A. 研究目的
スモンの主要症状の一つである感覚障害については、
現 在 で も 検 診 受 診 患 者 の 約 70% で 中 等 度 以 上 の 異 常 感覚の訴えがみられている1)。 これらは慢性のしびれ 感や痛みとなり、 今なおスモン患者の日常生活動作に 障害を与えている。 これら慢性のしびれ感や慢性痛を 定量的に評価、 把握することは、 スモン検診やスモン 患者のケアにとって重要である。
慢性痛には、 知覚神経線維である Aβ線維、 Aδ線 維、 C 線維が関与する。 ニューロメータ (Neurometer
) (Neurotron, Inc, Baltimore, MD) は 、 知 覚 神 経線維を Aβ線維、 Aδ線維、 C 線維のそれぞれに分 けて、 無侵襲で知覚機能を定量評価できる機器である。
Aβ、 Aδ、 C 線維、 それぞれの神経線維の脱分極は、
電気的サイン波刺激の周波数に依存する。 2,000 Hz の 刺激は主として太い神経線維を選択的に刺激し、 5 Hz の刺激は主として細い無髄線維を刺激する。 2,000 Hz、
250 Hz、 5 Hz の 3 種類のサイン波形刺激を与え、 それ ぞれの周波数に対応する Aβ、 Aδ、 C 線維で、 電流 知覚閾値 (current perception threshold;CPT) を測 定し、 過敏性あるいは鈍麻について評価する。
今回、 感覚神経線維を Aβ線維、 Aδ線維、 C 線維 のそれぞれに分けて、 無侵襲で感覚機能を定量評価で きるニューロメーターを用い、 スモン検診受検患者の
感覚神経機能評価を行った。
B. 研究方法
対象は、 今年度のスモン検診受検患者のうち女性 5 名 (62, 73, 76, 79, 86 歳)。 正中、 尺骨、 腓骨、 およ び 腓 腹 神 経 に 、 ニ ュ ー ロ メ ー タ ー を 用 い 2,000 Hz、
250 Hz、 5 Hz の 3 種類のサイン波形刺激を与え、 それ ぞれの周波数に対応する Aβ、 Aδ、 C 線維で、 電流 知覚閾値 (current perception threshold;CPT) を測 定し、 過敏性あるいは鈍麻について評価した。
C. 研究結果
患 者 背 景 を 示 す (表 1)。 患 者 5 名 は い ず れ も 発 症 40-50 年を経過していた。 最下段は、 現在の下肢の痛
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スモン患者におけるニューロメーターを用いた感覚神経機能の解析
吉良 潤一 (九州大学医学研究院神経内科学) 山口 浩雄 (九州大学医学研究院神経内科学) 藤井 敬之 (九州大学医学研究院神経内科学)
研究要旨
スモン患者の日常生活動作に今なお障害を与える慢性のしびれ感や慢性痛などの感覚神経 機能障害を定量的に評価するため、 ニューロメーターを用いた評価を行った。 その結果、 ス モン患者 5 名のうち 4 名で、 感覚神経の電流知覚閾値の異常を認めた。 現在自覚的な痛みの ない者にも電流知覚閾値の異常を認めたことより、 ニューロメーターはスモン患者における 潜在的な感覚神経障害の評価に有用であると考えられた。
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表 1 患者背景み の 程 度 の 自 己 評 価 で あ る (0-10 点 、 10 点 が 最 も 強 い痛みのスコア)。 現在でも ADL 低下の強い 1 番の患 者は、 軽度の痛みスコア 2 であった。 歩行がほぼ正常 の 3 番の患者は、 痛みスコア 5 であった。 4 番の患者 は、 中等度の ADL の低下を認め、 痛みスコアは 3 で あった。 また、 5 番の患者はまったく自覚的な痛みは なかった。
上肢ニューロメーターの結果を示す (図 1)。 現在 でも ADL 低下の強い 1 番の患者は、 5 Hz 刺激で、 正 常上限を上回る増加を認めた。 残り 4 名については、
上肢 CPT 値はすべて正常範囲内であった。
下肢ニューロメーターの結果を示す (図 2)。 現在 でも ADL 低下の強い 1 番の患者は 下肢では、 2,000 Hz、 250 Hz、 5 Hz 刺激すべてで CPT 値の正常上限を 上回る増加を認めた。 残り 4 名については、 現在でも 中 等 度 ADL が 障 害 さ れ て い る 4 番 の 患 者 で 、 2,000
Hz 刺激で CPT 値の正常上限を上回る増加を認めた。
また 、 現在痛みの自覚症状のない 5 番の患者で、 250 Hz、 5 Hz 刺激で CPT 値の正常下限を下回る低下を 認めた。 また、 この 4 名では 250 Hz、 5 Hz 刺激で CPT 値は、 正常平均を下回る傾向であった。
D. 考察
これまでに行われたスモン患者における末梢神経障 害の評価として、 神経伝導検査がある。 藤原らは、 慢 性後遺症化したスモン患者を対象に、 神経伝導検査を 行い、 末梢神経障害の頻度、 程度について評価を行っ て い る2)。 そ れ に よ る と 、 重 症 群 に お け る 腓 腹 神 経 SCV 平 均 値 は 、 50.6 m/s で 、 軽 症 群 の 57.0 m/s に 対 し 、 有 意 の 低 下 が 見 ら れ た 。 ま た 、 腓 腹 神 経 SNAP 平 均 値 は 、 有 意 差 は 見 ら れ な か っ た が 、 軽 症 群 13.0 μV、 中等症群 9.8μV、 重症群 7.0μV で、 症状の重 い者ほど低値の傾向がみられた。 しかし、 重症群の腓 腹神経 SCV 平均値、 SNAP 平均値ともに正常平均値 を軽度下回る程度であった。 同報告で、 神経伝導検査 異常所見の出現頻度については、 重症群で高頻度に出 現する傾向があったが、 腓腹神経の異常所見の出現頻 度は低値であった。 また、 スモン発症後早期と比較し て、 異常所見の出現頻度は有意に低下していた。
スモン患者における末梢神経障害の評価として、 ニュー ロメーターを用いた報告が検索した限り 1 例みられた。
鈴木らの報告では、 スモン患者では、 対照と比較し、
下肢で 2,000 Hz、 250 Hz いずれのサイン波形刺激にお いても CPT 平均値の有意な増加を認めた3)。 筆者らは、
2,000 Hz、 250 Hz 刺激における CPT 値の増加は、 スモ ンにおける大径線維の減少が関与していると考察して いる。 また、 同報告で、 スモン患者では、 対照と比較 し、 下肢で 5 Hz サイン波形刺激において CPT 平均値 の 有 意 な 低 下 を 認 め た 。 筆 者 ら は 、 5 Hz 刺 激 に お け る CPT 値 の 低 下 は 、 末 梢 か ら の 痛 み を gate control する後根神経節の障害と関与していると考察している。
私たちの結果では、 現在でも ADL 低下の強い 1 名 は、 上肢において 5 Hz 刺激で、 下肢では、 2,000 Hz、
250 Hz、 5 Hz 刺 激 す べ て で CPT 値 の 正 常 上 限 を 上 回 る増加を認めた。 この結果は、 この患者では大径線維、
小径線維ともに障害が強いことを示唆する。 残り 4 名
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2,000Hz 250Hz 5Hz
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図 1 電流知覚閾値 (current perception threshold;CPT)
2,000Hz 250Hz 5Hz
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図 2 電流知覚閾値 (current perception threshold;CPT)
について、 現在でも ADL が中等度低下している 1 名 で 、 2,000 Hz 刺 激 で CPT 値 の 正 常 上 限 を 上 回 る 増 加 を認めた。 また、 現在痛みの自覚症状のない 1 名で、
250 Hz、 5 Hz 刺 激 で CPT 値 の 正 常 下 限 を 下 回 る 低 下 を 認 め た 。 こ の 4 名 で は 、 250 Hz、 5 Hz 刺 激 で CPT 値は、 正常平均を下回る傾向であった。 これらの結果 は、 この 4 名では、 大径線維の障害と、 小径線維の過 敏性があることを示唆する。
E. 結論
スモン患者におけるニューロメーターを用いた感覚 神経機能の解析により、 スモン患者 5 名のうち 4 名で、
感覚神経の CPT の異常を認めた。 CPT 異常値は、 現 在の ADL の程度や感覚障害の程度とやや関連を示し たが、 現在の自覚的な痛みの程度とはあまり関連を認 めなかった。 現在自覚的な痛みのない者にも CPT の 異常を認めたことより、 ニューロメーターはスモン患 者における潜在的な感覚神経障害の評価に有用である と考えられる。
G. 研究発表 なし
H. 知的財産権の出願・登録状況 なし
I. 文献
1 ) 小 長 谷 正 明 : ス モ ン キ ノ ホ ル ム 薬 害 と 現 状 . Brain Nerve. 2015;67(1):49-62.
2 ) 藤原哲司, 福井一郎, 瀬古 敬:SMON 後遺症に おける末梢神経障害の電気生理学的研究. 臨床神経 学. 1982;22(7):608-615.
3 ) Suzuki Y, Ogawa K, Shiota H, et al.: Current per- ception threshold in subacute myelo-optico-neuro- pathy. Int J Neurosci. 2010; 120 (5): 368-71.