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賃労働の方法に関する論争について-香川大学学術情報リポジトリ

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賃労働の方法に関する論争について

山 下 隆 資 <は じ め に> 労働経済論はいかなる方法で論じ またその対象領域と展開順序はどのよう に確定すればよいのであろうか。これまでわが国では,賃労働の視点から,労 働経済論を一・つの学問体系として構築するという試みが多くの人々によっでな されて釆たが,その方法,対象領域,展開順序などについて多種多様の見解が あり,いまだ一一致した結論を見い出すにいたっていないように患え.る。筆者も

●●●●● 労働経済論の「労働」は「賃労働」でなければならないとする立場にたち,賃

労働論としての労働経済論の構築を試みようとするものであるが,そのため には,まず先学諸氏の諸見解をサ−・ベイし,その論点を整理し,検討すること からはじめなければならない。その足がかりとして小論ではまず,井村喜代子 氏∴隅谷三喜男氏,小川登氏,菊地光道民,坂口正之氏,村串仁三郎氏の,労 働経済論あるいは賃労働論に関する一女として方法,対象領域,展開順序に 関する一諸見解をとりあげ,そ・の論点を整理することにしたい。 Ⅰ 井村喜代子氏の見解 賃労働論としての労働経済論を構築しようとする場合,まず問題となったの は,マルクスの「経済学批判」体系プラン丹こおける「ⅠⅠⅠ賃労働」と,現行 『資本論』との関係であった。 周知のとうりマルクスは,1850年末頃から本格的な経済学研究を開始するの であるが,1857∼58年頃,六部門構成からなる壮大な執筆計画をたてていた。 これがいわゆる「経済学批判」体系プランと称せられているものであるが,そ のプランの骨子は,およそ次のごとく要約することができる1)。 1)マルクス・エンゲルス『資本論に関する手紙』(岡崎次郎訳),85京∼90貫参照。

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香川大学経済学部 研究年報19 マルクスの「経済学批判」体系プラン Jタ79 ・血ヱ0β− 品幣本 商貸資 1 2 3 (a)資本−・般 − (b)諸資本の競争 (c)信用 桓)株式資本 Ⅰ資本− ⅠⅠ土地所有 ⅠⅠⅠ賃労働 ⅠⅤ 国家 Ⅴ 外国貿易 ⅤⅠ世界市場(恐慌) このマルクスのプランのなかの「ⅠⅠⅠ賃労働」と現行『資本論』との関係を 論じた前駆的な研究としては,井村喜代子底の論文「『経済学批判』プランゐ 『賃労働』について」(『経済評論』1957年2月号所収)をあげることができる。 氏自身ほ,賃労働論を労働経済論として構築することを意図してこの論文をか かれたわけではないが,プランの「ⅠⅠⅠ賃労働」と現行『資本論』との関係を 詳細に論じ賃労働固有の分析課題を指摘した前駆的研究として注目笹値する。 さてこの論文のなかで井村氏は,マルクスの『経済学批判要綱』などの詳細 な考証結果にもとづき,プラン構想当時,マルクスが考えていた「資本−・般」 や「賃労働」の「分析範囲」は,「非常に限られていた」といわれる。たとえ ば『経済学批判要綱』では,「『労働日の自然的限界をこえる強制的延長』や婦 人・子供の労働人口化による剰余労働の増大,労働市場の法則,賃銀形態など はすべて『賃労働』に予定され,さらに注目すべきことには58年『索引』・59 年『計画草案』でも『労賃』や『資本蓄積』の頃日は,なお『資本一・般』には 入っていなかった」2)と。だが現行『資本論』が成立する過程で,当初考えら れていた「資本一・般」の内容が拡大され,それにつれて当初「賃労働」のなか で予定されていた,上記のようなテ・−マもしだいに『資本論』のなかに吸収さ 2)井村喜代子「『経済学批判』プランの『賃労働』について」(『経済評論l』1957年2 月号所収),98貫

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賃労働の方法に関する論争に/ついて −−・ヱ09− れてゆき,かくて「当初『賃労働』に予定されていた課題」は,現行『資本論』 のなかで,「基本的に解明されたものといえる」さ)と結論づけられるのである。 だがしかし,「このことはただちに『資本論』が『賃労働』を完成したこと を意味するのではない」「それにもかかわらず,賃労働の分析が『資本論』で もなお完成されず,『賃労働』にのこされた_J4)といわれる。 それほ−・体どういう意味か。矧ま,「賃労働」が『資本論』のなかで解明さ れているとはいえ,それはイ資本−・般」(氏は,現行『資本論』を「資本−・般」 の完成体系とみなす)5)を解明するに必要なかぎりでの−したがって,たと えば需給の−・致とか,労働と資本の完全な自由移動などの諸前提の、もとでの − 「賃労働」の解明にすぎない。したがって,①「生産的でない賃労働り範 ●●●●● 疇」,②「剰余価値の増加のための搾取手段・−たとえば労賃の『多様な諸形 ●●●● 態』−のたちいった分析」,③産業循環運動によって規定される「労働市場 ●●●●●●●●●●

●●●●●●●●●● の局部的動揺」,④「『産業循環運動の段階変動』による産業予備軍の『適期的

に反復される大きな諸形態.」,⑤「労賃の『実際的運動』など」の分析,⑥「資 本制蓄積の−・般的法則=労働者階級の窮乏化法則」に「反作用を及ぼす階級闘 争」,などが「『資本−・般』体系では劇応度外視され」,未解明のままのこされ ている8)(傍点はすべて原著者)。そして,このように「資本一・般」の枠外にの こされた「諸問題」を理論化し,「完成」することが,いわゆる「賃労働」に のこされた課題であるとされるのである。 では次に,このように個々バラバラに残された「諸問題」をどのように「整 理」し,「賃労働」として「構成」すればよいのか。氏は「賃労働にかんする 諸問題が資本の運動法則によって基本的に規定づけられる以上,それを個々バ ラバラの問題としででは.なく,資本の運動との関係で相互関連のあるものとし て位置づけたうえ.で,資本の運動自体の現実的分析にそくして,それによって 規定された賃労働の現実的・総指的姿態を解明すること−ここに・『賃労働』 構成の視角をさだめねばならない」7)とされ,『資本論』の枠外にのこされた 斉 昭 8 9 9 ∼ 上碩碩喋

同999

︶上上上 4 同同同 ヽ■ノ ヽ′′ ヽノ ︶ 3 5 6 7

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香川大学経済学部 研究年報19 J979 −王立∂・− 「賃労働にかんする諸問題」を,次の四つの分析頃目に「整理」する。 「㈱労働諸条件の現実的変動の分析」。ここでは「(う資本制生産の発展過程 における資本の『現実的運動』=諸資本の『現実的競争』の影響,0この過程 で激化する労働者間の競争と,⇔同時に他面でうまれる競争廃止のための団 結・闘争を分析し,これらの総括として,労働諸条件の現実的変勤を解明す る」8)といわれる。 「㈱搾取の諸枚構の分析」。ここ■では「−㈱の過程で資本が労働者の闘争を抑 圧しつつ剰余価値を増加していく手段==搾取機構として,『エ場体制』(監 督制,分業体制,就業規律,罰金制など),賃銀の『多様な諸形態』やトラッ ク・システムなどの機能をくわしく分析する.」9)といわれる。 「の労働者階級の総体に関する分析」。ここでは「資本制生産の発展にとも なって不生産的労働者が増加する事情−(イ)商品生産の拡大,販売困難の増 加,信用制度の発達による流通部門の拡張,(ロ)商品生産の発展にともなうー切

サービス の労務の賃労働化,い租税制度の確立による官吏・兵士等の雇用…州−・を明

ちかにし,それぞれの経済的・社会的役割,雇主との関係,労働諸条件の規定 要因を分析」し,「(イ)レうに.よる利潤率の下落や(ロ)の利用のための利潤増加の欲 求が生産的労働への搾取を強化する点,いによって全労働者および独立生産者 の所得が削減され,後者が労働者に.転落する点,などを注意し,労働者階級全 体の関連と,全体としての窮乏の実態を解明する」10)といわれる。 「伍力質労働の歴史的傾向にかんする分析」。ここでは,まず氏は「これを『賃 労働』にいれるマルクスの指摘ほないが㈱㈱でふかまる従属・窮乏そのものか らそれを止揚サーる条件をうみだすところに歴史的範疇としての賃労働の特質が ある以上,この過程の具体的分析が当然必要であろう」と述べる。そして「生 産様式の止揚過程の概括」は「世界市場・世界恐慌の分析であたえられる」が 「ここではとくに関係のあるものとして,(イ)労働の可動性の必要から生じる労 働と教育の結合,(ロ)家族全員の就業にともなう旧家父長制の崩壊,日大工業制 度のもとで強まる階級的団結(他方での分裂・抑圧政策,監督・不生産的労働 者の傾向)を止揚の条件の成熟という面から分析する」11)といわれる。 8)同上,100月∼101賞 9),10),11)同上,101貫

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賃労働の方法に.関する論争に.ついて −ヱヱユー 以上でみてきたように,要するに.氏は,「■資本−・般」=『資本論』の枠外に のこされた諸問題−それは主としでマルクスが『資本論』のなかなどで「賃 労働にかんする特殊理論」あるいは「賃労働と労賃に関する特殊研究」のテ ーマとして示唆している諸問題−を四つの分析頃日に整理し,それらを分析 し理論化することが「賃労働」論の固有の課題であるとされるのである12)。 しかし,これら四項目を,「−賃労働」論の体系のなかで,どのように位置づ け,又これら四項目を,どのような順序で論理展開させるかについては,言及 されていない。 Ⅰ 隅谷三喜男氏の見解 つぎに,「賃労働の理論」としての労働経済論の「構想」をはじめてうち出 し,その後の論争の口火をきるきっかけとなった隅谷氏の見解をみてゆくこと にする。 氏が労働経済論の基本的な「構想」をはじめて提示したのは,論文「質労働 の理論について−労働経済論の構想・−.」(東大『経済学論集』第23巻1号, 1954年10月)においてであるが,その基本的な「構想」を土台とし,欧米のい わゆるLabor Economicsの成果も積極的にとり入れ,自己の労働経済論を具 体的・本格的に展開したのは同氏著『労働経済論(第一億)』(築摩書房, 1969年6月)においてであった。そしてさらにこの「第劇版」の改訂版『労働 経済論(第二版)』が1976年11月に出版されたが,この「第二版」は氏自身が 「はしがき」で述べられているように,「第一版」が出版された以後の,日本 及び欧米の労働問題研究を広く「概観」し「検討」することにより,又「第一 版」で「理論的に弱かった点を補強」し,「第一・版」で欠けていた「労働過程 の分析」−「第一版」に対する最大の批判は,この「労働過程の分析」が欠 12)ルクスが『資本論』のなかで示唆しているいわゆる「賃労働にかんする特殊理 論」と,「批判」体系プランの「Ⅲ賃労働」との関連を詳しく論じたものとしては, 佐武弘章「賃労働の特殊理論について」(『社会問題研究』第25巻,同氏著『『資本 論』の貸労働分析』所収)がある。この論文の中で氏は,「貿労働の『特殊理論』は

『批判』体系Ⅲ『賃労働』と理論性格を異にする」のであり,したがって,賃労働

の「特殊理論」と「批判」体系のⅢ「賃労働」とを「■安易に等置」したり,また「安 易に断絶」すべきではないといわれる(佐武,同上,262頁∼263巽)。

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香川大学経済学部 研究年報19 J∂7タ −ヱヱ2− けているという点にあった−−−を新たに追加し,独立の章として設けている。

したがってここでは,主としてこの「第二版」を中心に氏の見解をみてゆく0

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さて隅谷氏は.,労働問題を経済学的に・研究するための労働経済論を「構想」

するわけであるが,まずはじめに「われわれがある問題を研究する場合,研究

対象を明確に.し,分析の出発点を確定しておくことが必要である」1∂)と述べ,

●● 分析の「出発点」=「基礎範疇」を何に求めるべきかの検討から始める0

氏によれば,労働問題(1aborproblem)の労働(1abor)ということばは

「実に多義的」であり,「■っぎの四つの概念を内包している」14〉といわれる0

(1)「■労働力(1aborpower)ないし労働のサ・−ビス(1aborservice)」

(2)「労働力の支出,すなわち,労働すること」

(3)「労働者」 (4)「労働者の集合体としての労働者階級ないし労働組合」 ●● そしてこの「四つの概念」を内包しているものとしての労働問題を研究対象

●● とする,労働経済論の分析の「出発点」=「基礎範噂」は−・体何に求めるべき

か追求するのである。氏はその「基礎範噂」として,「労働者」,「労働」,「労

働力」という概念が果たして適切かどうか次々に検討してゆく。

まず「労働者」について。プレンタ・−・ノは「労働諸問題」を「労働者問題」

という視点で論じ「労働者」を分析の対象=「基礎範疇」とした。しかし

「労働者が出発点となるということは,しばしば分析方法に困難と混乱を生じ させることとなる。労働者問題を強調する人びとが−・般に前提にしているこ とは,労働問題は経済学の問題である以上に,人間存在にかかわる問題だとい う点である。ところで人間が問題になるとすれば,いかなる方法ないし道具を もって分析することが可能であろうか。社会学や社会心理学ないし政治学等を

利用することは可能であろう。しかしそれでは,労働社会学や労働心理学は可

能となっても,労働経済学への展開は疑問である。まして労働者の哲学的分析

ないし人間学的考察は,ここでの課題ではない」15)といわれる。つまり,「労

13)隅谷三善男『労働経済論(第二版)』,1貫 14),15)同上,13頁

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貸労働の方法に関する論争について −ヱヱ∂− 働者」=人間の問題ということになり,この概念は.労働社会学や労働心理学 の対象となりえても労働経済学の「基礎範疇」とは.なりえてないといわれるの である。 つぎに「労働」はどうか。「■労働」という概念が「経済学の分析の対象とな るということは,『労働』が生産の要因,したがって商品と考えられる,とい うことを意味」し「この商品である『労働』の価格が賃金であり,この賃金が −一・般商品と同じような経済関係に.よって規定されている」16)という考え方に・立 脚している。このように「『労働』を商品という視角から考察し,需給関係が 価格を規定していることを示すてとに・よって,これを経済学のなかに・位置づけ た」のは「スミス」や「りか−ド」や「J・S.ミル」などである。しかし「労 働という概念」は「ただちに経済学の範疇とはなりえない」17)。なぜなら,資 本主義社会で商品として売買されるのほ,マルクスが明らかにしたように, 「労働」ではないからである。 では.「■労働力」の力はどうか。「『労働』(1abor)という概念を厳密に規定 し,経済学の分析対象=基礎範疇としてニ,『労働力』という概念を分化させた のは,周知のようにマルクスである」。マルクスは『資本論』で,資本に対応

●●●●●● して措定された基礎範噂労働力商品を分析した。そしてこの労働力範疇を労働

問題分析の基礎にすえ,労働力の再生産が円滑におこなわれないところに労 働問題が生じ それに対する政策学としての社会政策学を構成したのは大河内 一男教授である。「大河内教授の理論は,『労働力』の経済理論であり,これ によって労働問題から社会政策までいっさいの『労働』の問題を経済学の理論 で分析したところに,大きな意義が存するのである.」18)。 だがしかし,「資本を分析する場合」にほ「労働力商品」の分析で十分であ るとしても「単なる労働力商品では労働の諸問題をその特殊性に.おいて分析す ること」は「不可儲」19)であるといわれる。ではなぜ「不可能」か。隅谷氏は、次 のような説明をされる。「労働力商品は,……小他の一・般商品とは異なる特殊な性 16)同上,16貢 17)隅谷三事男『労働経済の理論』,8頁 18)隅谷≡喜男『労働経済論(第二版),20貫 19)同上,26貫

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香川大学経済学部 研究年報19 ユタ7β ーヱヱ4− ●●●●●●●●●●●●●●● 質をもっている。その特質を要約すれば,商品である労働力が,その所有者で ●●●●●●●●●●●●●●●

あり販売老である労働者と不可分で,労働力の売買はとりもなおさず労働者の

雇用にはかならない,という点にある」20)(傍点一引用者)。つまり,資本主 義社会においては,労働者は資本家に対し,自分が自由に処理できる労働力を 商品として販売するのであるが,その労働力は,「その所有者である労働者」 と「不可分」に結合しており,物理的に.分離できない。そのため労働者は, 「自分自身」と,資本家に売り渡しその意味で「他人の所有物」となった「労 働力」とを「同時」に「自己のうちにもつことになる.」21)。ここに商品として の労働力の「特質」がある。かくて,「売られた商品が売った労働者とは不可 分であるため,労働力の取引をめく−って生じる経済的な問題は,単に経済的な 問題に止まることができず,労働者の生活にかかわるより多面的な問題に結び つかざるをえない」22)。そして「資本を分析する場合には,労働力は資本が買 う商品として考察すれば十分であったが,労働の問題自体を分析するに当って は,労働力商品とその所有者である労働名とは,不可分であるという基本的性 格を捨象して,労働力を商品一・般のなかに解消したり,あるいはせいぜい,も ともと商品として生産されたものではない,という程度の特殊性をもったもの として取扱ったりするだけでは,問題の本質を把握できない」28)と。 氏は上述のような説明をした後で,「商品としての労働力の所有者であり販 売者である労働者との統一・において」24)「『賃労働』という範噂を構想」25)し,こ

の「■賃労働」を「傍働問題分析の基礎範噴として設痘」26)すると宣言される27)。

20),21),22)同上,25貢 23)同上,25貫∼26貫 24)同上,30貫 25),26)同上,26頁 27)隅谷氏は,商品としての労働力と労働者の不可分離に「賃労働の矛盾」をみ,そ こから,「資本と賃労働との対立が生起する」(「質労働の理論について−労働経済 論の構想−」『労働経済論』(日本評論社版)所収,11貫)と考えるのであるが,こ のような「賃労働の矛盾」のとらえ方に.は多くの批判がある(たとえば村串仁三郎 『貸労働の根本問題』,荒又蛮雄『賃労働の理論』,同『賃労働と価値法則』など)。 村串氏ほ「蛮労働の矛盾の根源」は「私有財産制度を前提として労働力が商品化さ れるというこ.とにあり」,したがって「労働力と労働者との不可分離ということに.賃 労働の特殊性あるいは矛盾の淵源をみることは全ったくの誤まりである。何故なら,

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資労働の方法に関する論争について ーJヱき− そして「マルクスも資本を分析する場合に.は労働力という概念を用いたが, 資本と培抗するものとしては『資本と賃労働』というように,労働力ではなく 賃労働という概念を用い,また資本制社会の三構成要因という場合にも,資本 ・土地所有と並.べて,賃労働をあげている」28)のであり,マルクスの「経済学 批判」の「課題」は「資本,土地所有,質労働の三者の対抗関係が古典派経済 学の中心問題であり,この理論体系を批判すること」にあり,このうち「『土地 所葡』については,『資本論』第3巻でかなり立ち入って分析されている」29)。 ところが「質労働については,事情が異なっている.」。「資本制社会において 対抗する基本要因は『資本と質労働』」であるが,「『資本論』全三巻で分析さ れたのは,資本が購買する『労働力』であり.」,「『資本論』においては『賃労 働』はその本来の次元において分析されていないといわなければならない」80) と。つまり現行『資本論』では質労働は分析されてこおらず,その意味で現行 ●●● 『資本論』は,兵藤剣氏などが云われるような「資本・賃労働の統一堰論.」31) そもそも労働力が商品化しなければ,労働力商品と労働者との不可分離も質労働の 諸矛眉も生じえ.ないからである」(村串,同上,52頁)と述べ,隅谷氏の見解を批判 される。筆者も,隅谷氏の「賃労働の矛眉」のとらえ方に・は同意できない。 28)隅谷三苔男『労働経済論(第二版)』,26貫 29)同上,27貫 30)同上,27貢。しかし『資本論』で賃労働が分析されていないという見解には,筆 者は同意できない。なぜなら,例えば『資本論』第一巻第三篇第八章「労働日」,第 六筋「労賃」などは,文字通り賃労働の分析であり,第七篇=三尊「資本主義的巻 療の一腰的法則」でも,マルクス自身が「この章では,資本の増大が労働者階級の 運命に及ばす影響を取り扱う.」(『資本論』,邦訳,大月苗店版,第二冊,799頁)と 述べ,資本蓄積=相対的過剰人口の形成に.ともなう労働者階級の「貧困,労働苦, 奴隷状態,無知,粗暴,道徳的堕落の事柄」(マルクス,同上,840頁二)などが分析 されているからである。 31)兵藤剣氏は,現行『資本論』は「資本・賃労働の統一愚論」であると理解される (「労働問題研究と主体性論」,大河内一男先生還暦記念論文集『社会政策学の根本 問題』所収,180貫)。兵藤氏と同様な見解は徳永患艮著『労働問題と社会政策論』 にもみられる。徳永氏は「賃労働」は基本的に.『資本論』で論じられているという立 場にたち,「マルクスが『賃労働に関する特殊理論』で取り扱おうとした問題は,・ 『賃労働の理論』や『労働経済の理論』一般を抽象的に展開することではなく,たと えば現実の賃金諸形態のように,むしろより具体的次元に重点をおいた分析だった のではなかろうか。換言すれば,質労働に関する原理論の再構成ではなく,原理論

(10)

香川大学経済学部 研究年報19 −JJβ・− Jタ79

●●●●● ではなく,「資本・労働力の統一・理論」82)にすぎないといわれるのである云

かくて「賃労働は労働力より具体的な次元での範噂」88)であり,「われわれ の課題」は,この「賃労働」を「考察の対象とし,分析することに.ある」。 「賃労働の分析の次元は,経済学の原理諭が分析の対象としてきた『労働力』 の場合にくらべて」「一・段具体的な次元において展開されるのである」84)と主 張される。 (2) ではつぎに隅谷氏の賃労働論=労働経済論がどのような「体系」として構築 されるのか,また,その展開順序ほどのようになっているのかながめてみよう。 まず「労働経済論の体系」について。氏は労働経済論「体系」化への足がか り=「賃労分析の視点」は「労働力が再生産されるという側面」に求められる と,次のように述べる。資本制社会では「労働力は販売され,買手である資本 によって消費される。この労働力の消費は労働者による労働にはかならない。 この消費された労働力に対してその価格である賃金が支払われる。労働者はこ うして得た賃金によって,生活に必要な物質を購入し,それを消費するこ、とに よって労働力の再生産が行なわれる」85)。そしてこれを「範式」化すれば次の ように.なる。 l隼A〉−(G)…ア…G−Ⅳ′…l爪A)。 この労働力再生産の「範式」は,資本の活動が価値増殖を目標としているの に周・し,「消費財の獲得が,さらに一・歩進めていえば,消費財の消費による生 活」が「目標」であり,「その思わぬ結果として労働力が再生産される」こと を示しているる6)。かぐて「賃労働を分析する場合に.は,労働力が販売され,賃 で捨象された具体的諸要因を考慮に入れたうえでの分析ということになるであろう」 (徳永,同上,139貢)と述べられる。 32),38)隅谷三亭男,『労働経済の理論』,21頁 34)隅谷三喜男『労働経済論(第二版)』,29貫 35),36)同上,28貢

(11)

贋労働の方法に関する論争に.ついて −ヱJ7−・− 金を獲得し,それで労働力の売手である労働者の生活が維持され,労働力が再 ●●●●●●●●●

●●● 生産されるという側面に視点をすえ」∂r)(傍点一引用者)なければならないと。

ここで注意を要することは,すでに.述べたように・,「賃労働の分析次元は,経 済学の原理論が分析の対象としてきた『労働力』の場合にくらべ」「−−で段階具 体的な次元において展開される」ものであるから,氏の賃労働分析は原理翰次 元での「労働力の再生産」の分析そのものではない。ここでいっていること

●●●● は,あくまでも「労働力が再生産されるという側面」に「視点」がすえられな

ければならないということである。 でほ「労働力が再生産されるという側面に視点」をすえて構築さわる賃労働 論=労働経済論の「体系」とはどのようなものか。氏は上述の労働力の再生慮 過程を示す「範式」のⅣ(。)を,賃労働ム(。)に.置きかえ,「賃労働の再生過 程」を次の「範式」で示す88)。 エ(J)−(G)・‥・A…G岬Iγ′・1‥ム(A)。 そしてさらにこの「質労働の再生産」範或は,自立的・独立的に存在するも のではなく,それは「資本の再生産の範式G−Iγ…ア‥いⅣ′・−G′ と対応するも のとして把握されなければならない.」89)と述べられ,かくて「われわれは労働 経済論の体系をつぎの範式で示すことができる」と,下記のような図式を示さ れる40)。

;……Ⅳ1 三∴茎‥.エ(。)労使関係

…労…≡;疫

ト ノ ヽ ▼+ ノ 消費生活過程 労働市場 労働過程・賃金 I坑=消費財,Ⅳ2・−‥ム(A)を羊,資本との直接的対応から解放されている ことを示す。 ( 要するに,この図式で示される「賃労働の再生産」の全過程を分析すること が,氏の労働経済論の「体系」をなしているのである。 37)同上,お貫∼29貫 38)同上,47貫 39)同上,49貫 40)同上,50頁

(12)

香川大学経済学部 研究年報19 −ヱヱ∂− J97β つぎに氏の労働経済論では,、「賃労働の再生産過程」の分析がどのような順 序で展開されるのか,その点についてこながめてみよう。 氏の賃労働論=労働経済論の第1過程ほ,上図のム(A)・−・(の の過程,つま り労働市場の分析である。「賃労働の再生産過程」は,労働力の販売から始ま るのであり,ここでは「労働力商品の取引をめぐる売手と買手の諸関係」41)「雇 主と労働者との雇用関係」42)などが分析される。又,アメリカ労働経済学=「労 働市場の経済学」も,「賃労働の再生過程」のなかの「最初の一過程」である 「傍働市場」として位置づけられ,考察される48)。 第2過程は,労働過程(…‥A…)の分析である。「労働過程の具体的問題 は,,労働市場での喧引が終って,労働力が消費される,換言すれば,労働者が 労働する過程で形成される独自の問題である」44)。そしてこの場合「貸労働の 視点」から「重要」なことは,「これら労働過程に.おける諸条件が,単に.商品

●●● =労働力の使用条件を規制するにとどまらず,労働者が労働力の使用される場

にみずから出向かなければならないことに示されるように, ●●● 労働老自体を規制 することとなる点である」45)(傍点一引用者)と指摘する。いいかえ.れば「労 働過程に.入っていくのが,単なる商品としての労働力であるというのは,・鵬…つ の理論的抽象であって,実際は労働者によって担われた労働力であり,換言す れば,労働力の担い手としての労働者,われわれがこれまで用いてきた言葉を 使えば,賃労働である」46)という点の認識が「蛮要」だといわれるのである。 第3過程は,「労働過程をはさんで(の…‥‥A……G という形をとってい る」「賃金」の分析である。「労働経済論における賃金諭は,労働過程に媒介 されて一:段階具体化された現実に支払われる賃金(C)について分析しなけれ ばならない。その点で理論経済学の賃金論とは異なる」47)。つまり上述の「労 働市場」「労働過程」などの分析をふまえたうえでの,経済学の原理論次元よ ●●●●● りも,より具体的段階での賃金問題の分析が,ここでの課題であるとされるの 41),42)同上,47貫 4S)同上,46貫 44),45)同上,47頁 46)同上,102貢 47)同上,48頁

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貸労働の方法に関する論争について −Jユタ− である。 第4過程は,G−1γ2…‥ム(A)で示される労働力の再生産過程=労働者の消費 生活過程の分析である。アメリカ労働経済学は「労働市場とそこで決定される ●賃金の分析で終っている」が「’賃労働の再生産過程の分析」では「賃金によっ て行なわれる労働力の再生産を考察しなければ」「完結しない」48)。ではなぜ 労働力の再生産過程=労働者の消費生活過程の分析が必要なのか。氏は次のよ うに述べる。「労働力の再生産=労働老の消費生活の構造は,労働市場および 賃金との関連でいえば,それらを規定する供給要因であるが,同時に,この ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● 消費生活の場こそ,いちおう資本の支配の外にある,労働者の自主制の回復の

● 場でもあり,その意味で労働者の自主的活動の基盤となる戦略的な地点であ

る」49)(傍点一引用老)と。いいかえれば,「資本の支配の外に.ある」労働者 の消費生活の場でこそ「労働者の人間としての諸欲求が実現される可能性が与 えられている」50)と考えられているのである。そしてまた,このようなものと しての「生活過程をふまえなければ,壊低賃金制も失業保険も,おしなべて社 会保障そのものが分析不可能となる.」51)。かくて「労働力の再生産=労働者の 消費生活の分析は,労働経済論の盈要な一骨をなすもの」52〉として.■位置づけら れることになる。 さらに氏の労働経済論の中には,労使関係の分析も入ってくる。「賃労働は, 資本にとっての使用価値となる労働力のほかに・,その担い手としての労働老の 側面をもっており,商品として労働力を買った資本と,労働者との間にほ,商 品の取引関係をこえた基本的な緊張関係がはらまれている」5る)。アメリカ労働 経済学はこの「緊張関係」を研究対象にし,「労使関係諭として展開してきた」 のであるが,労働経済論も,「このような労使関係を重要な領域として構成さ れなければならない」54)とされるのである。 最後に「労働経済論としては,もう一・つの舘域を考察の対象としなけれはな らない」55〉とされる。それは何か。「それは政府の労働政策,日本の学会の伝 48),49)同上,48煮 50)隅谷三番男『労働経済論』(日本評論社版),43薫二 51),52)隅谷三者男『労働経済論(第二版)』,48頁 53),54),55)同上,49頁

(14)

香川大学経済学部 研究年報19 一丁ユ)−− J∂7タ 統用語でいえば社会政策である」56〉。氏によれば「賃労働をめく}る諸問題に は,労使のほかに政府が介入」しており,この「政府の政策を考慮せずに.は賃 労働の問題は分析できないし,政府の政策自体が労働問題研究の重要な領 域」57)となる。かくて政府の労働政策一労働者保護=労働力確保的な政策や 社会保険や社.会保障など−も「社会政策」として,氏の「労働経済論体系」 のなかに含まれることに.なるのである。 以上でみてきたように,氏の「労働経済論体系」を構成する対象領域とその 展開順序は①「労働市場」,②「労働過程」,@「賃金」,④「労働者の消費生 活過程」,⑤「労使関係」,⑥「社会政策」となっている。だがしかし,氏の著 書『労働経済論(第2版)』では,必らずしもこの順序で展開されているわけ ではない。その篇別構成をみると,「第1章 基礎範疇」,「第2章′ 労働市 場」,「第3章 労働過程」,「第4費 労使関係」,「第5奇 貨金と生活」, 「第6章 社会政策」,となっており,展開順序としては,②「労働過程」の 次に③「貸金」が論じられるのではなく,④「労使関係」が論じられているの である。「賃労働の再生産過程」にそくして論理が展開されるとすれば,当 然,②「労働過程」の次に③「賃金」の分析がなされるべきだと思われるが, 何ゆえに(診「賃金」に先だち④「労使関係」が論じられるのか,その理由は定 かでない。 Ⅲ 小川萱氏の見解 つぎに,「労働経済論の課題」は「資本の反対棲にある賃労働の再生産の構 造・性格とその運動法則を明らかにすること」58)にあるとされ,「賃労働諭は 『資本の論理』に対抗する『労働の論理』の核をさぐり,その展開過程を追求 するものとしてあらねばならない」59)とする小川氏の見解をみてゆくことにす る。氏の見解は論文「労働経済論の方法」(京大『経済論叢』第101巻2号, 1968年2月),及び著書『労働経済論の基本問題』(1973年6月)において示 56)同上,49煮 57)同上,50頁 58)小川登『労働経済論の基本問題』,3貫 59)同上,12貫

(15)

質労働の方法に.関する論争に.ついて −−−J2ノー されている。 (1) まず賃労働の概念について。氏は「賃労働とは何か」とみずから問い,それ は「さしあたり,自己の労働を他人に提供し,その対価として賃金をうけとる 労働のことである」60)と答える。しかし続いて∵すく一に,「このような賃労働観 定にとどまっていては全ったく不十分である」6りといわれる。それはなぜか。 「こういう賃労働は資本主義以前の社会にも存在した」$2)からである。では資本 主義社会で支配的形態をとる賃労働とは,どのように規定すればよいのか。氏 は「近代的賃金労働とは,労働力商品が資本と交換され,生産資本の1因子す なわち可変資本として機能するときに∴労働がとる形態である,と規定でき る」68)と述べ,さらに「労働が賃労働となる必要条件は労働力の商品化であ り,十分条件は資本と交換されるということである。労働力商品の所有老であ る自由な労働者はここに.おいて賃労働者に.なる」64)といわれる。そして前述の 隅谷氏の見解−一層労働を,商品としての労働力と,労働力の所有者であり販 売者である労働老との統一・において把握すべきであるとする見解一に対して は,「賃労働とはそもそも,資本との関係の下における労働すなわち資本のた めの価値増殖労働のことである,という基本的規定がここにほぬけおちてい る。・ 資本と切離しては賃労働ほ絶対に.分析できないにもかかわらず,労働 力商品所有者のみを自足的に.とりだしている」85)と批判される。 つぎに,マルクスの『経済学批判』体系プランにおける「賃労働」と現行 『資本論』との関係について。この点に閲し氏ほ次 論』が分析対象としてい′る『資本一腰』は,土地所嵐 賃労働についての基礎 規定を欠いては構築しえ.ないという意味において,現行『資本論』は,賃労働 一・般の規定を包含している」66)と。つまり前述の隅谷氏とは異なって,『資本 60),61),62),63)同上,23頁 64)同上,24貰 65)同上,飢貫∼25貫 66)小川登「労働経済論の方法」(京大『僅済論叢』第101巻第2号,1968年2月), 65煮

(16)

香川大学経済学部 研究年報19 ー・ヱ22− Jβ7p 論』で賃労働の分析はおこなわれているとされるのである。しかしそれは「資 本一一・般」を解明するに必要なかぎりにおいての分析であり,次のような諸前提 のもとでの分析にすぎないといわれる。 ① 労働力は1種類(「社会的平均労働」としてこの「簡単労働」)。 (参 単一・労働市場。 ③ 労働の「完全自由移動」。 ④ 労働力の価値と価格の−・致。 ⑤ 労働者の「階級闘争」の「除外・捨象」67〉。 そしてこのような諸前提のもとで『資本論』で分析されている賃労働を,氏

●● は「賃労働一・般の理論」68)として位層づける。

つぎに「『資本論』を前提した現実により接近した段階における理論」とし ての「賃労働論」が必要であり,氏はこれを「賃労働の−・般理論」勒として位 置づける。この「贋労働の一般理論」は「『資本論』=『賃労働一・般の理論』 に存在する方法的制約をまずとりはずし,賃労働に具体性をもたらすことから ほじまる」のであり,具体的にほつぎのような諸前提のもとでの賃労働分析で ある。 ① 「労働力は−・種類ではなく復種」。 ② 「労働苗場は単一・でなく多元的」。 ③ 「労働移動は自由でなく不完全」。 ④ 賃金は「労働力の価値以下に低下させられる傾向」にある。 ⑤ 「諸資本間競争,労働者間競争を捨象するのではなく,その要因が導入 され,論理展開の基軸に労資対抗・闘争がある」70)。 このように,氏のいわれる「貸労働の一般理諭」は,「経済学原理諭があつ かっている対象よりも具体的な次元における問題をあつかう」71)のであり,マ ルクスが『資本論』の枠外として留保している「賃労働に関する特殊理論」も, この「賃労働の一・般理蘭」のなかで「正しく位置づけ」られることによって, はじめて「十分な分析がなしうる」72)と述べられる。 67)小川登『労働経済論の基本問題』7■真∼8貫 68),69),70),71)同上,8貢 72)同上,9貫

(17)

賃労働の方法に関する論争について ーJ2ぎー さらに.氏は,「賃労働史論」を「賃労働の特殊理論(すなわち特殊のなかの 特殊一原著老)」として位層づけており,かくて氏の「賃労働論」は,①賃 労働−−・般の理論==『資本論』,②賃労働の−・般理論,③質労働の特殊理論, という3つの論理段階をとることになる。そして②の論理段階での賃労働分析 が,氏のいわれる固有の意味での賃労働諭=労働経済論をなしていると思われ る73)。 なおここで注目すべきことは,氏が「現行『資本論』における資本と賃労働 との関係の一一般的規定はあくまでも『資本関係』としてなされているのであ り,‥…・『資本は贋労働の反省関係にある』という側面から分胡されているわ けではない。『資本論』における賃労働一・般の規定と賃労働諭プロパ・−・におけ る賃労働分蘭とはアプロ1−・チの仕方に.適いがあることが看過されては『賃労働 諭』は無意味なのである」74)と強調される点である。つまり氏は『資本論』で は「労資関係を資本の側」からみた分析であると理解し,これに対し,賃労働 諭では,「労資関係を賃労働の側から」みて分析すべきであり,「賃労働が資 本に従属し支配されていることだけを強調してはならないのであって,逝に, ‥…賃労働が資本から自立し対立しようとする側面に焦点をあてねばならな い」75)「『資本に対立して自立的なもの』として『賃労働が対自的に考察されね ばならない』という…州このマルクスの指摘は賃労働諭の性格づ桝こと、つて決 定的である」78)といわれるのである77)。かくて氏の云われる「賃労傲−・般の理 73)小川畳「労働経済論の方法」,77貰 74)同上,68頁 75),76)小川登『労働経済論の基本問題』,12貢 77)マルクス「賃労働」論の成立過程を追跡することに・より,「賃労働」諭の「基本視 角」を追求した論文としては,藤島洋一イ『経済学批制』体系プランにおける『賃 労働』論の基本視角にンついて」(鹿児島大『経済学論集』,第10号,1974年)があ る。この論文の中で氏は「『経済学批判』体系プランにおいてマルクスが考えていた 『賃労働』論は,第一・に.,ブルジョア社会の否定安田としての賃労働をそのものと して考察し,プロレタリア・−・†の革命主体としての成長の必然性,その道すじを解 明するという基本視角をもち,第二に,それを資本の運動法則との関連で∴現実的 競争論レベルのこ具体的現象形態とその変動にいたるまで,全面的に展開しようとす るものであった」(藤島,同上,55箕)と述べている。

(18)

香川大学経済学部 研究年報19 J979 −J24− 諭」=『資本論』と,固有の意味での「賃労働論」とは,論理次元も,又「ア ブロ・−サの仕方」もことなることになる78)。 (2) では次に,小川氏の賃労働論=労働経済論の対象領域と,その展開順序はど のように.なっているのか,その点をながめてみよう。氏は,「賃労働諭」の展 開にあたってほ「(む質労働諭は資本間競争・労働者間競争という現実的競争論 の次元で考察されねばならないこと,②賃労働諭はその序論として資本蓄積 諭79)をもたねばならないこと,③賃労働論における賃労働は.資本にたいして 自立的・対立的なものとして定立されなければならないこと」る0)という「3つ の重要な面」を指摘し,隅谷氏と同様,「質労働論」の「展開」を「資本の一 般的範式」に関連づけて考察する。その場争「資本の一腰範式」を,1回かぎ りのものではなく「連鎖・繰り返す」ものとして把握し,また,「単純再生産」 としてではなく「拡大再生産」においてとらえている点に特徴がある81)。そ.し でそれを「図式化」し,以下のとうり示す82)。 78)もし小川氏のいわれるように,『資本論』での賃労働分析が「資本の側」からみた 分析であり,「資本に対立して自立的なもの」としての「贋労働論」の展開が必要で あると主張されるのなら,『資本論』での賃労働分析を,「賃労働論」として再構成 してゆく必要が生じてくると思われる。だが氏むま,『資本論』の賃労働分析を,「賃 労働諭」として再構成してゆくという方法をとらず,②「貿労働の一・般理論.」の段 階からのみ「資本に対立して自立的なもの」としての「食労働論」の論理展開をお こなうという方法をとる。そうすると,何ゆえに.,『資本論』の論理次元での「資本 に対立して自立的なもの」としての「貿労働論」の論理展開が必要でないのか,そ の理由が改めて問われなければな年ないと思われる。 79)ここでいう「資本事項論」とは,「『賃金=労働力商品の価値』を前提にしている 『資本論』第一・巻次元の『資本制蓄積の一・般的法則」ではなく,銀行資本をふくめ た諸資本間の競争としての投資競争のありかた,つまり,『資本の現実的蓄贋』論で なければならない」(『労働経済論の基本問題』,12頁)と述べている。 80)同上,12貫 81)小川萱「労働経済論の方法」,78真 82)同上,79貢

(19)

貸労働の方法に.関する論争について −ヱ2∂−

/Pm

■一 ‖P2・‥‥…りⅣ2′−G2′ l ‥

三…天 属‡

:…Al(Iγ1)−−(Gl) ・A.……・G.・−1γノ…l・lA2(I坑)

ここでGl→G2は資本蓄積を意味し,G2>Glとして拡大再生産を意味し

ている。賃労働の流通範式は,そのはじめから資本に従属している。また

Al(lγ1)とA2(Iγ2)は,職種別労働力を示し,資本蓄積=生産手段の高度化

によって,変化していることを表わしている。 このように氏は.,賃労働諭の「展開」を「資本の−・般的範式」に.関連づけて 考察した後,その賃労働諭去労働経済論の「対象領域」として,「①労働力商 品=労働力価値の形成過程,②労働力供給の階層的構造と労働力需要の頃合の 場と㌧ての労働市場,③工場労働(労働過程),④賃金(その水準と形態・体 系,賃金格差,そして労働分配率),⑤労働組合,⑥労務管理と労使関係.」88) という「6大領域」を「確定」する84)。そし七「日本の賃労働研究では労働 市場,賃金,労働組合,労使関係という4大分野説が通説的であるが,①と③ なき労働経済論はマルクス主義労働経済論とほならない」85)といわれが6)。な 83)小川登『労働経済論の基本問題』,14昇一−15貫 84)なお論文「労働経済論の方法」でほ,「工場労働(労働過程)」の分析が入ってお らず,したがって「5大領域」となっている(同上,79京)。しかし『労働経済論の 基本問題』の執筆段階で,それが加えられ「6大領域」と拡大している。また隅谷 氏が「社会政策」を,労働経済論の「対象領域」にとり入れ論じるのに対し,小川

氏は「『賃労働の−・般理論』=労働経済論には,政府の社会政策をいれる必然性は論

理的にない」としながらも,「労働経済論に.おける『歴史理論』ともいうべき賃労働 史論には国家の労働政策は無条件で入る」(同上,80頁)とされる。 85)小川畳『労働経済論の基本問題』,15貫 86)小川氏も執筆者として加わわっている岸本英太郎編『労働経済論入門』(1969年5 月)のなかで,岸本氏は労働経済論の「対象・領域」として(1)「労働力の流通過程 一労働市場と労働力の市場価格」,(診「労働力の消費過程=価値増殖過程としての労 働過程一労働諸条件(労働様式、労働内容・労働時間・労働強度・作業環境など)と 後払いされる賃金としての『労働の価格』,その形態と体系と水準」,③「労働力の 生産過程−・労働者の消費生活と熟練や技能や知識の育成過程,その内容と形態」,④ 「これらの諸過程を貫く資本制的蓄着法則=窮乏化法則と労使関係,国家の社会政策

(20)

Jβ7タ 香川大学経済学部 研究年報19 ーヱ2β−

ぜなら「賃金は.労働力価値による規制なきままに労働市場の需給関係によって

きまるとせねばならず(いいかえ.れば,価値論なき価格諭,生産諭なき流通論

‥‥原著者),労働者の苦悩・疎外の場であるがゆえに労働運勢の最深の原点

となる工場労働が見失われて賃労働の表皮に依拠し,『余暇の中で人間性を回

復する』主義となってしまうからである」87)と。

続いて「展開順序」に関して,氏は「さきの6分野をその番号順に㌧展開すれ

ばよい」88〉と述べられる。つまり,「労働力商品=労働力価値の藤成過程」=

「労働力商品の育成過程」から「賃労働論」の展開が始まるとされるのであ

る。でほ何ゆえに,「労働力商品の育成過程」が,労働市場(前述の隅谷氏の

見解)や労働過程(後述する菊地氏の見解)に先だって論じられなければなら

ないのか。この点についで氏は次のようにいわれる。「一視実に労働するには労

●●●●●●●●●●●●●●●

働力商品は売られていなければならず,また商品を売るにはその前に生産され

●●●●●●●●●●

ていなければならないの∴である。そればかりセはない。資本の生産過程である

労働過程(エ場労働)からはじめては,日本の賃労働研究の決定的弱点である

生産力主義・技術決定説ならびに.客観主義と訣別した地点を立脚点とすること

●●● ができないし,労働力需要のサイドから出発するのではなく労働力の育成・供

給のサイドから出発せねば労働者の主体的力量が測定できないのである」89)

(傍点一引用者)と。要するに,「販売」に先だち「生産」の分析が優先さ

れ,・また「自立的・対立的なものとして定立」される「賃労働諭」では,労働

者の主体性が示される「労働力の供給サイド」が,「需要のサイド」よりも重

視されなければならないとされるのである。 なお,上述の方法論に立脚し,「実証的な1アメリカ労働経済学の成果」も意

欲的に.とり入れ,具体的に氏の「労働経済論」を展開している著書『労働経済

論の基本問題』の篇別構成は,「序章 労働経済論の課題と方法.」,「第1章

をふくむ労働政策など」(岸本,同上,3貫∼4頁)をあげている。しかしこの『入 門』のなかで実際に.とりあつかわれているのをみると「序説 労働経済論の対象と 方法」,「簡1章 賃労働の理論」,「第2牽 労働市場と賃金」,「第3曹 労働組合 と労使関係」,「第4輩 日本の賃金と労働組合」となっており,「労働力の消費過 程(労働過程)」,「労働力の生産過程(労働者の消費生活)」は分析されていない。 87),88),89)小川登『労働経済論の基本問題』,15頁.

(21)

質労働の方法忙.関する論争Kンついて ーヱ27・一 賃労働の基礎理論」,「第2章 労働市場の経済澄諭」,ノ「第3章 工場労働の 経済理論」,「■第4章 賃金の経済理論」,「第5章 労働組合の経済理論」と なっており,「①労働力商品=労働力価値の形成過程」と「⑥労務管理と労使 関係」にあたる部分が,独立の章としては,欠落している。「労働力の商品 化」,「労働力商品の特殊性」,「価値法則と労働力の価値規定」についてほ 「第1普 賃労働の基礎理論」のなかで論じられており,「労働力の供給」につ いては,.「第2章 労働市場の経済理論」のなかの「第2節 労働力供給の構 造」として論じられているが,果たしてこれらが氏の「①労働力商品去労働力 価値の形成過程」の分析を意味しているのかどうか,・定かでない。、「⑥労務管 理と労使関係」については,「筆者の力量が,、日本ではこれまで経営学の領域 として発達してきた『労務管理と労使関係論』を経済学的に.規定し,再構成す るまでにいたっていないので卜その考察はなしえなかわた」90)と述べられてい る。しかし,、この土とは決して氏の力作『労働経済論の基本問題』の価値を減 じるものではなく,この苔は,隅谷氏の著書『労働経済論』ノとともに,これか ら賃労働諭去労働経済論を研究するものにとっ七,文字通り「避けてとおるこ とのできない位置を占めている」と言ってこよい。 Ⅳ 菊地光造氏の見解 菊地氏も,隅谷氏や小川氏と同様,質労働論として甲労働経済論の構築を試 みられるのであるが,その場仝,「生産資本循環の視点」を箪祝し,賃労働諭 の具体的展開ほ,「生産過程・労働過程」から始め1るべきであると主張される。 氏の見解は,「労働経済分析の基礎理論」(岡山大『経済学会雑誌』第2巻第 2号,1970年8月),「労働経済論への方法的試論」(京大『経済論輩』第107巻 第2・3号,1971年3月)と題する=つの論文において示されている。 (1) まずはじめに,「質労働」と現行『資本論』との関係についての氏の見解で

あるが,氏は,現行『資本論』ほ「その形式においては,あく■までも,資本−

90)同上,14頁

(22)

香川大学経済学部 研究年報19 ユタ7タ −・J2β−・

般の完成体系として構成されているといわねばならない」叫とし,■マルクス

は.,この「資本−・般の論理体系を完成する過程で『競争』『信用』『土地所有』

などの−・般規定をも与え.,資本・土地所有・質労働についてそれらの本質的関

係・−・般的依存関係を明らかにした」92)といわれる。つまり現行『資本論』で

「質労働.」の分析はなされているとされるのである。

だがしかし,このことは『資本論』で「賃労傲」が論じつくされていること

を意味するのではなく,それはあくまでも「資本一一般を論じるに必要なかぎり

での賃労働分析」㊤8)にすぎず,したがって,「『資本論』の方法的制約を超え

て,より具体的次元」94〉での「賃労働の全側面・全領域匿わたる独自り体系的

展開が必要」95)とされる。いいかえれば,『資本論』での賃労働分析は「,資

本一腰」解明めための賃労働分析であり,そのためさまざまの「方法的制約」

=「論理的制約」岬を背負、つており,これら「方法的制約」を「髄象から具体

への上向過程」で,しだいにとりはずしてゆくかたちでの「■賃労働諭」の「独

自の体系的展開が必要」とされるのである。

ではつぎに,氏の「賃労働諭」の「抽象から具体へ」の論理展開はどのよう

になされるのか。

氏によれば,「賃労働論」の「ヴィヴィッドな課題」は「資本制生慮の現実的

●●●●●●● 運動」「競争の現実的運動」のなかで論じられる「現実的賃労働論」であると

いわれる97)。そしてこの場合,『資本論』=「資本一・般」における賃労働分

析から「現実的賃労働諭」へと「−一・挙」に.「論理次元」が「飛躍」するのでは

なく,両者をと、り結ぶ「理論的媒介項」として「労働力の市場価値法則論」の

展開が必要であるといわれる98)。この「労働力の市場価値法則諭」は,「資本

91)菊地光造「労働経済論への方法的試論」(京大『経済論艶』第107巻第2・3号, 1971年3月),48貫 92)同上,47京 93)同上,53貫 94),95)同上50貢 96)氏は『資本論』での賃労働分析の「方法的制約」=「論理的制約」として,小川氏 と同様,五つの点(122真の五つの「諸前提」参照)をあげる。 97)同上,57巽 98), 同上,55頁

(23)

賃労働の方法に関する論争について ーJ29− ●●●● 間競争の−・般理論=平均利潤論の裏面展開として」の「労働巷間競争の−・般理 論.」99)として展開され,「賃労働諭に.おける上向展開と下向分析の結節点」100) としての位層を占めるのである。氏は「賃労働諭の理論的展開の成否は,労働 力市場価値法則諭の認識にあるといっても過言ではない」101)とさえいわれる。 このように氏の「賃労働論」は,①「資本一・般」のなかでの賃労働論=「賃 労働の基礎的・−・般的規定」,②「競争の−・般理論.」のなかでの賃労働論= 「労働力の市場価値法則論」,③「競争の現実的運動」のなかでの賃労働論= 「現実的質労働諭」,という三つの論理段階をとり,②から③へと上向する過 程で「『労働の反作用』=団結による抵抗的規制も導入される.」102)とするので ある。 (2) つづいて,菊地氏の「賃労働論」の対象領域とその展開順序をながめてみよ う。 氏は,隅谷氏や小川氏と同様,労働力商品の流通範式を,資本の循環範式と のからみあいにおいて検討し,その過程で「賃労働論」の「対象領域」を確定 してゆくのであるが,氏の場合は,生産資本の循環範式を重視する点に特徴が ある。 氏が「賃労働論」の展開にあたって,「生産資本循環の視点」を強調するの ●●●●●●●●● は,「機能し運動サーる資本のありかた,生産様式・蓄積様式の態様こそは,労 働力需要の質・畳を規定するばかりでなく」「労働力商品のありかた,質労働 の再生産構造をも規定してゆく」103)のであり,又何よりも「生産資本循環をみ つめる視点」が「資本・賃労働の具体的な結合と対抗,両者の相互依存と闘争

● によって彩られる『資本制生産の現実的運動』の分析へ,したがって,また現

●●●●●

● 実的賃労働論への接近ル・−・トを与える」104)(傍点一原著名)からだといわれる。

99),100)同上,55頁 101)菊地光造「労働経済分析の基藤理論」(岡山大『経済学会雑誌』第2巻第2号, 1970年8月),42貢 102)菊地光造「労働経済論への方法的試論」,62貫 103),104)同上,58頁

(24)

香川大学経済学部 研究年報19 ヱ979 −ユゴO一 そして∴,「質労働論は,資本巻積法則の作用を絶対的基礎としてのみ可能で ある」105)「資本の運動が質労働におよぼす作用の動態的過程と賃労働の反作 用,労資対抗のいきいきとした過墾を分析することなしにほ賃労働論は,無意 味である」108)とい う観点から,まず「資本蓄積論」を「賃労働論の序論として

●●●●●●● の位層」107)に.おき「現実的賃労働論」の固菊の「■対象領域」と「展開順序」を

以下のとうり示す。 (1)「生産過程・労働過程」。氏の「現実的質労働論」にとって,「労働過程 論は,基軸の位置を占める」108)。なぜなら「生産過程・労働過程のありかたこ そが……・必要生産手段(ア肋)と労働力(A)を質的・量的に規定し,『労働力の 販売と購買』の内容を規定してゆく」109)からにほかならない。そしてここでい う「生産過程・労働過程諭とは,『資本論』の論理のたんなる再論であってほ ならない」110)のであり,『資本論』の論理をふまえつつも「資本の現実的蓄積 様式からの下向分析として,また『資本論』期以降の現実資本主義の発展(段 階的発展)をも映し出すものとして再構成される生産過程・労働過程論」111〉で あり,それは「①個別生産職場,②組別生産職場,③大量生産職場等」112)とい った,「諸職場類型と,その発展構造の分析というかたちをとる」113)といわれ る。 (2)「労働市場」。氏の労働市場論は「現実的競争論に立脚し,資本・賃労働 の主体的行動に媒介されたものとして,労働力商品の取引きをめぐる競争磯 構,その構造と競合運動の展開を分析すること■を固有の課題」としており,し たが、つて,そこでは「競争−・般の分析において圏外におかれた価値=価格の閑 ●●●●●●●

● 係をやぶる競争の具体的な姿,労働市場の『局部的動揺』や『摩擦の研究』も

そのものとして視野におかれ」(傍点一原著者),さらに.また,「労資対抗に媒

●●● 介される労働市場の復層性,労働市場の分断と統一・の問題も考察され,資本主

頁 頁 9 6 5 5 上京其貫上質真 岡545850同6759 甥馳軋馳00馳馳 ︶ ︶ ︶ ︶ ︶ ︶ ︶ 5 7 8 9 0 2 3 0 0 0 0 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1

(25)

貸労働の方法に.関する論争について ーヱ♂ユー ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

義の段階的発展に.規定される労働市場構造の変動も分析課題」(傍点一原著者)

とされるとしている114)。 (3)「賃金」。賃金諭は「現実的労働市場の分析に源化された労働力商品に・つ いての価格諭」であり,ここ/での賃金諭の「 ̄固有の課題」は,「労働市場での 現実的競争磯構とその運行の中で成立する不完全競争価格諭」となっている。 それは具体的には「賃金格差の形成とその変動,平準化と撹乱の理論的分析で あり,この分析過程で賃金決定におけるミクロとマクロをつなぐ接点としての ●●●●● 賃金構造論」(傍点一原著者)の展開,「資本制生産の発展に.ともなう賃金形 態・賃金体系の分析」などである115)。 (4)「賃労働の再生産」。ここで氏は,まず,「労働過程の態様によってこそ 労働力の質的構造,したがって,それを担う各種賃労働者の存在形態が規定さ れる」と述べ,かくて「賃労働の再生産を分析する視点は,あくまで労働過程

●●● と消費生偏過程の統劇でなければならない」と強調される。そして「生産点と

●●●● 生活点」の「双方を視野」におき,「その相互連関を解明」するとともに「労

● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●

● ● ● ● ● ● ● ● ● 働力商品化の法則が歴史的実在としての人間をまきこみ.,貸労働者化してゆく

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ところに成立する賃労働の階層的再生産の問題が分析される」116)(傍点一原著 者)とする。そして,また「労働の態様と反対給付として:の賃金そして消費市 場のありかたに牒介されて成立する質労働者の生活水準・生活構造」や,「賃 労働者各階層のライフ・サイクルと婦人少年の賃労働者化(労働力の価値分 割)の問題」なども,論じられるとするのである117)。 (5)「労働組合・労使関係」。「現実的質労働諭」の各対象領域においては, 労働組合や労使関係への言及も当然なされるが,ここでの「労働組合・労使関 係論の固有の課題」は,「各対象領域のあつかう問題に.規定されて部分的およ び分散的に」なされていた「労働組合。労使関係についての言及」を,「統一 的に再規定」することにあるとされる118)。そしてこの場合,「労働組合は,貸

●●●●●●● 労働者が主体的に構成する有機的組織体として,それ自体自己変革を経験

●●●●●

●●● し,内在的発展をとげるものとして分析される」(傍点一原著者)のであり,

114)同上,60茸 115),116),117)同上,61貴 118)同上,63貫

(26)

香川大学経済学部 研究年報19 Jβ7∂ −ヱ∂2−・ 「資本・賃労働の関係を個別的関係から集団的関係へ,集団的関係からさらに 総資本・総労働の関係へ,この線にそって考察することが労使関係諭の課題と なる」11g)といわれるのである。 そして最後に,氏は「賃労働論展開の棲に.は『国家』の問題が登場せざるを えない.」120)と述べる。なぜなら,「現実的資本主義の運動に.おいては,経済過 程への国家の介入が最少限にとどまるいわゆる『自由主義段階』といえ.ども も,資本関係の存立を保障するためだ桝こでも国家権力の存在が絶対的条件を なしている」のであり,また「賃労働分析の諸領域を通過するとき,すべての 領域に.わたって個別資本あるいは資本家団体に.よって自主的に.解決し得ない矛 盾は,つねに政府政策の課題として国家枚能の発動を要請する」からである。 かくて「労使対抗に媒介されつつ,労働市場・賃金・労使関係など諸分野にわ

●●●●● たって,国家の介入,政府政策の展開は必然の帰結だ」(傍点一原著者)とい

われるのである1℡1)。 以上みてきたようにり 菊地氏の見解は,資本の「生産過程・労働過程」が 「労働力需要の質・畳を規定」し,したがってまた,労働力の生産・再生産過 程をも規定してゆくことを重要視し,この「生産過程・労働過程」を,賃労働 論=労働経済論の「本論」の論理展開の出発点におくところに.特徴がある122)。 Ⅴ 坂口正之氏の見解 つぎに.,「賃労働の理論」の「独自的・体系的展開」は,『資本論』全三巻 の論理の展開序列に「対応」しながら展開されるべきであるとする坂口氏の見 解(「賃労働理論の再構成のための方法(序論)」大阪市大『経済学雑誌』第66 119),120),121)同上,63貫 122)坂口正之氏は「労働力商品の生産は資本の生産過程の技術的諸条件および労働過 程での消費の態様に.よって規定されるものである。その限りでは,労働力商品の消 過=労働過程(さらには資本の生産過程)そのものの分析・研究が労働力商品の生産 過程の分析に先行しうる。け■れども,それは研究の方法としてほ正しいであろうが, 叙述の方法としては正しくない。研究の方法と叙述の方法は形式的には厳として区 別されねばならない」(「賃労働理論の再構成のための方法」,大阪市大『経済学雑誌』 第66巻第4号,1972年4月,72貫)と述べ,蛮労働論の論理展開を,「生産過程・労 働過程」から始めることを主張する菊地氏の見解を批判される。

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