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鈴鹿大学 鈴鹿大学短期大学部紀要健康科学編第 3 号 2020 栄養士 管理栄養士課程の学生における調理技術の検討 服部映里, 生川卓弘 1, 杉野香江 2, 梅原頼子 3, 堀田千津子 1 要旨本研究は 三重県内の栄養士 管理栄養士養成課程の新入学生の調理技術の現状を把握することを目的とし 調理技

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栄養士・管理栄養士課程の学生における調理技術の検討

服部 映里,生川 卓弘

1

,杉野 香江

2

,梅原 頼子

3

,堀田 千津子

1 要旨 本研究は、三重県内の栄養士・管理栄養士養成課程の新入学生の調理技術の現状を把握 することを目的とし、調理技術や調理知識の向上のために、調理技術を調理経験、調理へ の意識、調理知識の面から検討した。2018 年 5 月、三重県内の栄養士・管理栄養士養成課 程の新入学生のうち、調査データがすべて揃った 64 名を対象とし、無記名自己記入式によ るアンケート調査を実施した。調査項目は、対象者の基本属性、調理技術 5 項目、調理経 験 4 項目、調理への意識 2 項目、調理知識 21 項目とした。 分析方法は、各項目の人数とその割合を算出した。また、調理技術の習得状況得点と調 理経験(1 週間の調理頻度、1 回の調理時間、1 週間の食材購入頻度、調理可能な料理数)、 調理知識(食材の切り方を知っている数)との関連は相関係数(ピアソンの積率相関係数) を用いた。統計処理には、Microsoft Excel 2013 およびエクセル統計 2015 for Windows を使用し、有意水準は 5%(両側検定)とした。 調査の結果、調理技術の習得状況は、基礎的な習得に留まっていた。調理技術の習得状 況得点と調理経験(1 週間の調理頻度、1 週間の食材購入頻度、調理可能な料理数)、調理 知識(食材の切り方を知っている数)との間に相関が認められた。したがって、調理技術 の習得状況得点が高い学生ほど、調理経験や調理知識は高く、調理技術の習得状況は、調 理経験や調理知識に影響することが示唆された。 キーワード 調理技術,調理経験,調理への意識,調理知識,栄養士養成課程 序文 近年、栄養士・管理栄養士養成課程に在籍する学生の、調理技術や調理知識が低下して いることが報告されている 1)。それは、小・中・高校の教育課程における家庭科の授業時 間数の減少 2)3)や、家庭での調理機会の減少など、調理環境を取り巻く状況が大きく変化 していることが関連している 4)。また、栄養士や管理栄養士にとっての調理技術や調理知 識は、就労後の職場において必要とされることが多く、その 習得状況によっては職務に支 障をきたすことがある 5)。そのため、調理技術や調理知識は在学中に身につけておく必要 1 鈴鹿医療科学大学 医療栄養学科 2 三重短期大学 生活科学科 3 鈴鹿大学短期大学部 生活コミュニケーション学科

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があると考える。栄養士・管理栄養士課程を卒業するまでに得られる調理技術や調理知識 は、家庭における調理経験や、中学・高校の家庭科の授業頻度や内容、学生生活における 調理経験が影響を及ぼすと言われている 6)。しかし、外食や中食産業の発展や共働き夫婦 の増加 7)により、家庭において食材から調理を行う機会は年々減ってきており 4)6)7)、この ことは調理技術や調理への意識の低下につながると考えられる。また、中学・高校での家 庭科の授業数も減少している 8)9)ため、中学・高校の授業で調理技術や調理知識を高める ことも難しくなってきていると考えられる。 先行研究では中学・高校時に食事作りをほとんどしていない者が約 70%である 5)こと、 栄養士を専攻する女子学生でも 88%が炊事をしていない 7)など、家庭における調理経験が 少ないことが報告されている 10)。また、小・中・高校の家庭科の授業においては授業数の減 少により、調理実習時間も減少していることが報告されている 8)11)。さらに栄養士・管理 栄養士養成課程の教員のうち 95%が、在籍する学生の調理技術や調理知識の低下を感じて いるとの報告がある 11) そこで今回は、三重県内の栄養士・管理栄養士養成課程の新入学生の調理技術の現状を 把握することを目的とし、調理技術や調理知識の向上のために、調理技術を調理経験、調 理への意識、調理知識の面から検討することとした。 1. 方法 1.1. 対象者 三重県内の栄養士・管理栄養士養成課程の新入学生の、同意が得られた 141 名のうち、 社会人学生・男性・下宿生を除き、さらに調査データがすべて揃った 64 名を分析対象とし た。 1.2. 実施時期 調査時期は 2018 年 5 月に行った。 1.3. 調査方法 無記名自己記入式によるアンケート調査を実施した。アンケートは調理技術、調理経験、 調理への意識、調理知識に関する項目からなり、詳細は以下に示す。 本調査は、三重県内の栄養士・管理栄養士養成課程の新入学生の調理技術の現状を把握 することを目的とし、調理技術や調理知識の向上のために、調理技術を調理経験、調理へ の意識、調理知識の面から検討するための調査であることを口頭で説明し、その場で回収 を行った。 1.4. 調査項目 1.4.1. 基本属性 対象者の基本属性は、大学区分を S 大学、M 短大、S 短大とした。年齢区分を 18~19 歳、 20 歳代とした。

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1.4.2. 調理技術 調理技術は 5 項目とした。 「大さじ・小さじ・計量カップなどの使用方法を理解した上で計量ができる」を「計量」、 「包丁でりんごの皮をむくことができる」を「りんごの皮むき」、「揚げ物をすることがで きる」を「揚げ物調理」、「ゲル化剤である寒天・ゼラチン・カラギーナンを使った料理が できる」を「ゲル化剤調理」、「魚一匹を内臓処理やおろす、切ることができる 」を「魚処 理」とし、「できる」、「だいたいできる」、「できない」の 3 肢択一とした。「できる」3 点、 「だいたいできる」2 点、「できない」1 点と得点化し、合計点を算出し、調理技術の習得 状況得点(最高得点 15 点、最低得点 5 点)とした。 1.4.3. 調理経験 調理経験は 4 項目とした。 「1 週間の調理頻度」、「1 回の調理時間」、「1 週間の食材購入頻度」および「調理可能な 料理数」について、記入式とした。 1.4.4. 調理への意識 調理への意識は「調理は好きか」と「調理技術の必要性」の 2 項目とした。 「調理は好きか」は「好き」、「嫌い」、「どちらでもない」の 3 肢択一とした。「調理技術 の必要性」は「必要」、「どちらかといえば必要」、「必要ではない」 の 3 肢択一とした。 1.4.5. 調理知識 調理知識に関する項目は、「食材の切り方 14 種類」、「血合い」、「ぜいご」、「青菜の茹で 方」、「根菜の茹で方」、「だしの取り方」、「炊飯の加水量」および 「汁物の塩分濃度」の計 21 項目とした。 「食材の切り方 14 種類」については切り方を「知っている」と回答した数を集計し、 「切り方を知っている数」とした。「血合い」、「ぜいご」については「知っている」、「知ら ない」の 2 肢択一とし、食材(青菜・根菜)の茹で方については「 沸騰水から茹でる」、「水 から茹でる」、「わからない」の 3 肢択一の問題形式とした。 調理の基本として「だしの取り方」、「炊飯の加水量」、「汁物の塩分濃度」について の 3 項目とし、「知っている」、「だいたい知っている」、「知らない」の 3 肢択一とした。 1.5. 分析方法 分析方法は、各項目の人数とその割合を算出した。また、調理技術の習得状況得点と調 理経験(1 週間の調理頻度、1 回の調理時間、1 週間の食材購入頻度、調理可能な料理数)、 調理知識(食材の切り方を知っている数)との関連は相関係数(ピアソンの積率相関係数) を用いた。統計処理には、Microsoft Excel 2013 およびエクセル統計 2015 for Windows を使用し、有意水準は 5%(両側検定)とした。

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対象者には研究の目的や内容の説明をし、個人情報の保 護への配慮について口頭および文章で説明を行い 、同意を 得た。本研究における調査の実施にあたっては、鈴鹿大学 短期大学部の倫理委員会の承認を得た(鈴大倫 18-002)。 2. 結果 2.1. 基本属性 対象者の基本属性は、S 大学 24 名(37.5%)、M 短大 21 名(32.8%)、S 短大 19 名(29.7%)であった。また、年 齢は 18~19 歳 62 名(96.9%)、20 歳代 2 名(3.1%)であ った。 2.2. 調理技術(表 1-1,1-2) 調 理 技 術 の 習 得 状 況 得 点 の平均点は 11.0±2.44 点で あった。約 7 割が 9 点から 13 点内に集中していた。各々の 調 理 技 術 に つ い て 習 得 状 況 を比較すると、計量 2.6±0.56 点、りんごの皮むき 2.5±0.74 点、揚げ物調理 2.3±0.74 点、ゲル化剤調理 2.1±0.82 点に対 し、魚処理は 1.7±0.71 点と低かった。また、「できる」と「だ いたいできる」を合わせた割合は、「計量」96.9%、「りんごの皮 むき」85.9%、「揚げ物調理」82.8%、「ゲル化剤調理」70.3%、 「魚処理」54.7%であった。 2.3. 調理経験(表 2) 家庭での「1週間の調理頻度」は、「1~2 回」と回答した者が 53.1%と半数を占めた。また、「1 回の調理時間」は、「30~60 分」 が最も多く 73.4%を示した。 「1週間の食材購入頻度」は、「0 回」と購入がない者が 71.9%、 「調理可能な料理数」は、「1~5 品」を可能とした者が 59.4%と 約 6 割であった。 2.4. 調理への意識(表 3) 「調理は好きか」では、「好き」との回答が 85.9%と殆どの者 が好きであった。また、「調理技術の必要性」についても、「必要」 と回答した者が約 9 割を示した。 表1-1.調理技術の習得状況得点(n=64) 得点 人数 割合(%) 5 2 3.1 6 1 1.6 7 3 4.7 8 2 3.1 9 8 12.5 10 8 12.5 11 13 20.3 12 9 14.1 13 7 10.9 14 6 9.4 15 5 7.8 11.0 2.44 平均点 標準偏差 人数 割 合 ( % )人数 割 合 ( % )人数 割 合 ( % )平均点 標準偏差 計量 38 59.4 24 37.5 2 3.1 2.6 0.56 りんごの皮むき 38 59.4 17 26.5 9 14.1 2.5 0.74 揚げ物調理 27 42.2 26 40.6 11 17.2 2.3 0.74 ゲル化剤調理 24 37.5 21 32.8 19 29.7 2.1 0.82 魚処理 9 14.1 26 40.6 29 45.3 1.7 0.71 できる だ い た い で き る できない 表1-2.調理技術(n=64) 人数 割 合 ( % ) 1週間の調理頻度 0回 15 23.4 1~2回 34 53.1 3~4回 9 14.1 5~6回 6 9.4 7回 0 0.0 1回の調理時間 0~29分 1 1.6 30~60分 47 73.4 1~2時間 12 18.7 2時間以上 4 6.3 1週間の食材購入頻度 0回 46 71.9 1~3回 16 25.0 4~6回 2 3.1 7回 0 0.0 調理可能な料理数 0品 2 3.1 1~5品 38 59.4 6~10品 15 23.4 11~20品 8 12.5 21品以上 1 1.6 表2.調理経験(n=64)

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2.5. 調理知識(表 4-1,4-2) 食材の切り方について、14 種類の切り方のう ち「せん切り」(98.4%)、「みじん切り」(96.9%)、 「いちょう切り」(96.9%)、「輪切り」(93.7%)、 「半月切り」(93.7%)、「短冊切り」(92.2%)お よび「乱切り」(90.6%)の 7 種類は、知ってい る者が 9 割以上を占めた。一方、「くし型切り」、 「拍子木切り」、「色紙切り」などは知っている 者が半数に留まった。 料理用語の「血合い」と「ぜいご」について は、「血合い」を知っている者は 50.0%、「ぜ いご」は 59.4%であった。 青菜と 根菜の 茹で 方を 正しく 理解し てい る 者は、「青菜(沸騰水から茹でる)」85.9%、「根 菜(水から茹でる)」76.6%であった。 調理の基本とした「だしの取り方」、「炊飯の 加水量 」、「汁物の 塩分 濃度」を知っ ている者 は、「だしの取り方」34.4%、「炊飯の加水量」 29.7%、「汁物の塩分濃度」10.9%と半数にも 満たなかった。 2.6. 調 理 技 術 の 習 得 状 況 得 点 と 調 理 経 験 ・ 食 材 の 切 り 方 を 知 っ て い る 数 と の 関 連(表 5) 調 理 技 術 の 習 得 状 況 得 点 と 調 理 経 験 の 4 項目(「1週間の調理頻度」、「1回の調 理時間」、「1 週間の食材購入頻度」、「調理 可能な料理数」)と「食材の切り方を知っ ている数」との関連は、調理技術の習得状 況 得 点 と 調 理 経 験 の 「 1 週 間 の 調 理 頻 度 (r=0.297,p=.017)」、「1 週間の食材購入頻 度 (r=0.249,p=.048)」、「 調 理 可 能 な 料 理 数(r=0.400,p=.001)」の 3 項目と正の相 関が認められた。また、「食材の切り方を 知っている数(r=.328,p=.008)」にも正の 相関が認められた。 人数 割 合 ( % )人数 割 合 ( % )人数 割 合 ( % ) 食材の茹で方  青菜 55 85.9 5 7.8 4 6.3  根菜 7 10.9 49 76.6 8 12.5 人数 割 合 ( % )人数 割 合 ( % )人数 割 合 ( % ) 調理の基本  だしの取り方 22 34.4 32 50.0 10 15.6  炊飯の加水量 19 29.7 40 62.5 5 7.8  汁物の塩分濃度 7 10.9 14 21.9 43 67.2 知っている だいたい知っている 知らない 表4-2.調理知識(n=64) 沸騰水から 水から わからない 相関係数 p値 調理経験 1週間の調理頻度 .297* .017 1回の調理時間 .040 .753 1週間の食材購入頻度 .249* .048 調理可能な料理数 .400** .001 調理知識   食材の切り方を知っている数 .328** .008 表5.調理技術の習得状況得点との相関(n=64) * p=.05,** p=.01 人数 割 合 ( % ) 調理は好きか  好き 55 85.9  嫌い 0 0.0  どちらでもない 9 14.1 調理技術の必要性  必要 60 93.7  どちらかといえば必要 4 6.3  必要ではない 0 0.0 表3.調理への意識(n=64) 人数割 合 ( % )人数割 合 ( % ) 食材の切り方  せん切り 63 98.4 1 1.6  みじん切り 62 96.9 2 3.1  いちょう切り 62 96.9 2 3.1  輪切り 60 93.7 4 6.3  半月切り 60 93.7 4 6.3  短冊切り 59 92.2 5 7.8  乱切り 58 90.6 6 9.4  ささがき 52 81.3 12 18.7  小口切り 52 81.3 12 18.7  さいの目切り 44 68.7 20 31.3  笹切り(斜め切り) 40 62.5 24 37.5  くし型切り 32 50.0 32 50.0  拍子木切り 30 46.9 34 53.1  色紙切り 29 45.3 35 54.7 料理用語  血合い 32 50.0 32 50.0  ぜいご 38 59.4 26 40.6 表4-1.調理知識(n=64) 知っている 知らない

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3. 考察 3.1. 調理技術 大学入学時の調理技術の習得状況は、計量やりんごの皮むきなどの基礎的な習得に留ま っていることがわかった。堀ら 12)が行った調査では、「りんごの皮むき」が「できる 」、「だ いたいできる」と回答した学生は 86.8%、「魚処理」は 23.5%であったが、本研究の対象 学生は、「りんごの皮むき」が「できる」、「だいたいできる」と回答した学生は 85.9%、 「魚処理」は 54.7%であった。本研究調査の結果と、堀ら 12)の調査結果を比較すると「り んごの皮むき」は同様の結果であるが、「魚処理」は若干高い結果となった。本研究の「魚 処理」が 30%程高い結果を示したのは、調査時期が 5 月であったため、一部の養成校では、 調理実習が開始され「魚処理」を学び始めた時期と重なったこと が影響したものと考えら れる。堀らは 13)入学時には、知っているができない、知らないと回答した学生 が、実習終 了後には減少し、実習の効果で調理技術は向上すると報告しており、実習内容の効果が今 回の「魚処理」54.7%に現れたと考えられる。また、調理技術の向上には反復練習が必要 と言われ、家庭における調理経験・食習慣が影響すると考えられる 14) よって大学教育では、習得状況が低い「魚処理」、「ゲル化剤調理」の調理技術が身に付 くように実習内容の検討が必要であるとともに、反復練習が定着できるように支援してい くことも必要である。 3.2. 調理経験 「調理可能な料理数」は「1~5 品」を可能とした者が 59.4%と約 6 割であった。しか し、家庭での「1週間の調理頻度」は半数が「1~2 回」、「1 回の調理時間」は「30~60 分」が最も多かった。また、調理技術の習得状況得点と調理経験(「1 週間の調理頻度」、 「1回の調理時間」「1 週間の食材購入頻度」、「調理可能な料理数」)との関連では、調理 技術の習得状況得点は、調理経験の「1 週間の調理頻度」、「1 週間の食材購入頻度」、「調 理可能な料理数」が高いほど高く、調理技術の習得状況得点と調理経験が関連することが 明らかになった。 増澤ら15)によると料理を作る頻度が高いほど調理技術を持っていると述べている。食 事作りをよくする者は調理可能な料理数が多く、栄養士・管理栄養士として必要とされる 献立作成能力(献立に用いる食品数)も高い 5) 16) 17)。長屋ら18)は、家庭学習に実践的な 内容を取り入れることで、調理技術に自信(成功体験)が持てるきっかけになると述べてい る。つまり、基礎的な調理技術の習得を積み重ねることは、食事作り全体の能力の向上に 関与すると考えられる。 よって大学教育では、調理を伴う実習の頻度や実習での料理数、使用する食材数を見直 し実習内容の充実が求められる。また、成功体験や振り返り学習が重要であると考えられ る。

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3.3. 調理への意識 調理への意識に関しては、調理が「嫌い」とする者はおらず、調理に対する嫌悪感はな い学生が多い。「調理技術の必要性」についても理解を示したことは、調理に対して肯定的 であると考えられた。 調理を楽しく行うことが調理技術の向上につながることから、この調理への意識の継続 を大切にして教育をすることが重要である。児玉 19)は、料理のできばえを「おいしい」、 「上手」などと評価すること。長屋らは 18)、調理への意識の向上は、調理に興味・関心を 持つことであり、「手作りのよさ」であるとしている。 調理への意識の継続は、調理に興味・関心を持ち「上手」と言われるような 調理技術の 向上がポイントになると考えられる。学生全体で考えると、これまでの食事体験や調理経 験に差はあるが、実習の料理にグラタンやマヨネーズなど、これまで手作りしてこなかっ たと思われる料理を試みると、手作りしたことによる喜びや驚きを感じ得る学生がいる。 また、「家庭で作ってみたい」と話す者もいる。このような、主体的な気持ちを大切にして 実習をすることが望ましいと考える。 3.4. 調理知識 食材の切り方では、「せん切り」、「みじん切り」、「いちょう切り」、「輪切り」、「半月切り 」、 「短冊切り」および「乱切り」の 7 種類は 9 割以上が知っていたが、「くし型切り」、「拍子 木切り」、「色紙切り」などは半数に留まった。平島ら9)は、高校の調理実習において「み じん切り」、「せん切り」、「小口切り」、「輪切り」、「いちょう切り」、「半月切り」、「さいの 目切り」、「乱切り」は実施(実施率 80%以上)済みと報告している。よって、高校時に殆ど の切り方は学習すると考えられるが、中学・高校での家庭科の授業数が減少している 8)9) ため、中学・高校の授業で調理知識を定着させ、調理技術を高めることが難しくなってき ている。 調理技術の習得状況得点は、調理知識の「食材の切り方を知っている数」が多いほど 高 く、この項目に関連があること。「くし型切り」、「拍子木切り」、「色紙切り」などの調理知 識が半数に留まったことを考え合わせると、中学・高校の授業での調理知識が定着できる ように、種々の切り方に出会える幅広い教育内容が必要であると考えられる。 料理用語の「血合い」や「ぜいご」を知っている者は、約 50%から 60%であり、調理の 基本とした「だしの取り方」、「炊飯の加水量」および「汁物の塩分濃度」を知っている者 は、半数にも満たなかった。外食や中食産業の発展や共働き夫婦の増加 7)により、家庭に おいて食材から調理を行う機会は年々減ってきている 4)6)7)。食材では「魚離れ」が進んで おり、「魚離れ」は「血合い」や「ぜいご」の用語知識にも影響する 12)。多様な食材を用 い、さまざまな調理方法を学べる実習を行うことで、料理用語の理解が深まると考える 。 また、「だしの取り方」では、中学・高校の家庭科の教科書に日本料理のだしの取り方に ついて記述はあるが 20)、その調理知識がほとんど身についていないことがわかった。

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これらのことから、大学教育では限られた授業時間の中で、基礎力の定着や就労後の現 場で栄養士および管理栄養士として必要とされる調理技術や 調理知識を身に付けることが 大きな課題である。栄養士および管理栄養士は食の専門家として、健康の維持増進に関わ ることは周知の事実であるが、食事作りには、食材選び・準備・調理・片付けなどの一連 の動作があり、そのすべてとの関わりを明らかにすることが必要であると考えられる。 今後は、栄養士・管理栄養士養成課程に在籍する学生の調理技術 と調理経験、調理への 意識、調理知識だけでなく、食生活の状況や健康感などとの関わりも検討し、効果的な実 習を行うための手法を見つけることを研究目的としたい。 結論 調査の結果、調理技術の習得状況は、基礎的な習得に留まっていた。調理技術の習得状 況得点が高い学生ほど、調理経験や調理知識は高く、調理技術の習得状況は、調理経験や 調理知識に影響することが示された。よって大学教育では、基礎力の定着に加え、調理技 術や調理知識の向上のために、調理経験や調理への意識、調理知識を高めるより効果的な 実習を行う手法を見つけることが必要である。さらに調理技術を効果的に向上させるため には、家庭での調理経験を増やすことが必要で、入学直後から課題を課す取組みの必要性 も考えられた。 参考文献 1) 安原安代,千葉宏子,柴田圭子,松田康子,奥嶋佐知子,駒場千佳子,高橋敦子( 2006):管理栄養士養成課程学生の調理力の実態とその解析,女子栄養大学紀要, 37, 59-72 2) 八尋美希(2015):学生の調理経験と調理実習における自己評価との関連性,近畿大学 九州短期大学紀要,45,1-9 3) 前田紀夫,磯部由香,平島円,吉本敏子(2012):三重県の中学校「技術・家庭」にお ける調理実習の現状,三重大学教育学部研究紀要,63,167-171 4) 一 般 社 団 法 人 日 本 フ ー ド サ ー ビ ス 協 会 ( 2010 ): 外 食 率 と 食 の 外 部 化 率 の 推 移 , http://www.jfnet.or.jp/data/h/data_c_o09_2009.html(最終アクセス 2019.9.24) 5 )照井眞紀子(2000):ある栄養士教育課程における学生の献立作成能力の要因 ,栄養学雑 誌,58,77-84 6) 堀光代,平島円,磯部由香,長野宏子(2011):料理習得に対する高校までの調理実 習の影響,岐阜市立女子短期大学研究紀要,60,55-59 7) 木村友子(2009):栄養士専攻の女子大学生とその母親の食行動及び健康意識 ,日本食生 活学会誌,20,187-194 8) 伊藤葉子(2013):家庭科の授業時間減少をめぐる課題,日本家政学会誌,64(8),451-453

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A Study of Cooking Skills Amongst Students in the

Dietician and Administrative Dietician Training Course

Eri Hattori, Takahiro Narukawa, Kae Sugino,

Yoriko Umehara, Chizuko Hotta

Abstract

The purpose of this study is to investigate the overall cooking skills of new students in the dietitian’s and the managed dietitian’s courses in Mie Prefecture. This is to understand the role of their cooking skills, cooking knowledge and cooking experience in the improvement of their overall cooking skills. Date was gathered in May 2018 and 64 dieticians in Mie Prefecture answered the survey.

The method used in analysis showed the percentage of the number of people choosing each item. In addition, the relationship between cooking experience and cooking knowledge was shown using the correlation coefficient (Pearson product moment correlation coefficient). For statistical processing, Microsoft Excel 2013 and Excel Statistics 2015 for Windows were used, and the significance level was set to 5% (two -sided test).

The results show that the acquired cooking technique was limited to basic cooking knowledge and the relationship between cooking experience and cooking knowledge

Therefore, the better the cooking skill, the more the cooking experience and knowledge affect the overall cooking skills.

Keywords :Cooking skills , Cooking experience ,Cooking consciousness, Cooking knowledge ,Dietician training course

参照

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