大阪女学院大学国際共生研究所通信 創刊号 国際共生研究所第1回講演会 2009年10月16目 於本学 もと 報告者 元 百合子 r看護師・介護士受け入れ一フィリピンと日本を結ぶ視点」 講師 小ケ谷千穂 (横浜国立大学) 少子高齢化の進行と医療・介護現 場での労働力不足を背景に、日本は 近年、フィリピンとインドネシアか… らの看護師と介護士の受け入れに踏 み切った。従来、外国人の就労を認め てこなかった分野における政策転換である。 以来、メディアではサービスの質や日本語能力を懸念す る議論、あるいは、試験的に受け入れた施設で働く様子 やサービスを受けた高齢者の感想などが報道されてきた。 それらは概ね日本人の視点からのものであって、当事者 や送り出し国の社会にとっての意味合いや影響が注目さ れることはほとんどない。 新進気鋭の国際社会学者として労働の国際移動を研究 してこられた小ケ谷先生は、フィリピンを含むアジア諸 国を度々訪問調査して得られた情報に基づく説得力のあ る分析と考察を展開された。まず問題なのは、r人の移動」 が、他の輸出入品目と同様に「経済連携」の一品目とし て扱われていることである。労働力を「輸出品目」とす る送り出し国の国家戦略と日本側の需要が合致したわけ だが、フィリピンでは看護師協会を含めて、日比EPA(二 国間の経済連携協定)の不平等性を問題にする人々によ る反発があった。また、「ケアギバー」(介護士)という 職種は、海外労働市場における需要に応じて創出された ものであって、急ごしらえの養成学校も出現したという。 看護師も含めて、渡航先としては米国や中東諸国など英 語の通じる国が好まれ、日本は敬遠される傾向がある。 日本語習得の難しさに加えて3∼4年以内に国家試験に 合格しないと帰国を義務付けられるという制度の厳しさ がその理由である。 送り出し国社会にとってさらに問題なのは、家事労働 に加えて介護の担い手が海外流出することによる家事、 育児、ケアのr連鎖」である。途上国と先進国では、医 療労働者の人口比率や保健サービスの利用可能性、乳幼 児死亡率について、すでに大きな開きがある。そこに、 国家間の経済格差に沿って一方向で成立する医療・介護 労働者の大量移動(送り出し国の社会にとってはr流出」) が加わっている。その現実を前提に「公平さ」の確保は 可能なのか、外国人の労働力がダンピングされず、適正 に処遇される「労働市場における共生」の構築は可能か、 日本社会が誠実に向き合うべき課題が投げかけられた。 アジア太平洋人権情報センターのご協力により、学外 からの参加も得てフロアーからの活発な質問や発言もあ り、時宜を得た刺激的な講演会であった。 高等教育における英語教育の方法研究
本学では、21世紀の社会を担う大学生に対し
て、コンテンツを伴った『考える』英語教育と、言 語の4技能の習得、英語によるプレゼンテーション や論文作成ができるといったEng1ishforAcademic Purposes(EAP)に基づく、英語運用能力の習得を目 標に掲げて英語教育を展開してきた。さらに学部専 門教育においては、EAPを土台として、専門分野お よび職業分野を英語で学ぷEng1ish for Professiona1 Purposes(EPP〕による英語教育に取り組んでいる。本 プロジェクトでは、大阪女学院が長年培ってきた高等 教育における英語教育の実践と手法の分析、国際社会 で必要とされる語学力と専門知識を獲得させる教育方 法の開発、国際共通語としての英語の運用能力を高め るためのEAP・EPP教授法の研究、ヨーロッバ、アジ アの各大学と連携を図った高等教育における英語教育 モデルの構築を行う。 智原 哲郎 日本のように英語を母語としない国における外国語学 習過程では、異なった英語教育方法が使われる。中等教 育課程での英語はEGP(E㎎1i.h for General Purpo・os)と呼ばれ、その教授内容は言語についての一般知識、背 景文化、読み物、日常会話などである。他方、EAP(English for Academic Purposes)は、EGPを土台として大学レベ ルでの英語能力の習得を目標とする英語で、英語での討 論、論文作成、プレゼンテーション能力を育成すること を目標にしている。さらに、国際的な専門職業人として 仕事にかかわるといったような場合には、ESP(Eng1ish f・rSpecin・Purposes)/EPP(E㎎ユi・hforProfe・・i・n・1 Purposes)が必要とされる。 本来、高等教育機関での英語教育は、EAPやESP/EPPに 貝1」ったものであるべきだが、依然としてEGPを中心とし た英語カリキュラムが構築される場合も少なからず存在 し、このため、専門学術領域や専門職業領域で要求され る語学力の習得に十分な成果が見られていない。この現 状に対して、2003年3月の文部科学省による「『仕事で英 語が使える日本人』の育成のための行動計画」を始めと して、高等教育機関における国際的基準を満たした専門 職業英語指導法の確立がさまざまなところで提言されて いる。 EAPやESP/EPPによる英語指導法の確立に。−Leami㎎ の役割が注目されている。文部科学省からもe−Leami㎎ の推進が提言され、大学設置基準にもe−Learni㎎の導入 5
大阪女学院大学国際共生研究所通信 創刊号 が組み込まれている。実際、欧米では”Open University” として数多くの大学がオンラインプログラムを提供して おり、伝統的な対面式授業から脱却したe−Learni㎎の学 習効果が報告されている。 しかしながら、従来の対面式授業からの脱却には利点 と欠点が表裏一体となって付いてまわる。学習者のスケ ジュールや学習度に応じて学習できる反面、学習者に自 立・自律心がなければ学習の持続が困難となる。教員は 必ずしも必要とされないので人件費などのコストは低く 抑えられるが、学習者と教員間や学習者同士のインタラ クションが取りづらい。成績管理が自動的に行われるの で教員の仕事量は軽減されるが、学習者の学習プロセス を把握できなくなるなどである。今後、これらの問題を 踏まえて、専門学術領域や専門職業領域で要求される語 学力の習得にe−Learni㎎の導入を図った新たな英語教育 方法を確立することが本プロジェクトの目標である。 外国人児童生徒のための≡語教育モデルの研究 日本政府が1990年に行った「出入国管理及び難民認 定法の一部を改訂する法律」の施行により、外国人労働 者の子どもたちが多数、日本で教育を受けることになっ た。この10数年、外国人児童生徒の抱える問題につい て多くの研究がなされてきた。例えば、不就学、学習の 権利、日本語教育といった分野である。しかし、母語に よる教育、母語と日本語を使用したバイリンガル教育は、 外国人学校での実施にとどまり、ほとんどの公立学校で は実施されていない。本プロジェクトでは、外国人児童 生徒の母語を保持・発展させ、日本語の習得及び教科学 習の理解を促す言語教育モデルを研究する。 第1回研究会報告