地域創生のための農業デザイン活動
6
0
0
全文
(2) 古くから養蚕の栄えた上田で作られる上田紬も特徴である。 養蚕業の発達とともに上田紬は日本の三大紬とうたわれるほど 発展し、さらに明治から大正時代にかけては全国有数の蚕種 (さんしゅ)の生産地となり、全国の蚕糸業を支える「蚕都」 として隆盛を極めた。 現在は、総合的な都市機能を高め、活力あふれる交流の拠点 づくりを進めるため、上田駅周辺の再開発を行い、市街地の活 性化と商業の振興を一体的に推進している。さらに、産学官連 携支援施設などの特色ある資源を活用し、専門的な分野に対応 できる人材の育成や共同研究、受委託研究等の取り組みが盛ん である。 観光的には、観光地としての上田市は、数多くの歴史的文化 遺産や特色ある伝統行事、国指定の二つの高原に代表される雄 大な自然、由緒ある温泉等々、地域の個性が際立つ豊富な観光 資源を有しており、それぞれが四季折々の多様な彩りである。 戦国時代、真田氏は武勇に優れた智将として全国にその名を轟 かせ、日本の歴史の要所に影響を与えました。1583年に上田 城を築いた真田昌幸、大坂冬の陣・夏の陣での真田幸村など名 図1 長野県上田市位置(長野県地図). 将の足跡も残っている。 一方では、上田地域は、豊かな自然環境に加え全国的にも稀. を使ってやっと500坪程度の荒廃地を借りることができた。. な少雨地帯であること、歴史的な家並み等日本の原風景が数多. 当初、予想していた以上に育成は難しく、慣れない農作業は. く残っていることから、これまでに85本余りの名作映画の舞. 大変であり収穫量や収入は見込めず1年目にして多くの協力者. 台となっています。現在では、年間100本近い映画やテレビド. が疲れ果て、失望して辞めてしまうなど、2年目も同様で試行. ラマ等の撮影が行われている。サマーウォーズや晴天の霹靂な. 錯誤の連続であり、協力的だった市の援助も打ち切りになり、. ど映画の舞台になる地域として様々な情報発信をしながら、市. 頼みの契約先の企業も解散となりまさに八方ふさがりの状態で. 民が誇りに思う元気なまちづくりを目指している。2016年に. あった。. は大河ドラマ『真田丸』の舞台になり、真田幸村と関連付けら. 3年目は栽培品種を当初の「トウキ」から「地黄」に絞り込 んで、効率化と会の継続を数名で何とかするのが精いっぱいの 状態であった。. れ話題が集まっている。 4.2. 薬草ビジネスの可能性 農地が多い上田市では、農業事業者の年齢の全国平均がます. しかし、この最悪の時期に土壌を根本的に活性化させるノウ. ます高くなるということから使われていない荒廃農地を改善す. ハウと農業経験者や強力な新たな参加者が加わり何とか希望を. る、後継者問題などの問題を抱えている。現在、力を入れてい. 持てるような雰囲気が持てるようになった。. る観光事業に備え、新たな可能性を持った事業の一つが「薬草 ビジネス」であった。上田市は晴れが多く少雨乾燥地帯という. 4.地黄による地域産業の展開. ことから薬草産業に適しており、標高が500mから2,000mま. 4.1. 地理的特徴. であるため多様な薬草栽培が可能である。さらに、上田市内. 地理的には、日本最長の千曲川が流れ、菅平高原や美ヶ原高 原の雄大な山に囲まれている長野県上田市(図1)は河原沿い. 4. 360ha 以上ある中山間の荒廃農地を利用し栽培することがで きる。. には平坦地や丘陵地帯が広がっているため、比較的畑が多いこ. 以上のように、この地域の「地黄」を活かした事業を展開し. とが特徴的である。晴天率が高く、年間の平均降水量が約900. ているのが「信州上田薬草の会」であり、当会は、2010年に. ミリメートルと全国でも有数の少雨乾燥地帯である。農業は、. 結成し、気候・風土・歴史などから地元に適した地黄を植え、. 少雨多照な気象条件を活かし、比較的標高の低い平坦地では、. 大規模栽培することによって中国品から日本品へ転換させ、新. 水稲、果樹、花などが準高冷地では野菜や花き、高冷地では野. 栽培技術を確立し、図2に示すような構想を踏まえて、市場調. 菜を主力とした生産が行われている。. 査、薬効分析などを実施の上、乾地黄と地黄入りの新商品を開. デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-4 No.96 2017.
(3) 図2 地黄を活かした農業デザイン構想. 発し市場を開拓創設することを目的としている。 そして4年目、機械化や作業効率を大幅見直しして、昨年度 の作業日数が十分の一に激減、収穫高も3倍となり、連作障害 も何とか目途が立った。それに連動するように大手の製薬メー. 図3 選定された入浴料パッケージのデザイン. カーや漢方薬問屋さんとのご縁も頂き来年度に向けて躍進する 体制が整いつつある。 収穫した地黄の二次加工方法の確立と安定販売先の確保が 2015年の目標であり、この問題解決ができるように活動を進 めている。. として活用できる。 4)地域活性化:「薬草の町、上田」と認識させ、観光戦略と の連携。 5)農業の新たな提案:地域特性を生かした特色ある農業形態 の提案。. 5.信州上田薬草会による地域産業の農業デザインの展開 5.1. 農業の6次産業化 近年、農林漁業の6次産業化の必要性が提唱され、また政府 によっても推進されている。6次産業とは今村奈良臣氏(現東. 6)地域経済における企業誘致や新産業の創出:医療品メー カー等工場誘致の可能性。 7)農業を中心にした特色ある6次産業化の実現:1次産業か ら2次産業へ、3次産業まで連携を取り商品化。. 京大学名誉教授)が提唱した造語であり、図2に示すように、. 5.3. 商品化に向けて. 1次産業(農業生産)、2次産業(加工)、3次産業(流通・販. 1)入浴料の商品化. 売・ブランディング等)により、生産・加工・販売を一体化す. 当会は、地域の有志らと薬草栽培をし、薬草入浴料の商品化. ることを目的に、当会においても活動を進めている。. を2014年11月から発売する目的で、地黄のエキスが配合され. 5.2. 地黄による農業デザイン. た入浴料の開発を行った。長野大学デザイン研究室との共同プ. 薬草栽培をし、農業デザインの実践を行うことによって以下. ロジェクトで商品のパッケージのデザインなどを制作した。制. の効果が得られると考えられる。. 作することとなった学生10人がコンペティション形式で始め、. 1)遊休荒廃農地解消:上田市地域にある遊休荒廃農地を薬草. 何回にかけた打ち合わせからを絞り、より上田らしいも表現し. 栽培に使用することで豊かな農村風景の復活が考えられ る。 2)有害鳥獣被害対策:作物と違い鹿やイノシシの獣被害のな い栽培が可能など、対策費用などが削減できる。 3)障害者・高齢者対策:栽培過程の安易さから雇用の受け皿. たものに選定された。 パッケージを決定する中で主に重視した点は「地域性」と 「ターゲット」である。「地域性」の面では真田家の家紋である 六文銭や雁金を使い、この地域にしかない独特な要素を込めた デザインに仕上げることになった。また、上田は温泉の多い地 デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-4 No.96 2017. 5.
(4) 図4 新商品のパッケージのデザイン. 図5 銀座 nagano 薬膳料理試食会. 域であり、温泉のイメージを商品名に取り入れることで地域性. 外装パッケージは目に留まりやすい「赤」を基調とし、贈り. の向上を図った。「ターゲット」は、観光目的で上田に来た人. 物の様な見た目を意識してデザインした。古くより旅に用いる. やお土産購入を迷っている人、老若男女に購入しやすいもので. ものとして風呂敷が使われていたという点や、大切なものを. あることが求められた。ジオウの認知度が低いため、ジオウと. 包んで持ち帰るというイメージから風呂敷のような背景にし、. はどのようなものかが伝わりやすいパッケージにすることが課. “お土産として持ち帰る入浴料”をデザインコンセプトとした。. 題に挙がった。「ジオウエキス配合」というワードを目立たせ. また、真田氏ゆかりの地である上田を詣ってきたことを思い出. るには、パッケージとの調和を考えながらジオウのイラストや. して持ち帰ってもらおうという考えから「真田丸詣り 入浴. 写真を取り入れる工夫が必要となった。. 料」と名付けた(図3)。. 内装パッケージは上田に縁のある真田家の家紋をキャラク. 6. 2)「真田丸詣り」の新商品化. ター化した親しみやすさや、 「戦う前にひとっ風呂」といった印. 図4に示すように、新たな商品開発を行い、2015年にお土. 象に残りやすいキャッチコピー、絵柄によって「真田湯侍」 「真. 産からノベルティグッズへという傾向に沿って、デザインを. 田美人」 「真田子侍」と名付け家族で楽しめるなどの優れた点. 行った。前回と比べ多少暗い色の上に金色の特色を乗せ、シン. を評価されたものに決定した。また、温泉と同様に上田地域に. プルで高級感を持つデザインである。黄色で入っている模様. もう一つ多く存在するものが神社である。御守りに似せた入浴. は、地黄の花のイメージをしており、上下にかけて広く配置す. 料を持ち帰ることでご利益がある様にという遊び心も込めた。. ることでインパクトを与えるのではないかと考え、化粧水、乳. デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-4 No.96 2017.
(5) 図6 地元での試食会の様子(上田中央公民館). 液も同様にデザインを行った。 そして、新たな商品の付加価値やブランドに繋がる活動とし て、長野県の東京都内アンテナショップである「銀座 nagano」. セプトにデザインされているが、日常的に使用できる商品とし ての方向性も確立できるのではないかと推測できた。 大学の教授による講演会は、農村デザインの観点からジオウ. で、商品のPRや薬膳料理試食会の開催など、地黄による地域. について、今後ジオウが広まるにつれて生で食用として出回る. 振興のための活動を継続的に進めている。また、完成した商品. 可能性などの内容が含まれた。その中で、薬草の会が行ってい. は銀行のノベルティグッズとして、人々の手に渡っている。. る活動や商品化にあたって行ったパッケージデザインのコンセ. 3)新商品発表会. プト等の詳細も発表された。受講した来場客からは、生地黄の. 今回は、銀座 nagano で購入することができる入浴料と、そ. 販売を行っているかどうか、どうしたら手に入るか等の質問が. れにパッケージをあわせたジオウ入り石けん、ジオウ入り化粧. 出た。ジオウに対する知識を得て、興味や関心を高めることが. 水を発表した(図5)。. できたと考えられる。. 石けんは、主に香りや色の評価、化粧水は実際に手に試し、. 4)銀座 nagano 薬膳料理試食会. 効果を感じていただいた。来場客からは、「ぜひ、続けて使用. 図5に示すように薬膳料理の試食会では、健康食プロデュー. してみたい」「家に持ち帰って使いたい」「肌がよみがえるよう. サーライフスタイルコンサルタント料理研究家の金子瑞穂氏を. だ」等の意見があり、好印象を与えた。来場客の中では、特に. 招き、オイルとジオウを融合させた調理方法を発表し、数種類. 年配の女性から興味を持たれ、年齢層が高い方が好む商品であ. のジオウ料理の試食会を行った。. ることが分かった。新商品のパッケージは高価な贈り物をコン. そのほか、ジオウを利用した薬膳カレーの試食も行い、アン デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-4 No.96 2017. 7.
(6) ケートに感想を記入していただく調査を行った。会場からは、. を高める活動が必要であると思われる。. 「ジオウは食べやすいので自分でも調理してみたい」、「レシピ. 信州上田薬草の会と長野大学生の今後の取り組み方を踏ま. を持ち帰り、実際に地黄が手に入ったら作りたい」などの声が. え、新しい形での提案や地域振興のための農村デザインのさら. 上がった。. なる活動を進めていく必要がある。. 地黄を用いた薬膳料理試食会は、今回が初めてのため、地黄. 筆者らも、「信州上田薬草の会」の協力者であり、研究者と. の存在を大きく広めることができたものの薬事法などの問題. して学術面でのサポートを行うとともに、学生の地域活動など. で、地黄を使用した薬膳料理の実現には、課題が存在すること. を通じて積極的に活動をサポートし、薬草の会の最大の特徴で. が明らかとなった。. ある展開のスピードを維持しつつ、今後、さらなる発展と維持. そのためにも、継続的な研究が必要であると同時に、数多く. につなげられるよう努力していきたい。. の使用会を通じて、はじめて可能性が見えてくるのではないか と思われる。 5)地元での薬膳料理試食会(上田市中央公民館) 当会は、地元での地黄の広報活動のため、図6に示すよう に、地元の有志らを招く、上田市中央公民館で第2回薬膳料理. 本稿は、アジアデザイン文化学会主催の第10回アジアデザ イン文化学会国際シンポジウム南京大会において発表した内容 「アジアデザイン文化学会論文集「issueno. 10, october, pp. 1145-1154, 2016」に掲載されたものに加筆したものである。. 試食会が行われた。予約枠は30名だったが、当日は約10名を 上回る来場客が訪れた。 銀座 nagano で行った薬膳料理試食会のネット上での評判も あり、地元民の関心を集め多くの来場客が訪れた。前回のプロ グラム内容に加え、薬草の会の活動報告を行った。地黄を使っ た薬膳料理の試食会もあり、参加者約30人が地黄入りのサラ ダやカレーなどを味わった。 以上のように「信州上田薬草の会」は、上田市をフィールド とし、「地黄」という地域資源を活かした上田薬草の会を中心 とし農地活用、雇用問題、観光資源、健康促進等の問題点が今 後の上田市発展の鍵となることから、組織の成り立ちや地黄栽 培・販売促進事業に関する活動を整理し、地域資源の活用と地 域振興のあり方を取り上げた。さらに、イベント開催や入浴 料・石鹸などのお土産開発を行うことで新たな可能性を生み出 す。. 6.まとめ 今回は、「信州上田薬草の会」の活動を取り上げ、地域振興 のための農業デザインのあり方や地黄(ジオウ)を栽培し、そ の魅力を地域とともに再発見・再認識し、その地域ならではの 資源を生かした継続可能な活動を地域創生につなげようとした ものである。 当会の活動は、地域振興のために、展開のスピード、人材配 置、産学官連携といった活動を進めていくにあたっての大きな 特徴を有すると同時に、情報共有や資金の確保といった面での 課題も抱えていた。 したがって、6次産業化に向けて、生産・加工・販売などを 進めていくうえで、必要とされる商品の認知度を上げるための 活動、たとえば、イベント開催時のブース出展や長野県の東京 都内アンテナショップでの販売やイベントなど、地黄の認知度. 8. デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-4 No.96 2017. 【参考文献】 1)漢方のツムラ/漢方の歴史. 2)原料生薬使用量等調査報告書(3)─平成23年度および 24年度. 3)『新訂 原色牧野和漢薬草大図鑑』,岡田 稔 新訂監修/ 三橋 博の使用量─..
(7)
関連したドキュメント
担い手に農地を集積するための土地利用調整に関する話し合いや農家の意
創業当時、日本では機械のオイル漏れを 防ぐために革製パッキンが使われていま
に文化庁が策定した「文化財活用・理解促進戦略プログラム 2020 」では、文化財を貴重 な地域・観光資源として活用するための取組みとして、平成 32
需要動向に対応して,長期にわたる効率的な安定供給を確保するため, 500kV 基 幹系統を拠点とし,地域的な需要動向,既設系統の状況などを勘案のうえ,需要
定的に定まり具体化されたのは︑
第76条 地盤沈下の防止の対策が必要な地域として規則で定める地
園内で開催される夏祭りには 地域の方たちや卒園した子ど もたちにも参加してもらってい
既往ボーリングに より確認されてい る安田層上面の谷 地形を埋めたもの と推定される堆積 物の分布を明らか にするために、追 加ボーリングを掘