差止請求権の発生根拠に関する理論的考察―E.
Pickerの物権的請求権理論を手がかりとして―
著者 根本 尚徳
雑誌名 明治学院大学法律科学研究所年報 = Annual Report of Institute for Legal Research
巻 26
ページ 99‑116
発行年 2010‑07‑31
URL http://hdl.handle.net/10723/2229
差止請求権の発生根拠に関する理論的考察
―E. Pickerの物権的請求権理論を手がかりとして―
根 本 尚 徳 第1 序
1 報告内容の概観
① エドゥアルト・ピッカーの物権的請求権理論に関する分析(→ 第2)
② 日本法に関する示唆の獲得(→ 第3)
③ 上記示唆を基にした、我が国の現行民法典における差止請求権の発生根拠に関する違法侵 害説の主張の解釈論的基礎付け(→ 第4)
2 問題意識 ―「新たな問題」の発生―
… 競争秩序違反行為や環境破壊行為に対する私人の差止請求権を、どのように基礎付けるか。
⑴ 環境破壊行為をめぐる問題 ―具体例その1―
… 例 ある地域の良好な景観を社会的相当性を欠く態様で破壊する行為=当該地域の住民の
「景観利益」(良好な景観の恵沢を享受する利益)を侵害する。
→右行為に対する住民の差止請求を認める必要性、合理性
・ 伝統的な発生根拠論 … 差止請求権の発生には、私人の「権利」(=排他的支配権)に 対する侵害が必要である。
→「景観利益」は、「権利」ではない。
最判平成18年3月30日民集60‑3‑948
「良好な景観に近接する地域内に居住し、その恵沢を日常的に享受している者は、良好な景 観が有する客観的な価値の侵害に対して密接な利害関係を有するものというべきであり、これ らの者が有する良好な景観の恵沢を享受する利益(以下「景観利益」という。)は、法律上保 護に値するものと解するのが相当である。
もっとも、この景観利益の内容は、…現時点においては、私法上の権利といい得るような明 確な実体を有するものとは認められず、景観利益を超えて「景観権」という権利性を有するも のを認めることはできない」1。
⑵ 競争秩序違反行為をめぐる問題 ―具体例その2―
… 近時相次ぐ、いわゆる消費者団体訴訟制度の導入(消費者契約法12条以下、景品表示法11
条の2、特定商取引法58条の4以下)
→ 競争秩序違反行為によって「自己の利益が侵害されているわけではないのに、「適格消費 者団体」が差止請求権を行使できるのはなぜか…。…このような法制度は法理上どのよう にして正当化可能なのか…。この問いに答えるのは学説の任務となろう」2。
⑶ 「権利」侵害を要件としない新たな発生根拠論を構築する必要性
→現行民法典における差止請求権の発生根拠について(再)検討する必要性
3 分析方法
⑴ 物権的請求権の発生根拠に関する分析 ア 物権的請求権の一般的承認
イ 差止請求権の一典型としての物権的請求権
… 物権的請求権=「物権に基づく差止請求権」3=「差止請求権の一典型ないし基礎」4
⑵ ピッカーの物権的請求権理論を分析する理由 ア ドイツにおける評価
「ピッカーの理論は、素晴らしい理論的業績(eine brillante dogmatische Leistung)である。
それは、〔これと対立する〕通説に、その〔主張の妥当性に関する〕基礎付けのための、従 前に比して格段により高度の努力を強いる〔ものである〕…。その上、ピッカーの理論は、
明らかに、学説上有力になりつつある。このような理由からも、それは特別の注目に値する」5。
イ 近時の注目すべき主張
… 物権的請求権と同様の保護手段は、物権その他の絶対権にのみならず、原則として、私 人のあらゆる法的権限にも同様に認められなければならない。
第2 ピッカーの物権的請求権理論に関する分析
1 権利簒奪理論
⑴ 物権的請求権の制度目的、要件、効果
ドイツ民法典61004条1項第1文「所有権が占有の侵奪又は物の留置以外の方法によって侵 害されている場合には、所有者は、侵害者に対して、侵害の排除を請求することができる」。
Wird das Eigentum in anderer Weise als durch Entziehung oder Vorenthaltung des Be- sitzes beeinträchtigt, so kann der Eigentümer von dem Störer die Beseitigung der Beein- trächtigung verlangen.
ア 骨子
… 民法=権利割当秩序→何人にある物の所有権が帰属し、その自由な処分(それによる利 益の享受)が許されているのか、を規範的に定める→所有者に割当てられている「所有物 を自由に処分しうる法的権原」が無権限の第三者の下に事実上帰属している状態=違法→
右違法状態を所有者が排除し、本来あるべき法益分配状態を実現するための法的手段=物 権的妨害排除請求権
イ 整理 制度目的
… 「現行法秩序により定められた〔私人間における〕権利及び利益の分配状態の維持」7 侵害(die Beeinträchtigung)
… 所有物を自由に処分しうる法的権原が所有者(被侵害者)の下から事実上失われ、無 権限の第三者(侵害者)の下に帰属している状態
「第三者が、所有権秩序によればその者に帰属しない地位を有している状態、すなわ ち権利簒奪(die Rechtsusurpation)の要素こそが、…「侵害」の本質的なメルクマール であり、それゆえに、あらゆる妨害排除義務の要件の「共通の分母」」8となる。
妨害排除(die Beseitigung)
… 「侵害」状態の除去→無権限の第三者(侵害者)に事実上帰属している各種の法的権 原をその者から奪い取り、それを所有者(被侵害者)の下に回復すること=侵害者の権 利簒奪的地位の剥奪
帰責事由の要否
… 「妨害排除」=侵害者の権利簒奪的地位の剥奪→侵害者は、その者がもともと正当に享 受することのできない他人の利益を失うに過ぎない→侵害者に対して(自らの財産を積 極的に支出するという)不利益を負わせるものではない→発生要件として侵害者の帰責 事由(例、有責性)は不要
ウ 具体例
Aの所有する家屋の屋根瓦が、風に吹き飛ばされて、その隣の土地に立っているB所有家 屋内に侵入した(そして、現在も屋内に置かれたままである)。
また、瓦が侵入した際に、B所有家屋の窓ガラスが破損 した。
① Aの屋根瓦のB家屋内での存在→Bは「B家屋内を自 由に使用する法的権原」を事実上、失っている→Aは 当該権原を事実上、保持している→B家屋所有権に対 する「侵害」の発生
② Aの屋根瓦のB家屋外への撤去→Aの権利簒奪的地位 の剥奪、Bの法的権原の回復=「侵害」の除去=「妨
害排除」(物権的請求権の目的達成)
→ Bは物権的妨害排除請求権に基づき、それ以上の効果=「原状回復(損害賠償)」(例、
破損した窓ガラスの張替)を求めることはできない。
→ 「妨害排除」=本来、Aの行使しえない他人 の権原を、Aから剥奪するのみ→Aに正 当に帰属するその者固有の財産の支出を強制するものではない→「妨害排除」義務の発 生に、Aの帰責事由(故意・過失など)は不要
⑵ 不法行為損害賠償請求権との異同 ア 分析
制度目的
… 「被害者の財産に生じた欠損の補償」9 損害
… 被害者の被った「財産的不利益」(例、所有物の滅失それ自体)→被害者から失われた 利益が加害者の側に帰属していることを要しない→「侵害」との相違
原状回復(損害賠償)
… 被害者に発生した「不利益を…被害者の財産から賠償義務者の財産に単に移すこ と」10→加害者が、その「固有の財産を支出して債権者〔被害者〕の不利益を埋め合わ せること」11=加害者に対する(自らの財産を失う、という)不利益の賦課→「妨害排除」
との相違 帰責事由の要否
… 「原状回復(損害賠償)」=加害者への不利益の賦課→これを正当化するための帰責事 由(例、加害者の有責性)が発生要件として必要
イ 具体例
① 窓ガラスの破損→Bの財産的利益の喪失=「損害」
… このとき、当該窓ガラスの破損によりAは何ら(本来Bの受けるべき)利益を享受し ていない→「侵害」との相違
② 「原状回復(損害賠償)」=窓ガラスの張替
… Aは自らの財産(「財布」)から張替用の新しい窓ガラスの代金等を支払わなければな らない→Aにその固有の財産の支出を強制する=Aへの不利益の賦課→「妨害排除」と の相違
→ 「原状回復(損害賠償)」義務の発生には、Aに帰責事由(故意・過失など)の存す ることが必要
⑶ 小括
ア 物権的請求権の意義 ―物権の私人間における規範的分配状態を実現するための法的手段―
… 物権的請求権=あらゆる態様での無権限者による「権利…割当秩序と矛盾する…所有権 限の事実的簒奪」12に対して、所有者の自由の防御を可能にする「所有権自由請求権
(Eigentumsfreiheitsanspruch)」13
イ 物権的請求権と不法行為損害賠償請求権との峻別
両請求権の要件・効果の内容における峻別 a 要件上の相違
① 「侵害」と「損害」との相違
「侵害」 =「「被侵害者」に割当てられた法的権原の〔侵害者による〕事実上の保持」14
=侵害者による被侵害者の権利の簒奪 「損害」=被害者の財産的利益の喪失
「侵害」と「損害」とは「本質的に異なる」15ものであり、「その間では概念的な交 錯は起こりえず、〔一方から他方への〕「移行」を考えることはできない」16。
② 被請求者の帰責事由の要否 物権的請求権 … 帰責事由不要
不法行為損害賠償請求権 … 帰責事由必要 b 効果上の相違
「妨害排除」= 侵害者の権利簒奪的地位の剥奪≠侵害者に正当に帰属するその者固有の 財産の支出
「原状回復(損害賠償)」= 被害者の被った不利益(「損害」)の加害者への転嫁=加害 者固有の財産の支出
根源的・本質的相違
物権的請求権と不法行為損害賠償請求権の要件及び効果は、「一方は、事実上の権利簒 奪的地位の…排除…として、他方は生じた損害の…原状回復…として、〔それぞれの存在〕
根拠と目的に従って、明確に区別される」17。
2 物権的請求権の実質的発生根拠
⑴ 「ひとつの一般的原理」の現れとしての物権的請求権
物権的請求権による保護は、「ひとつの一般的原理(ein allgemeines Prinzip)を具現してい る」18。
「その原理の根底には、民法は、それ〔民法〕により〔私人に〕与えられた「実質権4 4 4」(
Sub- stanzrecht
)を「保護権4 4 4
」(
Schutzrecht
)によって保障する、ということが…ある」19。… 私人に一定の実体的な法的地位が認められている場合には、それは「実質権」として、そ れを保護ないし実現するための道具たる権利、つまりは妨害排除請求権等の「保護権」によ る保護を受けなければならない。「なぜなら、もしもこのような…保護権能というものがな
ければ、(権利者に)割り当てられた法的地位は、いわば紙屑同然にな」20り、それにより「割 り当て秩序としての法は、それ自体意味のない存在に帰すだろうからである」21。
⑵ 権利割当規範としての法秩序の存在意義に根ざした「ひとつの一般的原理」
… 民法=権利割当秩序→何人にどのような権利が帰属し、その行使が許されるのか、を規範 的に定める→法秩序の想定する私人間での規範的な法益分配状態に反する現在または将来の 事実状態=違法→もし右違法状態を法が黙認し、そのまま放置するならば、権利の存在は実 質的に否定されてしまう→法による権利割当規範としての自らの存在意義の否認→自己矛盾 に陥ることを避けるべく、必然的に、法秩序(民法)は、自らが権利(=「実質権」)を認め た私人に対して、上記違法状態を排除するための法的手段(=「保護権」)を付与しなければ ならない→「民法は、それ〔民法〕により〔私人に〕与えられた「実質権」を「保護権」に よって保障する」。
3 妨害排除請求権等の保護対象の拡張
⑴ あらゆる法益への保護の承認
… 妨害排除請求権等による保護は、「原則として」22物権及び絶対権以外の「法的権限(の保 護)にまで拡張されなければならない」23。
「それは、基本的な保護として、一般的に、あらゆる4 4 4 4主観的法的地位について肯定される べきなのである」24。
→ 権利割当規範としての民法により私人に分配される利益は、物権その他の絶対権に限定さ れない。
→① 「相対権は、〔私人に〕まさに人的にのみ限定された実質権を付与する」25。
② 保護法規(BGB823条2項第1文26)は「割当規範4 4 4 4」27として、従来、法の関心を引く ことのなかった「新しい、かつ独自の利益の法的重要性を根拠付け」28、「823条1項 に列挙されている権利のカタログには含まれないところの、新たな実体的法的地位を 作り出す」29。
→ 法秩序が私人に分配する絶対権以外の「主観的法的地位」30にも「ひとつの一般的原理」
が妥当しうる以上、右原理の具象形態たる物権的請求権によるのと同様の保護=ネガトリ ア的権利保護(negatorischer Rechtsschutz)31をこれらに認めることができる(認めなけ ればならない)。
⑵ 法益ごとの実質的、人的保護範囲の変化(「侵害」の内容の個別化)
ア ピッカーの主張
… 「妨害排除責任〔による保護〕を認めるために決定的であるのは、保護される法的地位4 4 4 4 4 4 4 4 4
の性質や内容ではない4 4 4 4 4 4 4 4 4 4
。これらは、ただ保護の実質的及び人的範囲4 4を決定するに過ぎな い」32。
→ ネガトリア的権利保護の実質的及び人的範囲―いかなる場合に、誰に対して右保護を主張 しうるのか―は、具体的な保護法益の性質などに即して変化しうる=ネガトリア的権利保 護の発生要件たる違法な「侵害」の内容は、被侵害法益ごとに個別化される。
イ 分析
… ネガトリア的権利保護の目的=私人間における本来あるべき法益分配状態の実現→ある 法益の本来あるべき分配状態の様相は、当該法益の性質によって異なる→それに反する違 法状態の内容もまた保護法益ごとに異なる。
ウ 個別化のあり様
絶対権 … 第三者が侵害すること 相対権
→侵害される具体的利益に応じて、さらに細分される。
① 権利自体の帰属 … 第三者が侵害すること33 ② 給付によって受けうる利益
… 原則: 当該相対権を基礎付ける特別な法的結合関係(例、契約関係)にある当事 者の一方が、他方の上記利益を侵害すること
例 第一買主は売買目的物の所有権を取得する以前に既に、売主に対して、
当該目的物の転売や破壊など自らの債権への給付(それにより取得し うる利益)を危うくする行為の停止等を請求することができる(他方、
このとき、第一買主は、第二買主に対しては、例えば第二売買の締結 申込みの停止などを請求することはできない。)。
例外: 当該相対権を基礎付ける特別な法的結合関係にはない第三者が、保護法規 に違反する行為、或いは故意をもって良俗に反する方法により右利益を侵 害すること
例 二重売買の事例において、第二買主が売主に対して良俗に反する方法 で第二売買を唆している場合、第一買主は右第二買主に対して、当該 唆しの停止を請求することができる。
4 まとめ
① 物権的請求権=侵害者から権利簒奪的地位を剥奪することにより、私人間での本来あるべ き法益分配状態を実現するもの
→不法行為損害賠償請求権のそれとは異なった独自の機能を果たす。
② 物権的請求権の実質的発生根拠=権利割当規範としての法秩序の存在意義
→ ネガトリア的権利保護の、法益一般への―各法益の性質に合致した個別の「侵害」要件の 下での―積極的承認
第3 日本法への示唆
1 日本の伝統的な理論を相対化する可能性
⑴ 形式的発生根拠(法律構成)における相違
① 我が国の伝統的な物権的請求権理論 … 物権的請求権=物権の排他的支配性から生ず る、物権の内在的効力
→物権的請求権の形式論理上の発生源=形式的発生根拠は、物権それ自体に求められている。
物権的(返還)請求権に関しては「民法に規定がないのだから、…その(発生)根拠を明 らかにしておく必要があるであろう。…(中略)… 物に対する直接の支配権であるところ の所有権の完全な支配状態が侵害された場合には、その完全な状態を回復することを請求 する権利が、所有権の内容として、当然そこから流れ出てくる、ということが、所有権に 基づく返還請求権の根拠なのである」34。
物権的請求権は「同じく請求権でも、債権からでなく物権の効力としてそこから生ずるも のである」35。
② ピッカーの物権的請求権理論 … 物権的請求権≠物権の排他的支配性から生ずる、物権 の内在的効力
∵ 物権的請求権と同様の保護手段(妨害排除請求権等)を物権以外の、排他的支配性を有 しない法益にも原則として広く認めるから
→ 物権的請求権は、保護対象たる物権の外から与えられるものと捉えられている→右請求 権の形式的発生根拠は、物権それ自体に求められていない(と推測される)。
⑵ 具体的結論における一致 ① 「侵害」
a 我が国の伝統的な物権的請求権理論 … 物権者の円満な物支配の状態に対する妨害36 b ピッカーの物権的請求権理論 … 無権限者による権利簒奪
② 「妨害排除」
a 我が国の伝統的な物権的請求権理論 … 「あるべき物支配の状態の回復」37 b ピッカーの物権的請求権理論 … 侵害者からの権利簒奪的地位の剥奪
→双方とも、物権的請求権の効果は「原状回復(損害賠償)」にまでは及ばないとする38。 ③ 侵害者の帰責事由(故意、過失)の要否
→両見解とも、物権的請求権の発生要件として不要とする。
④ 客観的違法性
→ いずれの立場においても、物権が形式的(客観的)に侵害されればそれだけで違法となり、
直ちに物権的請求権が基礎付けられる39。
⑶ 第1の示唆
… 一般に支持されている物権的請求権の発生要件・効果の内容を基礎付けるために、我が国 の伝統的な通説・判例の採用する理論構成(物権的請求権=物権の排他的支配性から派生す る、物権の内在的効力)を採ることは、必要不可欠ではない。
→ ピッカーの理論がそうである(と推測される)ように、物権的請求権を物権の外から与え られる保護手段と構成したとしても、右請求権の要件・効果の内容を従来どおり維持する ことは可能。
2 差止請求権による保護を法益一般に承認しうる可能性
⑴ 物権的請求権の実質的発生根拠、その保護対象の拡張、「侵害」の内容の個別化
① 物権的請求権の実質的発生根拠=「民法は、それにより私人に与えられた「実質権」を「保 護権」によって保障する」という「ひとつの一般的原理」
② 「ひとつの一般的原理」の基礎=権利割当秩序としての法の存在意義(法の自己矛盾の否定)
→妨害排除請求権等≠物権固有の効力
③ ネガトリア的権利保護の、物権以外の法益への一般的承認
④ 具体的保護の実質的及び人的範囲の、被侵害法益の性質ごとの個別化 →違法とされるべき「侵害」の具体的内容の、保護法益の性質ごとの個別化
⑵ 末川博博士による主張
「法律上本来「あるべき」状態(Sollen)と事実上現在「ある」状態(Sein)とが一致してい ないときには、一般的な法律上の要請として、あるべき状態への回復がはから〔れ〕るべきであ る。このことは、あらゆる部門の法律秩序についていいうるところであり、すべての権利におい てそうである」40。
「物権的請求権に類するものはあらゆる権利について考えられる。ただそこには権利の構造上 または制度上いろいろの制約が認められるのみ」41。
⑶ 第2の示唆
… 日本の現行民法典の解釈論として、「あらゆる法益に、当該法益の種類や内容に合致した 個別の違法要件の下で、広く妨害排除請求権等の保護手段を付与しうるし、付与すべきであ る。」と解することができる。
・四宮和夫博士の主張
「法は、生活関係の当事者に権利を賦与することによって、各人にその享受しうる生活上の 利益を割当て、それを私人相互間でも尊重させるとともに、国家の権力によっても擁護する、
という使命を果たす」42。
「『違法』に対する法の反動として、『権利』侵害の有無にかかわらず侵害除去の請求権を認 めるべきである…。…法は違法に対して反撥し、そのすみやかな除去を欲するのであり、した がって、違法な行為または状態によって損害を受けている者またはそのおそれのある者は、そ
の除去または予防を、違法な行為をなす者または違法な状態を支配する者に対して請求するこ とが、認められなければならないはずである」43。
「物権の場合は、それが物を直接支配する権利であるところから、侵害がただちに妨害除去 の請求権を発生させ、物権者への直接の返還請求も認められることが、特徴であり、物権4 4的請 求権の特殊性はこの点に求められる」44。
・於保不二雄博士の見解
「権利は一般的に、法が権利を与えた目的からして、権利の正常な実現が妨げられた場合には、
その妨害の排除を請求しうるだけの法的保障が与えられているものとすれば、妨害の排除請求 は、物権のみに特有な効力ではなくなる。それならば、…物権的請求権も…請求権から債権へ、
さらに、権利一般の妨害排除請求権と通分されて、物権法の領域から分離する方向へ向うべき かが問題となる。…すべての権利につき妨害排除請求権を考えることは、権利の一般論からす れば、これは必ずしも不当なことではない」45。
・北川善太郎博士の主張
「返還請求・妨害排除・妨害予防を内容とする法的救済は、物権固有のものと解さなければ ならないという理論的必然性はないし、実際的にもそのように解するのは妥当でない」46。 「物権的請求権は、物権のほかにも「物権的」保護に値する一定の法益に対して認められる
べき原状回復型の法的救済のモデルであると再構成すれば…、それに対応して、他分野での同 種の問題〔債権侵害に対する差止請求や「人格権」に基づく差止請求の可否をめぐる問題〕を 統合することができるし、それを検討してよい時期が到来していると考える」47。
3 物権的請求権と不法行為損害賠償請求権との峻別
⑴ 示唆
… ピッカーの理論における物権的請求権と不法行為損害賠償請求権との峻別→前者を不法行 為法の効果と捉えることの不合理性を示唆
⑵ 日本における議論状況
… 「物権的請求権と不法行為損害賠償請求権とは制度目的、要件、効果において互いに異な るものである。」との理解が、一般に共有されている。
⑶ 第3の示唆
… 物権的請求権と不法行為法との関係についてピッカーの見解が示唆するところは、日本法 に(も)妥当する=日本において、物権的請求権を不法行為法に基づく効果と把握すること は、合理性に欠ける。
「物権的妨害排除請求権は、物権のあるべき物支配の実現、すなわち、物権者をして現在以降 その物権の妨げられざる行使を可能ならしめることに向けられる。他方、損害賠償は、すでに
生じた損害の回復を目的とする。したがって、妨害排除は、現在以降物権侵害の生じないよう にその原因(Qulle)の除去に向けられ、損害賠償は、惹起された被害物の変化(=損害)を 元の状態に復旧することに向けられる…。(中略)…このようにみてくれば、…少なくともわが 現行法体系のもとで、両者〔物権的妨害排除請求権と不法行為損害賠償請求権と〕を「完全に 同じ平面の上で連続する」ものと理解し、不法行為法の次元…で両者の「体系的統一をはかる ことも可能」…だとはいえないであろう」48。
第4 差止請求権の発生根拠に関する理論的考察
1 我が国における代表的な差止請求権の発生根拠論
① 権利的構成(伝統的な通説及び判例) … 差止請求権=私人に帰属する「権利」(排他的 支配権)の効力
② 不法行為法的構成 … 差止請求権=不法行為法(709条以下)の効果 ③ 違法侵害説
2 違法侵害説
⑴ 主張内容49
① 差止請求権=ある法益―それは「権利」(排他的支配権)に限定されない―が違法に侵害 されている場合に、差止請求権制度により右法益の受益者に対して付与される法的保護手 段
② 具体的な法益侵害が違法と評価されるか否か(違法性判断基準・要素の具体的内容)は、
諸事情の総合衡量を通じて、当該法益の性質に最も適合するように決定される。
③ 差止請求権制度は、保護対象である法益の外在的存在として、かつ不法行為法とも峻別さ れた独自の法制度として、民法体系上にその固有の位置を占める。
⑵ 差止請求権をめぐる「新たな問題」を解決しうる可能性
ア 環境破壊行為(景観破壊行為)に対する差止請求権の基礎付け
… 「景観利益」が違法に侵害されている場合―例えば、景観破壊行為が刑罰法規・行政法 規に違反していたり、公序良俗違反や権利の濫用に該当したりする場合―には、右「景観 利益」を享受している私人が自ら景観破壊行為を差止めることができる。
イ 競争秩序違反行為に対する差止請求権の基礎付け
… 違法侵害説における差止請求権の形式的発生根拠=差止請求権制度の発動≠保護対象た る法益(への侵害)それ自体→「ある私人の個人的法益が侵害されていない場合であっても、
なおその必要があると判断されるときには―差止請求権の形式的発生根拠たる―差止請求 権制度が発動されることにより、当該私人に差止請求権が発生する。」と理論構成するこ とができる。
→ 「競争秩序違反行為が行われ、消費者一般の集団的利益が侵害されている場合、右違法 行為を排除し、本来あるべき法状態(競争秩序が維持され、それを通じて消費者一般の 右集団的利益が保障されている状態)を実現するための手段としての差止請求権が、差 止請求権制度に基づき、自らの個人的法益を侵害されてはいないものの、なお当該違法 行為を適切に排除しうると期待される一定の私人(例、適格消費者団体)に付与される。」
と解することも不可能ではない。
→ 違法侵害説は、いわゆる団体訴訟制度(差止請求制度)に対して、民法上の理論的基礎 を提供することができる。
⑶ 問題点 ―解釈論としての基礎付けの欠如―
違法侵害説は「きわめて魅力的であるが、それが現行法の解釈論として主張されるとき、現在 の段階ではまだ抵抗を感じざるをえまい。…ここにあるのは結果の妥当論、政策論に過ぎないか らである」50。
違法侵害説には「論理的根拠がないだけに、決定的な説得力がな」51い。
3 違法侵害説の解釈論的基礎付け
① 物権的請求権の実質的発生根拠 … 権利割当規範としての法秩序の存在意義に求められ る→同様の保護手段は物権以外の法益にも広く付与されなければならない … 日本法へ の第2の示唆
→ 物権的請求権(妨害排除請求権等)を物権の内在的効力と位置付けることはできない→権 利的構成の不当性
② 物権的請求権≠不法行為法(709条以下)の効果 … 日本法への第3の示唆→不法行為 法的構成の不当性
③ 物権的請求権は、物権外在的な、不法行為法とも異なった独自の法制度に基づいて発生す る、と考えざるを得ない→このように解したとしても、伝統的に承認されてきた要件、効 果の内容は堅持される … 日本法への第1の示唆
④ 物権的請求権の実質的発生根拠=およそ法秩序によって私人に割当てられた法益は、その 内容や性質に照らして違法と認められる侵害から保護されなければならない … 日本法 への第2の示唆
=上記法制度が民法体系上に存在する理由
→そのような目的・内容を持つ法制度=違法侵害説の説く差止請求権制度
∴ 権利割当規範としての法秩序の存在意義に根ざし、不法行為損害賠償請求権のそれとは 異なる固有の機能を持った物権的請求権の存在は、違法侵害説の主張する理論構成を採る ことによって初めて合理的に、また最も説得的に基礎付けることができる。
4 結論
… 差止請求権の一典型として、一般にその存在を承認されている物権的請求権の発生根拠に 関する分析より、差止請求権の発生根拠に関する違法侵害説の主張が妥当である、と考えら れる(また、右主張によれば、差止請求権をめぐる「新たな問題」を克服する可能性が生ま れる。)。
すなわち、日本法において、差止請求権は、違法な侵害を排除し、本来あるべき法状態を 実現するために、差止請求権制度に基づいて発生する、と解すべきである。
※主要参考文献52
☆独語文献
E. Picker Der negatorische Beseitigungsanspruch (Ludwig Röhrscheid Verlag, 1972) [Pi- cker: 1972]
derselbe Beseitigungsanspruch, nachbarrechtliches Selbsthilferecht und Verjährung von An- sprüchen aus eingetragenen Rechten ―BGHZ 60 , 235― Juristische Schulung 1974 S. 357ff . derselbe Der privatrechtliche Rechtsschutz gegen baurechtswidrige Bauten als Beispiel für
die Realisierung von Schutzgesetzen Archiev für die civilistische Praxis 176 (1976) S.
28ff .
derselbe Besprechung von Gerhard Hohloch: Die negatorischen Ansprüche und ihre Bezieh- ung zum Schadensersatzrecht Archiev für die civilistische Praxis 178 (1978) S. 499ff . derselbe Hauptintervention, Forderungsprätendentenstreit und Urheberbenennung ―zuglei-
ch ein Beitrag zum Thema Prozeßrecht und materielles Recht― Festschrift für Werner Flume zum 70. Geburtstag 12. September 1978 Bd. I (Dr. Otto Schmidt, 1978) S. 649ff . derselbe Positive Forderungsverletzung und culpa in contrahendo ―Zur Problematik der
Haftungen zwischen Vertrag und Delikt― Archiev für die civilistische Praxis 183 (1983)
S. 369ff .
derselbe Zum Gegenwartswert des Römischen Rechts Das antike Rom in Europa―die Kai- serzeit und ihre Nachwirkungen (Mittelbayerische Druckerei- und Verlagsgesellschaft, 1985) S. 298ff .
derselbe Vertragliche und deliktische Schadenshaftung ―Überlegungen zu einer Neustruktu- rierung der Haftungssysteme― Juristen Zeitung 1987 S. 1041ff .
derselbe Negatorische Haftung und Geldabfindung ―Ein Beitrag zur Differenzierung der bürgerlichrechtlichen Haftungssysteme― Festschrift für Hermann Lange zum 70 Geburts- tag am 24. Januar (Verlag W. Kohlhammer, 1992) S. 625ff . [Picker: 1992]
derselbe Zur Beseitigungshaftung nach § 1004 BGB ―eine Apologie―zugleich ein Beitrag zur bürgerlichrechtlichen Haftungsdogmatik― Festschrift für Joachim Gernhuber zum 70.
Geburtstag (Mohr Siebeck, 1993) 315ff . [Picker: 1993]
derselbe Der vindikatorische Herausgabeanspruch 50 Jahre Bundesgerichtshof―Festgabe aus der Wissenschaft Bd. I Bürgerliches Recht (C. H. Beck, 2000) S. 693ff .
derselbe (翻訳:川角由和)「物権的請求権(Der dingliche Anspruch)について」龍谷法学33‑
4‑145 (2001) [Picker: 2001]
derselbe Rechtsdogmatik und Rechtsgeschichte Archiev für die civilistische Praxis 201
(2001) S. 763ff . [Picker: Rechtsgeschichte]
derselbe Der dingliche Anspruch Im Dienste der Gerechtigkeit―Festschrift für Franz Bydlinski (Springer, 2002) S. 269ff . [Picker: 2002]
derselbe (翻訳:川角由和)「法解釈学と法史学(Rechtsdogmatik und Rechtsgeschichte)」龍 谷法学38‑3‑133(2005)
derselbe Der deliktische Schutz der Forderung als Beispiel für das Zusammenspiel von Re- chtszuweisung und Rechtsschutz Festschrift für Claus-Wilhelm Canaris zum 70. Geburts- tag Bd. I (C. H. Beck, 2007) S. 1001ff . [Picker: 2007]
derselbe Rechtszuweisung und Rechtsschutz im Deliktsrecht am Beispiel des Kaltluftsee-Fa- lles (BGHZ 113 , 384) Perspektiven des Privatrechts am Anfang des 21. Jahrhunderts―
Festschrift für Dieter Medicus zum 80. Geburtstag am 9. Mai 2009 (Carl Heymanns Verlag, 2009) S. 311ff .
☆ 邦語文献
○ ピッカーの物権的請求権理論を紹介、分析するもの(著者名の五十音順)
・ 赤松美登里「ドイツにおける一般的予防的不作為の訴え―その法的構成を中心として―」同 志社法学36‑3‑90(1984)
・ 大塚直「生活妨害の差止に関する基礎的考察―物権的妨害排除請求と不法行為に基づく請求 との交錯―(六)」法学協会雑誌104‑9‑1(1987)
・ 川角由和「近代的所有権の基本的性格と物権的請求権との関係―その序論的考察―(二・完)」
九大法学51‑27(1986)
・ 同「ネガトリア責任と金銭賠償責任との関係について―ドイツにおける判例分析を中心に―」
広中俊雄先生古稀祝賀論集『民事法秩序の生成と展開』(創文社、1996)537頁以下
・ 同「《翻訳》エドアルト・ピッカー著『物権的妨害排除請求権』 Eduard Picker, Der negato- rische Beseitigungsanspruch ⑴〜⒀未完」龍谷法学37‑2‑1、37‑3‑1(以上、2004)、37‑4‑
1、38‑1‑1(以上、2005)、38‑4‑165、39‑2‑107(以上、2006)、40‑1‑174、40‑3‑688(以上、
2007)、41‑1‑152、41‑2‑44(以上、2008)、42‑1‑133、42‑2‑235(以上、2009)、42‑3‑839(2010)
・ 同「物権的請求権の独自性・序説―ヴィントシャイト請求権論の「光と影」―」原島重義先 生傘寿『市民法学の歴史的・思想的展開』(信山社、2006)397頁以下
・ 同「ドイツにおける物権的妨害排除請求権論の到達点―「権利重畳」説の意義―」龍谷法学 40‑4‑101(2008)
・田中康博「物権的請求権における「責任要件」について」六甲台論集34‑4‑123(1988)
・同「所有権に基づく物権的請求権の請求権内容について」京都学園法学1‑53(1990)
・ 玉樹智文「妨害除去請求権の機能に関する一考察―ドイツにおける議論を巡って―」林良平 先生還暦記念論文集『現代私法学の課題と展望(中)』(有斐閣、1982)127頁以下
・ 堀田親臣「物権的請求権の再検討―成立要件という側面からの考察―(二・完)」広島法学 22‑3‑61(1999)
○ 差止請求権の発生根拠に関する基本文献(著者名の五十音順。既に引用したものを除く。)
・上北正人「いわゆる「人格権に基づく差止請求権」の再構成」神戸法学雑誌55‑2‑141(2005)
・ 上村明広「不作為請求権に関する一問題」民商法雑誌78巻臨時増刊3号 末川博先生追悼論 集『法と権利3』(1978)49頁以下
・ 同「不作為請求制度に関する一考察」山木戸克巳教授還暦記念論文集『実体法と手続法の交 錯 下』(有斐閣、1978)36頁以下
・ 同「差止請求訴訟の機能」新堂幸司編集代表『講座民事訴訟② 訴訟の提起』(弘文堂、
1984)273頁以下
・ 大塚直「生活妨害の差止に関する基礎的考察―物権的妨害排除請求と不法行為に基づく請求 との交錯―(一)〜(八・完)」法学協会雑誌103‑4‑1、103‑6‑116、103‑8‑60、103‑11‑86(以上、
1986)、104‑2‑75、104‑9‑1(以上、1987)、107‑3‑86、107‑4‑1(以上、1990)
・ 同「人格権に基づく差止請求―他の構成による差止請求との関係を中心として―」民商法雑 誌116‑4=5‑1(1997)
・ 加賀山茂「消費者被害と事故防止―消費者の差止請求権の法律構成―」森島昭夫教授還暦記 念論文集『不法行為法の現代的課題と展開』(日本評論社、1995)493頁以下
・澤井裕『公害差止の法理〔環境法論集Ⅰ〕』(日本評論社、1976)
・末弘厳太郎「物権的請求権理論の再検討」同『民法雑記帳』(日本評論社、1940)228頁以下 ・同「妨害排除請求権の問題」同『民法雑記帳』(日本評論社、1940)236頁以下
・ 徳本鎮「公害の差止と差止に代わる補償―継続的権利侵害の救済方法―」同『企業の不法行 為責任の研究』(一粒社、1974)140頁以下
・中井美雄『民事救済法理の展開』(有斐閣、1981)
・原島重義「わが国における権利論の推移」法の科学4‑54(1976)
・同「開発と差止請求」九州大学法政研究46‑2=4‑109(1980)
・ 藤岡康宏「差止の訴に関する研究序説―その法的根拠と権利(絶対権)について―」北大法 学論集21‑1‑108(1970)
・ 同「環境法の基本構造―私法的側面を中心として―(一)〜(三・完)」判例時報868‑116(判 例評論227‑2)、871‑116(228‑2)、874‑124(229‑11)(以上、1978)
・同「不法行為と権利論―権利論の二元的構成に関する一考察―」早稲田法学80‑3‑159(2005)
・同「日本型不法行為法モデルの提唱―新時代の展望―」法律時報78‑8‑28(2006)
・同「競争秩序と差止論」 NBL863‑56(2007)
・舟橋諄一『法律学全集18 物権法』(有斐閣、1960)
・ 同「所有権の濫用」末川博先生古稀記念論文集『権利の濫用 中巻』(有斐閣、1962)1頁 以下
・同「いわゆる物権的請求権について」私法29‑378(1970)
・同「公害差止めの法理」八幡大学論集25‑3=4‑6(1975)
・同「物権的請求権理論の批判補説」法学教室68‑6(1986)
・ 森田修「差止請求と民法―団体訴訟の実体法的構成―」総合研究開発機構=高橋宏志編『差 止請求権の基本構造』(商事法務研究会、2001)111頁以下
・ 柳澤弘士「予防的不作為請求権の構造―とくにドイツにおけるVorbeugende Unterlassungs- klageを斟酌して―」日本大学紀要20‑75(1978)
・吉田克巳『現代市民社会と民法学』(日本評論社、1999)
・好美清光「債権に基く妨害排除についての考察」一橋大学研究年報・法学研究2‑165(1959)
・ 同「日照権の法的構造(上)、(中)、(下)」ジュリスト490‑16、493‑107、494‑113(以上、
1971)
・ 同「物権的請求権」舟橋諄一=徳本鎮編『新版注釈民法⑹物権⑴〔補訂版〕』(有斐閣、
2009)112頁以下
注記
本稿は、明治学院大学法律科学研究所2009年度共同研究「差止請求権の横断的考察」第2回定 例研究会(2009年7月1日開催)において行った報告のレジュメに、若干の修正を施したもので ある。
報告内容の詳細に関しては、拙稿「差止請求権の発生根拠に関する理論的考察―差止請求権の 基礎理論序説―⑸、⑹」早稲田法学82‑1‑165(2006)、82‑3‑167(2007)の参照を乞う。
また、上記報告は、日本私法学会第73回大会・研究報告(2009年10月11日実施)の予備報告と して為されたものであり、右予備報告に対して寄せられた出席者からの意見等を基に、報告内容 に修正を加えた上で上記研究報告を行った。その要点は、拙稿「差止請求権の発生根拠に関する 理論的考察―E. Pickerの物権的請求権理論を手がかりとして―」私法72‑126(2010)に小論考 の形でまとめられている。そこで、本稿とともに右拙稿をも併せて参照していただければ、幸い である。
以 上
1 引用文に付された下線は、報告者によるものである(以下、同様とする。)。
2 大村敦志「実体法から見た消費者団体訴訟制度」ジュリスト1320‑52(2006)、54頁〜55頁。但し、こ れは、直接には消費者契約法に定められた適格消費者団体の差止請求権に関する指摘である。
3 広中俊雄『現代法律学全集6 物権法〔第二版増補〕』(青林書院、1987)229頁、236頁。
4 玉樹智文「妨害除去請求権の機能に関する一考察―ドイツにおける議論を巡って―」林良平先生還暦
記念論文集『現代私法学の課題と展望(中)』(有斐閣、1982)127頁以下、130頁。但し、これは、直 接には物権的妨害排除請求権に関する指摘である。
5 K. Larenz/C-W. Canaris Lehrbuch des Schuldrechts Bd. Ⅱ /2 Besonderer Teil (13. Aufl ., C. H.
Beck, 1994) S. 696. 但し、引用文中、亀甲括弧にくくられた部分は、報告者が補ったものである(以下、
同様とする。)。
6 以下、BGBと略称する。
7 Picker: 1992 S. 664.
8 Picker: 1972 S. 82.
9 Picker: 1983 S. 507.
10 Picker: 1972 S. 51.
11 Picker: 1992 S. 658.
12 Picker: 2001 S. 165.
13 Picker: 2001 S. 312.
14 Picker: 1993 S. 334.
15 Picker: 1992 S. 658.
16 Picker: 1972 S. 52.
17 Picker: Rechtsgeschichte S. 839.
18 Picker: 2001 S. 169.
19 Picker: 2002 S. 313. なお、引用文中、傍点の付されている箇所は、原文においてイタリック体で表記 されている部分である(以下、同様とする。)。
20 Picker: 2001 S. 170.
21 Picker: 2001 S. 170.
22 Picker: 2001 S. 169.
23 Picker: 2001 S. 169.
24 Picker: 2002 S. 318.
25 Picker: 2002 S. 317.
26 BGB823条2項第1文「同様の義務〔損害賠償義務〕は、他人の保護を目的とする法律〔保護法規〕に 違反した者に課される」。 Die gleiche Verpfl ichtung triff t denjenigen, welcher gegen ein den Schutz eines anderen bezweckendes Gesetz verstößt.
27 Picker: 1992 S. 680.
28 Picker: 1992 S. 680f.
29 Picker: 1992 S. 681.
30 Picker: 2001 S. 168.
31 Picker: 2001 S. 168, derselbe: 2002 S. 313.
32 Picker: 2002 S. 317.
33 Picker: 2007 S. 1016ff .
34 我妻栄(幾代通=川井健補訂)『民法案内4 物権法 下』(勁草書房、2006)44頁〜45頁。これと全 く同じ記述は、我妻栄『新版民法案内Ⅳ 民法の道しるべ 物権法各論』(一粒社、1968)36頁〜37頁 に既に見られる。
35 星野英一『民法概論Ⅱ(物権・担保物権)』(良書普及会、1976)19頁。
36 好美清光「物権的請求権」舟橋諄一=徳本鎮編『新版注釈民法⑹物権⑴〔補訂版〕』(有斐閣、2009)
112頁以下(以下、好美・前掲「物権的請求権」とする。)、113頁。
37 好美・前掲「物権的請求権」113頁。
38 日本法の物権的請求権につきこの点を明確に主張する代表的文献として、好美・前掲「物権的請求権」
142頁〜143頁。
39 この点につき、vgl. Picker: 1972 S. 171f.
40 末川博『物権法』(日本評論新社、1956)33頁。
41 末川・前掲書35頁。
42 四宮和夫『民法総則 第四版補正版』(弘文堂、1996)23頁。
43 四宮和夫「不正競争と権利保護手段―不法行為法の理論を中心として―」法律時報31‑2‑16(1959)(以 下、四宮・前掲論文とする。)、19頁。なお、引用文中の「権利」とは、排他的支配権のみならず、債 権等をも含んだ広い意味でのそれを指すものである。
44 四宮・前掲論文19頁注⑹。なお、引用文に付された傍点は、原著者によるものである。
45 於保不二雄『物権法(上)』(有斐閣、1966)32頁。但し、於保博士は、結論において、全ての権利を 共通の要件の下で保護する一般的妨害排除請求権の存在は、これを否定すべきである、とされる(右 一般的妨害排除請求権は、本報告が追究するところの、保護法益ごとに違法要件の内容が個別化され た差止請求権とは異なるものであることに注意されたい。)。
46 北川善太郎『物権(民法講要Ⅱ)〔第3版〕』(有斐閣、2004)25頁。
47 北川善太郎『債権各論(民法講要Ⅳ)〔第3版〕』(有斐閣、2003)304頁。
48 好美・前掲「物権的請求権」142頁〜143頁。
49 これは、従来の違法侵害説の主張(特にこの説の主唱者たる舟橋諄一博士による立論)の内容を、報 告者が(その実質を変化させることなく)再構成したものである。
50 好美清光「賃借権に基づく妨害排除請求権」契約法大系刊行委員会編『契約法大系Ⅲ 賃貸借・消費 貸借』(有斐閣、1962)166頁以下、178頁〜179頁。但し、これは、直接には違法侵害説の代表とも言 うべき舟橋諄一博士の説に対する論評である。
51 澤井裕『公害差止の法理〔環境法論集Ⅰ〕』(日本評論社、1976)50頁。
52 以下に引用する文献以外のものについては、拙稿「差止請求権の発生根拠に関する理論的考察―差止 請求権の基礎理論序説―⑴〜(9・未完)」早稲田法学80‑2‑109、80‑4‑209、81‑1‑125(以上、2005)、
81‑4‑331、82‑1‑165(以 上、2006)、82‑3‑167(2007)、83‑2‑93、83‑4‑109、84‑1‑81(以 上、2008)
を参照されたい。