不動点定理とその応用
Fixed Point Theorems and Applications
非線形解析研究室
BV11019
大場 孝則 指導教員 竹内 慎吾 准教授1
はじめに解析学の分野には不動点定理とよばれる定理がある
.
写像f : X → X
に対してf (x) = x
となる点x ∈ X
の存在は,単にその存在を示すのみならず,微分方程式 論や多くの空間で利用することができる.その中でも縮小写像の原理とよばれる基本的な定理
の
, 2007
年に発表された新しい証明[4]
に注目し,
比較を行う.同時に有限次元における不動点定理である,
Brouwer
の不動点定理についての議論も進めていく.
2
縮小写像の原理2.1
不動点と縮小写像定義
2.1 (
不動点)
写像
f
に対して,f (z) = z
を満たすような点z
を 写像f
の不動点という.定義
2.2 (縮小写像)
距離空間
E = (E, ρ)
の部分集合S
からE
への写像f
が縮小写像であるとは,ある定数K ∈ [0, 1)
が存在し,ρ(f (x), f(y)) ≤ Kρ(x, y), ∀ x, y ∈ S
が成り立つことである.2.2
縮小写像の原理定理
2.1 (縮小写像の原理)
完備距離空間
X = (X, ρ)
からX
への縮小写像f
は 一意的な不動点をもつ.•
証明の要点任意の出発点
x 0 ∈ X
を固定して,点列{ x n }
をx n = f (x n − 1 )
と定める.
このとき縮小写像の性質から,
隣り 合う項の距離ρ(x k , x k − 1 )
を,x 1
とx 0
の距離ρ(x 1 , x 0 )
の定数倍で評価できる.ρ(x n , x n − 1 ) = ρ(f (x n − 1 ), f(x n − 2 ))
≤ Kρ(x n − 1 , x n − 2 )
≤ .. .
≤ K n − 1 ρ(x 1 , x 0 ) (1)
この関係を利用すると,次のように
{ x n }
がコーシー 列であることが示される: m < n
のときρ(x n , x m ) ≤ ρ(x n , x n − 1 ) + · · · + ρ(x m+1 , x m )
≤ (K n − 1 + K n − 2 · · · + K m )ρ(x 1 , x 0 )
= K m − K n
1 − K ρ(x 1 , x 0 ) → 0 (m,n →∞ ) (2)
この工程をより簡単にしたものがPalais
の新証明 である.
2.3 Palais
の新証明三角不等式から次のような関係が導かれる.
ρ(x, y) ≤ ρ(x, f (x)) + ρ(f (x), f (y)) + ρ(f (y), y)
≤ ρ(x, f (x)) + Kρ(x, y) + ρ(f (y), y)
からρ(x, y) ≤ 1
1 − K (ρ(x, f (x)) + ρ(f (y), y)) (3)
Palais
が着目したこの関係式を適用すると,{ x n }
が コーシー列であることが次のように示される:
ρ(x n , x m ) ≤ 1
1 − K (ρ(x n , x n+1 ) + ρ(x m , x m+1 ))
≤ K n + K m
1 − K ρ(x 1 , x 0 ) → 0 (m,n →∞ ) (4)
以上のように, (2)式と比較するとより簡潔な証明と なっていることがわかる.
•
従来の証明と新証明との違い従来の証明ではコーシー列を示す際,複数の二項間 の距離に対して,評価式
(1)
を適用する必要があった.しかし
Palais
の新証明では, 2
つの二項間の距離のみの適用で証明を行うことができる.
応用として,縮小写像の原理を利用する一例を挙げる.
2.4
常微分方程式の解の存在定理常微分方程式の初期値問題
dy
dx = g(x, y); y(x 0 ) = y 0 (5)
について考える.g
は矩形閉領域G :
G = { (x, y); x 0 ≤ x ≤ x 0 + a , | y − y 0 | ≤ b }
上定義され,x, y
について連続なm
次元ベクトル関数 とする.またg
はリプシッツ条件:∃ L s.t. ∀ (x, y 1 ), (x, y 2 ) ∈ G ;
| g(x, y 1 ) − g(x, y 2 ) | ≤ L | y 1 − y 2 |
を満たすとする.
このとき,
次の定理が成り立つ定理
2.2 (常微分方程式の解の存在定理)
g
を上の通りとする.初期値問題(5)
は[x 0 , x 0 + a ′ ]
でただ一つの解をもつ.ただしM = max
(x,y) ∈ G | g(x, y) | , a ′ = min {
a, b M
}
•
証明の要点初期値問題
(5)
は,
積分方程式y(x) = y 0 +
∫ x x
0g(t, y(t))dt (6)
と同値となる.| y − y 0 | ≤ b
を満たす区間[x 0 , x 0 + a ′ ]
上連続なm
ベクトル値関数の全体をB
とし, B
に距離ρ(y 1 , y 2 ) = max
x
0≤ x ≤ x
0+a
′e − 2L(x − x
0) | y 1 (x) − y 2 (x) |
を導入するとB
は完備距離空間となる. (6)の右辺を(T y)(x)
と表すと, T
はB
からB
への縮小写像となる.
ここで定理2.1
を適用する.3 Brouwer
の不動点定理定理
3.1 (Brouwer
の不動点定理)
R n
の有界閉凸集合S
からS
への連続写像f
はS
の 中に不動点をもつ.すなわちf (x 0 ) = x 0
となるようなx 0 ∈ S
が少なくとも一つ存在する.
•
証明の要点
S
の有界性よりS
を含む十分大きな閉球をとること から議論を始めていく.
証明の手順として以下のよう な段階を踏む.(B1)
「閉球から閉球自身への連続写像が不動点をもつ」と仮定したとき,定理が成り立つことを示す.
(B2)「閉球から閉球自身への C ∞
級写像が不動点をもつ」と仮定したとき,定理が成り立つことを示す.
(B3)「閉球から閉球自身への C ∞
級写像が不動点をもつ」ことを示す
.
定理
2.1
とは違って,不動点の一意性が保証されて いないことが大きな違いである.また注意点として,Brouwer
の不動点定理は一般に無限次元空間では成立しない.これは,有限次元空間であれば有界閉集合はコ ンパクトであるが,無限次元空間であるとコンパクト であるとは限らないためである.無限次元空間の場合, 集合か写像にコンパクト性を課した
Schauder
の不動 点定理という別の定理が存在する.
Brouwer
の不動点定理は様々な分野で活用されている.一例として代数学の基本定理を挙げる.
例
3.1 (代数学の基本定理)
n
次方程式a n z n + a n − 1 z n − 1 + · · · + a 1 z + a 0 = 0 (7)
は複素数の範囲で,
重解を含めてn
個の解をもつ.
•
証明の要点
(7)
式の左辺をP (z)
とする.f (z) = z − P(z) g(z) (g
は 連続かつg(z) ̸ = 0)
という形の写像f
を上手にとるこ とで, f
をある有界閉凸集合からそれ自身へ写す連続 写像とすることができる. Brouwerの不動点定理を適 用するとf (z)
は不動点をもつ.
その点をz 0
とすればf (z 0 ) = z 0 ,
すなわちP(z 0 ) = 0
を得る.あとは因数 定理を適用する.4
おわりに縮小写像の原理を始めとした様々な不動点定理は, 適用できる空間において不動点の存在を保証している ことから,多方面の数学で活用できる定理である.
今回研究の中心とした
Palais
の新証明においては, 単に縮小写像の性質を適用するのではなく,注目され ていなかった関係式(3)
をも活用する柔軟な発想が, より簡潔な証明を可能にした.
参考文献