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全身の重症熱傷受傷後に早期から理学療法を施行した2 歳児例

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 47 巻第 6 号 609 ∼ 614 重症熱傷受傷後に早期から理学療法を施行した 頁(2020 年) 2 歳児例. 609. 症例報告. 全身の重症熱傷受傷後に早期から理学療法を施行した 2 歳児例* 野々垣政志 1)# 阪 井 裕 一 2) 山 本   満 3). 要旨 【目的】重症熱傷受傷後に早期から理学療法を行い,退院できた幼児を経験したので報告する。【症例】2 歳の男児,重症熱傷に対し人工呼吸管理下に治療を開始した。熱傷面積は体表の 72% で,頸部・体幹・ 右上腕は全周性にⅢ度熱傷であった。入院後 5 日目より理学療法を開始し,気管挿管中は鎮痛下で関節可 動域練習を行った。抜管後,関節可動域練習や歩行練習を実施したが,本人が痛いと拒否するため介入に 難渋した。また,筋力低下により基本動作には重度の介助を要した。入院後 103 日目以降,熱傷の軽快と ともに歩行練習等を行えるようになり,運動機能は急速に回復し,152 日目に退院した。関節可動域は全 周性にⅢ度熱傷であった部位以外には制限を認めず,運動機能は屋外歩行が可能となった。 【結語】2 歳 の重症熱傷児でも人工呼吸管理中の鎮痛下より関節可動域練習を行い,熱傷の時期に応じた運動療法を施 行することで,屋外歩行が可能となるまで回復した。 キーワード 重症熱傷,幼児,栄養,理学療法,人工呼吸管理. 状態の改善とともに歩行が可能となり,自宅退院に至っ. はじめに. た。本児に施行した理学療法について,特に関節可動域.  重症熱傷者に対する理学療法は,良肢位の保持や関節. と運動機能の回復に焦点をあてて報告する。. 可 動 域 練 習(Range of Motion Exercise; 以 下,ROM.  なお,本報告にあたり,父親に目的・意義を十分に説. 1‒3). が行われ. 明し,個人が特定できないように提示すること,写真に. ており,有効性が示されている。しかし,小児の重症熱. は目を隠す等の配慮をすることを説明し,書面にて同意. 傷に関しては,特に 2 歳以下において死亡率が高いこと. を得た。. Ex),筋力増強運動,日常生活動作練習等. は知られている. 4). が,理学療法に着目した報告はなく,. 生存例で関節可動域や運動機能が回復するのかどうかも. 症例紹介. 明らかではない。.  2 歳の男児。発達は正常で,保育園に通っていた。.  今回,体表面積の 72% の熱傷,かつ頸部・体幹・右. 受傷と初期治療. 上腕には全周性にⅢ度熱傷を受傷した 2 歳児を経験し.  母親の焼身自殺に抱っこされた状態で巻き込まれ,重. た。本児は長期間の人工呼吸管理を要し,著しい筋力低. 症熱傷にて当院に救急搬送された。直ちに気管内挿管,. 下と基本動作能力の低下を認めたが,熱傷の軽快と栄養. 人工呼吸管理下に治療を開始した。同日に減張切開を胸. *. A 2-year-old Boy who Received Physical Therapy Starting from the Acute Phase of Severe Burn Injury 1)埼玉医科大学総合医療センターリハビリテーション部 (〒 350‒8550 埼玉県川越市鴨田 1981) Masayuki Nonogaki, PT, BS: Department of Rehabilitation, Saitama Medical Center 2)埼玉医科大学総合医療センター小児科 Hirokazu Sakai, MD, PhD: Department of Pediatrics, Saitama Medical Center 3)埼玉医科大学総合医療センターリハビリテーション科 Mitsuru Yamamoto, MD, PhD: Department of Rehabilitation, Saitama Medical Center # E-mail: [email protected] (受付日 2020 年 1 月 8 日/受理日 2020 年 5 月 14 日) [J-STAGE での早期公開日 2020 年 9 月 3 日]. 骨から下腹部,前胸部両側,右上腕外側から手関節に 行った。熱傷部位には,連日の洗浄と週 1 回の植皮術を 行った。入院後 5 日目より理学療法を開始した。  熱傷部位・重症度を図 1 に示す。熱傷面積は体表の 72% に達しており,顔面Ⅱ度(deep dermal burn;以下, DDB) ,頸部Ⅲ度,胸・腹部Ⅱ(DDB)∼Ⅲ度,背部Ⅱ (DDB)∼Ⅲ度,右上肢Ⅱ(DDB)∼Ⅲ度,左上肢Ⅱ度 (DDB) ,両下肢Ⅱ度(DDB)であった。頸部・体幹・ 右上腕は全周性の熱傷であった。.

(2) 610. 理学療法学 第 47 巻第 6 号. 治療経過と理学療法評価. してミタゾラム,フェンタニル,筋弛緩薬としてロクロ ニウムを使用しており,他動運動等の刺激に対して反応.  入院から退院するまでの治療と理学療法の経過を図に. はなかった。気道熱傷はなく,人工呼吸管理下で呼吸・. 示す(図 2)。. 循環は安定していた。血清アルブミン値は 1.5 g/dL で あった。四肢の関節可動域に制限はなかった(表)。理. 1.入院直後の時期(入院後 5 日目まで). 学療法は,拘縮予防を目的とした ROM Ex より開始し.  初期評価として,理学療法開始時は,鎮痛・鎮静薬と. た(図 3)。形成外科医より四肢の ROM Ex は許可され たので,1 日 40 ∼ 60 分,週 5 ∼ 6 日行った。ROM Ex は, 体表が乾燥しないように一肢ごとに包帯を外して行い, 実施後はバラマイシンを塗布した。また,感染対策とし て手指消毒,接触感染予防策(ガウン,手袋)を徹底. 3). した。さらに,低年齢で末梢静脈路を確保しにくいうえ に,熱傷により末梢静脈路を確保できる部位が少ないた め,静脈路が抜けないように刺入部への負荷がかかって いないか,輸液チューブが引っ張られていないかに細心 の注意を払いながら ROM Ex を行った。 2.熱傷治療の時期(入院後 6 ∼ 93 日目)  入院後 9 日目より Nutrition Support Team が加わり, 図 1 熱傷部位 熱傷は体表の 72% に達しており,頸部,体幹,右肘は全周 性にⅢ度熱傷であった.後頭部,下腹部,外陰部,臀部だ けが熱傷を免れていた. DDB:deep dermal burn(深達性Ⅱ度熱傷). 栄養状態の改善を図った。入院後 32 日目までは人工呼 吸管理を継続し,熱傷部位には形成外科医が連日洗浄と 壊死組織の除去を行った。理学療法は ROM Ex を中心 に介入した。本児は入院後 33 日目に人工呼吸管理より. 図 2 呼吸管理,理学療法プログラム,血清アルブミン値,植皮術の経過 理学療法プログラムは,人工呼吸管理中(入院日∼ 33 日目と 73 ∼ 83 日目)は鎮痛下であ り積極的に関節可動域練習を行った.抜管後は本人が痛みを訴え泣いて拒否することが多 く,関節可動域練習や立位・歩行練習が実施困難なことも多かった.熱傷が軽快し,本人 の活気や栄養状態が改善してきた入院後 103 日目からは積極的に運動療法を行い,短期間 で歩行が可能となった. NST:Nutrition Support Team(栄養サポートチーム) OT:Occupational Therapy(作業療法) ST:Speech Therapy(言語聴覚療法).

(3) 重症熱傷受傷後に早期から理学療法を施行した 2 歳児例. 611. 表 関節可動域の経過 5 日目. 83 日目. 152 日目(退院). 退院 7 ヵ月後. 初期評価. 熱傷治療期. 最終評価. 頸部瘢痕拘縮解除後. 頸部. 評価不可. 評価不可. 屈曲 10°∼ 20° 伸展 0 ∼ 10° 回旋 10 ∼ 20°. 評価不可 伸展 20° 回旋 40°. 体幹. 評価不可. 評価不可. 丸太様 ほぼ可動性なし. 回旋 20°. 上肢(右 / 左). 制限なし. 肩屈曲 160°/ 160° 右肘屈曲 120°. 肩屈曲 150°/ 150° 右肘屈曲 90°. 右肘屈曲 110°. 下肢(右 / 左). 制限なし. 膝屈曲 140°/ 140°. 制限なし. 制限なし. 位での活動の促しを開始した。当初,座位は自力では まったく保持できず介助を要した。また,座位で両上肢 を下垂すると前腕から手指にかけて鬱血し血色不良とな るため,クッションで肘置きを作製し対応した。入院後 52 日目,はじめてバギーに乗車し散歩をした。病院の 外に出ると,自動車やバスに乗車する人を見て「ぶー ぶーぶつかる」,「人は会社にいくんだよ」など,病室で はなかった会話の受け答えを促すことができた。一方, 上肢に関しては,玩具を見せると左手を伸ばそうとする がほぼ動かすことができず,バギーへの乗車以外の活動 の促しは困難であった。入院後 53 日目,立位,歩行練 図 3 関節可動域練習(入院後 5 日目) 関節可動域練習は,体表が乾燥しないように一肢ごとに包帯 を外して行い,実施後はバラマイシンを塗布した.また,感 染対策として接触感染予防策(ガウン,手袋)を徹底した.. 習が許可された。歩行は下肢の支持性が低く腋窩介助が 必要であり,本人が泣いてしまうため 3 ∼ 5 m 程度し か実施できず,反復して実施することは困難であった。 その後も ROM Ex,歩行練習,玩具での活動の促しを 拒否する日が多く,介入に難渋した。. 離脱し,入院後 34 日には,ROM Ex に対し「痛い,痛い」.  入院後 73 日目,背中の植皮術を行った。術後は,創. と泣き叫ぶようになった。入院後 35 日目,理学療法を. 部の安静を保つため,人工呼吸管理とした。人工呼吸管. はじめる 30 分前にアセトアミノフェン,デクスメデト. 理下では十分な鎮痛,鎮静を行えるため,入院後 83 日. ミジンを投与し,鎮痛・鎮静下に理学療法を行うことと. 目に再度抜管するまでは再び ROM Ex を積極的に行っ. した。しかしそれでも痛みを訴えて力を入れてしまうた. た。四肢の関節可動域は,肩関節屈曲(右 / 左)160°. め,ROM Ex の実施は困難となった。より強い鎮痛・. / 160° ,肘関節屈曲 120°/ 制限なし,膝関節屈曲 140°. 鎮静管理下に行っていた形成外科医による熱傷処置の直. / 140°で,その他の関節に制限はなかった(表) 。入院. 後に ROM Ex を行うように時間調整をして介入した。. 後 88 日目,再抜管後はじめての歩行練習では,再挿管. このように熱傷処置の直後に行うと,ROM Ex をある. する前に比べ下肢の支持性がさらに低下しており,重度. 程度は実施できたが,熱傷処置が予定時刻よりずれるこ. の介助を要した。. とが多く,処置後に介入できた頻度は週に 2 ∼ 3 回程度.  入院後 93 日目に 13 回目の植皮術を行い,手術治療は. であった。また,家族に ROM Ex を施行してもらうよ. 終了した。血清アルブミン値は,これまでは 1.7 g/dL. う依頼したが,本人が啼泣してしまうため同じく困難で. 程度で推移していたが 2.2 g/dL となった。この頃から. あった。一方で「10 秒数える間だけ我慢してね」や「〇. 少しずつ活動することに意欲が出はじめ,筋力は徐々に. 回だけ手を動かすよ」と声をかけると ROM Ex を少し. 改善しはじめた。座位は 5 分程度なら見守りでできるよ. 実施できる日もあった。. うになったが,歩行は下肢の支持性が低く重度の介助を.  入院後 38 日目に作業療法,言語聴覚療法を開始した。. 要した(図 4)。. 作業療法は ROM Ex と上肢の運動を主に介入し,言語 聴覚療法は嚥下評価,口・頸部周囲の ROM Ex を主に. 3.運動機能回復の時期(入院後 94 ∼ 125 日目). 介入した。入院後 46 日目,座位が許可されたため,座.  入院後 103 日目,熱傷の軽快とともに血清アルブミン.

(4) 612. A. 理学療法学 第 47 巻第 6 号. B. C. 図 4 理学療法中の様子(入院後 98 日目) A:少しずつ活動することに意欲が出はじめ玩具に手を伸ばして遊ぶようになった. B:椅子に座ることは 5 分程度なら見守りで保持できるようになった. C:歩行は下肢の支持性が低く,両腋窩をしっかり介助する必要があった.. テーション(以下,リハ)室まで階段で移動する,屋外 での歩行練習を実施するようにした。病棟では,リハ実 施以外の時間はベッドで DVD を観て過ごすことが大半 であった。そのため,午前中はリハを実施し,午後は午 睡をしてから家族と病棟のプレイエリアで遊んで過ごす ようにリハの実施時間を調整し,生活リズムを整えるよ うにした。入院後 125 日目には,立位から床に座る,床 から立ち上がることができるようになり,10 cm 程度の 段差であれば手すりにつかまらなくても昇降可能と なった。  入院後 152 日目に退院となった。退院時評価として, 血清アルブミン値は 4.7 g/dL(148 日目)であった。熱 傷部の皮膚は瘢痕化し,両肩後面や膝窩部等に正常な皮 膚が残存した(図 5) 。関節可動域は,頸部伸展 0 ∼ 10°, 図 5 退院時の皮膚の状態(入院後 150 日目) 両肩後面,膝窩部,左下 前面,両足部に正常な皮膚が残存 していた.. 屈曲・回旋 10 ∼ 20°であり,体幹はほぼ可動性がなく 丸太様であった。四肢は両肩屈曲 150°/ 150° ,右肘屈 曲 90°以外の制限はなかった(表) 。歩行は屋外歩行が 可能となり,歩行速度は Timed Up Go Test 6.0 秒で. 値は 2.5 g/dL に改善した(図 2)。この頃から本児が自. あった。階段は手すりを使用し二足一段で昇降が可能で. 分で動く際には痛みの訴えがなくなり,活動することに. あった。日常生活動作は,年齢相応のことは可能であっ. 意欲的になったため,看護助手に手伝ってもらい,かく. た。しかし,口周囲の皮膚の柔軟性が乏しく,意識しな. れんぼで興味をひきながら介助下での歩行練習を実施し. いと常に開口し,流涎により洋服の胸部分が常に濡れて. た。これまでは歩行練習に対して啼泣し 10 m 程度の歩. しまうという問題があった。今後は,頸部・体幹・右上. 行練習が限度であったが,笑顔で 30 m 程の歩行練習を. 腕に対して随時瘢痕拘縮の解除術を検討していくことと. 実施できた。また,立位は片手をつなげば保持できるよ. した。理学療法は,退院時に終了とした。. うになった。以後,本人の好きな電車の玩具を使用した 座位・立位練習やかくれんぼをしながらの歩行練習を実. 4.退院後の経過. 施した。.  退院 2 ヵ月後より保育園への通園を再開した。運動機.  入院後 119 日目には,臥位から起き上がることができ. 能は徐々に改善し,退院 4 ヵ月後にはスキップや片足跳. るようになり,廊下を自力で 300 m 程度歩けるように. びができるようになった。退院 5 ヵ月後,頸部の瘢痕拘. なった。理学療法では,3 階の病室から 1 階のリハビリ. 縮解除術,植皮術を行い,術後約 1 ヵ月間の人工呼吸管.

(5) 重症熱傷受傷後に早期から理学療法を施行した 2 歳児例. 613. 理を行った。理学療法に関しては,人工呼吸管理中は前. 2.運動機能の視点から. 回と同様に四肢の ROM Ex を行い,抜管後は歩行困難.  運動機能については,最初の抜管後から著明な筋力低. となったため約 1 ヵ月間の運動療法を行った後に退院し. 下を認め,起居動作に介助を要した。さらに,本人がバ. た。頸部は,植皮部の柔軟性が低下しないようにネック. ギーに乗車すること以外は拒否を示し,遊びの要素を取. ピローを終日装着し,屈曲しないように管理した。頸部,. り入れながら活動を促そうとしたが介入に難渋した。2. 体幹の可動域は,頸部伸展 20°,頸部回旋両側 40°,体. 度目の抜管後はさらに筋力低下を認め,立位や歩行に重. 幹回旋両側 20°と改善され(表),口は閉口できるよう. 度の介助を要した。その後,熱傷の軽快,栄養状態の改. になり流涎はなくなった。. 善とともに意欲的に活動できるようになり,屋外歩行が 可能となった。. 考   察.  重症熱傷後の安静時エネルギー消費量は増加し. 5). ,損. 6). 1.関節可動域の視点から. 傷後数ヵ月持続する 。本児における筋力低下は,こう.  熱傷後の関節可動域練習について,齋藤らはたとえ意. した熱傷急性期の異化亢進状態. 識のない患者でも急性期から ROM Ex を行うことが望. 少と安静や臥床に伴う廃用性筋萎縮によるものと考え. 1). 7)8). に伴う筋肉量の減. 。また,植皮後の ROM Ex では移. る。若林は,異化期の運動としてレジスタンストレーニ. 植された皮膚の生着に配慮し,術後 5 ∼ 10 日目ごろに. ングは禁忌であり,機能維持を目標とした離床や 2 メッ. かけて可動範囲を徐々に拡げる配慮が必要としてい. ツ以下の身体活動,日常生活活動を実施するとしてい. ましいとしている. 。本児では,入院から入院後 33 日目までと入院後. 9) る 。本児では,熱傷が軽快する前はバギーに乗車する. 73 日目から入院後 83 日目までの 2 回にわたる人工呼吸. こと以上の活動を促すことに難渋したが,バギーに乗車. 管理中は十分鎮静されていたため,植皮部以外は積極的. して生活することは 1.3 ∼ 1.8 メッツ相当の活動. に ROM Ex を実施することができた。しかし,肩の. ので,熱傷の異化期に行う運動療法としては適切な活動. ROM Ex を行うためには人工呼吸器の回路を動かさざ. 量であったかもしれない。. るをえず,気管挿管チューブが抜けないように慎重に行.  若林は,侵襲の同化期では,機能改善を目標にレジス. う必要があった。本児は 2 歳で体格が小さく,顔面の熱. タンストレーニングを含めた積極的な機能訓練を行い,. 傷のために経鼻挿管することができず気管挿管チューブ. 1 日エネルギー摂取量が 1 日エネルギー消費量以上であ. の固定も十分にできない,頸部の熱傷のために気管切開. れば,長時間の持久力訓練や 3 メッツ以上の身体活動も. もできない,という制約があった。また,深鎮静下で痛. 可能であるとしている. みの評価が困難であり,ROM Ex によって関節を痛め. 植皮術後から活動への意欲,栄養状態,筋力が回復しは. ないように動かす方向や抵抗感に十分に配慮して行っ. じめており,この頃が異化期から同化期に以降した時期. た。抜管後は ROM Ex を行おうとすると痛みを訴え啼. であったと考える。この時期以降の本児への理学療法. 泣してしまい,かえって ROM Ex を実施することが困. は,筋力と動作能力の回復を日々評価し,座位練習,立. る. 1). 2). 10). な. 9). 。本児においては,13 回目の. は疼痛コントロールの重要性を. 位練習,歩行練習,階段昇降練習,屋外歩行練習等の運. 報告しており,本児においても介入前にアセトアミノ. 動療法を積極的に実施した。その結果,より短い期間で. フェン,デクスメデトミジンを投与したが,介入しよう. 筋力や動作能力の改善を促すことができたと思われる。. とすると啼泣してしまう状態は変わらなかった。本児は. 重症熱傷患者に対する理学療法のプログラムを考えるう. 2 歳児であり,痛みの表現ができないこと,ROM Ex の. えでは,熱傷による代謝変化の時期と栄養状態,筋力,. 必要性を理解し我慢することができないこと,なにかさ. 動作能力を日々評価することが重要であろう。. れることに不安なだけでも泣いてしまう年齢であり,対.  運動機能の回復に影響する要因として,病院の環境や. 応に難渋した。. 2 歳児であることの問題が挙げられる。当院の小児病棟.  幸い本児では,全周性にⅢ度熱傷を認めた部位以外に. では感染管理の観点から,本児は検査室やリハ室へ行く. は拘縮を認めず,関節可動域は十分保たれた。この要因. 以外では病棟外にでることができない。そのため,離床. として,最初の人工呼吸管理期間が長かったことと経過. 2 しても病棟の廊下を散歩するか,15 m 程の広さのプ. 途中に 2 度目の人工呼吸管理期間があったことにより,. レールームで遊ぶしかない。また,本児は 2 歳児であり,. 鎮痛・鎮静下での ROM Ex を早期より十分にできたこ. 筋力増強を目的としたスクワットのような単純な反復運. とが挙げられると考える。また,本児は母親に抱っこさ. 動による自主トレーニングを導入することは難しく,家. れた状態で熱傷を受傷しており,四肢が屈曲していたこ. 族が活動を促しても甘えて抱っこで過ごすことが多かっ. とで関節周囲に正常な皮膚が残存していたことも拘縮を. た。このような背景において,リハで追いかけっこをし. 免れた一因と考える。. て走らせたり,段差の異なるクッションを並べてアスレ. 難となった。細見ら. チックのような環境で遊ばせたり,階段での移動や屋外.

(6) 614. 理学療法学 第 47 巻第 6 号. での歩行練習をしたことで負荷の高い運動療法を施行で きたことは,より短期間での筋力の改善を促し,起居動 作や歩行動作の獲得に効果があったと考える。.  本症例報告について開示すべき利益相反はない。 文  献. 3.気道熱傷について  最後に,本児では気道熱傷がなかった。重症熱傷患者 では気道熱傷の有無は重要な予後予測因子である. 11)12). 。. 気道熱傷では厳格な気道・呼吸管理を要するので,理学 療法の介入が困難になる可能性や人工呼吸管理期間が長 期化し不活動に伴う筋力低下がより顕著になる可能性が 考えられる。本児の経過において気道熱傷がなかったこ とは,生命予後だけではなく運動機能の回復にとっても 幸運であったと考える。 4.退院後の理学療法について  本児では,退院後に外来での理学療法は施行しなかっ た。熱傷後は長期間にわたる筋力低下 取量. 14). 13). や最大酸素摂. の低下が指摘されているが,理学療法のプログ. ラム内容は体系化されていない. 利益相反. 15). 。本児は 2 歳であり単. 純な筋力増強運動や有酸素運動等を実施することが困難 であることに加え,幼児であるため遊びの中で反復した 立ち座りの運動や走ることを繰り返しており,家庭での 日々の生活以上に有効な運動療法を提供できないと考え た。しかし,今後成長に伴い新たな機能障害を有した場 合や拘縮解除術後には,再度リハが必要になるであろう。 結   語  今回,全身重症熱傷により人工呼吸管理を要し,入院 中に 13 回の植皮術を行った 2 歳児例を経験した。関節 可動域は,人工呼吸管理中より鎮痛下で ROM Ex を行っ たこと,関節周囲に熱傷を免れた部分があったことで, 全周性にⅢ度熱傷を認めた部位以外は制限を認めなかっ た。運動機能は,熱傷治療中は著明な筋力低下により座 位や歩行に重度の介助を要したが,熱傷が軽快した入院 後 103 日目から運動療法を積極的に行うことができるよ うになり,退院時には屋外歩行が可能となった。. 1)齋 藤 大 蔵, 岡 田 芳 明, 他: 熱 傷 の 急 性 期 リ ハ ビ リ テ ー ション.JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATION. 2000; 9: 148‒153. 2)細 見 雅 史, 窪 田 朋 恵, 他: 小 児 重 症 熱 傷 に お け る リ ハ ビリテーションの一経験例.JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATION.2010; 19: 1104‒1107. 3)池田弘人:重症熱傷患者のリハビリテーション.ICU と CCU.2012; 36: 423‒427. 4)Wolf SE, Rose JK, et al.: Mortality Determinants in Massive Pediatric Burns. An Analysis of 103 Children with>or=80% TBSA Burns (>or=70% Full-Thickness). Ann Surg. 1997; 225(5): 554‒565. 5)Jeschke MG, Chinkes DL, et al.: Pathophysiologic response to severe burn injury. Ann Surg. 2008; 248: 387‒401. 6)Hart DW, Wolf SE, et al.: Persistence of muscle catabolism after severe burn. Surgery. 2000; 128: 312‒319. 7)Pereira CT, Murphy KD, et al.: Altering metabolism. J Burn Care Rehabil. 2005; 26: 194‒199. 8)Caldwell FT Jr: Etiology and control of postburn hypermetabolism: the 1991 presidential address to the American Burn Association. J Burn Care Rehabil. 1991; 12: 385‒401. 9)若林秀隆:理学療法とリハビリテーション栄養.理学療法 学.2013; 40: 392‒398. 10)国立健康・栄養研究所ホームページ 改訂版「身体活動の メ ッ ツ(METs) 表 」 .https://www.nibiohn.go.jp/eiken/ programs/2011mets.pdf(2019 年 12 月 1 日引用) 11)緒方敬子,福崎 真,他:当院 ICU における重症熱傷症 例の予後予測因子に関する検討.日本職業・災害医学会会 誌.2001; 49: 565‒568. 12)Fry WA, Semerdjian RA: lnhalation injury evaluation and management in a burn unit. Ann Otoi. 1977; 86: 667‒670. 13)St-Pierre D, Choini re M, et al.: Muscle strength in individuals with healed burns. Arch Phys Med Rehabil. 1998; 79: 155‒161. 14)Ganio MS, Pearson J, et al.: Aerobic Fitness Is Disproportionately Low in Adult Burn Survivors Years After Injury. J Burn Care Res. 2015; 36: 513‒519. 15)Diego A, Serghiou M, et al.: Exercise Training After Burn Injury: A Survey of Practice. J Burn Care Res. 2013; 34: 311‒317..

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