平成 9 年12月 8 日第 3 種郵便物認可 令和元年 9 月30日発行(隔月発行)第144号
2019
No.
144
俳句ユネスコ無形文化遺産
登録推進協議会
日本の伝統詩型である俳句は、戦前から日系移民が多かった南米でもさか んだ。なかでもアルゼンチンは、国民的な作家が俳句に傾倒したことで人々 に浸透したという経緯がある。俳句は17音の詩型だが、スペイン語でも 五七五の音律になっているものが多い。 アルゼンチンには四季がある。春にはハカランダの薄紫の花が一斉に咲 き、一斉に散る。だから花か鳥ちょう諷ふう詠えいがなじんだのだろう。私は十数年前から毎 年のように現地を訪れ、この地の「ハイク」を追いかけてきた。 もともと私はスペイン語圏の文学と韻律分析が専門だ。たまたま立ち寄っ たブエノスアイレスの日本大使館で、地元詩人らのハイク作品集に出合っ た。ページをめくるとその美しい調べに驚いた。
例えば〈Besa la luna/al beberla mi toche/en charcos de agua.〉(口づけ
て驢ろ馬ばは水み な も面の月を飲む)。昭和初期の日系移民、久保田古丹の最後の弟子
だった詩人の作品。家族で夏を過ごす南部パタゴニアの風景を詠んでいる。 内陸都市コルドバの作家は〈Vuelo de jote./Su sombra se desliza/por el faldeo.〉(コンドルの影滑りゆく山の襞ひだ)と詠んだ。雄大なアンデス山脈の 写生の中に繊細な観察が光る。 アルゼンチンに俳句が入ったのは明治後期。隣国ブラジルに比べると移民 社会が小さく、現地語での普及をめざしたのは自然な流れだろう。中心に なったのは久保田と崎原風子の 2 人だった。 久保田は現地の邦字紙「らぷらた報知」の俳壇の選者を務め、崎原はそこ に投句していた。「らぷらた報知」の俳壇は自在な句風の加藤楸邨が選者を していたこともあり、伝統系・現代系両方の俳人を生み出すことになった。 そこからいかにしてスペイン語ハイクの隆盛につながったのか。その立役 者がホルヘ・ルイス・ボルヘスやフリオ・コルタサルらラテンアメリカ文学 を代表する作家たちだったといえば、外国文学に関心のある人は驚くかもし れない。新しい詩の表現方法を模索していた彼らがたどり着いたのが、17音 にイメージを凝縮させる俳句だった。 特にコルタサルは芭蕉に傾倒し、自身の詩集のタイトルを「秋の暮」とし たほどだ。〈この道を行く人なしに秋の暮〉から取っているのである。国民
『五・七・五 ラテンの風に舞う』
アルゼンチンに渡った日本伝統の調べを追って
井尻香代子3 作家の影響力は大きく、コルタサルの話をラジオで聞いて感動し、ハイクを 始めたという人も少なくない。 アルゼンチン人が五七五の韻律を受け入れたのには、伝統的な詩と通じる ものがあったからだ。スペイン語圏には小唄や民謡になっているセギディ リャという詩型があり、それが七五調なのだ。10人のアルゼンチン人にハイ クを朗読してもらったことがある。その調子を分析すると、見事にスペイン 短詩のアクセントが踏まえられていた。 2014年に数人で句をつなげる連句のセミナーを現地で 4 回開いた。どの会 場も盛況で、なかには 6 時間バスで揺られて来場した参加者もいた。スペイ ン語圏の人々が詩にかける熱情に心打たれた。 英語圏と比べてスペイン語圏の俳壇との交流は遅れていた。しかし私が選 者を務める熊本の「草枕」国際俳句大会外国語部門ではスペイン語で投句で きるようにするなど少しずつ接点を増やしている。これまでの研究は「アル ゼンチンに渡った俳句」(丸善出版)として今春刊行できたので、これをス ペイン語訳し、さらに交流を深めたい。 京都産業大学文化学部長 2019年(令和元年) 7 月15日(月曜日) 日本経済新聞掲載
―― HI Club ―― ①
―― HI 選集 ―― ①
WEST, Bill(U.S.A.) ウエスト,ビル(アメリカ)
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The leaves turn kakhi at September's beginning... drab before golden
木々はくすんだカーキ色 9 月が始まった… 黄金色に染まる前触れ ROSS, Bruce(U.S.A.) ロス,ブルース(アメリカ) ● ● a goldfinch rests
among first yellow blossoms brightening sunlight 一羽の五色鶸が 咲き始めた黄色花の中に… 陽はさらに輝く KURODA, Motoko(U.S.A.) 黒田素子(アメリカ) ● ●
Rotting flower has beauty itself I keep them in the dish water and enjoy for a while
朽ちてゆく 花の美しばし 皿水に
( 自訳 )
MACHMILLER, Patricia J.(U.S.A.) マックミラー,パトリシア J.(アメリカ)
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gazebo -
on the wooden floor sunlight fluttering
東屋の 木の床に日が 揺れている
PARTRIDGE, Brent Alan(U.S.A.) パートリッジ,ブレント アラン(アメリカ)
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orange harvest moon - the wildfire smoke of global warming
中秋の名月… 汝野火の煙は 地球温暖化
HRYCIUK, Marshall John Louis(CANADA) リチューク,マーシャル ジョン ルイス(カナダ)
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lain in front of the donation bin a walker's crook
物品寄付回収箱の前に 置かれた
5 MONTREUIL, Mike(CANADA) モントリール,マイク(カナダ) ● ● long winter the homeless still homeless 長い冬 ホームレスが ホームレスのまま HANSEN, Hanne(DENMARK) ハンセン,アナ(デンマーク) ● ● a small moon
just a round spot in the sky seen in a glance 小さな月 空にただ小さな点 一目瞭然 STOPAR, Rudi(SLOVENIA) ストパール,ルデイ(スロベニア) ● ● wrapped in a cobweb a slip of a paper on the door coming instantly ドアに貼られたメモ 蜘蛛の巣だらけ すぐ帰ってきたのに (松本彰二訳) KURODA, Motoko(U.S.A.) 黒田素子(アメリカ) ● ● Sudden gust
made fallen leaves dancing surrounded me
突風に 落葉の舞に 囲まるる
中沢一紅(千葉) NAKAZAWA Ikko
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人生の余白まだまだ春大根 My remaining years
are more and yet more... the spring white radish
庭山邦子(東京) NIWAYAMA Kuniko
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内裏雛親の思ひを纏ひたる The pair hina dolls clothed in kimono with parental affection
和田 仁(秋田) WADA Jin
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春泥の杖で指したる津軽富士 Pointing at Mt. Tsugaru-Fuji a walking-stick
with spring mud
田仲摩諭子(千葉) TANAKA Mitsuko
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平成の乾通りの桜かな the Heisei era...
cherry blossom viewers rushing to the Inui street
加瀬谷敏子(秋田) KASEYA Toshiko
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かまくらや眠る大地に鎮座せり Kamakura...
ensconced town the land sleeps
半澤美惠子(栃木) HANZAWA Mieko
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夏立つや糊を利かせの卓カバー Summer has come... a well-starched cloth on the dining table
13
船矢深雪(函館) FUNAYA Miyuki
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風薫るクイーン・エリザベス号入港す Fresh breezes of May... the Queen Elizabeth II arrives in port
秋本弘子(高知) AKIMOTO Hiroko
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初蝶の吹かるるままに自在かな The first butterfly floating freely fanned by winds
根津静江(函館) NEZU Shizue
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チューリップ広がる丘や海見えて Tulips on the hill spreading all the way towards the sea
あさだ麻実(静岡) ASADA Mami
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今朝の雨ほたる袋は項うな垂だれし The rain this morning... campanula
is drooping down
菊池恵海(東京) KIKUCHI Keikai
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薫風や地球儀回し旅支度 Fresh scent of wind... Preparation for a trip abroad By turning round the globe
矢野真緋子(広島) YANO Mahiko
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てふてふと擦れ合ふ風をクッションに My cushion... the wind rubs against butterflies
石綿久子(東京) ISHIWATA Hisako
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独りとは自由で哀し夕牡丹 Sorrowful freedom
for being single... peony in the evening
染葉三枝子(静岡) SOMEHA Mieko
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千年の時を木肌に楠若葉 The laurel tree
thousands of years old... young green leaves
宮田 勝(金沢) MIYATA Masaru
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楽曲につられ薔薇園深入りす Attracted by music I entered inside... the rose garden
山井きなこ(石川) YAMANOI Kinako
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母の日や曾孫を見せて名を呼ばせ Mother’s Day...
I suggested my mother to call her great-grandchild by name
清水暁子(函館) SHIMIZU Akiko
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心根は365日母の日よ Happy Mother’s Day... my heart stands with you for 365 days
久保田悦子(茨城) KUBOTA Etsuko
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朝市の弾む会話や初鰹 Morning market
our conversation became lively... the first catch of bonito
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三好万記子(東京) MIYOSHI Makiko
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かはたれの寺に異国語桜東風 A foreign language in the temple of dawn... early spring east-wind
小野郁巴(福島) ONO Ikuha
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ヘッセの書老を励ます朧の夜 The book by Hesse
encourages oldness... hazy night
陳 宝来(沖縄) CHIN Horai
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余花の雨大地固めて今日令和 The solid earth comes after the early summer rains... the Reiwa era starts today
逸見真三(千葉) HENMI Shinzo
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粧へる草木を入れ湖の秋 Beautifully clad trees are reflected onto the autumn lake
大久保幸子(東京) OKUBO Yukiko
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マーガレット群れ咲き馬場へつづく径 Marguerites
blooming all over the paths toward the riding grounds
辻 美智子(名古屋) TSUJI Michiko
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み吉野の旅をいざなふ春の雲 Luring me to
the beautiful Yoshino is in spring clouds
津森優子(横浜) TSUMORI Yuko
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山ぼうし紫蘭につつじの令和かな Flowering dogwood, purple orchid, azalea - all in harmony
with the new era “Reiwa”
望月よし生(北海道) MOCHIZUKI Yoshiwo
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オリオンや碁敵との差 星三つ L’Orion -
Mon rival dame trois pions au jeu de go
清水京子(名古屋) SHIMIZU Kyoko
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両陛下笑みつ退位や大牡丹 Great peonies -
the Emperor and the empress retire with smiles
鈴木石花(桐生) SUZUKI Sekka
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川岸の自転車用道風光る The wind is shining, on bicycle track at riverside
乃万美奈子(愛媛) NOMA Minako
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手作り雛アンバランスの目それが笑み hand made hinadoll imbalance eyes with a smile
加藤響子(愛知) KATO Kyoko
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母の日や縫い物好きは母ゆずり Mother’s Day
loves for sewing me too
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橋本文男(千葉) HASHIMOTO Fumio
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万葉の所縁の令和青葉風 Balmy summer breeze!
starts new era REIWA taken
from Japanese classic MANYOUSHU
陽 二(西蒲田) YOJI
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氷点下三十度なるシベリアへ visit
cold winter of Siberia minus thirty degrees
磯 直道(埼玉) ISO Naomichi
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梅の香につつまれており宮参り Visiting the shrine
wrapped in the fragrance of the plum blossoms
秋山マリア(東京) AKIYAMA Maria
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日常に変りなけれど改元す nothing new in daily life - nevertheless
new era started May first
内村恭子(東京) UCHIMURA Kyoko ● ● 舟遊び大人ばかりが濡れてゐて Pleasure boat grown-ups tend to get wet 毬矢まりえ(東京) MARIYA Marie ● ● 巻貝や真夏の海の置土産 summer sea’s parting present - a spiral shell
須賀川市は、福島県のほぼ中央に位置し、国道 4 号を挟んで東西に伸び、 市街地は南北に馬の背のように伸びた丘陵地に広がっています。 江戸時代、奥州街道屈指の宿場町として栄え、1689年には、俳聖・松尾芭 蕉が「おくのほそ道」行脚の際に、かねてより親交のあった相楽等躬を訪ね、 7 泊 8 日滞在しています。これは、当時の須賀川俳壇が高い水準にあり、更 に等躬や須賀川の俳人らの手厚いもてなしがあったからこそと思われます。 その後も等躬と蕉風俳諧の系譜を受け継ぎ、藤井晋流や石井雨考、市原多代 女などの須賀川俳壇の輝かしい歴史と精神は脈々と受け継がれています。 現在、市内の景勝地や小中学校に俳句ポストを設置しており、市内外から 毎年9,000句以上の投句がされています。これは、次世代を担う子ども達の 言語能力や表現能力を培うほか、市民や観光で訪れたお客様へ「俳句のまち 須賀川」を発信し、俳句に親しんでもらうことにも繋がっています。 また、平成元年に芭蕉来訪300年を記念し整備された「芭蕉記念館」は、 須賀川の観光及び市民の学術・文化振興の拠点として利用され、多くの来訪 者をお迎えしました。しかし、東日本大震災により甚大な被害を被り、等躬 屋敷跡に建つビルに移転し、仮設運営していますが、その機能を継承しつ つ、郷土の偉人顕彰や俳句を中心とした文化の継承、それらを通じた人々の 交流を促す施設として、「風流のはじめ館」の整備を進めており、来年度の 開館を目指しています。この施設の名称は、芭蕉が「おくのほそ道」行脚の 途上、みちのくの地に入った感慨について詠んだ「風流の初めやおくの田植 うた」を踏まえたもので、市民等の参加を得て開催した施設名称検討ワーク ショップで提案された中から選定しました。 更に、昨年「松明あかし」が「俳句歳時記」の季語として収載されまし た。先に収載されています「牡丹焚火」と合わせて 2 例目となりますが、市 内の俳句結社「桔槹吟社」を中心とした地道な活動が結実したものであり、 改めて敬意と感謝を申し上げる次第です。 このように、官民一体となって俳句文化を後世へ伝えるため取り組んでお ります。協議会の皆さまとユネスコ無形文化遺産登録を目指し活動すること は、本市の取組を更に発展させる契機になるものとして期待しております。