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中華人民共和 国著作権法の特色

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中華人民共和 国著作権法の特色

久々湊 伸 一

目 次 1. は じめに

2.歴史的経験 3.法律の内容

4.法律の特色 5.むす びに代えて

1.はじめに

1949年 中華人民共和国が建設 されて以来,著作権法を持 たなか った中国は, 1979年 開放政策 を取 った後著作権法 の制定 を待望 した。工業所有権 に於 いて は商標法が1982年 に, また1984年 に特許法が制定 を見たの に較べ て,その立 法作業 に手 間取 ったが,遂 に,199097日第 7期全 国人民代表大会 の常 務委員会第15会期 において著作権法 を採択 し,本年199161日に施行 さ れた。56ヶ条か らな り,第 1章総則,第2章著作権,第3章著作権許可使用契 約,第 4章 出版,実演,録音録画,放送,第 5章法律上の責任,第 6章附則の 6章 に区分 され る。規定の内容 は比較的単純かつ明確であ り,基本的規定 を置 いている。

中国著作権法 の条文 は,既 に翻訳 されてお り1), またその解説 もあ り, こ

1)文献17,19参照。

口iJE

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12 42 2・3

れ を繰 り返 えす紙 面 を節 約 で き る。以 下 にお いて はい さ さか大 胆 で あ る が1a),中国著作権法の特徴 をい くらかで も明確 に理解す るためにわが国の規 定等 と比較 して見 たい。

その前 に中国著作権法成立の背景を調べ ることにす る。

2.歴史的経験

1949年 中華人民共和国が建設 された後, 旧政府のすべての法令lb)が廃止 さ れ,著作権及 び出版制度 に関す る規定 も失効 した2)0

1979年開放政策を取 ったが,それ までの著作権制度 に関す る中国の経験 は, 非常 に大 きな したが って貴重な ものである。

1950年全国 出版会議 は, 「出版産業 は,著作権 と出版権 を尊重 し,不正 な 複製,偽作,変更その他の行為を許 して はな らない」 と決議 している (決議第 17条)0

しか し第三者 による侵害 に対す る救済手段がないため, 「ダ リア ン書店の不 祥事」 な どが起 こる。 1950年 の末, この書店 は原 出版社の許可を得 ないで,

「国際的状況 と朝鮮戦争」 と題す る書籍を5000冊複製 した。 しか も著作権表 示をす る場所 に, 「初版 ダ リア ン,すべての権利を留保す る,複製を禁ず る」

と表示 した。 これはその悪性が高いことを指摘 されなが ら,原告 ワール ド・ナ レッジ ・プ レスは裁判所 よ り救済を引き出す ことはで きなか った。その影響を 受 けて1952年 に, 中央政府 は,書籍,雑誌 の出版,頒布 に関す る契約制度 を 確立 した3) 。

著作権の保護 は,著作物の利用,例えば出版, レコー ドの製作,放送を国家

1a)中国民法,法慣習を知 らずに科学的な比較法 は不可能であ るという言えよ う。 し か し外国法を理解す るために自国法 と比較す ることも素朴な比較法 と して認め られ るとい うことに したい。

1b)文献1 (1B13頁)に詳述 されている。

2)文献10,34頁,文献12,261真,文献13,388頁参照。

3)文献12,261頁参照。

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中華人民共和国著作権法の特色 13

が独 占す るが,国営企業等が行 う場合 には,著作者 は国家等のために創作を職 務 とす る公務員 となるか ら,給与の決定または付加的な使用料が著作権保護の 主要問題 となって くる。

中国 は使用料の算定規準を改定す ることによって政治的な変化 に応 じた。

1950年の出版決議 による使用料算定の規定 は,著作物の性質,語数及び印刷複 製数量 に基づ くものであ り, これによって比較的高額な支払が行われた。195 7年に採択 された統一使用料親定 は語数 と複製数量の組合わせによる比較的 自

由な制度を定め高率の支払いを著作者に行 った。 しか し政治的な変化に応 じて 1958年 には使用料率が引下 げ られ,1961年 には更 に算定方法を語数 と著作物 の性質 に基づ く1回払 に変更 し使用料支払 を制限す る政策を取 り,遂 に1966 年文化革命の開始 と共にあ らゆる使用料を廃止す るに至 った。

1977年10月国家出版管理局 は新聞出版使用料 の暫定措置 に関す る命令を公 布 した。 これは著作物の語数 と著作物の性質及び出版物の種類を基礎 とす る 1 回払の使用料を復活す るものであった。やがて1980年 には複製数量 も基礎 に 加えた累積的使用料を復活 し料率の引上 げも行 った。

開放政策を取 った1979年,米国 との間に科学 と貿易の領域 における2つの 協定を締結 し、 これをきっかけとして当時中国文化情報相であった胡耀邦 は, 中国出版管理局に中国著作権制度策定の可能性を検討す るよう指示 した3α)。

19864月12日第 6期全国人民代表大会第4回会議 は民法通則 を採択 し, これは198711日に施行 された4)。

この第 5章 「民事権利」の第 3節 は 「知的所有権」 となってお り,その第94 条 において, 「公民及び法人は著作権を有 し,法に基づいて,署名,発表,出 版,報酬獲得等の権利を有す る。」 と規定 し,著作権保護の基礎を明確 にす る と共に,第 6章 「民事責任」の第3節 「権利侵害の民事責任」の第118条 にお いて, 「公民及び法人の著作権・・‑‑が,ひょう窃,改ざん,盗用等の侵害を受

3a)文献 8,376真。

4)文献15参照。

(4)

14 第42巻 第2・3

けた場合 は,公民及 び法人 は,侵害の停止,影響の除去及 び損害の賠償を要求 す る権利を有す る。」 と規定,民事上のサ ンクシ ョンを明確化 した5)0

このよ うに著作権保護の法的基礎が 明確 にな ると民事裁判が著 しく増加 し

た 6)。

私の調べて判 った限 りでの中国で唯一 の判例 は,1988年 の LiQinv.Din Jie事件 に対す る北京高等人民裁判所 の判決であ った7)019808月原告,中 央教育科学研究所 (CESI)の補助研究員 Ⅹと,被告,北京第2中等学校の英 語教員Yは,CESI・よ り中等学校における英語教育法 に関す る実験を行 ってそ の結果 をまとめて教科書を書 くとい う課題 を与え られた。1981年 Ⅹ, Yの共 同著作物 と122冊の教科書が 出版 された。 ところが,1984年YはⅩに知 らせず にYの氏名で6巻の教科書 を出版 し, これ は リプ リン トもされた。1987年Ⅹ は,北京 中間人民裁判所 に対 しYを提訴 し,1984年 出版 された書籍 はⅩの著 作権 を侵害す ると主張 した。高裁 は,第 1審判決 を支持 して, 「1981年 に出 版 された書籍 は,共 同著作物 であ り,1984年 に出版 された ものの最初の3巻 は実質的にⅩとYが共同著作者であ る書籍 に類似す る。」 と判断 し, 日刊新 聞 で謝罪 しⅩに損害賠償す るよう命 じた。

視聴覚製品については,著作権 に関す る特別の措置を しなければな らなか っ た8)。最初国内消費 に適 当でない と して,かか る製品の輸入 を禁止 した。収 ま らない混乱 をス トップさせ るため 「視聴覚製品製造者の管理 に関す る内部措 置」が1982年 に定 め られ,その第 6条 において,「(視聴覚 出版組織 は,)著作 者及 び実演家 と締結 した契約 によって複製 された視聴覚製品の著作権を享有す る。他の団体 は,許可な くこれを複写 し,複製 し,変更 し,その他の方法で出 版 してはな らない‑‑‑‑最初の視聴覚出版団体 は司法機関において侵害者を 訴追す ることがで きる。」 と規定 している。

5)文献15,文献9,25頁。

6)文献 4。

7)文献9,26頁。

8)文献12,265頁以下。

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中華人民共和 国著作権法 の特 色 15

1983年 には,魯迅の遺族が,彼の著作物 の再販の使用料 は,中国政府 に支 払われ るべ きで はな くて,その遺族 に支払われ るべ きであ ると主張 した9) 0

この件 について政治的な解決をせまられた ことは,益 々著作権法制度の確立を 必要な もの とした。

3.法律の内容

(1) 著作権法の 目的

中国著作権法は,わが国の著作権法 と同様に,第 1条 において,著作権法の 目的を明確 に している。表現 はそれぞれ異なるがその表現 しようとしている内 容は,ほぼ同一であると考える。中国の文面の方が理解 しやすい。それはわが 国の規定で は,隣接権10)は著作権 と並列 させて,論理的整合性 に配慮 したた め,極めて明白な内容の ことを表現 しようとしているにも拘わ らず,必ず しも 文面を直ちに理解 し難いきらいがある。

著作権法 は憲法に基づ くとしている。憲法には著作権法の基礎であ り, 目的 と考え られ る文化の発展 に関係す る条文を多数有 しているが11), とりわけ第

47条がその直接の基礎である,つまり創作活動の自由を保障 し,創作活動を奨 励,援助す る規定である12)0

わが国の規定の急所 は, 「文化的所産の公正な利用に留意 しつつ」 という個 所であると考えるが,中国の規定の これに相当す る部分 は, 「社会主義精神文 明及び物質文明の建設 に有益な創作 と伝播を鼓励す るため」であると思 う。特 に 「精神文明及 び物質文明」 と両者 を並列 させた ところに大 きな意義を認 め

9)文献12,266頁以下。

10)隣接権 とい う文字 は法文上 どこにも出て来ない。 これに相当す る用語 は,第 1条で

「著作権 に関す る権益」(著作権有閑的権益)であ り, この用語 もそれ以外の条文 に出て来ない。

ll)第19条,第20条,第22条乃至第24条,第35条,第47条。文献15参照。

12) 第47 中華人民共和国公民は,科学研究,文学,芸術創作その他の文化活動を 行 う自由を有す る。国家は,教育,科学,技術,文学,芸術その他の文化事業 に従 事す る公民の,人民 に有益な創作的活動を奨励 し,援助する。

(6)

16 第 42巻 第2・3号

たい。精神 と物質 はそれぞれに片寄 りがちであるが, これを調和 させてい くこ とが社会の発展 と繁栄のために重要であ り,著作権法 もこの重要な役割を担 っ ているのだ ということを平明に示 しているもの と感ず る。

(2) 著作物

Ⅰ 包括定義の回避

わが国及 び ドイツの著作権法が,著作物の抽象概念の定義を試み, 「思想又 は感情を創作物 に表現 した もの (日本著作権法第 2条第 1項第 1号) とか,

「個人的精神的創作物」 (ドイツ著作権法第 2条第 2項) とい う表現を用いて いるのに対 して,中国著作権法第3条 は, 「本法で用 い られ る 『著作物』13)の 語 は,下記の形式を もって創作 した」 とい う文言 に始 まっていて,単 に創作で あるとい うことを明 らか に してい るに止 まる14)。 したが って国際条約 の線 に 添 ったわが国の 旧著作権法15)1条第 1項 「文書演述図画建築彫刻模型写真 演奏歌唱其 ノ他文芸学術若ハ美術 (音楽 ヲ含 ム以下之二同 ジ) ノ範囲 ‑属 スル 著作物 ノ著作者‑其 ノ著作物 ヲ複製スルノ権利 ヲ専有 ス」に近 い規定 と見 るこ

とがで きる。

Ⅱ 著作物の範囲

著作物 は文化的所産であ って,発明のよ うな技術的思想ではない。各国の法 律は,ベル ヌ条約 あるいは万国著作権条約 に従 って, 「文芸,学術又 は美術」

あるいは単 に 「文学又 は美術」の分野 に関す るものであることを明記 して,そ の範囲を限定 してい る。中国著作権法 によれば, これを 「文学,芸術及 び科 学」(原文 は 「文学芸術和科学」)とい う表現を用いてお り,実質的にわが国の 法律 と同一である。 しか し表現を異 に し,「学術」で はな しに 「科学」 とい う 用語 を用 いてい る。国際条約 お よびわが国の法律 において「文芸,学術,美術」

13)原文は 「作品」である。

14)文献7909頁参照。 「法律は, 『文学,美術及び学術の著作物』の概念自体及び 著作物が 『ある形式において創作』されねばならないという要請を別にすれば,何

ら明示的な保護能力基準 (Schutzfahigkeitstandard)を含まない」。 15)明治32年法律第39

(7)

中華人民共和 国著作権法 の特色 17

とい う配列になっているのに対 して中国著作権法 は 「文学,芸術,科学」 とい う順序になっている。 これ らの先例に対 してあえて順序を変えた意図はもちろ ん不明であるが,次に述べ る著作物の種類の配列 (第 3条) と関係す るように 思われる。特 に科学の著作物の重要性を強調 しているように思われ, これ らを まとめて最後 にもって行 っている。 このような点の規定上の工夫 にも見 るべ き

ものがある。

著作物の種類

著作物の範囲を更に区分す ると種類が見えて くる。その種類の例示が中国著 作権第3条 に示 され,わが国著作権法第10条あるいは ドイツ著作権法第 2条第

1項 と比較す るのは興味深い。

(a)文字著作物,口述著作物 (第 1号,第2号)

中国著作権法 は,第 3条第 1号,第 2号 にそれぞれ文字著作物15a), 口述著 作物を掲 げている。これに対 してわが国の著作権法第10条第 1項第 1号 は,「小 読,脚本,論文 講演,その他の言語の著作物」16)と表現 している。中国では 言語著作物を2つに大別 して項 目を分 けている。また小説,脚本,講演 とい う

ような下級概念 による例示を していない17)0

(b) 音楽,演劇18),舞踊 19)の著作物 (第3号)

これ らの時間的芸術 として,又実演 と関係す る著作物 として括弧に くくられ

15a)わが国の文書著作物 に該当す る。

16)ここに例示 された具体的表現形式 はそれぞれ重要 な意味を持 っている。小説 と論文 を対比例示 して,文学芸術 と言語表現の学術を示 し,脚本を例示 し,演劇の著作物 は脚本の形で存在す ることを示 し,講演が口述形式の言語著作物の表現形式である ことを示 し,文書著作物 と対置 している。

17)文字著作物 と口述著作物 に分 けた意義は,両者 は文学著作物でありなが ら,技術の 発達により,前者 は主 として印刷,複写の方法で複製 され,後者 は主 として録音 に よって複製 され再生 され る異な った利用団体が認識 されることになる。そ うす ると また両著作物形式間の変換 は単なる複製か二次的著作物が生ず るか とい うよ うな込 入 った問題 も提起 されることにもなろ う。

18)原文は 「戯劇」(戎刷)である。

19)原文に 「舞踏」である。

(8)

18 第42 2・3

ると考え るが,わが国の著作権法,ドイツの著作権法 と明確 な差が認 め られ る。

「曲芸」 とい う中国伝統の芸術類型を例示 している しか しこれ はそれ程大 き な差異ではない。それよ りも演劇の著作物を認めている点である。わが国の著 作権法 は,欧州諸国の著作権法の歴史的産物をそのまま継承 して演劇 その もの を著作物 とせず,演劇の草案である脚本 とい う文書著作物を認めている。そ し てわが国著作権法第 2条第 1項第15号(j)の極 めて特殊な取扱いを必要 とす る。

しか し現代の極めて発達 した段階にある複製技術 においては,演劇を直ちに著 作物 と認めることの方が 自然であるとい う見方 も成立す る。 したが って中国に おける演劇 に対す る著作権法上の取扱 いの今後に注 目 して見たい。 これ らは上 演,演奏 (performance)に関係す るわけである。

(C) 美術,写真 20)の著作物 (第4号)

わが国の著作権法第10条第 1項第4号 と第 7号を合わせて第3条第 4号 に規 定す る。写真を造形美術の1種 と考えている。わが国の著作権法 は,写真が芸 術の表現手段であるが, しか し学術,報道の 目的に奉仕す ると共 に複製手段 と

して重要である点 に注 目して独立の類型に した もの と見ている 美術 には絵画 彫刻を含む ことは勿論である。

中国著作権法 は,応用美術 と建築を著作権法上保護 しない。応用美術 につい て は,ベル ヌ条約第 2条第 7項 に従 って意 匠保護 を選択 し,1984年 の特許法

によって保護 され る。建築の保護を主張す る意見 は採用 されなか った21)0

(d) 映画 22),テ レビ), ビデオ24)の著作物 (第5号)

テ レビ, ビデオが映画 とは別 にそれぞれ著作物の種類 として認め られている

20)原文は 「撮影」である。

21)文献8の論者 は,強 く建築 の保護を主張 したが認 め られなか った と して いる。336 頁参照。ベル ヌ条約違反であ るか ら,ベル ヌ条約加盟の際は,明示的に建築を保護 す る改正を要す るか。 ドイツのよ うに美術の中に建築を含めて保護す るな らば, こ れを ク リアで きそ うであるが,建築の文言 を明示 しなければな らないか ど うか。

22)原文は 「電影」

23)原文は 「電視」

24)原文は 「録像」

(9)

中華人民共和 国著作権法 の特 色 19

点で現実的である。装置の種類による分類 とい うことがで きようか。わが国及 び ドイツにおいては,映画の著作物 に関す る議論が活発で,立法の際映画 はい かなる内容の著作物であるか ということと映画の著作者 は誰れか とい うことが 問題 になった。 これに対 し中国著作権法においては,映画 と共にテ レビ, ビデ オについて著作物性を認めている。映画をテ レビで放送 したもの とテ レビのた めに作成 した ものは,論理的に区別 し難い。法の運用における今後の動向に注

目したい。

(e)工事設計および製品25)設計の図面 (第6号)

極めて審美性の高いイ ンダス トリアル ・デザイ ンがわが国のように著作権法 か ら脱落 していて, これを特許法で保護す るとしているのに対 して, このよう な技術性の高い工事設計および製品設計の図面を著作権法上保護 しようとす る 意図が知 りたい。

(g) コンピュータ, ソフ トウェア26) (第8号)

中国が著作権法の制度の確立 と現代化の必要性を切実 に感 じたのは, コン ピュータ ・ソフ トウェアの利用 と開発 に直面 した時ではないか と推測す る。そ こで これは特別立法 によって詳細 に規制す ることにな った26a) 。 最初の著作権 法にコンピュータ ・ソフ トウェアの定めが含 まれ るの も意義深い。 ドイツはこ れを言語の著作物 として例示 しているのに対 して, これを新たな類型 として認 めたわが国の著作権法に倣 っている。

(h) 民間伝承27)乃至はフォークロアの著作物 (第 6条)

わが国には存在 しない規定である。その保護の内容は, コンピュータ ・ソフ トウェアと同様 (第53条),国務院が別 に規定を定めることにな っているので, その規定に期待する外 はない。

(i) 盲人のための点字翻訳及び少数民族の文字への翻訳 (第22条第12号及び

25)原文 は 「産品」

26)原文 は 「計算機軟件」

26a)原文16参照。

27)原文 は 「民間文学芸術」

(10)

20 第42 第2・3

11号)

このよ うな特別保護 は,社会福祉やよ り広 い文化法を指向 している。それ以 外 には,地図その他 の図形 の著作物 (第10条第 7号),法律,行政法規が規定 す るその他の著作物 (同条第 9号)を掲 げている。

(3) 著作者の権利

著作者の権利については,第10条のみで包括的に規定 している 著作者人格 権を積極的に認める点で大陸法系の特徴を有す る28)0

しか し著作権 は人格権 29)と財産権 に分 けてい るが, その更 に詳細 は,人格 権にどのよ うな権利があ り,財産権 にどのよ うな権利があるとい うよ うには規 定せず, 6つの権利 を羅列す る。すなわち公表権 30),氏名表示権31),変更権 32),同一性保持権刃),使用権及 び報酬請求権 34)であ る。氏名表示権 はさ らに 著作者であ ることを表明す る権利を含んでいると定義 している。人格権 と財産 権 に大別す ることを回避 した理 由としては, 1つには公表権が著作者人格権で あるか経済権であるかについて立案審議中に論争 となった点が掲げ られ る35)。

財産権 としては,使用権 と覇細川請求権に大別 され る。使用権 は当然報酬請求 権を含む とい う考え方 に立てば奇妙であるが,経済権 としての著作権の思想を 普及す る意図 と,更 に許諾権 と補償請求権の区別を便宜 とす る意向を汲んでい

るとも考え られる。

使用権の内容 は,支分権 として複製権,実演権 36),放送権37),展示権 38),

28)著作権法に関する大陸法と英米法の対立について文献7,905貢参照。ここでは著 作権か版権かの論争について触れている。

29)原文は 「人身権」

30)原文は 「発表権」

31)原文は 「署名権」

32)原文は 「修改権」

33)原文は 「保護作品完整権」

34)原文は 「獲得報酬権」

35)大陸法によれば著作者人格権 (droitmoral)とされるが,中国の起草者の過半数 は経済権と確信 しているということである。文献8,377貢参照。この点は,保護 期間の定めに明瞭に表れている。

(11)

中華人民共和国著作権法 の特色 21

頒布権39),映画,テ レビ又 は ビデオの製作権 40),翻案権41),翻訳権,注釈権, 編集権42)を例示 している43)。各権利の定義 は施行規則 において定 めるとい う ことなので,解釈や判断はその規定を待 たなければな らない44)。 二次的著作 物 に関す る翻案権,翻訳権,注釈権,編集権 もまとめて羅列 している。二次的 著作物については,第12条で原著作物の著作者の権利を侵害 してはな らないこ とを定めるが,更に出版 (第34条),実演 (第35条第 3項),録音録画 (第37条 第 3項),放送 (第40条第 3項)のそれぞれに関 して も定めている点 は徹底 し ている。45)

上映権を認める必要 はないのか。

貸与権 は定めていない。

展示権 は,著作権法上特殊な ものであるが,第18条 においては,美術等の著 作物の原作品の所有権の移転が,その著作権の移転を意味 しない ことを確認す ると共に,原作品の展示権 は,原作品の所有者が享有す るとい う単純明解な規 定に している

(4)法人著作 と職務著作

わが国の法人著作 は,要件 として4つあり,(1)法人の発意,(2)職務著作,(3) 法人名義,(4)契約に違反 しない場合 とし, この場合の効果 として著作者資格を 取得す るとい うものである (第15条)。 これに対 し,中国著作権法第11条第3

36)原文 は 「表演」

37)原文 は 「播放」

38)原文 は 「展覧」

39)原文 は 「発行」

40)原文 は 「撮制 41)原文 は 「改編」

42)原文 は 「編輯」

43)もっともそれぞれの権利を明示的に掲 げているわけではない, これ らの利用方法が あるとい うように規定 している。

44)文献2,114頁。

45)これは著作権思想を普及す る場合に,著作者の権利 よ り理解 されに くい二次的著作 物の利用における原著作物の著作権の尊重を強調す るためであると考える。

(12)

22 第 42巻 第2・3

項による法人著作 は,要件 として(1)法人による創作の主宰,(2)法人の意志を代 表 している創作,かつ(3)法人が責任を負 う創作の場合であるとして,その効果 としてその法人を著作者 と見倣す としている。わが国の方 は,公表上の名義 と 契約上の条件 という具体的ではあるが法人著作の核心か らは離れた要件を問題

に している。そ して これ らの要件をひとまず横へ置 くとして,法人が発意 した 職務著作 ということにな り, これを法・人の著作者資格を与える為 に適 した条件 としている。 これに対 して,多少抽象的内容であることはいなめないが, とも か く主宰,意志,責任分担 とい う3つの実質的要件がある場合に限 り,法人に 著作者資格を擬制的に与え るものとす る。法人名義の場合, この著作者資格を 推定 している。

著作者46)は公民であるが,著作物の利用者 は,国又 は政府機関あるいは公 共団体を考えている中国にとっては,職務著作の重要性 は明 らかである。

2章第 2節 「著作権の帰属」において,法人著作 (第11条第 3項),二次 的著作物 (第12条),共同47)著作物 (第13条),編集著作物 (第14条),映画書 作権の帰属 (第15条),委託著作物 (第17条),美術著作物の原作品の所有者の 展示権 (第18条),著作権の相続 (第19条) と共 に,職務著作を第16条を もっ て規定す る。

わが国の第15条 に規定す る法人著作の規定 に対応す るものが中国法第11条 に 相当す るとす ると,第16条の規定を更に設 けて職務著作の取扱いをよ り明確 に

していることが判 る。

11条第3項 は,法人等が主宰 し,その意志を代表 して創作 され,かつその 法人等が責任を負担す る著作物については,その法人等を著作者 と見なす と規 定 している。 これに対 し,公民が法人等の業務 に関わる任務を遂行す るために 創作 した著作物 は,職務著作物 とされ,その公民が著作者であ りかっ著作権を 享受す る。ただ しその法人等 はその業務範囲にある限 り,その著作物を優先的

46)原文 は 「作者」

47)原文 は 「合作」

(13)

中華人民共和国著作権法の特色 23

に使用す る権利を有す る。その法人が使用 している方法 と同一の方法 によるそ の著作物の利用については,著作者 は,その法人の同意を得 ないで,第三者 に 対 してその著作物の使用を許可す ることはで きない。

ただ し職務著作の中で,特別 な場合 については,著作者 は氏名表示権 と報酬 請求権を有 し,その他の権利 は法人等が享有す ることに している。かか る特別 な取扱 いを受 ける場合 は2つ あ り, 1つ は工事設計図及 び製品設計図, コ ン

ピュータ ・ソフ トウェア,地図等, もう 1つ は法令又 は契約 によ り法人が著作 権者である職務著作である。わが国の第15条の規定を参考 に して起草 された も の と考えるが,わが国の規定 よ りもその適用範囲が広 くかつ法律効果の面か ら もよ り自然である。中国が公表権を経済権 と考えていることを考え併せれば, 結局 はぼ同様な取扱 いとなると思量す るが,規定 に示 された文言,そ してその 文言 によって意図す る法律効果 は公民の著作権を十分 に尊重す る規定 とな って いる。 これはもっぱ ら著作権の利用者,職務著作 における法人等が,国又 は公 的機関である中国が 慎重 に審議 して出来上が った規定であることを明瞭に示 し ている

(5)保護期間

まず著作者人格権の永久性を認めている。 しか し諸外国立法 とは異 な り,公 表権 はむ しろ財産権 と考 えて いる48) 。 ユニー クな考 え方 であ り明確 であ る 著作者の死後, しか も著作権の保護期間の経過後 も,著作物の運命を著作者の 意志 に委ね ることは,不可能であ り,事物の本性 に反す ると考え ることもで き よ う

原則的な著作権の保護期間は,著作者の生存間および死後50年であ り, この 点でベルヌ条約加盟の条件を ク リア している。保護期間の長短 は,それほど国 益や人民の利益 に影響を与えない との見極 めによるもの と思われ る。

48)文献 8,377頁参照。これによれば,起草委員会の討議で,公表権が人格権である か経済権であるかが論争になり,起草委員会の過半数は経済権であると確信 してい たということである

(14)

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映画,テ レビ,ビデオ,写真の著作物の保護期間は,公表後50年で満了す る。

テ レビ,ビデオを著作物 ととらえる点を別 にすれば,わが国の規定 と一致す る。

法人に著作権が帰属す る著作物又は職務著作の保護期間も同様である0

(6)権利の制限

著作権保護の内容は正 に著作権の制限の規定 にかか っている。わが国の旧法 と同様 (第30条)1つの条文で済ませてお り,12項 目を列挙 して規定 している (第22条)。 ドイツ法あるいはわが国の著作権法 に対応 している。わが国の規 定では補償請求権のある場合 と無い場合を区別するが,中国ではすべて無償で ある。著作者が公表に際 して使用禁止を宣言 しているときは認め られない場合 がある (第5号)。

(a)私的利用 (第 1号)

私的利用 は,個人のプライバ シーの保護にとって不可欠 な要請である。わが 国の第30条の規定では 「個人的に又は家庭内その他 これに準ず る限 られた範囲 内」で使用す るところに力点を置いているのに対 し,中国の規定 は個人の学習, 研究又 は鑑賞 という目的を もって限定 しているところに国策的色彩があるが, 鑑賞 とい う要件 は非制限的な役割を果たす ことになろう 単純明確な規定であ り, レコー ド・レンタルや文献複写の問題を顧慮 した改正を含む ドイツ (第53 秦)及びわが国の規定 (第30条)の繁雑 さとは対政的である。

(b)引用 (第2号)

学術研究,学説の展開には,引用は不可欠である。 これ らの ものは過去の巨 大な科学的大系に新たな一点を加えん とす るものであるか らである。 したが っ て引用 にはその 目的がある。わが国の第32条ではこれを,「報道,批評,研究, その他」としているのに対 して,中国の規定では,「紹介,評論,問題 の説明」

となっている。わが国の規定では単に引用 となっているところを,中国の規定 では著作物中に他人の著作物を引用す ることとしている点 は,わが国の山岳写 真パ ロディー事件の判決を踏まえているのか も知れない。未公表著作物の引用 は違法である。

(C)時事の事件の報道のための利用 (第 3号)

(15)

中華人民共和国著作権法 の特 色 25

時事問題の報道 に関す る自由利用の規定 について,わが国では第39条乃至第 41条の3条 に規定 しているのに対応 して第 3項 より第5項で規定 している。総 体的に中国の規定の方がその範囲が広 い と思われ る

3項の規定 は,報道の 目的のために可能 な利用であ り, 「時事の事件の報 道」の 目的のためには,新聞,雑誌, ラジオ,テ レビ,ニ ュース映画 における 公表著作物の利用が可能である。わが国のおいては,第41条が対応す る規定で あるが,その規定の内容 は本質的に相違 し,わが国の規定で利用で きるのは「事 件を構成 している著作物」 と 「事件の過程 において見 られ聞かれ る著作物」で あるのに対 して,中国の規定 においては,何 ら制限付 け られないあ らゆる 「公 表 された著作物」である。

(d)新聞雑誌放送の論説の転載 (第4号)

この規定 は,利用 され るものが報道 に関係す る場合であ り,新聞,雑誌, ラ ジオ,テ レビで公表 された社説,論説員の文章である。そ して これを他の新聞 等で利用で きるものである。 これ は極めて重要 な時事の記事が,最初 に入取 し た報道機関に独 占され ることの弊害を防止す ることがその規定の背景 にある。

利用で きる論説等 については,わが国第39条では, ラジオ,デ レビで公表 さ れた ものは受信装置を用いて公 に伝達す ることに限 ってお り,また論説 も,政 治上,経済上又 は社会上の事項 に限定 し, しか も学術的性質を有す るものを除 くと明記 しているのに対 して,中国の規定 は, ラジオ,テ レビの論説を利用で き,論説の種類 にも限定がない。 またわが国の規定で は利用禁止の表示が有効 である

(e)大衆集会で行われた演説 (第5号)

これは政治上人民 にとって最重要の内容であるか ら, 自由かつ盛んに報道 さ れ ることが期待 され る。わが国の第40条では, 「公開 して行われた政治上の演 説又 は陳述」としているのに対 し,中国の規定 は,単 に 「大衆集会で行われた 演説」 としているだけである。また利用方法 も,わが国の規定では 「いずれの 方法 によるかを問わず」 としている。 これに対 し,演説の内容を限定 していな い中国の規定で は,利用方法 は新聞,雑誌, ラジオ,テ レビによる利用である

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26 42巻 2・3号

の と,利用禁止の宣言の効果を認めている。

(f)教育機関における複製 (第6号)

翻訳 と小量 の複製を認 めている。わが国の第35条 に対応す る規定であ り,内 容の差 も認め られない。翻訳を掲 げている点がお国柄を表 していると思われ る が,わが国で も第43条によ り翻訳が認 め られ る。わが国の第33条及 び第34条 に 当たる教科書 に関す る規定がないのは,中国では教科書の作成 は公の機関が独 占す るか らであるろ うか。

(g) 国による公務のための利用 (第7号) わが国の第42条 に対応す る。

(h)図書館等による複製 (第8号)

わが国の第31条 と第47条 (美術の著作物等の展示 に伴 う複製)を包含す る規 定 と思われ る。わが国の第31条第 1号 (図書館利用者のための複製)の事項 に ついて規定 していないのは正当であるb

(i)無償の演奏等 (第9号)

わが国第38条の規定に比較 して極めて単純明解 な規定であるが,不都合 は生 じないだろうか。わが国における 「非営利「入場無料「実演家への無報酬」

をすべて,「対価を受 けずに」に包含 しされ るか否かにかか っている。

(j)屋外 に設置 された美術著作物の複製 (第10号) わが国第46条 に対応す る。妥 当であ り単純明解である。

(k)少数民族語‑の翻訳 (第11号)

文化政策の一環である。わが国には生 じていない法律問題である。アイヌ語 への翻訳を著作権法が奨励す る必要 はないであろ う

(1) 点字 による複製 (第12号)

点字 に限 り,わが国第37条が定める盲人用の録音物の複製 は認めていない。

第22条第2号 において著作権以外すなわち著作隣接権の制限が第 1項の規定 を限度 として認め られ る。

(7) 著作権留保の表示

わが国の著作権法 は,国又 は地方公共団体の機関が一般 に周知 させ ることを

(17)

中華人民共和国著作権法 の特色 27

目的 として作成 した広報資料,調査統計資料,報告書等 は,新聞紙雑誌等 に転 載す ることがで き (第32条第 2項),又新 聞,雑誌 に掲載 されて発行 された政 治上経済上等 の時事 問題 に関す る論説 は,他の新 聞,雑誌 に転載 し,又 は放送, 有線放送す ることがで きる (第39条)。 しか しこれ らの場合 に利用を禁止す る

旨の表示をす ることがで きることになっている (同各条ただ し書 き)。

中国著作権法 に もこれを同様の行為を認めているが,その要件 は以下の通 り である

(a)新聞雑誌で発行 され, もしくはラジオ局 もしくはテ レビ局による公の集 会で公表 された演説を掲載 しあるいは放送す ること (第22条第 5号)。

(b)実演者が他人の公表 した著作物を営業的演 出に使用す ること (第35条第 2項)0

(C)録音物製作者が他人の公表著作物を録音物の製作 に使用す るとき (第37 条第 1項)。

(d)ラジオ局,テ レビ局が他人の公表著作物をラジオ,テ レビ番組の製作 に 使用す るとき (第40条第2項)0

かか る権利留保の表示 は通常国営企業が実施す ることになろうか ら,その運 用の公正不公正 によって左右 され る。

(8)著作権利用契約

著作物を使用す るためには, 「権利の制限」の規定などによ り許可を得 ない で使用で きる場合を除 き,著作権者 と契約を して使用許可を得 なければな らな いとい う原則を平明に規定す る (第23条)0

著作権利用契約 において定 める内容を法定 している。(1)使用の種類,(2)権利 が排他的か,非排他的かの区別,(3)許可す る使用の範囲 と期間,(4)報酬規程及 びその支払方法,(5)違反 した場合 の責任,(6)その他 (第24条)。契約強制 (第 23条)及 び契約の内容の必要事項を特定す ること (第24条) は,自由経済 によ る民間企業 においてはそれ程意味はないが,国営その他公共的な企業を前提 と す る中国においては効果的であ り,特 に使用料の定めが重要であると考え る。

自由経済 において も,著作権 においては,微小権 による使用料回収困難が原因

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28 42 2・3

とな り権利 の集 中的管理が必要 とされ著作権管理団体が各種権利 ごとに存在 し,または設立が要望 されているが, この場合 には契約強制が実施 され る。利 用契約 の期限を最高10年 に制限 してい る (第26条)。わが国の出版権設定 の期 間 (約定 していない場合 に3年 と解釈)よ りも実際的であると考え る。報酬規 程 は,国務院の著作権行政管理部門が関係部門 と協議の上制定す るが (第27条 第 1項),契約で は別段の取決めをす ることがで きる (同条第2項)。著作権の 利用を許可 した場合 にも,著作者人格権の尊重を忘れないように親切な規定 も

ある (第28条)。

出版者が書籍 を出版す るときは出版契約 を締結 しなければな らない (第29 条)。又当然 なが ら使用料を支払 うことが義務付 け られている (同条)。契約期

間中は出版者 は,排他的な出版権を認 め られ る (第30条)。別段の約定条項 の ない限 り,原稿を引渡 してか ら,新聞紙 については15日間,雑誌 については30

日間の優先締結権が 出版者 に認 め られ る (第32条)。 出版者 に編集上 の変更権 を認める (著作者の同意を必要 とす る)(第33条)。

(9)隣接権的な もの

中国著作権法が最 も力を入れた とい うか,苦心を した と思われ る規定 は,第 4条の 「出版,実演,録音録画,放送」 とい う表題でまとめ られた16条 (第29 条〜第44条)の規定で はないか と考え る。隣接権が著作物利用権 として構成 さ れているよ うな感 じがす るが,映画,テ レビ, ビデオをそれぞれ各別の著作物 の種数 (第 3条第 5号) とす る一方で,録音,録画 について第 3節 (第37条〜

第39条)に規定を設 ける。録音物のみな らず録画物 に対 して も製作者の隣接権 を認識 している点で,斬新的であるといえ る。 このように諸外国の制度の比較 を行 って得 られた結果 として,録音物 と録画物 について,極めて コン トラス ト の強い規程を置いている点が注 目され る。

また隣接権 に関す る人格権を規定 しているのは斬新的である。すなわち第36 条 は, 「実演者 はその実演 に対 して下記の権利を享受す る。(1)実演者の身分を 表明す る権利,(2)実演の形象 につ き歪曲を受 けないように保護 され る権利」 と 規定す る。

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中華人 民共和 国著作権法 の特 色 29

著作権の支分権である上演権,演奏権 と,実演家の隣接権の関係が,独創的 に構成 されている。英語で上演権,演奏権 はperformingrightであ り実演 家の権利 は,performer'srightである。 これを中国著作権法 によれば,著 作権 としての上演 ・演奏権は実演権 とな り,実演家の権利 として,(3)他人に生 放送を許可す る権利,(4)他人 に営利 目的のため録音録画を許可 し,報酬を請求 す る権利があ り, これが隣接権である。 しか しこの実演家の権利には保護期間 の定めがない。録音録画製作者の権利 と放送事業者の権利についてそれぞれ最 初に出版または放送を した時か ら50年 としている。

例えば レコー ド製作者の隣接権 は,中華人民共和国の方がわずかな期間では あるがわが国よりも先に50年間 (発行後) とい う長い保護期間を定めたことに なったのは,印象的である。

隣接権すなわち第 1条 において「著作権 に関係す る権利」と表現す る権利 は, 第4章その他法律全体 にわたって使用 してお らず,実演,録音,録画,放送 と

いう具体的な客体及び実演者,録音,録画の製作者,テ レビ局,ラジオ局 とい う具体的な主体を表示 している。 これはこれ らの主体 と著作権者の間で, これ らの客体 に関 して締結 される契約に関す る規定 とい う構成を取 っているところ か ら暗示 され る49) 。 第23条か ら第44条の規定,実 に全体で56条の中の21条の 規定が著作権契約に関す る規定であ り,著作権法の制定 によ り著作権の第三者 に対す る効力を強化 した とはいえ,依然 として著作権者 と利用者 との間の契約 関係を最重要事項 と考え る伝統を踏まている。

4.法律の特色

以上中国著作権法の諸規定を概説 したわけであるが, これ らの内容か ら中国 著作権法の特色を掲げれば次の通 りである。

(1) 中国著作権法は 6章56条か らな り,全体 として も短 く,また各条文 は原 則的な規定であるため比較的短 くかつ明解であるfX)) 。

49 文献7,911頁参照。

(20)

JO 第42巻 第 2・3

(2)複製についての定義競走第52条を除けば定義規定を置かない。施行規則 に譲 ることに しているとされ る。 この点条文全体を短 くしている 1つの理 由である51)。

(3)建築が著作権法,特 に著作物の規定のいず こにも出て来ない。美術著作 物 と判断されて保護 され る可能性 は残 されているものの,建築設計図か ら 建築物の完成については著作権法の保護は及ばないと解 される52) 。

(4)音楽及び舞踊の著作物等 と共に演劇著作物を認める。 これ らは実演 との 関係でどのように解釈 されるか,舞台監督の権利をどのように取扱 うか興 味あるところである。

(5) 映画の外 にテ レビ及び ビデオを独立の著作物類型 としている (第3条第 5号)。従来の著作権法 とは異なった考え方が示 されている。

(6)職務著作の規定 (第16条)は,わが国第15条の規定に依拠 している点 も あるが,わが国の規定が極めて例外的な場合に著作者資格を認めようとす る特別規定であるのに対 して,中国の規定はあ くまで法人著作を認めず, また職務著作の利用 に関 し,職務発明に関する規定を模範 とす る原則的規 定を置いている

(7)著作者人格権をわが国では3つに分類 しているのに対 して,中国では4

つに分類 し,修正権 と同一性保持権に分 けている。また氏名表示権 (署名 権)には,著作者資格を主張する権利が含 まれ ることを明記 している。

(8)公表権 は人格権ではな く財産権 と観念 している。公表権が50年の保護期 間に服す ることか ら立証 され る。

(9)財産権 について も利用権 (使用権) と報酬請求権 に大別 し,許諾権がな い場合 にも覇滑川請求権を認めて著作権者の経済的利益の尊重 に配慮 してい る

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(21)

中華人民共和国著作権法 の特色 31

伽)展示権を美術著作物等の原作品の所有者 に直接認める。原作品の譲渡 と 共に移転す るとの考え方 はわが国の規定よ り明確である。

(ll) 上映権を認めないか,少な くとも明記 していない。重要な権利 とは認め ていない証拠である。

n2)二次的著作物の原著作者の権利の保護 という思想 は,中国において普及 していないことの認識の下 に,各条に反復規定 して著作権思想普及の徹底 を図 っている(第34条,第35条第 3項,第37条第 3項,第40条第 3項参照)0 q3)わが国の ごとく出版権のみ規定す るの とは異な り,著作権許可使用契約

の表題の下に著作権全体に対す る契約規定を置 き,契約上の一応の規準を 示 しているのは平明で妥当である。

(14) 著作権法全体の条文が56条ある中で第 4章を 「出版,実演,録音録画, 放送」 とい う表題で,隣接権を第29条か ら第44条 まで16条に亘 って規定 し てお り,隣接権を著作権契約法の考え方で規定 しなが ら技術発展 に基づ く 新 しい社会環境に新 らしい考え方で対応 しようとす るものである0

(15) 隣接権の中に数え られ るべ き実演家の権利に,人格権 に相当す る規定を 行 っている。その解釈 と適用については不確定要素が多いが,少な くとも 著作者人格権 とは別の表現で人格権の内容を示 したのは積極的である。

(16)著作権法 には,商標法 と特許法には定め られている刑罰規定を置いてい ない。著作権制度 に対す る国家的 コンセ ンサスが完全でないため行政罰に 止めている。

5.むすびに代えて

中華人民共和国著作権法の成立の中に,21世紀のアジアの経済 と文化 に対す る熱い期待を見たい。

まず経済的な発展を重視 した巨大な国において,著作権制度の発展が遅れた ことは,一面 において不幸な ことであるが,歴史的な大 きな流れを見れば一過 性の ものであって,文化革命の一時期の中国では,著作権制度な しにこの技術 的革新の時代ではどうなるか という実験が行われた。 この際の苦い経験を踏ま

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えた中国著作権法 は,一面素朴ではあるが,空想的な ものではな く,現実的で ある。立法 にたず さわったエ リー ト集団の比較法研究の結実である中国著作権 法 は,平明であ りなが ら独創的である53) 0

勿論著作権法の中国における発展 は,前途多難が予想 され未知数の部分が多 い。しか し実行 出来ない規定を置 くよ りは,実行 出来 る基本的な規定を置いて, その経済的な発展 と共に法発展を目指そ うとす る基本的態度 は肯定できる。 こ のような高い視点か らではな く,わが国の著作権法の規定 に基づ く非常 に屈折

した著作権思想をそのまま基準 に して,中国著作権法を解釈 しようとして もそ の法的理想 は見えて来ない。ある観点 に立てば,異なる法的構造ない し構成の 中に何 と巧妙 にわが国の規定を消化 して組込んだ ものだ という感慨 も生ずる。

権利の制限などの規定 もわが国 と比較 して単純かつ平 明であ る。 とい うこと は,一面 において著作権の権利 を制限す る程度が強い ことを意味す る54)。 し か しその基本的な法思想を把えているために違和感がない。

中国著作権法 は,極めて独創的な著作権法であり,立法者 は十分な比較法を 行 ってお り,現代のグローバルな著作権の発展の水準を踏 まえてお り, しか も 大国であ りなが ら開発途上国で もある自覚の下 に立案 されている。 したが って 多数のアジアの開発途上国に対す るモデル法 となることも考え られる。わが国 の著作権法 は,国際条約及び欧州諸国,特 に ドイツの著作権法の発展 に応 じて 修正 された ものであ り,少 な くとも明治32年の水野練太郎の著作権思想の時代 的発展であるが,昭和45年の改正法で も法慣行が形成 されて来た状態では斬新 的な根本的改正 というものは困難であった。 これに対 して,中国においては, 全 く著作権制度を拒否 した時期を も経験 し,現代の高度な技術状態に突如 とし て著作権法を施行 しようとい うような状況にあった。そのような場合には斬新 的な法制度を選択 し実施す る可能性があると言 うことができる。

53)台湾あるいは韓国の著作権法 について言えば,その母法 はわが国の著作権法である ということもできる。

54)文献 1b,18 [(5)権利の制限の最終の部分]。

参照