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スーパーハイビジョン用 FPU の研究開発と標準化 濱住啓之 ハイビジョンを大きく超える臨場感を伝えることができるスーパーハイビジョン (4K 8K) の2020 年の本格普及を目指して, 放送設備の研究開発が進められている 本格普及には中継番組の充実が必須であり, 従来からニュース取材や中継番組制

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1.はじめに

ハイビジョンを大きく超える臨場感を持つスーパーハイビジョン(4K・8K)の試験 放送が,2016年8月に放送衛星を用いて開始された。2018年には実用放送の開始が予 定されており,現在,2020年の本格普及を目指して放送設備の研究開発が積極的に行 われている。 放送の無線伝送技術には,衛星放送や地上放送のように,主に一般の家庭向けに番組 を配信する技術と,放送局外の番組制作現場から映像素材や音声素材を放送局まで無 線で伝送する無線素材伝送技術がある。2020年の4K・8Kの本格普及を実現するために は,中継番組の充実が必須であり,衛星放送などの4K・8K化に加えて,無線素材伝送 を4K・8K化する必要がある。 海外における無線素材伝送に関しては,映像や音声を電波により通信衛星経由で 伝送するSNG(Satellite News Gathering)システムが主流であり,地上波を用いる FPUはそれほど多くない。2Kや4K用FPUに関しては,欧州ではDVB(Digital Video Broadcasting)規格に基づく5〜 150Mbps級の伝送容量を有するマイクロ波帯のシス テムが実用化されているものの,200 〜 300Mbps以上の伝送容量を必要とする8K用 FPUの実現に向けた研究開発は世界的に見ても類がない。 わが国においては,災害時の空撮映像等の報道取材やスポーツ中継など,さまざまな 番組制作に用いられている可搬型の無線伝送装置(FPU)は,1図に示すように,放 送局外の番組制作現場から放送局へ生中継を行うためには必須の機材となっている。

スーパーハイビジョン用

FPU の研究開発と標準化

濱住啓之

ハイビジョンを大きく超える臨場感を伝えることができるスーパーハイビジョン(4K・ 8K)の2020年の本格普及を目指して,放送設備の研究開発が進められている。本格 普及には中継番組の充実が必須であり,従来からニュース取材や中継番組制作に用い られている可搬型の無線伝送装置(FPU:Field Pick-up Unit)についても,4K・ 8K化が求められている。このため当所では,4K・8Kの素材伝送にも対応できる次世 代のFPUの研究開発を進めている。特に8K用FPUの実現に向けた研究開発は世界的 に見ても類がなく,当所の研究が先行している。FPUに利用できる電波の周波数帯は, マイクロ波帯,ミリ波帯,1.2GHz / 2.3GHz帯の3通りがあり,電波の性質に応じた 使い分けがなされている。本稿では,従来のハイビジョン(2K)用FPUとその標準規 格を紹介するとともに,スーパーハイビジョン用FPUの実現に向けた研究開発と標準化 の動向を解説する。

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素材伝送に利用できる電波の周波数帯には,マイクロ波帯,ミリ波帯,1.2GHz / 2.3GHz帯の3通りがあり,それぞれの電波の特徴に応じた使い分けがなされている。

電波利用に関する標準化には,大きく分けると次の2つのステップがある。1つ目は 法律に関するものであり,情報通信審議会の審議を経て国の技術基準の策定が行われる。 2つ目は民間の標準規格の策定であり,これは関係する事業者やメーカーが参加する電 波産業会(ARIB:Association of Radio Industries and Businesses)の審議を経て策 定される。 本稿では,マイクロ波帯,ミリ波帯,1.2GHz / 2.3GHz帯の各周波数帯について,従 来の無線素材伝送に関する歴史を紹介するとともに,ハイビジョン用のFPUシステム に関して,国の技術基準やARIBの標準規格に基づいて説明する。さらに,スーパーハ イビジョン(4K・8K)用FPUの実現に向けた研究開発と標準化の動向について述べる。

2.マイクロ波帯の無線素材伝送システム

2.1 開発の歴史と標準規格 マイクロ波帯を利用するFPUの開発の歴史は1970年代に遡る。当時は,FM変調(周 波数変調)を用いてアナログテレジョン信号を伝送する方式(アナログFM方式FPU)1) が実用化され,生中継などに広く利用された。 1990年代になると,ハイビジョンを伝送できるデジタル方式FPUの開発が積極的に 行われた。まず,既存のFM方式FPUを有効に利用して,ハイビジョンを伝送できる 多値FM方式2)が開発され,アダプター形式により実用化された。その後,本格的なハ イビジョンの無線素材伝送ネットワークの実現に向けて,FM方式よりも伝送エリアが 広くマルチパス特性に優れるシングルキャリヤー QAM方式FPU3)が実用化され,ア ナログFM方式や多値FM方式のFPUに代えて全国のFPU基地局に導入された。さら に,移動中継に対するニーズの高まりと装置化技術の進歩を受けてマルチキャリヤーの OFDM方式FPUの研究開発が進められ4),実用化された5) ハイビジョンデジタルFPUに関する標準規格に関しては,まずARIB-STD-B8「テレ ビジョン放送番組素材伝送用多値FM変調方式」の初版が1997年3月に策定され,引き 報道取材等 放送局 FPU基地局 スポーツ等 FPU 1図 放送番組素材の無線伝送システム

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続き1997年6月にはARIB STD-B11「テレビジョン放送番組素材伝送用可搬型マイク ロ波帯デジタル無線伝送システム」の初版が策定された。これらの規格は,ハイビジョ ンデジタルFPUの早期の実用化を目的にシングルキャリヤーデジタル変調方式を用い て策定されたもので,前者では多値FM方式,後者では直交振幅位相変調方式(QPSK, 16QAM, 32QAM, 64QAM)が採用されている。これらの規格はFPUを固定して中継 する条件で各種の設計が行われているが,ヘリコプターからの伝送など,送信側と受信 側で相互にアンテナの方向調整を行う条件の下では,移動伝送も可能な規格となってい る。

その後,本格的な移動中継に対するニーズの高まりと伝送技術の進歩に伴って,伝搬 路に存在する山岳や建物などによる反射波(マルチパス)に強いOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)を用いた方式の規格化が進められ,2002年3月に はARIB STD-B33「テレビジョン放送番組素材伝送用可搬型OFDM方式デジタル無線 伝送システム」が策定された。この規格は,ロードレース中継などの用途が想定されて おり,送信アンテナを無指向性として方向調整を行わないような移動中継も可能な方式 となっている。 1表 マイクロ波帯 FPU に割り当てられている周波数,チャンネル間隔,空中線電力 (ARIB STD-B11 および ARIB STD-B33 から抜粋) 周波数帯の呼称 (GHz)周波数 チャンネル間隔(MHz) 空中線電力の最大値 (W) ※1 シングルキャリヤー方式 (STD-B11) (STD-B33)OFDM方式 Bバンド 5.850 〜 5.925 18 0.5 (1.5) 0.2 (5) Cバンド 6.425 〜 6.570 0.5 (1.5) 0.2 (5) Dバンド 6.870 〜 7.125 0.5 (1.5) 0.2 (5) Eバンド 10.25 〜 10.45 0.5 (1.5) 0.2 (5) Fバンド   10.60 〜 10.68 10.55 〜 10.60 ※2 0.5    0.5 (1.5) 0.2 (5) 0.2 (0.5) Gバンド 12.95 〜 13.25 0.5 (1.5) 0.2 (5) ※1 ( )内の値は,隣接チャンネルでアナログFPUが使用されていない場合。 ※2 電波天文業務と共用。 6.435 GHz 6.425GHz 6.453 GHz 6.471 GHz 6.489GHz チャンネル間隔 18MHz ・ ・ ・ 2図 C バンドにおける周波数の割り当て例

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2.2 周波数帯とチャンネル間隔,空中線電力 マイクロ波帯FPUに割り当てられている周波数およびチャンネル間隔,空中線電力 の最大値について,ARIB STD-B11およびARIB STD-B33からの抜粋を1表に示す。 周波数帯の呼称はBバンドからGバンドの6通りである。Cバンドにおける周波数の割 り当て例を2図に示す。1チャンネル当たりの帯域幅は18MHzであり,チャンネル間 隔18MHzで配置されている。 空中線電力の最大値に関しては,シングルキャリヤー方式は0.5W,OFDM方式は0.2W が上限とされている。ただし,隣接チャンネルでアナログFPUが使用されていない場 合は,シングルキャリヤー方式では1.5W,OFDM方式では5Wまで可能となっている。 OFDM方式で最大5Wまで可能とされている理由は,移動中継時の電界変動に対する マージンを十分に確保して安定な中継を実現するためである。 隣接チャンネルでアナログFPUが使用されている場合に,シングルキャリヤー方式 では0.5W,OFDM方式では0.2Wが空中線電力の上限とされている理由は,隣接チャン ネルに与える干渉の影響を考慮したためである。シングルキャリヤー方式の占有周波数 帯幅*1の許容値は15.5MHzであるのに対してOFDM方式の占有周波数帯幅の許容値は 17.5MHzと広いので,OFDM方式の空中線電力の最大値は0.2Wとシングルキャリヤー 方式よりも低く設定された。 マイクロ波帯FPUの標準的な回線距離に関して,ARIB STD-B11およびARIB STD-B33からの抜粋を2表に示す。B, C, Dバンドは降雨による減衰が少なく安定した 長距離伝送が可能である。これらの標準規格では,B, C, Dバンドの標準的な固定中継 の回線距離を50kmとして回線設計が行われている。周波数が高くなると降雨の影響を 受けやすくなるので,E, Fバンドでは標準的な固定中継の回線距離を7km,Gバンド では5kmとして回線設計が行われている。固定中継の送受信にはパラボラアンテナが 利用されている。 一方,標準的な移動中継の回線距離については,マラソン中継などを想定して3〜 4Kmの中継距離が確保できるように回線設計が行われている。送信アンテナには電磁 ホーンアンテナ*2を,受信アンテナには小口径のパラボラアンテナを用いて,互いに 正対するよう方向調整を行いながら伝送する。 2.3 マイクロ波帯ハイビジョンFPU マイクロ波帯のシングルキャリヤー方式ハイビジョンFPUの伝送パラメーターに関 *1 送信電力の99%が含まれる帯 域幅。 *2 導波管の端を円えん錐すい形または角錐 形に開いた形式のアンテナ。 2表 マイクロ波帯 FPU の標準的な回線距離 (ARIB STD-B11 および ARIB STD-B33 から抜粋) 周波数帯の呼称 (GHz) 周波数 固定中継 (km) 回線距離 移動中継 (km) 回線距離 Bバンド 5.850 〜 5.925 50 4 Cバンド 6.425 〜 6.570 Dバンド 6.870 〜 7.125 Eバンド 10.25 〜 10.45 7 3.5 Fバンド 10.55 〜 10.68 Gバンド 12.95 〜 13.25 5 3

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して,ARIB STD-B11からの抜粋を3表に示す。シンボルレートが13.35403MHzのデ ジタル信号を,ロールオフ率30%のルートロールオフフイルターにより波形整形して 伝送する。このため,占有周波数帯幅は約15.5MHzと,チャンネル帯域幅の18MHzに 対して余裕のある値となっている。変調方式はQPSK, 16QAM, 32QAM, 64QAMの4 通りで,内符号にはトレリス符号,外符号にはリードソロモン(RS:Reed-Solomon) 符号が採用されている。204バイトTS(Transport Stream)の伝送容量は26.352 〜 79.065Mbps,誤り訂正符号などを除く情報ビットレートは24.3 〜 72.9Mbpsである。 マイクロ波帯のOFDM方式ハイビジョンFPUの伝送パラメーターに関して,ARIB STD-B33からの抜粋を4表に示す。FFTポイント数が1,024と2,048の2つのモードが 標準化され,実用化されている。前者の総キャリヤー数は857本,キャリヤー間隔は 19.97kHz,後者の総キャリヤー数は1,721本,キャリヤー間隔は9.99kHzである。占有 周波数帯幅の許容値は17.5MHzとなっている。ARIB STD-B33には,占有周波数帯幅 3表 マイクロ波帯シングルキャリヤー方式ハイビジョン FPU の伝送パラメーター (ARIB STD-B11 から抜粋) 項目 規格 チャンネル帯域幅 (MHz) 18 占有周波数帯幅の許容値 (MHz) 15.5 シンボルレート (MHz) 13.35403 ロールオフ率 (%) 30

変調方式 QPSK, 16QAM, 32QAM, 64QAM 内符号 トレリス符号 (R=1/2, 3/4, 4/5, 5/6) 外符号 RS (204,188) 符号 伝送容量 (Mbps) 26.352 〜 79.056 (204バイトTS) 情報ビットレート (Mbps) 24.3 〜 72.9 (188バイトTS) 4表 マイクロ波帯 OFDM 方式ハイビジョン FPU の伝送パラメーター (ARIB STD-B33 から抜粋) 項目 規格 チャンネル帯域幅 (MHz) 18 占有周波数帯幅の許容値 (MHz) 17.5 FFTポイント数 1,024 2,048 キャリヤー間隔 (kHz) 19.97 9.99 総キャリヤー数 857 1,721 データキャリヤー数 672 1,344

キャリヤー変調方式 BPSK, DBPSK, QPSK, DQPSK, 16QAM, 32QAM, 64QAM 有効シンボル長 (μs) 50.07 100.14 ガードインターバル長 (μs) 6.26 12.52 シンボル長 (μs) 56.33 112.66 内符号 畳み込み符号 (R=1/2, 2/3, 3/4, 5/6) 外符号 RS (204,188) 符号 伝送容量 (Mbps) 5.965 〜 71.578 (204バイトTS) 情報ビットレート (Mbps) 5.5 〜 66.0 (188バイトTS)

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を17.5MHz(フルモード)の約半分の8.5MHz(ハーフモード)とした伝送パラメー ターも記載されているが,設計の基本的な考え方は同じであり,本稿では記載を省略 する。OFDMのサブキャリヤーの変調方式はBPSK, DBPSK, QPSK, DQPSK, 16QAM, 32QAM, 64QAMの7通りで,内符号には畳み込み符号,外符号にはリードソロモン符 号が採用されている。204バイトTSの伝送容量は5.965 〜 71.578Mbps,誤り訂正符号 を除いた情報ビットレートは5.5 〜 66.0Mbpsである。 2.4 マイクロ波帯4K・8K用FPUの標準化に向けた取り組み 4K・8K用FPUの実現に向けては,2016年6月に情報通信審議会放送システム委員会 の下に4K・8K用FPU作業班が設置され,「マイクロ波帯を使用するFPUの技術的条件」 および「他の無線局との共用条件」について検討が開始された。検討にあたっての基本 的な考え方は以下のとおりとされた。 ・他の無線業務への与干渉の条件は,従来のFPUと変わらないこととする。 ・既存システムと同じ利用シーンを想定する。 ・固定中継と移動中継の両方に対応できるOFDM方式の高度化を検討する。 4K・8K用FPU作業班はARIBと協力しながら検討を進め,2016年12月に放送システ ム委員会において作業班の検討結果が報告された。4K・8K用FPUの実現に向けた高度 化技術に関しては,以下の3つの方針が示された。 (1)水平偏波と垂直偏波を同時に用いる偏波MIMO(Input Multiple-Output)を導入する。 (2)従来は最大64QAMまでであったキャリヤー変調を,最大4096QAMまで拡大す る多値化を行う。 (3)高度な誤り訂正符号を導入することで,多値化による所要CN比の増加を軽減す る。 また,既存のマイクロ波帯FPUに割り当てられている周波数,チャンネル間隔,空 中線電力は変更しないことも併せて報告された。 情報通信審議会で審議されたマイクロ波帯4K・8K用FPUの伝送パラメーターを5表 に示す。伝送容量を拡大するために,水平および垂直の直線偏波の組み合わせによる空 間多重技術が導入されるとともに,キャリヤー変調方式として256QAM,1024QAM, 4096QAMが追加された。また,多値化による所要CN比の上昇を抑えるために,誤り 訂正能力の高いLDPC(Low Density Parity Check)符号が導入された。さらに,伝 送容量拡大のためにFFTポイント数を8,192としてガードインターバル比を1/32とした パラメーターも導入された。これらの高度化技術を導入することによって,誤り訂正 を含まない情報ビットレートの最大値は 312.8Mbps(188バイトTS)となった。なお, 占有周波数帯幅の許容値が17.5MHz(フルモード)の約半分の8.5MHz(ハーフモード) の伝送パラメーターも報告されたが,前節と同様に,本稿では記載を省略する。 以上で述べた情報通信審議会におけるマイクロ波帯4K・8K用FPUに関する検討結果 については,2017年6月9日の電波監理審議会による答申を受けて,無線設備規則の 改定が行われる予定となっている。また,これまで検討されてきた技術基準に基づいて, ARIBのタスクグループにおいて標準規格化の作業が進められている。

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マイクロ波帯スーパーハイビジョンFPUの詳細については,本特集号の報告「マイ クロ波帯スーパーハイビジョンFPUの開発」を参照していただきたい。

3.ミリ波帯の無線素材伝送システム

3.1 開発の歴史と標準規格 ミリ波帯を利用したハイビジョンFPUなどの開発の歴史は1990年代に遡る。当時は, 比較的小型なミリ波帯デバイスの特徴を生かして,FPUやワイヤレスカメラの方式と して,FM変調によりアナログのハイビジョン信号を比較的近距離で伝送する方式の開 発・実用化が行われた6)7) 2008年ごろには,ハイビジョン用コーデックの小型化の進展と相まってデジタル方 式のハイビジョンワイヤレスカメラの開発と実用化が積極的に行われ,ミリ波モバイル カメラ8)が開発・実用化された。これは,ミリ波帯にMIMO-OFDM技術を導入するこ とにより,80 〜 160Mbpsに圧縮したハイビジョン信号を,数百メートルの範囲から, 高画質かつ低遅延で安定的に移動送信する装置である。双方向伝送機能も有しており, 各種のカメラ制御に加えて送り返し映像の伝送も可能となっている。 一 方, ミ リ 波 帯 の デ ジ タ ルFPUの 標 準 規 格 に 関 し て は,2008年 6 月 にARIB STD-B43「テレビジョン放送番組素材伝送用可搬型ミリ波帯デジタル無線伝送シス テム」の初版が策定された。この規格は,圧縮したハイビジョン信号を42GHz帯と 55GHz帯を使ってデジタル伝送するために策定されたもので,シングルキャリヤー方式 とOFDM方式の両方が記載されている。その後,2017年3月には,8K信号も伝送可能 とするように改定が行われ,ARIB STD-B43 2.0版が発行された。 非圧縮の8K信号を無線で伝送可能とするミリ波帯FPUの標準規格としては,ARIB STD-B65「超高精細度テレビジョン放送番組素材伝送用可搬型120GHz帯デジタル無線 伝送システム」が2015年3月に策定された。 5表 マイクロ波帯 4K・8K 用 FPU の伝送パラメーター (情報通信審議会資料から) 項目 規格 MIMO多重 水平偏波と垂直偏波の組み合わせなど 占有周波数帯幅の許容値 (MHz) 17.5 FFTポイント数 2,048 8,192 キャリヤー間隔 (kHz) 9.99 2.50 総キャリヤー数 1,721 6,881 データキャリヤー数 1,428 6,426 キャリヤー変調方式 BPSK, QPSK, 16QAM, 32QAM, 64QAM, 256QAM, 1024QAM, 4096QAM 有効シンボル長 (μs) 100.14 400.57 ガードインターバル長 (μs) 12.52 12.52 ガードインターバル比 1/8 1/32 シンボル長 (μs) 112.66 413.09 内符号 LDPC符号 (R=1/2, 2/3, 3/4, 5/6) 外符号 BCH符号 情報ビットレート (Mbps) 12.7 〜 312.8 (188バイトTS)

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3.2 周波数帯とチャンネル間隔,空中線電力 ミリ波帯FPUの周波数の呼称,周波数帯,チャンネル間隔,空中線電力の最大値に 関して,ARIB STD-B43およびARIB STD-B65からの抜粋を6表に示す。周波数帯 の呼称は42GHz帯,55GHz帯,120GHz帯の3通りである。空中線電力の最大値は, 42GHz帯,55GHz帯,120GHz帯のいずれの場合も1Wとなっている。 42/55GHz帯のチャンネル間隔を3図に示す。62.5MHz,125MHz,500MHz,1,000MHz の4通りのチャンネル配置がある。一方,120GHz帯のチャンネル間隔については, ARIB STD-B65の中に明確な記載はないが,1チャンネル当たりの周波数の幅を計算 すると18GHzとなる。 ミリ波帯FPUの標準的な回線距離を7表に示す。ミリ波帯は降雨減衰の影響が避け られず,降雨マージンを見込んだ42/55GHz帯の標準的な回線距離は固定中継で3〜5 6表 ミリ波帯 FPU の周波数の呼称,周波数帯,チャンネル間隔,空中線電力 (ARIB STD-B43 および ARIB STD-B65 から抜粋) 周波数帯の呼称 (GHz) 周波数帯 チャンネル間隔(MHz) 空中線電力の最大値 (W) 42GHz帯 41.0 〜 42.0 62.5,125, 500,1,000 1 55GHz帯 54.27 〜 55.27 120GHz帯 116 〜 134 - 1 チャンネル間隔62.5MHz チャンネル間隔125MHz チャンネル間隔500MHz チャンネル間隔1,000MHz 1,000MHz ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3図 42/55GHz 帯におけるチャンネル配置 7表 ミリ波帯 FPU の標準的な回線距離 周波数帯の呼称 周波数帯 GHz 固定中継 (km) 回線距離 移動中継 (m) 回線距離 42GHz帯 41.0 〜 42.0 3 〜 5 50 〜 100 55GHz帯 54.27 〜 55.27 120GHz帯 116 〜 134 0.5 〜 1 -

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kmとされている。固定中継の送受信には,利得が40dBi*3程度のパラボラアンテナの 利用が想定されている。移動中継の標準的な回線距離は,利用形態としてワイヤレス カメラを想定し,50 〜 100mとされている。この場合は,送信アンテナには無指向性の アンテナ,受信アンテナには電磁ホーンアンテナなどの利用が想定されている。一方, 120GHz帯の降雨マージンを見込んだ回線距離は0.5 〜1kmとされている。120GHz帯 での移動中継の利用は想定されていない。 3.3 42/55GHz帯を用いる4K・8K用FPU 42/55GHz帯を用いる4K・8K用FPUの伝送パラメーターについて,ARIB STD-B43 からの抜粋を8表に示す。FFTポイント数が1,024と2,048の2つのモードが標準化され ている。前者は総キャリヤー数857本,後者は総キャリヤー数1,721本で,キャリヤー間 隔はどちらのモードも63.5kHzである。占有周波数帯幅の許容値は,それぞれ60MHz, 112MHzとされている。OFDMのサブキャリヤーの変調方式はQPSK, 16QAM, 32QAM, 64QAMの4通りで,内符号には畳み込み符号,外符号にはリードソロモン符号が採用 されている。204バイトTSの伝送容量は80.294 〜 802.942Mbps,誤り訂正符号を除い た情報ビットレートは74.0 〜 740Mbpsとなる。 3.4 120GHz帯を用いる4K・8K用FPU 120GHz帯を用いる4K・8K用FPUの伝送パラメーターについて,ARIB STD-B65 からの抜粋を9表に示す。チャンネル帯域幅は18GHzで,占有周波数帯幅の許容値は 17.5GHzとされている。変調方式はASK, BPSK, QPSKの3通りで,内符号には短縮化 RS(986, 966)符号,外符号にはRS(255, 239)符号が採用されている。 デュアルグリーン形式の8K信号は,約24Gbpsという膨大な情報量を有している。こ の信号を圧縮することなく伝送するために,水平同期信号の一部を削除して情報量を約 *3 dBiは,等方性アンテナを基準 とするアンテナ利得の単位。 8表 42/55GHz 帯を用いた 4K・8K 用 FPU の伝送パラメーター (ARIB STD-B43 から抜粋) 項目 規格 MIMO多重 水平偏波および垂直偏波の組み合わせなど 占有周波数帯幅の許容値 (MHz) 60 112 FFTポイント数 1,024 2,048 キャリヤー間隔 (kHz) 63.5 総キャリヤー数 857 1,721 データキャリヤー数 672 1,344 キャリヤー変調方式 QPSK, 16QAM, 32QAM, 64QAM 有効シンボル長 (μs) 15.75 ガードインターバル長 (μs) 1.97 0.98 1.97 0.98 シンボル長 (μs) 17.72 16.74 17.72 16.74 内符号 畳み込み符号 (R=1/2, 2/3, 3/4, 5/6) 外符号 RS (204, 188)符号 伝送容量 (Mbps) 80.294 〜 802.942 (204バイトTS) 情報ビットレート (Mbps) 74.0 〜 740 (188バイトTS)

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22Gbpsに抑える工夫を行っている。さらに,120GHz帯アンテナの鋭い指向性と交差偏 波識別性能を利用し,2対向の120GHz帯FPUを使って水平偏波と垂直偏波を同時に伝 送することで約22Gbpsの伝送を実現している。 ミリ波帯4K・8K-FPUの詳細については,本特集号の報告「ミリ波帯4K・8K-FPU の開発」および「120GHz帯スーパーハイビジョンFPUの開発」を参照していただきたい。

4.1.2/2.3GHz帯の無線素材伝送システム

4.1 標準規格について 1.2/2.3GHz帯のデジタルFPUに関する標準規格ARIB STD-B57「1.2/2.3GHz帯テレ ビジョン放送番組素材伝送用可搬型OFDM方式デジタル無線伝送システム」は,2013 年12月に初版が策定された。この規格は,圧縮したハイビジョン信号を1.2GHz帯また は2.3GHz帯を使ってデジタル伝送するために策定されたもので,移動中継を目的とす るため,移動中継に適したOFDM方式が採用されている。 OFDM方式によるFPUに関しては,前述のARIB STD-B33「テレビジョン放送番 組素材伝送用可搬型OFDM方式デジタル無線伝送システム」が2002年3月に策定さ れているが,ARIB STD-B33が規格化された当時の周波数帯は,700MHz帯(770 〜 806MHz)と前述のマイクロ波帯(B, C, D, E, Fバンド)であった。 一方,2010年11月に総務省から発表された「ワイヤレスブロードバンドの実現に向 けた周波数再編アクションプラン」において,移動通信の周波数ひっ迫対策が示され た。これを受けて情報通信審議会で審議が行われた結果,700MHz帯を使用するFPUは 1.2/2.3GHz帯へ周波数移行することが決められた。この700MHz帯の周波数移行は,総 務省の指針による終了促進措置に基づいて,NHK,民放およびメーカーが相互に協力 し,技術を持ち寄ることで実現した9)。1.2/2.3GHz帯のデジタルFPUの標準規格ARIB STD-B57は,これを機に策定された。 4.2 周波数帯の呼称とチャンネル間隔,空中線電力 1.2/2.3GHz帯のFPUに割り当てられている周波数およびチャンネル間隔,空中線 電力の最大値を10表に示す。周波数帯の呼称は1.2GHz帯,2.3GHz帯の2通りである。 1.2/2.3GHz帯のチャンネル間隔は1MHzである。空中線電力の最大値は,1.2GHz帯で は25W,2.3GHz帯では40Wとなっている。 1.2/2.3GHz帯FPUの標準的な回線距離を11表に示す。固定中継の回線距離について は,取材現場や中継車などから受信基地局まで最大50kmの伝送が想定され,送受信に は八木アンテナや電磁ホーンアンテナの利用が想定されている。移動中継の標準的な回 9表 120GHz 帯を用いる 4K・8K 用 FPU の伝送パラメーター (ARIB STD-B65 から抜粋) 項目 規格 占有周波数帯幅の許容値 (GHz) 17.5以下 変調方式 ASK, BPSK, QPSK 内符号 短縮化RS(986, 966) 外符号 RS(255, 239)符号 情報ビットレート (Gbps) 11.0957

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線距離については,ロードレース中継をはじめとするスポーツ中継を想定し,伝送距離 は最大10kmとなっている。移動中継においては,送信アンテナにはコーリニアアンテ ナ*4やホイップアンテナ,受信アンテナには八木アンテナ,平面アンテナ,電磁ホー ンアンテナなどの利用が想定されている。 4.3 移動中継用ハイビジョンFPU 1.2/2.3GHz帯を用いたハイビジョンFPUの伝送パラメーターについて,ARIB STD-B57からの抜粋を12表に示す。規格上オプション扱いになっているものは省略し ている。また,占有周波数帯幅の許容値が17.5MHz(フルモード)の約半分の8.5MHz (ハーフモード)の伝送パラメーターもあるが,記載を省略する。総キャリヤー数は1,721 本,OFDMのキャリヤー間隔は9.99kHz,占有周波数帯幅の許容値は17.5MHzとなって いる。OFDMのサブキャリヤーの変調方式はBPSK, QPSK, 16QAM, 32QAM, 64QAM の5通りで,内符号には畳み込み符号,外符号にはリードソロモン符号が採用されてい る。204バイトTSの伝送容量は5.695 〜 59.648Mbps,RS符号を除く情報ビットレート は5.25 〜 55.0Mbps となる。 4.4 移動中継用4K・8K用FPUの実現に向けた技術 移動中継に適した周波数である1.2/2.3GHz帯を使って4K・8Kの移動中継を実現する ために,伝搬路の状態に応じて送信側のアンテナ指向性や変調方式などを受信側から制 御する適応送信制御MIMOシステムの研究開発を行っている。このシステムでは,受 信側で得られた伝搬路の状態からアンテナ指向性などを制御する情報を生成し,これを 送信側に伝送する。そのためには,適応送信制御MIMO技術の開発に加えて,双方向 伝送の実現が必須である。 当所では,適応送信制御MIMO を18MHzのチャンネル帯域幅で実現するために, 上り/下りの信号を時間的に区切って伝送する時分割複信(TDD : Time Division Duplex)を1.2/2.3GHz帯FPUに導入する研究を行っている。 また,伝送の信頼性を向上させるために,変動する伝搬路の品質に応じて適応的に誤 り訂正符号の符号化率を制御するレートマッチングの研究も併せて実施している。これ は,誤り訂正符号にターボ符号とリードソロモン符号の連接符号を使用し,ターボ符号 化後のパリティービットの一部を伝搬路の品質に応じて削除することにより符号化率を *4 高利得アンテナの一種で,線状 アンテナを軸方向に複数配置し たアレーアンテナ。 11 表 1.2/2.3GHz 帯 FPU の標準的な回線距離 周波数帯の呼称 (GHz) 周波数帯 固定中継 (km) 回線距離 移動中継 (km) 回線距離 1.2GHz帯 1.240 〜 1.300 〜 50 〜 10 2.3GHz帯 2.330 〜 2.370 10 表 1.2/2.3GHz 帯 FPU の周波数帯とチャンネル間隔,空中線電力 周波数帯の呼称 (GHz) 周波数帯 チャンネル間隔 (MHz) 空中線電力の最大値 (W) 1.2GHz帯 1.240 〜 1.300 1 25 2.3GHz帯 2.330 〜 2.370 40

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制御する技術である。 移動中継用4K・8K用FPUに関しては,2020年の実現に向けて,現在,研究開発が積 極的に進められている状況である。今後,伝送技術が確立し次第,標準化作業を進めて いく予定である。 移 動 中 継 用4K・8K用FPUの 詳 細 に つ い て は,本 特 集 号 の 報 告「 移 動 中 継 用 1.2GHz/2.3GHz帯スーパーハイビジョンFPUの実現に向けた無線伝送技術」を参照し ていただきたい。

5.まとめ

FPUは1970年代にアナログテレビジョン信号を伝送する方式として実用化され, 1990年代以降は,ハイビジョン信号の高能率符号化技術の発展とも相まって,デジタ ル方式FPUの研究開発が積極的に行われてきた。現在では,日本全国の放送局にハイ ビジョン化されたデジタル方式FPUが整備され,陸上,海上,上空などのあらゆる場 所から素材伝送が可能なネットワークが構築されている。現在のデジタル方式FPUは, 災害時の空撮映像の生中継などに見られるように,局外からの中継番組には欠くことの できない機材となっている。 今後,ハイビジョンの16倍の情報量を持つ8Kの空撮映像等は,緊急報道などにおい て非常に重要な情報になると予想される。2018年には4K・8Kの実用放送の開始が予定 されており,2020年ごろの本格普及を目指して,4K・8Kの番組を充実させていくこと が重要である。今後も,スーパーハイビジョンFPUの早期の実現を目指して努力して いきたい。 12 表 1.2/2.3GHz 帯を用いた FPU の伝送パラメーター (ARIB STD-B57 から抜粋) 項目 規格 占有周波数帯幅の許容値 (MHz) 17.5 FFTポイント数 2,048 キャリヤー間隔 (kHz) 9.99 総キャリヤー数 1,721 データキャリヤー数 1,344

キャリヤー変調方式 BPSK, QPSK, 16QAM, 32QAM, 64QAM 有効シンボル長 (μs) 100.14 ガードインターバル長 (μs) 12.52 シンボル長 (μs) 112.66 内符号 畳み込み符号 (R=1/2, 2/3, 3/4, 5/6) 外符号 RS (204, 188)符号 伝送容量 (Mbps) 5.695 〜 59.648 (204バイトTS) 情報ビットレート (Mbps) 5.25 〜 55.0 (188バイトTS)

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参考文献

1) 萩原,稲垣:“小型FPU,”テレビ誌,第31巻,第10号,pp.777-782(1977) 2) 岩館,田中,熊田:“多値ディジタルFM-FPU伝送方式の検討,”テレビ学技報,Vol.19, No.26,pp.1-6(1995) 3) 浜住,居相,阿良田,田中,矢野,寺田:“7GHz帯ディジタルFPUに望まれる性能とQAM方 式FPUの波形等化方式の検討,”映情学誌,Vol.51,No.9,pp.1550-1559(1997) 4) 森 山, 土 田:“OFDM変 調 方 式 の デ ジ タ ルFPUへ の 応 用 に 関 す る 考 察,” テ レ ビ 学 技 報, Vol.19,No.38,pp.7-12(1995) 5) 池田ほか:“ハイビジョン素材伝送技術,”NHK技研R&D,No.73,pp.10-17(2002) 6) 矢沢:“42GHzハイビジョンFPU-ミリ波帯の放送への応用-,”テレビ誌,Vol.50,No.12, pp.1882-1889(1996) 7) 高野ほか:“42GHz帯ハイビジョン無線中継実験局,”NHK技研月報,Vol.28,No.12,pp.468-473(1985) 8) 鈴木,中川,池田:“ミリ波モバイルカメラ,”映情学誌,Vol.67,No.10,pp.861-864(2013) 9) “特集 700MHz帯周波数移行の現状と動向,”映情学誌,Vol.69,No.5,pp.375-397(2015) 濱は ま住ず み 啓ひ ろ之ゆ き 1982年入局。津放送局を経て, 1987年から放送技術研究所に おいて,デジタル無線伝送およ び地上デジタル放送の送受信技 術の研究に従事。技術局を経て, 2004年から放送技術研究所に おいて,地上デジタル放送の放 送ネットワーク,番組素材無線 伝送の研究開発に従事。現在, 放送技術研究所伝送システム研 究部上級研究員。博士(工学)。

参照

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