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一時的労働力輸入にかんする考察-香川大学学術情報リポジトリ

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一時的労働力輸入にかんする考察

佐 藤

はじめに ! 国際労働市場 1.関心の高まり 2.短期雇用プログラム " 両義性 1.効率性 2.危険性 # 現実性 1.需要管理 2.倫理的基礎 むすび

は じ め に

政治哲学者のマイケル・ウォルツァーは『正義の領分』において人間の共同 性の,とりわけ政治的共同体の論理構造について興味深い分析をしている。彼 メンバー は,ある共同体の成員であるか非成員(部外者)であるかをどのようにして決 めるか,すなわち社会的財としての成員資格の配分ルールが共同体の性格を決 定的に左右すると把握している。ウォルツァーによれば,共同体というものは 成員と非成員とを区別する境界線をもたなければならない。さもなければ社会 は根なし草の人々の集団になってしまうという。人間生活の安定性にとって文 化と集団の閉鎖性は不可欠であるからである。それゆえ移民の流れを管理ある いは制限する政策,つまり出入国管理ないし受け入れ政策は当該共同体の形を 根底から規定するのである。彼は次のように述べているが,まさしく正鵠を射 ている。「入国許可と排除は共同的自治の核である。それらは自己決定の最も 香 川 大 学 経 済 論 叢 第82巻 第4号 2010年3月 1−42

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深い意味を示している。それなしでは特!性!を!も!っ!た!共!同!体!はありえない#。」(強 調−著者)。非成員の受け入れ政策をこのようにして共同体の存立と関連づけ, それにもとづいて本稿にかかわる外国人労働者の受け入れについて論及してい る。「困難で不愉快な仕事から市民を解放するため$」に入国を許可された部外 者としての外国人労働者が,しかしながら,市民権を"奪された状態にいつま でも留め置かれているような共同体とはどのようなものか。ウォルツァーはそ れを辛辣にも「住み込みの召使いのいる家%」と形容した。そのような社会は, 被統治者たる外国人労働者の持続的な合意なき政治を行うわけだから,「独裁 制」にも等しいとすらいう&。このような考察にもとづいて,ウォルツァーは次 のように断言している。 「民主的市民は一つの選択肢をもつ。もし彼らが新しい働き手を導入したい のであれば,自分たち自身の成員資格を拡大する覚悟ができていなくてはなら ない。もし新しい働き手を受け入れたくないのであれば,社会的に必要な労働 をするには国内の労働市場の限度内で方法を見つけなければならない。これは まさに彼らの選択である。彼らの選択の権利は,市民たちの共同体というこの 特定の領土の中にいることから由来する。それは共同体の破壊とは相容れず, もう一つの偏狭な独裁制への転換とも相容れない'。」 このような議論を踏まえるとき,外国人労働者は永住移民もしくは定住者と して受け入れるというのが政治的共同体の本来のあり方からすれば整合的であ るといえよう。そうすると,本稿が取り扱う「一時的労働力輸入」,つまり雇 用期間があらかじめ設定されているような期限付きの雇用で,しかも低熟練労 働者のそれとなれば,ウォルツァー的にいえば民主的とはいいがたく,「独裁」 的な色彩を帯びて見えてくる。一時的労働力輸入という経済行為はなによりも (1) マイケル・ウォルツァー(山口晃訳)『正義の領分 多元性と平等の擁護』而立書房, 1999年,106頁。 (2) 同上,93頁。 (3) 同上,93,98頁。 (4) 同上,93,103頁。 (5) 同上,105−106頁。 −2− 香川大学経済論叢 446

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経済の世界の効率性の論理によって支配されているからである。経済の論理と 政治の論理の緊張がここに凝縮せざるをえない。非市民でありながらも労働生 活にかかわる枢要な諸権利の付与と保証にむけた具体的な設計が不可欠であ る"。 本稿は,1990年代以降における一時的労働力輸入の波及・増大を国際労働 市場とのかかわりにおいて考察する。そしてその可能性と限界,いいかえると それがもたらす効率性の利益と同時にそれに孕まれる危険性とを分析する。そ のうえで一時的労働力輸入にかかわる適切な,バランスのとれた政策に求めら れる条件を突き止めようと思う。

! 国際労働市場

1.関心の高まり 国際労働市場への関心が高まっている。 発端は,いまから20年前である。冷戦構造の終結をうけ,1990年代以降, 旧共産主義国の諸国をはじめ多くの国々が世界経済に参入した。従来よりも多 くの国々の市場が共通の国際貿易,資本移動に対して開放された。つまりそれ らの国々の労働力が世界経済により深く統合されたのである。より安い労働力 を求める企業活動に拍車がかかった。アウトソーシング,オフショアリング, サプライチェーンといった生産拠点の最適化が,インターネットの情報革命に 後押しされ,世界的規模で展開されるようになった#。国民経済の枠組みを越え た世界的な平準化が否応なく進展した。まさしくグローバル化である。国民経 済単位での生活水準の均質化はグローバル化の影響をうけて終焉した$。いわゆ る格差の拡大である。水野和夫が指摘するように,「19世紀初頭から200年近 く続いた『景気が回復すれば所得が増える』という命題は,21世紀には消滅 (6) ウォルツァーは,外国人の権利のリストにかんする受け入れ国と母国との「国際的な 取り決め」に言及している(同上,104頁)。 (7) トーマス・フリードマン『フラット化する世界 経済と大転換と人間の未来(上)・ (下)』日本経済新聞社,2006年,参照。 (8) 高橋乗宣「もはや国民経済幻想を捨てよ」『中央公論』2007年2月号,参照。 447 一時的労働力輸入にかんする考察 −3−

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してしまったのである!。」 グローバル化の時代では世界の隅々の労働者が競争関係に立たされやすくな る。トーマス・フリードマンが『フラット化する世界』のなかで紹介している 次のような娘たちとの会話のエピソードはきわめて印象的である。 「いいか,私は子供の頃親からよく『トム,ご飯をちゃんと食べなさい−−− 中国とインドの人たちは食べるものもないのよ』といわれた。お前たちへのア ドバイスはこうだ。宿題をすませなさい−−−中国とインドの人たちがお前たち の仕事を食べようとしているぞ"」 グローバル化とは,すなわち利用しうる労働力が地球大に一挙に拡大したこ とを意味する。労働需要と労働供給とが交錯するところに労働市場が存在する とすれば,いまや労働市場の範囲は国境を越えてはるか彼方にまで広がってい ると考えてよい。グローバル化の進行は,それゆえグローバル労働市場あるい は国際労働市場への関心を同時に高めざるをえないのである。最適な生産拠点 と最適な資源調達を地球規模でつねに検討しなければならないグローバル企業 が労働力の最適な給源を地球的規模で探し求めるのはきわめて合理的な行動で ある。企業や資本の行動範囲に劣るのは当然であるとしても,労働者が求職活 動の範囲をいまや国民経済に限定しないのはこれまたグローバル化の時代の流 れに即応しているといってよい。労働者の移動にはたいてい一定の範囲と密度 があるから,一定地域の近隣諸国から構成される国際労働市場が一般的であ る。 国際労働市場への関心は供給圧力の増大によってさらに高められている。第 1表は国際労働市場における供給圧力が過去30年間をとおしてますます強 まっていることを示している。世界の国々を高所得国,中所得国そして低所得 国の3層に分類し,それらの間の所得格差をみると,一貫して拡大しているこ とがわかる。中所得国と高所得国の格差は平均8倍から平均13ないし14倍に (9) 水野和夫『人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか』日本経済新聞社,2007年, 125頁。 (10) トーマス・フリードマン,前掲書(下),11頁。 −4− 香川大学経済論叢 448

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まで拡大している。低所得国との懸隔は41倍から61倍にもなっている。イン ターネットの時代における格差の拡大はよりよい生活を求める人々の欲求を刺 激せずにはおかないであろう。その欲求を国外への移住という手段で具体的な 行動に移している人々が表の中で移住人口と表示されている。ベルリンの壁崩 壊に伴う移住人口の一時的な膨張を除けば,年間にして200万人から300万人 が新たに移住している。移住人口のストックは,1985年のほぼ1億人から2005 年には倍増し,2億人に迫っている。 移住者の出身と移住先を工業国,発展途上国に大きく2分類して整理する と,第2表のようになる。2005年における移住人口(労働者および家族)の ストック(1億9千万人)のうち,5,300万人は工業国の内部の移住である。 他方,途上国内部の移住はそれよりも多く,6,100万人である。最も多いの は,途上国から工業国への移住である。途上国からの移住は同じ途上国内の移 住にとどまる者と,工業国へ移住する者とがほぼ二分している。工業国からの 移住は工業国内部の移住が圧倒的である。移住人口の現在のこうした規模のほ かに,潜在的な移住人口のプールが,グローバル化の中での格差の進行に合わ 移住 人口 (百万人) 世界 人口 (億人) 移住 人口 (%) 年間 移住 (百万人) 一人当たり GDP(ドル) GDP一人当たり相対比 低所得 中所得 高所得 高/低 高/中 1975 1985 1990 1995 2000 2005 85 105 154 164 175 191 41 48 53 57 61 64 2.1% 2.2% 2.9% 2.9% 2.9% 3.0% 1 2 10 2 2 3 150 270 350 430 420 580 750 1,290 2,220 2,390 1,970 2,640 6,200 11,810 19,590 24,930 27,510 35,131 41 44 56 58 66 61 8 9 9 10 14 13 第1表 世界の移住人口と所得格差(1975年−2005年)

(出典)Philip Martin, Towards Effective Temporary Worker Programs : Issues and Challenges in Industrial Countries, International Migration Papers89, ILO2007, p.16.

(注)1.1990年の移住人口(ストック)が105(百万人)から154(百万人)に増大した のは,おもにソ連邦の解体を反映している。 2.高所得国:一人当たり国民所得11,456ドル以上 中所得国:一人当たり国民所得935ドル以上11,456ドル未満 低所得国:一人当たり国民所得935ドル未満 449 一時的労働力輸入にかんする考察 −5−

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せて,さらに膨張されていると予想されている。 供給圧力の増大に対して需要サイドからの反応があった。先進各国政府によ る労働力輸入の拡大がそれである。しかも各国のそうした動きは同じ時期に起 こっている。グローバル労働市場の連動性を推測させる。たとえば日本政府は, 1989年の入管法改正(1990年施行)によって外国人が日本の労働市場で働く ための雇用カテゴリーを新設した。「法律・会計業務」,「医療」,「研究」,「教 育」,「人文知識・国際業務」,「企業内転勤」といった在留資格がそれである。 これらの在留資格によって入国し就労する外国人は,その後急速に増大した!。 他方,ドイツは1990年に新外国人法を制定し,「募集停止例外規則」を施行し た。外国人労働者が短期的就労を繰り返して滞在が長期化するようなかつての ような事態を避けるために,ローテーションに法的強制力を付与するととも に,あくまで例外措置として労働力を輸入する体制を整備した。外国人労働者 雇用は原則禁止・例外的許可という「留保付き禁止」の枠組みで実施されるこ とになった。東欧諸国とのあいだの二国間協定にもとづくさまざまな短期的就 労制度がスタートした"。そしてまた,主として永住移民の受け入れ国であるア メリカ合衆国でも短期的な雇用を目的とした労働者の受け入れが本格化した。 1990年の移民法改正によって,とりわけインド人 IT 技術者受け入れのために H-1B という在留資格が新設された # 。このようにして外国人労働力の受け入れ (11) 拙著『グローバル化で変わる国際労働市場』(以下,『グローバル化』)明石書店,2006 年,161−166頁,参照。 (12) 同上,94−96頁,参照。 出 身 工業国 発展途上国 工業国 発展途上国 5362 1461 第2表 世界の移住人口の分布 (2005年)(百万人)

(出典)Philip Martin, Low and Semi-skilled Workers Abroad, in : World Migration2008Managing Labour Mobility in the Evolving Global Economy, International Organization for Migration2008, p.80.

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と積極的な活用にむけて先進各国は動きはじめたのである。1990年代以降に おける労働力輸入のブームの再来は,かつてよりもずっと,雇用の短期性,労 働力の環流性を意識的に追求している。 国際労働市場は,このように供給サイドおよび需要サイドの双方からの働き かけによって動力を与えられている。そして同時に,両者のいわば調整役とし て各種の国際機関がいわば仲介活動を展開している。国際移動する労働者の権 利の保護に関する条約の締結に最も早くから尽力してきた国際機関は ILO で ある。労働者としての平等処遇や不法就労者の権利に関する1949年97号条 約,1975年143号条約が有名である。1990年代以降には,新しい国際機関が, 国際労働市場に関心を寄せた。WTO,世界銀行,国連がそれである。WTO は 1994年の正式発足と同時に,「サービス貿易に関する一般協定」を発効させ た。労働者の国際移住のなかにサービス貿易自由化に関わる政府間交渉の論理 (市場アクセス,内国民待遇)が登場してきた。国際労働市場に貿易ルールが 付加された!。 世界銀行,国連といった国際機関も国際労働市場に関心を寄せた。世界銀行 は,次のように,貧困の撲滅という観点から注目している。途上国の低熟練労 働者たちにとって国際労働市場がもつ可能性に期待を寄せているのである。「低 熟練の移住者が発展途上国から工業国へもっと移住すれば,貧困の削減にいち じるしく貢献しうるであろう。そうした移住を増加させる最も効果的な方策 は,出身国と渡航先国との間で,低熟練労働者の短期的な移住と帰国への動機 付けを組み合わせる管理された移住プログラムを推進することであろう"。」 国連は,1990年に「移住労働者と家族の権利に関する条約」を締結して以 来,「移住と開発」という観点から,国際労働市場が果たすべき役割について 考察し提言を行ってきた。2006年の国連総会では,国連事務総長は,次のよ うに,とりわけ短期的な移住が移住者,出身国,渡航先国のいずれにも利益に (13) 同上,157頁。 (14) 同上,39−42頁,参照。

(15) Philip Martin, Low and Semi-skilled Workers Abroad, in : World Migration2008, IOM 2008, p.93.

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なる可能性について言及し,国連としての深い関心を示した。 「短期移住プログラムの数がどんどん増えている。それらは受け入れ国の高 まる労働需要への対応である。最近のプログラムで受け入れた移住者の数は控 えめであるけれども,それらのプログラムは移住者,出身国,渡航先国それぞ れの利益になる可能性がある。それらのプログラムの中では移住者は合法的な 地位から,出身国は移住者の送金から,そして移住者が海外で得た経験が母国 で生産的に活用されうるとすれば,彼らの最終的な帰国から利益を得る。受け 入れ国は必要な労働者を確保できるし,また移住者に貯金できるだけ十分な長 さの滞在を認めれば,移住のプラス効果はさらに高まるであろう!。」 2.短期雇用プログラム 国際労働市場への関心から,外国人労働者の短期雇用プログラムが「再発見」 された"。 もともと外国人労働者の一時的雇用は,1960年代から1970年代にかけて, 西ヨーロッパ諸国,とりわけ旧西ドイツで大規模に導入された制度であった。 ガストアルバイター制度として有名になり,英語圏にゲストワーカー制度とし て波及されたのであった。ところがこれらのいわば戦後第1期の短期雇用プロ グラムについては,一部の例外を除けば,たいてい「失敗した」,あるいは「破 綻した」といった評価が下されている#。一時的雇用を建前とする制度でありな がら,多くの外国人労働者は帰国するよりも定着を選択したからである。しか しながら,西ヨーロッパの工業諸国が戦後高度成長の過程で必要とした外国人 労働者の総数は2,400万人の巨大な規模に達するが,他方,渡航先の諸国に定 (16) Ibid ., p.93.

(17) Stephen Castles, Back to the Future ? Can Europe meet its Labour Needs through Temporary Migration ?, IMI(International Migration Institute)Working Paper No.1, 2006, p.9−13. (18)「破綻」説,「失敗」説の代表例として,桑原靖夫『国境を越える労働者』岩波書店, 1991年,をあげることができる。また「成功」の側面にも注目した例外的な研究につい ては,拙著『国際労働力移動研究序説−ガストアルバイター時代の動態』(以下,『序 説』)信山社,1994年,とくに第2章「ガストアルバイター雇用の特質」をみよ。 −8− 香川大学経済論叢 452

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着することを選択した外国人労働者は630万人であった。630万人という規模 それ自体は大変大きいが,それを2,400万人の母数と対比すれば,定住者は全 体のおよそ4人に一人の26%である。入国した外国人労働者の4人のうち3 人は帰国したのであり,雇用の短期性は実現していると判断してよいであろ う!。一時的な滞在の予定者の一部が定住者へと移行したことは,受け入れ国の 人々の意識の中には明確な形で自覚されてはいなかったけれども,制度的には 可能性として与えられていた。帰国を強制するような厳格なローテーションは 採用されていなかったからである。可能性としての定住が現実に移されるため には,外国人労働者が定住先における生活基盤とその将来性とに一定の自信を 持つ必要があるだろう"。戦後第1期の短期雇用プログラム−−−旧ドイツを典型 例としていえば,ガストアルバイター時代−−−はこうした環流性と定着性との 二面性において,一定の成果を収めたと評価してよいのである。第1期の時代 における経験がマイナス評価一色で片付けうるものであるなら,そして人間社 会に学習能力があるとするなら,似たような制度がいまふたたびリバイバルす ることはありえないであろう。過去の経験における成功と自信を背景としつ つ,改善すべき点への反省が短期雇用プログラムの「再発見」と「復活」をも たらしたというべきである。 国際労働市場への関心は,外国人労働者の一時的雇用の有用性に着目した。 すなわち戦後第1期の時代における環流性の実績を積極的に評価しつつ,しか し定着性の成果については消極的な評価を与えた。長期雇用の可能性よりも短 期雇用の即効性がクローズアップされたからである。それゆえ第1期の時代の 改善すべき点として考えられたのは,定住への可能性を組み込んだ短期雇用プ ログラムである。いいかえれば,定住へのなし崩し的な移行をきっぱり排除す る強制ローテーションの導入である。ここに新しい時代の制度的な斬新さがあ る。第1期の短期雇用プログラムと似てはいるが,はっきりと相違する「断絶 性」がここにある#。 (19) 拙著『序説』,52−55頁;拙著『グローバル化』28−31頁,参照。 (20) 拙著『グローバル化』54−55頁,参照。 453 一時的労働力輸入にかんする考察 −9−

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第1期の短期雇用プログラムには,いくつかの特徴がある。まず定住への可 能性をもっていたことである。労働許可を更新するたびに権利も拡大し,定住 への道筋が見えていた。また,短期雇用はすべての産業を対象としていた。特 定の産業,職種に限定されてはいなかった。需要があるかぎり,どんな職種で も,どんな産業でも外国人労働者の雇用は可能であった。定住への可能性は雇 用領域の包括性と表裏一体であった!。 今回の短期雇用プログラムは,産業,職種が特定されている。そして定住へ の移行見込みは明確に排除されている。強制ローテーションが誤解のないよう 明示されているのである。外国人労働者に与えられる仕事も,かつてのように 恒常的ではなく,一時性が明瞭である。プロジェクトのように事業自体が有期 であるケースや農業季節労働のように自然環境によって作業リズムが大きく左 右されるケースのように,仕事自体が短期性をもっている場合が多い。それゆ え今回の短期雇用プログラムはかつてのように様々なケースを包括する一つの 大規模なプログラムではなく,一つひとつが特定の産業,特定の職種に対応す る多数の小規模なプログラムから構成されている"。 短期雇用プログラムの普及状況と多様性を確認しよう。 第3表は,ILO が加盟国に対して2003年時点での短期雇用プログラムの保 有状況を問い合わせた結果である。回答した92ヶ国を一人当たり国民所得の 水準にもとづいて高所得国,中所得国,そして低所得国と大きく3つにグルー プ分けしている。短期雇用プログラムとして最も多くの国で採用されているの は,受け入れる地域・産業を限定するやり方である。例えば輸出振興策の手段 として特定の産業,特定の業種で外国人労働者を短期的に雇用するタイプであ る。これは国民所得の水準にかかわらずいろんな国で採用されている。高所得 (21) 拙著『序説』第4章「連帯の諸相」;拙著『グローバル化』31−35頁,をみよ。 (22) Philip Martin, Towards Effective Temporary Worker Programs : Issues and Challenges in

Industrial Countries, International Migration Papers89, ILO2007, pp.10−12.

(23) Philip Martin, Low and Semi-skilled Workers Abroad, p.92; Philip Martin, Manolo Abella, Christiane Kuptsch, Managing Labor Migration in the Twenty-first Century, Yale UP 2006, pp.95−98; Philip Martin, Towards Effective Temporary Worker Programs : Issues and

Challenges in Industrial Countries, International Migration Papers89, ILO2007, pp.12.

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国の7件,中所得国で11件,低所得国でも3件である。特定部門へ労働資源 を傾斜配分する手段である。それ以外のタイプは,受け入れ国が高所得国に 偏っている。外国人労働力の一時的な受け入れは,ほとんど高所得国の独壇場 であるといってよい。あるいはせいぜいのところ中所得国のなかの上位国まで に限定されているようである。たとえば高度の専門職にかんする短期雇用プロ グラムは中所得国で3件だけ確認できるが,ほとんどが高所得国で観察され る。特定の具体的なプロジェクトの遂行に限定した請負労働者や,あるいは農 業などの特定の分野に限定した季節労働者の一時的雇用も高所得国と上位の中 所得国において採用されている。短期雇用プログラムの中には少し趣を異にす るタイプも含まれている。たとえば訓練生にかんする短期雇用プログラムであ る。該当する16ヶ国はすべて高所得国である。先進国の技能・技術の習得・ 移転を目的とした訓練生の受け入れは,高所得国のあいだで広く実施されてい るようである。あるいはまた異文化交流を主要目的としつつ働く機会をも提供 高所得国 中所得国 低所得国 上位 下位 回答数 31 18 26 17 専門職・科学者・経営者・ その他の高度技能者 請負労働者 季節労働者(とくに農業) 訓練生 ワーキングホリデー 優先的部門の雇用 (とくに輸出工業・小企業) 優先的地域の雇用 11 6 6 16 7 7 1 1 2 3 0 0 5 1 2 0 0 0 0 6 2 0 0 0 0 0 3 0 第3表 短期雇用プログラムの分布

(出典)Manolo Abella, Policies and Best Practices for Management of Temporary Migration, International Symposium on International Migration and Development,28−30 June 2006, p.7. (注)1.ILO が加盟国にたいして2003年に実施した短期的労働力輸入に関するアンケー ト調査(回答92ヶ国)の結果に基づく。短期的労働力輸入に関係する特別なプ ログラムあるいは制度の存在について問い合わせている。 2.第1表の(注)2.と同じ。 455 一時的労働力輸入にかんする考察 −11−

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するワーキングホリデーという短期雇用のプログラムもある。訓練生にしても ワーキングホリデー・メーカー(ワーホリ・メーカー)にしても本来の趣旨を 逸脱して低賃金労働力の代わりとして利用されやすいといわれている。

第4表は,低熟練労働者の短期雇用プログラムの一覧である。農業部門に限 定した短期雇用プログラムが主要先進国で採用されていることがわかる。カナ ダの SAWP(Seasonal Agricultural Worker Program),連合王国の SAWS(Seasonal Agricultural Workers Scheme),合衆国の H-2A である。フランス,ドイツ,イ タリア,ニュージーランドでは特別の名称はないが,制度化されている。雇用 期間は1年のうちの6ヶ月から10ヶ月までである。外国人の雇用にあたって はたいていの場合あらかじめ国内で募集することが定められているが,そのほ かの家賃や旅費の扱いについては色々あるようである。季節労働者が国境を越 えるのは大陸の隣接する国のあいだで古くから観察されている。農業部門にお ける外国人労働者の雇用といえば,第一次世界大戦前のドイツであれば,ポー ランド人の移動労働者(Wanderarbeiter)が連想される!。今日のドイツにおけ る季節労働者の大半はやはりポーランド人であるから,伝統は生きていると いってよい。ドイツの受け入れ数は他国と比べてもきわめて多い。農業のほか 林業,飲食業でも季節雇用が認められているが,農業が90%と圧倒的に多い"。 今日では季節労働者の移動距離もかなり長い。カナダにはメキシコをはじめ カリブ海諸国からわざわざ季節の到来とともに移動し,季節とともに帰国して いる。連合王国の SAWS は,はるばるルーマニアやブルガリアから,しかも 大学で農業を学ぶ学生を調達している#。農繁期における労働力不足は,農産物 (とりわけ野菜,果物)の流通市場の変容に起因しているといわれている。と いうのも流通市場が大手スーパーの支配下に置かれることによって,農業生産 (24) 拙稿「労働市場の国際化−20世紀初頭のドイツにおける外国人労働者問題」『香川大 学経済学部研究年報』31号,1991年,をみよ。

(25) Philip Martin, Manolo Abella, Christiane Kuptsch, Managing Labor Migration in the Twenty-first Century, Yale UP2006, p.115.

(26) Ibid ., pp.113−115; Philip Martin, Towards Effective Temporary Worker Programs : Issues and Challenges in Industrial Countries, op. cit., ILO2007, pp.47−50.

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国名 名称等 滞在期間 条 件 部 門 参加者数 上限 カナダ SAWP 8ヶ月 市場テスト 旅費,家賃は雇主による支給 (ただし給与から控除可) 農業 18,000人 (2006年) なし カナダ 短期的外国人 労働者計画 C (中級・事務) 2年 市場テスト すべての募集費用をカバー 安価で相応しい住居の斡旋 出身国からの旅費をすべて負担 州立医療保険適用までの医療提供 全産業 34,000人 (2006年) なし カナダ 短期的外国人 労働者計画D (初級・肉体) 2年 市場テスト すべての募集費用をカバー 安価で相応しい住居の斡旋 出身国からの旅費をすべて負担 州立医療保険適用までの医療提供 全産業 34,000人 (2006年) なし フランス 季節的農業 年6ヶ月 /3年 市場テスト,あるいは不足リスト雇主による住居の保証 農業 (2006年)17,000人 なし ドイツ 政府間協定 8ヶ月 雇主による住居の提供 (ただし給与から控除可) 農業,その他の短期的仕事(2006年)290,000人 なし イタリア 季節的仕事 9ヶ月 住居の存在を証明(必ずしも提供 の必要はない) 超過滞在者の送還費用を負担 農業,観光 64,540人 (2006年) (申請数) 80,000人 (2008年) 韓国 雇用許可制度 3年+3 年(更新)市場テスト 全産業 (2006年)80,000人 110,目標000人 ニュージ ーランド 認定済み季節的雇主 7ヶ月 市場テスト住居の存在を証明(必ずしも提供 の必要はない) 旅費半額負担 超過滞在者の送還費用を負担 農業 5,000人 (2007年)5,割当000人 スペイン 臨時 9ヶ月 市場テスト,あるいは不足リスト あらゆる短期 的仕事 (2006年)78,000人 なし 連合王国 SAWS 6ヶ月 住居保証(費用の控除可) 農業 16,000人 (2005年) ル ー マ ニア,ブ ル ガ リ ア の み 連合王国 SBS (廃止予定) 12ヶ月 住居保証(費用の控除可) 食品加工 (2007年)3,500人 (2007年)3,500人 合衆国 H-2A 10ヶ月 労働証明テストの合格 悪影響を及ぼさない水準の賃金支 給 住居提供及び片道旅費の負担 農業 50,000人 (2006年) なし 合衆国 H-2B 10ヶ月 3年まで 更新可 労働証明テストの合格 農業以外,清 掃,接客,建 設 200,000人 (2006年) 年 間 受 け入 れ 上 限 66,000人 第4表 低熟練労働者のための短期雇用プログラム

(出典)Jonathan Chaloff, Management of Low-Skilled Labour Migration, in : International Migration Outlook SOPEMI2008, p.158.

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者にとってますます作業能率の向上と合理化が至上命題となってきたからであ る。外国人労働力の一時的雇用はそうした小売優位の市場動向に迫られて選択 されているようである!。農業部門に投入される外国人の短期雇用は,労働供給 の柔軟性の確保という効率性を追求した外国人雇用の現代における典型例とも 2003 2004 2005 2006 季節労働者 ワーホリ・メーカー 訓練生 企業内転勤 その他短期労働者 545 442 146 89 958 568 463 143 89 1,093 571 497 161 87 1,085 576 536 182 99 1,105 計 2,180 2,360 2,401 2,498 オーストラリア オーストリア ベルギー カナダ デンマーク フランス ドイツ イタリア 日本 韓国 メキシコ オランダ ニュージーランド ノルウェー ポルトガル スウェーデン スイス 連合王国 合衆国 152 30 2 118 5 26 446 69 217 75 45 43 65 21 3 8 142 137 577 159 27 31 124 5 26 440 70 231 65 42 52 70 28 13 9 116 239 612 183 15 33 133 5 27 415 85 202 73 46 56 78 22 8 7 104 275 635 219 4 42 146 6 28 379 98 164 86 40 83 87 38 7 7 117 266 678 計 2,180 2,360 2,401 2,498 年間変化率 − 8.3 1.7 4.0 第5表 短期移住労働者の入国者数 (千人)

(出典)Jonathan Chaloff, Management of Low-Skilled Labour Migration, in : International Migration Outlook SOPEMI2008, p.134.

(15)

いえる。 短期雇用のために移動する外国人労働者はどれくらいいるのだろうか。第5 表には EU 域内のように自由移動が認められている国々のあいだでの移動は含 まれていない。およそ年間250万人の規模である。高度専門職の移動と不熟練 労働者の移動とがほぼ二分する。表の中の「その他短期労働者」というのはほ とんどが高度専門職とみなしてよい。日本であれば,「技術」や「人文知識・ 国際業務」といった在留資格はすべてここに含まれる。 短期労働者のほぼ半数の130万人は不熟練労働者である。代表的な3つのタ イプが表示されている。「季節労働者」,「ワーホリ・メーカー」そして「訓練 生」である。 受け入れ国別にみると,最大の受け入れ国は合衆国である。ついでドイツで ある。そのほか本来は永住移民の受け入れ国である国々で短期雇用が増加基調 にあることがわかる。オーストラリア,カナダ,ニュージーランドでそれぞれ 短期雇用が拡大している。総数の年間変化率からも,短期雇用が全体として拡 大していることがわかる。

! 両 義 性

1.効率性 外国人労働者雇用の経済学的含意を最も直截かつわかりやすく提示した研究 者は,ジョージ・ボージャス(George J. Borjas)である。彼の図式は,「ボー ジャス・モデル」と呼ばれている"。 第1図をみよ。ボージャス自身は垂直の労働供給曲線,すなわち供給の価格 弾力性ゼロを想定した図を描いて説明しているが#,ここではより現実的な右上 (27) Cf. Ben Rogaly, Intensification of Work-Place Regimes in British Agriculture, The Role of

Migrant Workers, Sussex Migration Working Paper No.36, pp.1−18.

(28) George J. Borjas, The Economic Benefits from Immigration, in : Journal of Economic Perspectives, Vol.9 No.2, 1995, pp.3−22; Eric R. Weinstein, Migration for the benefit of all : Towards a new paradigm for economic immigration, in : International Labour Review Vol.141No.3, 2002, pp.248−250.

(29) George J. Borjas, op. cit., p.7.

(16)

L=M+N N F D E A G B C W0 WM* W00 S0 SM* がりの図で解説する。この図における外国人労働者は,一時的雇用の外国人労 働者と同義と理解してよい。外国人労働者(M)を雇用する前の段階(N)に おける国内労働市場の均衡点は,点 B である。その時の賃金水準は W0であ る。外国人労働者(M)の雇用により国内雇用量が L へと拡大する。それに合 わせて,労働供給曲線は S0から SM*へシフトする。そして新しい均衡点は点 C,賃金水準は WM*となる。外国人労働者の雇用によって生産量は四角形 BCLNの面積分だけ増大している。その増加分のうち,四角形 DCLN は外国 人労働者の賃金所得である。出身国における賃金が W00の水準にあるとすれ ば,四角形 DCGF が彼らの純利益である。 他方,国内労働者にとってみれば,賃金水準は W0から WM*へ低下するか 第1図 ボージャス・モデル

(出典)Eric R. Weinstein, Migration for the benefit of all : Towards a new paradigm for economic immigration, in : International Labour Review, Vol.141(3), 2002, p.250.

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ら,四角形 ABDE の面積分だけ賃金所得が失われることになる。国内労働者 の賃金所得の喪失分および三角形 BCD は国内資本家の所得となっている。外 国人労働者の雇用は生産量の拡大とともに所得再分配をもたらしているのであ る。外国人労働者が受け入れ国の国民にもたらした純利益は,国内資本家の利 益となる三角形 BCD である。ボージャスは,外国人労働者の雇用が受け入れ 国にもたらす純利益であるという意味で,これを「移民余剰」(the immigration surplus)と呼んだ。つまり,外国人労働者雇用はそれに要するコスト(この場 合には賃金)以上の所得を生み出すのである。ただし,この「移民余剰」は, モデルが教えるように,外国人雇用によって国内の賃金水準が低下する場合に のみ,発生する。(ただし,技術変化を導入し,モデルを動態化すると,賃金 水準は必ずしも低下するとはかぎらない!。) ボージャスは,1990年代中葉の合衆国のデータにもとづいて,次のように 「移民余剰」の規模を試算した。労働分配率70%,外国人労働者比率11%,労 働供給の価格弾力性マイナス0.3から,(0.03×0.11×0.7)×1/2=0.001で あるから,0.1%となる。GDP の0.1%の増加というのが外国人雇用の純利益 の大きさである。この割合は,外国人労働者比率と労働分配率が変わらないと すれば,賃金調整の余地が大きければ大きいほど,高くなる。1,500万人の外 国人労働者の雇用は,7兆ドルの経済に対して70億ドルの純利益をもたらす といえる。資本家の純利益は1,400億ドル,労働者の賃金所得はマイナス1,330 億ドル,差し引き,70億ドルである"。 ついで世界銀行が国際労働移住の経済効果を推計している。 まず推計方法について簡単にみておく。2025年時点における経済効果を推 計するが,そのさい現状を維持したときの効果と現状に一定の政策的な変化を 加えるときの効果とを対比し,両者の開きを実質的な効果として推計してい る。現状を維持する基準ケースでは,2001年の各地域における外国人の人口 比率および労働力比率を維持するとしている。熟練度についても外国人労働者 (30) Philip Martin, Towards Effective Temporary Worker Programs, pp.23−25.

(31) George J. Borjas, op. cit., p.7−8..

(18)

が占める割合を固定している。つまり,熟練労働者の2.2%,不熟練労働者の 7.8%が外国人労働者であるとしている。これにたいして次のような政策的な 変化を仮定した。高所得国の総労働力人口が 3%増加するように国際労働移 住の規模を拡大させる。そのさいには熟練労働者も不熟練労働者も同じように 3%増加すると仮定する。そうすると,移住労働者の数(ストック)は,2001 年時点のときの2,780万人から50%増加し,2025年には4,200万人となる。 熟練度別に年間増加率を計算すると,不熟練労働者については1.5%だが,熟 練労働者については3.8%となる。こうした仮定にもとづいて推計された経済 効果が第6表である!。 発展途上国から高所得国への国際労働移住の影響は,ボージャス・モデルに

(32) The World Bank, Global Economic Prospects. Economic Imprications of Remittances and Migration, 2006, pp.31−33. 実質所得 生活費調整済み実質所得 民間 公共 合計 民間 公共 合計 変化(10億ドル) 変化(10億ドル) 高所得国の住民 高所得国の旧移住者 発展途上国の住民 新しい移住者 139 −88 131 372 −1 0 12 109 139 −88 143 481 139 −88 131 126 −1 0 12 36 139 −88 143 162 世界合計 554 120 674 308 48 356 変化(%) 変化(%) 高所得国の住民 高所得国の旧移住者 発展途上国の住民 新しい移住者 0.44 −9.41 0.94 584 −0.01 −0.02 0.44 607 0.36 −6.02 0.86 589 0.44 −9.41 0.94 198 −0.01 −0.02 0.44 203 0.36 −6.02 0.86 199 世界合計 1.20 1.15 1.19 0.67 0.45 0.63 第6表 国際労働移住による実質所得の家計別変化の推計 (2025年時点)

(出典)The World Bank, Global Economic Prospects. Economic Implications of Remittances and Migration, 2006, p.34.

(注)高所得国の一人当たり国民所得は,第1表の(注)2.をみよ。高所得国28ヶ国は 世界人口の16%,世界国民所得の75%を占める。

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もあるように,所得再分配をもたらすから,立場によって異なる。家計を大き く4つのタイプに分類している。高所得国の人々は古くからの住民とかつての 移住者とに分けられている。そして発展途上国で生活しつづける住民と,高所 得国へ新しく移住する者とがある。それぞれの立場によって受ける利益は異な る。その規模を世界銀行が推計したのである。次のことがわかった。 まず第1に,高所得国の住民(資本家および労働者)の実質所得は1,390億 ドル(0.36%)増加する。ボージャス・モデルに示唆されたように,賃金所得 の減少を資本所得の増加が上回るからである。そして第2に,発展途上国の国 内にとどまる住民の実質所得の増加率は0.9%であり,きわめて大きい。第3 に,高所得国の旧移住者は最大の犠牲者である。新しく移住してくる人々と直 接競合するからである。実質所得は,880億ドル(6%)も減少する。 最後に,最大の受益者は新しい移住者本人である。実質所得は4,810億ドル も増加する。増加率にすると,589%である。ただし,これは名目賃金の比較 にもとづいて計算されている。物価水準の差は考慮されていない。生活費を考 慮に入れて算出すると,実質所得の増加は1,620億ドルまで縮小する。増加率 は,199%となる。かくして世界経済にとっての「移民余剰」の大きさは,3,560 億ドルである。増加率にすれば,0.63%である。この3,560億ドルという推計 値は,ドーハ・ラウンドの多角的貿易自由化交渉の完了によって得られると予 測されている世界経済の利益(3,000億ドル)をも凌駕している。外国人雇用 は効率性の向上をとおして世界経済に利益の拡大をもたらすのである!。 外国人の一時的雇用の模範的事例(Best Practice)といわれているのは,カ ナダのすでに触れたSAWP である。少し具体的にみておこう"。 SAWP は1966年にジャマイカとの二国間協定によってスタートした。した がって40年以上の歴史を刻んでいることになるが,本格化したのは1974年に メキシコが加わって以降である。直近では2003年にグアテマラと二国間協定 を結んでいる。第7表は,SAWP に参加した外国人労働者数の推移を示してい (33) Ibid ., pp.34−35. 463 一時的労働力輸入にかんする考察 −19−

(20)

る。メキシコ人労働者の数とウェイトが徐々に高まっていることがわかる。 外国人季節労働者は9つの州,とりわけオンタリオ州の果物,野菜,たばこ の農場に配置されている。政府間協定は SAWP の基本構造を規定している。 雇用期間は8ヶ月以内とされている。ビザの手数料や旅費,あるいは医療保険 (34) SAWP に関する以下の叙述は次の文献に依拠している。Tanya Basok, He Came, He Saw, He …Stayed. Guest Worker Programmes and the Issue of Non-Return, in : International Migration Vol.38(2),2000, pp.215−238; Tanya Basok, Canada’s Temporary Migration Programm : A Model Despite Flaws, in : migration policy institute, migration information source(http://www.migrationinformation.org), pp.1−5; Maxwell Brem, Migrant Workers in Canada : A review of the Canadian Seasonal Agricultural Workers Program, The North-South Institute,2006, pp.1−18; Heather Gibb, Farmworkers from afar. Summary findings from the North-South Institute study on Canada’s Seasonal Agricultural Workers Program as a Model of Best Practices in Migrant Worker Participation in the Benefits of Economic Globalization, The North-South Institute2006, pp.1−22. 年 メキシコ人 カリブ諸国 合計 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 1,547(25%) 2,721(32%) 4,468(37%) 5,149(41%) 5,111(43%) 4,732(43%) 4,710(45%) 4,848(44%) 4,884(43%) 5,194(45%) 5,670(46%) 6,480(48%) 7,528(50%) 9,222(55%) 10,446(56%) 10,778(58%) 4,655 5,682 7,674 7,302 6,914 6,198 5,691 6,054 6,376 6,379 6,705 6,901 7,532 7,471 8,055 7,826 6,202 8,403 12,142 12,451 12,025 10,930 10,401 10,902 11,260 11,573 12,375 13,381 15,060 16,693 18,501 18,604 第7表 カナダにおける外国人農業季節労働者の推移

(出 典)Philip Martin, Manolo Abella, Christiane Kuptsch, Managing Labor Migration in the Twenty-first Century, Yale University Press2006, p.111.

(注)カリブ海諸国はバルバドス,ジャマイカ,トリニダード・ト バゴを指す。

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などの費用は使用者である農家の負担となっている。ひと月当たりで1,000カ ナダドルの貯金は堅いといわれている。労働時間,賃金,各種控除を記載した 給与明細は本人に手渡すとともに,公的機関へも提出することとなっている。 労働基準法が適用され,有給休暇も与えられる。賃金はつぎのなかで最も高い ものを適用することとなっている。 ・地域の最低賃金 ・公的に設定される賃金水準 ・類似の仕事を行うカナダ人の賃金 これらの規定は外国人季節労働者の雇用コストをまぎれもなく与件としてい る。とすれば農家にとって生産性の向上は至上命題である。さもなければペイ しない。そのためにはなによりも人選に格別の配慮をしなければならない。農 作業は楽な仕事ではない。きつい仕事である。農作業を熟知していること,そ して仕事への真面目な姿勢が大切である。いい加減な気持ちではつとまらな い。そこで人選にあたっては農民であることを公的書類で確認し,貧しいが家 族の生活を背負って生きている逞しい男性の世帯主が好まれている。そしてさ らに,これが独特なところであるが,契約期間の終了時には労働者の仕事ぶり を使用者が評価することになっている。評価書は封印された状態で労働者に渡 され,労働者はそれを帰国時にメキシコの労働省に提出する。ネガティブな評 価の場合には,参加資格を失う。評価がポジティブであれば,次年度も参加で きる。雇主が気に入れば,その労働者を次年度も指名することができる。実際 のところ,メキシコ人労働者の70%は指名にもとづく再雇用であるといわれ ている。SAWP は,労働者には安定した雇用と見合う賃金を保証し,使用者に は需要に応じて生産性の高い労働力を供給しているといえる。 SAWP は移住するメキシコ人労働者,そして彼らを雇用するカナダ農家とい う直接関わる両当事者の利害を同時に満たすだけではない。さらにメキシコ当 局にとっては国内雇用対策の限界を補完し,必要とする者によりよい雇用機会 を提供することができる。他方,カナダ当局にとっては,解決しなければなら ない心配事が多い。たとえば契約期間が切れた後,合衆国でみられるように, 465 一時的労働力輸入にかんする考察 −21−

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不法残留へと発展しないようにしなければならない。定期的な帰国という環流 性の確保である。安定した雇用関係の保証と再雇用の制度が帰国を促している といわれている。安心して働ける環境と確実に貯金ができる見通しがあれば, ルールに違反するという危険を冒す必要性は低くなる。さらにカナダ政府は労 働者の賃金の25%を天引きし強制貯蓄させ,送り出し国政府に送金してい る。送り出し国当局は,送金の5∼8%を管理費として控除し,残りを労働者 の指定する口座に振り込んでいる。送り出し国政府にとって貴重な外貨収入で ある。しかも外国人労働者の賃金は当事者だけの問題ではなく,両国政府の関 心事であり,緊密に連携した監視下に置かれているといえる。このようにして 両国政府の連携によって労働者の自発的な環流性を促進する仕組みが構築され ているのである。 そしてまた外国人労働者への過度な依存を防止することもカナダ政府の意向 である。外国人労働者に助けを求めつつ,しかし自立する努力を怠らないよう にすることが肝要である。上手な依存が外国人雇用の鉄則である。そのために も労働基準の遵守と監視が徹底されている(後述)。権利を与えられた労働者 は雇う側からすれば割高となるから,簡単には手を出せない。本国人雇用と外 国人雇用とのバランスのとれた関係が大切である。実際のところ,外国人季節 労働者は農業労働力の10%程度にとどまっている。量的にも監視の目が行き 届く範囲に収まっている。 さらにいまひとつ大事な点は,外国人雇用の波及効果である。外国人季節労 働者の雇用はカナダを農産物の輸入国から輸出国への成長を助けただけではな い。農業生産高の上昇が農業部門だけでなく,上流の原材料部門,下流の食品 加工部門にも波及し,雇用創出という好影響を及ぼしている。試算によれば, 外国人季節労働者一人当たり2.6人分の雇用を創出したといわれている。 2.危険性 外国人労働者の一時的雇用から一方では効率性の利益が期待されるととも に,他方ではさまざまな悪影響が懸念されている!。 −22− 香川大学経済論叢 466

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短期雇用を条件として入国し就労する外国人は,いくつかの点で,外国人一 般とは異なる環境に置かれている。外国人であるということは,冒頭で触れた ように,行使しうる権利において一定の制限を受ける。参政権はそのひとつで あろう。永住外国人のような人々にとって参政権の!奪は切実な問題となって いるが,短期間の雇用を目的として入国した生粋の外国人にとってはさしあた り主要な関心事ではないといってよい。彼らにとっては働いて稼ぐことがなに よりも大事である。さしあたり仕事の世界がすべてであるといって過言ではな い。どのような仕事を与えられ,どのように遂行し,そしてどのように報いら れるか,これが最も肝心な事柄である。そして労働基準法や就業規則などのル ールや規則が使用者と労働者の権利と義務を定めている。短期雇用の外国人労 働者にも基本的にはこの同じルールが適用される。ただし出入国管理において 別の取り扱いがある場合には,そのかぎりではない。たとえば職場変更の権利 の制限がそれである。入国ビザに特定の事業主との雇用関係が付帯条件として 明記されている場合には,自由な職場変更の権利は制約されざるをえない。一 時的雇用の外国人はこの点において定住者としての外国人よりも自由度がさら に制約されているといえる。そしてまた実際の働き方を左右するのは,ルール だけではない。ルールが遵守されるかどうかは,業種,企業規模,立地,ある いは使用者の自覚の程度など多様な要因によって影響されるであろう。労働者 の人格と権利に対してもともと鈍感で,しかも辺鄙な田舎に立地した零細企業 の使用者となれば近代的なルールの遵守はおぼつかない。さらにいえば,労働 者の資質,熟練度によっても異なるであろう。労働者の語学能力,対人能力, 熟練度は労働者の交渉力の決め手となるだろう。交渉力が弱ければ,使用者の 好き放題にされてしまいかねない。そのように考えてくると,外国人のあいだ にも不自由度に差があり,短期雇用の,それも不熟練の外国人労働者は最も不 自由度が大きい。

(35) Martin Ruhs, Temporary Foreign Worker Programmes : Policies, Adverse Consequences, and the Need to Make Them Work, Center for Comparative Immigration Studies, Working Paper No.56, University of California, 2002, pp.1−77.

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不自由度をさらに増幅させやすいのは,貨幣価値の相違である。外国で働い て稼得した賃金は,出身国の通貨に換算すれば,数年分の所得に匹敵してしま うことがある。豊かな外国へ出稼ぎに行くことの魅力は,短期間で財産を築く ことができることにある。かつて「千両箱」を夢にみた日本人もいた。財産を 手に入れるためのコストが短期間の不自由さだと割り切れば,我慢もできる。 短期雇用の外国人労働者であればある程度の不自由さは覚悟しているはずであ る。彼らは一定の貯金をめざしてせっせと働くのである。彼らにとって,短期 間の苦痛であれば,覚悟のことであり,耐える用意は十分にあるのである。出 身国の貨幣に換算して実現される出身国での幸福のためである。「一時の苦痛 よりも長い目で見た利益のほうが優る」(“short term pain, long term gain!”)と いうのが,辛い外国生活を選択し,乗り切るための彼らの合言葉である。短期 雇用の外国人労働者がもっている“粘り強さ”,豊かな国の若者には失われて しまったといわれる“ハングリー精神”は,経済格差を逆手にとって利用しよ うとする彼らの逞しさにあるといえる。 短期雇用の外国人労働者のこうしたタフさこそが,雇主からみたときの彼ら の働き手としての魅力である。彼等自身,労働者としてのみずからのウリがあ る程度の不自由さをも甘受し,不自由さと引き換えに労働投入の柔軟性を発揮 しうる点にあることを熟知している。残業を進んで引き受けるのはそのためで ある。不自由さの甘受は,雇主が入国と在留にあたっての身元保証人となるこ とによって決定的となる。身元保証人に気に入ってもらわなければ,いつでも 放り出されるからである。このとき労働者として与えられている権利の行使も 我が身を守るために自発的に自己抑制につとめるだけではなく,使用者の側か らその弱みにつけ込む危険性が常につきまとっている。使用者からすれば,労 働者の人格を無視し,権利を侵害し,あたかも自分の所有物であるかのように 思い込んでしまう誘惑に駆られやすい。Eric Weinstein はそうした抱え込みの 中で違法性へと侵入していくような雇用関係を「拘束状態」(tethering)と表 (36) この表現は,Ben Rogaly, op. cit., p.7より借用した。

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現している!。モデルケースとして上に紹介したカナダの SAWP ですら,再雇 用のチャンスが労働者支配の道具として利用されている事例のあることが指摘 されているくらいだから,期限付き労働力輸入には至るところに落し穴が隠れ ているといわなければならない。たとえ不正であっても,そうすることで使用 者が利益を手にすると,そしてそれが黙認されていると,事の成り行きとし て,期限付き労働力輸入への依存がますます深まっていくことになる。一時的 雇用の外国人労働者なしには経営が成り立たなくなるほど「膨れあがり」 (Bloating"),政策的なコントロールの余地が失われてしまうことにもなりかね ない。 期限付き労働力輸入の危険性を体現する事例として,日本の研修・技能実習 制度を取り上げたい。第8表にみられるように,外国人の研修生・技能実習生

(37)“tethering”というのは Eric R. Weinstein, op. cit., にとって短期雇用プログラムの最も ネガティブな側面である。

(38) Martin Ruhs, Temporary Foreign Worker Programmes, op. cit., pp.27−33. 2003年 2004年 2005年 2006年 人数 構成比 衣類・その他繊維製品製造業 食料品製造業 輸送用機械器具製造業 農業 電気機械器具製造業 建設関連工事業 金属製品製造業 プラスチック製品製造業 繊維工業(衣類・その他繊維製品除く) 精密機械器具製造業 一般機械器具製造業 その他 11,988 6,427 3,593 2,768 3,114 2,213 2,334 1,606 988 813 1,022 6,591 14,078 7,426 3,561 3,444 4,003 2,722 2,881 2,084 1,136 1,023 1,368 7,286 13,865 8,520 4,797 4,064 4,031 3,900 3,366 2,344 1,322 1,153 1,674 8,014 14,413 10,062 5,996 5,445 5,304 4,914 4,437 2,917 1,248 1,168 2,244 10,156 21.1% 14.7% 8.8% 8.0% 7.8% 7.2% 6.5% 4.3% 1.8% 1.7% 3.3% 14.8% 合 計 43,457 51,012 57,050 68,304 100.0% 第8表 日本の外国人研修生 (出典)『JITCO 白書』2004∼2007年版より。 469 一時的労働力輸入にかんする考察 −25−

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を受け入れる最大の産業は,アパレル縫製業である。日本の繊維産業は,非衣 料のハイテク部門とアパレル縫製の労働集約的部門とに二極化している。アパ レル縫製業自体も海外,とりわけ中国生産にシフトするグループと国内に残さ れるグループと分かれているようである。そして中国からの逆輸入に応じて受 注単価も引き下げられ,日本国内では中小零細業者の生き残りをかけた組織化 が展開されている。中国人研修生の受け入れ事業はその一環であった。日本国 内に「中国の工場」をつくるという意気込みのようである!。 受け入れている外国人研修生・技能実習生の数の多さから縫製業での不正事 例が多く報告されている。福井の縫製業では残業代未払いの不正行為により受 け入れ停止処分中の会社がそれでも実体のないペーパーカンパニーを経由して 相変わらず研修生を受け入れ続けていることが発覚した。やり口は,俗に“飛 ばし”といわれている"。ありとあらゆる手口を考えるほど依存症に陥っている のである。そしてまた形式上の受け入れ団体には管理運営能力がまったく欠如 しているケースもある。そこにつけ込んでヤミで管理を引き受ける暴力団のよ うな者も登場してきている#。あるいはまた山梨の縫製業では,研修名目とは まったく異なる,クリーニングの作業に従事させていたようである。それも午 前7時30分から午前0時までの異常に長い労働時間を働かせ,半年に休日は 3日だけだという。給料の月5万円は研修,実習をつうじて変わらず,残業代 も時給300円から450円まで増えたにすぎない。ここまでくると,我慢も限界 である。抗議した研修生に対して寝込みを襲撃し,強制帰国の実力行使に出る という始末である$。 事例を挙げればきりがないほどであるが,もうひとつ農業のケースを紹介し よう。第8表にみられるように,農家の研修生が増加している。とりわけ野菜 (39) 岩坂和幸「洋間の父ちゃん・母ちゃんの組織化と岐阜アパレル産地の復権」『中小商 工業研究』第91号,2007年,49頁,参照。 (40) 高原一郎「巧妙・悪質化する受入れ手口と研修・実習生の処遇」外国人研修生権利ネッ トワーク編『外国人研修生 時給300円の労働者 2』明石書店,2009年,61−70頁, 参照。 (41) 本間高道「極貧層誕生の実態報告」同上書,所収,71−76頁,参照。 (42) 鳥井一平「ドキュメント山梨事件」同上書,所収,41−54頁,参照。 −26− 香川大学経済論叢 470

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農家(施設野菜,露地野菜)において研修生・実習生が増加している。野菜価 格の低下に対して,大規模経営を追求する農家において,雇用労働力の導入が 進行している。とくに中国人研修生を安定した基幹労働力として確保し,それ にもとづいて規模拡大と経営複合化とを同時に展開している。もとより研修生 を労働者として活用してはならない建前については知っているが,背に腹は代 えられないといったところである。茨城県鹿島郡旭村では野菜農家のこうした 生き残りをかけた営為が進行中である!。 農家における外国人研修生の悪質な不正利用については,栃木県のブランド (「とちおとめ」)にもなっているイチゴ農家のケースがあまりにも有名である"。 不正が発覚するときはいつもそうだが,外国人研修生たちは携帯・パソコンの 所持が禁じられ,外出も許可を必要とし,外部から完全に遮断したような空間 で文字どおり拘禁状態の中に置かれていた。そのうえでパスポート,通帳を取 り上げ,休日も祝日もなく毎日10数時間の事実上強制労働に従事させられ た。1年目の研修生期間は5万円の手当(残業時給350円),2年目以降は給 料13万円(残業時給500円)である。そのさいクーラーもない二人共用の簡 素な物置同然のような部屋について月3万円の家賃・光熱費を控除している。 日本の食卓を彩るイチゴはこのような前近代的な労働によって生産されている のである。第9表には労働基準局が監督指導を実施した事業場のうちで明らか な法令違反が認められたケースを表示している。労働時間,割増賃金の違反は 日常茶飯事といってよいだろう。 中国人研修生・実習生の雇用にかかわる不正事例の紹介を読むと,いずれに も共通している問題に出くわす。国際労働市場の供給サイドにおける安売り競 争の激しさを推測させる。すなわち,研修生たちは,出国前に,送り出し機関 (43) 安藤光義「北関東・畑作経営における外国人労働力の導入」『農村と都市をむすぶ』2006 年10月,5−14頁;長谷美貴広・副島恒治「大規模畑作地帯における外国人労働者問題 −茨城県鹿島郡旭村における雇用型経営の現状−」『農:英知と進歩』(農政調査会)271 号,2003年,2−35頁。 (44) 郭棟「人人為我,我為人人」外国人研修生権利ネットワーク編,前掲書,所収,34− 40頁,参照。 471 一時的労働力輸入にかんする考察 −27−

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とのあいだでつぎのような契約を交わしている。契約は使用者への絶対的な服 従を要求し,それに反する行為については制裁を科すとしている。制裁は保証 金の没収である。保証金は,家族,親族の資産を売り払ってやっと工面できる ような高額である!。没収されると人生の破産を意味してしまう。したがって保 証金がちゃんと帰ってくるように行動するしかない。もともと辛抱強いのが短 期雇用の外国人労働者の特性であるといってよいが,中国人研修生の尋常なら ざる猛烈ぶりは出国時の契約によって人為的に創出されている側面が強い。保 証金はいわば身代金なのである"。日本の使用者との間でトラブルになれば,契 約違反のおそれがある。送り出し機関は中国人研修生をそのようにして従順で 安上がりな労働者に仕立て上げ,日本企業に売り込んでいるのである。日本の 使用者はそうした中国人研修生の弱みをまさに熟知しており,なにかもめごと が起これば,強制帰国をちらつかせている。たとえどんなに人権を無視した処 遇であっても,強制帰国の恐怖を植え付けておけば我慢しつづけるだろうと考 (45) 安田浩一「送出し機関による保証金・不動産の差し押さえ」同上書,95−100頁,参照。 出国前の保証金支払いは,ベトナム人研修生の場合も同様である(榑松佐一『トヨタの 足元で ベトナム人研修生・奪われた人権』風媒社,2008年,88−89頁,参照)。 (46) 同上,99頁;安田浩一「外国人研修・技能実習制度は現代の奴隷制度」「外国人労働 者問題とこれからの日本」編集委員会『〈研修生〉という名の奴隷制度』花伝社,2009 年,34頁。 監督指導実施事業場数 2,612 違反事業場数(違反率) 1,890(72.4%) 主な違反内容 内訳 労働時間(労働基準法第32条) 割増賃金不払(労働基準法第37条) 賃金不払い(労働基準法第24条) 労働条件の明示(労働基準法第15条) 寄宿舎関係(労働基準法第96条) 816(31.2%) 696(26.6%) 430(16.5%) 289(11.1%) 188( 7.2%) 安全衛生関係(労働安全衛生法関係) 780(29.9%) 最低賃金(最低賃金法第4条) 182( 7.0%) 第9表 外国人技能実習生の受け入れに係わる違反事業場 (2008年) (出典)http://www.mhlw.go.jp/za/0807/d11/d11.html −28− 香川大学経済論叢 472

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