世界最高の耐用温度
1500℃を有する窒化ケイ素セラミックスの開発に成功
平成15年7月28日 独立行政法人物質・材料研究機構 [概要] 独立行政法人物質・材料研究機構(以下NIMS、理事長:岸 輝雄)の「新世紀耐熱 材料プロジェクト」のセラミックスチーム(リーダー:広崎尚登・物質研究所非酸化物焼 結体グループ)は、世界最高の耐用温度1)1500℃を有する窒化ケイ素(Si 3N4)セラミックス 材料を開発した。通常の窒化ケイ素材料の耐用温度は1200℃で、今までの最高耐用温度は 通商産業省(現在は経済産業省)のセラミックガスタービンプロジェクトで開発された 1350℃である。 本研究成果は、無機材質研究所および金属材料技術研究所時代の1999 年度から実施して いる「新世紀耐熱材料プロジェクト」2)により得られたものである。開発した材料は、ルテ チウム(Lu)系の酸窒化物を粒界相3)とすることで窒化ケイ素の耐熱性を高めている。 耐熱セラミックス材料は、高温下において無冷却で高温燃焼タービンの静止部品や小型 タービンブレードとして適用することが期待されており、将来的にそれが実現すれば、無 冷却の熱電供給システムの開発に貢献することが期待されている。 1.研究の背景と目的 地球温暖化防止の観点から、エネルギー機器関連の CO2排出量削減が求められており、 それらの高効率化を可能にする新耐熱材料開発への期待が高まっている。 NIMSでは、独立行政法人先導プログラムの一環として、無機材質研究所と金属材料 技術研究所時代の1999 年度から「新世紀耐熱材料プロジェクト」を実施してきており、耐 熱材料の耐用温度を向上させたNi 基超合金、セラミックス、高融点超合金などの開発を行 ってきた。そのうち、セラミックスチームでは耐用温度1500℃を目標にセラミックス材料 の開発に取り組んできた。 2.従来の窒化ケイ素セラミックス材料 窒化ケイ素セラミックスは,ターボチャージャロータやボールベアリングなどの量産部 品の材料として実用化されており、耐用温度1000℃以下の温度では高強度で信頼性に優れ た材料である。この材料は緻密化しにくいため、8%程度の酸化アルミニウムや酸化イッ トリウムなどの焼結助剤4)を添加して燃焼温度1700℃で焼成することにより製造される。 しかし、焼結助剤はガラス相として材料中に残留するため、1000℃以上の耐用温度ではガ ラス相の軟化により材料強度が低下するという問題があった。 耐熱性を向上させる研究としては、酸化イッテルビウムなどの高融点助剤の使用や、焼 結後に熱処理を施してガラス相を結晶化させるなど、いくつかの方法が検討されてきたが、 通常の材料では耐用温度1200℃が限界であった。従って、更なる耐熱性の向上には、粒界 相の精密な組成制御が必要であると考えられていた。3.今回の研究成果 【成果】 今回、粒界相が結晶化しやすい焼結助剤を添加して粒界結晶相の高温安定性を検討した 結果、ルテチウム(Lu)の酸窒化物結晶(Lu4Si2O7N2)が耐熱性に優れる粒界相となるこ とを見いだした(図1)。また、粒界相の量と高温特性の関係を調べたところ、1%に低減 させるとクリープ5)変形しにくいことを見いだした。これらの知見を基に、粒界相の量と組 成の精密制御を行うことにより、耐用温度1500℃の窒化ケイ素セラミックス材料の開発に 成功した。 【材料開発のポイント】 今回の材料開発では、(1)焼結助剤として高融点のルテチウム系助剤を使用したこと、(2) 粒界に通常の酸化物ガラス相ではなく、酸窒化物結晶が析出したこと、(3)粒界相の量を 1%という極少量に低減(通常は5%)したこと、の3点がポイントとして挙げられる。 (1)高融点ルテチウム系助剤の使用: 窒化ケイ素セラミックスの耐熱性を向上させるには、粒界ガラス相の耐熱性向上が必要 である。ルテチウムは希土類元素の中で最も原子番号が大きい元素であり、液相生成温度 は最も高い。従って、通常のイットリウム系助剤と比べて耐熱性が向上する。 (2)酸窒化物結晶の適用: 通常の窒化ケイ素の粒界はガラス相だが、ガラス相 < 酸化物結晶 < 酸窒化物結晶の 順に耐熱性が向上する。 (3)量の低減: 高温で軟化する粒界相の量が低減するため,高温での変形量が少なくなる。 しかし、窒化ケイ素粉末を緻密化させるという点では、上記3点は全て緻密化を難しく している。本研究では、高圧の窒素ガス中で焼成するガス圧ホットプレス法6)を適用するこ とにより、焼結性の低下をカバーして緻密で高強度の材料を得ることに成功した。 【製造方法と特性詳細】 窒化ケイ素粉末に1%のルテチウム系助剤を添加したものを10気圧の窒素中で1950℃ の温度で1時間ホットプレス焼結を行った。その後、20×70×3mm の試験片を加工 して、1500℃、137MPa の引張応力下でクリープ試験を行った。その結果、図2に示すよ うに、開発材料は1400 時間以上耐えて破断することなく試験を終えた。一方、同じルテチ ウム系材料であっても、粒界相が5%の材料は 125 時間で破断した。以上のことから、開 発材料のガスタービンとしての耐用温度は1500℃であることが判明した。 4.今後の展望と波及効果 開発した窒化ケイ素セラミックス材料は、世界最高の耐用温度を有する窒化ケイ素材料 であり、プロジェクトにおける所期の開発目標を達成した。プロジェクトでは引き続き高 温特性の強度データの充実を図る予定である。
(問い合わせ先) 〒305-0047 茨城県つくば市千現1−2−1 独立行政法人物質・材料研究機構 広報室 電話:029-859-2026 (研究内容に関すること) 独立行政法人物質・材料研究機構 物質研究所 非酸化物焼結体グループ 主席研究員 広崎尚登 電話:029-860-4479 E-mail:[email protected]
用語説明 1)耐用温度 137MPa(約 14kg/mm2)の応力環境のもとで、クリープ試験に1000 時間耐えられる 温度。タービン用耐熱合金の標準的な評価基準である。 2)新世紀耐熱材料プロジェクト 独立行政法人化を2年後に控えた 1999 年に開始されたプロジェクト。明確な目標設定、 プロジェクトリーダーの裁量と責任、企業への技術移転、海外展開、成果の厳格な評価な ど、独立行政法人化を想定したプロジェクト運営を試行しつつ、世界をリードする新耐熱 合金の開発を進めている。ニッケル基超合金や、セラミックス、貴金属をベースにした高 融点超合金の開発を進めている。それぞれの材料に対するプロジェクトでの目標は、耐用 温度1100℃、1500℃、1800℃である。 3)粒界相 焼結体の窒化ケイ素粒子間に存在するガラスまたは結晶質の酸化物。窒化ケイ素を焼結 するときに添加する酸化物焼結助剤が高温で液相に変化して、冷却後に粒子間に残留した もの。 4)焼結助剤 窒化ケイ素はそのままでは緻密化しないため、高温で液相を生じる成分を添加して、液 相の助けを借りて焼結を促進する。焼結助剤はそのための添加物。 5)クリープ 材料を高温に保ち、ある一定の応力をかけた場合、瞬間的には破断しないが、長時間に わたって材料が徐々に変形し最終的には破断に至る現象である。ガスタービンやジェット エンジン、ボイラーなど、高温で長時間用いる機器の構造材料部材にとって最も重要な特 性である。 6)ガス圧ホットプレス法 10 気圧程度の窒素ガス中で平方センチ当たり 200kg 程度の荷重を加えながら加熱する焼 結方法。窒化ケイ素の熱分解を抑えながら高温に加熱することができる。
図1 ルテチウム系焼結助剤を添加した窒化ケイ素焼結体の組織。
粒界に耐熱性に優れるルテチウム酸窒化物結晶が析出している。焼結体から薄片を切 り出し、透過型電子顕微鏡で観察した。