卒業研究論文
個人の頭部音響伝達関数を用いた コンサート音楽の配信
学籍番号 00D8101015F 森口 智代
中央大学理工学部情報工学科 田口研究室 2004 年 3 月
あらまし
コンサート会場における音場は,床,壁,天井,座席に反射する音波やリスナー本人の頭部に 反射する音波によって作られる.人それぞれ頭の大きさや形,顔のつくり,耳の形,髪型が違う ため,聞こえ方に個人差がある.本研究では,聞こえ方の個人差を実現するために,個人の 頭部伝達関数を導出する.頭部を取り囲む境界への到達音に個人の頭部伝達関数をたたみ込 んでリスナーの耳の位置における音を算出し,コンサート会場にいないリスナーに臨場感の あるコンサート音楽を配信することを目的とする.
頭部周辺の音を採取するためにリスナーの頭部を囲むように境界を設け,境界からリスナーの 耳への頭部伝達関数を導出する.そして,コンサート会場において境界上の音を録音する.導出 した頭部伝達関数と録音した音を用いてリスナーの耳の位置における音を算出する.この算出し た音をコンサート会場にいないリスナーに配信する.
本論文では,リスナーの頭部と頭部周囲に設けた境界を簡略化した形におきかえて考える.音 場を支配するヘルムホルツ方程式に対して境界要素法による数値解析を行い,周波数を固定した 場合における伝達関数を導出した.また,伝達関数を導出する手順が正しいことの検出を行う.
キーワード:ヘルムホルツ方程式,境界要素法,頭部伝達関数.
目 次
第1章 はじめに... 1
第2章 音波 2.1 波動方程式... 3
2.2 球面波... 5
2.3 点音源... 8
2.4 ヘルムホルツ方程式... 8
第3章 境界要素法 3.1 Greenの公式と基本解... 10
3.2 境界積分方程式... 12
3.3 境界積分方程式の離散化... 14
第4章 伝達関数 4.1 ヘルムホルツ方程式の境界要素解析法 4.1.1 積分方程式の導出と2次要素による離散化... 19
4.1.2 境界条件... 21
4.1.3 要素行列の作成... 22
4.2 伝達関数の導出... 24
第5章 伝達関数を用いた音圧の導出 5.1 境界要素の作成... 27
5.2 境界条件... 28
5.3 伝達関数値と音圧の導出... 29
第6章 おわりに... 32
謝辞... 33
参考文献... 34
付録... 35
第 1 章 はじめに
人は音の方向がわかる.それは,人は音を聞くとき,音量の差や,伝わる時間の差,あ るいは位相差や周波数特性を無意識のうちに感じているからである.例えば,左前方で物 音がした場合,左耳の方が大きく聞こえたという「音量差」による情報を得ると同時に,
左耳の方が早く伝わったという「時間差」による判断も瞬時に下しているのである.
コンサート会場において音は 360 度すべての方向から聞こえる.これは音源からの音波 は,直接的に耳に届くわけではないからである.コンサート会場における音場は,床,壁,
天井,座席に反射する音波やリスナー本人の頭部に反射する音波によって作られる.顔の 正面から来る音はまず鼻に当たり,左右に分かれて頬骨に伝わって,耳朶で反射されて耳 に入るため,正面から来る音は鼻や頬骨の影響を受ける.真横から来る音は鼻や頬骨の影 響はほとんど無く,耳朶の影響だけで耳に入る.真後ろから来る音は,まず後頭部に当た り,左右に分かれて耳朶を乗り越える形で耳に入る.このような頭部周囲から耳への音の 伝わり方の特性を数値化したものが頭部伝達関数である.人それぞれ頭の大きさ,顔のつ くり,耳の形,髪型が異なるので,頭部伝達関数には個人差が生じる.臨場感のあるコン サート音楽を配信するためには,この個人差に着目する必要がある.
ここで,人物Aがコンサート会場にいると仮定する.図1.1のように人物Aの頭部周辺 に籠を設置し,籠上の , ,・・・, , の位置に 個のマイクを取り付ける.マイ クを取り付けた位置 , ,・・・, , から右耳,左耳までの頭部伝達関数をそれぞ れ求める.次に,籠に取り付けた 個のマイクでコンサート音楽を録音する.求めた頭部 伝達関数を用いて右耳,左耳の位置における音をそれぞれ計算する.この計算された音が コンサート会場において人物Aの右耳,左耳に届く音である.
S1 S2 Sn−1 Sn n S1 S2 Sn−1 Sn
n
次に,人物Aがコンサート会場にいない時を考える.コンサート会場において図1.2の ようにマイクを取り付けている籠のみを設置し,コンサート音楽を録音する.人物Aにお いて求めた頭部伝達関数と録音した音を合成し,右耳,左耳における音を算出する.そし て,算出した音を人物Aに配信する.
人物Aに限らず受信者が複数いる場合においても,各受信者に臨場感のある音を配信で きる.コンサート音楽を1回だけ録音すれば,各受信者における頭部伝達関数を用いるこ とにより,受信者本人がコンサート会場で聴いているような音を配信することができる.
本来,コンサート会場において特等席には限られた人数しか座ることができないが,この 方法を用いることでリスナー本人が特等席で座って聴いているような音を,多人数に配信 することが可能になる.
M S2
S1
M Sn
Sn n
−1
M S2
S1
M
n
S S−1
図1.1 人物Aがコンサート会場にいる場合 図1.2 人物Aがコンサート会場にいない場合
本論文では,人の顔を球に簡略化して考える.そして,頭部周辺における音圧を与え,
球に反射することを考慮し,周波数を固定させた場合における伝達関数を求める.また,
その伝達関数を計算する手順が正しいことの検証を行う.
第 2 章 音波
本章では,「音波」の式を導き,球面波,点音源の性質を述べ,次にヘルムホルツ方程式 を導く.
本章での記述は主に [2,3]による.
2.1 波動方程式
太鼓をたたくとその皮の振動がそれに接している空気を振動させ,その振動が伝えられ たものを私たちは音として感じる.物が振動するとそこに接している空気は押し縮められ て密になったり引き伸ばされて疎になったりする.このような弾性振動が伝わる波動を音 波あるいは弾性波という.
流体内の1点
(
x,y,z)
における密度をρs,流体の圧力を とする.音波が到達したと き,その密度がPs
ρ,圧力が になったとする.Pに対して音波のないときの圧力 を静圧 といい,その点の圧力の音波による変化分
P Ps
(
t x y z)
P Psp , , , = − (2.1)
をその点の音圧(音の圧力)という.
点
(
x,y,z)
に微小な体積 δV =∆x⋅∆y⋅∆z を持った直六面体を考え,それが音波によ り d(
ξ,η,ζ)
という変位を受けるとともに体積が δV' になったとする.変位が十分に小 さいので,この体積は,直六面体のままであって'
δV = z
y z x y
x ⎟∆
⎠
⎜ ⎞
⎝
⎛
∂ +∂
⋅
⎟⎟∆
⎠
⎜⎜ ⎞
⎝
⎛
∂ +∂
⋅
⎟∆
⎠
⎜ ⎞
⎝
⎛
∂
+∂ξ η ζ
1 1
1
≒ ⎟⎟
⎠
⎜⎜ ⎞
⎝
⎛
∂ +∂
∂ +∂
∂ +∂
∆
⋅
∆
⋅
∆x y z ξx ηy ζz
1 (2.2)
となる.したがって体積変化の割合は
z y x V
V V
∂ +∂
∂ + ∂
∂
=∂
= −
∆ ξ η ζ
δ δ δ '
(2.3)
で与えられる.
一方,質量の保存が成り立つから ρsδV = ρδV' すなわち(2.3)によって
(
+∆=ρ1
)
ρs (2.4)
となり,あるいは密度変化の割合を とするとs
(
ss +
=ρ 1
)
ρ (2.5)
となる.∆や はやはり十分小さいため,以下の式が成り立つ.s
∆
−
s= (2.6)
ここで,∆は膨張度, は圧縮度とよばれる.s 音の圧力をpとすると
(2.7)
Ks K p=− ∆=
となる.ただし,Kは体積弾性率である.
この部分の運動に関与する力は圧力の場所による差であるから,その運動方程式は
x p t
vx
∂
−∂
∂ =
ρ∂ (2.8)
y p t
vy
∂
−∂
∂ =
ρ∂ (2.9)
z p t
vz
∂
−∂
∂ =
ρ∂ (2.10)
vx t
∂
= ∂ξ
, vy t
∂
= ∂η
, vz t
∂
=∂ζ
となり,v
(
vx,vy,vz)
は音波により流体の微小部分が振動する速度であるので,粒子速度 と呼ばれる.また,微小部分の変位 d(
ξ,η,ζ)
を粒子の変位と呼ぶことがある.(2.7)式の関係によって,以下の式が成り立ち
⎟⎟⎠
⎜⎜ ⎞
⎝
⎛
∂ +∂
∂ +∂
∂
− ∂
=
⎟⎟⎠
⎜⎜ ⎞
⎝
⎛
∂ +∂
∂ +∂
∂
∂
∂
− ∂
∂ =
∆
− ∂
∂ =
∂
z v y v x K v
z y x K t
K t t p
y z x
ζ η ξ
(2.11)
これをさらにtで微分して,(2.8),(2.9),(2.10)式と組み合わせると
K p
z p y
p x
p K t
p
2
2 2 2 2 2 2 2
2
∇
=
⎟⎟⎠
⎜⎜ ⎞
⎝
⎛
∂ +∂
∂ +∂
∂
= ∂
∂
∂
ρ
ρ (2.12)
となる.この式を書き直すと,
2 2 2
2 1
t p p c
∂
= ∂
∇ (2.13)
となり,この微分方程式は3次元の波動方程式と呼ばれ,pが
ρ
c= K (2.14)
という速度で媒質の中を波として伝わることを示す式である.
2.2 球面波
極めて小さい音源から全方に一様に放出された音は,球面状の波面,すなわち球面波と して空間に広がる.これは簡単であるが極めて重要な音波である.
球面波の中心を原点Oとし,それより点
(
x,y,z)
までの距離をrとすると,2 2 2
2 x y z
r = + +
である.球面波では(変化量は)すべてtとrのみの関数であり,
r p r x x r r p x p
∂
= ∂
∂
∂
∂
=∂
∂
∂
r p r x r p r r
p r
x r p r
x x r r r
p r
x x
p
∂
− ∂
∂ + ∂
∂
⎟ ∂
⎠
⎜ ⎞
⎝
=⎛
∂
∂ ∂
− ∂
∂ +
⎟ ∂
⎠
⎜ ⎞
⎝
=⎛
∂
∂
3 2 2
2 2 2
2 2 2 2
2 1
などの関係が成り立つから,波動方程式は,
( )
2 2 2 2
2 2 2
2 2 1
r rp c r
r p r r
c p t
p
∂
= ∂
⎟⎟⎠
⎜⎜ ⎞
⎝
⎛
∂ + ∂
∂
= ∂
∂
∂
( ) ( )
2 2 2 2
2 1
r rp c r
t rp
∂
= ∂
∂
∴∂ (2.15)
ρ c2=K
となる.これが球面波の波動方程式で,rpについての1次元波動方程式であるから,その 解は
⎟⎠
⎜ ⎞
⎝⎛ +
⎟+
⎠
⎜ ⎞
⎝⎛ −
= c
t r c g t r f
rp (2.16)
で与えられる. ⎟
⎠
⎜ ⎞
⎝⎛ − c t r r f
1 は中心から広がっていく音圧の波, ⎟
⎠
⎜ ⎞
⎝⎛ + c t r rg
1 は中心に集まって
いく音圧の波である.
+r方向に広がる音圧の波は
⎟⎠
⎜ ⎞
⎝⎛ −
= c
t r r f p 1
(2.17)
となるので,音圧は中心からの距離rに比例して小さくなる.
この波の波面はOを中心とする同心の球面であり,(2.8),(2.9),(2.10)式によって,
粒子の加速度 t u
∂
∂ はr方向における音圧の変化の割合に比例するから
r p t
u
∂
−∂
∂ =
ρ∂ (2.18)
となる.(2.17) 式の音圧波形に対して
⎟⎠
⎜ ⎞
⎝⎛ −
⎟+
⎠
⎜ ⎞
⎝⎛ −
∂ =
∂
c t r r f c t r cr f t u
2
' 1
ρ 1 (2.19)
となる.ただし, ⎟
⎠
⎜ ⎞
⎝⎛ − c t r
f' は ⎟
⎠
⎜ ⎞
⎝⎛ − c t r
f の導関数を意味する.
ゆえに
⎟⎠
⎜ ⎞
⎝⎛ −
⎟+
⎠
⎜ ⎞
⎝⎛ −
= c
t r r F c
t r cr f
u 2
1 1
ρ
ρ (2.20)
となる.ただし,Fは f の不定積分
⎟⎠
⎜ ⎞
⎝⎛ −
=
⎟⎠
⎜ ⎞
⎝⎛ −
⎟⎠
⎜ ⎞
⎝⎛ −
c t r f c t r f
c t r F d d
である.粒子速度vは圧力 (距離に逆比例する) と同じ波形の波とrの2乗に比例する波と から成っている.
ある場所で波によっておこる変動が時間の正弦関数あるいは余弦関数として表される波 を正弦波という.中心から広がる球面正弦音波は,複素数で表すと
( )
j( t kr ) ej ej( t kr) re P r r P t
p , = 0 ω− +ϕ0 = 0 ϕ0 ω− (2.21)
( )
ej( ) (ej t kr crr P t
v = ϕ −ε ω−
ε
ρ cos 0
, 0 ) (2.22)
ej ej( t kr r
P jkr c
⎟⎟ −
⎠
⎜⎜ ⎞
⎝
⎛ +
= ϕ ω
ρ
0 0
1 1
1 )
(2.23)
と書ける.ただし
k ≡ωc
(2.24)
である.
ωt−kr+ϕ0を正弦音波の位相,ωを正弦音波の角振動数,
π ω
= 2
f を正弦音波の振動数 あるいは周波数という.
正弦音波の周期Tは
T = 1f (2.25)
となる.正弦音波の波長λは
f cT = c
λ = (2.26)
となる.したがって
λ π
ω 2
=
= c
k (2.27)
となる.このkを正弦音波の位相定数,または波長定数という.
2.3 点音源
広い流体の中のOという点を中心とする極めて小さい部分に
t j se t Q
V = ω
d
d (2.28)
という体積変化がおこっているとする.その変動はOを中心とする球面波として周囲に広 がっていく.その球面音波において,体積変化のおこっている部分が極めて小さい半径 の 球の部分であると考えると,その体積変化は
( )
t a a ua ,
4π 2⋅ と書ける.したがって(2.23) 式において r =a,ka≪1 として P0ejϕ0 を Qs で表せるから,以下の式が成り立つ.
( )
s ej( t kr)r ckQ j r t
p = ω−
ρ π
, 4 (2.29)
( ) ( )
s ej( t kr) rjkr Q r
t
u = + ω−
π 2 1 4
, (2.30)
このような音源を点音源といい,Qsを点音源の強さという.
2.4 ヘルムホルツ方程式
電磁波,音,圧力などの波の伝播現象を支配する微分方程式は,一般的に次のような波 動方程式で表される.
( ) ( )
2 2 2
2 1 ,
, t
t x p t c
x
p ∂
= ∂
∇ (2.31)
( )x t
p , は,時刻 での媒質中の点 におけるスカラーポテンシャルを表し, は波の伝 播速度である.媒質の振動が微小振幅の定常振動である場合,すなわち の時間依 存性が角振動数
t x c
(
x tp ,
)
ωで調和振動する信号を複素表示すると,
( )
x t p( )
x ej tp , = ~ ω (2.32)
となる.この(2.32)式を時間tで2回微分すると,
( )
p( )
x ej t tt x
p 2, ω2~ ω
2
−
∂ =
∂ (2.33)
となる.(2.32),(2.33)式を(2.31)式に代入すると,
( )
j t p( )
x ej t e cx
p ω ω ~ ω
~
2 2
2 =−
∇ (2.34)
( )
~( )
0~
2 2
2 + =
∇ p x
x c
p ω
(2.35)
この(2.4.5)式を波数
k =ωc
を用いて表す.
( )
~( )
0~ 2
2 + =
∇ p x k p x (2.36)
この楕円型方程式をヘルムホルツ方程式という.
第 3 章 境界要素法
境界要素法は,いろいろな物理現象―例えば電磁場,熱伝導,弾性,流体など―を支配 する偏微分方程式を数値的に解いて近似解を求める方法の一種である.偏微分方程式で表 される支配方程式に,Greenの定理を適用することによって,領域Ω内の積分は境界 上 の積分に変換される.こうして表された式が境界積分方程式である.この積分方程式を解 くために,境界上を境界要素によって要素分割すると離散化境界積分方程式を得ることが できる.境界条件を与えることによって未知関数の数だけ方程式が得られ,連立1次方程 式とすることができる.この方程式を解くことによって,全ての境界要素に関する値が定 まることになる.こうしてすべての境界値が定まれば,領域内の任意の位置における関数 値を,境界積分方程式を用いて容易に算出できる.
Γ
本章では,Laplace 作用素で表される支配微分方程式を例にとって,上述の境界要素法 の基本概念について述べる.
本章での記述は主に [1,4,5] による.
3.1 Green の公式と基本解
波動の問題などは,uをポテンシャルとしたとき,領域Ω内でLaplace方程式
(3.1)
2 =0
∇ u
を解く問題に帰着され,ここで作用素∇2はラプラシアンと呼ばれ,
2 2 2 2 2 2 2
z y
x ∂
+ ∂
∂ + ∂
∂
≡ ∂
∇ (3次元問題) (3.2)
で定義される.
境界条件は次のように表すことができる.
u
u= :Γu上
n q q u =
∂
≡ ∂ :Γq上 (3.3)
境界Γu,Γqはそれぞれ全境界Γの一部であり, Γ=Γu UΓqである.nは境界Γ上の外向 き単位法線ベクトルであり,∂u ∂nは の法線方向への勾配を意味する.またu u,qは,
それぞれ指定された境界においてその値が与えられているものとする.
支配微分方程式である(3.1)式を Green の公式を用いて,境界上の未知量だけを含む
積分方程式に変換し,境界条件である(3.3)式のもとで解くというのが,直接法と呼ばれ る境界要素法の基本である.
uとu*を,境界までも含めた全領域Ω+Γにおいて2階導関数まで連続な関数としたと
き,Greenの公式は次のように表すことができる.
(
∇ − ∇)
Ω=∫ (
−)
Γ∫
Ω u 2u* u* 2u d Γ uq* u*q d (3.4)ただし
n q u
∂
≡ ∂ *
* (3.5)
とおいた.ここで,3次元の場合は,(3.4)式の左辺は領域全体にわたる体積分を,右辺 は境界面についての面積分を表す.
さて,領域Ωを占める媒体と同じ性質を持つ無限媒体を考え,その中の1点 に単位の 集中ポテンシャルが作用する場合を考える.点 でのポテンシャル変化 は,次 式により支配されることになる.
x
y u*
(
x,y)
)
(3.6)
( ) (
,)
02 * + − =
∇ u x y δ x y
ただし,δ
(
x−y は3次元のDiracのデルタ関数,xと はそれぞれ空間内の1点である.Diracのデルタ関数は次のような性質を持っている.
y
(3.7)
( )
⎩⎨
=⎧∞
−y 0
δ x
( )
(
x y y x≠
=
)
( )
⎩⎨
=⎧ Ω
∫
Ω − 0 d 1 yδ x
Ω
∈ Ω
∈ y
y (3.8)
( ) ( ) ( )
⎩⎨
=⎧ Ω
∫
Ω − d f0yy x x
f δ
Ω
∈ Ω
∈ y
y (3.9)
ただし,ΩはΩの外の領域, f( )x はx= yで連続な関数である.Dirac のデルタ関数は 超関数として理解されるものである.Dirac のデルタ関数の(3.7)〜(3.9)式の性質を うまく利用すると,境界要素法で必要な積分方程式を容易に導くことができる.
(3.6)式から得られるu*
(
x,y)
は,Laplace 作用素∇2で表される微分方程式の基本解と呼ばれる.3次元媒体についての基本解は
( )
x y ru 4π
, 1
* = (3.10)
で与えられる.ただし,rは点 と点x yとの間の距離である.
3.2 境界積分方程式
境界要素法は,支配微分方程式から得られる境界積分方程式を近似的に解く数値解法で ある.ここでは,Laplace方程式に対する境界積分方程式を導出する.
まず,Laplace方程式に対して次の恒等式を考える.
( ) ( ) ( )
* , d 02 Ω =
∫
Ω∇ u x u x y x (3.11)ただし,点 は境界Γ上にはないものとする.Green の公式である(3.4)式を用い,上 式を以下のように変形する.
y
( ) ( ) ( )
( ) ( ) ( ) ( )
( ) ( ) ( ) ( ) ( )
( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( )
0
d ,
* d
,
* d
,
*
d ,
* d
,
* ,
* d ,
*
2 2 2
=
Ω
∇ +
Γ
− Γ
=
Ω
∇ +
Γ
−
−
=
Ω
∇
∫
∫
∫
∫
∫
∫
Ω Γ
Γ
Ω Γ
Ω
x y x u x u x y x q x u x y x u x q
x y x u x u x x q y x u y x q x u
x y x u x u
(3.12)
ただし,
( ) ( )
n x x u
q ∂
=∂ (3.13)
( ) ( )
n y x y u
x
q ∂
= ∂ * , ,
* (3.14)
と置く.(3.12)式より
( )
x u( ) ( )
x y x q( ) ( ) ( )
xu x y x u( ) ( ) (
x q x y xu ∇ Ω = Γ − Γ
−
∫
Ω 2 * , d∫
Γ * , d∫
Γ * , d)
(3.15)と書ける.ここで,(3.6)式と(3.9)式より,
( )∇ ( ) ( )Ω = ( ) ( − ) Ω
−
∫
Ωu x 2u* x,yd x∫
Ωu x δ x yd( )
⎩⎨
=⎧ 0
y u
Ω
∈ Ω
∈ y
y (3.16)
となる.(3.16)式より,点yが領域内部に位置するとき,次の積分方程式が得られる.
( )
y q( ) ( ) ( )
xu x y x u( ) ( ) ( )
x q x y xu =
∫
Γ * , dΓ −∫
Γ * , dΓ (3.17)(
x yq* ,
)
は,基本解 u*(
x,y)
から導かれ3次元では,次式で与えられる.( ) ( )
n r r n
y x y u
x
q ∂
∂
= −
∂
= ∂ 2
4 1 ,
, *
* π (3.18)
点yを境界上に置いたときの積分を考えるためには,境界に点yを中心として半径εの
微小半球を付加し,この球上に点 があるものと考えて計算を進め,あとでx ε →0の極限 操作を行なえばよい.
上述の操作により追加される境界面をΓεで表せば,
( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( )
0
d ,
* d
,
*
d ,
* d
,
*
=
⎟⎠
⎜ ⎞
⎝⎛ Γ + Γ
−
Γ +
Γ
=
∫
∫
∫
∫
Γ Γ
Γ Γ
x y x q x u x
y x q x u
x y x u x q x
y x u x q y
ε ε
φ
(3.19)
となる.ここで,
( )
y q( ) (
x y xc =−
∫
Γ * , dΓ)
(3.20)と置く.ε →0のとき,(3.19)式において
( ) ( )
, d 0* Γ →
∫
Γ u x y xε
(3.21)
となることは,(3.18)式の基本解を代入して計算することにより確かめることができる.
境界が点yで滑らかなときは,(3.21)式の の値はc 1 2に等しい.また, がかど点に 位置するときは,3次元問題ではかどのつくる立体角を
y
αとおくとき,c=α 4π となる.
以上より(3.19)式は次のように表すことができる.
(3.22)
( ) ( )y u y q( ) (xu x y) ( )x u( ) (x q x y) ( )x
c =
∫
Γ * , dΓ −∫
Γ * , dΓただし,
( ) ( )
⎪⎩
⎪⎨
⎧
= 0 4
1 1 y y
c α
π
Ω
∈ Γ
∈ Ω
∈ y y y
とする. この(3.22)式は境界が滑らかな場合およびかどを含む場合をまとめて,一般形 で表したものである.c
( )
y は点yが置かれている境界のなす角度によって決まる定数であ る.3.3 境界積分方程式の離散化
境界要素法では境界積分方程式である(3.22)式の離散化によって近似的に評価する.
そのために,境界をいくつかの要素に分割する.3次元問題においては,物体の境界は面 である.面を近似する境界要素としては,三角形や四角形の平面要素が用いられることが 多い.要素内における関数 , は,それぞれ要素内に設けたいくつかの節点の座標,お よびその点における関数値で補間することにより近似される.
u q
3次元問題に使用される離散化方法として主に次のものがある.
z 三角形要素
1. 一定要素・・・関数値uとqは,三角形要素上で一定とし,三角形の重心を節点 として表す.
2. 線形要素・・・三角形要素内で関数値uとqが線形的に変化するものとして近似 され,節点は三角形の3頂点で表す.
3. 2次要素・・・曲面で表される三角形の頂点と中点に節点をとり,三角形要素上 の関数値 と を2次関数で近似して表す(図u q 3.1).
中央節点 境界節点 図3.1 三角形要素(2次要素)
z 四角形要素
1. 一定要素・・・関数値uとqは,四角形要素上で一定とし,四角形の中心を節点 として表す(図3.2).
2. 線形要素・・・四角形の4つのかど点によって定義され,四角形要素内で関数値u と が平面的に変化するものとして近似され,節点は四角形の 4 つのかど点で表 す(図3.3).
q
3. 2次要素・・・曲面で表される四角形の頂点と中点に節点をとり,四角形要素上 の関数値 と を2次で近似して表す(図u q 3.4).
以上の要素をいずれか用いることによって要素分割して離散化し,代数方程式へと変換し ていくことができる.
ここでは,四角形2次要素による離散化手法について述べることにする.
まず,任意の座標値から任意の座標値までの積分形式では数値積分公式を用いることが 難しい.そこで要素内の任意の点 の座標は2つの無次元座標x ξ1,ξ2を用いて表す(図3.5). 変数変換をおこなうことで積分区間を「 から 」より「a b −1から1」に移すことができる.
図3.2 四角形要素(一定要素) 図3.3 四角形要素(線形要素)
ξ 2
x
y
r
ξ1
− 1
0
z
(
x, y ,z)
(ξ1,ξ 2 )
1 境界節点
中央節点
図3.4 四角形要素(2次要素) 図3.5 3次元領域に対する要素 四角形2次要素の場合,四角形要素内で関数値が2次関数的に変化するもので,かど点 と四辺の中点の 8 節点が必要となる.それらの点の関数値 , から要素内 の関数値 , は
8 1 ~u
u q1 ~q8 u q