特別支援学校における音楽づくりの実践的研究
―スリットドラムを使った実践を中心に―
岡 ひろみ
*・林 睦
**A Case Study on Creative Music Making
at Special-needs School
Refer to the Case Using Slit Drums
Hiromi OKA・Mutsumi HAYASHI
キーワード:特別支援学校、音楽づくり、スリットドラム、奏法の種類、発達段階 1.はじめに 音楽づくりとは、「音遊びや即興的な表現活 動」や「音を音楽へと構成する活動」であり、 「創造性を発揮しながら自分にとって価値のあ る音や音楽をつくる1) 」活動である。通常学校で は平成元年に学習指導要領に明記された。特別 支援学校学習指導要領では、約 30 年後の平成 29 年の改訂2) によって、A 表現の中に、音楽遊び、 歌唱、器楽、身体表現と並んで音楽づくりが明 記された。言葉で自分を表現することが苦手な 児童生徒が多い特別支援学校においては、自分 で音を探し、自由に音を組み合わせていくこと で自己表現する音楽づくりの活動の意義は大き いと考える。しかしながら、平成 23 年度のアン ケート調査結果3) では、音楽づくりを実施して いる学校は、リズム遊びや音選びだけの実践を 含めても約半数にとどまり、今日でも、報告さ れる実践研究の数は少ない状態が続いている。 岡は 2011 年から現職院生として修士論文で 特別支援学校における音楽づくりを扱い、その 後、勤務校での実践・研究を継続してきている。 主な研究として、発達的な特徴と関連させた音 * 滋賀県立野洲養護学校 ** 滋賀大学教育学部 楽づくりの可能性と意義について(2014・2016a 岡)、発達的な特徴に適した楽器について(2015 岡)、言葉を獲得してない段階の生徒が音でやり とりする楽しさについて(2018 岡)、打楽器奏 者とのコラボによる表現の幅の広がり(2016b 可児・岡・林)等が挙げられる。林とは大学院 時代に出会い、ここ 6 年にわたり、音楽家をゲ ストに招いて教師とコラボした音楽づくりの実 践・研究プロジェクトをいくつか行ってきた。使 用した楽器は机、スリットドラム、鈴(りん)、 トガトンなどの打楽器や管楽器である。これら の研究から、言葉に依拠しない表現手段である 音を使って自分を表現する心地よさや相手に認 めてもらえる喜びや、相手の表現を受け止めて 思いを共有する楽しさを感じることで、音楽の 表現幅や人との関係性が豊かになることを明ら かにしてきた。また、音楽づくりは、自分の出 す音に失敗がなく、表現した音が全て認められ る活動であるため、自信を持って自己表現活動 ができる。こうした経験を積むことによって、 友だちの音に気持ちを向けて、自分の音と響き 合わせる活動を楽しめるようになる。さらに器 楽や歌唱領域において既成曲を演奏する場合に も、自分の音に意識を向けて選んだり工夫した りするようになり、音色や響きが良くなり、表 現幅も拡がるようになる。
本研究では、特別支援学校における音楽づ くり研究の 1 つとして、これまで使用してこな かった楽器であるスリットドラムを使って、集 団のダイナミクスに焦点を当てたグループでの 音楽づくりを研究対象として論じてみたい。 2.研究の目的 本研究の目的は、特別支援学校におけるグ ループでの音楽づくりの意義と可能性について 考察することである。 使用する楽器はスリットドラムである。ス リットドラムは木箱の表面に切れ目(スリット) の入った打楽器である。その特徴は、生徒 1 人で 簡単に持ち運びができる大きさと重さであり、 音量は膜面楽器の太鼓類に比べると小さい。木 箱自体の大きさやスリット打面の違いによって 音の高さや音色が異なる。手で直接打つことも マレットを使って打つこともできる。床に置い た状態で安定して演奏できるため、打つ手の形 や打つ場所を容易に変化させることができる。 また、生徒達が様々な音を出すことや音を組み 合わせることが比較的容易にでき、かつ違う音 が同時に鳴っても不快な音の響きにならない。 以上のような特徴がある楽器であるため、複数 の生徒が自由に自分の音を鳴らす活動であるグ ループでの音楽づくりに適していると考えた。 対象生徒は書き言葉を獲得し、友だちの思い を受け止めることができる発達段階である。こ のため、音をイメージで捉えることや紙に記し た音を再現することや、友だちの思いと自分の 思いが違ったときも折り合いを付けることが課 題になる生徒達である。こうした生徒の発達的 な特徴を踏まえて、グループで 1 つの音楽をつ くり、図形楽譜を作成していく活動を考えた。 3.研究の方法 3.1 研究対象生徒 研究対象生徒は特別支援学校中学部 A 組 7 名 の内、認識的に高いグループの 4 名である。4 名 とも 3 年生であり、1 年生からコンガ・ボンゴ 等の太鼓類やマリンバ、トガトン、カホン、ド レミパイプ等の楽器、あるいは机、ボウル(調 理用器具)、ラップの芯等の本来の用途は楽器で ないものも使用して毎年音楽づくりを経験して きた。認識的には、どの生徒も 5 ∼ 6 歳程度の 発達段階であり、話し言葉でのやりとりは自由 にでき、書き言葉も獲得しているため、自分の 思いを伝えることや相手の思いを受け止めるこ と、記号や文字で演奏方法やイメージを共有で きる。障害名は、A:ダウン症・知的障害、B: 難聴・知的障害、C:高機能自閉症・知的障害、 D:知的障害である。 3.2 研究対象授業の概略 研究対象授業は、スリットドラムを 1 人 1 台 使用して、自由な奏法で音を鳴らして、音色や 強弱・回数・グループでの演奏順や音の重ね方 等の音表現を工夫して 1 つの音楽をつくり、図 形や文字で記した楽譜4) (写真 1)を作成する活 動である。実施日は、2019 年 9 月 30 日∼ 12 月 9 日に実施した全 6 回単元のうちの前半 3 回で ある(9 月 30 日、10 月 30 日、11 月 5 日)。第 1 回目と第 2 回目は、個々の生徒が出す音と友だ ちの音を合わせながら 1 つの音楽をつくり、図 形楽譜に記していく活動を行う。第 3 回目は作 成した図形楽譜を使って、打楽器奏者とのコラ ボ演奏を行い、自分たちの音楽を完成させた。 (表 1)に授業の概略をまとめてある。なお研究 対象ではないが、本単元の後半である第 4 回目 には作成した音楽を基に音楽経験を拡げる授業 として、色々なリズム打ちや音楽の仕組みにつ 写真 1 図形楽譜(見本)
いて学習し、第 5 回目には音楽専攻の大学生と のコラボを行い、第 6 回目には、第 5 回目のコラ ボ演奏ビデオを使った振り返りを行っている。 3.3 研究の方法 授業記録ビデオを基に、生徒が考え出した 全ての奏法に便宜的に名前を付けて、個々の生 徒の動きや音を整理していく。そしてオリジナ ル奏法や友だちの真似など具体的な生徒の奏法 や、活動が盛り上がる場面を具体的に考察する ことで、スリットドラムを音楽づくりで使用す る時の特徴や、生徒同士の関係性を明らかにし ていく。こうして生徒の発達的特徴と関係させ ながら、グループで音楽を作っていく意義や可 能性について考えていく。 4.授業の実際 授業の様子を端的に記すために、生徒達が 考えた様々な奏法に便宜的に名前を付けた(表 2)。奏法の名前は、マレットの向き、マレット の動かし方、スリットドラムの打面方向の 3 つ の基準で付けていった。例えば「ヘッド円描き 上面打ち」であれば、「ヘッド」は、マレット のヘッド部分を使うこと、「円描き」は、マレッ トで円を描くように 1 つずつのスリットを順に 打つこと、「上面打ち」は、スリットドラムのス リットの入った上打面を使って演奏することを 意味する。 次の授業の様子については、生徒達が考えた 奏法 1 つずつに通し番号を付けて記していく。 4.1 授業の様子(第 1 回目) メーカーや大きさの違うスリットドラムを 生徒から見える位置に 1 列に並べて提示し、自 分の好みの 1 台を選ぶ。生徒は、お互いの顔が 見えるように円形になって座る。すぐに B は ①手の平交互上面打ちを行い、C は自分の小さ いスリットドラムを持ち上げて側面や裏面を見 る。筆者が 1 枚の図形楽譜を見せて、「昨年皆で 一緒につくった楽譜です」「今年もこんな楽譜を 作っていくよ」と伝えると、D が笑顔で「いっ」 と言い、全員が楽譜に注目する。そして口々に 「アウディー」「伯方の塩」等、昨年書いていた言 葉を読み、「覚えている」「うんうん」「むっちゃ ちっちゃくした」と笑顔で話し始めた。 C は② 指関節交互上面打ちや、③パーグー上面打ちで 耳を近づけて聞く。 D は④グー上側面打ち、 B は⑤ピアノ指上面打ち や⑥グー円描き上面打ち をしていた。 C は筆者の横に置いていた袋から マレットを取り出して、「配って良いの」と筆者 に確認後、B と D に 1 本ずつ配る。B と C と D は打つ速度を変える。 B は⑦ヘッド振り回し上 面打ち 、C は⑧ヘッド側面打ちや⑨逆さ上面打 ち や⑩逆さ滑らせ上面打ち や⑪ヘッド円描き上 面打ちをしていた。さらに C は袋から出した新 しいマレットと交換する。 D は⑫ヘッド上面打 ちや、⑨逆さ上面打ち 、C と B は⑬ヘッド前面 側面打ちをしていた。(1)【C がマレットのヘッ ド部分で隣のスリットドラムを⑫ヘッド上面打 ちしたことをきっかけに、D も B も真似をして 隣のスリットドラムを打ち始め、大きな口を開 けてお互いに顔を見合わせて喜んでいた。】筆者 が「じゃあ考えていくよ」と名前付箋を並べて いると 、 B がマレットのヘッド部分でスリット ドラムの上面を木魚にみたてて、規則的なリズ ムで ⑭ヘッド木魚上面打ちで連打し始めた。C は B の様子を見て少し笑顔になって筆者の方を 表 1 研究対象授業の概略 授業 実施日 活動内容 活動の流れ 第 1 回目 9 月 30 日 グループ練習 1 回目(A 欠席) グループでの音楽づくり 1 回目。生徒達は自由に音を鳴らして いく中で、演奏方法や演奏箇所を図形楽譜に記号や文字で記し ていく。授業の最後に、できたところまでの発表を行う。 第 2 回目 10 月 30 日 グループ練習 2 回目 グループでの音楽づくり 2 回目。図形楽譜を作成しながら曲を 作る。授業の最後には、作成した楽譜を見ながら発表を行う。 第 3 回目 11 月 5 日 打楽器奏者との コラボ演奏 2 回目授業までに作成した楽譜を見ながら演奏する。打楽器奏 者の模範演奏やアドバイスを受けて工夫を加えた後、最後に打 楽器奏者の鉄琴と生徒とのコラボ演奏を行う。
授業 番号 奏法の名称 生徒 説明 第 1回 目 ① 手の平交互上面打ち B 両手のひらを使って左右交互にスリットドラムの上面を打つ奏法 ② 指関節交互上面打ち C 両手の指を関節でスリットドラム上面を左右交互に打つ奏法 ③ パーグー上面打ち C 手をパーやグーの形に開閉してスリットドラムの上面を打つ奏法 ④ グー上側面打ち D 握った手でスリットドラムの上面や側面を打つ奏法 ⑤ ピアノ指上面打ち B ピアノを弾くように指先を動かしてスリットドラム上面を打つ奏法 ⑥ グー円描き上面打ち B 握った手で円を描くようにスリットドラム上面を打つ奏法 ⑦ ヘッド振り回し上面打ち B マレットのヘッドを振り回しながらスリットドラム上面を打つ奏法 ⑧ ヘッド側面打ち C マレットのヘッド部分でスリットドラムの側面を打つ奏法 ⑨ 逆さ上面打ち C マレットを逆さにしてスリットドラムの上面を打つ奏法。 ⑩ 逆さ滑らせ上面打ち C 逆さにしたマレットで滑らせてスリットドラムの上面を打つ奏法 ⑪ ヘッド円描き上面打ち C マレットのヘッド部分で円を描くようにスリットを順に打つ奏法 ⑫ ヘッド上面打ち D マレットのヘッド部分でスリットドラムの上面を打つ奏法。 ⑬ ヘッド前面側面打ち CB マレットのヘッド部分でスリットドラムの前面や側面を打つ奏法 ⑭ ヘッド木魚上面打ち B マレットのヘッド部分でスリットドラムの上面を木魚にみたて て、規則的なリズムで打つ奏法。 ⑮ ヘッド振り上げ上面打ち C マレットのヘッドを振り上げてスリットドラム上面を打つ奏法 ⑯ 逆さ滑らせ円描き上面打ち B マレットを逆さにして円を描くように滑らせて 1 つずつの音を切 らずにスリットドラム上面を打つ奏法 ⑰ 柄上辺打ち C マレットの柄部分でスリットドラムの手前上辺を打つ奏法 ⑱ 逆さ円描き上面打ち B マレットを逆さにして円を描くようにスリットドラム上面を打つ 奏法。 ⑲ 柄側面打ち D マレットの柄部分でスリットドラムの側面を打つ奏法 ⑳ ヘッド反動上面打ち C マレットのヘッド部分を左手で止めた後、反動を使ってスリット ドラム上面を打つ奏法 21 逆さ内部打ち C スリットドラムのスリット部分からマレットを差し込んでドラム の底に当てて音を出す奏法 第 2回 目 22 逆さ左右滑らせ上面打ち A 逆さマレットで左右に滑らせてスリットドラム上面を鳴らす奏法 23 逆さ側面打ち A 逆さにしたマレットでスリットドラムの側面を打つ奏法 24 ヘッド上面側面交互打ち A マレットのヘッド部分でスリットドラム上面と側面を交互に打つ 奏法 25 ヘッド左右滑らせ上面打ち B マレットのヘッド部分でスリットドラムの上面を左右に滑らせる 奏法 26 ヘッド左右交互上面打ち B マレットのヘッド部分を両手に 1 本ずつ持ち交互に上面を打つ奏法 27 ヘッド左右交互円描き上面打ち C マレットを左右の手に 1 本ずつ持って交互に打ちながら円を描く ようにスリットドラム上面を打つ奏法 28 ヘッド両手両側面打ち C マレットのヘッド部分で、両手で両側面を同時に打つ奏法 29 逆さ左右交互上面打ち BC 両手に持った逆さマレットを交互にスリットドラム上面を打つ奏法 30 逆さ交互両側面打ち D 両手に持った逆さマレットを交互に、スリットドラム両側面を打つ 奏法 第 3回 目 31 ヘッド上面側面同時打ち A マレットのヘッド部分でスリットドラムの上面を両手で打つ奏法 32 ヘッド両手上面打ち A マレットのヘッド部分でスリットドラム上面と側面を同時に打つ 奏法 33 2 本持ちヘッド同時上面打ち B 両手に 2 本持ったマレットで、スリットドラム上面を同時に打つ 奏法 34 4 本持ちヘッド同時上面打ち B マレットを両手に 2 本持って同時にスリットドラムの上面を打つ 奏法 表 2 奏法の種類
見たが、筆者は付箋を配る作業を続けた。D は 下を見ていたため B の⑭ヘッド木魚上面打ちに は気づかず、すぐに自分の付箋を選び名前を書 いていた。 次に筆者はスリットドラムをランダムに打 ちながら「好きなリズムを考えてみて」と促し た。 C は⑮ヘッド振り上げ上面打ちの後、5 打 まとまりのリズムで ⑪ヘッド円描き上面打ちを 始めた。さらに B は歯切れ良く力強い音での⑪ ヘッド円描き上面打ちを始める。その後、⑭ヘッ ド木魚上面打ちも少し入れるが、C も D も自分 のスリットドラムに夢中で B の動きを真似する ことはない。(2)【C が自分のスリットドラムの 隣に置いてある、友だちのスリットドラムを打 ちに行った動きを見て、D も B も真似をした。 B はすぐに⑪ヘッド円描き上面打ちに戻すと、 D は B を真似して細かい⑪ヘッド円描き上面打 ちを始める。 続いて C も真似をして細かく連続 した ⑪ヘッド円描き上面打ちを始める。次に B が ⑯逆さ滑らせ円描き上面打ちを行う。これを 見て D も⑯逆さ滑らせ円描き上面打ちを真似す る。再び B が小さな声でお経の真似をしながら ⑭ヘッド木魚上面打ちを始めると、 D は B の動 きを見て笑顔になりマレットを両手で挟んで顔 の前に立て、大きな声でお経を唱える真似を始 める。 その声を聞いて B はおどけた様子でひっ くり返る。D はマレットを落として両手を合わ せてお経を唱える真似をする 。B はとても嬉し そうに D を指さして C に「見て」という。C も 両手を合わせて拝む真似をする。少しの休憩の 後、 「何回ぐらい打つの」と筆者が聞くと、C が 「5 回」と言ったのに続いて 、「5 回」と同じよう に D も B も言う。筆者が 3 人の名前付箋を貼る 間に、B と D が一緒に⑭ヘッド木魚上面打ちを 楽しむ。この間もずっと高揚した言葉は続き、 「あー」「あねー」「あねっこー」「どんこ」とお 互いに言葉真似を楽しむ。】楽譜を示して「初め からやってみよう」と筆者が促すと、3 人で⑪ ヘッド円描き上面打ちを行う。「次は?」と筆者 が聞くと、B と D が嬉しそうに⑭ヘッド木魚上 面打ちをする。(3)【筆者が「いいんちゃうか」 と褒めると、D は「ちゃうちゃうまだ考えてい る」と言うが、嬉しそうな表情になる。C も⑭ ヘッド木魚上面打ちを少しの間真似をする。そ の後も B は何回も手を顔の前にて立てて拝む真 似をする。】次に規則的な⑭ヘッド木魚上面打ち が D → B → C の順に重なっていく。皆が重な りあった後は、自然に音が消えていった。「消え ていくの?」と筆者が確認すると「ウン」「消 えていく」と 3 人が答える。この流れを筆者が 楽譜に記す。再度筆者が、楽譜の初めから演奏 するように促す。(4)【演奏がスムーズに進み、 最後に順番に消えていくと、生徒たちは達成感 を感じて一斉に顔を上げていた。】「次は?」と 筆者が聞くと 、 C が⑰柄上辺打ちを行う。(5) 【「あー良いやん」と筆者が言うと、 B も D も ⑰柄上辺打ちをする。】筆者が C に楽譜を渡し て付箋を貼りマジックで記すように促すと、「ぼ うでたたく横のかど 5 回」と書く 。 B は⑱逆さ 円描き上面打ちを行い、楽譜に「ぼうで上をた たく」と記入する。C は B を見てさらに細かい ⑱逆さ円描き上面打ちを続けている。 D は⑲柄 側面打ちをした後、楽譜に「ぼうでよこをたた く」と記入する。1 人ずつ自分の音を楽譜に記 している間にも、 C は 両手でマレットを持って ⑫ヘッド上面打ちをしたり、 逆さ内部打ちを したり、⑳ヘッド反動上面打ちをしたりと、新 しい奏法を次々に生み出していた。筆者が「最 後はどうする?」と聞いた後に、他グループを 見に行っている間に、 (6)【C の細かく力強い⑫ ヘッド上面打ち連打を見た B が真似をする。一 旦休憩した後、再度連打を始めた B と C は、2 人でほぼ同時にマレットを振り上げた後、 B が ⑧ヘッド側面打ちで 1 打、一瞬遅れて C も強い 1 打で音楽が終わる。音が消えた瞬間に 3 人の 顔が一瞬にして華やぎ、 D が「あー」、 B も「こ れいい」「やっば」と興奮した様子で声を上げ る。】その後も⑫ヘッド上面打ちの連打後の 1 打のパターンを繰り返して、B も D も笑顔で大 きく頷く。グループに戻ってきた筆者が「最後 どうする」と聞くと、練習していた速い連打後 の 1 打を披露して、大きな声を出して喜ぶ。発 表では、全員で⑪ヘッド円描き上面打ちをした 後、1 人 4 回の⑫ヘッド上面打ちで D → B → C の順に音が重なり、最後に全員で 4 回打った後、 次は 1 人ずつ順に抜けていく。生徒たちは自分 のスリットドラムから目を離さずに慎重に打っ ている。次のソロ演奏部分では、C は⑰柄上辺
打ちで 5 回打つ。B は⑱逆さ円描き打ちを行う。 D は、C と B よりゆっくりしたテンポで⑲柄側 面打ちをする。D の音が強かったため C は身体 を起こしてびっくりした表情になる。その後、 全員で細かく打ち、B の「せーの」の声に合わ せて全員で強く⑫ヘッド上面打ち連打後の 1 打 で終わる。 4.2 授業の様子(第 2 回目) 4 名それぞれが⑪ヘッド円描き上面打ちを行 う。1 回目の授業で作成した楽譜を見ながら「こ こをみんなでするよ」と筆者が説明しても、前 回欠席していた A は下を向きながら、⑨逆さ上 面打ちや⑯逆さ滑らせ円描き上面打ちや 逆さ 左右滑らせ上面打ちや 逆さ側面打ちをしてい た。他の 3 人も前回の嬉々とした表情はなく、 スリットドラムを打つ手を止めて話を聞いてい た。そこで筆者が「最初はどうする」「アレン ジしても良いよ」「A ちゃん最初どんな感じで する」と尋ねると、 それぞれが⑪ヘッド円描き 上面打ちを始める。筆者が「1 番最初はどうす る?」と聞くと 、A が⑯逆さ滑らせ円描き上面 打ちを始める。それぞれがマレットの向きを変 えたり打ち方を変えたりしているが、(7)【筆者 との言葉でのやりとりが続くと、生徒からの自 発的な言葉や動きが減り表情も硬くなる。】楽譜 の初めから演奏するように筆者が促すと、A に 続いて 3 人の⑪ヘッド上面円描き打ちになる。3 人の音が終わり次の規則的なリズムでの⑫ヘッ ド上面打ちになっても、A は下を向いて⑯逆さ 滑らせ円描き上面打ちを続けている。その後、 A は顔を上げて友だちの動きに気づくと 、規則 的なリズムで⑫ヘッド上面打ちに変えて一緒に 打つ。ソロパートでは A 以外の 3 人は 1 回目の 授業で考えた奏法で順に演奏し、 A はしばらく 考えた後で、 ヘッド上面側面交互打ちを行っ た。ここまでは淡々とした雰囲気で進んでいた が、( 8)【B の 逆さ 内部打ちを見た C が、同 じ方法で力強く 逆さ内部打ちの真似をして、 嬉しそうな表情になったときから雰囲気が変わ る。 】C の楽しそうな顔を見てさらに B も笑顔に なって ヘッド左右滑らせ上面打ちをする。「次 はどうする?」と聞くと D は「考えている」と 言いながら再び自由に音を試しながら⑫ヘッド 上面打ちの連打を行う。 発表前練習での曲の冒頭は、B と C が(9)【ア イコンタクトでタイミングを合わせて始める。】 全員での⑪ヘッド上面円描き打ち では、B は小 さくゆっくりとした動きで 1 つずつのスリット を押さえるように行う 。C は打面に当たる瞬間 をしっかりと見ながら慎重に行う。D は、スリッ ト板を撫でるようなかすかな音で行う。 A は⑱ 逆さ円描き上面打ちでゆっくりとした 3 人のテ ンポに合わせる。次に D から順に音を重ねてい く。 D はゆっくり静かに ⑫ヘッド上面打ちを始 め 、次の B が打ち始める様子を穏やかな表情で 見ている。 B は冒頭のユニゾン部分よりも静か な音で⑫ヘッド上面打ちを行い、 C もユニゾン 部分よりもゆっくりとした強い音で ⑫ヘッド上 面打ちをする。 A もユニゾン部分よりもゆっく り小さい音で⑫ヘッド上面打ちをする。4 人が 順に重なり、そして順に消えていく。 ソロ演奏 では、C がゆっくりと 逆さ側面打ちを行い、 B は 1 つずつアクセントを付け て⑱逆さ円描き 上面打ちをする。 D はマレットの中央を使って 響き渡る音で⑲柄側面打ちをすると、他の 3 人 は耳をふさいでいた。 A はとても小さな音で ヘッド上面側面交互打ちを行う。 (10)【A の動 きに合わせて他の 3 人が大きく身体を揺らす。 最後に 3 人がとても大きな動きで手を振り上げ てゆっくり大きな音で⑫ヘッド上面打ちで 6 回 打った後、B の「せーのー」の合図で大きな⑫ ヘッド上面打ちの 1 打で終わる。】筆者が「おも しろーい」というと、さらに笑顔になる。 練習発表終了後、曲に変化を付けるために、 速度や強弱の変化をさらにつけてみることを 筆者が提案すると、(11)【極端に速度を変える 演奏を嬉々として楽しみ始めた。】授業後半の 発表では、1 回目は非常に速く、2 回目はゆっく りすると決めたことで、さらに嬉しそうな表情 になる。 発表 1 回目は、最初に C が 3 人にアイコンタ クトとマレットで合図してとても速いテンポで ⑪ヘッド円描き上面打ちを始める。次に D が⑫ ヘッド上面打ちで 2 回連打後にゆっくり連打を 行っているところに B が⑪ヘッド円描き上面打 ちで重なり、次に C が速くて力強い⑫ヘッド上 面打ちを行い、続いて A も⑫ヘッド上面打ちで 重なっていく。 次のソロ演奏では、C が速いリ
ズムで⑧ヘッド側面打ちを行う。 B は速い⑨逆 さ上面打ちを行う。 D は⑲柄側面打ちの連打を 行い、 A は速い ヘッド上面側面交互打ちを行 う。最後に 4 人で速い⑫ヘッド上面打ち連打の 後、B の小さい「よー」という声を合図に大き く振り上げた 1 打で終わる。どの生徒も非常に 嬉々とした表情で演奏していた。 発表 2 回目は非常にゆっくりとしたテンポに 変える。1 回目が終わった後に、 B は床に置いて あるマレットを 1 本左手で持っていた。曲の最 初は A のゆっくりとした⑯逆さ滑らせ円描き 上面打ちである。続いて 4 人のユニゾン部分で C は 1 本のマレットで打面を押しつけるように してゆっくり⑪ヘッド円描き上面打ちを行う。 (12)【B が ヘッド左右交互上面打ちをしてい るのを見て、 C も右手で⑪ヘッド円描き上面打 ちをしながら床に置いてあるマレットを左手で 取り、B の真似をして ヘッド左右交互円描き 上面打ちに変更する。C が左右に 1 本ずつ持っ た様子を見て、⑪ヘッド円描き上面打ちをして いた D も真似をして床のマレットを拾うが、一 度両手で同時に打った後は、ヘッドをスリット ドラムの上に置いたまま様子をうかがう 】。A は そのまま⑯逆さ滑らせ円描き上面打ちを続けて 他の 3 人と合わせる。次に D がとても小さい音 で優しく ヘッド左右交互上面打ちをする。続 いて B の ヘッド左右交互上面打ち、そして C の ヘッド左右交互上面打ち、最後に A のゆっ くりとした⑫ヘッド上面打ちの順に重なって いった。順に音が消えた 後、ソロ演奏が始まる。 C が ヘッド両手両側面打ちを、 B が C と同じ ゆっくりとしたテンポで 逆さ左右交互上面打 ちを、続いて D がゆっくり 逆さ交互両側面打 ちを行い、 A もゆっくりとした ヘッド上面側 面交互打ちを行う。その後 D はさらにマレット 1 本を手に取り、左手に 1 本、右手に 2 本のマ レットを持って、ゆっくり ヘッド左右交互上 面打ちをした後、B の「せーの」で 4 人が大き く振り上げて⑫ヘッド上面打ちで 1 回打って終 わる。 4.3 授業の様子(第 3 回目) A が鉛筆持ちしたマレットで⑯逆さ滑らせ円 描き上面打ちを始める。 C と B の細かい⑪ヘッ ド円描き上面打ちの後、D は打たずにじっとし ていたが C のアイコンタクトを見て「アー」と 気づいて、慌てて細かい⑪ヘッド円描き上面打 ちを始める。 D が右手のマレットで 4 回優しく ⑫ヘッド上面打ちを行い、 B が ヘッド左右交 互上面打ちで 4 回、続いて C が歯切れの良い音 で 4 回⑫ヘッド上面打ちを行う。その後、 A は 楽譜でのタイミングより 8 打遅れてから ヘッ ド上面側面交互打ちで重なる。次に楽譜通りで あれば、A も順に抜けていくが、そのまま打ち 続けていたため、C がびっくりした表情で首を かしげながら A を見る。B も A を見る。筆者 も A が気づくように楽譜を指さしたことで A は楽譜の流れに気づいて打ち終わる。 ソロ演奏 では、C は強い音で右側面の⑲柄側面打ちを行 う。B は 逆さ左右交互上面打ちを行う。 D も ⑲柄側面打ちを行う。A が片手で強く ヘッド 上面側面 交互打ちを変化させた左 右の両側面打 ちを繰り返す。3 人での ヘッド上面側面交互 打ちの連打後の 1 打が終わった後、最後に A の 軽い⑫ヘッド上面打ちの 1 打で終わる。 発表では、 A がとても丁寧に⑱逆さ円描き上 面打ちを行う。楽譜通りに演奏は進むが、友だち が打つ姿をお互いによく見てテンポも合わせて いる。 A は、 ヘッド上面側面同時打ちをして いた。楽譜では全員で連打と記されているコー ダ部分では、3 人が演奏しているときに A は休 憩して、全員の音が終わった一瞬後に ヘッド 両手上面打ちを 2 打入れる。A は自分の最後の 音で曲が終わった後、とても嬉しそうな表情に なる。打楽器奏者に A が考えた奏法を褒められ ると、どの生徒も嬉しそうな表情で打楽器奏者 の言葉を聞いている。 打楽器奏者の見本演奏の後、強弱や速度変化 を考え、それぞれが持つマレットを選び直す 。B が 2 本持ちヘッド同時上面打ちや 4 本持ち ヘッド同時上面打ちで楽しむ。打楽器奏者に強 弱をもっと付けると良いと聞いて、 B が ヘッ ド左右交互上面打ちでのクレシェンドを試した り、 A が⑯逆さ滑らせ円描き上面打ちでのピア ノを表現したりする。(13)【 3 人連打の後、 A が小さく絶妙なタイミングで⑨逆さ上面打ちで 1 打を入れた音を聴いて、打楽器奏者もサブ指 導者も生徒も大笑いで盛り上がる。】 筆者が「A が最後にいくの?」と改めて確認すると、 A は
頷く。D が「おー。良いよー」と言って盛り上 がる。 5.考察 5.1 音楽づくりの活動の流れが変化した場面 先に記した授業の様子から、活動の流れが変 化した場面を(1)から(13)まで番号を付して 抜き出してみた。 ( 1 ) 隣のスリットドラムを打つ友だちの真似を する。 ( 2 ) 次々と友だちの奏法の真似や言葉真似を行 う。 ( 3 ) 筆者が褒めたことで友だちの木魚打ちを真 似する。 ( 4 ) 順に音が消える終止形に達成感を感じる。 ( 5 ) 筆者が褒めたことで友だちの柄上辺打ちを 真似する。 ( 6 ) 連打後の1 打での終止形に一体感を感じる。 ( 7 ) 言葉でのやりとりが続くと、生徒の自発的 な動きや言葉が減る。 ( 8 ) 友だちの逆さ内部打ちの真似で盛り上がる。 ( 9 ) アイコンタクトでタイミングを合わせる。 (10) 身体の動きを合わせて、「せーの」の終止 形に成就感を感じる。 (11) 極端な速度変化で楽しむ。 (12) マレットの数を増やす友だちの真似をする。 (13) A の絶妙なタイミングでの終止形に盛り上 がる。 以上 13 場面を次の 3 種類に分類してみた。 1 、友だちの真似 2 、音楽的な要素の変化、終止形の工夫 3 、指導者の支援方法 1 、友だちの真似 (1)(2)(3)(5)(8)(12) 上記 6 場面は、インパクトのある奏法をして いる友だちの真似だけでなく、隣のスリットド ラムを打ちに行くことやマレットの数を増やす などの動きの真似や言葉真似も含めて、真似を することで、面白いことを共有した楽しさと創 造する喜びを感じて盛り上がっている。真似さ れた方は、自分の奏法を皆に認めてもらえた自 信を感じ、真似した方は友だちの音との重なり を感じている。さらに速度変化や打つタイミン グを共有していくことで音楽的な盛り上がりや 一体感を感じている。グループ活動の中での真 似は、個々の奏法がお互いに影響を与え合い、 創造性が喚起されるきっかけになる。 2 、音楽の要素の変化、終止形の工夫 (4)(6)(9)(10)(11)(13) 上記 6 場面は、極端な速度変化で曲に変化を つけることや、アイコンタクトでスタートする ことや、終止形の工夫を共有できたことでの喜 びや一体感を感じている。特に速度変化では全 身を使った速いテンポで躍動感を感じたり、止 まりそうなぐらいのゆっくりのテンポでの緊張 を共有したりすることで、思いが通じ合った喜 びや同調した心地よさを感じている。 3 、指導者の支援方法 (3)(5)(7) 上記(3)(5)の 2 場面は、生徒が行った木 魚打ちや柄上辺打ち等の面白い奏法に対して指 導者がタイミング良く褒めたり認めたりする言 葉や視線を送ったことで、生徒が自信を持って 真似をすることができ、気持ちが高揚し場の盛 り上がりが作れている。しかし(7)の場面は、 言葉でのやりとりが続いたため、生徒の動きが 制限されている。 以上のことから、自由に自分の音を表現しな がら音楽づくりを楽しむためには、友だちの真 似が効果的に働くことがわかる。真似が拡がる ことで友だちとの一体感を感じ、生徒は達成感 を感じている。また、これらの音楽的な盛り上 がりや拡がりを作るためには、指導者の支援と して適切なタイミングでの言葉掛けや視線を送 ることが重要である。 次に、このように活動が盛り上がった場面 で、個々の生徒達はどんな奏法を工夫し、どん な奏法を真似していたのかを具体的に検証する ために、生徒の奏法を分類してみた。 5.2 生徒が考えた奏法の種類について 先に記した授業の様子から読み取れるよう に、生徒が考えた奏法は 34 種類であった。音楽 づくりにおいては、自分で奏法を考える時間を 保障することが大切である。本研究対象の生徒 たちは、これまでの音楽づくりの中で、自由に 音を出して奏法を工夫する経験を積み重ねてき ている。本研究でも、生徒が自分で考え出した
様々な奏法が見られた。自分で奏法を考え出す こと自体が自由に音を奏でる基本であり、創造 的な活動そのものであると考えている。これら の奏法の種類を分類してみることで、創造性の 拡がりを具体的に捉えてみたい。 (表 3)は 34 種類の奏法を、マレットの使い方 としてヘッド打ち、逆さ打ち、柄打ちの 3 種類 と、スリットドラム打面の違いとして上面、側 面、上辺及び同時に 2 つの打面を打つ 4 種類に分 類したものを組み合わせたものである。マレッ トのヘッド部分で、スリットドラムの上面を打 つ奏法が、12 種類と最も多いことがわかる。そ の中でも⑫上面打ちが頻度としては最も多く、 規則的なリズム打ちだけでなく、5 回連打等の 数を決めた打ち方や、速打ちや両手打ちや、マ レットの 2 本持ちや 4 本持ち奏法などバリエー ションは広い。また⑪円描き打ちを、 左右交 互に円描き打ちとして変化させる奏法や、⑮振 り上げ打ち、⑳反動打ち、 左右滑らせ打ち、 ⑭木魚打ち等の独創的な奏法も見られる。また マレットを逆さに向けて使う奏法も 7 種類見ら れ、その中には⑯滑らせ円描き打ちや、 左右 滑らせ円描き打ちなど、2 つ以上の動きを組み 合わせた複雑な打ち方も見られる。スリットド ラム打面では、通常使用する上面が 19 種類と 多いが、側面や上辺を打つ奏法は合わせて 6 種 類、スリットドラムの前面と側面の両方を使う 奏法も 3 種類などバリエーションは広い。 5.3 各生徒の特徴 次に生徒 4 名の奏法を、手で打つ奏法も加え てマレットの使い方で分類した(表 4)を基に、 各生徒の奏法の特徴を考察してみた。 (1)生徒 A A はオリジナル 8 種類、真似 2 種類である。 第 1 回授業は欠席であったので、マレットを 持たない奏法は実施していないため、奏法の種 類としては C や B より少ないが、マレットの ヘッド打ちよりも、逆さにして打つ奏法が 5 種 類と多い。⑯逆さ滑らせ円描き上面打ちや 逆 さ左右滑らせ上面打ち等の独創的な奏法が多 い。一度自分の演奏に集中していて友だちの流 れと合わなくなっていたことに気づいてから は、演奏の順番を気にしていた。真似の種類は少 ないが、ユニゾンで合わせるところでは友だち の奏法である⑪ヘッド円描き上面打ちや⑫ヘッ ド上面打ちを選んで真似することで、一体感を 感じて演奏している。 (2)生徒 B B はオリジナル 13 種類、真似 5 種類である。 友だちや指導者の評価は気になるが、思っ たことをすぐに言葉や音で表現している。発想 が豊かでリズム感もあり自分のパターン音型を 持っている。マレットのヘッドを使った打ち方 が 7 種類で一番多いが、マレットを持たない時 表 3 奏法の分類 上面 【19 種類】 側面上辺【6 種類】 2 打面【3 種類】 ヘッド打ち 【17 種類】 ⑦振り回し上面打ち ⑪円描き上面打ち ⑫上面打ち ⑭木魚上面打ち ⑮振り上げ上面打ち ⑳反動上面打ち 左右滑らせ上面打ち 左右交互上面打ち 左右交互円描き上面打ち 両手上面打ち 2 本持ち同時上面打ち 4 本持ち同時上面打ち 【12 種類】 ⑧側面打ち 両手両側面打ち 【2 種類】 ⑬前面側面打ち 上面側面交互打ち 上面側面同時打ち 【3 種類】 逆さ打ち 【9 種類】 ⑨上面打ち ⑩滑らせ上面打ち ⑯滑らせ円描き上面打ち ⑱円描き上面打ち 内部打ち 左右滑らせ円描き上面打ち 左右交互上面打ち 【7 種類】 側面打ち 交互両側面打ち 【2 種類】 柄打ち 【2 種類】 ⑰上辺打ち ⑲側面打ち 【2 種類】
にも⑤ピアノ指上面打ちや⑥グー円描き上面 打ち等の 3 種類行っている。マレットを逆さに して打つ奏法も 3 種類ある。⑦ヘッド振り回し 上面打ちや⑭ヘッド木魚上面打ちや 2 本持ち ヘッド同時上面打ちや 4 本持ちヘッド同時上 面打ちなど友だちが真似をしたくなるようなユ ニークな奏法が多い。さらに友だちの奏法もよ く見ていて同じテンポで順に重ねていくとき や、ユニゾンで合わせるときには⑪ヘッド円描 き上面打ちや⑫ヘッド上面打ち等の 5 種類を使 い分けている。 (3)生徒 C C はオリジナル 15 種類、真似 5 種類である。 オリジナルの数は多く、探求心旺盛に独創的 な奏法を考え出していた。マレットのヘッドを 使った打ち方が 7 種類で多いが、マレットを持 たない時にも、手を握ったり開いたり指関節で 打ったりと 2 種類の音を試している。マレット を逆さにして打つ奏法も 4 種類ある。⑫ヘッド 上面打ちに加えて、両手を駆使した⑳ヘッド反 動打ちや、2 つ以上の動きを同時に行う ヘッ ド左右交互円描き上面打ちや 逆さ左右交互上 面打ちや、スリットドラムの複数面を打つ⑬ ヘッド前面側面打ちや ヘッド両手両側面打ち が見られる。また、友だちの真似も 4 種類あり、 演奏途中でマレット数を増やして打つ ヘッド 上面側面交互打ちなど、面白いと思った奏法を 取り入れている。またユニゾンで合わせるとこ ろは、⑫ヘッド上面打ちや⑪ヘッド円描き打ち など皆と同じ奏法を使うなど全体の流れの中で 使う奏法を選んでいた。また前の時間に友だち がしていた 逆さ側面打ちを延滞模倣している こともあった。 (4)生徒 D D は、オリジナル 4 種類、真似 7 種類である。 C や B や A のように自分から次々に新しい奏 法を考え出すことはないが、ソロ演奏で順番に 音を出すときには、⑫ヘッド上面打ちだけでな く、⑲柄側面打ちや 逆さ交互両側面打ちと 3 種類のマレットの使い方を変えたオリジナル奏 法が見られる。また友だちが考えた奏法の真似 は 7 種類と多く、⑪ヘッド円描き上面打ちや⑨ 逆さ上面打ち等を行うときに、「おー」「良いよ 良いよ」など、友だちに対する賞賛や合意の言 葉をタイミング良く発しながら演奏している。 以上 4 人の奏法の特徴から、音楽をつくる過 程でのそれぞれの役割を考えてみた。 A は創造する楽しさを満喫し、マレットを逆 さに使って他の生徒が考え出さないような独特 な奏法を生み出している。曲の最後の見せ場で ある一人コーダを毎回違う演奏にするなど、グ ループ音楽に変化をもたらすスパイスの役割を 担っている。B はスリットドラムを木魚に見立 てる楽しさや、マレットの数を増やして 2 本持ち や 4 本持ち奏法を行うなど他の生徒が思わず真 似をしたくなるような奏法を発想力豊かに考え だしていく影響力の大きい巻き込み役である。C は発想豊かに色々な奏法を率先して行う牽引役 でありかつ、友だちとアイコンタクトを取って 曲を始めるタイミングやテンポを決めたり、友 だちに次のフレーズを促したりと音楽づくりに おけるまとめ役でもある。D は友だちの奏法を 上手に真似するとともに、賞賛や合意の言葉を タイミング良く発することで場の一体感や楽し い雰囲気を作っていく盛り上げ役である。 こうした 4 人のそれぞれ違った役割を持てた からこそ、本研究グループ内で双方向に影響し 合う関係が作られ、音楽づくりの表現幅の広さ になり、生徒自身も集団のダイナミクスを音楽 表現の楽しさとして感じていたと考える。 5.4 発達的特徴から 以上個々の生徒の特徴から、生徒達が様々な 奏法の真似をしたりされたりする中で、スパイス 役・巻き込み役・まとめ役・盛り上げ役としてそ れぞれの持ち味を生かして創造性豊かな音楽づ くりを行っていたことがわかった。こうした豊か な音楽づくりが可能になった生徒達の発達的な 力について、ここで少し整理しておきたい。 本研究対象の生徒達は 5、6 歳頃の発達的特 徴を持っている。場を共有してやりとりされる 話し言葉がベースであり、具体的なものや動き を絵や文字を使って示すことができる。また書 き言葉も獲得しているため、話の筋道をつける ことや文字や記号から音をイメージすることが でき、楽譜を見ながら強弱やアーティキュレー ションを工夫することや、演奏が盛り上がる方 法を考えていくプロセスに創造の喜びを感じる
表 4 各生徒の奏法 手で打つ【6 種類】 マレット柄で打つ 【4 種類】 マレットのヘッドで打つ【29 種類】 マレットを逆さにして打つ 【21 種類】 A オリジナル︻ 8種類︼ ヘッド上面側面交互打ち ヘッド上面側面同時打ち ヘッド両手上面打ち 【3 種類】 ⑨逆さ上面打ち ⑯逆さ滑らせ円描き上面打ち 逆さ左右滑らせ上面打ち 逆さ側面打ち ⑱逆さ円描き上面打ち【5 種類】 真似︻ 2種類︼ ⑪ヘッド円描き上面打ち ⑫ヘッド上面打ち 【2 種類】 B オリジナル︻ 13種類︼ ①手の平交互上面打ち ⑤ピアノ指上面打ち ⑥グー円描き上面打ち 【3 種類】 ⑦ヘッド振り回し上面打ち ⑬ヘッド前面側面打ち ⑭ヘッド木魚上面打ち ヘッド左右滑らせ上面打ち ヘッド左右交互上面打ち 2 本持ちヘッド同時上面打ち 4 本持ちヘッド同時上面打ち 【7 種類】 ⑯逆さ滑らせ円描き上面打ち ⑱逆さ円描き上面打ち 逆さ左右交互上面打ち 【3 種類】 真似︻ 5種類︼ 【1 種類】⑰柄上辺打ち ⑪ヘッド円描き上面打ち ⑫ヘッド上面打ち【2 種類】 ⑨逆さ上面打ち早打ち 逆さ内部打ち【2 種類】 C オリジナル︻ 15種類︼ ②指関節交互上面打ち ③パーグー上面打ち 【2 種類】 ⑰柄上辺打ち 【1 種類】 ⑧ヘッド側面打ち ⑪ヘッド円描き上面打ち ⑬ヘッド前面側面打ち ⑮ヘッド振り上げ上面打ち ⑳ヘッド反動上面打ち ヘッド両手両側面打ち ヘッド左右交互円描き上面打ち ヘッド両側面打ち【8 種類】 ⑨逆さ上面打ち ⑩逆さ滑らせ上面打ち 逆さ内部打ち 逆さ左右交互上面打ち 【4 種類】 真似︻ 4種類︼ ⑫ヘッド上面打ち ⑭ヘッド木魚上面打ち ヘッド上面側面交互打ち 【3 種類】 逆さ側面打ち 【1 種類】 D オリジナル︻ 4種類︼ ④グー上側面打ち 【1 種類】 ⑲柄側面打ち 【1 種類】 ⑫ヘッド上面打ち 【1 種類】 逆さ交互両側面打ち 【1 種類】 真似︻ 7種類︼ 【1 種類】⑰柄上辺打ち ⑪ヘッド円描き上面打ち ⑭ヘッド木魚上面打ち ヘッド左右交互上面打ち 【3 種類】 ⑨逆さ上面打ち ⑯逆さ滑らせ円描き上面打ち 逆さ左右交互上面打ち 【3 種類】 【 】内は種類の数
ことができる。 また、できる・できないという二面的評価を 超えて、ここを工夫したから前よりも良くなっ てきたと多面的な評価で自分を対象化できる力 が芽生えてくる段階であるといわれている。 このため、友だちと一緒に行う音楽づくりの 中で、自分が考えた奏法を友だちと一緒に演奏 し、全体としての一体感を作っていく中で、変 化していく作品を自分の成果物として多面的・ 系統的に捉えることができるのである。だから こそ、1 人で考える奏法だけでなく、友だちの 奏法を真似したり変化させたりする音の拡がり を自分の喜びとして感じられたのであろう。 6.おわりに 以上から、友だちと言葉でのやりとりがで き、図形楽譜を元にグループで作った音楽を共 有できる生徒にとっての本研究の意義をまとめ てみたい。本研究で生徒がグループでの音楽づ くりを行うことで、音や音のつながりをイメー ジすることや音楽をつくる創造の喜びが感じら れること、友だちとの一体感が感じられるこ と、音楽表現の幅を拡げ、自分や友だちの演奏 を多面的に捉えられるようになることが明らか になった。 また本研究で使用したスリットドラムについ ても、研究を始める前に考えていた特徴の他に 以下の理由からも、本研究における音楽づくりに 適していると考えられる。つまりコンガやボンゴ のように大きくないため、座った状態でお互いの 手元と表情がよく見える位置で演奏できること、 そして太鼓のように音量が大きくないため、お互 いの音を聴き合うことができることである。この ため友だちの動きや表情を見ながら演奏するこ とが容易であり、友だちの音と響き合うことで、 みんなで 1 つの音楽をつくっていく一体感や心 地良さが感じることができたと考える。 音楽づくりは、自分の取り組み過程を振り返 る機会としての教育的側面も大きい。「すごい ね。がんばったね」という一般的評価で終わら ずに、「ここの重なり方がステキだね」「マレッ トの使い方を工夫したね」と具体的に認められ る場を作ることが必要である。こうして友だち と一緒につくる共同的な取り組みの中で、でき る・できないよりも豊かな評価の軸を示すこと で、意見のぶつかり合いやすりあわせ、他者に 合わせて自分の行動を調整する等の自己を対象 化する機会を保障することができるようになる と考える。 今後も特別支援学校の音楽づくりの実践研 究を継続していく中で、様々な生活年齢や発達 段階の生徒に応じた活動内容や楽器を提供する ことで、創造性豊かな活動を行っていきたいと 考える。 注 1) 小学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説 音 楽編 文部科学省 2) 特別支援学校小学部では 2020 年、中学部では 2021 年に全面的に実施される。 3) 養護学校高等部における音楽授業アンケート− 2011 年 滋賀県 調査報告書−(2013 岡) 4) 本研究で作成した楽譜は、幅 15 センチ程度の横 長厚紙に、演奏する箇所に名前を記した色付箋 を貼り、奏法や回数等を、強フォルテ(f)、弱ピ アノ(p)、だんだん大きく(クレッシェンド)、 だんだん小さく(デクレッシェンド)、アクセン ト(>)等の音楽記号や擬態語や擬音語で記し た図形楽譜と呼ばれるものである。 参考文献 ・岡ひろみ(2014)特別支援学校における「音楽づく り」の実践的意義と可能性−高等部での授業実 践を通して考える.人間発達研究所紀要 No.27、 人間発達研究所 ・岡ひろみ(2015)特別支援学校における音楽づくり− 楽器の特徴と生徒の発達的特徴との関連.音楽教 育実践ジャーナル vol.12no.2 通巻 24 号、日本音 楽教育学会 ・岡ひろみ(2016a)幼稚園における「音楽づくり」 に見られる発達的特徴− 3 歳児クラスと 4 歳児 クラスでの活動分析から.人間発達研究所紀要 No.29、人間発達研究所 ・岡ひろみ(2016b)特別支援学校における打楽器を 使った音楽づくり―専門家派遣事業文部科学省 の採択を受けて.音楽教育実践ジャーナル vol. 14 通巻 27 号、日本音楽教育学会 ・可児麗子・岡ひろみ・林睦(2018)打楽器奏者と音 楽をつくるアウトリーチ活動―特別支援学校で
の取り組みを中心に.滋賀大学教育学部附属教 育実践総合センター紀要第 26 巻 ・岡ひろみ(2018)特別支援学校における音楽づくり. 障害者問題研究 第 46 巻第 3 号、全国障害者問題 研究会 ・島崎篤子(1998)「音楽づくりで楽しもう」、日本書籍 ・藤野友紀(2017)「発達を学ぶ 発達に学ぶ」、全障 研出版部