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新検査制度に係る安全実績指標及び検査指摘事項の安全重要度評価手法の検討に関する報告書

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JNES/SAE07-052 07 解部報-0052

新検査制度に係る安全実績指標及び検査指摘事項の

安全重要度評価手法の検討

に関する報告書

独 立 行 政 法 人   原 子 力 安 全 基 盤 機 構

平 成 1 9 年 4 月

(2)

本報告書は、独立行政法人 原子力安全基盤機構が実施した業務の 成果をとりまとめたものです。

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平成19 年 4 月

新検査制度に係る安全実績指標及び検査指摘事項の安全重要度評価手法

の検討

要 旨

平成18 年 9 月に開催された「第 20 回検査の在り方に関する検討会」で、原子力安全・保安院 から「原子力発電施設に対する検査制度の改善について」として、現行の検査制度の課題と今後 の検査制度の改善の方向性が示された。 改善の方向性の中には、「根本原因分析のためのガイドラインの整備等」があり、その中に「プ ラント毎の総合評価の実施による安全確保の充実」が盛り込まれ、プラントの安全実績(パフォ ーマンス)を的確に表す指標の規制への活用、検査において指摘された事項について安全上の重 要度を決定する手法の検討、それらを用いたプラント毎の総合評価を行い、その結果を検査の効 果的な実施のために具体的に活用していくことが必要であり、安全実績指標(PI)、安全重要度評 価(SDP)の詳細については原子力安全基盤機構(JNES)を中心に今後検討を実施し、その後、試行 的に評価を実施するとされた。 平成 20 年度からの新検査制度の運用を目途に、本検討では、JNES で準備を進めているプラ ント毎の総合評価に必要な、安全実績指標及び検査指摘事項の安全重要度評価に関する手法等に ついて検討した。その結果、以下の知見を得た。 ① 安全実績指標(PI)に関する検討 ・「原子炉の安全」、「非常時の措置」及び「放射線防護」の 3 分野を対象として考慮し、具体 的な指標項目として、主要な対象分野である「原子炉の安全」分野の指標では、異常発生の 防止として原子炉計画外停止(自動/手動スクラム)回数、計画外出力変動回数が挙げられ、 異常影響の緩和として緩和系統のアンアベイラビリティ、緩和系統の故障事例件数を項目と して考慮する。 ・安全実績指標のしきい値に対応する計画外スクラム頻度の制限値の設定についてリスク情報 を参考に検討した結果、計画外スクラム頻度の制限値として、主蒸気・給水・復水系(PCS) JNES/SAE07-052 07 解部報-0052

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使用可の過渡事象の値から試算されるものを使用し、除熱機能喪失を伴う計画外スクラム頻 度の制限値として、PCS 使用不可の過渡事象の値から試算されるものを使用することが現実 的と考えられる。 ・系統のアンアベイラビリティの制限値についてリスク情報を参考に検討した結果、系統によ っては停止時間が1年を超す非現実的なものが得られた。 このため、リスク以外の深層防護の堅持の観点からの情報も加え、制限値を設定する必要 がある。 ② 検査指摘事項の安全重要度評価(SDP)手法に関する検討 ・安全重要度評価では、保安活動の全般を評価する観点から、保安検査、定期検査、定期安全管 理審査及び法令報告対象事象を対象範囲とし、この対象範囲のうち、原子力発電所の安全性 に係る事項であって、かつ、炉心損傷頻度への影響が小さい軽微な事項を除外した事項につ いて、安全重要度評価の対象事項とする。 ・用いる評価手法として、保安活動分野(運転管理、燃料管理、放射性廃棄物管理、保守管理、 放射線管理及び非常時の措置)毎に、対応する区分に応じた手法(安全機能の重要度と影響 度合による区分、定量的リスクへの影響度合による区分、公衆の被ばく防護への影響度合に よる区分、従業員の被ばく防護への影響度合による区分、防災組織、資機材、訓練等の適切 性への影響度合による区分)を用い、安全重要度を評価する。 ・検査指摘事項の安全重要度を評価するため、国内の代表的BWR プラント及び PWR プラント を対象に、確率論的安全評価(PSA)で整備したイベントツリーをベースに安全重要度評価用 のSDP イベントツリーを整備した。整備した SDP イベントツリーを用い、代表的 BWR プラ ント及びPWR プラントを対象に、国内で発生した炉心損傷頻度に重要と考えられる事例を検 査指摘事項と想定し、それに対して炉心損傷頻度増分(⊿CDF)の試算と感度解析を実施し、 SDP イベントツリー適用に当たっての課題を検討した。その結果、国内で発生した多くの事 例は、炉心損傷頻度に大きな影響がないことが確認された。また、サポート系の待機除外のよ うな緩和系への影響範囲が大きな事例については、安全重要度が高く(⊿CDF が大きく)評 価される傾向が分かった。このため、SDP イベントツリーのヘディング間の依存性を的確に 反映させるための緩和系の係数設定の仕組みが必要である。

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新検査制度に係る安全実績指標及び検査指摘事項の安全重要度評価手法

の検討

目 次

1. 序論 ··· 1- 1 1.1 目的 ··· 1- 1 1.2 実施内容 ··· 1- 1 2. 安全実績指標に関する検討 ··· 2- 1 2.1 安全実績指標の指標項目の検討 ··· 2- 1 (1) 安全実績指標の対象分野 ··· 2- 1 (2) 具体的な指標の選定 ··· 2- 2 2.2 安全実績指標のしきい値の設定方法 ··· 2- 4 (1) しきい値と炉心損傷頻度増分(⊿CDF)の関連付け ··· 2- 4 (2) 起因事象(計画外原子炉自動停止)の頻度の制限値についての設定 ··· 2- 4 (3) 系統のアンアベイラビリティの制限値についての設定 ··· 2- 7 3. 検査指摘事項の安全重要度評価手法に関する検討 ··· 3- 1 3.1 安全重要度評価手法の仕組みの検討 ··· 3- 1 (1) 安全重要度評価の導入の背景と目的 ··· 3- 1 (2) 安全重要度評価の対象範囲 ··· 3- 1 (3) 安全重要度評価の対象事項 ··· 3- 2 (4) 安全重要度評価に用いる手法 ··· 3- 2 (5) 判定基準の設定 ··· 3- 3 3.2 定量的リスクへの影響度合による安全重要度評価手法 ··· 3- 4 (1) SDP 用イベントツリー(試行版)の作成 ··· 3- 5 (2) SDP 用イベントツリーの分岐確率等に用いる係数 ··· 3- 7 3.3 安全重要度評価モデルの個別プラントへの展開 ··· 3- 9 (1) 個別プラントへの展開の考え方 ··· 3- 10 (2) 個別プラントへの展開の具体例 ··· 3-10

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(3) イベントツリーの分岐確率の設定 ··· 3-11 4. 安全実績指標及び安全重要度評価に関する試評価 ··· 4- 1 4.1 国内代表プラントの安全実績指標の試評価 ··· 4- 1 4.1.1 事故・トラブル事象の特徴把握 ··· 4- 1 4.1.2 国内代表プラントの安全実績指標の試算結果 ··· 4- 3 4.2 国内の事故・トラブル情報を用いた安全重要度の試評価 ··· 4- 7 4.2.1 解析対象の選定 ··· 4- 7 4.2.2 BWR4 型プラントの試算結果 ··· 4- 9 4.2.3 2 ループ PWR プラントの試算結果 ··· 4-11 4.3 国内代表プラントに対する安全重要度の感度解析 ··· 4-13 4.3.1 BWR5 型プラントの感度解析結果 ··· 4-14 4.3.2 4 ループ PWR プラントの感度解析 ··· 4-15 4.3.3 感度解析結果のまとめ ··· 4-16 5. まとめ ··· 5- 1 5.1 安全実績指標に関する検討 ··· 5- 1 5.2 検査指摘事項の安全重要度評価手法に関する検討 ··· 5- 1 5.3 安全実績指標及び安全重要度評価に関する試評価 ··· 5- 2 5.4 今後の検討方向等について ··· 5- 3 参考文献 ··· 参-1 略語一覧 ··· 略-1 付録 1. NRC の原子炉監督プロセスの枠組み及び性能評価指標の概要 ··· 付 1- 1 付録 2. 国内代表プラントの安全重要度評価用イベントツリー(試行版) ··· 付 2- 1 付録 3. 安全実績指標及び安全重要度の試算結果 ··· 付 3- 1

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表一覧

表2.1 施設の安全確保に係る3 分野と保安規定項目との関連 ···2-9 表2.2 起因事象の種類、頻度と安全実績指標への適用性···2-10 表2.3 「炉心冷却」に関連する系統のアンアベイラビリティを用いる指標例····2-11 表2.4 安全実績指標における具体的な指標例のまとめ···2-12 表2.5 安全実績指標のしきい値の設定方法(例)···2-13 表3.1 検査指摘事項等の安全重要度評価に用いる手法による仕分け···3-14 表3.2 検査指摘事項等の安全重要度評価結果の区分のイメージ···3-14 表3.3 国内BWR プラントの PSA に用いている起因事象頻度 (1999 年 3 月末まで)···3-15 表3.4 起因事象頻度に用いる係数···3-16 表3.5 イベントツリーの緩和系統に用いる係数一覧···3-16 表3.6 係数の設定、アンアベイラビリティの評価値を用いるもの···3-17 表3.7 分岐又は系統の係数の設定の仕方···3-17 表3.8 係数の設定、運転員の手動操作失敗確率を評価して用いるもの···3-17 表3.9 係数の設定、パラメータ等から、比較的、直接的に評価するもの···3-17 表3.10 係数の設定、工学的判断等に基づいて設定しているもの···3-17 表4.1-1 出力運転時と停止時の事故・トラブル率···4-17 表4.1-2 事故・トラブル率(2004~2005 年度) ···4-17 表4.1-3 プラント型式別の事故・トラブル頻度(BWR プラント) (2004~2005 年度)···4-17 表4.1-4 プラント型式別の事故・トラブル頻度(PWR プラント) (2004~2005 年度)···4-17 表4.1-5 BWR プラントの月別の事故・トラブル発生件数(32 プラント) ···4-18 表4.1-6 PWR プラントの月別の事故・トラブル発生件数(23 プラント) ···4-18 表4.1-7 設備別の事故・トラブル件数(2004~2005 年度) ···4-19 表4.1-8 系統別の事故・トラブル件数(BWR プラント)(2004~2005 年度) ···4-20

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表4.1-9 系統別の事故・トラブル件数(PWR プラント)(2004~2005 年度) ···4-21 表4.1-10 原因別の事故・トラブル件数(2004~2005 年度) ···4-22 表4.1-11 安全実績指標評価対象項目 ···4-23 表4.3-1 BWR5 型プラントの SDP イベントツリーを用いた感度解析結果 ···4-24 表4.3-2 4 ループ PWR プラントの SDP イベントツリーを用いた感度解析結果 ···4-25

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図一覧

図2.1 安全実績指標のしきい値の設定の考え方···2-14 図3.1 検査指摘事項の安全重要度評価の概略の流れ···3-18 図3.2 大LOCA に対する SDP 用イベントツリー(BWR5 型プラント) ···3-19 図3.3 中LOCA に対する SDP 用イベントツリー(BWR5 型プラント) ···3-20 図3.4 小LOCA に対する SDP 用イベントツリー(BWR5 型プラント) ···3-21 図3.5 過渡事象に対するSDP 用イベントツリー(BWR5 型プラント) ···3-22 図3.6 外部電源喪失事象に対するSDP 用イベントツリー(BWR5 型プラント)3-23 図3.7 ATWS 事象に対する SDP 用イベントツリー(BWR5 型プラント) ···3-24 図4.1-1 出力運転時と停止時の事故・トラブル率 ···4-26 図4.1-2 1 プラント当たりの事故・トラブル頻度(2004~2005 年度) ···4-27 図4.1-3 プラント型式別の事故・トラブル頻度(BWR)(2004~2005 年度) ···4-28 図4.1-4 プラント型式別の事故・トラブル頻度(PWR)(2004~2005 年度) ···4-29 図4.1-5 BWR プラントの月別の事故・トラブル発生件数(32 プラント) ···4-30 図4.1-6 PWR プラントの月別の事故・トラブル発生件数(23 プラント) ···4-31 図4.1-7 設備別の事故・トラブル件数(2004~2005 年度) ···4-32 図4.1-8 系統別の事故・トラブル件数(BWR プラント)(2004~2005 年度) ···4-33 図4.1-9 系統別の事故・トラブル件数(PWR プラント)(2004~2005 年度) ···4-34 図4.1-10 原因別の事故・トラブル件数(2004~2005 年度) ···4-35

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1.序論 1.1 目的 平成18 年 9 月に開催された「第 20 回検査の在り方に関する検討会」で、原子力安全・保安院 から「原子力発電施設に対する検査制度の改善について」(1-1として、現行の検査制度の課題と 今後の検査制度の改善の方向性が示された。 改善の方向性の中には、「根本原因分析のためのガイドラインの整備等」があり、その中に「プ ラント毎の総合評価の実施による安全確保の充実」が盛り込まれ、プラントの安全実績(パフォ ーマンス)を的確に表す指標の規制への活用、検査において指摘された事項について安全重要度 評価手法の検討、それらを用いたプラント毎の総合評価を行い、その結果を検査の効果的な実施 のために具体的に活用していくことが必要であり、安全実績指標(PI)、安全重要度評価(SDP)の詳 細については原子力安全基盤機構(以下、「当機構」という。)を中心に今後検討を実施し、その後、 試行的に評価を実施するとされた。 このため、当機構では安全実績指標の評価及び検査指摘事項の安全重要度決定や、これらとト ラブル情報を集積したプラント毎の総合評価について、リスク情報も活用して評価の仕組みや手 法を策定していく必要がある。 本評価では、新検査制度のプラント毎の総合評価に必要な安全実績指標(PI)及び検査指摘事 項の安全重要度評価(SDP)に関する仕組みや手法について検討するとともに、国内の原子力発 電所の事故・トラブル情報を用い、安全実績指標及び検査指摘事項の安全重要度評価の試評価を 実施し手法の改良に関する課題を摘出する。 1.2 実施内容 ① 安全実績指標に関する検討 原子炉施設の保安活動水準を統一的に把握するために導入する安全実績指標(PI)の対象分野 や具体的な指標項目及び確率論的安全評価(PSA)から得られる「リスク情報」も考慮して、し きい値を設定する方法について検討する。 ② 検査指摘事項の安全重要度評価手法に関する検討 規制機関が実施する保安検査等の検査で指摘された事項について、その安全上の重要度を評価 するための仕組み(手法の適用範囲、対象事項、事項の重要度を判定する基準の設定)について

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検討し、並行して、実際の評価に必要な手法を個別プラントへの展開も含めて検討するため、以 下を実施する。 a. 安全重要度評価手法の仕組みの検討 b. 定量的リスクへの影響度合による安全重要度評価手法 (1) SDP 用イベントツリー(試行版)の作成 (2) SDP 用イベントツリーの分岐確率等に用いる係数の検討 c. 安全重要度評価モデルの個別プラントへの展開の検討 (1) 個別プラントへの展開の考え方 (2) 個別プラントへの展開の具体例 (3) イベントツリーの分岐確率の設定 ③ 安全実績指標及び安全重要度評価に関する試評価 プラントの総合評価に必要とされる安全実績指標及び定量的リスクに関する安全重要度につ いて、国内の原子力発電所の出力運転時及び停止時の事故・トラブル事象を用い、以下を実施し、 検討した手法の改良に関する課題を摘出する。 a. 国内代表プラントの安全実績指標の試評価 b. 国内の事故・トラブル情報を用いた安全重要度の試評価 c. 国内代表プラントに対する安全重要度の感度解析

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2. 安全実績指標に関する検討 本章では、安全実績指標の評価に必要とされる対象分野、具体的な指標項目、しきい値の設定 方法について、PSA から得られる「リスク情報」も考慮して検討する。 2.1 安全実績指標の指標項目の検討 原子炉施設の保安活動水準を統一的に把握するために導入する安全実績指標の対象分野や具体 的な指標項目について、PSA から得られる「リスク情報」も考慮して、その選定の考え方を整理 する。 (1) 安全実績指標の対象分野 原子炉施設の利用に伴うリスクには、放射線災害の他に、労働災害等のリスクがあるが、 安全実績指標で測定する対象を放射線災害や平常時の放射線リスクに係る分野に限定すると、 「原子炉の安全」、「非常時の措置」及び「放射線防護」の3 分野をあげることができる。 a. 原子炉の安全 「原子炉の安全」は、炉心から環境への放射性物質の放出を防止することで達成される。 このことは、1)炉心損傷の起因となる異常発生を防止すること、2)異常影響を緩和する 系統の健全性を確保すること、及び 3)放射性物質の環境への放出に至るまでの障壁(例 えば、原子炉冷却材圧力バウンダリ等)の健全性を確保することによって達成される。 b. 非常時の措置 「非常時の措置」は、異常の発生防止、異常の拡大防止及び影響の低減の3 つの層とあ いまって、深層防護1の最も外側の層を構成する「防災」の適切性を確保するものであり、 防災のための設備(例えば、通信・通報設備等)の信頼性を確保することや、緊急時の対 応の的確性を確保すること等によって達成される。 c. 放射線防護 「放射線防護」は、事故時ではなく平常運転時に係る被ばく線量の抑制を対象としてお り、公衆被ばくの抑制の観点から、放射性気体廃棄物の放出放射能量、放射性液体廃棄物 の放出放射能量等の「放射性廃棄物の管理」、及び原子炉施設の従事者の「放射線管理」 を対象としている。 1 IAEA の基本安全原則(INSAG-10)(2-1)では、上記の 3 対策に加えて「アクシデントマネジメント」 及び「防災」の2 つの対策をあげているが、これらは「影響の低減対策」の一部と見なすことができ る。

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原子炉施設には、原子炉の他に、使用済燃料貯蔵施設、放射性廃棄物処理施設等が設置さ れており、これらの施設の事故に起因する放射線災害のリスクを抑制する措置がとられてい るが、これらのリスクは、原子炉の事故によるリスクに比べて、十分に低いことから、安全 実績指標にはとりあげない。 事業者が原子炉施設の保安活動を適切に実施するよう保安規定が定められている。保安規 定に定めるべき事項は、「実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則」(省令77 号)に 定められており、品質保証、保安管理体制、運転管理、燃料管理、放射性廃棄物管理、放射 線管理、保守管理、緊急時の措置、保安教育、記録及び報告等である。これらの事項は、「原 子炉の安全」、「緊急時の措置」及び「放射線防護」に関連づけることができる。(表2.1) 原子炉等規制法では、保安規定とは別に、核物質防護規定を定めるよう要求していること から、安全実績指標の対象分野として「原子炉の安全」、「緊急時の措置」及び「放射線防 護」に加えて、「核物質防護」をあげることができる。「核原料物質又は核燃料物質の製錬 の事業に関する規則」(省令102 号)には、例えば、防護区域の設定や管理、特定核燃料物 質の管理等の核物質防護規定に定めるべき事項が記載されており、これらを安全実績指標の 対象範囲とすることもできるが、公開を限定すべき事項であることから対象外とする。 (2) 具体的な指標の選定 「原子炉の安全」の分野の指標は、異常発生の防止、異常影響の緩和及び障壁の健全性を 測定するための指標として設定することができる。 a. 異常発生の防止 原子炉施設で発生し得る異常状態は、過渡事象と冷却材喪失事故に分類することができ る。炉心損傷の起因となるという意味合いで、これらを起因事象という。起因事象のうち、 冷却材喪失事故については、頻度が小さく、運転実績から指標の値を測定することが現実 的ではないので、指標から除外する。(表 2.2) 過渡事象は、その発生後に、通常の熱除去機能(主蒸気・給復水系による熱除去機能) による崩壊熱除去が可能か否かによって、原子炉施設の安全性への影響(例えば、炉心損 傷頻度への影響等)が相違してくる。このため、過渡事象の回数に加えて、通常の熱除去 機能喪失を伴う過渡事象の回数を指標とする。 過渡事象とは原子炉スクラムする事象であるが、スクラムはしないもののトラブル等の 原因によって計画外停止する事象や計画外出力変動する事象がある。これらは、過渡事象

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よりも施設の安全性への影響は小さいが、異常発生の防止の観点から、これらを指標に加 える。 b. 異常影響の緩和 異常事象である過渡事象又は冷却材喪失事故が発生した場合に、事象の進展を緩和して 炉心損傷を防止するためには、「原子炉の停止」、「炉心の冷却」及び「格納容器からの 熱除去」を行う必要がある。これらを達成する系のうち、安全機能の重要度が特に高い異 常影響緩和系(クラス 1 の異常影響緩和系)を対象にして、それらのアンアベイラビリテ ィを指標とする。 「原子炉の停止」を達成するための原子炉緊急停止系は高い信頼性を有することから、 そのアンアベイラビリティを測定することは現実的ではないため、指標から除外する。 「炉心冷却」を確保するためには、「炉心冷却機能」及び「原子炉停止後の除熱機能」 が必要である。これらの機能を達成するための系統のアンアベイラビリティを指標とする。 (表2.3) この他に、「原子炉冷却材圧力バウンダリの過圧防止機能」が過渡事象の種類によって は必要であるが、その機能を達成する機器が作動する機会は少なく、それが故障する可能 性は小さいため、指標から除外する。 「格納容器からの熱除去」は、原子炉格納容器熱除去系によって達成される。例えば、 BWR5 型プラントの場合には、残留熱除去系(原子炉格納容器スプレイ冷却モード)が該 当する。なお、PSA では、この他に、過渡事象の種類や冷却材喪失事故の規模によっては、 残留熱除去系(サプレッションプール水冷却モード)、主蒸気・復水・給水系、格納容器 ベント等によっても「格納容器からの熱除去」ができることを考慮に入れている。 「炉心冷却」や「格納容器からの熱除去」を達成する系が、その機能を達成するために は、安全保護系、非常用電源や非常用補機冷却水系等の関連機能が必要になる。安全保護 系は、その信頼性が高く、そのアンアベイラビリティを測定することは現実的ではないの で指標から除外する。非常用電源として、非常用ディーゼル発電機のアンアベイラビリテ ィを指標にする。非常用補機冷却水系については、「炉心冷却」や「格納容器からの熱除 去」を達成する系のアンアベイラビリティの中に含めて測定することとする。 c. 放射能閉じ込め 多重障壁を構成するのは、燃料ペレット、燃料被覆管、原子炉冷却材圧力バウンダリ、 原子炉格納容器及び原子炉建屋であり、そのうち、指標によって測定することができるも

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のとして、燃料被覆管や原子炉冷却材圧力バウンダリがある。具体的な指標として、よう 素131 濃度及び 1 次冷却材漏えい率をあげることができる。 以上を踏まえると、「原子炉の安全」、「緊急時の措置」及び「放射線防護」の各分野で、 「リスク情報」に係る安全実績指標を表 2.4 のとおり整理することができる。なお、事業者 は、プラントの安全性の観点に加えて、電力の供給安定性など、幅広い事項を目的として指 標を選定することが考えられる。それらの指標のうち、規制当局は、プラントの安全確保に 係る指標だけを取り出して使用することが合理的である。 2.2 安全実績指標のしきい値の設定方法 安全実績指標によって保安活動水準を統一的に把握するためには、安全実績指標の測定値に対 する分類基準(しきい値)を設定する必要がある。分類の境界は、1)プラントが通常の安全水準 の範囲内にあるか、2)この範囲を逸脱した場合には、どの程度プラントのリスク(炉心損傷頻度) に影響を及ぼすか、3)保安規定の制限値内にあるかなどに基づいて設定する。(表 2.5) 以下では、しきい値の設定及びしきい値に対応する計画外スクラム頻度等の制限値の設定に定 量的リスク(炉心損傷頻度増分⊿CDF)の情報を活用する場合の例について説明する。 (1) しきい値と炉心損傷頻度増分(⊿CDF)の関連付け 表 2.5 に示す分類の区分と定量的リスク(⊿CDF)を対応付ける必要がある。一般には性能 の有意と有意でない劣化等の境界をリスク値で設定するには設定者の主観が入り、それ故、数 多くの設定が考えられるが、本例では、説明のために以下のように設定する。 ・実績のばらつきの上限を⊿CDF が 10-7/炉年未満とする。 ・性能の有意と有意でない劣化のしきい値を⊿CDF が 10-6/炉年未満とする。 ・性能の重大な劣化と有意な劣化のしきい値を⊿CDF が 10-5/炉年未満とする。 なお、これらのしきい値については、性能目標(2-2)を満足するように最終的には設定される こととなる。 (2) 起因事象(計画外原子炉自動停止)の頻度の制限値についての設定 上記のしきい値は、炉心損傷頻度増分であり、この数値は直接測定できないため、何らかの

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形で測定可能な数値に変換し、プラントの保安活動水準を把握する必要がある。このため、し きい値に対応した起因事象頻度の制限値(例えば、計画外スクラム頻度)を設定する必要がある。 本例では、BWR5 型プラントを対象に、起因事象頻度の制限値の設定について説明する。 ある起因事象i の頻度を fi とし、起因事象 i のみによる炉心損傷頻度を CDFi とする。この場 合、起因事象i の条件付炉心損傷確率(CCDPi)は、以下となる。 i i i

f

CDF

CCDP

=

··· (2-1) 起因事象i に対して炉心損傷頻度増分(⊿CDF)以内に収まる頻度を Xi とすると、Xi は次 式を満たすものとなる。

{

}

i i i i i i i i i

CCDP

CDF

f

X

CCDP

f

X

CDF

CDF

CCDP

f

X

CDF

CDF

CDF

これより

+

=

+

=

=

)

(

)

(

0 0 0 1 ··· (2-2) ここに、CDF1:起因事象i の頻度が Xi に変化したことによる炉心損傷頻度 CDF0:PSA から得られる基本ケースの炉心損傷頻度 式(2-2)で与えられる起因事象頻度は、特定の起因事象 i に対するものであるため、例えば、 計画外スクラム頻度(回数)の制限を設定する場合には、全ての評価用起因事象を考慮し、以 下を満たす頻度X を算出する必要がある。

= =

+

=

n i n i i i i

X

CCDP

CDF

CDF

X

X

1 1 0

,

··· (2-3) ここに CDF0: 基本ケースの炉心損傷頻度、 n:考慮すべき起因事象の総数 計画外スクラムを引き起こす起因事象として、冷却材喪失事故(LOCA)と過渡事象がある が、LOCA は起因事象頻度が 10-4/炉年と低く、安全実績指標として使用するのは不適切である ため、過渡事象のみを対象とする。 具体的に BWR5 型プラントを対象に、参考文献(2-3)に示す情報を基に説明する。参考文

(17)

献(2-3)は米国の機器故障率データと国内の運転実績を反映した過渡起因事象頻度を基に炉心 損傷頻度を求めたものである。頻度が厳しめに算出されるアクシデントマネジメント(AM) 策整備前の炉心損傷頻度を使用する。値は以下に示すものである。 起因事象 起因事象頻度 (/炉年)(fi) 起因事象による炉心 損 傷 頻 度 (/ 炉 年 ) (CDFi) 条 件 付 炉 心 損 傷 確 率(CCDPi) PCS 使用可の過渡事象(タービント リップ、再循環ポンプトリップ等) 0.24 2.0x10 -7 8.3x10-7 PCS 使用不可の過渡事象(全主蒸気 隔離弁閉、全給水喪失等) 0.034 4.0x10 -8 1.2x10-6 外部電源喪失 3.9x10-3 5.2x10-8 1.3x10-5 手動停止 0.32 3.7x10-9 1.2x10-8 全炉心損傷頻度(CDF0 :LOCA も含む) 3.2x10-7 上表の情報を用い、式(2-3)を満足する頻度 X を求めるには、起因事象の組合せが幾通り も考えられ、一義的に決定するのは困難である。このため、代表的な過渡事象を設定し、その 条件付炉心損傷確率を過渡事象の代表として設定するのが簡便な頻度の決め方となる。以下で は、代表条件付炉心損傷確率をパラメータとして計画外スクラム頻度の制限値を試算する。試 算結果は以下となる。 代表条件付炉心損傷確率 炉心損傷頻度増分 (⊿CDF) 計画外スクラム頻度の制限値 X (/炉年) 10-7/炉年未満 0.032 10-6/炉年未満 0.1 CCDPi = 1.3x10-5 (外部電源喪失) 10-5/炉年未満 0.9 10-7/炉年未満 0.35 10-6/炉年未満 1.1 CCDPi = 1.2x10-6 (PCS 使用不可の過渡事象) 10-5/炉年未満 8.6 10-7/炉年未満 0.5 10-6/炉年未満 1.6 CCDPi = 8.2x10-7 (PCS 使用可の過渡事象) 10-5/炉年未満 13 10-7/炉年未満 35 10-6/炉年未満 110 CCDPi = 1.2x10-8 (手動停止) 10-5/炉年未満 860

(18)

上記の結果、手動停止の値から得られる計画外スクラム頻度の制限値は現実的でないため除 外し、計画外スクラム頻度の制限値として、PCS 使用可の過渡事象の値から試算されるものを 使用し、除熱機能喪失を伴う計画外スクラム頻度の制限値として、PCS 使用不可の過渡事象の 値から試算されるものを使用することが現実的と考えられる。 (3) 系統のアンアベイラビリティの制限値についての設定 系統のアンアベイラビリティの制限値を設定する場合には、系統のアンアベイラビリティ (Psys)の変動と炉心損傷頻度増分(⊿CDF)を関連付ける必要がある。 系統のアンアベイラビリティ(Psys)が、Psys から 1 に変化した場合、⊿CDF は以下で与え られる。

)

1

(

)

1

(

0 0 1

=

=

=

RAW

CDF

CDF

CDF

P

CDF

sys

··· (2-4) ここに、CDF1: Psys=1(系統が故障状態)の場合の炉心損傷頻度 RAW:系統のリスク増加価値(Risk Achievement Worth) Psys :系統アンアベイラビリティ 系統のアンアベイラビリティが、Psys から X に変化した場合、⊿CDF は以下で与えられる。

)

1

1

(

)

1

(

)

1

(

)

(

0

=

=

sys sys sys

P

P

X

RAW

CDF

X

P

CDF

···(2-5) 式(2-5)より、炉心損傷頻度増分(⊿CDF)を満足する系統のアンアベイラビリティは以下 となる。

)

1

(

)

1

(

0

+

RAW

CDF

P

CDF

P

X

sys

sys ··· (2-6) 以上の式を用い、BWR5 型プラントを対象に系統のアンアベイラビリティの制限値を試算す る。結果は以下に示すものである。なお、系統のアンアベイラビリティ等の値は参考文献(2-3) を使用した。

(19)

系統 Psys RAW ⊿CDF 制限アンアベイラ ビリティX(%/年) 制限停止日数 (日/年) 10-7/炉年未満 6 22 高圧炉心スプレ イ系(HPCS) 2.4x10-2 9.2 10-6/炉年未満 40 144 10-7/炉年未満 13 46 原子炉隔離時冷 却系(RCIC) 4.2x10-2 4.5 10-6/炉年未満 90 327 10-7/炉年未満 53 195 低圧炉心スプレ イ系(LPCS) 3.2x10-2 1.6 10-6/炉年未満 >100 365 10-7/炉年未満 5 21 残留熱除去系一 系統(RHR) 3.5x10-2 14.3 10-6/炉年未満 26 95 10-7/炉年未満 31 115 非常用ディーゼ ル発電機一系統 2.5x10-2 2.1 10-6/炉年未満 >100 365 系統の制限停止日数は、定量的リスク情報を使用した場合、RAW が小さいほど(炉心損傷 頻度への寄与が小さいほど)長くなる。系統によっては⊿CDF が 10-6/炉年未満の場合、1 年を 超過するものが現れる。また、10-7/炉年未満の場合でも、100 日を超えるものがあり、非現実 的なものとなる。 このため、深層防護の堅持の観点から、系統によらず⊿CDF が 10-7/炉年未満の場合は、例え ば現行の許容待機除外時間(AOT)である 10 日の 2 倍(20 日)まで、⊿CDF が 10-6/炉年未満 の場合は、許容待機除外時間の5 倍(50 日)までとするというようなリスク以外の観点からの 情報も加えた判断が必要と考えられる。

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表2.1 施設の安全確保に係る 3 分野と保安規定項目との関連 保安規定項目 原子炉の安全 放射線防護 緊急時の措置 品質保証 ➡ ➡ ➡ 保安管理体制 ➡ ➡ ➡ 運転管理 ○ - - 燃料管理 - - - 廃棄物管理 - ○ - 放射線管理 - ○ - 保守管理 ○ - - 緊急時の措置 - - ○ 保安教育 ➡ ➡ ➡ 記録及び報告 ➡ ➡ ➡ 注1. ○:関連する項目、➡:横断的な項目、-:関連しないか又は関連の薄い項目

(21)

表2.2 起因事象の種類、頻度と安全実績指標への適用性 (国内BWR プラントの例) 起因事象 頻度(/炉年) 頻度の算出方法 PI への適用性 大LOCA 2.2×10-5 中LOCA 7.0×10-5 小LOCA 2.2×10-4 日米の BWR プラントの運転 実績(LOCA の発生なし)か ら算出 インターフェイス LOCA 8.1×10-9 弁の誤開放、内部破損等の故 障確率から算出 不可 初期に PCS が使用可 能な過渡事象 2.4×10-1 可 初期に PCS が使用不 可能な過渡事象 3.4×10-2 可 手動停止事象 3.2×10-1 国内 BWR プラントの運転実 績から算出 可 外部電源喪失事象 3.9×10-3 国内BWR プラント及び PWR プ ラ ン ト の 運 転 実 績 か ら 算 出 可 (国内PWR プラントの例) 起因事象 頻度(/炉年) 発生頻度の算出方法 PI への適用性 大LOCA 1.5×10-5 中LOCA 4.7×10-5 小LOCA 1.5×10-4 日米の PWR プラントの運転 実績(LOCA の発生なし)か ら算出 インターフェイス LOCA 3.2×10-8 弁の誤開放、内部破損等の故 障確率から算出 蒸 気 発 生 器 伝 熱 管 破 損 2.8×10-3 2 次系破断 7.5×10-4 国内 PWR プラントの運転実 績から算出 不可 外部電源喪失 3.9×10-3 PCS 機能喪失 2.0×10-2 可 その他の過渡事象 9.6×10-2 可 手動停止事象 1.4×10-1 国内BWR プラント及び PWR プ ラ ン ト の 運 転 実 績 か ら 算 出 可 原 子 炉 補 機 冷 却 水 系 機能喪失 6.1×10-5 国内 PWR プラントの運転実 績から算出 不可 注1. 国内運転実績は平成 11 年 3 月時点。LOCA で米国運転実績は 1998 年 12 月時点。 注2. 手動停止事象は計画外手動停止事象及び手動スクラム事象を含む。

(22)

表2.3 「炉心冷却」に関連する系統のアンアベイラビリティを用いる指標例 安全機能 対象系統の例(BWR5 プラントの場合) 炉心冷却機能 非常用炉心冷却系 ・低圧炉心スプレイ系 ・低圧注水系 ・高圧炉心スプレイ系 ・自動減圧系 原子炉停止後の除熱機能 残留熱を除去する系統 ・残留熱除去系(原子炉停止時冷却モード) ・原子炉隔離時冷却系 ・高圧炉心スプレイ系 ・逃がし安全弁(手動逃がし機能) ・自動減圧系(手動逃がし機能) 注1. 自動減圧系や逃がし安全弁については、作動要求のある機会が少なく、かつ故障する可能性 が小さいことから指標には適さない。 注2. PSA では、過渡事象の種類や冷却材喪失事故の規模によっては、例えば、給水系、原子炉 隔離時冷却系等によっても「炉心冷却」を達成することができるため、これらを考慮してい るが、指標からは除外した。 注3. 残留熱除去系(原子炉停止時冷却モード)については、PSA では、「格納容器からの熱除 去」機能を有する系として考慮している。

(23)

表2.4 安全実績指標における具体的な指標例のまとめ 分 野 小分類 安全実績指標(例) 異常発生の防止機能 ○ 計画外スクラム回数 ○ 熱除去機能喪失を伴う計画外スクラム回数 ○ 計画外出力変動回数 異常影響の緩和機能 ○ 緩和系統のアンアベイラビリティ ・ 高圧炉心スプレイ系 ・ 低圧炉心スプレイ系 ・ 低圧注入系 ・ 原子炉隔離時冷却系 ・ 残留熱除去系 ・ 非常用ディーゼル発電機 ○ 緩和系統の故障事例件数 原子炉の安全 放射能閉じ込め機能 ○ よう素131 濃度 ○ 1 次冷却材漏えい率 非常時の措置 防災管理 ○ 訓練回数 ○ 訓練参加率 ○ 通報・通信システムの信頼性 放射能管理 ○ 従事者の個人線量の最大値 ○ 従事者の個人線量のサイト平均値 ○ 報告事象件数 放射線防護 放射性廃棄物管理 ○ 気体放出放射能量 ○ 液体放射性廃棄物放出放射能量 ○ 報告事象件数 注1 「原子炉の安全」のうち、「異常発生の防止機能」及び「異常影響の緩和機能」に関する指 標の設定に際して、「リスク情報」も考慮される。その他の指標は、保安規定の条項に基づ いて、米国原子炉監督プロセス(ROP)(2-1)での安全実績指標も参考にして設定している。 (ROP の概要については付録 1 を参照) 注2. 上記の指標に加えて、「計画外手動停止回数」(「異常発生防止機能」)や「許容時間内の 制限逸脱件数」(「原子炉の安全」の各機能)をあげることができる。

(24)

表2.5 安全実績指標のしきい値の設定方法(例) 分類 しきい値の考え方 安全への影響が有意で はな いと 見な すこ とが で き、 定量 的リ スク の増 加 もほとんど見られない。 性能の劣化は見られず、国内プラントの運転実績の範囲内である ・ 保安規定の運転上の制限が維持され、不履行もない ・ 国内プラントの運転実績のばらつきの範囲の上限値 (例えば、95%上限値内に収まっているなど) ・ 標準のリスクレベルからの変動が見られない 等 <実績のばらつきの上限> 性能が実績のばらつきの上限を超えるが、許容範囲内である ・ 国内プラントの運転実績のばらつきの範囲を超える ・ 運転上の制限からの逸脱はない ・ 性能の劣化によるリスクへの影響はわずかである 等 <性能の有意な劣化> 安全への影響が有意で あり 、定 量的 リス クの 有 意な増加が見られる。 性能の有意な劣化が見られるが、許容範囲内である ・ 運転上の制限を逸脱するが要求措置を時間内に実施する ・ 性能の劣化によるリスクへの影響が有意である 等 <性能の重大な劣化> 安全への影響が重大で あり 、定 量的 リス クへ の 影響も重大である。 性能が有意に劣化して、許容範囲を超えている ・ 運転上の制限の逸脱が複数回発生している ・ 運転上の制限を逸脱して、要求措置を時間内に実施できず ・ 性能の劣化によるリスクへの影響が重大である 等

(25)

図 2.1 安全実 績指 標の しきい 値の設 定の考 え 方 安全実 績指標 原子炉の 放射 線災 害の リ ス ク (注 1 ) に係 る か? はい 【 異常発生の 防 止機 能】 ○ 計画外ス ク ラ ム 件数 ○ 熱 除去喪 失を 伴う 計画外 ス ク ラ ム 件数 ○ 計画外 出力 変動 回 数 【 異常影響の 緩 和機 能】 ○ 緩和系 統の ア ン ア ベ イ ラ ビ リ テ ィ ・ 高圧 炉心 ス プ レ イ 系 ・ 低圧 炉心 ス プ レ イ 系 ・ 低圧 注入 系 ・ 原子 炉隔 離時 冷却 系 ・ 残留 熱除 去系 ・ 非 常用デ ィ ー ゼ ル 発電 機 ○ 緩和系 統の 故障 事例 件数 いいえ 指標値 がリ スクに 及ぼす 影響 を定量 化できるか? はい いいえ 【 放射能閉じ 込め 機能】 ○ よ う 素1 3 1 濃度 ○ 1 次冷 却材 漏え い 率 【 防災管理】 ○ 訓練回 数 ○ 訓練参 加率 ○ 通報 ・ 通信シ ス テ ム の 信頼 性 炉心 損傷 頻度 、 C D F ( / 炉 年) 標準 値 標準 値 評価 値 対応 値 Δ CDF ア ン ア ベ イ ラ ビ リ テ ィ の 評価値 不 待 機 状 態 の 期 間 ( 時 間 ) = 測 定 期 間 ( 時 間 ) アンア ベ イ ラ ビ リ テ ィ Δ C D F に 対し て 、 緩 和系 統( 例え ば 、 高圧炉 心ス プ レ イ 系等) の 不待 機 時間を 関連づ け る 。 こ の Δ C D F を 参 考に し て し き い 値を 設定す る 。 【 「 リ ス ク 情 報」 を 活用し た し き い 値 の 設定( 例 ) 】 定量 的な 「 リ ス ク 情報 」 を 活用 で き な い 指標 に つ い て は 、 P S A か ら 得ら れ る 知見を 適宜 参考に す る 。 ○ 計画外 出力 変動 回 数 ○ 緩和系 統の 故障 事例 件数 保安規定 の制限値や、 平均的な運転 実績、 国 際原子力 事象評価尺度等を参考にし て、 「通 常の範囲」 、 「軽微な逸 脱」 、 「有意な逸脱 」 等のしき い値を設定する。 注 1. 原子炉の過 酷事故(シビアア クシデント)によるリスク 。 【 放射線管 理】 ○ 従事者の 個 人線 量の 最大 値 ○ 従事者 の 個人線量の サ イ ト 平 均値 ○ 報告事 象件 数 【 放 射 性 廃棄物 管理 】 ○ 気体放射性廃棄物放出放 射 能量 ○ 液体放射性廃棄物放出放 射 能量 ○ 報告事 象件 数

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3. 検査指摘事項の安全重要度評価手法に関する検討 本章では、規制機関が実施する保安検査等の検査で指摘された事項について、その安全上の重 要度を評価するための仕組み(手法の適用範囲、対象事項、事項の重要度を判定する基準の設定) について検討し、並行して、実際の評価に必要な手法を個別プラントへの展開も含めて検討する。 3.1 安全重要度評価手法の仕組みの検討 (1) 安全重要度評価の導入の背景と目的 原子力安全・保安院(以下「保安院」という。)は、平成18 年 9 月、「原子力発電施設に対 する検査制度の改善について」(1-1)を発行して、検査制度の課題と今後の改善の方向性を示し た。その中で、検査で指摘された事項の安全重要度を決定した結果や、プラントの安全実績 指標の結果を活用して、プラント毎の総合評価を行い、その結果を検査の効果的な実施のた めに活用していくことの必要性が指摘された。 安全重要度評価(SDP)の導入の目的は、規制機関が実施する保安検査等の検査で指摘された 事項について、その安全上の重要度を評価して、その結果を安全実績指標と組み合わせてプ ラント毎の総合評価を実施することである。 安全重要度評価では、検査官による検査実施時や事業者の不適合是正プロセス確認時に発 見された保安規定、技術基準等への不適合について、検査指摘事項として抽出し、プラント の安全性への影響を評価する。 (2) 安全重要度評価の対象範囲 安全重要度評価の対象範囲は、保安検査、定期検査、定期安全管理審査及び法令報告対象 事象とする。これらの検査等の内容は以下のとおりである。 a. 定期検査 原子炉本体、原子炉冷却系統設備、計測制御系統設備、燃料設備、放射線管理設備、廃 棄設備、原子炉格納施設及び非常用予備発電装置のうち、重要度の高い安全機能を有する 構築物、系統又は機器について、技術基準に適合していることを確認する。 b. 保安検査 品質保証、運転管理、燃料管理、放射性廃棄物管理、放射線管理、保守管理、非常時の 措置、保安教育等の各分野における保安規定の遵守状況を確認する。なお、保安検査の期 間外にも、保安調査として、検査官の任意の要請に応じて事業者の協力を得て、現場の巡

(27)

視パトロールや定例試験への立会いを行っているが、これについては、安全重要度評価の 対象範囲に含めない。 c. 定期安全管理審査 定期事業者検査の実施体制について、実施組織、検査方法、工程管理、記録管理、協力 会社の管理及び教育訓練の適切性の観点から、文書確認と立会いにより審査する。 d. 法令報告対象事象 実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則に基づいて国に報告される事象で、例え ば、原子炉の停止や出力抑制、原子炉施設の故障、放射性廃棄物の計画外放出等の事象が 報告対象に該当する。 (3) 安全重要度評価の対象事項 定期検査、保安検査及び定期安全管理審査で指摘された事項や法令報告対象事象(以下「検 査指摘事項等」という。)のうち、原子力発電所の安全に係る事項であって、かつ、炉心損傷 頻度への影響が小さい軽微な事項を除外した事項について、安全重要度評価の対象事項とす る。 a. 事故時被ばく、平常時被ばく、周辺公衆の個人被ばく、従業員被ばく等に係る事項等、 原子力発電所の放射線災害に係る事項を評価対象とする。 b. 検査指摘事項等が、系統、機器等の安全機能の達成に影響した場合に、それらを安全重 要度の評価対象とする。 c. 検査指摘事項等が系統、機器等の安全機能の達成に影響したか否かについては、「実際に 一定の期間の間、安全機能が喪失したか否か」によって判定する。なお、安全機能が喪 失していないが、影響を及ぼす可能性の高かった検査指摘事項等については、参考とし て、安全機能の喪失を仮定して、その影響を評価する。 d. 原子力発電所の安全に横断的に影響を及ぼす可能性がある事項として、品質保証、保安 教育等に係る検査指摘事項等があるが、これらの事項については、安全重要度の評価対 象外とする。 (4) 安全重要度評価に用いる手法 検査指摘事項等について、事業者の保安活動分野(運転管理、燃料管理、放射性廃棄物管 理、保守管理、放射線管理及び非常時の措置)毎に分類する。これらの事項について、原子

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力発電所の安全に及ぼす影響の観点から、以下のように分類し、それぞれに対して安全重要 度評価に用いる手法を作成する。(表3.1) A. 設備、機器等の安全機能が損なわれたか、又はその可能性があった事項 B. 定量的リスクに影響したか、又はその可能性があった事項 C. 外部への放射能放出があったか、又はその可能性があった事項 D. 従業員の放射線被ばくがあったか、又はその可能性があった事項 E. 災害に備え、整備・実施しておくべき事柄に係る事項 (5) 判定基準の設定 安全重要度評価では、検査指摘事項等について、その影響を受けた安全機能の重要度と影 響度合、定量的リスクへの影響度合、公衆や従業員の被ばく防護への影響度合等を評価する。 この影響度合に応じて、安全重要度評価の結果を区分するための判定基準を設定する。その 際には、保安規定の不履行の有無、保安規定の制限値、影響を受けた安全機能の重要度と影 響度合、リスクへの影響度合等を考慮する。 保安検査から摘出された保安規定違反の区分については、保安院の「実用発電用原子炉保 安検査実施要領(内規)」(3.1)で、保安規定違反の評価・判定フロー及び判定基準が定められ ている。保安規定違反の評価・判定フローでは、「運転管理等」に係る保安規定違反について、 安全機能のクラス1~3 に応じて、次の 2 通りに大別して、違反 1、違反 2、違反 3 及び監視 の4 段階に区分している。 A) 安全機能に係る運転上の制限を逸脱し、かつ保安規定で定める時間内に要求される措置 を講じられなかった場合には、当該事項が安全機能のクラスが 1、2 又は 3 のいずれに係 るかに応じて、違反1、2 又は 3 に分類する。 B) 運転管理に係る保安規定の不履行により、安全機能に影響を及ぼした場合又は機能の健 全性を担保できなかった場合には、当該事項の安全に対する影響度に応じて分類する。 例えば、安全機能のクラスが1 の場合には、違反 1 又は 2 に分類する。 検査指摘事項等の安全重要度を評価する際に、安全機能の重要度と影響度合を用いる場合 には、この違反1~3 及び監視の 4 段階に区分する考え方を用いる。また、定量的リスクへの 影響度合を用いる場合には、検査指摘事項等の定量的リスクへの影響度合の高低に応じて、 ~3 段階程度に区分する。(表 3.2) 検査指摘事項等が定量的リスクに影響する場合には、系統、機器等の安全機能にも影響を

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及ぼす場合が多いと予想される。そのような場合に、検査指摘事項等について、「安全機能の 重要度と影響度合による区分」と「定量的リスクへの影響度合による区分」を統合して、当 該事項の安全重要度を決定するが、その際には、以下の方法と用いる。 ・ 安全機能に係る運転上の制限を逸脱し、かつ保安規定で定める時間内に要求される措置 を講じられなかった事項については、「定量的リスクの影響度合」を参考にして、区分の 格上げ又は格下げ(例えば、監視→違反 3、違反 1→2 等)を検討する。 ・ 運転管理に係る保安規定の不履行により、安全機能に影響を及ぼした事項や機能の健全 性を担保できなかった事項については、安全に対する影響度を測定する指標として、「定 量的リスクへの影響度合」を参考にする。 ・ 現行の区分では、クラス 1 の安全機能に係る事項は、影響度合に応じて、違反 1 又は違 反2 に分類される。この場合にも、定量的リスクへの影響度合が低い事項について、そ の区分を下げる。また、現行の区分では、クラス3 であれば、安全に対する影響度に応 じて、違反3 又は監視に分類されるが、「定量的リスクへの影響度合」が大きい場合には、 違反2 に分類することも考慮する。 3.2 定量的リスクへの影響度合による安全重要度評価手法 定量的リスクへの影響度合を評価する方法については、例えば、PSA で用いられている RAW ( Risk Achievement Worth: リスク増加価値)を用いる方法と、イベントツリーを用いる方法が考え られる。当機構では過去にイベントツリーを用いた手法を検討しており(3.2), (3.3)、本節では、イベ ントツリーを用いる方法を検討する。 国内BWR プラント及び PWR プラントを対象にして、検査指摘事項等の安全重要度評価に用い るイベントツリー(以下「SDP 用イベントツリー」という。)の試行版を作成した。対象プラン トは、BWR プラントでは、BWR3~5 及び ABWR プラントとし、また PWR プラントでは、4~2 ループPWR プラントとした。 試行版の作成では、出力運転時内的事象PSA に用いているイベントツリー(以下「PSA 用イベ ントツリー」という。)に基づいて、検査指摘事項等の安全重要度の評価結果を損ねない範囲でイ ベントツリーの簡略化を行った。BWR5 型プラント及び 4 ループ PWR プラントの SDP 用イベン トツリーについては、当機構で検討してきており、必要な見直しを行い、試行版を作成した。な お、米国NRC の原子炉監督プロセス(ROP)での安全重要度評価(SDP)に用いられている簡略 イベントツリーを参考にした。(付録2)

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以下では、国内 BWR5 型プラントを例にして、PSA 用イベントツリーから SDP 用イベントツ リーに簡略化する方法を(1)項にまとめ、SDP 用イベントツリーの分岐確率の設定方法を(2)項にま とめる。同様の方法を用いて、BWR3、BWR4、ABWR 及び 2~4 ループ PWR の各プラントに対 するSDP 用イベントツリーの試行版も整備した。(付録 3) (1) SDP 用イベントツリー(試行版)の作成 a. 対象とする起因事象の特定 検査指摘事項等によって特定される系統、機器等への影響は、緩和系統のアンアベイラ ビリティに影響を与える。影響を受けた緩和系統が、幾つかの起因事象の影響を緩和する 系統である場合に、該当する起因事象に係る炉心損傷シーケンスの頻度が影響を受ける。 このため、検査指摘事項等によって影響を受けた緩和系統及び評価すべき起因事象を特定 する。評価すべき起因事象としては、国内BWR5 型プラントの出力運転時内的事象 PSA(以 下「PSA」という。)で考慮している起因事象を評価対象とする(表 3.3)。 安全重要度評価用にイベントツリーを簡略化するために、起因事象については、大・中・ 小 LOCA、過渡事象、外部電源喪失事象及び ATWS 事象の 6 事象とした。表 3.3 に示す起 因事象のうち、インターフェースLOCA 及び手動停止については、それらに起因する炉心 損傷頻度が相対的に小さいことから、検査指摘事項等の安全重要度評価では対象外とした。 また、初期に PCS が使用可能な過渡事象及び初期に PCS が使用不可能な過渡事象につい ては、過渡事象として 1 つの起因事象にまとめた。 SDP 用イベントツリーでは、検査指摘事項等の影響を受けた緩和系統のアンアベイラビ リティを 1 として、検査指摘事項等による炉心損傷頻度への影響を簡易的かつ保守的に評 価する。その際に、炉心損傷頻度への影響が大きいと予想される検査指摘事項を見逃さな いことが必要である。このため、起因事象の省略を行う際は、検査指摘事項等によって特 定される緩和系統の機能喪失が炉心損傷頻度に影響を及ぼす場合に、こうした影響が省略 した起因事象以外の起因事象から導出されることを考慮に入れた。 b. LOCA の SDP 用イベントツリー 図3.2~図 3.4 に、大・中・小 LOCA に対する SDP 用イベントツリーを示す。PSA で用 いている大・中・小 LOCA のイベントツリーのヘディングのうち、「スクラム系」のヘデ ィングを省略する。これについては、ATWS の SDP 用イベントツリーを新たに作成して、 その中で取り扱う。 ヘディングの説明欄には、SDP 用イベントツリーの緩和機能を達成する緩和系統を定義

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している。例えば、大 LOCA のイベントツリーの場合には、図 3.2 に示すように、「高圧系」 には高圧炉心スプレイ系が対応し、また、「低圧系」には、低圧注水系 3 系統及び低圧炉心 スプレイ系 1 系統が対応している。これらのうち、1 系統が機能を達成すれば、炉心冷却 機能を達成することができる。また、小 LOCA のイベントツリーの場合には、図 3.4 に示 すように、高圧炉心スプレイ系及び原子炉隔離時冷却系を「高圧系」にまとめている。低 圧注水系、低圧炉心スプレイ系及び復水系を「低圧系」にまとめている。また、「給水系」 に成功した後に、格納容器からの除熱にも成功するシーケンスは、保守的に削除した。 c. 過渡事象の SDP 用イベントツリー PSA で用いている「初期に主蒸気・給復水系(PCS)が使用可能な過渡事象」及び「初 期にPCS が使用不可能な過渡事象」のイベントツリーをまとめて、「過渡事象」の SDP 用 イベントツリーを作成した。(図3.5) 初期に PCS が使用可能な過渡事象について、PSA 用イベントツリーを簡略化して、SDP 用イベントツリーを作成した。PSA 用イベントツリーのヘディングのうち、「スクラム系」 のヘディングを省略した。PSA 用イベントツリーでは、「逃がし安全弁再閉」について、1 弁、2 弁又は 3 弁の再閉失敗の 3 ケースを考慮している。しかし、炉心損傷シーケンスと 緩和系統の機能喪失の対応を考慮した場合に、1 弁の再閉失敗について考慮しておけば、 検査指摘事項等による炉心損傷シーケンスへの影響を評価することができる。さらに、2 弁又は 3 弁の再閉失敗確率は 1 弁の再閉失敗確率に比べて相対的に小さい。このため、「逃 がし安全弁再閉」については、1 弁の再閉失敗だけを考慮した。その他のヘディングにつ いては、小 LOCA に対する SDP 用イベントツリーの場合と同様である。 図3.5 に示した過渡事象に対する SDP 用イベントツリーを「初期に PCS が使用不可能な 過渡事象」にも共通して用いる。このため、例えば、「主蒸気・給復水系」のヘディングに 対応する分岐確率の値は、保守的に、「初期に PCS が使用不可能な過渡事象」に用いてい る分岐確率を参考にして設定する。 d. 外部電源喪失事象の SDP 用イベントツリー 外部電源喪失事象の場合にも、PSA 用イベントツリーのヘディングのうち、「スクラム 系」のヘディングを省略する。 外部電源喪失に対するPSA 用イベントツリーにおいて、炉心損傷シーケンスは、次の 4 とおりに分類される。 ① 起因事象の発生後に、非常用ディーゼル発電機 1 系統による非常用電源の確保に成功

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し、さらに30 分以内の外部電源の復旧に成功するシーケンス ② 起因事象の発生後に、非常用ディーゼル発電機 1 系統による非常用電源の確保に成功 し、30 分以内の外部電源の復旧に失敗するシーケンス ③ 起因事象の発生後に、非常用ディーゼル発電機 2 系統がともに非常用電源の確保に失 敗し、30 分以内の外部電源の復旧に成功するシーケンス ④ 起因事象の発生後に、非常用ディーゼル発電機 2 系統がともに非常用電源の確保に失 敗し、さらに30 分以内の外部電源の復旧に失敗するシーケンス これらのシーケンスのうち①については、炉心損傷シーケンスが過渡事象と同一であり、 また、必要な緩和系統もPCS を除き同一であり、炉心損傷シーケンスの頻度も相対的に小 さい。このため、①に関連する緩和系統の機能低下の影響は、過渡事象のSDP 用イベント ツリーによって評価することができる。また、②及び③については相対的に頻度が小さく、 さらに④を考慮しておけば、緩和系統の機能喪失による炉心損傷頻度への影響を把握でき る。このため、SDP 用イベントツリーには④のシーケンスを展開した。(図 3.6) e. ATWS に対する SDP 用イベントツリー 起因事象の発生後に原子炉の未臨界に失敗して炉心損傷に至るシーケンスは、次の2 通 りに分類される。 ① スクラム失敗すると炉心損傷を回避する手段がない場合 ② スクラム失敗してもほう酸水注入系等による炉心損傷回避の可能性がある場合 これらのうち、①については、SDP 用イベントツリーを作成しなくても炉心損傷頻度へ の影響が容易に分る。②について、SDP 用イベントツリーを作成した結果を図 3.7 に示す。 PSA 用イベントツリーのうち、例えば、「初期に PCS が使用可能な過渡事象」のイベン トツリーからも分るが、②のイベントツリーにおいて、ほう酸水注入系等による炉心損傷 回避の可能性は高々0.3 程度の確率である。このため、やや非保守的であるが、①の起因 事象についても図 3.7 に示す SDP 用イベントツリーを代用する。 (2) SDP 用イベントツリーの分岐確率等に用いる係数 SDP 用イベントツリーでは、検査指摘事項等によるリスクへの影響度合を評価して、その 結果を~3 段階程度に区分する。SDP 用イベントツリーでは、リスクへの影響度合(例えば、 炉心損傷頻度の変化割合)のオーダーを簡略評価する。このため、米国 NRC の原子炉監督 プロセス(ROP)の SDP で用いられている方法(3.4)と同様に、起因事象頻度及び緩和系統の

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アンアベイラビリティについて、それらの対数の絶対値を四捨五入した係数をイベントツリ ーの分岐確率等に用いる。 a. 起因事象頻度 SDP 用イベントツリーに用いる係数のうち、起因事象については、PSA で用いている大、 中、小 LOCA、過渡事象及び外部電源喪失の各事象の頻度を用いる。過渡事象頻度は、PCS 使用可能な過渡事象の頻度とPCS 使用可能な過渡事象の頻度の合計とする。 また、ATWS 事象については、過渡事象頻度にスクラム系の機能喪失頻度を乗じた値と する。LOCA 及び外部電源喪失については、頻度が小さいこと等から ATWS 事象の頻度へ の寄与が小さいため無視できると見なす。 b.緩和系統のアンアベイラビリティ 安全重要度決定用イベントツリーのヘディングのうち以下のヘディングについては、 BWR5 型プラントのプラント間で、アンアベイラビリティが同等の値であると見なして、 プラントによらずに一意的に定める。 逃がし安全弁再閉失敗 給水系 原子炉減圧 主蒸気・給復水系 格納容器ベント 外部電源復旧(30 分以内) 交流電源復旧(8 時間以内) 交流電源復旧(24 間以内) 再循環ポンプトリップ 反応度制御 - - これらのヘディングの係数は、各ヘディングのアンアベイラビリティの対数の絶対値と して定める。係数が変化する境界値は、原則として、アンアベイラビリティの仮数の値で √10 とする。(例えば、アンアベイラビリティが 3.16E-02 であれば、係数は 2 とするなど) 一方、高圧系、低圧系、残留熱除去系及び非常用電源確保については、BWR5 型プラン トであっても、例えば、補機冷却系の系統構成の相違等から、プラント間でアンアベイラ ビリティの値が相違すると推測される。これらについては、以下のように定める。 高圧炉心スプレイ系 √10 を厳密に適用せず、仮数が√10 に近い範囲であれば同一にす ることとし、各プラントで係数として2 を用いる。 原子炉隔離時冷却系 各プラントに共通して、原則どおり、係数として1 を用いる。 高圧系(高圧炉心スプレイ 系 及 び 原 子 炉 隔 離 時 冷 却 系) 高圧炉心スプレイ系と原子炉隔離時冷却系の係数の合計とする。

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低圧系(低圧注入系及び低 圧炉心スプレイ系) 低圧系は、低圧注入系3 系統と低圧炉心スプレイ系の合計である。 低圧系のアンアベイラビリティは各プラントで相違するため、係 数では3~5 の範囲でバラツキがでる。このため、プラント群に応 じて、係数を変更することが適切かもしれないが、保守的に代表 的BWR5 型プラントの係数 3 を用いる。 復水系 √10 を厳密に適用すると係数は 0 となるが、仮数が√10 に近い値 であること、復水系への影響を考慮すべきであること等から係数 として1 を用いる。 低圧系(低圧注入系、低圧 炉 心 ス プ レ イ 系 及 び 復 水 系) 低圧系(低圧注入系及び低圧炉心スプレイ系)と復水系の係数の 合計とする。 残留熱除去系 √10 を厳密に適用せず、仮数が√10 に近い範囲であれば同一にす ることとし、保守的にBWR5 型プラントの係数 3 を用いる。 非常用電源の確保 各プラントに共通して、原則どおり、係数として1 を用いる。 c. 係数のまとめ SDP 用イベントツリーに用いる係数のまとめを表 3.4 及び表 3.5 に示す。b.に記載したと おり、プラント間のバラツキを考慮せずに保守的に設定した係数等、暫定的に設定した係 数があり、これらは試行を通して適宜変更していく必要がある。 (参考)アンアベイラビリティから係数を定める方法 緩和系統の係数を定める方法として、緩和系統のアンアベイラビリティの対数値を四捨五入す る方法と緩和系統のアンアベイラビリティの値を四捨五入する方法と2 通りの方法があり得 るが、原則として、前者を用いた。 3.3 安全重要度評価モデルの個別プラントへの展開 出力運転時内的事象に起因する炉心損傷頻度への影響を指標として、検査指摘事項等の安全重 要度を評価するための簡略イベントツリー(試行版)を作成した。このSDP 用イベントツリーを 個別プラントに展開していく必要があるが、その際の展開の考え方や仕組みについて、BWR5 型 プラントを対象にして検討した結果をまとめる。

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(1) 個別プラントへの展開の考え方 a. プラントグループへの展開 全55 基のプラントについて、リスクプロファイルを決める主要な要素である緩和系統の 構成に着目して、8 グループ程度(BWR3~5、ABWR、2~4 ループ、アイスコンデンサ型) に分類する。 b. プラントグループ内の代表プラントの評価モデルの作成 各グループの中の 1 つのプラント(以下「代表プラント」という。)について、当機構の PSA モデルを用いて、簡易イベントツリー(以下「イベントツリー」という。)を作成す る。なお、このPSA モデルは、米国データを使用したもので、アクシデントマネジメント 策は考慮していない。 c. 代表プラントの評価モデルの個別プラントへの適用性の確認 グループに属する個別プラントについて、代表プラントのイベントツリーを用いること が妥当であることを確認する。このため、代表プラントのイベントツリーの分岐確率の設 定では、実用的に入手できる範囲の情報に基づいて、その妥当性を判断できるようにして おく。 d. その他 緩和系統が、多重化又は多様化されているかどうか等をめやすにして、分岐確率を設定 する。リスクプロファイルへの影響が大きい要因が、その他にもあれば、これを実用的に 可能な範囲で考慮するか、又は分岐確率を保守的に設定する。 (2) 個別プラントへの展開の具体例 BWR5 型プラントを対象にして、代表プラントのイベントツリーをグループに属する個別 プラントに用いる際に、確認事項を整理する。 a. フロントライン系の系統構成 イベントツリー形状に影響するのは、主に、フロントライン系統の構成であるが、これ については、グループ内の個別プラントでの相違はないと推定される。この他、全交流電 源喪失時に原子炉隔離時冷却系を運転継続できる時間や、格納容器熱除去が必要になるま での時間余裕があるが、これらについても、グループ内の個別プラントで有意な相違はな いと推定される。 b. 補機冷却系の系統構成

表 2.1  施設の安全確保に係る 3 分野と保安規定項目との関連  保安規定項目 原子炉の安全 放射線防護 緊急時の措置 品質保証  ➡  ➡  ➡  保安管理体制 ➡ ➡ ➡ 運転管理 ○ - - 燃料管理 - - - 廃棄物管理  -  ○  -  放射線管理  -  ○  -  保守管理 ○ - - 緊急時の措置  -  -  ○  保安教育  ➡  ➡  ➡  記録及び報告  ➡  ➡  ➡  注 1
表 2.2  起因事象の種類、頻度と安全実績指標への適用性  (国内 BWR プラントの例)  起因事象 頻度( /炉年)  頻度の算出方法  PI への適用性  大 LOCA 2.2×10 -5 中 LOCA 7.0×10 -5 小 LOCA 2.2×10 -4 日米の BWR プラントの運転実績(LOCA の発生なし)から算出  インターフェイス LOCA  8.1×10 -9 弁の誤開放、内部破損等の故障確率から算出 不可 初期に PCS が使用可 能な過渡事象  2.4×10 -1 可 初期に PC
表 2.3  「炉心冷却」に関連する系統のアンアベイラビリティを用いる指標例  安全機能 対象系統の例( BWR5 プラントの場合)  炉心冷却機能  非常用炉心冷却系  ・低圧炉心スプレイ系  ・低圧注水系  ・高圧炉心スプレイ系  ・自動減圧系  原子炉停止後の除熱機能 残留熱を除去する系統 ・残留熱除去系(原子炉停止時冷却モード) ・原子炉隔離時冷却系 ・高圧炉心スプレイ系 ・逃がし安全弁(手動逃がし機能) ・自動減圧系(手動逃がし機能) 注 1
表 2.4  安全実績指標における具体的な指標例のまとめ  分  野  小分類 安全実績指標(例)  異常発生の防止機能  ○  計画外スクラム回数  ○  熱除去機能喪失を伴う計画外スクラム回数  ○  計画外出力変動回数  異常影響の緩和機能  ○  緩和系統のアンアベイラビリティ  ・  高圧炉心スプレイ系  ・  低圧炉心スプレイ系  ・  低圧注入系  ・  原子炉隔離時冷却系  ・  残留熱除去系 ・  非常用ディーゼル発電機 ○  緩和系統の故障事例件数 原子炉の安全  放射能閉じ込め機能
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参照

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