1.視察スケジュール
・10/24 09:30~11:00 デンマーク市内
Фresundsbro Konsortiet にて Henrik Kφster 氏 から概要のレクチャー、質疑
・10/24 11:00~13:00 オアスン橋視察 人工島、対岸展望台を車にて視察(同氏案内)
2.目的
デンマークのコペンハーゲンとスウェーデンとを結ぶ 全長約 16km のオアスン橋(Фresund Fixed Link) の建設に伴う環境影響評価と環境保全対策、生態系への 影響評価内容について調査する。 3.事業の概要 ・事業主体 オアスンコンソーティエット(株) スウェーデン、デンマークの各 50%出資の民営会社 ・開通 2000 年7月(建設期間 5 ヵ年) ・総工費 220 億 DKK(約 4000 億円) ・橋の概要 デンマーク側から海底トンネル 3.51km、 陸上(人工島)4.055km、橋梁 7.845km、高さ 1092m Fig.1 スウェーデン側の展望台からのオアスン橋 Fig.2 オアスン橋上の道路 (デンマーク側は、コペンハーゲン空港の空域制限があ り、航路は年間 40000 隻を越える大型船の航行のため トンネルに) 4.工事概要 ・沈埋トンネル 1函:長 176m×幅 39m×高さ 9m の 20 函、2鉄道と2道路(各2車線)は個々に独立し て安全性を確保 ・人工島 130ha、トンネルと橋梁の接合のために設 置、周囲は捨石護岸、内部は浚渫土(沈埋函設置のため の浚渫、橋梁基礎のための浚渫) ・橋梁 上部は道路、下部は鉄道 5.効果 ・コペンハーゲンとスウェーデン第3の都市マルメが道 路・鉄道で結ばれることにより、オアスン地域と呼ばれる 新たな都市圏・市場が誕生(320 万人) ・両国の労働市場、生活および教育の一体化が促進し、 経済・文化的に統合されたエリアを形成 ・ストックホルムをしのぎベルリン、ハンブルグに匹敵 ・EU の連携強化にも貢献 ・メディコンバレーの形成 26 の大学病院、11 の大学、 多数の医薬品企業の共同プロジェクトが盛んに実施 6.環境影響評価 以下の概要は、レクチャーと主に入手資料2)の概要 を取りまとめたものである。 (1)バルト海及び建設予定海域の現状 ・バルト海は平均水深が 54m あるが、水深の変化が大 Fig.3 オアスン海峡近傍での塩分の挙動
きく、特にオアスン海峡(デンマークとスェーデンの狭 隘部)は水深が浅いところで 8~10m とかなり浅い (Drogden Sill)。北海の高塩分水の流入は、この水域 でその浸入が大きく阻害されており、このエリアより内 側のバルト海では汽水性が強く、上層・中層まで 8~15 パーミル以下である(Fig.3)。 ・オアスン海峡から東部に位置する Gotland Deep で は、水深が 250m にも達するが、この海域では 1950 年以降、年による変動はあるものの塩分の低下と溶存酸 素の低下および硫化水素の増加が進行している。 ・したがって、オアスン橋(Фresund Fixed Link)の 建設に伴う埋立・人工島・橋脚の構造物設置によって、 オアスン海峡を通過する海水通過流量のどのような変 化も引き起こしてはならないとされた。 (2)水理モデルによる通過流量確保のための詳細な検討 ・水理モデルによる検討は、デンマークとスウェーデン でそれぞれ行われ、デンマークでは、Danish Hydraulic Institute(DHI) 、 ス ウ ェ ー デ ン で は Swedish Meteorological and Hydrological Institute(SMHI)に より計算された。DHI のモデルは、正方格子のモデルで あり、工事区域を 100m、その周りを 300m、さらに その周りを 900m で設定した(Fig.4)。また、スウェ ーデンのモデルは地形形状にそって格子の大きさが自由 に設定できる曲線座標系モデルであり、どちらも 3 次元 モデルであり、鉛直方向には1m毎に層分割した。用い られたデータは同じものである。 ・モデルの検証は、いくつかのモニタリングポイントで 実施され、これらのポイントでは、DO 濃度、塩分濃度、 潮位、潮流、波浪データが収集されている。モデルのキ ャリブレーションと検証(verification)は、流動条件が一 致する異なった期間で実施した。モデルの対象とした期 間は、バルト海とその外側のエリア(Kattegat)の間での 高塩分、高 DO の海水が交換するいくつかの典型的な流 動パターンを含む数ヶ月とした。 ・モデルでは、オアスン橋の有り・無しで計算を行って オアスン橋建設による通過流量減少分を評価し、この減 少分を低減するように計算が繰り返し行われた。最終的 には、0.5%未満の減少となる現在の設計に決定された。 この流量の変化は、自然の塩分や DO の変動に比較して かなり小さいものであるが、さらに専門家からは変化が ゼ ロ に な る よ う に 要 求 が 出 さ れ た こ と か ら ( the zero-solution)、その代償のために、オアスン海域の海 底の浚渫が行われることとなった。このエリアと規模に ついてもモデルで検討が行われた。この浚渫量は 180 万 m3 にのぼる(Fig.5)。 Fig.4 正方格子での計算領域分割図 (3)環境への要求 ・人工的な埋立、人工島、橋脚の建設されたエリアでの 永続的な損失は許容される。工事区域から 500m 以内 の内側のインパクト・ゾーンでは、サルトホルム島の周 辺に対して特別な配慮がなされなくてはならないが、よ
り広い範囲に及ぶ影響は許容される(この島は全域が EU のバード・サンクチャリ-に指定されている)。また、 工事区域から 7km に及ぶ外側のインパクト・ゾーンで は、一時的な変化は許容されるが、その外側のエリアで の変化は許容されない(Fig6)。 Fig.5 施工内容別エリア Fig.6 インパクト・ゾーンの設定 (4)基礎調査研究と複雑な生態系モデルの構築 ・環境調査研究の結果、浚渫工事による堆積物の拡散が 海域環境に大きなインパクトがあり、とりわけ底生植物 とムール貝は、海水中の濁りと海底への堆積に敏感であ ることが明らかになった。また、サルトホルム島とスウ ェーデン沿岸での鳥の生息、アオスン海峡を通じてのニ シンの回遊とその沿岸域での影響についての調査が行わ れた。 ・収集したデータに基づいて、浚渫工事計画立案のため に、流動条件、堆積物の拡散、生態学的条件を合わせ持 つ複雑なモデルが構築された。ベースは、DHI の 2 次元 モデルの MIKE21 であり、DHI と VKI によって開発さ れた。水理モデルでは、流動・水位・波浪を計算し、ま た試験浚渫を行って濁りの広がりと堆積傾向を再現した モデルを構築した。拡散モデルは、浚渫工事による濁り と堆積の時間的・空間的広がりに対する専門家の要求を 満足するために用いられた。物理過程に生態学的過程を 加え、海域環境での物理・化学的変化と植物プランクト ン、海草、海藻、ムラサキイガイへの影響とを結合させ た複雑なモデルを構築した。 Fig.7 複雑な 2 次元生態系モデルの構成 ・この生態系モデルの目的は、1つは浚渫の影響予測で あり、特に濁りによる光の遮蔽が海草への主要なインパ クトとなる。モデルは、健全な条件での状況を再現した ものを用いた。 ・モデルによる計算で、オアスン橋の建設によって発生
する堆積懸濁物の約 80%は、サルトホルム島の北側と その南側の湾に堆積する。工事期間中に、このエリアで の堆積量は、0.5~2mm に及ぶ。残りの約 20%は、オ アスン海峡の外側の南北の海域へ輸送される。 Fig.8 拡散モデルによる5ヵ年間の工事で発生する 浮遊懸濁物の堆積厚の計算結果 (5)底生植生への影響 ・海草は、オアスン橋の周辺に広大に分布している (Fig.9)。海草群落の藻場は、いくつかの魚種にとって、 産卵と幼稚魚の生育場として重要である。浅いエリアで は、海草と同じような tassel pondweed が植物を食べ る鳥、特にハクチョウにとって重要な餌である。海底で の海草は、砂の輸送の低減と沿岸侵食に対する防御の役 割を果たす。 ・内側のインパクトゾーンでは、底生植物が埋立などで 消失するか、浚渫で取り去られることが許容される。外 側のインパクトゾーンでは、底生植物の種組成や分布、 生物量の一時的な変化は浚渫工事が完了するせいぜい 2年から5年まで許容される。その変化は、3つの重要 な植生である海草など(他に tassel pondweed、sweet tangle)の分布と生物量について、25%以下の減少と 推測された。埋立と人工島建設、浚渫で直接消失するの は 3.3km2であり、これはオアスン海峡の海草の 2.4% にあたる。 ・浮遊懸濁物による光の遮蔽により、サルトホルム島の 西側・南側沿岸、デンマーク側の沿岸で海草の生長と生物 量が一時的に減少すると評価された。外側のインパクト ゾーンでも、海草の制限水深が一時的に浅くなるかもし れない。 Fig.9 海草の分布(被度)
(6)ムラサキイガイ(Common mussels)への影響 ・オアスン橋に沿ったエリアでの底生動物は、ムラサキ イガイの貝床(beds)が優占しており、これらは、水中 の懸濁有機物をろ過して餌を摂取するので、水質に対し てかなり重要となる。また、イガイ床は、サルトホルム 島でのカモやオアスンエリアで越冬するアヒルなどの 餌場としても重要である。 ・内側のインパクトゾーンでは、ムラサキイガイの生物 量と分布の減少は許容される。外側のインパクトゾーン では、工事完了後せいぜい 2 年間は、その量と分布の最 大 25%までの減少は許容される。 ・人工島と埋立によって消失するエリアは、ムラサキイ ガイの密度が低いエリアであるが、橋脚はムラサキイガ イの密度が高いエリアである。永久に失われるムラサキ イガイの量は、1600ton であるが、これはアオスン海 域全体の生物量の 1.6%にあたる。 ・水路の浚渫、通過流量の補償のための浚渫、人工島へ のトンネルとアクセス水路のための浚渫は、約 3.7km2 のイガイ床を含むエリアの海底を除去することになる。 しかし、このエリアの強い潮流と海底状況のために、工 事の完了とともに2年以内に再形成されるであろう。 Fig.10 ムラサキイガイの分布 ・密度の高いイガイ床は、流れの強いエリアに位置する ので、浚渫による堆積は重要ではないと思われるが、海 底への懸濁物の堆積と水中での懸濁物濃度の増加は、ム ラサキイガイのろ過活性と餌の摂取の低下を引き起こ すかもしれない。その限界を超える濃度は、サルトホル ム島の南側で生じるであろう。しかし、その期間は短い ことから、イガイ床への影響は考えられない。 ・懸濁物の堆積は、イガイ床を薄く覆う可能性がある。 それが長期間に及ぶ場合にはムラサキイガイは耐えられ ないであろう。ムラサキイガイの幼生は着床する際の基 質を選択するので、一時的な堆積エリアでも再移入でき ない可能性もあり、ムラサキイガイの幼生が人工島の南 側と西側の海床へ移入する際には、その能力に一時的な 影響が生じるであろう。一時的な堆積は、その期間の1 ~2%で限界値を超える可能性が計算され、従って、ム ール貝の個体群サイスへの影響は小さいといえる。
(7)魚類(ニシン)への影響 ・オアスン海峡は、このエリアのニシンにとって最も重 要な回遊ルートである。春季には産卵場からオアスン海 峡を通過して北上するか、バルト海の北東部へ移動して そこで餌を食べて成長し、夏季から冬季にかけてオアス ン海峡、そして産卵場へと戻ってくる。水中での高い懸 濁物濃度はこのような回遊を阻害する可能性がある。 ・内側のインパクトゾーンでは、産卵場や保育場として の機能への永続した影響は許容される。外側のインパク トゾーンでは、浚渫工事完了後、最長で 2 年間はこれら の機能への一時的な影響は許容される。 ・建設工事は、大規模な浚渫工事が Drogden(海峡の 浅場)とサルトホルム東側の水路で同時に行われないよ うに計画された。従って、オアスン海峡を通してのニシ ンの回遊への影響は小さいと考えられた。Drogden の 一部では、短期間に水中の懸濁物濃度が 10mg/L を超 えるかもしれない。 ・デンマークの2つの橋の近傍での調査では、ニシンの 群れは騒音には影響されないと示された。しかし、照明 は、魚を引きつけたり、阻害したりする要素がある。オ アスン橋は比較的浅い海域を長い距離で通過しているの で、橋の上の照明は水面に直接光が当たらないようにデ ザインされた。 (8)鳥への影響 ・数多くの鳥が生息するために、サルトホルム島とその 周囲の浅い水域は、EU のバードサンクチャリーに指定 されている。繁殖する水鳥の個体数は、15000 ペアー にも達する。その島は、6000~7000 のケワタガモの 繁殖ペアーを有するヨーロッパでも最大のコロニーの 1つである。渡りのシーズンには、島と周辺水域で休息 する鳥の数は 30000 羽に達する。 ・サルトホルム島のケワタガモの個体数の減少は 15% まで、繁殖個体数では 10%までの減少が許容される。 鳥への影響は、浚渫工事完了後5年を越えてはならない し、ケワタガモの繁殖ペアーの数は、ベースラインとな る期間の個体数の少なくとも 90%以上でなければなら ない。サルトホルム島でのその他の水鳥の繁殖ペアーは、 大きく減少してはいけない。 ・サルトホルム島での採餌と休息のための渡りの個体数 の一時的な減少は許容される。しかし、採餌と休息のた めに移動する個体数は、完成後2年以内に回復すると期 待される。Greylag geese と mute swans の場合には、 羽が生え変わる個体の永久的な減少は許容される。 ・サルトホルム島で繁殖・休息する鳥は、まずはじめに水 深2mまでの浅海域で餌をとる。人工島はより深い水域 に建設されるので、サルトホルム島の鳥への影響はかな り限られると期待される。人工島は、サルトホルム島の 南側の環境をより保護することとなり、この水域での水 鳥の個体数は増えるかもしれない。 Fig.11 近傍のニシンの回遊ルート
・建設期間中、餌の減少とそのほかの攪乱、あるカワタ ガモが繁殖しなくなるというリスクによって、ケワタタ ガモの数は一時的に 12~23%減少するかもしれない。 繁殖個体数は、建設完了後、速やかにもとのレベルへ回 復すると思われるが、すべてのケワタガモの個体数の回 復は、ケワタガモの長い寿命と低い再生産速度のために、 比較的ゆっくりと起こると考えられる。その他の繁殖を 行う鳥への影響は、ケワタガモへの影響よりも小さいと 考えられる。 ・建設期間中、サルトホルム周辺で休息する鳥は騒音と 交通によって攪乱されるというリスクがある。これは、 特に mute swans と geese が彼らの飛行上の地形を失 ったり、飛行できないという期間のケースである。しか しながら、基礎研究ではこれらの影響はほとんどないこ とが示された。大気と船舶からの騒音にもかかわらず、 羽毛の生え変わる greylag geese の個体数は事実とし てここ数年は増加している。 ・鳥へのリスクをさらに軽減するために、建設工事の計 画は、とりわけ、鳥がかく乱に対して最も敏感な期間に ついて考慮されるであろう。しかしながら、建設工事に よってひき起こされる攪乱が、greylag geese の数の減 少につながるということが排除されないかもしれない。 永続する影響は確かに存在するけれども、その減少は一 時的であると期待される。 (9)水質への影響 ・海底の浚渫期間中、栄養塩の溶出が植物プランクトン や海藻の現存量を増加させるかもしれない。オアスン橋 は局所的な流動の小さな変化を引き起こすかもしれない。 現在の排水口からの排水の広がりが、海水浴の健康基準 が低下するというような変化を起こすかもしれない。 ・浚渫工事に関連した栄養塩の溶出は、そのエリア内の 重要なビオトープや海水浴場における栄養塩負荷の現状 レベルの影響に比較してどんな変化も引きおこすことは ないということが受け入れられるであろう。オアスン橋 は、現存する排水口からの排水の広がりのエリアを拡大 させてはならない。 ・窒素と燐の栄養塩の溶出は、試験浚渫と関連して調査 された(Fig.*)。試験浚渫の結果、4年間の工事期間の 間に、窒素 31 トン、燐 3.5 トンが溶出すると計算され た。オアスン地区への栄養塩負荷は、2000 年 1 年間で 窒素 8940 トン、燐 460 トンと推測されことから、工 事による負荷の割合は1%以下となる。浚渫工事は、主 に 20 世紀内の窒素と燐の排出によって影響されていな い表層下の底土において実施されたことから、浚渫した 泥内に含まれる含有量が非常に低い。ゆえに、栄養塩の 溶出は、オレスン海域での植物プランクトンや海藻の増 加について計測できるような変化は引き起こさないであ ろう。 ・オアスン橋の周辺エリアは、マルモやコペンハーゲン における、コペンハーゲンでの Lynetten や Malmo Sjolunda のような大きないくつかの排水処理施設から の排出がもたらされている。Lynetten からの排出の近 傍では、5%までの排出水の濃度の増加がおこるかもし れないが、一方で、Drogden では異なる流動条件によ る排出水の再配分の結果として、濃度における対照的な 低下が期待される。 Fig。12 負荷量の比較 Fig.13 工事中の人工島
7.最終レポートの成果-環境影響の基準の達成の評価 今後、入手資料3)の結果をもとに、下記の事項につ いて芹を行う予定である。 (*)水質 (*)底生植生 (*)ムール貝 (*)魚類 (*)鳥
Fig. Фresundsbro Konsortiet の前面
Fig. 視察メンバー構成
(左から鵜飼、谷口、米澤、ヘンリックさん、大島)
<入手資料>
1)Фresundskonsortiet(1997):The Environment and the Fixed Link across Фresund , 1-56 2) Ф resundskonsortiet(1998) : The Ф resund Fixed Link , Design and Construction , 1-40 3)Danish Ministry of Transport , Swedish Control and Steering Group for the Фresund Fixed Link (2001):Final Report on the Environmental and Ф resund Fixed Link’s Coast to Coast Installation 11th Semi-Annual Report(2001): , 1-22
<参考資料>
社団法人日本海洋開発建設協会 海洋工事技術委員会 (2001): 世界の海洋土木技術、山海堂