Salmonella enterica subsp. enterica serovar 4:b:- 株の解析
1)
国立感染症研究所,
2)神奈川県衛生研究所,
3)滋賀県衛生科学センター,
4)秋田県健康環境センター(
*現 株式会社日吉)
泉谷 秀昌
1)黒木 俊郎
2)林 賢一
3)*齊藤志保子
4)八柳 潤
4)今野 貴之
4)大西 真
1)(平成 28 年 4 月 26 日受付)
(平成 28 年 6 月 29 日受理)
Key words : Salmonella, serotype, multilocus sequence typing(MLST), pulsed-field gel electrophoresis(PFGE)
要 旨
サルモネラは代表的な食中毒起因菌である.近年血清型 Typhimurium に由来すると考えられる S. I 4:
i:-などの単相菌の報告が増加している.本研究では,S. I 4:b:-に着目し,試験菌株 10 株について MLST および PFGE による遺伝子解析を行い類似血清型株 34 株(Paratyphi B,Paratyphi B var Java,Schleissheim および II 4:b:-)と比較した.試験した I 4:b:-株(単相株)10 株は全て hin 陰性であり,6 株は fljB 陰 性であった.MLST 解析により,44 の供試菌株は 12 の型(ST),6 つの ST complex(STC)に分かれた.
STC は PFGE クラスターと相関性が見られた.単相株は 3 つの STC(19,32,155)に含まれ,既報の ST データベースのデータも考慮するといずれも Paratyphi B var Java(およびその単相菌)の STC に含まれ た.これらの結果から,今回試験した単相株はいずれも多様な Paratyphi B var Java に由来するものと推 定された.本単相株の抗原構造は血清型 Schleissheim などとも類似しており,遺伝子解析の併用は,菌株 の由来の推定に有用であると考えられた.
〔感染症誌 90:652〜656,2016〕
序 文
サルモネラは国内外を問わず代表的な食中毒起因菌 である.サルモネラは Salmonella enterica および Salmo- nella bongori の 2 菌種からなり,前者は 6 つの亜種(en- terica (I),salamae (II),arizonae,diarizonae,houtenae,
indica)から成る.サルモネラには O 抗原(リポ多糖)
および H 抗原(鞭毛)から規定される 2,500 種以上の 血清型がある
1).H 抗原は多くが 2 相性であり,この 相変換は鞭毛を構成するフラジェリンタンパク質を コードする fliC および fljB 遺伝子のどちらか一方の発 現が hin 遺伝子によりコードされるインベルターゼに よって可逆的に選択されることによる
2)3).
近年,S. enterica 4:i:-など,2 相性を欠いたサル モネラの報告が相次いでいる.また,血清型別を補完 するツールの一つとして multilocus sequence typing
(MLST)が注目されている
4).本研究では,S. enterica 4:b:-を主な対象とし,MLST,パルスフィールド
ゲル電気泳動(PFGE),hin 遺伝子の欠損について解 析したので報告する.
材料と方法
1.菌株
サルモネラ 44 株を供試した.8 株は血清型参照株,
残り 36 株のうち 29 株はヒト由来株(1976〜2013 年 分離),7 株は非ヒト由来株(うち 6 株はカメ由来株,
1 株はカメ飼育水由来株;2007〜8 年分離)であった.
2.血清型別および生化学性状試験
市販の診断用免疫血清(デンカ生研)を用いて定法 に従い実施した.酒石酸利用性試験およびゼラチナー ゼ試験は Jordanʼs tartrate agar および nutrient gela- tin を用い定法に従い実施した.
3.MLST
既報
4)に従い,housekeeping 遺伝子(aroC,dnaN,
hemD,hisD,purE,sucA,thrA)を PCR で 増 幅 し,
遺伝子配列を決定後,MLST データベース(http://
mlst.warwick.ac.uk/mlst/dbs/Senterica/)を検索 し,
シークエンス型(ST)を決定した.
原 著
別刷請求先:(〒162―8640)東京都新宿区戸山 1―23―1 国立感染症研究所細菌第一部 泉谷 秀昌
Table Distrubution of serovars and STs of the testing strains used in this study.
STC 5 19 32 155 76 214
Total
ST 43 86 149 307 88 127 42 423 1,838 2,923 1,833 276
Serovar, fljB Origin h h ref ref h nh h nh h ref h nh nh ref ref
I4: b: − 4 1 3 1 1 10
fljB− 1 3 3 1 6
fljB+ 4 4
Paratyphi B 3 4 7
Paratyphi B Java 16 1 1 3 1 2 1 25
Schleissheim 1 1
II 4: b: − 1 1
Total 16 3 4 1 1 3 5 2 1 1 3 1 1 1 1 44
*h, Human; nh, Non-human; ref, Reference
4.fljB および hin 遺伝子の有無および PFGE につ いては,既報
5)〜7)に従い実施した.
結果と考察
供試した血清型参照株は,Paratyphi B(抗原構造 4:b:1,2,酒石酸利用性試験陰性)が 4 株(運動性 陰性株 1 株を含む),Paratyphi B var Java(4:b:1,2,
酒石酸利用性試験陽性)が 2 株(単相性株 1 株を含 む),Schleissheim(4:b:-)が 1 株,S. II 4:b:-が 1 株であった.
残る 36 株のうち 3 株が Paratyphi B,23 株が Para- typhi B var Java,10 株が S. I 4:b:-であった.Para- typhi B は 3 株ともヒト由来株であった.Paratyphi B var Java は 23 株中 18 株がヒト由来株であった.
S. I 4:b:-は 10 株中 8 株がヒト由来株であった(Ta- ble).
S. I 4:b:-は 10 株すべて酒石酸利用性試験陽性で あった.また,S. I 4:b:-株は 10 株とも hin 遺伝子 陰性であった.fljB は 4 株が陽性であり,これらはヒ ト由来株であった.増幅された fljB 断片の塩基配列は Paratyphi B(/var Java)のそれと一致した.
供試菌株を MLST により解析した結果, S. I 4:b:- は,ST127 が 4 株(いずれもヒト由来),ST423 が 3 株(いずれもヒト由来),ST42(ヒト由来),ST1838
(非ヒト由来),ST2923(非ヒト由来)が 1 株ずつで あった(Table).
Paratyphi B は参照株,ヒト由来株ともすべて ST86 であった.Paratyphi B var Java は,16 株が ST43(い ずれもヒト由来),1 株が ST149(参照株),1 株が ST 307(ヒト由来),3 株が ST88(いずれも非ヒト由来),
3 株が ST127(1 株がヒト由来,2 株が非ヒト由来),
1 株が ST42(参照株)であっ た.Schleissheim 参 照 1 株は ST1833, S. II 4:b:-参照 1 株は ST276 であっ た.
供試菌株の MLST 解析の結果に基づく minimum
spanning tree を Fig. 1に示す.MLST データベース において,ST43,86,149 および 307 は ST complex
(STC)5 を,ST42 および 423 は STC32 を,ST88 お よ び 127 は STC19 を,ST276 は STC214 を,そ れ ぞ れ形成している.既存のデータベースの ST に対して,
ST1838 が STC155 に含まれる ST404 などと,ST1833 が STC76 に含まれる ST280 などと 1 遺伝子座違いで あった.このことから ST1838 およびその 1 遺伝子座 違いである ST2923 は STC155 に,ST1833 は STC76 に含まれると推定された.
S. I 4:b:-は,4 株が STC19 に,4 株が STC32 に,
2 株が STC155 に含まれた(Table).fljB 陽性 S. I 4:
b:-は,STC19 に含まれた.
XbaI-PFGE パターンに基づくクラスター解析を実 施したところ,ほぼ STC に相当するクラスターが観 察された(Fig. 2).STC5 は多様な PFGE パターンを 示し,類似性 70% を基準に 3 つの比較的大きなクラ スターに分かれた(CL1,2 および 3).うち 1 つ(CL 3)は Paratyphi B から成っていた.STC19 は単一の PFGE クラスターを形成した.Schleissheim お よ び S. II 4:b:-参照株はそれ以外の株とは大きく異なり,
類似性は約 40% であった.
Schleissheim は 抗 原 構 造 と し て は 4:b:-だ が,
Kauffmann-White のスキームにおいてゼラチナーゼ 試験陽性となっていることから,Schleissheim 参照 1 株ならびに S. I 4:b:-10 株についてゼラチナーゼ試 験を実施したところ,Schleissheim 参照株のみが陽性 となった.
本研究において,サルモネラの血清型の補完ツール としていくつかの遺伝的解析を実施した.hin 遺伝子 は単相菌試験菌株においてすべて陰性であった.また,
fljB 遺伝子は STC32 および 155 の株では陰性であっ
た.本法は単相性 S. Typhimurium(S. I 4:i:-)の
迅速試験として開発されたものであるが,他の血清型
Fig. 1 MLST-based minimum spanning tree of strains used in this study.
The sequence types (ST) and ST complex (STC) are indicated. A circle shows each ST. The size of the circle corresponds to the number of strains included. Each STC comprising two or more STs is displayed as a shadow. The number on the branch shows the number of different loci between the circles. STC76 and STC155 were deduced from the sequence types in the public database (http://mlst.warwick.ac.uk/mlst/dbs/Senteri- ca/).
においても,相誘導試験と並行して実施することで単 相菌の試験の迅速化に寄与すると考えられた.
MLST 解析は通常系統解析に利用されるが,サル モネラでは血清型との相関からその有用性が示唆され ている
4).本研究でも Paratyphi B はすべて ST86 と なり,逆にそれ以外の株は ST86 とはならなかった.
Paratyphi B var Java では STC5,19 および 32 が,
S. I 4:b:-では STC19,32 および 155 が検出された.
また既報から STC155 も Paratyphi B var Java 関連 であることが示されている
4).このことから,S. I 4:
b:-が Paratyphi B var Java と関連することが示唆さ れる.
PFGE 解析と MLST 解析の結果は比較的よく相関 していた.特 に STC は PFGE パ タ ー ン で 70% の 類
似性を基準にしたクラスターとほぼ一致していた.
STC5 は本研究でも 4 つの ST を含み,PFGE クラス ターでも 3 つのクラスターに分かれ,多様であること が示された.Paratyphi B は単一の ST かつクラスター であったが,Paratyphi B var Java は STC も複数に またがり,PFGE クラスターも多様であることから,
由来も多様であることが示唆された.
S. I 4:b:-は抗原構造のスキームに照合すると S.
Schleissheim と な る が,本 研 究 の S. I 4:b:-は Schleissheim 参照株とは MLST 解析および PFGE 解 析において大きく異なった.さらにゼラチナーゼ試験 が陰性であったことから Schleissheim ではなく他の 血清型に起源をもつことが推測された.
一方で本研究における S. I 4:b:-は,MLST およ
Fig. 2 Clustering analysis of XbaI-PFGE patterns. Corresponding strain no. (R, H and NH indicate reference, human and non-human strains, respectively), ST, STC, serovar or an- tigenic formula, and major clusters (CL) are indicated on the right. The PFGE patterns were analyzed using BioNumerics software (Applied Maths, Belgium) using the Dice co- efficient and UPGMA clustering with a tolerance of 1.2 %.
び PFGE 解析から Paratyphi B var Java と関連して いることが強く示唆された.すなわち Paratyphi B var Java と同様,複数の STC および複数の PFGE ク ラスターを示しながらも,それらを Paratyphi B var Java と共有していた.この傾向は特に STC において 顕著であった.また,陽性株の fljB 遺伝子配列が 1,2 抗原を有する Paratyphi B(/var Java)のそれと同 じであったこと,酒石酸利用性試験陽性であったこと などから,本研究における S. I 4:b:-は Paratyphi
B var Java に由来し hin 遺伝子(および fljB 遺伝子)
を欠失したために単相菌になったものと考えられる.
STC32 および 155 がそれぞれヒト由来株,非ヒト 由来株で偏って検出され,両コンプレックスに属す株 は fljB 陰性を示すなど,由来によって偏りが見られる が,試験菌株が増えることで今後傾向が明らかになる と考えられる.
近年,2 相目を欠いたサルモネラが報告されるよう
になっている.血清型は抗血清によって規定されるこ
とは言うまでもないが,単相菌においては遺伝的背景 を調べることで由来を推定することが肝要と考えられ る.
謝辞:菌株を供試等本研究に協力していただきまし た神奈川県衛生研究所 石原ともえ先生,滋賀県衛生 科学センター 石川和彦先生,福島敬介先生,船橋市 立医療センター 長野則之先生をはじめとした関係機 関に深謝いたします.本研究は厚生労働科学研究費補 助金(H25―食品―一般―014,H27―食品―一般―007,H27―
新興行政―一般―002)等の補助を受けて実施された.
利益相反自己申告:申告すべきものなし
文 献1
)Patrick AG, Weill F-X:Antigenic forumulae of the Salmonella serovars(9
thed). Institut Pas- teur, Paris, 2007.
2
)Johnson RC, Simon MI:Hin-mediated site- specific recombination requires two 26 bp re- combination sites and a 60 bp recombinational enhancer. Cell 1985;41:781―91.
3
)Yamamoto S, Kutsukake K:FljA-mediated posttranscriptional control of phase 1 flagellin expression in flagellar phase variation of Salmo-
nella enterica serovar Typhimurium. J Bacteriol 2006;188:958―67.
4
)Achtman M, Wain J, Weill FX, Nair S, Zhou Z, Sangal V, et al.:Multilocus sequence typing as a replacement for serotyping in Salmonella en- terica. PLoS Pathog 2012;8:e1002776.
5
)Tennant SM, Diallo S, Levy H, Livio S, Sow SO, Tapia M, et al.:Identification by PCR of non- typhoidal Salmonella enterica serovars associated with invasive infections among febrile patients in Mali. PLoS Negl Trop Dis 2010;4:e621.
6
)Soyer Y, Moreno Switt A, Davis MA, Maurer J, McDonough PL, Schoonmaker-Bopp DJ, et al.:
Salmonella enterica serotype 4,5,12 : i : -, an emerg- ing Salmonella serotype that represents multiple distinct clones. J Clin Microbiol 2009;47:
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7
)Ribot EM, Fair MA, Gautom R, Cameron DN, Hunter SB, Swaminathan B, et al.:Standardiza- tion of pulsed-field gel electrophoresis protocols for the subtyping of Escherichia coli O157 : H7, Salmonella, and Shigella for PulseNet. Foodborne Pathog Dis 2006;3:59―67.
Molecular Characterization of Salmonella enterica subsp. enterica Serovar 4:b:-
Hidemasa IZUMIYA
1), Toshiro KUROKI
2), Ken-ichi HAYASHI
3), Shioko SAITO
4), Jun YATSUYANAGI
4), Takayuki KONNO
4)& Makoto OHNISHI
1)1)