日中間の国際的な人の移動の経済分析 : 日本にお
ける中国人の定住化を中心に
著者
薛 秀娟
雑誌名
関西学院経済学研究
号
44
ページ
1-18
URL
http://hdl.handle.net/10236/12272
日中間の国際的な人の移動の経済分析
―日本における中国人の定住化を中心に―
International Migration between
China and Japan
─ An Economic Analysis on Chain Migration ─
薛 秀 娟
The objectives of this study are 1)to investigate recent trends of international migration in Japan (especially from China to Japan) through economic analysis based upon a model of Chain Migration and Location Choice and 2) to make policy recommendations for better management of migration to the Government of Japan and to the migrants themselves. The author tried 1) to explore the balance between inflows and outflows of Japan and their background, of each 2) to build s model for Chain Migration of the Chinese diaspora, who can change status from student to specialist, entrepreneur or permanent resident, 3) to make theoretical considerations on the location of Chinese migrants in Japan and 4) to implement econometric analyses based on Chain Migration and Location Choice . The author stresses the importance of a) reinforcing acceptance of foreign students in local cities, b) improving the environment for foreign investors and engineers and c) creating better infrastructures for permanents residents in Japan.
Xue Xiu Juan
JEL:J61, O15, F22
キーワード: 人材資源、移民連鎖、人材移動、留学生、永住者
Keywords: human resources, chain migration, international migration, international student, permanent resident
1. はじめに
目次 はじめに
第 1 章 日本をめぐる中国人の国際移動と「マイグレ−ション・チェンイ」 (1)日本における中国人の国際移動 (2)「マイグレ−ション・チェンイ」の解明 第 2 章 中国人の日本におけるローケーション選択に関する経済分析 (1)中国人の地域的分布 (2)中国人のローケーション選択の計量分析 ①中国人留学生のローケーション選択 ②中国人専門・技術労働者のローケーション選択 ③定住する中国人のローケーション選択 第 3 章 政策提言及び今後の課題 第 4 章 参照文献 はじめに-本論文の研究目的と研究方法 本論文の目的は、日中間の国際的な人の移動経済分析に通じ、日中間の人 の移動の問題点を明らかにし、中国人の移動に関する日本の外国人政策の改 革を提言することである。 日本における中国人の留学生、就労及び定住に関する先行文献のうち、中 国人留学生の移動に焦点を当てた経済分析は、井口・曙光(2005)、志甫(2012) などがある。 これらの研究では、中国人留学生の増加が、中国の一人っ子政策、家計所 得の上昇、大学進学率の上昇ばかりでなく、最近では、中国国内の地域間格 差の影響を受けていることを明らかにしている。 また、中国人を中心とする留学生に対する政策に関しては、膨大な研究が ある。最近では、厚生労働省(2012)や JILPT(2013)が、留学生の就職や 高度人材に対する政策の効果を調査している。 また、日本における華僑・華人の歴史については、王(2011)や朱(2013) によって、その全体像が明らかになりつつある。長期滞在の中国人の多くは、 日本国籍を取得せず、永住権を取得して、日中間を自由に行き来することを めざししている。
なお、技能実習生においても、中国人の存在が非常に大きい。技能実習生 の受入れは地域の労働市場の需給ミスマッチと深い関係がある(井口 2010、 長谷川 2011)。 従来の研究では、中国人の地位・資格別にとらえて、その行動を明らかに しているが、留学、就労から定住に至る流れ(マイグレーション・チェイン: 移民連鎖)が、どのような経済的要因に規定されているかを明らかにするも のではなかった。特に、中国人が、日本で、どのようなローケーションを選 択しているかを明らかにする研究はほとんどない。 また、日本の外国人政策、特に中国人に対する国の出入国管理政策と、自 治体を中心とする多文化共生政策のあり方を議論する研究は少ない。 そこで本研究では、 1) 日本をめぐる中国人の出入国と在留の関係をフローとストックのデー タの関係から検討し、 2) 留学、就労目的、そして、永住者の中国人のローケーション選択が、 どのような要因に規定されているかを、経済分析によってあきらかに する。 3) 日中間の人の移動を円滑化し、同時に、日本に定住して地域に貢献す るうえで、必要な施策について考察する。 第 1 章 日本における労働力不足問題と中国人の国際移動の事態と 「マイグレ-ション・チェンイ」の解明 (1)日本における労働力不足問題と中国人の国際移動の事態 国土が狭く人口密度が高いことを背景に、日本は、日本への移民受入れに は消極的な態度をとって来た。1889 年の 352 号勅令公布から、日本は特殊技 能を持たない外国からの単純労働者の流入を厳しく禁じてきた。1951 年の「出 入管理令」が制定された際、日本が外国人出入管理を実施する際の基本政策 は「原則として永住を目的とする外国人の入国を認めない」というものであっ た。さらに、日本の「国籍法」は、外国人が日本国籍を取得することを制限 する方向で運用されてきた。しかし、1989 年の出入国管理及び難民認定法
(以下、「入管法」と言う)改正により、専門・技術労働者を積極的に受入れ、 永住権取得の要件を緩和する方向に転換している(朱 2003)。 近年、日本社会では晩婚、非婚、結婚しても子供は持たないという傾向が 強くなっており、出生率の低下による少子化と高齢化の問題や、労働力人口 の制約が顕在化している。推定では、日本の生産年齢人口(15 歳∼ 64 歳) は 1995 年には 8700 万だったが、2000 年には 8600 万に、2050 年には 5700 万人まで減少すると予測される。日本が労働力人口を 1995 年の水準で維持 するために受入れが必要な外国人人口(Replacement Migration:置換移民)は、 国連人口部によれば、毎年平均 60 万人に達する(UN 2000)。 日本社会が、外国人住民とどのように共生していくかということは、すで に一つ重要な社会的課題になっている。地方自治体レベルでは、外国人の公 務員登用についても、次第に門戸が開かれている。例えば、神奈川県庁は、 1997年 3 月の決定で、公務員試験では一般公務員として外国人を採用しな いとする「国籍条項」を 1998 年から撤廃した。2000 年では愛知県でも「国 籍条項」を撤廃した。ただし、日本政府は、公務員に登用された外国人も、 「公権力の行使」を行う職務には従事できないという解釈を維持している(朱 2003)。 2012 年 12 月末現在の日本の外国人登録人口は 204 万人となっており、こ のうち中国人の登録者数は 65 万をこえた。特に、人文知識・国際業務の在 留資格を有する人は 3 万 3000 人程度、投資・経営の在留資格は有する人は 4400人程度、永住者は 20 万人近くに達している。 (2)「マイグレ-ション・チェンイ」の解明 本節では、現在日本に滞在する 65 万人もこえる中国人の地位・資格別に とらえて、その行動を明らかにしているが、留学、就労から定住の至る流れ を通じて、「マイグレ−ション・チェンイ」(移民連鎖)を、経済学的に解明 する。 1. 留学から就労を目的とする在留資格へ 2012 年 10 月時点の厚生労働省の統計(雇用対策法第 28 条の「外国人雇
用状況届」)によると、日本で就労する外国人は 68 万人にこえ、就労目的で 在留が認められる者(「専門、技術的分野に就労する者」)は約 12.4 万人に 達した。ただし、この統計は、企業の届け出を基礎にしているため、実際に 就労する外国人を正確に反映していない。実際の外国人労働者数は、推定で 90万人近いとみられる(井口 2013)。 入管法では、専門的・技術的分野に該当する主な在留資格は、技術(機械 工学等の技術者、システムエンジニア等のエンジニア)、人文知識・国際業 務(企画、営業、経理などの事務職又は英会話学校などの教師、通訳・翻訳 など)、企業内転勤(外国の事業所からの転勤者)、技能(外国人の料理人、 外国建築家、宝石加工、パイロット、スポーツ指導者など)、教授(大学教員)、 投資・経営(外資系企業の経営者や取締役会のメンバー)、法律・会計業務(外 国人法事務弁護士、公認会計士)、医療(医師、歯科医師、看護師、薬剤師、 診療放射線技師など)、研究(政府関係機関、企業等の研究者)、教育(高等 学校、中学校等の語学教師)などがある。 留学生は学業を終えた後、入管法 20 条に基づいて、就労目的の在留資格 への変更を申請し、認められた場合、日本で就職することができる。2012 年 時点で、留学の在留資格を持つ中国人は、中国の経済発展や東日本大震災の 影響もあって、2010 年の 13 万 4483 人と比べ約 2 万人減少し 11 万 3980 人 となった。 改正入管法が、1990 年 6 月に施行されると、専門的技術的職業の外国人 の就労が促進され、外国人留学生も、学位取得後の日本での就職が容易にな り、中国人自費留学生の多くが、大学卒業後の就職を希望した。1992 年以来、 年平均 1500 ∼ 2000 人の中国人留学生が、就労目的の在留資格に変更した。 21世紀になると、その数はさらに増加した。 2012 年 12 月末現在では、外国人の専門・技術労働者は、20 万人、留学生 のパートタイム就労は 11 万人、技能実習生は、2010 年の改正法施行後、15 万人まで回復している。 中国人の場合、留学から、人文知識・国際業務の在留資格に切り替えた者 が最も多い。「人文知識・国際業務」の資格を持つ外国人は、2012 年 12 月
末現在で 6 万 9721 人で、このうち、中国人は 3 万 3537 人(48%)を占めた 2011 年に、日本の企業等に就職することを目的として「技術」又は「人 文知識・国際業務」の在留資格で在留資格認定証明書の交付を受けた外国人 は 11、404 人で、前年比 25.4%の増加となり、このうち、中国人は 2395 人(前 年比 531 人,28.5%増)であった。 外国人留学生は、かつてなかったほど多様に、日本社会の重要な方面に影 響を及ぼしている。その分野は、自然科学から、経済学、社会学、経営学を はじめとする社会科学から、人文科学の領域まで、広範にわたっている。 2. 日本人との国際結婚-永住 日本社会との交流が広く深くなるにつれて、日本に留学した中国人が、日 本人と国際結婚し、「日本人の配偶者等」の在留資格を取得し、さらに日本 に永住する場合が増えてきた。 法務省『在留外国人統計』によると、日本人配偶者などの在留資格を持つ 中国人は、1984 年には 1 万 522 人、2001 年には 5 万 525 人、2011 年には 5 万 1184 人、2012 年には 4 万 3771 人であった。 1990 年代前半には、国際結婚した外国人のうち、48%は、国際結婚を通 じて日本に入国し定住した者であり、52%は、留学生から日本人配偶者等の 在留資格に変更した者であった。日本人と結婚した後、留学の在留資格で滞 在している外国人も少なくないことを考慮すると、毎年日本人と結婚をして 定住する中国人留学生は 1000 人を超え、総数は約 3 万人と推定される。 国際結婚した中国人の日本における活動範囲や思考・行動様式は、日本で 就職した者と大体同じであるが、就労目的の在留資格を有する者よりも、日 本国内での活動に制約が少ない。 3. 永住者配偶者、家族滞在―永住 法務省の永住許可に関するガイドラインによると、永住権をとるには、原 則として引き続き 10 年以上本邦に在留する必要がある。この期間のうち、 就労目的の在留資格又は地位・身分に基づく在留資格で、引き続き 5 年以上 在留していることを要する。ただし、日本人、永住者又は特別永住者の配偶 者又は子である場合には、実態を伴った婚姻生活が 3 年以上継続し、かつ、
引き続き 1 年以上本邦に在留していれば永住許可が付与される。その実子等 の場合、1 年以上、日本国内に継続して在留していることを要件とする。 2012 年 12 月末時点では、日本に在留する中国人永住者は約 20 万人である。 永住者らは、日中間の移動が自由となり、就労など活動についても制限され ていない。その生活面で、留学生、人文知識・国際業務などの在留資格を有 する者より有利で、生活保護を含む社会保障の面で、日本人とほぼ同じ権利 を持っている。 最近の永住者は 80 年代や 90 年代と違って、年齢が若く、活力に溢れ、社 会活動範囲も広い。また日本社会と接触するレベルが高く、溶け込もうとす る積極性も強いため、日本社会においても重視されているといえよう。 中国との関係においては、高齢の永住者に比べて、中国への理解は直截で、 中国社会との関係が密接で、中国の国内事情をよく理解している。また、中 国政府一人子政策の影響で、老後は、中国に戻る可能性が高いとみられる。 上述から分かるように、留学、就労目的の在留資格から永住権取得に至る 流れは複雑である。 永住権取得に至るには、いくつの道がある。これを整理すると、①「留学 生」→「人文知識・国際業務」→「永住者」 ②「留学生」→「国際結婚」、 「永住者の配偶者」→「永住者」、 ③「留学生」→「家族滞在」→「永住者」 などの可能性がある。これを図示すると、図 1 の通りである。なお、これは、 筆者が作成したもので、国籍取得(帰化)は、明示していない。 中国人の「マイグレ−ション・チェンイ」では、中国人留学生が重要な役 割を担っている(表 1、表 2、表 3、「在留外国人統計」に基づく)、入管第 20条による在留資格変更とは、在留資格を有する外国人が在留目的を変更 して別の在留資格に該当する活動を行おうとする場合に、法務大臣に対して 在留資格の変更許可申請を行い、従来有していた在留資格を新しい在留資格 に変更するために許可を受けることをいう。また、本研究における在留資格 変更は、主として、留学資格を有する中国人が、在留目的を変更して別の在 留資格に取得することという。 表 1 からわかるように、「人文知識・国際業務」の在留資格を有する中国
人の入国と出国を比較すると、出国超過(マイナスの入国超過)の傾向が続 いている。しかしながら、人文知識・国際業務の在留資格による登録者数は、 おおむね維持されている。その理由は、出国超過の部分を、留学の在留資格 からの変更によって補うメカニズムが働いているからである。 「人文知識・国際業務」の在留資格を有する中国人は、中国から日本に入 国する以上に、中国に出国する傾向が強まっているが、留学生からの在留資 格の変更が増加しているため、日本からの人材流出の傾向が見えなくなって いるのである。 表 1 人文知識・国際業務の在留資格を有する中国人の出入国と登録の状況 年 入国 出国 出国超過 在留資格変更 登録 2008 60890 62358 -1468 5852 31824 2009 63297 63789 -492 4694 34210 2010 65570 66650 -1080 3593 34433 2011 70567 72897 -2330 3993 34446 2012 65434 67932 -2498 ─ 33537 資料出所:法務省入国管理局の統計をもとに、筆者作成。 図 1 中国人の「マイグレ-ション・チェンイ」 中国 日本 留学生 技術、人文知 識・国際業務、 教授など
永住者
家族 滞在 永住者 の配偶 者 入国 出国 在 留資 格 変 更 資料出所:筆者作成なお、外国人登録の数値は、中国人の出国超過数の動向と、在留資格の変 更数を、即時に反映して変化していない。これは、日本国内で登録を維持し、 再入国許可を得たままで、出国している者が多いことと、登録データが毎年 12月末の統計であることによるものである。 また、「技術」の在留資格を有する中国人も、日本から出国超過の傾向が 続いている。しかも、「留学」からの在留資格変更によっても、登録者数の 減少傾向を補うことができない。 その背景として、日本経済が停滞するなか、中国で高成長と雇用機会の増 加傾向が続いたことがあると考えられる。また東日本大震災により、出国し た中国人が多かったことも影響しているであろう。さらに、中国人技術者が、 日本企業の長期雇用慣行に相容れず、高い処遇を求め、離職して出国する傾 向が強まったことを反映している可能性がある。(表 2)。 また、「投資・経営」の在留資格の場合、在留資格を維持し、再入国許可 を得て、出入国を繰り返している者が多いとみられ、出国超過は比較的小幅 であることから、留学からの在留資格の変更も加わって、登録者は増加して いるとみられる(表 3)。 このように、中国人留学生が増加傾向を維持し、学位取得後に、在留資格 表 2 技術の在留資格を有する中国人の出入国と登録の状況 年 入国 出国 出国超過 在留資格変更 登録 2008 38724 37515 1209 1510 27665 2009 37694 38931 -1237 1305 27166 2010 35805 36790 -985 802 25105 2011 39666 41374 -1708 918 22486 2012 34571 35599 -1028 ─ 20924 資料出所:法務省入国管理局の統計をもとに、筆者作成。 表 3 投資・経営の在留資格を有する中国人の出入国と登録の状況 年 入国 出国 出国超過 在留資格変更 登録 2008 5445 5455 -10 47 2096 2009 6064 6097 -33 64 2555 2010 7203 7231 -28 180 3300 2011 8847 9008 -161 194 3974 2012 9561 9647 -86 ─ 4423 資料出所:法務省入国管理局の統計をもとに、筆者作成。
を変更して就職する結果、在留する中国人材数が維持されるという効果は非 常に大きい。即ち、留学生の就職が増加しなければ、日本からの中国人の人 材流出はもっと大幅になっていたであろう。 さらに、これら留学から在留資格を変更した中国人は、「家族滞在」で中 国人の配偶者などを呼び寄せる。その場合、日本人との国際結婚で「日本人 の配偶者」等の在留資格に変更し、中国人の「永住者」との結婚で「永住者 の配偶者」等の在留資格に資格変更することになる。そして最低 10 年間(日 本人の配偶者では 5 年以内)の合法的滞在で、「永住者」の在留資格を取得 できる。「永住者」の在留資格があれば、日中間を、自由に移動し、自由に 活動することが可能になるといえよう。 第 2 章 中国人の日本国内におけるローケーション選択の経済分析 (1)中国人の地域的分布 日本に入国し、在留する中国人は、在留資格によって、国内で異なる「ロー ケーション」を選択の意志決定を行っている。これが、「マイグレーション・ チェイン」に沿った変化(留学→専門的・技術的労働者→永住者)によって、 どのように変わるかを考察してみよう(以下の図は、法務省在留統計をもと に、筆者が作成)。 これらの図から、以下のような状況が読み取れる。中国人留学生は、大学 の所在地によって、そのローケーションは地方に分散しているものの、大学 が多い首都圏に集中する傾向は否定できない。 「人文知識・国際業務」、「技術」、「投資・経営」の在留資格で就労する中 国人の分布は、経済活動や雇用機会を反映し、首都圏集中の傾向が高まって いると考えられる。 永住者の場合も、首都圏集中の傾向は見られるが、首都圏、中部圏、関西 圏の大都市圏を中心に広く分布していることがわかる。 (2) 中国人のローケーション選択の計量分析 2012 年 12 月末時点で、中国人の登録者数は 65 万人にも超える。その中で、
図 2-1 中国人留学生
「投資・経営」、「留学」、「人文知識・国際業務」、「技術」、「永住者」で登録 する者数は 20 万人を超える。 このような中国人の在留者は、日本国内で、何を根拠に、特定の地域で就 労し、そこで居住しているのであろうか。 この問題を解くために、本研究では、法務省「在留統計」(2001 年から 2011年)都道府県別の外国人の分布に関する登録データをプールし、その 分布がどのような要因によって決定されているのかを、多変量分析によって 明らかにする。
Location Choice の経済学理論としては、井口(2011a)と同様のモデル を利用した。この理論では、個人の所在地の決定は、所得、雇用などの経済 的要因のみならず、地域コミュニティや外国人学校の存在など、社会的要因 を含めて、分析を行っている。 また、多変量解析のための計量方程式は、以下のようにあらわされる。 Y = a0+a1X1+a2X2+a3X3+a4X4+a5X5+a6X6+u(ただし、u は誤差額) 図 2-3 中国人の永住者
被説明変数は「永住者数」とする。これは「在留外国人統計」を用い、在 留資格ごとに中国人を都道府県別に 2001 年から 2011 年までプールした。 説明変数 X₁ は、「賃金」とする。これは「賃金構造基本調査」を用い、都 道府県別の賃金を利用した。仮説としては、外国人が国内で労働力として移 動する場合、少しでも賃金高い場所を選択すると考える。 説明変数 X₂ は完全失業率とする。「職業安定業務統計」を用い、都道府県 別に利用した。仮説では、外国人が労働力として国内で移動する場合、失業 率が低い所を選択すると考える。労働移動に対する制約は、在留資格によっ て異なっている。また、第三次産業が集中している地域では、一般的に離転 職が多く、失業率は比較的高くなると考えられる。 留学生は、労働者ではないが、多くの私費留学生は、生活費を自分で稼ぐ 必要がある。居住地としては、第三産業を集まる地域を選択する可能性が高 いと考えられる。 説明変数 X₃ は、地域アメニティ(大都市圏ダミー)とした。仮説では、 大都市圏であれば交通、教育、文化といったインフラ水準が高く、生活水準 がよくなるため、外国人労働者に選択されやすいと考える。 在留資格のうち、「留学」、「人文知識・国際業務」、「技術」、「投資・経営」 及び「定住者」などの在留資格を有する労働者が、「マイグレーション・チェ イン」の順序に従い、その居住するローケーションを選択すると考える。こ れらについて回帰分析を行い、比較した。その結果は表 4、表 5、表 6 となる。 表 4 第 1 段階:中国人留学生のローケーション選択 係数 T値 賃金水準 47.060 8.462 完全失業率 612.137 4.539 特別永住者 6.426 7.426 首都圏ダミー 4534.812 7.56 中部圏ダミー -272.160 -0.554 関西圏ダミー -2452.562 -4.130 決定係数 0.573 サンプル数 517 注)*** は 1%水準で有意。** は 5%水準で有意。以下同じ 資料出所:筆者作成。
留学生の居住するローケーションについても、留学生が就労目的で入国し たわけではないないにもかかわらず、労働市場要因が働いている。即ち、結 果的には、賃金の高い地域を選択している。 留学生が、生活費を自分で稼ぐためにアルバイト(原則として、資格外活 動の許可は、週当たり 28 時間を限度とする)をしているのが、第三次産業 中心である。このような産業が集中している地域はでは、離転職も多く、失 表 5 第 2 段階:中国人専門・技術労働者のローケーション選択 人文知識・国際業務 技術 投資・経営 ケース 1 ケース 2 ケース 1 ケース 2 ケース 1 ケース 2 係数 T値 係数 T値 係数 T値 係数 T値 係数 T値 係数 T値 賃金水準 14.483*** 8.073 7.793 7.243 1.600 7.879 完全失業率 170.758*** 3.881 -56.574 -2.896*** -60.248 -3.441*** 57.016** 2.131 22.396*** 4.496 -3.505 -1.890** 中国人留学生 数 0.287*** 47.275 0.139*** 26.286 0.032*** 58.087 首都圏ダミー 2239.51 11.343*** 57.115*** 6.345 1906.89 23.798*** 2699.3*** 22.795 205.982 9.215*** 4.542 0.535 中部圏ダミー 9.910 0.060 51.505 0.721 115.190 1.799** 75.586 0.761 -21.075 -1.125-19.151 -2.824*** 関西圏ダミー -103.311 -0.569 -45.965 -0.643 -89.385 -1.395 -149.661 -1.374-41.695 -2.027*** -39.923 -5.884*** 決定係数 0.517 0.517 0.872 0.726 0.517 0.919 サンプル数 517 517 517 517 517 517 注)*** は 1%水準で有意。** は 5%水準で有意。* は 10% 水準で有意。 資料出所:筆者作成。 表 6 第 3 段階:定住的な中国人のローケーション選択 永住者 家族滞在 日本人配偶者 ケース 1 ケース 2 係数 T値 係数 T値 係数 T値 係数 T値 賃金水準 53.216*** 9.037 7.079*** 4.084 6.873*** 10.617 12.797*** 10.007 完全失業率 636.761*** 4.245 45.025 0.986 95.393*** 6.237 96.150*** 3.182 中華学校 -16.303 -0.21 2639.558*** 17.036 272.5*** 5.259 614.169*** 6.000 人文知識・国際業務 3.34 18.101 0.476 6.092 2.094*** 13.578 技術 -0.017 -0.138 0.289 3.818 -1.631 -10.904 投資・経営 -1.236 -1.000 6.289 14.309 -3.127 -3.601 首都圏ダミー 13663.78*** 9.287 946.995*** 7.500 4316.373*** 17.305 中部圏ダミー 319.673 0.582 369.083 6.626 95.037 0.864 関西ダミー 1243.168 1.759 -387.780 -5.969 -690.996 -5.384 決定係数 0.628 0.965 0.981 0.917 サンプル数 517 517 517 517 注)*** は 1%水準で有意。** は 5%水準で有意。* は 10% 水準で有意。 資料出所:筆者作成。
業率は比較的高いと考えられる。 留学生は首都圏への集中傾向が強く、関西圏から留学生が流出する傾向も みえる。首都圏は、交通、教育、文化などのインフラ設備が充実しているこ とも、ローケーション選択の背景と考えられる(表 4)。 推計結果から、中国人の専門的・技術的労働者も、賃金の高い地域を選択 して居住していることがわかる。 特に、大都市圏では交通、教育、文化といったインフラが整備され、生活 水準が高く、中国人専門技術労働者が選択しやすいとみられる。 これらの在留資格を持つ者の分布は、留学生の分布とも相関性があり、中 国人が、留学生から資格変更してきた人が多いことがうかがわれる。 つまり、実証的研究の結果から、①在留資格の違いに関わらず、専門・技 術労働者は、賃金高い所を選択する。②大都市圏では交通、教育、文化といっ たインフラが整備され、生活水準が高く、中国人が選択しやすい。③これら の在留資格を持つ者の分布は、留学生の分布とも相関性があり、中国人が、 留学生から資格変更してきた人が多いことがうかがわれる。「マイグレ―ショ ン・チェンイ」の中では留学生が重要な役割を担っている。 永住者のローケーション選択の分析では、「人文知識・国際業務」の在留 資格からの変更による場合と、地理的分布にも非常に類似性が高い多いこと がわかっている。また、これら在留資格と、首都圏、中部圏及び関西圏のダ ミーを同時にいれると、独立変数間の相関が強くなるため、在留資格をいれ たケースと、地域ダミーを入れたケースで分けて分析した。 永住者は、何等かの在留資格で、最低でも 10 年、優遇措置においては、5 年程度の合法的な滞在が前提にされている。 永住者については、賃金の高い地域を選択し、また、首都圏への集中傾向 も見られる。 永住者は、「人文知識・国際業務」からの変更が多いため、そのローケーショ ン選択も、相関性が高いと考えられる。家族滞在者は、就労する中国人と同 じ選択をし、「日本人の配偶者」などは、就労する日本人と同じ選択をして いると考えられる。
これら分析結果をまとめると、次のようになる。 1、在留資格にかかわらず、賃金の高い地域を選択することがわかった。 2、 留学生、中国人就労者は首都圏への集中傾向が強く、関西圏から流出し ている可能性がある。 3、 「人文知識・国際業務」の中国人労働者と比べて、「技術」、「投資・経営」 などの資格から「永住者」へ変更する中国人は少ない。 4、定住する中国人は、教育環境やコミュニティの備わった地域を選択する。 第 3 章 政策提言 現在、国際競争はますます激しさを増やしている。とりわけ、人的資源の 競争が、国際競争の焦点の一つとなっている。この 20 年、中国の改革開放 政策によって育まれた中国人留学生という人的資源は、科学技術の知識や情 報などの分野ばかりでなく、経済、社会、文化及び国際的なネットワークな ど、各分野で力を発揮し、時間・空間を超えて、発展している。 「空間」については、50 万人以上の留学生が 100 以上の国に散らばっており、 この人たちは、関係各国にとってばかりでなく、世界全体にとって貴重な財 産である。その多くは、既に所在国の中間層以上の社会に入り込み、少なか らぬ人々は、その従事する領域で重要な職務に当たっている。その滞在する 社会のいくつかの分野で大きな力を持ち、受入国で非常に重視されている。 「時間」でみると、現代の中国人留学生の圧倒的多数は 50 年代から 90 年 代までの生まれてあり、彼らは東西文化に精通した質の高い国際的人材とな りつつある。すでに築き上げられつつある極めて国際的な人的ネットワーク の中で、優れた媒介役となり、21 世紀の中国、ひいては、世界に、重要で 深い影響を与えるだろう。 中国の経済発展に伴い、雇用機会も増加しているなか、日本では中国人の 専門・技術労働者の出国超過が続いている。最近、50 年代生まれの留学生 と比べ、80 年代や 90 年代生まれの留学生は帰国希望が強い。これは、日本 が雇用機会として、魅力を失いつつあることを示す重要な事実である。 同時に、専門・技術労働者の流出傾向を、多数の留学生受入れでおぎなっ
てきていることも、重要な発見である。就職した留学生は、社会科学系の学 部・学科の卒業者に、日本に定住する傾向が強く、しかも首都圏に集中傾向 が強い。 日本政府も、留学生が貴重な人材資源であるということを認めており、「留 学生 30 万人受入れ計画」が進められている。こうしたなかで、筆者は以下 の 3 点を提言する。 1) 日本政府は、東京以外の地方都市で、留学生の受入政策を強化すべきで ある。少子・高齢化の日本では、留学生は、減少する人材を補い、地方 の活力を維持するうえで、重要になるからである。 2) 技術者と投資・経営者は、日本での定住傾向が低い。これは、これらの 人々の処遇又はビジネス環境に制約があるためであり、日本政府は、外 国人技術者や企業経営者に対し、もっと支援策を講じるべきである。なお、 現在の高度人材ポイント制度にはまだまだ改善すべきことがあり、再検 討する必要がある。 3) 永住者については、教育・医療などのインフラ設備を改善することも、 永住者を受け入れる上で重要である。高度人材を受け入れるだけでなく、 定住しやすい条件づくりが必要である。 参照文献 ・井口 泰(2012)「グローバル時代の人材戦略−新興国企業への頭脳流出に どう対応するか−」中部産業連盟『プログレス』2012 年 7 月 1 日号,pp2-6 ・井口 泰(2011a)『世代間利害の経済学』八千代出版 ・井口 泰・長谷川理映(2010)「世界経済危機下における労働市場政策の新 たな展開」関西学院大学経済学部研究会『経済学論究』第 64 巻第 2 号,PP 39-71 ・厚生労働省(2012)「高度外国人材の日本企業就職支援事例集」高度外国人 材の日本企業就職促進プロジェクト事業 ・守屋貴司(2011)『日本の外国人留学生・労働者と雇用問題―労働と人材の グローバリゼーションと企業経営─』晃洋書房 ・労働政策研究研修機構(2013)『企業における高度外国人人材の受け入れと
活用に関する調査』調査シリーズ 110」
・志甫 啓(2012)「在留外国人の増加と日本人労働力の活用状況に関する考 察−都道府県データからみた若年層・中高年層・女性の活用と在留外国人の 関係−」『国際学研究』(関西学院大学国際学部研究会)第 1 号,pp.65-78 ・Iguchi Y.(2012) Recent migration Trends and Policies in Japan , paper
submitted to the Europe-Asia Dialogue, Policy Dialogue on Migration and Integration, Dutch Ministry of Interior and Kingdom Relations in den Hague, the Netherlands 30 . November2012
・朱 慧玲(2003)『日本華僑華人社会の変遷』日本僑報社
・Cohen R.(2008)Global Diasporas, An Introduction, Second Edition, Rutledge (ロビン・コーエン『グローバル・ディアスポラ』明石書店) ・UN Population Division(2000)Replacement Migration : IS IT a Solution to