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巻頭言「人工知能技術の品質の研究に期待すること」

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Academic year: 2021

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121 人 工 知 能  34 巻 2 号(2019 年 3 月) アカデミアからは,IJCAI や AAAI などの人工知能関連の国際会議の参加者が毎年倍々に増えているとか,投稿数 が数千本であったとの話が聞こえてくる.企業からも,毎日のように人工知能,特に機械学習を使った実応用の実証 実験がうまくいたというようなニュースが聞こえてくるようになった.人工知能の冬の時代を経験した者としては, またすぐにブームが終わってしまうのではないかと危惧したりもするが,人工知能への注目はまだまだ続く様子であ る. 企業研究員の立場で人工知能が本当に役に立っているのかと振り返ってみると,実証実験がうまくいったという ニュースを聞く割には社会の役に立っている実感が少ない.その一つの理由には,実証実験でうまくいくレベルの品 質と,社会的に役に立つ品質との間にはなかなか埋まらないギャップがあるからではないかと思う. 本誌を読んでおられる方には釈迦に説法かもしれないが,人工知能の中心的な技術である機械学習のモデルをつく るのは存外大変である.実証実験では,元データから学習に適した部分だけを取り出すクレンジング,モデルをつく るのに必要と思われる特徴量の抽出(ディープラーニングでは一部省略できるが),ハイパーパラメータの決定という 一連の作業の試行錯誤を繰り返して,やっと満足のいく精度になるのが現状であろう.実証実験であればここまでで よいが,企業がそれを実際に役立つ製品やサービスにするには,さらにその品質確認をする必要が出てくる(あえて 品質保証とは言わないでおく). もちろん実証実験でも学習用データのクロスバリデーションなどをして精度評価(ある種の品質確認)はしているが, 実データが来たときに特徴量を想定どおりにつくれるのかとか,絶対に外してはいけないデータに対する精度は十分 であるかを確認する必要がある.最近では人工知能が出した結論が倫理的に正しいか(例えば公平性を満たしているか) などを確認する場合もある.すでに,同じ問題意識をもった人達はいて,日本ソフトウェア科学会の機械学習工学研 究会(MLSE)や AI プロダクト品質保証コンソーシアム(QA4AI),さらには新エネルギー・産業技術総合開発機構 の「機械学習 AI の品質保証に関する研究開発」で研究が始まってきている.ここでは主にソフトウェア品質の技術 を機械学習に適用したらどうなるかという観点からそれらが行われている.その結果,人工知能技術を使うシステム に関する品質テストのためのテストデータをどう用意するのか,テストの網羅性はどう計測すればよいのか,品質保 証プロセスはどうあるべきかという方向で主に議論されている. だが,ソフトウェア品質の技術は伝家の宝刀ではない.例えば大多数の機械学習の応用では,適用対象である実世 界のほうが変化が激しい.画像で商品を認識するというのはすぐに思いつく応用だが,毎日のように新商品が出てく るので,そのたびに学習をし直さないといけない.学習し直しの手間と時間と計算コスト(GPU を使うとばかにな らないお金が請求される)もさることながら,学習をし直した後の品質が十分であるかを確認しきれないのが一番の 問題である.学習し直しをした場合に,以前は正解できていたことが正解できなくなるというのはよくあることだが, これは企業の品質保証部門には,ソフトウェアのデグレードとみなされてしまうことが多い.このデグレードは最も 避けたいことなので,以前は正解できていたことを学習し直した後でも正解できるようにするために,手間暇かけて チューニングするなどという笑えない話がある.このような課題はソフトウェア品質の手法だけで解決することはで きない. 人工知能技術の品質の課題に対しては,例えば人工知能の基礎技術の研究で解決するというのはどうだろうか.人 工知能の専門家が所属する本学会であれば,このような課題に対して,コンセプトドリフト向けの機械学習の拡張に より,わずかな追加学習時間でモデルを更新可能で,以前のモデルでの正解は絶対に間違えないように学習できるよ うなアルゴリズムを提唱できるかもしれない.ほかにも,自然言語処理の中で使う機械学習に関する品質の研究や, 品質の低い答えの原因となるデータを除外するために学習データや学習アルゴリズムの性質を使う研究など,多くの 研究課題があげられるだろう. 現在,本学会には多くの企業研究員や賛助会員が参加しており,それら会員とアカデミアの研究機関との共同研究 などの縁をとりもつ場の一つになってきている.人工知能を実社会に役立たせるために必要な品質に関係する新しい 研究が本学会から生まれてきてほしいと切望している.

巻頭言

人工知能技術の品質の研究に

期待すること

上田 晴康

(株式会社富士通研究所)

参照

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