C A N C E R 4 (1995), p. 5-8
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ノコギリガザミの分類に関する問題点
伏 屋 玲 子 ・渡 遺 精 一
ノコギリガ、ザミ Scylla serrataはワタリガニ科 に属する最大の種といわれており,ハワイ,オ ー ストラリア, 日本,中国,台湾,ベトナム,タイ, マレーシア,インドネシア , アフリカ東岸,南岸 などの太平洋, インド洋沿岸に広く分布している CSakai , 1986; C o w a n , 1984,図 1 ) . ノコギリガ ザミは m ud crab あるいは mangrove crab とい う名で知られているように,各地の内湾,河口付 近や,マングロープ域などの汽水域に生息してい る. 日本では利根川河口以南の内湾河口域に生息 しており,静岡県浜名湖,高知県浦戸湾,宮崎県, 沖縄県八重山諸島などで漁獲されている. 世界中広範囲に分布しているノコギリガザミは,S.
serrata1
種のみではな く数種が各地に分布し 。 1000 省,., JO¥)。也m -ているのではないかといわれている . この問題に ついては, 1949年に Estampador が S.serratα, S. trαnquebarica, S. oceαm cα,
S. serrαtαvar. pαr a m a mosαL n の3種l変 ( 亜 ) 種 C 4型 ) に 区別したことから始まる( 表1) . Estampador は 従来の記録を検討し, フィリピン産の標本をもと に甲やはさみの色彩に加えて各部の模様,前額突 起( 額の練の突出の状態) ,剛毛,生息場所など によって区別した. その後, Serene (1952) もベ トナム産の標本を用いて,前額突起,はさみ脚の 腕節外縁にある腕,前側縁等の観察から同様の見 解を示した( 表 1 ). しかし , Stephenson and C a m pbell (1960) は , オ ー ス ト ラ リ ア の Queensland 産と N e w South W ales 産の標本を検“
、 一?可・ ;r.、
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図1 . ノコギリガザミの分布減Reiko F U S E YA & Seiichi W A T A N A B E : Notes on the
6 ノコギリカザミの分類に関する問題点
表1 各研究者が用いた分類形質
E . P . E st a m p a d o r (1949)
各部 S.oceαπl Cα S. trαnquebαn ca S. s芭rrata pαrSG.mseαrmr-αotsGGte n
甲の色 緑色 灰緑色 濃 紫 が か っ た く す ん 濃赤褐色 明 る い 紫 S. serrαta に似て明る だ緑色 がかった褐色 い色 前額突起 丸い はさみの色 赤や紫っぽくない ふつう,紫色. ツメ は赤色でときに白っ ぽい 甲の剛毛 ブラシ状の剛毛が豊富 肝域に限定 模様 甲,脚 ,腹部に紫がかっ た 濃 褐 色 で ふ ち ど ら れ 遊 泳 脚 と メ ス の 腹 部 甲 や 遊 泳 脚 に 小 さ な た白灰色の大きな模様 に大きな模様 白い点 がある 生息域 放浪している 穴に入っている 甲のH型 の み ぞ 深 い 深い かすか Serene (1952)
各部 S.oceαn l Cα S. tran q uebαn cα S. serrαta pαrαS . m a m o sserrα:ta . αm
前額突起
はさみ脚腕節外側下縁赫 はさみ脚腕節上部外側線 甲の後縁
眼禽域
joel and Raj (1983) 各部 生息場所 甲の色 はさみ蜘の色 はさみ脚指節の色 はさみ脚前節の色 鋭い 微小 良く発達 相対的に幅広 狭い S. trαn quebαricα 泥底、巣 穴 (
2
つ) 中間 適度 良く発達 明 暗灰色がかった緑色 灰色 暗茶色 黄 緑 茶色がかった黄色 白 有 丸い なし 微弱に発達 S. serrαtα 巣 穴 (1 つ) 中間 良く発達 適度に発達 紅褐色がかった茶色 暗緑色がかった茶色 ピンクがかった茶色 緑に薄いピンク ピンク 茶色 無 はさみ脚指節の先の色 はさみ脚腕節外側の練 前額突起 4本とも尖っており,中央の2本は細め 4本ともすべて丸く長さは同じ 先は丸く ,上 を向いている 雄性突起 先が尖っており ,途中から 内側 に曲がってい る 雄性突起の色 繁殖期間 大城信弘 (1988) 各部 S.oceαn l Cα 甲の色 褐色 青緑色 前額突起 他2種の中間程度 はさみ脚腕節外側の練 2赫とも明確 アミメ模様 各脚 錯脚の色 大きさ 上面は濃緑褐色で下面にかけて若干 淡色. 赤色はツメの一部分のみ. 濃 緑色 緑色のアミメ紋様があるが, 樫色がかることはない. 最大2.5kg 以上 茶 赤色 2ヵ月長い S. tranquebαn cα 緑色系でやや淡い 先端が尖 っている 個体によって様々 遊泳脚と第3歩脚 S. serrata 黒褐色 幅広で鈍い 上部1練のみ 上部が緑褐色色ツメの 上面は緑色褐色. ツメの先端 先から下面は赤 黄 色 から下面にかけて淡めの櫨 特に目立った紋様はな 色緑色のアミメ紋様カ溌違 い 前節の内側では赤 黄色の 丸い斑点が散在. 他2種より小さい 最大1.5 kg程度伏屋玲子 ・渡遺精一 7 討した結果,S. serratα l種のみに統合した. 彼 等は,はさみ脚の腕節の赫によ る形態的差異は摩 耗などによるもの,体色や,生息地,習性などは 環境によるものであるとして, これまでの分け方 を否定した( 表1). 以来S.serrata 1種として扱 われているが, O n g (1964) はマレーシア 産 のノ コギリガザミを観察したところ, Estampador (1949) が区別した 4 型を認めている. また, Joel and Raj (1983) もインドの Pulicat湖に生 息するノコギリガザミについて,甲の色彩,前額 突起, はさみの色彩,はさみ脚腕節の腕の有無や 雄性突起の形態の違いなどからS. serratαとS. trαnquebαncaの2種を認めている( 表 1) . そし て, Pulicat湖に生息しているノコギリガザミ 2 種間での交配は観察されなか ったと報告 している. また, 日本でも少な くとも3種に区別すべきであ るとして, S. serratαアカテ ノコギリガザミ , S.oceαn w aアミメノコギリガザミ,
S.
trαnque-図2. ノコギリガザミの顔 図3. インドネシア,スガラアナカンで捕獲されたノコ ギリガザミ . 複数種含まれている可能性がある barica (卜ゲ) ノコギリガザミの新和名が提唱されている( 表1 ). S. serrαtαvar. paramαm osam については , 今後の検討を 要 す る と し て い る ( 山川 ・鈴木,1985; 大城, 1988). 沖 縄 県 で は S .oceanica が 多 く, 次 い で S. serrataが見られ, S. tranquebαncα は少ない. しかし,本州,四国に生息しているのは,ほとん どがS. tranquebαncαで あ る と い わ れ て い る (大城, 1988). 日本栽培漁業協会では本種の種苗 生産を行っているが,大城( 1988) の報告に基づ き,実質3種に区別している. 玉野事業場で生産 されているものは主にノコギリガザミ( 主に高知 県浦戸湾産と静岡県浜名湖産の親を使用) , 八重 山事業場で生産されているものはアミメノコギリ ガザミ( 主に沖縄県産の親を使用) と報告 されて いる . 大小様々な島からなっているインドネシアでは, ノコギリガザミは水産重要種であり ,盛んに漁獲 されている . ジャワ島中部の インド洋側にあ る Cilacap という町の近くのマングロ ー ブ域でも , ノコギリガザミ漁が行われている( 渡迭 ・Sulisti ono, 1993). この地域は河口域にいくつかの島が 存在し,河口付近と海洋に 近 い水域では場所によ り塩分濃度が異なり ,異なる種( 数種) が存在し ているように思われる( 図2 , 3 ) . ノコギリガザミが4種( 型) , 3種あるいは 1 種なのかどうかは,まだ明らかにされていない. この問題は, ノコギリガザミの研究を進めてい く うえでの重要な点であり,今後の見直しが必要で あると思われる . 現在,当研究室では, このノコギリガザミにつ いて研究を行っています. 従来の外部形態の観察 に加えて,新たにアイソザイム分析を用いた遺伝 学的検討および幼生の形態の観察を行っています. ノコギリガザミに関する情報( 特にサンプル収集 に関する情報) がございましたら ,下記住所の著 者宛にご連絡くださいますよう , よろしくお願い 申し上げます. 〒108 東京都港区港南 4 - 5 - 7 東京水産大学 資源育成学科
8 / コギリカザミの分類に関する問題点
文 献
C O W A N, L., 1984. Crab farming in Japan, Taiwan and the Philippines. Queensland Department of Primary lndustries, lnformation Series Q184009, 85 pp .
ESTAMPADOR, E. P., 1949. Studies on Scyllα CCrustacea: Portunidae), 1. Revision of the genus . T h e Philippine Journal of Science, 78
(1): 95-109.
JOEL, D. R. & RAJ, P. J. S., 1983. Taxonomic re-m a r k s on two species of the genus ScyllαD e H a a n (Portunidae: Brachyura) from P叫icat lake . lndian Journal of Fisheries, 30 0 ) : 13-26. O NG, K. S., 1964. T h巴early developmental stages
of Scyllα serratαF o r s k a l (Crustacea Portu-nidae), reared in the laboratory. Proceedings of lndo-Pacific Fisheries Council, 11 ( n )・135-146.
大城信弘, 1988. ノコギリガザミ類. サンゴ礁域の増養
殖. pp. 198-209,緑書房,東京.
SAKAI, T., 1976. Crabs of Japan and the Adjacent Seas. Kodansha, Tokyo. pp. 335-336.
SERENE, R., 1952. Les especes du genre Scyllα a Nhatrang (Vietnam). Proceedings of lndo-Pacific Fisheries Council, 3 (2) : 133-137. STEPHENSON, W . & CAMPBELL, B., 1960 . The
Austra-lian Portunids CCrustacea: Portunidae) IV. Remaining genera. Austrarian Journal of the M a -rine and Freshwater Research, 11 (1): 73-122
渡遺精一 ・Sulistiono,1993 インドネシア ・スガラア ナカンのノコギリガザミ. C A N C E R, 3; 17-20. 山川 紘 ・鈴木克美, 1985. ノコギリガザミー三 タイプ の謎. 日本の海洋生物 侵略と撹乱の生態学,東海大 学出版会,東京,pp. 110-117 ( 東京水産大学)