ブロイラー農場における
衛生管理の取り組み事例
平成30年度 食品安全セミナー 食中毒の発生防止 ~鶏肉の衛生管理を題材に~ 平成30年4月12日 1はじめに:食鶏の種類
食鳥
食鶏
肉用鶏
ブロイラー
(肉用若鶏)
その他の
肉用鶏
廃鶏
その他の食鳥
• ブロイラー(broiler)は,ふ化後一定期間(3ヵ月齢未満)の若鶏
で,食用に供する目的で飼育されている鶏の総称です。
• 19世紀末に米国の食鶏規格の一つとして定められた用語で,
若鶏をあぶり焼き(broil)用に供したことに由来します。
セキショクヤケイ(左)とブロイラー種鶏(右)
ニワトリ(鶏、学名:Gallus gallus domesticusは、鳥類の種のひとつ。 代表的な家禽として世界中で飼育されています。
ブロイラー種鶏農場
• 種卵は種鶏農場で
産まれます。
種鶏舎: 右側にネスト(巣箱) 種卵を運ぶベルトコンベア 清浄な種卵を得たい
孵卵場
• 種卵は孵卵場でふ化して,初生雛になります。
孵卵器 (ハッチャー) ハッチャーバスケットの初生雛 取り出し時刻の30時間前で約1%が ふ化していることが普通です。 5ブロイラー農場における
衛生管理の取り組み事例
除糞・清掃から煙霧(くん蒸)まで
除糞・
清掃
水洗
消毒
消石灰
水溶
塗布
敷料等
準備
煙霧
(くん蒸)
除糞・清掃から煙霧までを終えて、 入雛準備がほぼ終了した鶏舎 7除糞・清掃
スキッドステアローダー Skid steer loader
• 左右のタイヤの回転差により旋回し、ほぼ全長以外の空間
を必要としない小旋回(その場旋回)が可能なローダー
水洗・消毒
除糞清掃後,速やかに水洗を開始
• 役割分担と連携でスムーズな作業
【写真】 左の鶏舎には捕鳥レール, 右の鶏舎には水洗ホース このように,除糞清掃チームと水 洗消毒チームとが,同じ農場の 別鶏舎で同時に作業することも あります。 9器具器材水洗い
ニップルは上、左右から洗う ニップルの皿底をきちんと洗う
給餌器の取り付け部分は特にていねいに 給餌器のロートの内部も十分に洗う
水洗
鶏舎内外水
柱の影、ロープ等も忘れずに ハネ戸の内側上部・隅をていねいに
軒下、間壁、押え帯びロープも丁寧に 犬走りを十分に洗う
水洗
水洗の水量
一般的に,20 L/坪(6 L/㎡)以上
•スチームクリーナーを使用すると,
より少ない水量で同等の効果
•洗浄剤を使用すると,汚れ落とし
が促進される
苛性ソーダを含む洗浄剤の注意事項
化学的火傷を起こすことがある。
ミストを吸い込まないこと。
皮膚や目に入らないようにすること。
目に入った場合には水でよく洗い,医師の診察を受けること。
防護服,ゴーグル,手袋等を着用すること。
原液は,強アルカリ性なので,腐食性がある
13水洗・消毒
給餌器,仕切り柵など取り外し可能な器具類は,
鶏舎から搬出して,別の場所で洗浄・消毒する。
• 洗浄は
高いところから低いところへ
• きれいなところから
汚れたところへ
• 経験者が新人を教育する
水洗前に,排水路を確認
排水が溢れないこと
大雨で,側溝からオーバーフローした例
排水マスと水処理
【左上写真】 鶏舎前の土間と側溝の低さから, 排水の良さがうかがわれる 【左下写真】 農場内の排水マス 【右下写真】 運搬可能な水処理装置オールアウト後の鶏舎の清掃・消毒への
取り組み
• 1)鶏群の出荷
• 2)器具搬出
• 3)除糞
• 4)清掃・水洗
• 5)肉眼的検査
• 6)発泡消毒
• 7)石灰水溶液塗布
• 8)敷料等の搬入
• 9)細菌検査
• 10)仕上消毒
• 11)入雛
5)肉眼的検査に合格しなければ 4)に戻ってやり直す 不合格 (ホコリが多く,羽毛残存)の例 19空舎中の衛生点検
A県は、某年3月にB市の採卵鶏農場で高病原性鳥インフルエンザが
発生した事例を踏まえて、6月から9月までの間に、A県内で100羽以上
を飼育する養鶏場計143戸への立入調査を実施。
野鳥や小動物等が侵入できる隙間の有無などを確認し修繕を求めた。
【左写真】 鶏舎内の検査 (7月) 【右写真】 修繕 (8月)農場細菌検査(家畜保健衛生所)
【発泡消毒】
【石灰水溶液撒布】
乾燥
細菌検査
• 1)鶏群の出荷
• 2)器具搬出
• 3)除糞
• 4)清掃・水洗
• 5)肉眼的検査
• 6)発泡消毒
• 7)石灰散布
• 8)敷料等の搬入
• 9)細菌検査
• 10)仕上消毒
• 11)入雛
9)細菌検査で異常な成績のと
き、4)に戻ってやり直す
25細菌検査
• 床,壁,給餌器,給水器,使用水
【上写真】 電動の煙霧機 静かな煙霧。 モーターに吸気フィルターを備えるが,霧を吸い込むと故障しやすい。 【下写真】 ガソリンエンジンの煙霧機 遠くまで届く。 消音器はなく,燃焼音が大きい。
煙霧
グルタルアルデヒド
または
過酢酸製品
3~7時間密閉
27ホルマリンくん蒸
家畜伝染病予防法施行規則別表1
5 ホルムアルデヒドによる消毒
• 密閉した室内又は消毒器内において容積一立方
メートルについてホルマリン十五グラム以上を噴
霧若しくは蒸発させ、又はホルムアルデヒド五グラ
ム以上を発生させ、同時に二十八グラム以上の
水を蒸発させる比例をもつて処置した後七時間以
上密閉しておく。
ホルマリンくん蒸
労働安全衛生法施行令 別表第3 (特定化学物質) ホルムアルデヒドは,特定第2類物質の特別管理物質です。名称,注意事項などの 掲示(特化則38条の3)や,空気中濃度の測定結果と労働者の作業や健康診断の 記録を30年間保存すること(特化則38条の4,40条),事業廃止の際にはこれらの書 類を所轄労働基準監督署長に提出すること(特化則53条)が求められています。 29ブロイラー農場における
衛生管理の取り組み事例
ひな導入 (入雛)
• 初生雛は輸送されて,ブロイラー農場に
導入されます。
初生雛の輸送 鶏舎への入雛 雛輸送箱の敷紙回収 (回収した敷紙の細菌検査を 行う場合もあります。) 31ウィンドウレス鶏舎 開放鶏舎
ブロイラー農場の鶏舎には,大きく分けて,3つの種類があります。
井戸水は塩素で消毒
水
水質試験検査
クランブル飼料(前期1のみ) マッシュ飼料
ペレット・クランブル飼料 マッシュ飼料
飼料
飼料の品質管理は飼料 工場で行われています。 農場関係者も,篩い検査, 比重測定など簡易な検査 は行います。
ブロイラー農場における
衛生管理の取り組み事例
• 飼育
ウィンドウレス鶏舎:7日齢 開放鶏舎:45日齢 • ブロイラーは,ふつう,7週間前後で出荷されます。
• 飼育者は,ふつう,1日4~5回,鶏舎内を巡回します。
• 1棟の鶏舎は,平均,約1万羽(7,000羽~25,000羽)を収容します。 • 1人の飼育者は,ふつう,3~6鶏舎を管理します。
Disinfection alone is not perfect.
Bio-security is the key factor.
クマ
防散消石灰を
撒布した状態
鶏舎内は各棟専用の履き物 仕切り,踏み込み消毒槽 排水がpH8.6よりも 強いアルカリ性にならないようにする。ブロイラー飼育中の細菌検査
モニタリングを
家畜保健衛生所が
実施
ブロイラー飼育中のOPG検査
抗菌性飼料添加物
(抗コクシジウム作用
のある,ポリエーテル
系抗生物質等)の
プログラムを必要に
応じて改訂
OPG検査成績一覧 6/3-7/2(最近の4週)採材分 日齢順 0 100,000 200,000 300,000 400,000 500,000 600,000 700,000 800,000 900,000 1,000,000 10 15 20 25 30 35 40 45 OPG 0 100,000 200,000 300,000 400,000 500,000 600,000 700,000 800,000 900,000 1,000,000 46ブロイラー飼育中のワ
クチン接種
散霧投与
ワクチンと保護剤(水質改善,着色) 飲水投与
Yes No 舌、くちばし、そ嚢の観察 (青く染まっているか) 青色が見える 正常範囲 青色が見えないとき 担当者に連絡する
48
管理日報に記録する 舌とクチバシに青色 そ嚢に青色獣医師の診療
• 獣医師は,ブロイラー
の大腸菌症,急性コク
シジウム症,マイコプラ
ズマ症などを診断して,
抗菌剤の投与を指示す
る場合があります。
抗菌剤などの飲水投与に 使われる添加装置 49獣医師の薬剤選択
感受性の確認のため,片岡8)の述べた,臨床現場で できる薬剤感受性試験を行い,アンチバイオグラム を作成している(表1)。 8. 片岡康:臨床現場でできる薬剤感受性試験. 動薬研究 70, 31-39 (2014) 橋本信一郎,養鶏現場での薬剤耐性問題への取り組み 鶏病研究会報 第53巻 増刊号 p.29-34 (2017年) 50表1. ブロイラーの臨床における大腸菌のアンチバイオグラムの一例 農場 アンピシリン アモキシシリン オキシテトラ サイクリン クロラム フェニコール オフロキサシン エンロフロキサシン A × × × ○ ◎ ◎ B △ △ × ○ ◎ ◎ C × × × ○ ◎ ◎ D × × × ○ ○ ◎ E × × × ○ ◎ ◎ ◎:90%以上の菌株が感受性 ○:80~89%の菌株が感受性 △:70~79%の菌株が感受性 ×:69%以下の菌株が感受性 アンチバイオグラムは,ある抗菌薬がある細菌に対し,どのような濃度でS(感性),I(中間), R(耐性)となるのかを,統計処理し表に示したもので,それぞれの施設(農場)ごとに作成 する。 アンチバイオグラムを利用する際には必ずグラム染色を行い,菌種を推定して,有効性の 高い抗菌剤を第一次選択薬とすることとされている。 これによって抗菌剤の適正使用が図られる。 橋本信一郎,養鶏現場での薬剤耐性問題への取り組み 鶏病研究会報 第53巻 増刊号 p.29-34 (2017年) 51
ブロイラー農場における抗菌剤および
抗菌性飼料添加物の使用例
表3. A県内の1ブロイラー事業体の農場における抗菌性物質の年間a)使用量 成分名 用途 使用量 原末換算量 チアンフェニコール 呼吸器性マイコプラズマ症の治療 10%製剤40 kg 4,000 g スルファモノメトキシン コクシジウム症の治療 SO合剤20 L 1,500 g オルメトプリム コクシジウム症の治療 SO合剤20 L 500 g オフロキサシン 大腸菌症の治療 5%製剤457 L 22,850 g エンロフロキサシン 大腸菌症の治療 10%製剤23 L 2,300 g サリノマイシン 飼料添加物 飼料 22,286 t 1,114,300 g アビラマイシン 飼料添加物 飼料 9,513 t 95,128 g エンラマイシン 飼料添加物 飼料 12,773 t 79,300 g コリスチン 飼料添加物 飼料 4,226 t 42,264 g a)期間:2016年4月1日~2017年3月31日,30農場,入雛羽数合計:8,183,218 羽 橋本信一郎,養鶏現場での薬剤耐性問題への取り組み 鶏病研究会報 第53巻 増刊号 p.29-34 (2017年) 52防そ対策
専門業者が定期的に施行し,点検
その他の病害:ブロイラー飼育中の
ミールワーム(ゴミムシダマシ科)発生の例
写真は,ガイマイゴミムシダマシがブロイラーの飼育中に大量発生した例。
有効な殺虫剤を(鶏の出荷後に)使用しました。
ブロイラー農場における
衛生管理の取り組み事例
ブロイラー農場から食鳥処理場へ
食鳥処理場での懸鳥の約10時間前から,給飼を止める
飲水は,捕鳥直前まで可能とする
鶏を安静に保って,素早く丁寧に捕鳥する
食鳥検査員による生体検査
ブロイラー農場に おける衛生管理
流通段階における 原材料の品質管理