敬語の誤用法と過剰敬語の一考察
著者 矢田 裕士
雑誌名 英語英文学研究
巻 2
ページ 95‑108
発行年 1996‑10
出版者 東京家政大学文学部英語英文学科
URL http://id.nii.ac.jp/1653/00009595/
敬語の誤用法と過剰敬語の一考察
矢 田 裕 士
序論
敬語の使い方の過不足、程度、度合は「話題の人・話題の主に係わる事 物・事柄」と「聞き手」と「話し手」の3者間における身分・地位・年齢・
性別・親疎や社会的・心理的距離など様々な社会言語学また言語心理学で 考察されるような諸要素が複雑多岐に交錯した人間関係にあって、その使 い方が適切であるか否かが決定される。
日本語の敬語の正しい使い方が母国語話者にとっても難しい原因はいく つか考えられるが、ひとつには敬語を使用した文が「聞き手」に向けられ る敬語の表現と「話題の主や話題の主に係わる事物・事柄」に向けられる 敬意の表現とが、巧妙に二重構造をなして敬語用法全体が重構造化されて いることに起因すると考えられる。また他の要因としては、現代社会にお ける対人関係の複雑化や、核家族化した現代の家庭で育つ若者については、
戦前の大家族制度時代のように年輩者による、きちんとした敬語の使用場 面に頻繁に接する機会が極端に減り、敬語そのものがごく自然な状況下で 継承されない言語使用環境におかれていることなどが挙げられる。また、
ますます増加の一歩を辿っている帰国子女や異文化圏からの来訪者などの
存在を考えると、敬語の正しい使用はますます困難になってくると予想さ
れる。大石初太郎氏は「話しことば論」の中で敬語の乱れの要因は次の2
点にあると述べている。(1)場に応じた敬語使用の妥当性のくずれ(2)個々 の敬語表現形式のくずれ・用法の誤り。他方、辻村敏樹氏は『現代の敬語 講座』 「正しい日本語」第6巻の中で、敬語の乱れの一因は「社会的秩序」
や「社会的関係」という観点からよりは、むしろ場面的把握の相違に起因 することが多いと指摘している。
正しい敬語用法とはいったいどのようなものであろうか。敬語と言えど も生きた言語である日本語・日本文化に深く根ざした言語実態の自然な一 側面であるから、他の言語現象と同様、絶対的な規範を示すことはできな いと考えられる。しかし、特殊な事情のない限り、あらゆる言語変化は緩 慢なものであるから、つい最近まで正用法として認められてきた敬語法か ら逸脱したもの、あるいは慣用法から、はなはだしくはみ出した用法は誤 用法であると言わざるを得ないであろう。この小論では敬語の誤用法、な
らびに誤用法とは断定することはできないが、敬語の過剰使用、二重敬語 の構造に焦点をあてて論を進めることにする。
[1]敬語の分類と構造
敬語の誤用法・過剰使用の構造について論ずる前に、論拠の前提となる 敬語の分類、構造について概観する必要がある。伝統的な日本語文法によ る敬語の分類法では通例、敬語は次の3つに区分されている。
ユ.尊敬語一一一話題の対象となる人やその人自身の行為・性質・状態および その人に所属する物・事、またその人に対する行為などに関して、話 し手(書き手)の敬意を含ませた表現。 「お〜になる」 「〜られる」
などの話題・登場人物に対する敬語。
(例)来る→いらっしゃる。食べる→召しあがる。着る→めす。
言う→おっしゃる。する→なさる。
2.謙譲語一一一話し手(書き手)が、話題となる自分自身および自身の側に
属する物・事・行為・状態・動作を、聞き手あるいは話題の人に敬意 を表するために卑下・謙譲を含ませて表現する語(句)。
(例)見る→拝見する。行く→伺う、参る。言う→申し上げる。
する→いたす。食べる→いただく。
3.丁寧語一一一話し手(書き手)が、聞き手(読み手)に対して特別の配慮 をもって、直接の敬意を表すのに用いられる語。
(例)「ます、です、ございます、侍り、候う」の類の相手敬語。
この分類をもう少し細分化して、上記の3種に加えて、次の2種をも広 義の敬語として扱って分類しているものもある。
4.美化語一一一自分の言葉を上品、きれいに飾る語用法で、名詞や形容詞・
形容動詞などの前に「お〜/ご〜」を付して、話者のことば遣いを上 品に、またはきれいにする場合、すなわち聞き手や話題の人に対する 敬意を表す意識が皆無とは言い難いが、主眼は自分自身のことば遣い を美しくすることにある。丁寧語に分類されるものと重なる部分も多い。
(例)お住まい、お天気、お弁当、お茶(お茶は美化語として一般的 に受け入れられているが、おコーヒー、お紅茶となるとややな じまない)おいしい(「美味」の意の「いしい」に「お」を付 加した、室町時代以降に使われだした)、おせち、ごはん、ごち そう。
5.改まった言い方一一日常的な口語表現法に対して、かしこまったよそい きのことば遣い。一般的には和語よりも漢語を使う方が改まった言い 方になることが多いとされる。これも美化語と同様、丁寧語表現と重 複するものが多い。
(例)ただ今、本日、昨日、小生、拙宅、(ご)来賓、(ご)臨席
伝統的分類法に従った3種類の敬語の実際の使用にあたっては、身分・
年齢・性別・親疎の程度などの社会的・心理的制約が巧みに絡み合ってく る。敬語が実際に使用されている場面を考えてみると、この社会的制約の 他、貸し方、借り方や、やりもらいの関係、厚遇、冷遇、敵味方などの各 種の複雑な人間関係や心理関係から発する待遇の表現を広く含むものでは あるが、敬語の構造と社会場面(social context)とは、文化庁発行の「こ とば」シリーズ1所収(大石初太郎「敬語の仕組み」p.30)を下敷きにし て多少の修正を加えて図式化するとおおよそ次のような関係表になると思
われる。
「話題の人」をAとし、「聞き手く読み手)」をBとし、「話し手く書き 手)」をC(Aとなる場合もある)との社会的身分、地位などの関係が上 位の場合を表の中では(+superiority)と、また対等または下位の場合を
(−superiority)とする。φ記号は無敬語を示す。
「敬語使用関係表」
A
b題の人
B キき手
i読み手)
C
bし手(書き手)の言 t遣い
1.+super. 十super.
尊敬語+丁寧語
2.+super。 一super・
尊敬語+φ
3.−super. 十super.
(a)φ+丁寧語
(b)謙譲語+丁寧語
4.−super. 一super・(a)φ+φ
(b)謙譲語+φ φ+丁寧語 5.話題の人
@なしの場合
十super.
│super. φ+φ
現実のコミュニケーション場面での敬語の使用にあたっては、言語的表 現のみならず、言語表現をする際に無意識的に付随する非言語的メッセー ジ(うなづき、目線、顔の表情、身振りなどのジェスチャー、対話距離・
空間、心理的緊張・弛緩、音調・ストレスなどの音声面)なども微妙に影 響しあっているので、単純に言語的に敬語の誤用法であるとは断定できな い場合も多い。従って、この「敬語使用関係表」だけで、すべての敬語用例・
用法を処理することはとうてい不可能であるが、おおよその敬語用法は上 記の表の関係を敬語用法場面に適応すれば、おおまかな正誤の基準となる と思われる。この基準は特に、日本語や朝鮮語のような敬語体系を持たな い欧米からの日本語学習者に対しては有益であると思われる。
しかしこの表は話題の人、聞き手(読み手)及び話し手(書き手)の3 者間における社会的・人間関係を表層的なレベルで把握するには極めて有 効であるが、その他、敬語分類をした各項目に属す語要素を理解できなけ れば、最終的な統語上の正否は判定できない。実生活上の敬語の誤用法・
過剰敬語の現れを観察してみると、おおざっぱに言って、その原因は上に 示した関係表の社会的状況(social context)の把握ができていないことに よる他、言語形式の中に含まれるいくつかの言語諸要素が種々の統語上の 制約を受けているにもかかわらず、それらに違反していることに気づかな いことに起因しているからである。誤用法・過剰敬語の分析をする前に、
それぞれの類に属する敬語要素を南不二男『現代日本語の構造』(1974)に 従って以下に列挙する。
(1)尊敬語
(a)動詞そのもの一一一あがる(=食べる)/いらっしやる/おっしゃる/
くださる/召し上がる/めす(=着る)/ご覧(になる)など
(b)動詞につく助動詞(接辞)… 「〜(ら)れる」
(c)動詞的連語(Verbal Collocation)… 「お〜になる」お書きになる/
おやすみになる;「ご〜になる」ご心配になる/ご到着になる;「お〜
なさる」お受けなさる;「ご〜なさる」ご勉強なさる/ご精をだされ る
(d)形容詞・形容動詞一一一「お〜」お美しい/お静かだ;「ご〜」ご熱心だ /ご立派だ
(e)副詞…「ご〜」ごゆっくり/ごさっぱり
(f)代名詞(人の呼び方など)一一一あなた/あのかた/このかた/そのか た/どなた/おたく/貴殿/貴兄/貴姉/大兄
(g)接頭辞的・接尾辞的な要素がついたもの:〜さん/〜様/〜殿/〜先 生/お〜
(h)(官・役)職名・称号など… 「〜社長」 「〜部長・課長」 「〜教授・先
生」 「〜博士」 「〜王・王妃・皇太子・王子」:田中社長/植木部長・
課長/小島博士/チャールズ王・皇太子・王子
(i)その他:接頭辞と接尾辞が同時についたもの一一一「お〜さん」 「お〜さ
ま」:お父さん/お兄さま/お父上
(2)謙言嚢言吾
(a)動作そのもの(人の動作を表す言い方)…「〜あげる」 「〜いたす」
「〜いただく」 「〜さしあげる」 「〜まいる」 「〜もうす」 「〜もう
しあげる」 「拝(見、読、借)する」
(b)動詞的連語一一一「お〜する」お見せする;「ご〜する」ご通知する;「お
〜いたす」 「お〜いたします」 「お(ご)〜いただく」 「〜ていただ
く」 「〜てあげる」 「〜てさしあげる」 「お〜もうす(しあげる)」(c)代名詞的語(人の呼び方)一一一わたし/わたくし/わたくしども/小 生/てまえども
(d)人に属する物、事の呼び方一一一「愚〜」愚見/愚作/愚妻/愚息/愚
弟;「小〜」小社/小店/小著/小姓;「拙〜」拙宅;拙著;「幣〜」弊
社/幣店、豚児など。この類には接頭辞的な要素を付加して謙譲を示
すものがある。
(3)丁寧語
(a)助動詞一一一「〜です/〜ます」
(b)動詞一一一「〜(で)ございます」 「〜てまいります」 「〜ております」
「〜といたします」「〜と存じます」「〜と申します」
(c)代名詞一一一あちら(あっち);こちら(こっち);そちら(そっち);ど
ちら(どっち);いかが(どう)
(4)美化語;自立語の類一一「いただく(食べる)」「食べる (喰う)」「ごはん (めし)」「お手洗い(便所)」
接頭辞の類としては「お〜」おつとめ/おやすみ;「ご〜」ごちそう/
ご足労/ご苦労様/ごほうびなどが挙げられる。
[II]敬語の誤用法
敬語関係表と敬語要素分類を参照しながら以下いくつかの文を分析して
みたい。以下(*)は敬語用法としては不適格な文、(??)はやや不適格な文、(?)は正しい語法ではないが、よく耳目に接する表現で(??)よりは程度 がひどくないものを示す。
(a−1) *先生が来た。
(a−2) 先生がいらっしゃった。
(a−3)??先生がいらっしゃられました。
まず、(a−1)は主語である「先生」が尊敬語であるにもかかわらず、述 語部分がそれに一致していないので適切な表現とはいえない。特に聞き手 が+super.ならば当然(〜いらっしゃいました)となる。(a−3)については
「いらっしゃる」と「〜られ」という敬語要素が述部に重ねられており、
いわば二重構造の過剰敬語であるので、やや不適格な文となる。このよう
な例をもう一例つけ加えると、
(a−4)??先生がお帰りになられました。
「お〜になる」 「れる」が二重構造の過剰敬語になっているから、やや 不適格な文となる。
(b−1) *ベイカー教授は日本大使になりました。 (教え子の発話)
(b−2) ベイカー教授は日本大使になられました。
(b−3)??ベイカー教授は日本大使におなりになられました。
話題の人が+super.の場合(a−1)と同様(b一ユ)も敬語が使われていないの で、よい文とはいえないことになる。この例が(a−1)と違うところは「来 る」には「いらっしゃる」という動詞の敬語要素があるが、「なる」には それがないために、「〜られ」という接辞(助動詞)を付加しなければな らない点である。(b−3)の文は「お〜なる」+「〜られ」という過剰敬語 であるから不適格な文となる。過剰敬語については、後に議論し要点をま とめることにして、ここでは二重構造の敬語用法を不適格文としておく。
(c−1) *松崎先生は昨年、専門分野の本を書きました。
(c−2) 松崎先生は昨年、専門分野の本をお書きになりました。
(c−3)??松崎先生は昨年、ご専門分野のご本をお書きになられました。
(c−1)では動詞的連語の「お〜になる」という敬語要素を付していないこ とからよい文とはならない。(c−3)の文は文中に「ご」 「お〜なになる」
「〜られ」と3種類の敬語が見られる subject, object, verbに各一つの 敬語で十分であり、次に示すように、その方がすっきりした文になる。
(c−4)松崎先生は昨年ご専門分野の本をお書きになりました。
次に形容動詞を使用した文例をみてみよう。
(d−1)
(d−2)
(d−3)
*佐藤さんは研究に熱心だ。 (佐藤さんは+super.)
佐藤さんは研究にご熱心です。
佐藤さんはご研究にご熱心です。
形容詞・形容動詞も敬語語法の範中に入っているので(d−1)は「ご熱心 だ」とならねばならない。(d−3)の例はobjectに一つ、predicate部分に一 つの敬語が含まれており、少々丁寧すぎる文ではあるが容認される文であ
る。
(e−1)*どうぞ、ごゆっくり休んでください。
(e−2) どうぞ、ごゆっくりお休みください。
(聞き手+super.)
副詞も形容詞、形容動詞と同様尊敬語の対象となりうる語であるから
「ゆっくり」は「ごゆっくり」となり、休むは(c−1)の例と同じく「お休み
〜」となってはじめて正しい敬語を使った文(e−2)となる。
(f−1)*誰がこられたのですか。
(f−2) どなたがこられたのですか。
(f−3)?どなた様がこられたのですか。
(f−1)は代名詞「誰」は普通体であり、尊敬体「どなた」が使われていない
のでは敬語体としては不適格な文となる。(f−3)は時折、女性が口にするの
を耳にすることがあるが、「どなた様」「あなた様」などは過剰敬語とい
うべきであろう。また、時折、学生の母親から「〜先生様、〜教授様」と
いう敬称の封書・葉書を受け取ることがある。また最近、韓国の大学関係
者と会談する機会を得たが、その折りに通訳の韓国人が、我々に対して
「〜教授様」と何度も口にするのを聞いた。韓国語の敬語体系は日本語の それよりも発達していると言われているので、この場合には韓国語では過 剰敬語ではないのかもしれない。また、結婚披露宴などで司会者が「〜社 長様、〜部長様よりご祝辞を賜りたいと存じます」などと言うのを耳にす ることもしばしばある。これらも相手にあまりにも敬意を表しすぎる気持 ちから犯してしまう過剰敬語に類するものである。
(g−1)*私は昨年アメリカからいらっしゃいました。(私=non−Japanese)
(g−2)私は昨年アメリカからまいりました。
(g一ユ)の例では、私がかって日本語を教えていたアメリカ婦人の口から 出た文で、外国人としては、このような敬語の誤りは許されるが、正確に は謙譲語の「まいる」を使うべきである。英語のgo, comeの正用法が初 級英語学習者に難しいのと同様に、日本語の「行く、来る、参る、みえる」
などは外国人には難しい語用法のひとつかもしれない。日本人にとっても 次の例に示すように「まいる」の用法は時として誤って使われることがあ
る。
(h−1) *次はどなたが出てまいりますでしょうか。
(h−2) 次はどなたが出ていらっしゃるでしょうか。
(h−3) ?そろそろまいりましょうか。 (+super.)(話者Cを含めて)
(h−1)では話者は「誰」の代わりに「どなた」と尊敬体を使ったのはよ いが、この文の主体者である「どなた」の動作に謙譲語である「まいる」
を使ってしまったので正しい敬語法とは言えない。(h−3)の文は聞き手B
が+super.であろうとも、話者Cをも含めての動作を表現する文章である
から認められる文であると思うが、Bを中心にした言葉遣いをすると、次
のようになろう。
(h−4)そろそろ、いらっしゃいませんか。
(i−1)*私は証券会社にお勤めしています。
(i−2)??私は証券会社に勤めております。
(i−3) 詳細については追ってお知らせします。
(i−1)の例は私の教え子の女性からよく耳にする文であるが、自分の文を 丁寧にする意味で使っているのであろうが、謙譲語を使うべきときにやは り「お〜する」とするのは正しい用法ではない。(i−3)の例では、やはり
「お〜」が使われているが、「お〜する」は謙譲語では相手に直接関係を 及ぼす行為を言う際には使われるので正しい文となる。(i−2)は美化語の一 種として認めてもよいという論もあるので??とした。
(j一ユ)*おれはあなたに本を差しあげたいと思っています。
(1−2)私はあなたに本を差しあげたいと思っています。
(1−1)は謙譲語の「私」が使われていないので、不適格な文となる。
[III]過剰敬語について
1.尊敬語の「お〜」
尊敬語の「お〜」が転用されて丁寧語になることはよく知られているが、
名詞によっては「お〜」を付加すると適切文とはならない。「NHKの報 道関係用語」では「お〜」の有無について、次のように弁別している。
a.「お〜」が付くもの、また付けてよいもの。
「行事、その他」おめでた、お産、お参り、 (神社などの)お札
「着物」おくるみ、おむつ、おしめ、お古
「食事・食べ物」お酒、お茶、お湯、おつゆ、お菓子、お茶菓子、お 茶うけ、お供え、おでん、おこわ、おだんご、おにぎり、おやつ
(御八は昔の八つ時に食べた間食、現代では「お三時」、現代では
「お」をつけないで使うことはない)
「道具」おぜん、おわん、おはち、おしゃぶり、おしろい、おまる、
おたま、お箸二、お茶碗
「人・その他」おなか、おでき、おしゃれ、おざなり、お化け、おせ っかい、お世辞(元来は世辞の丁寧語であるが、現代 では「世辞」だけで使うことは希となった)
b「お〜」が付かないもの、また付けるとおかしいもの 1.「語形の長いもの」おほうれんそう
2.「外来語」おコーヒー、おケーキ、おフォーク(ナイフ、スプーン)
おウィスキー(日本酒や酒類全体を表す「お酒」は容認)
3.「感じの悪いもの」 おまぬけ(愛情を込めて「お馬鹿さん」は容認)
4.「(お)で始まる語」 お音、お桶、お斧、お帯
5.「動植物名」 お梅(料理番組などで講師が「お大根」ということは あるが、ごぼう、人参、サツマイモ、鮭、鯛、鮪などには絶対につ けないであろう。また子供や女性が美化語として「おいも」という ことはある。
2.「ます、です」の過剰使用
1.*or?どんなに急ぎましても間に合わないでしょう。
2.*or?いい天気ですのに外に出ようとはしません。
3.*or?うちに居ますときはたいてい本を読んでいます。
例文1.2.のように接続詞の中に使われている「ます」 「です」は省いて、
いっこうに差し支えない。むしろそのほうがすっきりした文になる。また
3.のように連体修飾語句中の「ます」も省いたほうがよい。
3.二重敬語
前項でとりあげたように、敬語要素を付加することができるひとつの語
(句)に2種類以上の敬語を使用すると過剰な敬語使用となるといえる。
語句のレベルでは「〜先生様」 「〜社長様」 「おたくさま」 「ご貴殿」を はじめとして、以下に示すように文のレベルでも同様なごどがいえる。
1.*お帰りになられる。
2.*お読みになっていらっしゃる。
文例2.は文例ユ.と文構造が違う。すなわち「読んでいらっしゃる」の
「いる」は補助動詞的なもので独立性が弱いために「読んでいる」全体で 一語のように感じられる。したがって、別々の語に付けられた2つの尊敬 語ではあっても一語に2種類の尊敬語が重ねて使われているのに近い感じ をもたらす。このへんは、どうも割り切れないところでもあるが正用法と
しては「お読みになっている。or読んでいらっしゃる」となろう。
同様に、次の例文のように敬語の二重性構造性に関する制約では説明の つかない例もある。
4.??田中さんは一度お立ちになって、またお座りになりました。
この文の場合は全然別々のふたつの動詞に尊敬語が使われているので、
いわゆる二重敬語とは違うが「〜一度立って、またお座りになりました」
と尊敬語を一つはずしたほうが、よい文になるとする説もある。省略する 尊敬語を後者にして「〜お立ちになって、また座りました」としては、は なはだ不安定な文になってしまう。後置性の言語である日本語では、やは
り前者を省略して敬語を後の動詞に付けるほうが安定した文となる。
「参考文献」
1.林四郎・南不二男編(1973)『現代の敬語』敬語講座(6),明治書院.
2.林四郎・南不二男編(1973)『行動の中の敬語』敬語講座(7).明治書院.
3.林四郎・南不二男編(1974)『敬語研究の方法』敬語講座(9).明治書院.
4.林四郎・南不二男編(ユ974)『敬語用法辞典』敬語講座(lO).明治書院.
5.井出祥子(1986)『日本人とアメリカ人の敬語行動』.南雲堂.
6,南不二男(1970)『敬語』 (岩波新書).岩波書店.
7.南不二男(1974)『現代日本語の構造』.大修館書店.
8.南不二男(ユ986)「日本語の敬語」(日本語講座第一巻『日本語の姿』
金田一春彦編 大修館書店.
9.野元菊雄(1984)『敬語を使いこなす』 (講談社現代新書).講談社.
10.岡本千万太郎(1942)『現代日本語の研究』国語学振興会.白水社.
11.奥津敬一郎(1974)『生成日本文法論』 (名詞句の構造).大修館書店。
ユ2.奥山益郎(1976)『敬語用法辞典』.東京堂出版.
ユ3.時枝誠記(1976)『日本文法』 (口語篇)(岩波全書).岩波書店.