負担およびリスクを 代理懐胎と法
他人に負わせることまたはそれを引き受けること︑代理懐胎が有償でなされることから導かれる商業化への危惧など
がある︒また法的レベルにおいては︑代理懐胎のための合意の有効性︑生まれた子と依頼者との間の親子関係の定立
の問題などが論じられるところであるが︑代理懐胎により生まれた子への影響など多岐に渡るる問題であり︑かつそ
れらは法的側面に限定されるものではない︒しかし敢えてこれらを﹁親﹂の問題圏とするならばそれは代理懐胎の許
容性の問題が提起されることになり︑そのように解するならば代理懐胎の合意︵契約︶の有効性の問題として位置づ
けることができる︒同じく﹁子﹂の問題圏として親は誰かということが問題とするならば︑それらは身分法における
法的親子関係の成立の問題として位置づけることができる︒民法は代理懐胎の方法による子の出生を想定していない
ことは明白であるが︑かかる場合に親は誰かということが問題となる︒民法には法的母親についての直接の明文規定
はないが︑判例および学説において分娩した女性が母であるとする原則が確立されている︒また代理懐胎につき︑体
外受精による方法によるとするならば︑卵子提供者︵遺伝母︶と出産者︵懐胎母︶が異なることが生じる︒したがって
代理懐胎の場合には子を産んでいない女性と代理懐胎により生まれた子との間に母子関係が成立するか否かが問われ
ることに ︵3︶なる︒
このように代理懐胎をめぐっては法的問題も多岐にわたるところではあるが︑本稿においてはまず代理懐胎により
生まれた子の親子関係を主たる対象として本最高裁決定の意義の検討を試みる︒また次にフランス法との比較検討を
行いたい︒フランス共和国は生命倫理立法として三つの法律を一九九四年に制定し︑広く生殖補助医療によって伴わ
れる法的問題群についての規律を創設 ︵4︶した︒代理懐胎に関しては同年七月二九日の法律第六五三号﹃人体の尊重に関
する法律﹄︵
Loi n
° 9 4
︱
6 5 3
du
ju illet 2 9
1 9 9 4 re la tiv e au re spe ct du co rp s huma in
︶において直接の明文規定により代理出産契約代理懐胎と法
が無効とされることになった︒しかしこうした立法措置を経た上でなお代理懐胎をめぐる法的問題が提起されてお り︑そのことは代理懐胎をめぐる法的問題を検討するに参照に値する議論が存在することにほかなら ︵5︶ない︒
そこで以下においては︑代理懐胎を﹁親﹂の問題圏と﹁子﹂の問題圏として捉え︑前者においては代理懐胎契約の
有効性の問題として︑後者においては親子関係の成立の問題として論じられることになる︒前者は財産法における公
序性が問題とされるのに対し︑後者は子の出生という事実の重要性と﹁子の福祉﹂が大きく支配する領域となってい
ることから︑その両者の指導原理が異なるものであり︑かような捉え方が導かれるのである︒また同様に日本法︵第
一章︶とフランス法︵第二章︑第三章︶を比較検討のうえで︑代理懐胎と民法との関わりを論じる︒
第一章代理懐胎と法
第一節代理懐胎
︿代理懐胎﹀ ︵6︶とは︑人工授精によりあるいは体外受精を行ったうえでの胚移植により︑代理母が懐胎・出産を行う
ものである︒それは以下のような三つの類型が考えられる︒すなわち第一に夫の精子を代理母に人工授精させる方法
によるもの︵以下代理母型とする︶︑第二に夫の精子と第三者の提供による卵子を体外受精させその胚︵受精卵︶を代理
母に移植する方法によるもの︵以下提供卵子型代理懐胎とする︶︑第三に夫の精子と妻の卵子を体外受精させたうえでそ
の胚︵受精卵︶を代理母に懐胎させる方法によるもの︵以下代理出産型とする︶がある︒これらは懐胎・出産
するのが
代理懐胎と法
妻以外の女性であるということ︑その女性が養育することを予定しないという点で共通するものである︒生殖細胞の
提供者が誰であるかにより︑それぞれの類型において生まれてくる子の遺伝的要素が異なっており︑依頼者夫妻との
血縁関係の有無を生じさせる︒
わが国における代理懐胎の実施についてはそれを規律する立法はなく︑日本産婦人科学会が独自のガイドラインを
作成し︑医療行為者において代理懐胎を禁止しているのが現状である︒したがって国内においては原則として代理懐
胎は実施されておらず︑本件事案を含めそれを認める外国での実施の現象をみるところである︒
日本における生殖補助医療の歴史は︑まず一九四九年に人工授精の成功例が報告されたことから始まり︑一九八三
年には体外受精の最初の成功例が報告されている︒そしてこれらが社会的な注目を集めることになるのは一九九八年
六月︑日本産婦人科学会のガイドラインにおいては容認されていない第三者の提供卵子を用いた体外受精を実施した
ことが公表されたことに ︵7︶よる︒そこで同年一〇月には厚生省︵当時︶は厚生省科学審議会先端医療技術評価部会生殖
補助医療技術に関する専門委員会を設置し︑生殖補助医療のありかたに関する検討を開始した︒二〇〇〇年一二月に
はその結果を﹁精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方についての報告書﹂として取りまと ︵8︶めた︒
そこではまず生殖補助医療の施術対象を﹁不妊症のために子を持つことができない法律上の夫婦﹂に限定するとと
もに︑六つ基本的な指針が明確に示された︒すなわち︑
A
生まれてくる子の福祉を優先する︑B
人をもっぱら生殖の手段として扱ってはならない︑
C
安全性に十分配慮する︑D
優生思想を排除する︑E
商業主義を排除する︑F
人間の尊厳を守る︑である︒また代理懐胎については刑罰をもって禁止されるものと結論付けられた︒
これを受けて二〇〇一年には厚生審議会生殖補助医療部会では︑生殖補助医療の実施条件等に関する規制の整備が
代理懐胎と法
検討され︑同時に法務省においても法制審議会生殖補助医療関連親子法制部会を設置し︑非配偶者間生殖補助医療に
よって生まれた子の親子関係を明確にする法律の検討を開始した︒二〇〇三年四月に厚生省審議会生殖補助医療部会
により﹁精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整備に関する報告書﹂が取りまとめられ︑そこにおいて
も代理懐胎は禁止するとの結論が示されて ︵9︶いる︒その理由として︑
½
Ë代理懐胎は第三者の人体そのものを妊娠・出産のための道具として利用するものであり︑上記指針の
F
に反するものであること︑½
Ì生命の危険も生じる可能性のある妊娠・出産による多大なリスクを第三者に受容され続ける行為であり︑上記指針の
C
に照らしても容認できないこと︑
½
Í代理懐胎を依頼した夫婦と代理母との間で︑生まれた子を巡る深刻な争いが提起される可能性があることが予想され︑上記指針の
A
に照らして望ましいものとはいえないことを理由として挙げられた︒そして二〇〇三年七月︑これらを前提として法制審議会生殖補助医療関連親子法制部会は﹁精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療によ
り出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する要項中間試案﹂を取りまと ︵
めた︒当該部会での審議は前述の厚10︶
生省審議会生殖補助医療部会による﹁精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整備に関する報告書﹂を前
提として生殖補助医療により生まれた子の法的親子関係を審議することから︑代理懐胎に関しては禁止されることを
前提とし︑そのうえで﹁代理懐胎契約の私法上の効力﹂は公序良俗に反し︑﹁女性が自己以外の女性の卵子︵その卵子
に由来する胚を含む︶を用いた生殖補助医療により子を懐胎し︑出産したときは︑その出産した女性を子の母とするも
のとする﹂こととし︑代理懐胎においては代理母と出生した子との間に母子関係を認める方針が示されている︒
こうした審議の経過を受け︑二〇〇六年には︑法務大臣ならびに厚生労働大臣は日本学術会議に生殖補助医療のあ
り方およびこれによって出生した子の法律上の取り扱いについて審議を依頼し︑二〇〇七年度内にその報告書が提出 代理懐胎と法
される予定である︒
このように代理懐胎の実施に関しては︑現在においては明確な禁止規定はないが医療者における自主規制として禁
止されており︑現今の立法準備作業段階においても代理懐胎は禁止されることが確認されている︒
しかしそのような審議が継続される一方で代理懐胎の実施の事実も積み重ねられることとなり︑かかる状況におい
ては︑新たな立法待たず現行法において解決されるべき喫緊の課題とされることから︑まず以下においては代理懐胎
による問題のうちそれにより生まれた子の親子関係を論じる前提をなす代理懐胎契約の法的性質につき検討を行いた
い︒そのうえで親子関係について裁判例を中心として論じる︒
第二節代理懐胎契約︱親の問題群
代理懐胎契約とは︑他人に代理懐胎および出産の依頼することを内容とする当事者の合意をいう︒代理懐胎が実施
されるには当事者の合意が不可欠である︒そして代理懐胎の実施の是非を法的に問うならば︑代理懐胎契約の有効性
の問題として位置付けられよう︒またそのことは代理懐胎により生まれる子の親子関係を考えるときの前提とされ
る︒つまり︑代理懐胎から生まれた子の親は誰なのかという問題の端緒となる︒そこで以下において代理懐胎契約の
当事者性は誰かについて︵第一款︶︑つぎに代理懐胎契約はいかなる法的性質を有するのかにつき検討を行う︵第二款︶︒
第一款代理懐胎契約における当事者性
代理懐胎契約においては依頼者︵側︶と代理母︵側︶により合意形成がなされる︒代理懐胎が法律によって禁止さ
代理懐胎と法
れない場合には︑代理懐胎の実施が承認されるか否か︑承認されるとした場合にも治療上の治療目的に限定されるか
否かが問題となる︒まず代理懐胎が医療上の治療目的に限定される場合には︑代理懐胎の依頼者側に関しては︑他の
人工生殖医療の実施と同様に夫婦であることが前提となろう︒そしてかような解釈によるならば︑婚姻
関係にない
カップルがそれに準じるか否かが問題となる︒あるいは独身者が代理懐胎の方法によって子を持つことが承認される
のか否かが問題となる︒また代理懐胎の実施が医療上の治療目的に限定されない場合においても代理懐胎の実施を承
認するか否かが問題となる場面として︑例えば同性愛者のカップルの場合︑あるいは独身者による代理懐胎の実施を
あげることができる︒
次に代理懐胎契約における代理母側の当事者性については︑代理母自身が当時者であることになる︒その場合にお
いて︑仮に代理母が既婚者︵妻︶である場合にはその夫も代理母側に含まれるであろうか︒代理懐胎契約の終局的な
目的を依頼者側と生まれた子の間の親子関係の成立にあると解することができる一方で︑代理懐胎によって生まれた
子の親子関係については︑生まれた子と代理母の夫との間には嫡出推定が機能することになる︵民法七七二条︶︒かか
る場合に︑提供精子による人工授精の場合と同様に見るならば︑妻の人工授精に同意した代理母の夫は嫡出否認がで
きない︒しかし︑代理母の夫は妻が代理母として代理懐胎を行うことの合意をしたにすぎず︑生まれてくる子の父と
なる承諾は含まれないと解するならば︑嫡出否認は肯定されると解される︒また︑生まれた子に対する一切の権利の
放棄をする約定にも関わることから︑代理母の夫も当事者と解さ ︵
れる︒11︶ 代理懐胎と法
第二款代理懐胎契約
代理懐胎の実施の承認の是非を法的問題として検討するためにはまず代理懐胎の法的性質について明らかにされる
必要がある︒また公表された事例においても代理懐胎契約に基づく実施が認められるところでもある︒そこで以下に
おいて代理懐胎契約の法的性質が検討する︒
代理懐胎の実施に関しては当事者の合意に基づく代理懐胎契約によってなされることがモデルとされて ︵
いる︒そこ12︶
でまず代理懐胎契約の性質が問題とさ ︵
れる︒学説においては代理懐胎の依頼を役務とする委任契約・準委任契13︶︵
約説︑14︶
代理懐胎を一定の期間における労務提供であると解する雇用契約説︑また体外受精によって依頼者側により提供され
た胚を移植する方法による代理懐胎の場合には︑生殖機能または子宮を一定期間につき借りることであると解しうる
ことから︑賃貸借契約の可能性も ︵
ある︒これらの問題に対しては︑代理懐胎に特有の事情をどのように考慮するのか15︶
が一つの基準となる︒すなわち代理母の負う債務︵懐胎・出産︶はどのようなものであるのか︑代理母にいかなる拘
束が負担されるものか︑引渡しの対象となる目的物︵子ども︶の特殊性をどこまで考慮すべきか︑また依頼者側から
代理母側へ渡される報酬︵金銭︶の有無が重要な要素と ︵
なる︒代理懐胎契約の特殊性のもう一つの側面として︑当事16︶
者における紛争の予防をあげることができる︒本契約に基づいて子の引き渡しまたは受け入れの拒絶︑費用支払い債
務の不履行など両当事者における不履行に関わる諸問題また生まれた子の養育責任に関しては約定によってお取り決
められることにある︒代理懐胎契約の真の目的はそれにより生まれた子に不利益が被られることなく親子関係を成立
させることにあると解するならば︑たとえ本契約が法的な問題とされないとしても︑本契約に基づく義務や責任︑と
代理懐胎と法
りわけ生まれた子の養育責任については予め合意される実際上の必要性がある︒また代理懐胎契約においては代理母
側による撤回についても問題となる︒ここでも代理懐胎契約の特殊性が考慮され︑代理母側における妊娠の継続の停
止︵中絶︶の際にはその強制は伴われないとされる︒またそのことから生じる損害賠償請求についてもその賠償額の
算定において本契約の特殊性が考慮されよう︒代理母側からの生まれ子の引き渡しを拒む場合も問題となる︒この点
についても︑強制的な子の引き渡しを命じることはできないと解され︑そのことから生じる損害賠償請求権が発生す
るにすぎないことになる︒また代理懐胎契約についてはその有償性・無償性の問題が生 ︵
じる︒17︶
次に代理懐胎契約の実施に関わる問題は契約の有効性の問題となる︒それは代理懐胎契約の性質の内容とも重なり
合い︑かつそこでは法律行為の内容が個々の強行法規に違反しなくとも︑その社会の一般的秩序または道徳観念に違
反するものであれば︑その法律行為を無効とする民法九〇条に規定される公序良俗の問題と ︵
なる︒それは生殖補助医18︶
療の実施に向けた立法準備作業においても示されている代理懐胎を禁止する理由は契約の有効性に関する公序良俗の
問題となることが指摘されるものである︒代理懐胎と公序良俗に関する問題点としては代理懐胎の要素のうち以下の
二点に集約することができる︒第一に代理懐胎を他人に依頼すること︑第二に生まれた子の引き渡しを予定している
ことである︒第一点の代理懐胎を他人に依頼する方法については︑代理母が他人のために懐胎をすることが自らの身
体を利用に供する点ならびにそれに関わる危険性を引き受ける点につき︑同様に依頼者側にもそのような行為を依頼
することへの疑問が提示される︒第二の点に関しては︑代理懐胎の終局的な目的は依頼者との親子関係を成立させる
ことと解することもでき︑そのためには子の引き渡しが予定されていることは︑かりに対価をもって行われた場合に
は人身売買とも解されうる事柄であることから︑その疑問が提示される︒この両者につき直接に明記された民法上の 代理懐胎と法
規定はないが︑この点に関わる民法上の規定・法理については︑所有権に関する規定︵民法二六〇条︶
なら びに売買 の目的物に関する規定︵民法五五五条︶を挙げることが ︵
でき︑そのことからは人身は物ではなく︑人身売買19︶
の可能性
については原理的に否定されることが導かれる︒また身体の一部の取り扱いについては︑屍体︑毛髪や血液及び臓器
については︑民法あるいは ︵
特別法によって取り扱われるものである︒これらを前提として民法九〇条の規定の問題と20︶
しては︑取引の客体に関する秩序との関連において要求される﹁物﹂の﹁非人格性﹂の要件が問題と ︵
なる︒すなわち21︶
それは人および身体に対しては人格が成立することから︑﹁物﹂であるためには︑﹁外形の一部﹂であることが要求さ
れることを意味する︒したがって︑切り離された身体の一部や歯・毛髪は﹁物﹂であるが︑その処分行為については
公序良俗に反しない限り有効と解されるものである︒これらの規定との関係においても︑民法は身体の取り扱いにつ
いては禁止する規定・法理を有してはいないが︑一定の制限下にて慎重な取り扱いをしていると解されることから︑
代理懐胎の実施については社会としての承認の可否が公序良俗要件を決定しうることは明らかである︒またこのこと
は︑契約の規範の問題として位置づけられるとしても︑親子関係の成立の規範とも関わり合う問題である点も併せて
検討されるべき重要性をここで喚起される必要性がある︒
第三節代理懐胎により生まれた子の親子関係︱子の問題群
代理懐胎契約が法律による禁止の下においても︑生まれた子の親子関係の問題が残される︒依頼者の女性と生まれ
た子との間の親子関係に関しては二通りの考え方によることになる︒すなわち︑一つは依頼者と生まれた子との間に
いかなる親子関係も認めないとする考え方︑もう一方は依頼者と生まれた子との間に親子関係を承認する考え方であ
代理懐胎と法
る︒前者は代理懐胎の禁止を制度的に保障し︑また制度としても一貫性が認められ︑明確である︒後者には︑代理懐
胎の問題を新たな局面の問題として捉え直し︑それにどのように法が関与するのか︑すなわちいかなる基準のもとに
て親子関係を承認するのか否かを明確にされる必要が生じることになる︒また代理懐胎の実施に関する特有の事情と
して︑代理懐胎が適法とされる外国における実施を経て国内における親子関係が問題とされる事例が多いことから︑
その渉外性も問題となる︒そこでこれら問題については三件の裁判例があることから︑以下においてそれらを紹介し
検討を行う︒
第一款代理懐胎により生まれた子の親子関係
まず代理懐胎から生まれた子の親子関係についてはそれを規制する法律はないことから︑現行法における解釈の問
題に委ねられることになる︒民法は親子関係の成立につき父子関係と母子関係とを分けて取り扱う︒嫡出親子関係に
おいてはまず母子関係が決定され︑そのことから嫡出推定制度により父子関係が導かれる︒その法的母子関係につい
て民法は直接の明文規定を有していないが︑民法は懐胎し出産した女性が生まれた子の母であり︑母子関係は懐胎︑
出産という客観的事実により当然に成立するという規定を設けている︵民法七二二条一項︶︒また︑母とその非嫡出子
との間の母子関係についても最高裁昭和三七年四月二七日判決︵民集第一六巻七号一二四七頁︶により︑﹁母とその非嫡
出子との親子関係は︑原則として︑母の認知を俟たず︑分娩の事実により当然に発生する﹂ことが判示されているこ
とから︑母子関係は出産という客観的事実により当然に発生すると解されてきた︒
代理懐胎から生まれた子については︑依頼者と代理母︑第三者からの卵子提供の場合にはその第三
者についても
代理懐胎と法
﹁母﹂となる可能性を有している︒法制審議会により公表された﹁要綱中間試案﹂においては︑子を出産した女性を
子の﹁母﹂とするものとしていることから︑代理母が﹁母﹂とされることが明示されており︑かつ学説においてもそ
の支持が見られるものとなっている︒問題は︑代理懐胎の依頼者と生まれた子との間に養親子関係を認めるかどうか
という点である︒この点については︑いかなる親子関係も承認しないとする説︑養子縁組による養親子関係を承認す
る説とに分かれる︒前者によれば︑代理懐胎は実親子関係自体を作り出す手段となる点を考慮する︒それは子どもを
持つか否かは最終的にはカップルの選択に委ねられるものであるとする原理から出発して︑裁判所の関与によって
﹁子の利益﹂の観点から生殖補助医療を受けられる人をスクリーニングすることを社会が承認することになる点を重
視 ︵
する︒後者においては︑﹁子﹂が生まれたという事実に着目し﹁生まれてくる子の福祉を優先する﹂立場から︑子22︶
の特別養子縁組による親子関係の定立を承認することが提示されて ︵
いる︒23︶
これらを前提として以下においては代理懐胎をめぐる実際の裁判例を紹介し検討を行う︒
第二款代理懐胎によって生まれた子の裁判例
これまでに公表された代理懐胎に関する裁判例は二事例のみである︒両件とも外国において代理懐胎を行い︑当地
における親子関係の確定判決を得て嫡出親子関係の出生届の受理を求める事案となった︒以下に大阪高裁平成一七年
五月二〇日決定︑本最高裁決定の原審である東京高裁平成一八年九月二九日決定ならびに本最高裁決定を紹介する︒
﹇一﹈大阪高裁平成一七年五月二〇 ︵
日決定24︶
代理懐胎と法
﹇事実﹈代理懐胎が認容されるアメリカ・カリフォルニア州にて代理懐胎を依頼し︑依頼者夫婦の夫の精子と第三
者提供による卵子を体外受精させ︑胚移植の方法による代理懐胎・出産により双子が出生した︒また依頼者夫婦は当
地の裁判所において父子関係および母子関係確認訴訟を提起し︑それを旨とする判決を得た︒そこで依頼者夫妻は自
分たちを親とする出生証明書とともに子らの出生届けを提出したところ︑依頼女性の年齢が五〇歳を超えていたた
め︑法務省通達に基づいてその出生届けの受理が保留されたことから代理懐胎の事実が明るみになった︒
﹇判旨﹈本大阪高裁決定では︑外国判決の承認の問題としてではなく︑外国で出生した親子関係に関する準拠法適
用の問題として扱い︑﹁法例一八条一項︹法適用通則法二九条一項︺で定まる準拠法により︑更に︑親子関係の成立
の有無を判断すべきである﹂としたうえで﹁母子関係の有無を決する基準について︑これを明定する法律の規定はな
いが︑従前から︑母子関係の有無が分娩の事実により決するのが相当であると解されてきた︵最高裁昭和三七年四月二
七日第二小法廷判決︶﹂とし︑﹁そのことは生殖補助医療の発展を考慮に入れてもなお維持されるのが相当であると﹂し
た︒また﹁代理懐胎契約は公序良俗に反するものとしてその効力を否定すべきものである﹂とし︑依頼女性と生まれ
た子らとの間の母子関係は認められないと判示した︒
﹇二﹈東京高裁平成一八年九月二九 ︵
日決定25︶
﹇事実﹈ネヴァダ州において代理母夫妻と有償の代理懐胎契約を締結し︑依頼者夫妻の受精卵を移植する方法によ
り代理懐胎・出産がなされ︑双子が出生した︒当地の裁判所において
A
依頼者夫妻を法的な親とすること︑B
依頼者夫妻を親とする出生証明書の発行を主たる内容とされる裁判を提起し︑裁判所はその旨を判決した︒そこで依頼者夫 代理懐胎と法
妻は自らを実親とする出生届けを提出したところ不受理とされたことに対する不服申立てを提起した︒
﹇判旨﹈当地における判決を﹁外国裁判所の確定判決﹂であることを認定したうえで︑かかる裁判の民事訴訟法一
一八条の適用ないし類推適用の是非について検討をし︑その承認の要件としての公序良俗に関しては個別的かつ具体
的内容に即した検討を行い︑
A
依頼者と代理懐胎により生まれた子とは血縁関係を有する︑B
依頼者側の妻による懐胎が不可能であることから代理懐胎によったこと︑
C
代理母による出産はボランティア精神に基づくものであり金銭の支払いは子の対価ではない︑
D
契約内容においても代理母を侵害するような要素はうかがえない︑E
代理母夫妻は生まれた子らの養育を希望しておらず︑依頼者夫妻は子らを実子として養育することを希望していることから子の福
祉に適う︑
F
﹁厚生省科学審議会生殖補助医療部会が︑代理懐胎を一般に禁止する結論を出しているが︑その理由として挙げている︑すなわち子らの福祉の優先︑人を専ら生殖の手段として扱うことの禁止︑安全性︑
優生思想の排
除︑人間の尊厳の六原則について︑本件事案の場合はいずれも当てはまらず︑現在わが国では代理懐胎を否定するだ
けの社会通念が確立されているとまでは言えない︑
G
法制審議会生殖補助医療関連親子法制部会において︑外国で代理懐胎が行われ︑依頼者の夫婦が実親となる決定が出された場合︑代理懐胎契約はわが国の公序良俗に反するため︑
その決定の効力はわが国では認めされないとする点に異論がなかったことが認められるが︑本件裁判は︑本件代理出
産契約のみに依拠して親子関係を確定したのではなく︑依頼者夫妻と子らと血縁上の親子関係にあるとの事実及び代
理母夫妻も依頼夫妻の子と確定することを望んでいて関係者に親子関係について争いのないことも参酌して︑子らを
依頼者夫妻の子と確定したのであり︑前記議論があるからといてえ︑本件裁判が公序良俗に反するものではない﹂︒
とした︒また身分関係に関する外国裁判の承認については︑外国の裁判に基づき依頼者夫妻を子らの法律上の親とす
代理懐胎と法
ることに違和感があることは否定できないとしたが︑民事訴訟法一一八条に定める所定の要件が満たされれば︑これ
を承認するものとされており︑本件事案についてのみこれに従わない理由を見出すことはできないことから︑本件に
おいても法例一七条が指定する日本の民法を適用する余地はなく︑上記違和感があるからといって公序良俗に反する
とは言えないとし︑原審判を取り消したうえで出生届の受理が命じられた︒
﹇三﹈最高裁一九年三月二三日第二小法廷決定︵右記﹇二﹈判決の上告審︶
﹇判旨﹈﹁母子関係は出産という客観的事実により当然に成立すると解されてきた
︵最 高裁昭和三七年四月二七日判
決︶﹂︒﹁現行民法の解釈としては︑出生した子を懐胎し出産した女性をその子の母と解さざるを得ず︑その子を懐胎︑
出産していない女性との間には︑その女性が卵子を提供した場合であっても︑母子関係の成立を認めることはできな
い﹂︒﹁民法が実親子関係を認めていない者の間にその成立を認める内容の外国裁判所の裁判は︑我が国の法秩序の基
本原則ないし基本理念と相いれないものであり︑民訴法一一八条三号にいう公の秩序に反するといわなければならな
い﹂と判示した︒またその補足意見においては︑本件に関する親子関係の成立に関しては﹁特別養子縁組を成立させ
る余地は十分にある﹂とし︑さらに本問題を含めた生殖補助医療に関する問題に対しては﹁立法による速やかな対応
が強く望まれる﹂ことが付されている︒
以上の三つの判決からは次のような問題点を確認することができる︒すなわち︑代理懐胎から生まれた子の母子関
係については︑上記のとおり︑判例および学説とも分娩をした女性を母とする原則が確認されかつ起点とされる︒続
いて︑代理懐胎の方法によって子が出生した場合であってもその原則が適用されるかどうかが検討されている︒右裁 代理懐胎と法
判﹇一﹈および﹇三﹈においてもなおその原則が維持されることが明示されている︒そのうえで︑代理懐胎の方法に
よって子を産んでいない女性との母子関係が認められるか否かという点については︑﹁その子を懐胎︑出産していな
い女性との間には︑その女性が卵子を提供した場合であっても︑母子関係の成立を認めることはできない﹂ことが確
立された︒実親子関係は﹁身分関係の中でも最も基本的なものであって︑単に私人間の問題にとどまらず︑公益に深
くかかわる﹂︵本最高裁決定より引用︶重要なルールの一つであることから︑﹁一義的に明確な基準によって一律に決せ
られるべきである﹂ことをその理由とするものである︒この解釈によれば︑代理懐胎の方法により依頼者である女性
と生まれた子との実親子関係は否定されるが︑養子縁組により養母となる可能性は残されることになる︒
かかる三つの裁判例においては︑以下の争点に還元することができる︒第一点が代理懐胎の実施に係わる公序の問
題︑第二点は代理懐胎の依頼者と生まれた子の間の母子関係の成立の問題︑第三点は親子関係を確定する外国判決の
承認の問題である︒第一点の代理懐胎の実施が公序に反するかどうかは︑右記大阪高決が﹁代理懐胎契約は公序良俗
に反するものとしてその効力を否定すべきものである﹂と判示するのみであり︑本最高裁決定もその是非については
判断を明示していない︒右記東京高決定においては︑一般論としてはその適法性の存否を述べていないが︑個別具体
的な解釈を行い︑公序に反しないとする結論を判示した︒また二つの事例に共通する渉外性の問題については︑すな
わち日本においては原則として代理懐胎の実施は認められていないことからそれを適法とする外国において実施し︑
それにより生まれた子と依頼者との間の親子関係につき︑外国における親子関係の確定判決を得て国内における親子
関係を求める場合の民事訴訟法一一八条三号における外国判決の承認の問題という構成となる︒同条に規定される外
国判決承認のための要件としての﹁公序﹂とは︑外国で下された判決を承認し︑我が国で判決としての効力を認める
代理懐胎と法
結果が我が国の公序に反するか否かを問う要件であると解され︑その基準としては︑外国判決を承認した結果の異常 性と事実の内国牽連性という二つの基準が用いられて ︵
いる︒26︶
︵1︶最高裁第二小法定平成一九年三月二三日決定︵平成一八年︵許︶第四七号︑市町村長の処分に対する不服申立て却下審判に対する抗
告審の変更決定に対する許可抗告事件︶民集六一巻二号六一九頁︑家庭裁判所月報第五九巻七号七二頁︑裁判所時報第一四三二号四頁以︑判例時報一九六七号三六頁︑判例タイムズ一二三九号一二〇頁︑ジュリスト一三四一号︵二〇〇七︶一六五頁以下
︵土谷裕子・時の判例︶︒第一審は東京家裁平成一七年一一月三〇日審判︑第二審は東京高裁平成一八年九月二九日︒水野紀子﹁生殖補助医療と子の権利﹂法律時報七九巻一一号三一頁以下︵二〇〇七︶︑樋口範雄﹁人工生殖で生まれた子の親子関係﹂法教三二二号一三二頁以下︵二〇〇七︶︑佐藤文彦﹁いわゆる代理母に関する最高裁決定について︱公序に関する判示の問題点︱﹂戸籍時報六一四号五一頁以下︵二〇〇七︶︑石井美智子﹁代理母︱何を議論すべきか︱﹂ジュリスト一三四二号一〇頁以下︵二〇
〇七︶等︒︵2︶民集第一六巻七号一二四七頁︒︵3︶代理懐胎の実施については医療関係者における行為規制の問題ともなるが︑国内では日本産婦人科学会の会告により代理懐胎の実施が禁止されていることから︑外国において代理懐胎が行われる現実がある︒そこで︑このような事案については渉外性の問題も関わってくることとなる︒︵4︶一九九四年七月一七日の法律第五四八号︵﹁保健の分野における研究を目的とする記名データの処理に関し︑情報処理・情報ファイル
および諸自由に関する一九七八年一月六日の法律第一七号を変更する法律﹂︶︑同年七月二九日の法律第六五三号︵﹁人体の尊重に関する
法律﹂︶︑および同日の法律第六五四号︵﹁人体の諸要素および産出物の提供及び利用︑生殖に対する医療的介助︑および出生前診断に関
する法律﹂︶の三法︒後述第二章第一節を参照︒︵5︶フランス法における代理懐胎・出産に関して︑野村豊弘﹁フランス判例における代理母と養子縁組﹂加藤一郎古稀記念﹃現代社会と民法学の動向︵下︶﹄有斐閣︵一九九二︶五九三頁以下︑本山敦﹁フランスの人工生殖親子法について﹂学習院大学 代理懐胎と法
法学研究論集第六巻︵一九九八︶九七頁以下を参照︒本稿はこれらの研究に負うところが多い︒なお両論文は以下においてそれぞれ﹁野村論文﹂﹁本山論文﹂として引用することとする︒︵6︶本稿において代理懐胎とは説明されるすべての類型を含むものとし︑特記されないかぎり︑懐胎ならびに出産の過程を含むこととする︒︵7︶根津八紘医師により妻ではなく第三者から採取した卵子を用いて体外受精を行ったことが公表された事件を指す︒︵8︶石井美智子﹁新しい親子法︱生殖補助医療を契機に︱﹂湯沢雍彦・宇都木伸編﹃人の法と医の倫理﹄三一頁以下︑信山社︵二
〇〇四︶︑二宮周平﹃家族と法︱個人化と多様化の中で﹄一三〇頁︑岩波新書︵二〇〇七︶︒︵9︶石井美智子﹁非配偶者間生殖補助医療のありか方︱厚生省科学審議会生殖補助医療部会の審議状況﹂︑ジュリスト一二四三号一九頁以下︵二〇〇三︶︒︵
︵ 医療と家族法︱立法準備作業の現状をふまえて﹂︑同一二頁︒
10
︶野村豊弘﹁生殖補助医療と親子関係をめぐる諸問題総論﹂︑ジュリスト一二四三号六頁︵二〇〇三︶︑大村敦志﹁生殖補助︵ 頁を参照︒
11
︶石井美智子﹁新しい親子法︱生殖補助医療を契機に︱﹂湯沢雍彦・宇都木伸編﹃人の法と医の倫理﹄信山社︵二〇〇四︶五三︵ る︒ 関与することから︑代理懐胎に関わるサービスが提供についても予め約定しておくことを要件とされることもあるとされ 務ならびに損害賠償責任を要件とする地域もある︒また通常は代理懐胎を斡旋する団体がその当事者の仲立ちをする形にて れらに関わる一切の費用負担のみでなく︑中絶を含めた撤回の自由︑事情変更の場合の子どもの監護権の帰属︑当事者の義 検査︑医療機関の選定︑生まれてくる子との親子関係についての取り決めとそのための司法的手続き︑保険契約の締結︑そ おける代理懐胎契約を例とすれば︑代理懐胎の一連のプロセスがその内容となる︒そこには代理母の個人情報や健康状態の
12
︶代理懐胎契約の内容については︑代理懐胎を中心的な要素するものである︒それが認容されているアメリカの一部の州に ランソワ・テレは﹁それ故︑子を生んで引き渡すという契約は無効であるが︑しかし︑当事者の行動それ自体は不法ではな13
︶代理懐胎契約あるいは合意については︑まずそもそも法的な意義を有するものであるか否かについても問題となろう︒フ代理懐胎と法
く︱従って︑生まれるべき子の放棄を両親またはその一方に約束させる行為を処罰する刑法典第三五三︱一項の適用除外の承認が必要︱︑余りにも本質的な自由の領域ゆえに契約には馴染まないと考える﹂とする︵F.TERRE.LEnfantdelesclave:Génétiqueetdroit,Flam- marion︵
1 9 8 7 ︶
︑紹介は北村一郎︑国家学会雑誌一〇四巻一・二号一六三頁以下︶による︒︵
︵
14
︶原田晃治﹁いわゆる代理母の出産した子の法的地位について﹂戸籍六〇〇号一頁以下︵一九九四︶︒︵
15
︶大村敦志﹃家族法﹄第二版補訂版二二〇頁︑有斐閣︵二〇〇四︶︒︵
16
︶この点に関しては公序良俗の問題として以下に検討される︒︵
17
︶右記同様に公序良俗の問題とし以下に検討される︒︵
18
︶我妻栄﹃民法総則﹄岩波書店︵一九六五︶二七〇頁︒︵
19
︶大村敦志﹁民法等におけう生命・身体︱﹃子どもへの権利﹄を考えるために︱﹂法社会学代五六号︵二〇〇二︶一八三頁参照︒︵
20
︶例えば臓器移植に関する法律︵平成九年法一〇四︶など︒︵ 一〇三頁︒
21
︶四宮和夫・能見義久﹃民法総則﹄第七版︵弘文堂︑二〇〇五︶一三七頁︑北川善太郎﹃民法総則﹄第二版︑有斐閣︵二〇〇一︶22
︶大村敦志﹃もうひとつの基本民法︵
¿
﹄有斐閣︵二〇〇五︶一八五頁以下参照︒︵
23
︶石井美智子﹃人工生殖の法律学﹄有斐閣︵一九九四︶九三頁参照︒︵
24
︶林貴美︑判例タイムズ一二一九号五八頁以下︵二〇〇六︶︒︵
25
︶早川眞一郎︑判例タイムズ一二二五号五八頁以下︵二〇〇七︶︒照︒
26
︶長田真里﹁代理母に関する外国判決の効力〜民訴一一八条の適用に関して〜﹂法律時報二〇〇七年一〇月四五頁以下を参 代理懐胎と法第二章フランス法における代理懐胎
第一節一九九四年生命倫理法の制定以前の状況
フランスにおける人工生 ︵1︶殖は︑まさにフランス民法典の制定された一八〇四年に人工授精子が誕生したことから始
まるとされる︒人工授精に関する初めての判決は一九世紀の終わりに見られる︒ボルドー大審裁判所一八八三年八月
二七日判決︵
Tr ib. civ. B or de aux,
août 2 7
1 8 8 3
,R ev .h ist .m éd .,f év r.
1 9 5 5 ︶
は夫以外の第三者の精子による人工授精につきフ
ランス民法典第二三一条の規定する離婚原因の﹁重大な侮辱﹂にあたると判示 ︵2︶した︒制定当時のフランス民法典は当
然人工授精についての規範を持たず︑それに対する法的問題については︑第二次世界大戦後のフランス民法典改正委
員会による人工授精に関する規定を親子関係法に創設する改正草案において見られるものの︑その立法は実現しない
ままとな ︵3︶った︒
一九九四年生命倫理法の制定以前においては︑代理懐胎に関する法的規制は存在せず︑一九八四年にはフランスに
おける第一例目とされる代理懐胎が実施されている︒それは代理懐胎を斡旋する非営利団体によって実施された事例
︵パトリシア事件︶であり︑それに続く他の事例を含めマス・メディアによって大きく報道されたこともあり社会の関
心を集める事件とな ︵4︶った︒これらの事件に対してはいくつかの政治上の反応が見られ
るところと
︵5︶な り︑ まずバダン テール司法相からコルニュ教授︵
pr of es se ur Ge ra rd CORNU
︶︑ゴベール教授︵pr of es se ur M ic he lle GOBERT
︶それぞれに対し代理懐胎と法
専門的な問題の検討の諮問がなされた︒また全国倫理諮問委員会︵
CCNE
︶はより一層の広範な議論の必要性を喚起する意見書を発表し︑公開討論会を開催した︵一九八四年一二月六日︑七日︶︒またフランス政府においても﹁遺伝・生
殖・法﹂と題されるコロックが開催され︵一九八五年一月︶︑これら一連の動向はその後の立法化を大きく方向付ける
ものとして評価されて ︵6︶いる︒
こうした立法化へ前進する動きに対応するように裁判例においても代理懐胎をめぐる法的問題が喚起され︑一方で
は代理懐胎斡旋非営利団体の適法性が問われ︑国務院︵
Cons eil d Eta t
︶は︑フランス刑事法典第三五三 ︵7︶条の一を根拠に︑同団の設立目的の適法性を否 ︵8︶定し︑同様に破毀院においても代理懐胎の斡旋非営利団体の設立目的が適法性を認めな い判決が下され ︵9︶ている︵本章第二節における裁判例﹇一﹈を参照︶︒他方でこうした状況下においてなおフランス国内お
よび外国において代理懐胎の実施がみられ︑その結果︑代理懐胎により生まれた子と依頼者との間の親子関係の成立
につき︑養子縁組の効力の問題として提起されることになった︵本章第二節を参照︶︒
フランスにおける一九九四年生命倫理法の制定がひとつの区切りであることを前提とするならば︑本法制定以前の
状況においては代理懐胎の実施の是非が問題とされるはずである︒代理懐胎をめぐる問題群がフランスの裁判例にお
いて現れるのは︑一方で代理懐胎を仲介する非営利団体の設立目的の適法性の問題としてであり︑他方においては代
理懐胎により生まれた子と依頼者との間の養子縁組の効果の問題としてであった︒後者の問題に関しては︑裁判所は
当初︑代理懐胎から生まれた子と依頼者との間の養子縁組につき︑これを是認する判決が見られた︵ヴェルサイユ大審
裁判所一九八六年七月九日 ︵
判決︑パリ控訴院一九九〇年六月一五日10︶︵
判決︑ポー控訴院一九九一年二月一九日11︶︵
判決︶︒そこで破毀12︶
院検事長は︑パリ控訴院一九九〇年六月一五日判決に対し﹁法律の利益のための破毀申立て︵
pour voi da ns lin térêt de la
代理懐胎と法lo i
︶﹂を提起し︑全国倫理諮問委員会︵CCNE
︶委員長ジャン・ベルナール教授を﹁破毀院の友︿amicus curiae
﹀﹂の資格により鑑定人として意見を聴聞するという異例の対応によって︑代理懐胎の禁止を要請した︒
そこで以下においては︑代理懐胎を仲介する非営利団体の設立目的の適法性に関する破毀院第一審理部一九八九年
一二月一三日判決︵裁判例﹇一﹈︶︑﹁法律の利益のための破毀申立て︵
pour voi da ns lin térêt de la lo i
︶﹂による破毀院大法廷一九九一年五月三一日判決︵裁判例﹇二﹈︶を紹介し︑概観する︒
﹇一﹈破毀院第一審理部一九八九年一二月一三 ︵
日判決13︶
﹇事案﹈アルマ・マテル協会は不妊の夫婦に代理母となる女性を紹介することを目的とする団体であり︑妻の不妊
のために子のない夫婦を組織した聖サラ協会と代理母を自発的に引き受ける女性を組織したこうのとり協会との間に
て︑仲介を行っていた︒アルマ・マテル協会を通じて代理懐胎がなされる場合の出生子については︑父︵依頼者︶に
認知され︑母の名が表示されない子として身分登録簿に届けられ︑子の引き渡しがなされたうえで︑妻︵依頼者︶に
よる養子縁組の申立てをするという手続きを踏むものであった︒これに対しマルセイユ大審裁判所は︑アルマ・マテ
ル協会は法律および善良な風俗に反し︑違法な目的を有するものであることを理由として一九〇一年七月一日法第三
条に基づいて協会が無効であると宣告した︒これを受けたエクサンプロバンス控訴院一九八八年四月二九 ︵
日判決も原14︶
判決を是認した︒
﹇判旨﹈アルマ・マテル協会の設立目的は︑代理母の生殖機能を依頼者に自由に利用させることおよび生まれてく
る子に関する引き渡しの合意の締結ならびに履行を助長するものであることからフランス民法典第一一二八条の適用
代理懐胎と法