津波の基礎知識
一般財団法人日本気象協会 津波への理解を深めるために、津波の発生から、沿岸への伝播、地形による波高変化、遡上 という一連の津波の仕組み・ふるまいと、津波に関する予報・警報等の情報提供について、基 礎的な資料をまとめました。 目 次 1.津波とは…... 2 2.津波を引き起こす地震~プレートの運動と地震 ... 2 3.津波の伝わり方... 3 4.海岸近くでの津波のふるまい ... 4 5.津波のそじょう遡上... 5 6.押し波と引き波... 6 8.津波の高さと周期... 7 9.津波の浸水域・浸水深・遡上高 ... 8 10.津波情報... 91.津波とは…
津波とは、津すなわち港の波ということで海岸を急に襲う大波を意味します。一般に、地震 発生の時に海底の盛り上がり(隆起)や沈み込み(沈降)が広範囲に起こり、直上の海水が持 ち上げられたり引き下げられたりして変形した海面変位が、四方八方に伝わって海岸に到達し た時に大波となる現象をいいます。 地震以外にも、火山噴火や沿岸の山崩れ、海底地すべりによって津波が発生することがあり ます。このため、地震による津波を区別するために地震津波ということもあります。ここでは、 地震によって引き起こされた津波について説明します。2.津波を引き起こす地震~プレートの運動と地震
地震は断層での急激なすべり運動であり、プレート境 界地震では、二つのプレートの境界が断層面となります。 日本周辺には図 1 のように 4 つのプレートが集まって います。東日本がある北米プレートの下に、東から進ん でくる太平洋プレートが沈み込みます。図 2 の模式図に 当てはめると左側が北米プレート(陸プレートとする)、 右側が太平洋プレート(海洋プレートとする)になりま す。プレート境界は日本海溝に対応します。 北米プレート ユーラシアプレート フィリピン海プレート 太平洋プ レ ー ト 図 1 日本周辺のプレートとプレート境界(茶色線) 日本海溝 図 2 津波が発生する仕組み (プレート境界地震による津波) 東京大学地震研究所広報アウトリーチ室提供年間数㎝の速度で沈み込む海洋プレート(図 2 右側)の一部は、陸プレート(図 2 左側)と 部分的にくっついていますが、陸プレートがくっついたまま沈み込める限界を越えると、一気 に陸プレートがはがれ、このときに起きるのがプレート境界地震です。次の①~③に津波発生 までの仕組みを説明します。 ①プレート境界での通常の動き(図 2 上) 海洋プレートは年間数㎝の速度で陸プレートの下に沈み込んでいます。 ②海洋プレートの沈み込みによる陸プレートのたわみ(図 2 中) 陸プレートが海洋プレートに部分的にくっついたまま沈み込んでいくと陸側の海底面はだん だんへこんでいきます。一方、陸プレートの海溝から離れたところでは海底面が盛り上がっ てきます。 ③地震発生>陸プレートのはね戻り>津波発生(図 2 下) くっついていた部分がはがれて陸プレートが一気にはね戻ると地震が発生します。直前まで 沈んでいたところは一気に盛り上がり、盛り上がっていたところは沈み込んで、全体では平 らになろうとする動きが急激に起こります。この海底面の動きがすぐ上にある、海底から海 面までの海水を、あるところでは持ち上げ、あるところでは沈み込ませる、すなわち津波の 発生です。この海面の凹凸が四方八方に広がっていき海岸に押し寄せます。始めにできた海 面の凹凸は,一回で終わらず、しだいに弱まりながらも慣性によりしばらく何度も繰り返し ます。そのため津波が何波も発生します。
3.津波の伝わり方
沖合で発生した津波は非常に速い速度で四方八方に伝わります。その速度は深い海ほど速く、 次式で表されます。 gh C (C:津波の伝わる速度(
m
/
s
)
, :重力加速度g
(
m
/
s
2)
, :水深h(
m
)
) 例えば、水深 4000mの外洋での津波の伝わる速度は、)
/
(
713
)
/
(
198
4000
8
.
9
m
s
km
h
C
と最新プロペラ旅客機より1割ほど速い速度となります。津波の伝わる速度は水深の平方根に 比例するので、陸地に近づき水深が浅くなるつれ表1のように次第に遅くなってきます。沿岸 近くに来た津波でも一般の人が駆ける速さよりも速いことがわかります。なお、沖合で波高が6 m前後ある巨大な津波の場合は、100mより浅いところでは津波の高さが水深に対して無視でき ない規模となるため、水深に津波高(6m)を加えて上式のhに代入すると、水深10mで46km/h、 20mで59km/hと20~30%速くなります。 表1 津波の伝わる速度と水深の関係 水深 (m) 10 20 50 100 200 500 1000 2000 4000 伝わる速度(km/h) 36 50 80 113 159 252 356 504 713 短距離トップアスリート(36km/h)↑ 新幹線(E5系;320km/h)↑ プロペラ機↑ (ボンバルディアQ400;667km/h)4.海岸近くでの津波のふるまい
津波は陸地に近づくと海岸や海底地形によって伝わる速度や進行方向が変化して、一般に波 高は沖合よりも高くなります。 (1)水深の変化による波高の増加 前章で説明したように、海岸に近づいて水深が浅くなると、津波は進む速度が遅くなり、次 のような仕組みで波高が高くなります。図3を見てください。 ① 津波の波長は数㎞~数100㎞と非常に長いので、海岸に近づくと波の前側で浅く後側で 深いという、波の前後の水深に大きな差が生じる。 ② 津波の速度は、浅い前側は遅く、深い後側では前側ほどは遅くならないため、波の前 後で速度差が生じる。 ③ 津波の前側は後側から押されるような形になるため、しだいに波高が高くなる。 (2)湾の幅や海岸の形の変化による波高の増加 図4のように湾が奥に行くほど狭まっている場合は、幅が狭まった分、海水の行き場は上方し かないので波高が高くなります。 図5のように海岸の平面形状を大まかに直線型・矩形型・V字型と分けると、先細りの度合い が強い後者ほど、また湾の奥に行くほど津波の波高が高くなります。 海 陸 b0 津波の進入 b 海 底 h h0 a a0 図4 湾の幅の変化による津波の波高変化 図3 水深変化による津波の波高の変化 と で 後 は h0→h 水深が浅くなると速度が遅くなる。波の前側と 後側 速度差が生じるので全体が盛り上がり、前面が 急で 面が緩やかな非対称な波形となる。その結果、 波高 a0→aと増大する。 波高が高くなりやすい 海面は上方に膨らみ波高が増大する。 狭くなると左右から押される形となり 上図は湾の平面図で、b0→bと湾の幅が 陸 直線型 矩形型 V 字型 海 図5 海岸線の形と津波の波高の傾向(平面図)5.津波の遡上
そじょう 津波は海岸に達して、海浜や護岸などの海岸地形よりも波高が高いと陸上に駆け上がります。 これを遡上といいます。遡上の形態は海岸地形によって異なり、典型的な地形の違いによる遡 上のタイプは図6の①~④のようになります。 ① 河川・運河・水路 河口から入り河川づたいに遡上するタイプで、勾配の緩い河川、運河、埋立地の水路で見ら れる。内陸深くまで進みやすく河岸堤防を越えて市街地や田畑に浸水することがある。 ② 砂浜・海岸平野 海岸が平坦で砂州や砂丘になっているところでアメーバが這うように進んで氾濫するタイプ で、浸水する深さは③よりは大きくないが影響する面積が広い。低地が多いので排水しにく く浸水期間が長くなる恐れがある。(仙台湾岸、九十九里浜など) ③ 傾斜地形 中小河川の谷底平野や傾斜した海岸平野を遡上するタイプで、奥まった入り江に加え前面の 海底が谷状のこともあり、標高が高いところまで遡上しやすい。(三陸海岸、紀伊半島など) ④ 段丘・護岸 海食崖や護岸など急崖が前面にあり、背後が平坦地となっているタイプで、津波の高さが急 崖を越えた時、砂浜・海岸平野型と同じ氾濫形態となる。 ② 砂浜・海岸平野 ① 河川・運河・水路 ④ 段丘・護岸 ③ 傾斜地形 図6 海岸地形による津波の遡上(浸水域)のかたち 写真1 幅10mの小河川を遡上した津波による被害 河口から200m上流の屈曲部で護岸が決壊し、 背後の飲食店が倒壊し周辺は床上浸水、 さらに200m上流の屈曲部で護岸が決壊し、 田畑にあふれた水が奥のビニールハウスを倒壊させた ところ。(千葉県旭市三川)6.押し波と引き波
津波が沖合から海岸に向かって進行する場合を押し波といい、逆に津波が海岸から沖合に向 かって進行する場合を引き波といいます。津波の始まり(第1波)が押し波か引き波かは、津波発 生域での断層運動の方向や規模によって異なります。また、津波が到達した場所周辺の海底地 形によって変わることもあります。先に引き波が来たときには潮が異常に引くので普段は見え ない海底が現れたりしますが、それが津波によることを知らず海岸に近寄ると、次にやってく る押し波によってさらわれる恐れがあり、たいへん危険です。 押し波は、水深の深い方から浅い方に向かい、さ らに陸上を遡上して海水の流れとなって徐々に高 所に達します。波(海水の流れ)の進行速度は斜面を 遡上すると徐々に遅くなります。しかし、勾配のほ とんどない平野部では進む速度はあまり下がらず に内陸深くまで進入します。 引き波は、押し波とは逆に陸上あるいは海底の高 い方から低い方に重力にしたがって進むので、波 (海水の流れ)の進行速度は徐々に速くなります。こ のため押し波よりも引き波の方が水自体による破 壊力は大きくなりやすく、押し波ではびくともしな かった建物が引き波によって倒されたり押し流されることがあります。 写真 2 打ち上げられて大破した漁船 千葉県旭市飯岡漁港 遡上した津波がもたらす流れは、破壊された建物・車両・打ち上げられた船舶などの他、陸 上にあったさまざまなものを巻き込んで進行するので、破壊力は海水だけの時よりもさらに大 きくなります。コンクリート造りの建物や護岸を破壊し、海岸を浸食し、いつもの景色を一変 させてしまうこともあります。7.繰り返し来襲する津波
津波は、ほとんどが一回の地震によって引き起こされた海面変化が伝わって来るものですが、 1回限りではなく、何度も繰り返し来襲します。 津波は、様々な周期の波の集合なので進行速度にバラツキがあります。次々と広がった津波 は、比較的単純な地形である深海域の最短経路を進んでくる波だけでなく、別の海岸で反射し てくる波、水深変化が複雑な海域(伊豆海嶺や伊豆小笠原海溝など)を経由して来る波などがあ ります。 したがって、津波の伝わる速度や経路によって、海岸に早く到達する波と遅れて到達する波 があり、最初の波が一番高いとは限りません。湾内に入った津波が海岸で何回も反射(振動) したり、いくつかの波が重なり合ってより高くなることもあります。 初めに到来した波(第1波)が一番高いとは限らず、第2波、第3波、あるいはそれよりも後で第 1波から数時間以上経過してから最大の波が到来することもあります。したがって、最初の波が 大した高さでなくても後から来る波に対して油断はできません。8.津波の高さと周期
潮位は、通常毎日ほぼ2回ずつ満潮と干潮(潮汐)を繰り返しています。通常の潮位変化を天文 潮位といい、この潮位が津波高の基準となります。 図7左は観測された潮位記録(天文潮位含む)、図7右は観測記録から天文潮位(図7左の水色 の線の値)を差し引いた平均海面からの潮位偏差で、これが正味の津波の変化を表しています。 この図では15時半ころ急に大きな第1波が来ていますが、その何時間後でも高い波が繰り返し襲 来したことがわかります。 図7 根室花咲の津波;潮位観測記録(左)と潮位偏差(右) 気象庁HP潮位観測情報 http://www.jma.go.jp/jp/choi/より 右図のピンク線(潮位偏差)は、左図のピンク線(観測潮位)から 水色線の値(天文潮位)を差し引いたもので、正味の津波の変化を示す。 潮位偏差を模式的に図8に示しました。平均海面から山のピークまでの高さ(図8におけるAB) を津波の高さ(津波高)といい、このうち最大のものを最大高さといいます。一般に、津波の 高さという時には津波の最大高さを指しています。 津波の山と谷の差(図8におけるCD)を全振幅といい、全振幅の2分の1を振幅または半振幅と いいます。気象庁では津波観測時の速報値として半振幅を発表しています。 津波が到来する時間間隔、検潮記録における波の山から山までの時間(図8におけるt2‐t1)を 周期といいます。周期は津波の波源域の大きさや水深など津波の発生条件や、波源域からの距 離や伝播経路、到達地点の湾の形状などによって変化します。津波の周期が湾の固有振動周期 に近い場合は、共振して津波の波高がさらに高くなることがあります。 津波の予報の時には津波の高さと到達時刻に加え、各地の満潮時刻も伝えられますが、同じ 津波の高さでも干潮よりも満潮の場合の方が危険性が増すことがわかるでしょう。 MSL A C AB : 平均海面からの高さ(津波高) D B 時 間 潮位 偏差 2t
1t
1 2t
CD : 全振幅 MSL : 平均海面t
: 津波の周期 図8 津波の高さと周期
9.津波の浸水域・浸水深・遡上高
津波が海岸に到達し堤防や護岸を越えて陸上に遡上すると、遡上する前の津波の高さ(津波 高)の他に、浸水域・浸水深・浸水高(痕跡高)・遡上高等の情報が発表されます。 津波の高さ(津波高)は検潮所や波浪計によって海上で測った潮位の高さですが、浸水深・ 浸水高・遡上高は陸上での潮位(水位)を測ったものです。混同しないように注意が必要です。 *浸水域 浸水域とは、津波が氾濫して浸水した範囲をいい ます。場所によって土地の高さが違うので、それぞ れの場所において氾濫した水の深さを浸水深とい います。一般に標高が低い場所ほど浸水深が大きく なります。 ハザードマップなどで予測される浸水深の分布 を地図上に示したものが浸水予測図です。 *浸水高(痕跡高) 津波による浸水で構造物の濡れた部分が変色し たり、草木や地表面が変形変色したりして、写真3 のようにその部分まで浸水した後(痕跡)として残 ることがあります。この最大の高さを浸水高(痕跡高)といいます。 写真 3 津波の痕跡:壁の汚れ 千葉県旭市飯岡地区 *遡上高 津波による浸水の最先端が達した地盤の最大の高さを遡上高といいます。 浸水高(痕跡高)と遡上高は、津波来襲時(直前)の潮位を基準にし、正味の津波の高さを 表します。 浸水深・浸水高・遡上高と地盤の関係は図9のようになっています。 浸水高 浸水深 地盤高 遡上高 平均海面(M.S.L) 津波来襲時 の潮位 痕跡 図9 津波による浸水深・浸水高・遡上高と基準面の関係10.津波情報
津波の予報と情報は、国内では気象庁が一元的に発表しています。その他、国際機関による 世界各国に向けた津波の情報があります。 *気象庁の津波情報 気象庁では、全国に配置された地震計によって地震を感知すると、直ちに震源位置や地震規 模を推定し、津波が発生するかどうかを判定します。津波の発生が予想された場合は、津波注 意報または警報を発表し、各地の津波到達予想時刻と予想される津波の高さ、また実際に潮位 観測所で異常な潮位が観測された場合は、その時刻や高さを津波情報として発表します。 気象庁で発表する津波予報と津波情報の内容は表 2 の通りで、津波情報の区分と流れは次ペ ージ図 10 のようになっています。 表 2 気象庁の津波警報と津波情報の内容 (気象庁 HP,http://www.seisvol.kishou.go.jp/eq/index_tsunamiinfo.html より引用) ①予報・情報の種類 予報・情報の種類 内 容 津 波 予 報 津波の発生の恐れがある場合に、地震が発生してから約 3 分を目標に津波警報(大津波・津波)または津波注意報(津波 注意)を発表 津波の到達予想時刻・予想さ れる津波の高さに関する情 報 各津波予報区の津波の到達予想時刻や予想される津波の 高さをメートル単位で発表 各地の満潮時刻・津波の 到達予想時刻に関する情報 主な地点の満潮時刻・津波の到達予想時刻を発表 津波観測に関する情報 実際に津波を観測した場合に、その時刻や高さを発表 ②津波予報の種類 予報の種類 解 説 発表される津波の高さ 大津波 高いところで 3m以上の津波が予想 されますので厳重に警戒してくださ い。 3m,4m,6m,8m, 10m以上 津波警報 津波 高いところで 2m程度の津波が予想 されますので警戒してください。 1m,2m 津波注意報 津波注意 高いところで 0.5m程度の津波が予 想されますので注意してください。 0.5m *太平洋津波警報組織(ITSU) 1960年のチリ地震津波で太平洋沿岸各国に多くの被害が出たことをきっかけに、太平洋地域 では、国連教育科学文化機関(ユネスコ)が国際会議を開催し、太平洋域の津波災害の防止・軽 減を目的として、1966年ユネスコの政府間海洋委員会に太平洋津波警報組織(ITSU)を設置しま した。現在、日本や米国・中国・オーストラリアなど27の国と地域が加盟しています。沿岸各 国の地震や津波の発生状況は、ハワイにある米海洋大気局(NOAA)の太平洋津波警報センター (PTWC)に集められ各国に警告が流され、それを気象庁が受けて発表する仕組みになっています。図 10 気象庁から発表される地震と津波の情報の流れ