• 検索結果がありません。

Ⅰ. 欧州の新燃費規制から読み解く世界の電動車両戦略 概要 2017 年 11 月 8 日に提示された欧州委員会 (EC) の 2021 年以降の二酸化炭素 (CO2) 排出量規制の重要ポイントをひも解き 世界のパワートレイン戦略に及ぼす影響を見通す 自動車メーカーの電気自動車 (EV) 戦略は 欧

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "Ⅰ. 欧州の新燃費規制から読み解く世界の電動車両戦略 概要 2017 年 11 月 8 日に提示された欧州委員会 (EC) の 2021 年以降の二酸化炭素 (CO2) 排出量規制の重要ポイントをひも解き 世界のパワートレイン戦略に及ぼす影響を見通す 自動車メーカーの電気自動車 (EV) 戦略は 欧"

Copied!
19
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

1

December 15, 2017

・本資料は情報提供を唯一の目的としたものであり、金融商品の売買や投資などの勧誘を目的としたものではありません。 本資料の中に銀行取引や同取引に関連する記載がある場合、弊行がそれらの取引を応諾したこと、またそれらの取引の実 行を推奨することを意味するものではなく、それらの取引の妥当性や、適法性等について保証するものでもありません。 ・本資料の記述は弊行内で作成したものを含め弊行の統一された考えを表明したものではありません。 ・本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、その正確性、信頼性、完全性を保証するものではあ りません。最終判断はご自身で行っていただきますようお願いいたします。本資料に基づく投資決定、経営上の判断、そ の他全ての行為によって如何なる損害を受けた場合にも、弊行ならびに原資料提供者は一切の責任を負いません。実際の 適用につきましては、別途、公認会計士、税理士、弁護士にご確認いただきますようお願いいたします。 ・本資料の知的財産権は全て原資料提供者または株式会社三菱東京UFJ 銀行に帰属します。本資料の本文の一部または全部 について、第三者への開示および、複製、販売、その他如何なる方法においても、第三者への提供を禁じます。 ・本資料の内容は予告なく変更される場合があります。

Ⅰ.欧州の新燃費規制から読み解く世界の電動車両戦略

ナカニシ自動車産業リサーチ 代表兼アナリスト 中西 孝樹

Ⅱ.メキシコ経済の動向~

NAFTA 交渉と大統領選がもたらす不透明感~

公益財団法人 国際通貨研究所 森川 央

Ⅲ.見えてきたトランプ政権の移民政策

冨田法律事務所 米国カリフォルニア州弁護士 冨田 有吾

Ⅳ.トルコにおける

M&A について

弁護士法人マーキュリー・ジェネラル 弁護士 酒井 勝則 弁護士 根來 伸旭

… 2

BTMU Global Business Insight

EMEA & Americas

… 7

… 11

(2)

BTMU Global Business Insight

EMEA & Americas

2

Ⅰ.欧州の新燃費規制から読み解く世界の電動車両戦略

概要 2017 年 11 月 8 日に提示された欧州委員会(EC)の 2021 年以降の二酸化炭素(CO2)排出量規制の重 要ポイントをひも解き、世界のパワートレイン戦略に及ぼす影響を見通す。自動車メーカーの電気自動 車(EV)戦略は、欧州と中国を合計した売り上げ構成に比例する。そのトレンドを、米国・アジアを中 心とする日本車メーカーに単純に当てはめることは正しくない。 欧州委員会(EC)の 2021 年以降の燃費規制の提案内容 2017 年 11 月 8 日、EC は長く注目されてきた 2021 年以降の燃費規制の提案書を公表した。乗用車と小 型商用車を含めたライトビークル前提の規制となるが、本稿では乗用車に焦点を当てる。従来規制では 2021 年に二酸化炭素(CO2)排出量 95 グラム/キロメートル(g/km)を達成し、68~78g/km の長期 目標レンジが示されてきた。一般的に、2025 年には 75g/km 程度が目標になるのではと懸念されてきた。 そして、緊張の中でこの2017 年 11 月 8 日の発表を迎えた。世界的に見ても非常に厳しい数値が掲げ られているわけだが、比較的実現可能性があると、業界関係者は胸をなで下ろしたのではないだろうか。 欧州自動車工業会(ACEA)は、即刻に当該規制案への反論(2025 年の暫定目標設置や 2030 年の 30%削 減(2021 年目標値比)の厳しさ)を表明したが、内心としては、自身のロビー活動が奏功した結果に、 ほくそ笑んでいた可能性もある。 EC の 2021 年以降の乗用車 CO2 排出規制案は、大きく以下の 4 点にある。 (1)2021 年の CO2 排出規制値 95g/km に対し、2025 年の中間暫定目標が 2021 年目標値比 15%削減(約 80g/km)、2030 年の最終目標が同 30%減(約 67g/km)とする。 (2)2025 年の暫定目標に対しては、厳密さ、規制方法などの具体的提案は盛り込まれず、玉虫色の感が 拭えない。 (3)電気自動車(EV)販売比率を規制で厳密に求めていくことは含まれていない。これは、欧州連合(EU) 諸国の経済力格差を考慮したものだろう。 (4)ゼロ・エミッション車(EV、燃料電池車)、ロー・エミッション車(CO2 排出量 50g/km 以下の プラグインハイブリッド車(PHEV)など)の低公害車の普及を促進するインセンティブを推進し、 一定のゼロ・エミッション/ロー・エミッション車比率を達成できる自動車メーカーに対し、規制 値の緩和を進めるとしている。販売拡大が容易なPHEV 普及への道筋を示した。 世界的にCO2 排出規制を先導する欧州にとって、自動車産業が類を見ない厳しい環境に置かれた産業 であることに変わりはない。そうは言っても、この世界最高の新規制内容を見たときに、砂漠に振った わずかな湿り雨と感じるのは皮肉なことだ。2025 年に 68~78g/km レンジの規制が敷かれることを思え ば、最終目標には2030 年までの時間的猶予があり、2025 年は約 80g/km で収まるという安堵(あんど) 感がある。実現不可能な厳しい規制は含まれておらず、自動車メーカーは収益性を守りながら、それぞ れにベストなパワートレイン・ミックスを追求することが可能だ。

(3)

BTMU Global Business Insight

EMEA & Americas

3 補足資料にあるインパクト・アセスメントでは、さまざまな分析結果が示されている。その中で目を 引いた内容が、規制対応へのコストペナルティー分析だ。2030 年で 1 台当たり約 800 ユーロ程度と試算 している。燃費改善による燃料消費削減で1 台当たり 1,500 ユーロ節約できるとの試算もある。この分析 を単純に信じることは困難ではあるが、現在の内燃機関コスト上昇を強く懸念する悲観論へ一石を投じ る論議だろう。 【図1:世界の平均燃費規制の見通し】(CO2 排出量、単位:g/km) 出所:国際クリーン交通委員会(ICCT)など各種資料を基にナカニシ自動車産業リサーチ作成 世界に広がるEV 熱の背景 EV 熱の感染が世界に広がり続けている。EV 普及を加速化し、内燃機関を用いた自動車の販売禁止を 早めようとする動きが顕著だ。詳細は現段階では不透明だが、英国・フランスでは2040 年をめどに、イ ンドは2030 年までに内燃機関の販売禁止を方向として明らかにしている。また、この流れを加速化させ るような政策の検討が中国で開始され、インドネシアでも同様の動きが始まった。インドネシアのエネ ルギー・鉱物資源省は、化石燃料を動力源とする自動車と二輪車の販売を2040 年までに禁止する方針だ。 EV 熱の感染には三つの大きな背景がある。 第一に、欧州の大気汚染問題だ。2015 年のフォルクスワーゲン(VW)のディーゼルゲートを契機に、 欧州の都市では窒素酸化物(NOx)を原因とする都市大気汚染問題が深刻な社会問題となってきた。内 燃機関を悪者とし、ゼロ・エミッション化を進めたいという機運が高まっている。 第二に、中国の「自動車強国」産業政策である。欧州の混乱に乗じる形で、中国はEV のバッテリー技 術と主要コンポーネンツを先導し、国家戦略の「自動車強国」を狙っている。この結果、日本の内燃機 関競争力を封じ込み、自動車産業の国際競争力を手繰り寄せようとする。

(4)

BTMU Global Business Insight

EMEA & Americas

4 第三は、新興国におけるエネルギー安全保障政策だ。インド、インドネシアのEV シフト政策の根本的 な目標は脱・化石燃料であり、石油輸入依存からの脱却を目指すものだ。しかしその裏では、中国EV 支 配に対する防衛策としての自国の産業強化への思いも見え隠れする。 EV シフトを先導するのは欧州であり、ここには三つの動機付けがある。VW のディーゼル排ガス不正 問題に端を発し、ディーゼル車に対する不信感が爆発し、社会問題化・政治問題化している。社会問題 化する大気汚染問題に対し、政府も自動車メーカーもステークホルダーが納得できる解決へのロードマ ップを示す政治的な圧力を受けている。パリ協定に伴う温暖化ガス削減を目指した動きも加わり、EV 化 を支援する政策を推進する必要がある。最後に、目前に迫る2021 年の CO2 排出量 95g/km への達成に 多くの自動車メーカーで黄信号がともり始めたことだ。短期的には、EV シフトを扇動し、普及への補助 金政策を引き出したいという台所事情もある。 日本の自動車産業に求められる戦略とは 大気汚染問題を解決するために、都市部の内燃機関使用規制は間違いなく訪れるだろう。英国やフラ ンスがそれを推進しても、欧州全体に広げることは現実的ではない。地球規模で温暖化ガスを持続可能 な形で削減していくには、今回のEC が示した 2021 年以降の燃費規制の提案書にある通り、それぞれの 自動車メーカーが自身にベストなパワートレイン・ミックスを追求していくことが必要となってくる。 世界的な燃費規制への対応を進めるには、(1)EV、PHEV、ハイブリッド電気自動車(HEV)といっ た電動化を進める軸と(2)内燃機関の効率改善を進める 2 軸がある。それぞれ、2025 年の中間目標や 2030 年の最終目標に向けて、また規制達成へのフロンティアカーブに向けて、内燃機関の改善と電動化 のバランスを取りながら、各社が電動化戦略を描いている。 【図2:自動車メーカーの電動化へのアプローチ】 注:ISG とは、モーター機能付き発電機を用いた車のこと 出所:デンソーの資料を基にナカニシ自動車産業リサーチ作成

(5)

BTMU Global Business Insight

EMEA & Americas

5 われわれは、このパワートレイン戦略を定めていく要素は地域の販売構成の差異にあると考えている。 欧州と中国を合計した自動車販売台数の構成比と、2025~2030 年目線で各自動車メーカーの EV 販売比 率の目標や向かっている方向をプロットした。ここには強い相関関係がある。欧州勢はEV 比率を高めて いく必然性が高く、また、彼らはプレミアム商品を多く提供しているため投資回収も比較的容易だ。こ れに対し、日本車メーカーは比較的穏やかなEV 比率の進展を計画している。 一方、米国勢はそのちょうど中間に位置している。米国の自動車産業政策には一貫性が感じられない。 2017 年 11 月 2 日に公表された共和党下院の税制改正法案には、EV 向け税控除の廃止が盛り込まれた。 トランプ政権はオバマ前政権で築かれたCO2 排出規制案の緩和修正に前向きだ。すなわち、米国には強 いポリシーが現段階で不在である。これは、米国を最大の市場としている日本車メーカーにとっては幸 いなことだろう。日本車メーカーには少しだけ時間的猶予が与えられている。 【図3:欧州・中国に占める販売比率と 2025~2030 年目線での EV 販売比率の期待値】 出所:ナカニシ自動車産業リサーチ それでは、どの程度の将来にわたって内燃機関市場が望めるのであろうか。世間では、長期的なEV 比 率をピンポイントに予測することが流行しているが、われわれはそれ自体にはあまり意味はないと考え る。電池のコストや充電インフラも含め、規制動向、経済課題、資源価格、技術革新など課題要素にあ まりにも幅があり過ぎるためだ。自動車の技術革新を受け、シェアリングエコノミーのような大規模な ビジネス革命も起こり得る。将来の新車販売シナリオにも大きな幅があるだろう。 内燃機関を用いるICE(ガソリン車など)、HEV、PHEV の新車販売台数予想にも大きな幅がある。 それを示したのが図4 であり、2030 年であれば 1 億台を挟んだレンジが濃厚だ。2035 年には 20%も縮小 した8,000 万台の悲観的な予測から、変わらず 1 億台の市場を確保するという楽観的な予測も成り立つ。 強気シナリオに立てば、実に2040 年ごろまで、内燃機関を用いた車両は 1 億台の需要が見込めるのであ る。

(6)

BTMU Global Business Insight

EMEA & Americas

6 【図4:内燃機関を用いる車両(ICE、HEV、PHEV)の世界販売台数予想】 出所:ナカニシ自動車産業リサーチ こういった認識を持ちながら、長期的な戦略を構築することは大切だ。中国国家戦略に安易に迎合す ることは、ライバルを利する結果を招きかねない。電動化政策でつながりの強い欧州・中国連合と戦っ ていくためには、米国との連携強化が不可欠だろう。そして、内燃機関の技術を磨き込み、その成果を 将来に有望な新規事業への構造転換に投下していく必要がある。大切なのは、技術力に溺れ、イノベー ションのジレンマに陥らないことだ。国内自動車産業は、戦い方を変えていくべき時期に差し掛かって いる。高い技術力でものづくりを徹底すれば勝てるという意識は変えていくべきだろう。 欧州の自動車部品産業は、欧州自動車メーカーの電化戦略の推進を反映し、内燃機関技術への投資マ インドが冷え切っている。その結果、内燃機関関連のビジネスは国内自動車部品メーカーにより依存す る構造が生まれてきている。今後10 年程度はその強い追い風を日本の自動車部品メーカーは受けること になるだろう。恵まれた今後10 年の間に、旺盛な内燃機関関連ビジネスを受注し、早期に回収していく 賢いビジネスを築いていくべきだ。将来に来るべき電動化の波に対し、業容転換で優位性を発揮できる 戦略性の高い技術と新規事業にバランスよく再投資していくことが必要だ。 記事提供:ナカニシ自動車産業リサーチ 代表兼アナリスト 中西 孝樹 (2017 年 11 月 10 日作成)

(7)

BTMU Global Business Insight

EMEA & Americas

7

Ⅱ.メキシコ経済の動向~

NAFTA 交渉と大統領選がもたらす不透明感~

1.2017 年の成長率は 2.0%の見込み 2017 年のメキシコ経済は、隣国である米国で反メキシコ的なトランプ大統領が就任し不安と共に始ま った。1 月の消費者景気信頼感指数(2003 年 1 月を 100 とした指数)は 70.2 に急落したが、その後シリ アや北朝鮮情勢の悪化により、米国が安全保障上の課題を優先せざるを得なくなったことで、米国の対 メキシコ政策はしばらく先送りされた観があった。そのためメキシコ側の警戒感もひとまず後退し、消 費者信頼感指数もトランプ大統領当選前(2016 年 10 月 84.7)を上回る水準まで回復してきた(図 1)。 企業も比較的冷静な対応をしていたと思われる。実質設備投資のうち機械設備をみると、月々の変動 はあるものの基本的には増加基調であると認められる(図2)。建設工事が停滞しているのは、公共事業 が削減されているためで、企業の先行き期待とは無関係と思われる。 2017 年前半の実質 GDP 成長率は前年比 2.5%と、ほぼ潜在成長率並みの成長率と思われる。年間では 2.0%程度の成長率になる見込みである。年初のコンセンサス予想が 1.5%前後であったことを考えると、 メキシコ経済は比較的堅調であったといえよう。 2.インフレは峠を越し、景気は再加速へ 直近7-9 月期の実質成長率(速報)は前年比 1.6%に低下し、前期比年率(季節調整済み)も 1.7%とな った。前期比年率が2%を下回るのは 1 年ぶりのことで、拡大の勢いは衰えている。もっとも、この減速 は景気の踊り場に過ぎず、早晩景気は勢いを取り戻すと思われる。 というのも、足元まで景気の勢いを削いでいたのはインフレ率の上昇により、家計の実質所得が減少 したためと考えられるからだ。 為替レートの下落により、メキシコの生産者物価は2016 年に入ると大きく上昇し、2017 年 1 月には前 年比12.5%になった。インフレは時間差をもって消費者物価段階にも波及してきており、2017 年 8 月に は消費者物価も前年比6.7%に上昇していた(図 3)。 そして消費者物価が上昇するに連れ、小売売上(数量)は伸び悩み、2017 年はほぼ横ばいからやや減 少となっていることが図から見てとれる(図4)。 しかし幸いにも、生産者段階のインフレは終息に向かっており(図3)、消費者物価の上昇もピークを 迎えた観がある。中央銀行であるメキシコ銀行は、インフレ率の上昇がインフレ期待を引き上げること 60 65 70 75 80 85 90 95 100 105 09 10 11 12 13 14 15 16 17 図1:消費者センチメント (資料)メキシコ統計・地理情報院 (2003/1=100) (年) 90 95 100 105 110 115 120 125 130 12 13 14 15 16 17 図2:実質設備投資の内訳 建設 機械設備 (2008=100) (年) (資料)メキシコ統計・地理情報院

(8)

BTMU Global Business Insight

EMEA & Americas

8 を恐れ、2015 年 12 月から 2017 年 7 月にかけて累計 4.0 ポイントの利上げを実施したが現在は据え置き 期間に入っており、更なる利上げの可能性は遠のいたとみられる。 雇用情勢に目を転じると、失業率は3.3%に低下している(9 月)。正規雇用も増加しており、インフ レ率さえ低下すれば、家計を取り巻く環境は良好である。 メイン・シナリオとしては、インフレが低下していくことで消費が回復し、2018 年の成長率は加速し、 2.5%へ接近していくと期待できる。 3.大統領選が波乱要因になる可能性も こうした回復シナリオに水を差す可能性があるのが、外交を含めた政治の動きである。 NAFTA(北米自由貿易協定)再交渉は、米加メキシコ間で断続的に実施されているが、難航が伝えら れている。当初計画された2017 年内の大筋合意は絶望的であり、今では 2018 年 3 月に目標を延期して いる。 トランプ政権は自動車関税ゼロの条件として、メキシコ、カナダに①原産地ルールの引き上げ(62.5% →85%、米製品 50%以上を新設)、②貿易規制禁止の撤廃(チャプター19)等、強気の要求をしている。 しかしアメリカ国内にも決裂を心配する声が少なからずある。特に、メキシコと国境を接する州選出 の議員は、州経済へのダメージを恐れている。またトランプ大統領自身もNAFTA より税制改革を優先 すると発言しており、NAFTA 交渉を南部州選出の議員との取引材料にし、いずれはトーンダウンする可 能性がある。 -2 0 2 4 6 8 10 12 14 13 14 15 16 17 図3:物価動向 消費者物価 生産者物価 (年) (資料)メキシコ銀行 (前年比、%) 90 95 100 105 110 115 120 125 130 13 14 15 16 17 図4:小売売上(数量) (年) (資料)メキシコ統計・地理情報院 (2008=100) 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 11 12 13 14 15 16 17 図5:正規雇用増減 フルタイム パートタイム (前年差、万人) (年) (資料)メキシコ統計・地理情報院

(9)

BTMU Global Business Insight

EMEA & Americas

9 一方、メキシコ側も交渉を全否定しているわけではなく、縮小ではなく拡大均衡で米メキシコ間不均 衡を是正するという、建設的な交渉には応じるとしている。 交渉の決裂はどちらの利益にもならないとみられ、合理的に行動するとすれば、どこかで妥協は可能 と思われる。決裂をメイン・シナリオとすることはできない。 ところがここにきて波乱要因として浮上してきたのがメキシコの大統領選挙である。現職のペニャ・ ニエト政権(制度的革命党PRI)は、選挙戦中のトランプ候補に対し毅然とした態度をとれなかったこと が響き、支持率は低迷している。本命かと思われた中道右派PAN(国民行動党)は、候補者を一本化で きず事実上の分裂状態となり大統領選は混沌としてきた。 最近の世論調査によると、最も高い支持を得ている候補者は、ロペス・オブラドール国家再生運動 (Morena)党首である。Morena は民主革命党(PRD)から分派した左派政党で、今回の大統領選挙の 台風の目になっている。メキシコの大統領選は決選投票がない一回限りの選挙であり、3 分の 1 程度の得 票率でも勝機があるが、最新の調査(11 月 23-27 日)でオブラドール氏の支持率は 31%となっている。 オブラドール候補のNAFTA 交渉への姿勢はまだはっきりしていない。しかし、大統領選終了まで、 交渉は延期すべきと発言したことがあり、現政権の交渉姿勢への不満をにじませている。また、現政権 下で進められた石油産業への民間参入についても見直す意志を表明していることから、やはりビジネス 寄り、自由化推進路線を踏襲することは期待できないだろう。外資系企業への姿勢はまだ明らかではな いが、外資系企業としては慎重にならざるを得ないだろう。 懸念されるのは、こうした様子見姿勢が企業の投資意欲に水を差すことである。図2 で確認したよう に今のところメキシコ設備投資に変調は見られない。またメキシコに流入する直接投資にも大きな変化 は見られないが、今後の選挙戦の展開によっては様子見姿勢が強まる可能性があり、注視していく必要 がある(図7)。1994 年の NAFTA 締結以来、外資企業による直接投資がメキシコの発展を支えてきた が、外資依存の高さはメキシコ経済の弱点にもなっている。 (資料)各種報道等 図6:メキシコの主要政党 国家再生運動 (Morena) ・左派 ・カリスマ性高いオブ ラドール党首が率い る新党 ・世論調査では支持 率筆頭 民主革命党 (PRD) ・中道左派 ・党内有力者で国民 的人気のあるオブラ ドール氏が離脱、新 党を結成 ・党勢衰え、独自候 補擁立断念か 国民行動党 (PAN) ・中道右派 ・党内での権力闘争 激しい ・有力者のサバラ元 下院議員(カルデロ ン前大統領の夫人) が大統領選への立 候補を表明 ・アナヤ党首も立候 補へ 制度的革命党 (PRI) ・現与党 ・支持率低迷 ・後継はオソリオ内務 相だが、ミード財務 公債相が大統領選 でPRIからの出馬を 目指すことを表明

(10)

BTMU Global Business Insight

EMEA & Americas

10 メキシコのもう一つの弱点は、金融面でも海外投資家への依存が高いことである。外国人投資家が保 有するメキシコの金融資産は、株、国債ともメキシコのGDP の 40%前後に相当する。メキシコの将来へ の不安が高まると、海外勢が一斉に回収に走る可能性がある。 投資家がペソ資産を短期間に売却する際には、外国為替市場でペソ/ドルの売買スプレッドが拡大す る。近年の売買スプレッドをみると、0.01 ペソ以下で安定していたが、トランプ大統領が当選した 2016 年11 月には、0.02 ペソまで上昇することがあった。最近も 0.015 まで上昇したことがあり、NAFTA 交 渉が影響していることをうかがわせる。今後、選挙関連でメキシコ経済の不安を意識させられることが あれば、スプレッドが拡大することも考えられる。 現在、世界経済は順調であり、基本的にはリスクを積極的に取りに行く「リスク・オン」の時期と言 われるが、メキシコには独自のリスク要因があることに留意が必要だろう。 記事提供:公益財団法人 国際通貨研究所 森川 央 (2017 年 12 月 6 日作成) 0 100 200 300 400 500 600 12 13 14 15 16 17 図7:メキシコ向け直接投資(4四半期累計) (億ドル) (資料)メキシコ銀行 (年)

(11)

BTMU Global Business Insight

EMEA & Americas

11

Ⅲ.見えてきたトランプ政権の移民政策

概要 米国ではトランプ政権への移行後、ビザ申請や入国審査が厳しくなっていますが、同政権の意図する ところが少しずつ見えてきました。具体的には、規制緩和や減税対策によって米国経済を発展させるも のの、移民の労働力に頼らず、米国人の雇用を促進させることです。同政権にとって経済成長を保ちな がら移民問題を解決できれば、過去の政権がなし得なかったことを実現できるチャンスかもしれません。 移民取り締まりと雇用・経済問題 米国ではトランプ政権への移行後、ビザ申請や入国審査が厳しくなっていますが、最近幾つか大きな 変更点がありました。米連邦政府は、2017 年 10 月からのビザ申請において、インターネット上で開示さ れている個人情報も審査の対象にすることを告示しました。例えば、就労ビザにおいては、ビザ申請書 類に記載した職歴とLinkedIn などに載せられている職歴の相違、学生ビザなどにおいては、Facebook 上の不法就労をにおわせる記載がビザの却下につながる可能性もあります。 さらに2017 年に入り、入国審査での電子機器の没収や検査の数が大幅に増えていることが政府の発表 で分かりました。実際に、電子渡航認証システム(ESTA)を使って米国に出張した日本企業の社員が、 入国審査でノートパソコンや携帯電話の中身を調べられた結果、不法就労の疑いで入国拒否になったと いう事例もあります。おそらく検査中に米国内で何か仕事をしていると誤解されるような資料や情報が 出てきたのでしょう。 このように米国でビザ申請や入国審査が厳しくなったのは、テロ対策であることは間違いないのです が、同時に雇用問題とも大きく関わっています。大統領令として掲げられている“Buy American, Hire American”政策(米国製品を買い、米国人を雇用せよ)、すなわち、国策として米国人の雇用を守るこ とが前提であり、それに伴って移民や外国人労働者の取り締まりを強化していることは間違いないと思 います。 移民を取り締まることが雇用・経済問題にどのように影響するかについては、今後公表される経済デ ータなどによって徐々に明らかになるはずですが、現時点において、トランプ政権の意図するところが 少しずつ見えてきました。それは、経済、雇用、移民問題が密接に関係していることを前提として、長 年解決できなかった移民問題を何とかソフトランディングさせたいということです。具体的には、規制 緩和や減税対策によって米国経済を発展させるものの、移民の労働力に頼らず、米国人の雇用を促進さ せることです。 今後は、新政権発足後から行ってきた規制緩和や現在立案している税制改正によって企業所得税の減 税を行い、グローバル企業を米国に誘致し、多額の資金を国外に保有しているキャッシュリッチ企業に 対して資産の米国への移転を促すよう働き掛け、同時に移民の取り締まりを厳しくしていくと考えられ ます。

(12)

BTMU Global Business Insight

EMEA & Americas

12 ここで重要なことは、このトランプ政権の政策が、米国経済の発展だけでなく、雇用保護と賃金上昇 を重要課題として掲げていることです。そこで関係してくるのが移民問題であり、安い外国人労働力を 制限し不法移民や不当ビザ取得を取り締まることが最優先であるという考え方です。この点は、従来の 共和党の既成特権階層の政策とは一線を画しています。 「米国経済発展にはこれ以上移民は必要ない」という考えの表れ レーガン氏、ブッシュ氏(父)、ブッシュ氏(息子)の3 政権では、レーガン政権で始まった不法移 民へのアムネスティー(恩赦)を行い、さらにブッシュ(息子)元大統領は2 度目の大型恩赦を計画し ていました。その恩赦案は、共和党の反移民派議員によって米議会で阻止されたのですが、これまでの 共和党(いわゆる既成特権階層)の政策は、決して反移民ではありませんでした。自由貿易において、 移民をある種のコモディティーとして捉え、競争によって市場価値を決定する考え方です。企業にとっ て必要となる安い労働力を受け入れ、人口と税収を増やし、将来の国民年金の負担も担わせる政策です。 この政策においては、一般の米国民は移民との競争に勝たなければいけません。例えば、同じプログ ラマーでもインド人プログラマーとの競争です。しかし現実問題として、低賃金でも働く移民の競争力 には勝てないことが分かりました。事実、多くの米国人IT 人材が解雇され、代わりにインド人プログラ マーがトップ企業に雇用されている事態が明らかになってきたのです。これは企業に競争力をつけるこ とになった一方、米国人にとっては、自分たちの雇用を守ってくれるはずの政府が全く逆のことをして いるように思えたはずです。 また同時に、民主党も移民の取り扱いについては雇用を守る政策を打ち出したわけではありませんで した。多くの工場をメキシコに移転させる結果になった北米自由貿易協定(NAFTA)に署名したビル・ クリントン政権も、その問題に取り組まなかったオバマ前政権も、決して労働者の味方として多くの国 民の目には映らなかったはずです。それが、民主党が今回の大統領選挙で負けた原因の一つでもありま す。事実、過去にNAFTA を推挙したことはヒラリー・クリントン候補にとっても痛手であり、大統領 選の途中でNAFTA の見直しを選挙公約とするようになったのです。 その間、このような共和党の既成特権階層や民主党の移民政策を不服とする共和党員らがティーパー ティーのような別グループを作るわけですが、そのグループや共和党超右派の支持をまとめたのがトラ ンプ候補・現大統領といわれています。その流れで、今の米国第一主義や保護主義から始まった反移民 政策が誕生したと言っても過言ではありません。具体的には、特定の家族枠や抽選永住権枠を廃止し、 総体的に移民の数を半減させる計画や、最近では調査官を倍増させ、H-1B ビザや L-1 ビザを申請した企 業への抜き打ち調査の実施です。 また、メキシコとの国境に建設予定の壁の実物大サンプルを2,000 万ドルもかけて建造したものをメデ ィアに公開したのも、米国経済の発展にはこれ以上移民は必要ないという考えの表れといえます。

(13)

BTMU Global Business Insight

EMEA & Americas

13 切っても切れない移民取り締まりと経済政策 このようにトランプ政権の政策は、ひと昔前の孤立主義とは違い、雇用問題や移民問題は保護政策を 取りつつも、経済的には減税と規制緩和を利用してグローバルに発展していく路線です。この点は、ト ランプ政権が推奨しているメリットベースの永住権枠の法案にも合致します。メリットベースの永住権 枠とは、抽選ではなくポイント制度によって、優秀な人材を選んで積極的に受け入れるやり方です。 例えば抽選の場合、経済的に豊かではない国や家庭からの移民も、先進国や上流階級からの移民と同 じ確率で永住権を取得できたのですが、メリットベースでは主に学歴や職歴、収入などが重要視される ため、当然、貧困層にとっては不利になります。今までのようにステータスや出身国に関係なく、抽選 に通過すれば米国移民になれる「フェア」な制度ではなくなるのです。 しかし米国第一主義のトランプ政権にとって、特に全世界に向けてフェアに制度を打ち立てる必要は ないのです。より経済効果を高めながら、米国の雇用を促進させることが第一優先なのです。従って、 このように減税と規制緩和で米国経済をさらに発展させながら、米国人労働者をコモディティーとして 扱わず、仕事を与え給料を上げていくのがトランプ政権の政策とすれば、移民取り締まりと経済政策は、 おそらく切っても切れない関係になります。 この点については、国民の間でも一定の理解を得ている可能性が高いとみられます。事実、トランプ 政権下では株価を含めて米国経済は好調であり、しかも確実に失業率が低下しています。また先日、ホ ワイトハウスにてトランプ大統領が米国への登記上の本社移転を発表したシンガポールの半導体大手ブ ロードコムのようなグローバル企業も出てきましたし、生産拠点を米国に戻す企業も少しずつ名乗りを 上げてきました。全体的な数字としては実質的な経済効果を生み出すようなものではないのですが、米 国経済に対する国民の印象は“楽観的”という調査結果が発表されているほどです。 従って、この状況が続けば、トランプ政権の経済・雇用・移民政策は、より国民の間で理解を得られ ることになるはずです。 不法移民問題の象徴でもあるDACA 対象者の問題 移民問題がこれだけで済めば比較的簡単に解決するかもしれませんが、トランプ政権はもう一つ大き な問題を抱えています。それは1,100 万人もいるといわれている不法移民です。彼らを強制送還すること は現実的に不可能です。同時に合法化することはトランプ政権のサポーターを裏切ることになります。 なぜなら、トランプ大統領の選挙公約の一つが、不法移民問題を解決することだからです。

この問題を象徴するのが、DACA(Deferred Action for Childhood Arrivals)の現状です。DACA とは、 幼少期に親と一緒に国境を越えて不法入国した移民に対して、一時的に与えられていた強制送還の一時 停止と就労許可制度のことです。移民法改正を通せなかった米議会に業を煮やしたオバマ前政権が、大 統領権限でこの制度を導入しましたが、これを違憲とするトランプ政権はDACA で認められた権利を更 新しないと発表しました。ちなみに、この違憲であるというトランプ政権の見解は、憲法学者の間でも 一定の同意を得ています。その理由は、憲法上、移民の権利は米議会が制定すると定められているから

(14)

BTMU Global Business Insight

EMEA & Americas

14 ですが、事実、DACA に付随する一部の権利については、違憲であるという判断を連邦裁判所が下して います。 このトランプ政権の方針により影響を受けるDACA 対象者は、80 万人もいると推定されています。企 業も一度雇用したDACA 移民を就労許可の喪失と同時に解雇せざるを得ないため、数多くの移民、しか も子どものときに何も知らずに親によって米国に連れてこられた「無実」の外国人が路頭に迷うことに なります。DACA 対象者には英語しか話せず、自分は米国人だと思っていた人も少なくないと聞きます。 DACA の問題は、国民の間でも意見は分かれるものの、やはり助けてあげたいと考える人が多数を占め ています。またトランプ大統領も大統領選挙当選直後のテレビインタビューで、DACA 対象者は心配し なくてもよいという趣旨の内容を発言しており、実際にDACA の権利を抹消するかどうか、最終的な決 断を避けています。 しかし、ここにきて長年凍り付いていた移民問題が動き始めています。トランプ政権の言い分は、そ もそも移民法改正を通過させない米議会が悪い、ということですが、これが正しいとすれば、事の責任 がホワイトハウスから米議会に移ります。民主党を支持してきたヒスパニック系の多くの団体は、民主 党にプレッシャーをかけていますが、民主党は今後、共和党に歩み寄り移民法改正を通さなければなら なくなりました。 これに対して多くの共和党政治家は、この時点で移民法改正をサポートするインセンティブはほとん どなく、逆に不法移民の合法化に賛成した場合、コアな共和党員が離れ、次の選挙で負けかねないと考 えるため、積極的な介入を避けています。その半面、現実問題として、不法移民の労働力が不可欠であ ることは、共和党議員も含めて多くの国民にとっては周知の事実です。農業、畜産、工場、建設、倉庫、 外食産業などの作業現場は多くの不法移民に支えられており、仮に全ての不法移民を国外退去させるこ とができたとしても、果たして米国人がその職に就くかどうかは疑問です。就いたとしても、相当イン フレになることは間違いないでしょう。消費者として米国人がそれを受け入れることはまずあり得ない とみられ、インフレは政治家の責任となります。従って、民主党だけでなく共和党も、米国経済が波に 乗っている間に、移民問題を解決したいと思っているはずです。 そのソリューションとして、不法移民にゲストワーカービザを発行する案があります。すぐには永住 権や市民権を得ることができない前提で、米国に住み続け就労を許可するものです。もちろん、そのた めにはある種の恩赦も必要ですが(不法入国に対する)、DACA の問題も含めて、移民問題解決の落と しどころとなる可能性はあります。 また多くの移民は元来、民主党支持者が多いため、移民に恩赦を与えて市民になられると困るという 共和党の真意も見え隠れします。もちろん、ゲストワーカービザを取得した移民の子孫らは、米国で生 まれて米国人になるため、将来的に民主党の利益につながるのでしょうが、それは次の世代の話であり、 今日の共和党政治家は、彼らの現職中には影響はないと踏んでも不思議ではありません(ただし、共和 党は2017 年 11 月 7 日のバージニアとニュージャージー州の知事選で大敗したため、政治的リスクの高 いDACA や不法移民問題の妥協案を受け入れる姿勢が迫られるかもしれません)。

(15)

BTMU Global Business Insight

EMEA & Americas

15 仮にこれが妥協案とすれば、トランプ政権としては、まずはメキシコ国境の壁を建設し、これ以上の 不法移民を増やさず、今の不法移民には一時的なゲストワーカービザで対応し、米国経済の成長と雇用 を守りながら、うまく移民問題を解決したいのではないでしょうか。もちろん、今後二度と不法移民に 恩赦を与えないことを国民に約束し、さらにその後、不法移民を雇用する企業には厳しい罰則を科すこ とになるでしょう。今すでに合法就労か否かを照合できる連邦のデータベースは存在しています。特定 の州では雇用主に対してそのデータベースを使用し、就労希望者が合法に就労できるかどうかを確認す ることが義務付けられています。このような具体的な政策を実施することが国民の理解を得ることにつ ながり、最終的な解決となる可能性も十分あるはずです。 島国に生きる日本人にはあまりぴんとこないことかもしれませんが、隣の国から無制限に人が流入し てくることは、当然ながら大きな脅威です。合法移民の数を増やすか減らすかは議論の余地があります が、国境を守ることは、早急に解決すべき危機管理対策である、という国民のコンセンサスはほぼ取れ ています(壁が必要かどうかは別として)。その中で、パーフェクトな解決方法はないものの、DACA 対象者も含め不安定な生活を強いられている不法移民らも、仮に今すぐに永住者になれなくとも、合法 に就労や渡航ができればそれで良しとすべきという見解もあります。 また国民も自分たちが雇用に困らない状態であれば、移民(合法ですが)を快く受け入れることがで きるのではないでしょうか。その意味でも、トランプ政権にとって米国経済の成長を保ちながら移民問 題を解決することができれば、レーガン元大統領から始まり過去の政権がなし得なかったことを実現で きるチャンスかもしれません。 記事提供:冨田法律事務所 米国カリフォルニア州弁護士 冨田 有吾 (2017 年 11 月 20 日作成)

(16)

BTMU Global Business Insight

EMEA & Americas

16

Ⅳ.トルコにおける

M&A について

1.はじめに トルコ進出を志向する日系企業の選択肢には、大きく分けて、独資で現地拠点を設置する方法と、既 存の現地法人を買収する方法の二つが存在します。 このうち、独資で現地拠点を設置する方法を採用すれば、日系企業が現地拠点に係る意思決定を自由 に行うことができ、現地での事業活動などによって得た利益を独占することも可能になりますが、現地 顧客基盤や物流ルートが未整備であったりする場合には、現地法人の合併・買収(M&A)を通じたノウ ハウの吸収がより現実的な選択肢になります。 トルコにおけるM&A のストラクチャーとしては、主として(1)株式(持分)譲渡、(2)資産譲渡・ 事業譲渡、(3)会社分割、(4)合併の四つの手法が存在します。 トルコにおいては、2011 年から 2012 年にかけて、新トルコ共和国商法(法 6102 号)、新債務法(法 6098 号)、新資本市場法(法 6362 号)に代表される M&A 法制の刷新が行われました。 本稿では、トルコにおけるM&A のストラクチャーのうち、最も典型的な(1)株式(持分)譲渡およ び(2)資産譲渡・事業譲渡について概説した後、2016 年のアップデートである投資環境の改善を図る法 律第6728 号について紹介します。 2.トルコにおける M&A ストラクチャー (1) 株式・持分譲渡 1) 概要 株式・持分譲渡は、対象会社の株式・持分を取得する最も簡便な手続きである一方、日本国内におけ るそれと同様に、対象会社の法的リスク・税務リスクなどを取り込むことになる点でデメリットが存在 します。 2) 対象会社の法人形態による手続きの差異 トルコにおける代表的な設立形態には株式会社と有限責任会社がありますが、対象会社がいずれの形 態であるかによって、株式・持分譲渡の方法も異なってきます。 まず、株式会社における株式譲渡手続きは、当該株式会社の発行株式が無記名株式か記名株式かによ って、さらに細かく区別されます。例えば、無記名株式の譲渡は株券の交付のみで行うことができます が、記名株式の譲渡は株券の交付および裏書によって行われるのが一般的です。また、記名株式の譲渡 については、定款に譲渡制限規定を設けて制限することができます。なお、株式会社における株式譲渡 は、株主名簿に記載される必要があります。 これに対して、有限責任会社では、出資者の持分が化体した証券を発行することは認められていませ ん。従って、持分を譲渡する場合には持分譲渡契約を書面で締結し、かつ、署名の公証手続きを経る必

(17)

BTMU Global Business Insight

EMEA & Americas

17 要があります。また、定款に別段の定めがある場合を除き、出資者総会の譲渡承認を得なければなりま せん。なお、有限責任会社における持分譲渡は、商業登記簿に登記される必要があります。 3) 外国人投資家特有の手続き トルコは資本自由化が進んでいるため、外資規制をクリアするために別段のスキームを構築する必要 性は比較的小さいといえますが、外国人投資家がトルコ企業の株式を取得する場合には、当該取得日か ら30 日以内に外国投資総局に事後報告を行う必要があることには、留意すべきです。 4) トルコ競争保護法に基づく手続き トルコにおいても、日本の独占禁止法と同様の観点から、トルコ競争保護法(法4054 号)に基づく規 律が存在しており、買収や合併などにより、市場における競争を阻害し、その結果、市場支配的地位を 確保しまたは強化することが禁じられています。そして、買収などを行う事業者が一定の市場シェアや 売上高の基準を満たす場合は、トルコ競争委員会に事前に届け出た上で、承認を得なければなりません (無届けの企業結合は無効とされます)。 すなわち、(1)当事会社のトルコ国内の売上高の合計が 1 億トルコリラ超で、二つ以上の当事会社の トルコ国内の売上高の合計が3,000 万トルコリラ超である場合、(2)当事会社の全世界での売上高を基 準として、当事会社のうち一つの全世界売上高が5 億トルコリラ超で、他の当事会社のうち一つのトル コ国内売上高が500 万トルコリラ超である場合は、前記の事前届け出を行う必要があります。 また、2013 年のトルコ競争委員会による企業結合の要件の改正により、従来存在していた届け出が免 除される例外事由が廃止され、上記の届け出要件を満たす場合には、常に届け出が必要である点に注意 が必要です。 (2) 資産譲渡・事業譲渡 資産譲渡の方法を用いる場合には、不動産・知的財産・契約などの個別の譲渡対象資産の性質に適合 した法律および手続きに従って個々の資産を譲渡する必要があります。このため、M&A を通じて引き受 けることになる法的・税務上のリスクを限定できるメリットがある一方、株式・持分譲渡と比べて取引 コストや事務処理の負担が増大する可能性があります。 これに対して、事業譲渡の方法を用いる場合には、日本における事業譲渡と異なり、事業に関する資 産・負債を一括して移転させる包括承継手続きであり、引き受けリスクを限定することが原則としてで きないことに留意しておく必要があります。また、譲渡人および譲受人は、新債務法(法6098 号)に基 づいて、譲渡日から2 年間は、譲渡対象事業に関する負債について連帯責任を負うことになるため、注 意が必要です。 (3) その他の M&A ストラクチャー 上記で述べた他にも、理論的には、日本の会社法における合併(新設合併・吸収合併)や会社分割(新 設分割・吸収分割)に相当する手続きなどを活用したM&A ストラクチャーも想定され得るところです。 もっとも、その場合には、日系企業が当該合併手続きにおいて消滅会社となるべき現地法人を有してい

(18)

BTMU Global Business Insight

EMEA & Americas

18 ることなどが念頭に置かれているため、M&A を通じて新たにトルコでビジネスを開始する場合には用い られることが少ないストラクチャーであるといえます。 3.投資環境の改善を図る法律(法 6728 号)について 2016 年 8 月 9 日、投資家の取引コスト削減を目的として、投資環境の改善を図る法律(法 6728 号)が 施行されました。 従前、トルコでは印紙税による取引コストが問題視されていました。すなわち、トルコ印紙税法は、 (1)課税対象文書を契約当事者の署名が付された文書(電子署名が付された電磁的記録を含む)である 旨を規定して広く捕捉し、(2)複数の契約書原本が作成された場合は、原本ごとに印紙税を課す仕組み を設け、(3)税率自体も比較的高率で(取引価格に対して 0.948%)、(4)課税対象文書に署名した契 約当事者は連帯納付義務を負うとされるなど、企業収益に小さくない影響を与えていました。 しかし、投資環境の改善を図る法律の施行によって、(1)株式(持分)譲渡に係る契約について課税 が免除されることとなった他、(2)契約書原本を複数作成した場合でも 1 通のみに課税されることにな り、M&A 取引における印紙税の負担が軽減されることになりました。 このような今般の改正は、トルコにおける投資上の問題点を改善するものであり、日系企業による対 トルコ投資の一助になると考えられます。 記事提供:弁護士法人マーキュリー・ジェネラル 弁護士 酒井 勝則 弁護士 根來 伸旭 (2017 年 11 月 1 日作成)

(19)

BTMU Global Business Insight

EMEA & Americas

19

~本レポートに関するアンケートも実施中~

(回答時間:10 秒。回答期限:2017 年 12 月 28 日)

https://s.bk.mufg.jp/cgi-bin/5/5.pl?uri=uBk9eN

(編集・発行) 三菱東京 UFJ 銀行 国際業務部 (照会先)松山 昭浩 福住 知子 (e-mail): akihiro_matsuyama@mufg.jp ・本資料は情報提供を唯一の目的としたものであり、金融商品の売買や投資などの勧誘を目的としたものではありません。 本資料の中に銀行取引や同取引に関連する記載がある場合、弊行がそれらの取引を応諾したこと、またそれらの取引の実 行を推奨することを意味するものではなく、それらの取引の妥当性や、適法性等について保証するものでもありません。 ・本資料の記述は弊行内で作成したものを含め弊行の統一された考えを表明したものではありません。 ・本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、その正確性、信頼性、完全性を保証するものではあ りません。最終判断はご自身で行っていただきますようお願いいたします。本資料に基づく投資決定、経営上の判断、そ の他全ての行為によって如何なる損害を受けた場合にも、弊行ならびに原資料提供者は一切の責任を負いません。実際の 適用につきましては、別途、公認会計士、税理士、弁護士にご確認いただきますようお願いいたします。 ・本資料の知的財産権は全て原資料提供者または株式会社三菱東京UFJ 銀行に帰属します。本資料の本文の一部または全部 について、第三者への開示および、複製、販売、その他如何なる方法においても、第三者への提供を禁じます。 ・本資料の内容は予告なく変更される場合があります。

参照

関連したドキュメント

登録車 軽自動車 電気自動車等(※) 非課税 非課税. 2030年度燃費基準85%達成

70年代の初頭,日系三世を中心にリドレス運動が始まる。リドレス運動とは,第二次世界大戦

ミッション性能を実現。さらに米国 EPA(環境庁)Int.Tier 4 排ガス規制、欧州 EU Stage IIIA

平均車齢(軽自動車を除く)とは、令和3年3月末現在において、わが国でナン バープレートを付けている自動車が初度登録 (注1)

1.2020年・12月期決算概要 2.食パン部門の製品施策・営業戦略

世世 界界 のの 動動 きき 22 各各 国国 のの.

子ども・かがやき戦略 元気・いきいき戦略 花*みどり・やすらぎ戦略

国際仲裁に類似する制度を取り入れている点に特徴があるといえる(例えば、 SICC