大学生の読書動機の分析
著者 平山 祐一郎
雑誌名 東京家政大学研究紀要 1 人文社会科学
巻 45
ページ 117‑122
発行年 2005
出版者 東京家政大学
URL http://id.nii.ac.jp/1653/00009169/
大学生の読書動機の分析
平山 祐一郎
(Received on September 30,2004)
An Investigation of
University Students Motivation of Reading
HIRAYAMA, Yuichiro
(Received on September 30,2004)
キーワード:大学生,読書動機,因子分析
Key words:university students, motivation of reading, factor analysis
目 的
大学生はどのような動機を持って本を読んでいるので あろうか.平山(2004a)は,読書量の多い大学生と少な い大学生を比較して,「本をよく読む学生の読書の目的 は,まさに読書をすることにあった.一方,本をあまり よく読まない学生の読書の目的は,読書以外の何らかの ものの達成である.すなわち学力や教養,知性の向上の 手段という意識があるようである.」(p.124)と述べてい る.本を良く読む学生は,読書が習慣化していると言え よう.習慣による行動は,一連の行動が1っ1っ目的的 であるわけではなく,自動的であることが特徴と言える.
一方,あまり本を読むことのない学生が,あえて読書を しようとする場合,行為そのものに明確な理由が必要に なる.したがって,読書のための読書ではなく,知識や 学力,教養や知性の獲得という,読書そのものではない 読書の動機を持っことになるのだろう.
この考え方は大学生の読書行動を検討する際の1つの 視点になりうるが,数問の質問項目への回答結果から導 いた予測にすぎない.読書動機をなるべく広い視点から 捉える作業が必要である.そこで本研究では,大学生の 読書動機を包括的に捉えることを試みる.
方 法 調査対象
首都圏の女子大学生221名.
教育心理学研究室
調査時期 2004年7月 質問紙
読書動機を捉えるために作成された67項目からなる質 問紙を用いた.質問項目の作成は2っのソースに基づく.
1っは筆者が大学生から収集したものである.「なぜ 本を読むのか」をインタビューあるいは自由記述により 問い,回答を得た.
もう1っは,市川・堀野・久保(1998)の学習動機の 2要因モデル(p.192)と学習動機を測定する質問項目
(p.193)を参照し,読書用に内容や表現を変更したもの
である.
回答方法
回答は全て6段階評定であった.「非常にあてはまる」
を6,「わりとあてはまる」を5,「ややあてはまる」を 4,「あまりあてはまらない」を3,「ほとんどあてはま らない」を2,「まったくあてはまらない」を1とした.
手続き
質問紙の配布・実施・回収などの全ての手続きを調査 者が行った.教示は「アンケートにご協力をお願いいた します.研究目的の調査です.成績等には一切関係しま せん.無記名ですので,このデータが論文等で発表され る場合でも,氏名はもちろん大学名等も明らかになりま せん.安心して正直にお答えください.」とした.無記 名としたのは,社会的望ましさの影響を排除するためで ある.なお調査の実施にあたり,回答者に調査の主旨を 理解してもらうよう努めた.協力の要請とともに,質問 紙への回答は強制的なものではないことも伝えた.
平山 祐一郎
結 果
221名の調査対象者の中で,回答方法に誤りがあった 1名の回答を除いたため,220名が分析対象となった.
回答の誤りとは,複数回答や無回答のことである.
表1−1・2にっいて
67の質問項目の平均値および標準偏差を,表1−1・
2に示した.なお,全て最小値1,最大値6であった.
表2にっいて
67の質問項目をいくっかのまとまりで抽象化して把 握するために因子分析を採用した.
まず,天井効果と床効果が疑われる項目を除外した.
具体的には,平均値+標準偏差が6を超える2項目,平 均値一標準偏差が1を下回る5項目の計7項目を外した.
60項目に対して,因子分析を実施した.因子抽出法 は重み付けのない最小2乗法,回転法はプロマックス回 転を用いた.因子数の決定にあたっては,固有値(スク
リープロット)を参考に,また市川ら(1998)の充実,
訓練,実用,関係,自尊,報酬の志向6っを参照し,解 釈可能性も考慮して4っとした.
項目は負荷量0.35を削除基準として,また複数の因 子に対して高い負荷量を示す項目も削除対象として分析 を繰り返した.その結果,10項目が削除された.
50項目が4つの因子に分けられた,第1因子は21項 目,第ll因子は12項目,第皿因子は9項目,第IV因子 は8項目となった(表2),
因子間相関は表3のようになった.
表1−1 質問項目と平均値および標準偏差
1私が本を読むのは、いろいろな知識を得るためだ。
2私が本を読むのは、気持ちを落ち着かせるためだ。
3私が本を読むのは、言葉の表現力がつくからだ。
4私が本を読むのは、好きな作家がいるからだ。
5私が本を読むのは、(その本が)友達の間で話題になっているからだ。
6私が本を読むのは、自分の悩みの解決に役立てたいからだ。
7私が本を読むのは、いろいろな考え方を知るためだ。
8私が本を読むのは、読み終わったあとの充実感があるからだ。
9私が本を読むのは、日本あるいは世界の歴史に興味があるからだ。
10私が本を読むのは、読んだことを将来の仕事に活かしたいからだ。
11私が本を読むのは、まわりから尊敬されたいからだ。
12私が本を読むのは、レポートや試験のためだ。
13私が本を読むのは、感動したいからだ。
14私が本を読むのは、一人で静かに過ごしたいからだ。
15私が本を読むのは、漢字の読み書きに強くなりたいからだ。
16私が本を読むのは、心を豊かにするためだ。
17私が本を読むのは、社会のしくみや社会の動きに興味があるからだ。
18私が本を読むのは、自分の知らないことを知りたいからだ。
19私が本を読むのは、あれこれと想像することが好きだからだ。
20私が本を読むのは、本を読む以外とりあえずやることがないからだ。
21私が本を読むのは、のんびりくっろぎたいからだ。
22私が本を読むのは、(その本が)自分の趣味に関連した本だからだ。
23私が本を読むのは、人間として成長したいからだ。
24私が本を読むのは、本の世界が好きだからだ。
25私が本を読むのは、世界の状況や動きに興味があるからだ。
26私が本を読むのは、読み終わったあとに元気が出るからだ。
27私が本を読むのは、時間をむだにしたくないからだ。
28私が本を読むのは、読書をすると頭がさえるからだ。
29私が本を読むのは、集中力がつくからだ。
30私が本を読むのは、読み終わったあとに満足感があるからだ。
31私が本を読むのは、読書を楽しみたいからだ。
32私が本を読むのは、頭の訓練のためだ。
33私が本を読むのは、人の生き方や人生に興味があるからだ。
34私が本を読むのは、(その本が)映画やドラマの原作だからだ
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表1−2 質問項目と平均値および標準偏差
番号 項目
35私が本を読むのは、(その本が)世間で評判になっているからだ。
36私が本を読むのは、読み終わったあとに達成感があるからだ。
37私が本を読むのは、物語を楽しむためだ。
38私が本を読むのは、眠れないときがあるためだ。
39私が本を読むのは、読書が習慣だからだ。
40私が本を読むのは、登場人物に感情移入したいからだ。
41私が本を読むのは、自分自身にっいてあれこれ考えを深めるためだ。
42私が本を読むのは、一般常識をっけるためだ。
43私が本を読むのは、視野を広げるためだ。
44私が本を読むのは、好きな本のジャンルがあるからだ。
45私が本を読むのは、気分転換をするためだ。
46私が本を読むのは、何かを調べるためだ。
47私が本を読むのは、悲しい時にいやされたいからだ。
48私が本を読むのは、心にゆとりを持っためだ。
49私が本を読むのは、文章の書き方を学ぶためだ。
50私が本を読むのは、物知りになりたいからだ。
51私が本を読むのは、日常の問題解決に役立てるためだ。
52私が本を読むのは、「活字」が好きだからだ。
53私が本を読むのは、現実から逃避できるからだ。
54私が本を読むのは、(その本が)話題になっているからだ。
55私が本を読むのは、(その本が)自分の専門に関係しているからだ。
56私が本を読むのは、読解力をっけるためだ。
57私が本を読むのは、嫌なことを忘れるためだ。
58私が本を読むのは、読書で疑似体験ができるからだ。
59私が本を読むのは、語い(ボキャブラリー)を豊かにするためだ。
60私が本を読むのは、人から読むようにすすめられるからだ。
61私が本を読むのは、自分を見つめなおすためだ。
62私が本を読むのは、リラックスするためだ。
63私が本を読むのは、面白い話が知りたいからだ。
64私が本を読むのは、本から良い影響を受けたいからだ。
65私が本を読むのは、会話の材料(ネタ)になるからだ。
66私が本を読むのは、名作と言われるものを読んでみたいからだ。
67私が本を読むのは、読書が趣味であるからだ。
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平山 祐一郎
表2 因子分析結果
番号 項目 31読書を〉くしみたいからだ。
30読み終わったあとに満足感があるからだ。
24本の世界が好きだからだ。
19あれこれと想像することが好きだからだ。
8読み終わったあとの充実感があるからだ。
14一人で静かに過ごしたいからだ。
21のんびりくつろぎたいからだ。
67読書が趣味であるからだ。
36読み終わったあとに達成感があるからだ。
62リラックスするためだ。
44好きな本のジャンルがあるからだ。
58読書で疑似体験ができるからだ。
40登場人物に感情移入したいからだ。
26読み終わったあとに元気が出るからだ。
4好きな作家がいるからだ。
45気分転換をするためだ。
57嫌なことを忘れるためだ。
63面白い話が知りたいからだ。
53現実から逃避できるからだ。
2気持ちを落ち着かせるためだ。
47悲しい時にいやされたいからだ。
6自分の悩みの解決に役立てたいからだ。
61自分を見っめなおすためだ。
7いろいろな考え方を知るためだ。
10読んだことを将来の仕事に活かしたいからだ。
41自分自身にっいてあれこれ考えを深めるためだ。
23人間として成長したいからだ。
33人の生き方や人生に興味があるからだ。
51日常の問題解決に役立てるためだ。
1いろいろな知識を得るためだ。
64本から良い影響を受けたいからだ。
16心を豊かにするためだ。
18自分の知らないことを知りたいからだ。
56読解力をっけるためだ。
59語い(ボキャブラリー)を豊かにするためだ。
49文章の書き方を学ぶためだ。
15漢字の読み書きに強くなりたいからだ。
50物知りになりたいからだ。
32頭の訓練のためだ。
3言葉の表現力がっくからだ。
42一般常識をっけるためだ。
29集中力がつくからだ。
54(その本が)話題になっているからだ。
35(その本が)世間で評判になっているからだ。
34(その本が)映画やドラマの原作だからだ。
5(その本が)友達の間で話題になっているからだ。
12レポートや試験のためだ。
46何かを調べるためだ。
60人から読むようにすすめられるからだ。
66名作と言われるものを読んでみたいからだ
第1因子第ll因子第皿因子第IV因子
※項目は「私が本を読むのは、」を省略して表示した。
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因子 1 2 3
り白34 .44
.28
−,12
4n乙
FDO
一.07
考 察
本研究は大学生の読書動機を分析し,より包括的に把 握することを目的としている.したがって,因子分析の 結果に対して考察を加えたい.
まず,21項目からなる第1因子について考えてみたい.
負荷量の高い項目は「読書を楽しみたいからだ.」(31),
「読み終わったあとに満足感があるからだ.」(30),「本 の世界が好きだからだ.」(24),「あれこれと想像するこ とが好きだからだ.」(19)などである.読書本来の楽し みや魅力を示す項目である.一方,負荷量の低い項目は
「現実から逃避できるからだ.」(53),「気持ちを落ち着 かせるためだ.」(2),「悲しい時にいやされたいからだ.」
(47)などである.心の防衛や安定に関するものである.
そこでこの因子は「娯楽休養」読書動機(reading for recreation)とした.なお,この因子は娯楽と休養の2っ の要素で構成されているように見えるが,娯楽性がある からこそ休養にもなると考えられるので,因子としての 一体性は問題がないと言えよう.
次に,12項目からなる第ll因子である.負荷量の高 い項目は「自分の悩みの解決に役立てたいからだ.」(6),
「自分を見っめなおすたあだ.」(61),「いろいろな考え 方を知るためだ.」(7),「読んだことを将来の仕事に活 かしたいからだ.」(10)などであった.また負荷量の低 い因子も,「本から良い影響を受けたいからだ.」(64),
「心を豊かにするためだ.」(16),「自分の知らないこと を知りたいからだ.」(18)といったものである,全体を 見ても,自分の人生を考えて,精神や思考を鍛えるとい
う意味合いがある.そこでこの因子は,「錬磨形成」読 書動機(reading for self cultivation)とした.
そして,9項目からなる第皿因子である.読解力,語 彙,文章の書き方,漢字の読み書き,言葉の表現力など に関するものであった.そこでこの因子は,「言語技能」
読書動機(reading for linguistic skills)とした.も ちろん「集中力がっくからだ.」(29),「頭の訓練のため だ.」(32),「一般常識をっけるためだ.」(42),「物知り になりたいからだ.」(50)は言語技能そのものではない.
けれども言葉を知ることは,一般常識をっけることでも あり,物知りになることでもある.また言葉を磨くため には,集中力が必要であるし,それは頭の訓練ともなる だろう.これら4項目はこの因子の内容的な妥当性を揺 るがすものではない,しかしながら,この因子の位置付 けについては今後の吟味・検討が必要であり,読書動機 を把握する下位尺度として運用する場合は注意が必要と
なろう.
最後に第IV因子である.負荷量の高い項目は「(その 本が)話題になっているからだ.」(54),「(その本が)
世間で評判になっているからだ.」(35),「(その本が)
映画やドラマの原作だからだ.」(34),「(その本が)友 達の間で話題になっているからだ.」(5)であった.自分 の周囲での注目,という共通項がある.一方,負荷量の 低い項目の「レポートや試験のためだ.」(12),「何かを 調べるためだ.」(46),「人から読むようにすすめられる からだ.」(60)は,何かの影響で結局読むことになった,
という含意がある.そこでこの因子は「影響触発」読書 動機(influenced reading)とした.「名作と言われるも のを読んでみたいからだ.」(66)という項目も「名作」
ということばに「良い作品,読むべき作品」という意味 を読み取れば,この因子に含まれることに問題はないだ
ろう.
学
習 大
内(重視)
△unV容の
重 小 要(軽視)
性
i充実志向ii訓練志向il実用志向i
i関係志向ii自尊志向 報酬志向i
小(軽視) ⇔ ⇒ 大(重視)
学習の功利性
図1 学習動機の2要因モデル(市川ら,1998)
まとめ
市川ら(1998)は,図1のような学習動機の2要因モ デルを提案している.学習動機を6つの志向に分類し,
学習内容の重要性(縦軸)と学習の功利性(横軸)の2要
平山 祐一郎
因で構造化したものである.
学習内容を重視し,学習の功利性を軽視したものが,
充実志向(例:「学ぶことがとにかく楽しい.」)である.
功利性が中程度であれば,訓練志向(例:「頭のはたら きをよくしたい.」)である.功利性を重視するならば,
実用志向(例:「仕事や生活に役立てたい.」)である.
学習内容を軽視し,学習の功利性も軽視したものが,
関係志向(例:「まわりの人も勉強しているから.」)で ある.功利性が中程度であれば,自尊志向(例:「他の 人より優れていたいから.」)である.功利性を重視する ならば,報酬志向(例:「成績が良いとごほうびがある
から.」)である.
これは大学生の読書動機を分類する上でも非常に示唆 的な枠組みである.もちろん「報酬志向」は大学生の読 書動機として考えにくい.それ以外の5つの志向は読書 動機の有力な因子候補である.
では,学習の2要因モデルの6志向と今回の読書動機 の4因子はどのように対応するだろうか.
まず「娯楽休養」読書動機である.これは充実志向と の対応度が高い.ただし,娯楽よりも休養に注目すると,
実用志向的である,と言うこともできる.
続いて「錬磨形成」読書動機である.充実・訓練・実 用の各志向との対応が考えられるが,この因子を構成す る一連の項目からは,読書ならではのニュアンス,あえ ていえば,「精神修養性」を見ることができる.
そして,「言語技能」読書動機と「影響触発」読書動 機は,それぞれ訓練志向,関係志向と対応度が高い.学 習動機と読書動機での微妙の差異があるが,今のところ,
ほぼ訓練志向と関係志向の読書版と見て良いだろう.
引用文献
平山祐一郎 2004a 大学生の読書量の分析 東京家政 大学研究紀要,44(1),117−125.
平山祐一郎 2004b 時間の利用状況からみた大学生読 者の類型化の試み 東京家政大学附属臨床相談センタ ー紀要,4,31−43.
市川伸一・堀野緑・久保信子 1998 学習方法を支える 学習観と学習動機 市川伸一(編著) 認知カウンセ リングから見た学習方法の相談と指導 ブレーン出版
Pp.186−203.
Abstract
The purpose of this study was to investigate the reading motivations of university students.
The subj ects were 221 female university students fヒom Tokyo and the vicinity. They were asked to exclude their magazine, comic book and school textbook reading when responding to the questionnaire. They read 67 sentences and indicated their disagreement or agreement, on a scale of l to 6, with the content of these statements. Typical sample sentences included: I read books in order to enjoy them. and I read books in order to solve my problems. Afactor analysis was conducted on the responses to the sentences, and the fbllowing 4 factors were identified;
reading fbr recreation, reading fbr self cultivation, reading fbr linguistic skills and influenced reading.