不完備契約の下における建設業の収益認識
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(2) 第44巻 第2号 まい。わが国の建設業の請負契約には不完備があり, そのことが入札の慣行である談合を もたらしている。 以上の事実を知った上で, 受注者である建設業者の収益認識を分析するのが本稿の課題 である。. II.. 建設工事契約の不完備. わが国の建設請負契約については.第二次大戦後に法律学者による詳細な分析がある叱 そこで本稿は. この研究に拠りつつ会計上の収益認識に関わる論点を明らかにしたい。 請負の目的が建設工事の完成にあることは明白である。 その結果として請負業者は代金 を受領する権利が生じるのである。従って. 本来は双務契約である。工事の完成と代金の 受領とが契約の基本内容となっているからである。しかしわが国の請負契約は契約そのも のがおよそ近代的な対等の関係によって成り立つものでなかったという(31。それは契約と いうよりは一方的な命令に近いものであった。 請負契約が双務契約ではなく, 片務契約と 言われる所以である。 建設工事における契約が発注者に有利で受注者に著しく不利である ことは. 分析の出発点である。請負契約は受注者にとっては確定性を欠いた不完備な契約 であっても, 発注者にとってはわがままが言えるものなのである。 それ故に. 契約通りに 物事が進行しさえすれば. 金鉱山の生産基準のように契約時に収益を認識することも可能 であろう。実際には, 自然災害や経済環境の変化によって契約の通りには工事は進行しな い。建設工事はその出発点に契約の不完備があったのである。 次に建設工事の着工から完成までの期間をめぐる契約をみてみよう。請負人の義務につ いて. 工事期間は任意の期間であり, はっきりと確定していなかったらしい。請負人と注 文者の契約は, 双方の事情によって交渉を通じいくらでも変更のいくものであったのであ る。期限を過ぎても工事が完成できなかった場合には, 受注者が責任を負い. 工事延長に よる費用の負担もしなければならぬのである叱要するに. 我が国の請負契約は完成する までは. 請負業者は不確実な状況におかれたのである。工事が終了し, 完成した時点で契 約の内容は完備する。工事代金の完全な弁済をもって全ての請負工事のプロセスが終わる とすれば. まさに工事の開始から終了に到るプロセスは契約の内容が不完備であった。. (2)川島• 渡辺 (1950) である。以下はこの研究に負うている。 (3)川島 (1967) 。 (4)川島• 渡辺 (1950, 41)。 -118 (246)-.
(3) 不完備契約の下における建設業の収益認識(毛利) さらに工事代金の支払いについても契約は不完備である。工事の完成, 引渡しが済んで 請負人は発注者に対する代金請求の権利が生じる。発注者にとっては代金支払いの義務で ある。受注者にとっては引渡しによって請負工事が完了したとみてよいようにみえる。と ころが, 受注者の代金の受け取りが時期がいつになるか不確定といわれる。つまり, 受注 者にとって代金を請求する権利が発生しても, ただ完成, 引渡しの後に代金を支払うとあ るだけで, 契約は不完備なのである151。 工事請負契約のプロ セスを契約から代金受領まで とすれば, とにかく, 代金受領が完了しない限りは契約は不完備ということになる。この ことから真の意味において, 建設工事のプロ セスが完了するのは, 工事の完成, 引渡しで はなく, 代金の受領の時になるのである。受注者としては工事が完成し, 引渡しをすれば 代金請求権が生じるわけではないのである。受渡しまでの危険は受注者の負担なのであ る。代金の支払いについても発注者に有利になっている。 他方, 発注者にとっても工事の完成, 受渡しの後の契約内容は不完備である。それは建 設工事の品質である。 受注者の工事の完成, 引渡しの義務と発注者の代金支払義務との間には大きな隔たりが あるという。受注者にとっては, 発注者の権限が強いのであれば, 工事が完成, 引渡しす るまでは発注者の要求に従わざるを得なかったのである。工事の進行途上にあっては, 発 注者はわがままな要求を通したのである。ともかく受注者は, 工事を完成し, 引渡してし まうまでは契約書に書かれていないことが生じても, ともかく発注者の命に服さざるを得 なかった。しかしいったん工事が完成して, 引渡しをした後は, 発注者は工事に手抜きが あったとしてもそのことを見つけ出すことは困難である。もともと建設請負工事は, 受注 者に不利な片務契約であるから, 発注者の側に問題はないと考えられるかもしれない。実 際, 工事執行の予算がつくられると, 現場ではこの予算通りに行事が行われるという。そ の意味において, 工事契約はまさに契約通りに履行されるのである。ところが, よく考え ると, 契約の内容は金額に関わることである。この点については, 受注者にとっても, 契 約金額から代金の支払に到るまで契約に記載され問題はない。たとえ, 工事が契約期間を こえてしまったとしても, たとえそれが契約内容にはなくとも受注者負担となるであろ う。しかしそれはここで問題でない。問題は完成した工事の品質である。品質については 契約条項にない。表で示すと次のようになる。. (5)川島 (1967, 106-126) による。 -119 (247)-.
(4) 第44巻 第 2 号 表II-1. 言五. 時系列で示すと, 契約時 to, 代金完済時 t n とすれば次の表になる。 表II - 2. tn. to, 金 額I完 品. 備. 質I不完備. 建設工事に関わる品質以上, 請負契約の問願点をまとめてみると次の表のようになる。 表II- 3 発. 注. 受注者(建設業). 者. 工事の完成, 引渡 受渡し 代金の支払,受領 支払義務があるが特定しない 工事の期間 工事の品質. 引渡義務 請求権はあるが,発注者の意向に委ねる 負担義務 責任を負う. この表を見る限りにおいて,発注者に比べて受注者側が著しく不利な立場にあることが 分かる。もちろんこの表は双方の間の大まかな権利と義務を示したものであるから,個別 に契約の内容を分析することにしよう。 ところで契約の不完備という場合, 二つの性格があることがわかる。 1.. 契約の当事者双方の権利, 義務が対等でないこと。. 2.. 財の品質や将来起こるかもしれない出来事への対処など, 契約の内容が不確実であ ること。. 1. は建設工事における発注者と受注者との関係を示すものであり, 2. は工事そのものに 関わっている。 先ず1. については, 官公庁が発注者となって, 建設業者が請け負う工事の場合, 発注者 と請負業者との権利と義務の差異をまとめると次のようになる1610 表 11-4 � ない. 発注者(官公庁). 命. 請負業者. 代金請求権. (6) 川島• 渡辺 (1950, 20)。 -120 (248)-. 命令に服するに近い.
(5) 不完備契約の下における建設業の収益認識(毛利) このように, 発注者と請負業者との間の契約が後者の義務が前者より強いという状況の 下では, 工事が完成し, 引き渡すまでは受注者にとって不安定な立場にあるわけである。 不完備契約の下にあって, 建設業は長期の工事期間中, 企業活動をどのようにコントロ ー ルするかの課題にせまられるであろう。 次に2. については以下の図によって示すことにしよう。受注者が発注を受けて工事を始 めたとする。工事はtまで既に進行している。 ー. 』__ to. 既済. ー―ー. ――—. ゴニニ. 図II-1. 杢 包_ _. _`ー―------+ t2. ともかくも発注者は t の時点まで工事を終えたのは確かなことである。 それは受注者が 経過期間について契約を履行したことを意味する。tまで工事は既に終わっているのであ るから, 受注者は発注者に代金の請求をしてもよいように思える。ところが発注者は代金 の支払義務はあるともないともいえるという。代金の支払義務でさえもあいまいなのであ る。工事の進行の途上には代金回収について確定的なことは何もないのである。本当に代 金の回収が確定的になりうるのは, 工事完成後のことといわねばならない。 さて長期請負工事における会計方法を理解するには, 建設工事をめぐる発注者と受注者 の契約に触れることなしには理解し得ないものがある。契約の不完備という状況にあっ て, その対応には二つの考え方が可能である。その一 つは, 契約の不完備はいずれにして も, 建設工事の完成, 引き渡しまでは解消しないとする考え方である。その二は, 工事の 進行によりそれだけ受注者は契約を履行していくのであるから, 契約の不完備は期間が経 過しただけ解消したとする考え方である。 筆者はこうした契約の不完備から建設工事についての収益認識基準が生じたと確信す る。現在の会計慣行として, 前者は工事完成基準であり, 後者は工事進行基準である。 受注者は工事完成義務を負う。それは請負工事の基本となるものであり, 契約に従って 仕事を完成する義務である。発注者がその立場から仕事を与えたとの考えにある限り, 受 注者として極めて弱い立場にあることは事実である。そうであれば, 工事完成を待たねば 受注者にとって代金請求の権利は生じなかった。これらの状況は, 受注者にとっては動か しがたい事実であり, やむをえざる立場であった。問題は受注者がこのことをいかに受け とめ, 会計処理にどのように反映させるかにあった。この事実を会計上の収益認識に照ら して考えてみると, 請負工事はまさに工事が完成しない限りは利益を稼得したことにはな らないのである。契約の不完備が収益の認識基準を導いていると考えてよいであろう。契 -121 (249)-.
(6) 第 44巻 第 2号. 約が完備しておれば, 契約時とても収益を認識することは不可能ではなかったであろう。 工事が完成するまでは, 受注者は発注者の一方的な権限の下にある。契約額が決められて いても, 損害が生じ修繕が必要となったときなどこれら全てが受注者の責に帰すべきもの とすれば, 工事完成を待つほかないのである。収益認識基準としての工事完成基準がこれ である。これに対して. 契約内容が不完備であっても期間の経過によって受注者は契約を 履行していくと考えることができる。工事期間についての契約が確定しておれば. 工事進 行の途上にあっても, 既済の工事について収益の計上を認めることはありうべきことに違 いない。収益認識として工事進行基準を導く一つの理由はここにあると考える。 契約の履行は, 工事の発注者にとっても受注者にとっても重要な関心事である。これに ついて. わが国では請負契約の意味を受注者が最後まで工事を履行することと解している という。従って. 受注者が工事の着工から完成に到るまで工事の保証責任を負う。これに 対し, 欧米では工事の完成とは実質的に工事が終了しておればよいのである。つまり, エ 事の大要が済んでおれば工事の完成とする。これに対し, わが国では工事のすべてが済ん でしまってからでないと完成とはいわないのである。工事の変更についても, そもそも発 注者側に責任があるものの. 代金請求については不明確であるとしている叱 そこで次の節では建設業における契約と収益認識との関係について述べてみたい。. 皿 工事完成基準と工事進行基準 周知のように建設業における収益認識基準には工事完成基準と工事進行基準とがある。 既述のように二つの収益認識基準を支える理由には, 契約内容がある。. 工事完成基準 請負契約における発注者の義務は, 代金の支払義務のみである。代金の支払いだけが発 注者の義務として契約が完備しているとすれば, 工事が完成し, 引渡しが済んでからでな いと契約は完備したことにならない。受注者である請負業者は不利な立場にあるのであ る。このことは逆に発注者である買い手にとっても, 工事の受渡しがあってはじめて, 代 金の支払額が確定し契約の内容が整うことになる。工事が契約金に対し延長した場合に は, 請負人としての受注者が責任を負い,. コ ストを負担するのである。延長の責任が請負. (7) 高比良(1992, 6)。. -122 (250)-.
(7) 不完備契約の下における建設業の収益認識(毛利) 業者にある場合は当然のことであるが, 天災などの 自然の要因による場合でさえも, 請負 人の責任になるのである。 そのことは契約に書かれていない181。 しかしそこには暗黙の了 解が存するのである。 請負契約は債務の履行という結果だけでは済まない。 むしろ, 債務の履行をなすプロ セ スこそ重要である。不完全な工事がありうるからである。しかし, 工事のプロ セスを全て 契約に書き込むことは不可能である。工事が不完全であっても, 途上においてその事実を 見つけることは困難である。工事の完成, 引渡しをもって, はじめて問題が明らかになる のである。 しかし逆に以上のことから, 次のことが言える。 工事の進行途上ではその不備が見つか らなくとも, 完成引渡しの結果見つかるとすれば, 不備の発見後は当然請負業者において 欠陥を補償する義務を負う。このことは, 工事進行の途上は契約は不完備であっても, 完 成, 引渡しの後は契約が完備することを意味する。 それ故, 工事の完成引渡しをもって, 不完備な契約内容から完備した契約へと転換するのである。 工事完成基準がありうる理由 は, まさに契約の不完備に因ることが分かるであろう。 所有権の移転は図で示せば次のようである。契約, 着工, 完成, 代金完済のそれぞれの 時点を to,. t1,. tn-1,. tn. :(. to. とする。 一ー契約の不完備. 'ー. tn-1. 図皿 ー. tn. 1. 買い手にとっての明確な義務が代金支払いの義務だけとすれば, 売り手にとって請負契 約の契約内容がはっきりするのは工事の完成, 引渡しであることがわかる。 建設工事において, 建物が完成し, 引渡しをし, 代金を受領して所有権は受注者から発 注者へ移転する。所有権の移転という立場から見れば, 確定するのは代金の完済の時であ る。このことからして, 工事完成基準による収益認識は決して所有権の移転とは関係がな い。つまり, 工事完成基準は財の交換や代金を基礎にした収益認識ではないのである。大 事なことは, 工事完成前と後とで何がどう変化するかを見抜くことである。 かくて, 長期請負工事の場合, 契約の不完備な状況が工事の完成期まで続いていくので ある。しかし, 特定物の工事が完成し, 引渡しがあればあとは代金の受領のみである。と. (8). 川島• 渡辺. (1950,. 32)。 -123(251)一.
(8) 第44巻. 第 2号. くに官庁の請負工事の場合には代金の受領は確実である。故に, 工事完成後は契約は完備 し, 契約通りに履行されるのである。このことからして, 建設工事の着工から代金の完済 に到るまで, 契約の不完備な状況が持続するとの立場をとれば, どのような収益認識基準 が適切かはもはや明らかであろう。工事完成基準がそれである。 このように, 買い手にとってのはっきりした義務が代金支払いの義務のみであるという 状況下で会計処理はどのようになるであろうか。そもそも代金支払いの義務は工事が完成 し, 引渡しがない限り確定できない。 とすれば代金支払義務の契約内容が完備するのは完 成, 引渡しを待ってはじめて可能である。このことは, 請負工事における収益認識として 工事完成基準を導くであろう。 もちろん長期請負工事における工事完成基準は, 単純に通常の販売における実現主義と 同じと考えることはできない。請負工事の場合には通常の販売に比べてはるかに契約の内 容もその履行も複雑だからである。契約の内容がそもそも発注者と請負業者とで不平等が ある。契約に書かれていない状況が発生する可能性は大である。 しかも, そうした状況が 発生すると, 請負業者に不利な工事を施行しなくてはならないのである。 周知のように, 通常の販売においては財の引渡しが収益認識の分岐点であった。それは 財の減少が収益認識をもたらしたということではない。また, 財の引渡しが客観的に事実 としてとらえたから収益と認識したのでもなかった。そうでなく,財の引渡しを境にして, 契約内容が変わることにあった。このことからして, 工事完成基準は契約内容の変化を契 機にしているというべきである。 わが国で工事完成基準が会計慣行として確立しているのは, こうした不完備契約による ところが大きいと考える。 このことは工事完成基準が契約の完了の方法とよばれているこ とからしても推し測ることができる。. 工事進行基準 長期の建設契約は収益認識基準に選択をもたらす。というのはそうした契約のありかた が収益認識の仕方にはっきりとした差異を生むからである。 一方で, 収益認識の通常の ル ー ルである実現主義は財の引渡しと代金請求権の確定を要求する。それは長期契約の利 益が仕事の最終の受領以前に認識されるべきでないことを求めるように思える。 他方, 期 間損益計算は利益が当該期間の業績を反映しなければならず, よって収益は契約を遂行す 期間中に配分しなくてはならない1910 (9). Herwitz (1957, 454-455). この論文は長期請負契約と収益認識に関する数少ない研究の一つ/' -124 (252)-.
(9) 不完備契約の下における建設業の収益認識(毛利) 工事完成基準は,売買契約が終了するまで収益を認識しない方法である。工事の引渡し, 完成があればよく, 代金の支払はその後になっても収益認識とは関係がない。 従って, 厳 密に言えば, 売買契約の終了ではなく, 工事の引渡し, 完成なのである。. 一. つの取引は,. 契約に始まり代金の受領をもって終わる。 売り手にとって, 取引の完了こそが収益を認識 する時期とすれば代金の完済がその時点である。 しかし, 会計慣行はそうしない。 財の引 渡しが契約の完了の意味をもつからである。 つまり, 財の引渡しまでは契約の内容は不備 なのに, 引渡しの後は契約どおりに決済を行うだけである。 従って, 契約は完備する。 そ こでこの考えは建設工事にもあてはまるのである。 これに対し, 工事進行基準は, 売買契 約の履行の完了前に収益を計上する方法である。 とはいえ, 工事完成基準においても, 売 買契約が全て完了した時点で収益を認識するわけではない。 このことは, この二つの基準 が契約内容と関係があることを示唆するのである。 工事進行基準は, 請負契約の途上で収益を計上する。 問題は, 各期間になぜ収益を計上 できるのか, またこのことと契約内容とはどのように関係するのかである。 もとより請負 工事は不完備な契約であるが, 各期間に収益を計上することによって契約内容の不備を補 完しうることが, 工事進行基準を支えているというべきであろう。 この基準は期間の経過 によって,当該期間における契約が 一部遂行されたことが,収益計上の基本となっている。 このことは, 歴史的原価としての実際原価が工事原価の一 部として生じていることが証明 となる。 これに対し, 次期以降の完成時までの原価は見積りである。 工事契約はそもそも 不完備である。 しかし, 経過期間については契約は実行されたわけである。 その意味にお いて, 全体の契約からすればその部分が完備したのである。 この意味で, 長期請負工事に おいては契約の不完備が大きく会計方法に作用しているのである。 工事進行基準は利益の予測という意味で語られることもある00。その意味は,本来,実現 主義をとるのが会計処理の基本であるにも拘わらず, 工事完成を待たずに工事の進行途上 で収益を計上するところにある。 契約が完了しない時になぜ収益を計上することができる かが大事である。 会計学の通説では, 工事進行基準は工事の進行に応じて当期に発生した収益を認識する 基準としている。 しかし, 収益の発生というのは, 何がどうなることなのか説明がないの である。 また, 工事完成基準に対しなぜ工事進行基準が認められるのか十分に明らかにし. /'. である。 また, Hauthorne, W, H. and H. C, Herring (1975), Jenning, R. M. and R. B. Mccosh (1957) も参照。 暉 Herwitz (1957, 474) -125 (253)-.
(10) 第44巻. 第 2号. ていない。工事の進行途上に収益は発生していると言うのみである。 工事の進行中に収益 が発生しているから, 契約額の一部を期間に計上するとの説明から脱して, どういう理由 が収益の計上を可能にしているかを分析してみたい。工事進行基準による収益計上にも方 法がいくつかある。例えば工事費用や生産量の基準がある。工事進行基準にあるこれらの 幾つかの方法を分析すれば, いずれの方法を用いても収益の大きさに多少の差異がある。 どの方法が適切かは明白に言うことはできない。要は, 契約額の配分そのものが大事なの である。工事費用の大きさ, 物量などは収益を計上する測定尺度にすぎず, 収益の大きさ そのものはあまり重要でないことがわかる。 してみれば. 工事進行基準は全く別の要因を 意図していると考えることができるであろう。 全体の工事期間から見れば, 一期間が経過していくことはどういうことであろうか。建 設工事はそもそも不完備契約によっていた。 しかも不完備契約は請負契約額によって支え ている。期間が進行することは, 経過した期間だけ契約内容が完備することである。不完 備契約のうち契約内容を完備さすのは. まさに経過期間にほかならない。 そこで, 経過期 間において履行された契約を完備契約として, 収益に表現する。 これが工事進行基準であ ろう。 つ まり, 工事進行基準は工事の進行を工事契約の履行としてとらえ. 不完備契約が 完備契約に転化していく過程としているのである。先ずtz で決算する。 ← 契約の履行 _,, t2. t1. >:. n , .. . . . .. to. 一ー契約の不完備. tn - 1. 図m 2 ー. 次にta で決算する。 :( 恥. 契約の履行. tI. ―― - 、. :. ,. :. t2. t3. 契約の不完備 一. 図 III- 3. ―――→:. '. ln - I. :. tn. かくて, 契約期間 (to, tn) の全体が不完備契約とすれば. 期間の経過は不完備契約を完 備契約に転化していくプロ セスと解することができるのである。 工事完成. 引渡しの後は. 契約の不完備はないと考えることは適当であろうか。図で示 してみる。tn - 1 は完成,引渡しの時点であり, % は代金完済の時点である。tn - 1 と tn の時 点の間は, 契約の不完備はゼロ と考えてよい。なぜなら. 工事の完成, 引渡しの後,工事 の不備が見つかってもそれは受注者の負担であることは明らかだからである。また, 発注 -126 (254)-.
(11) 不完備契約の下における建設業の収益認識(毛利). D / 叩不譴の害拾. to. 図 皿ー 4. t n- 1. tn. 者の代金支払いが遅滞しても,請負工事そのものとは関係がない。故に, tn - 1 と tn の時点 間の契約の不完備はゼロ と考えるのである。 工事進行基準は工事期間の経過を不完備契約が徐 々 に解消していくプロ セスとしてとら えている。契約の不完備を解消するプロ セス工事進行基準における収益に反映するのであ る。 契約の不完備が解消していくプロ セスを数理的に表現すれば, n区 [ na [. 1 年経過後の不完備 完成. 引渡時の不完備. 、 / Di Di. 契約時の不完備. 差は解消した不完備. Dn. 期間の経過によって未成工事支出金(資産) と未成工事受入金(負債) が消滅していく。 そのことが契約の不完備の解消するプロ セスである。 貸借対照表. □�□い瓦工事受入金 X X X. 未成工事支出金 X ;. 工事進行基準は, 各年度の工事収益を計上するが, 契約額を工事の進行に応じて配分す ることが基本にある。問題の一 つは契約額を各年度に配分するのであれば, 各年度の収益 認識と契約との関係である。契約の期間は工事の完了までであるのに, 期間に収益を認識 するのはどういう考えに立つからなのか。問題の二は, 工事進行基準による収益が建設工 事につ いて何を表現し, どういう情報を伝えるのか. それによって会計担当者は何を読み -127 (255 )-.
(12) 第44 巻. 第2号. とり判断しよ う とするのか。これらにつ いて明らかにしたい。 工事進行基準における収益の計算過程を分析してみよ う 。工事契約額 R が確定してい る。この契約額を各年度の工事費用に応じて配分する。工事の実際原価と総原価は次のよ う にして決まる。 年度 i における実際原価 C 総原価. I; C, 1-1. 第一年度の収益 r は R · となる。. C,. ± ct. t=l. R ·. この式は, 分解すると 味である。それ故, R . は平均値である。. n. :E. t=l. ct. n. :E C, t=l. C · C i である。 R • n. t. エ ct t=l. は費用ー単位 当たりの意. は, 費用ー単位あたりの収益の額になる。つ まり, この値. 工事進行基準は, 総原価に対する発生原価の割合に応じて収益を配分する。このよ う な 収益の配分が何を表現するのかを考えてみよ う 。単純に発生原価に応じて収益を配分する のであれば, 各期間の収益は次のよ う にして計算する。 R1 = Ci/C, R2 = Cz/C, …, Rn = Cn/C この計算は, ただ単に発生原価の比に応じて収益を配分しただけである。それ故に, 工 事進行基準 (the percentage-of- completion) といわれる工事進行の意に合致しない。収 益の配分は単なる割合でなく, 工事進行に即したものでなくてはならないのである。 以上のよ う に, 筆者は建設工事を不完備契約が解消する過程としてとらえるか (工事進 行基準) ,不完備契約の消滅に力点をおくか (工事完成基準) によって会計選択が異なると 確信する。. IV.. 入. 札. 公共工事をめぐる発注者と受注者の間に契約の片務性があることは上記の指摘の通りで ある。建設工事の全てが公共調達に関わるものではないが, 受注者の関係を理解するのに 参考になるのである。発注者と受注者の力関係では明らかに発注者の力が強く, 受注者は - 1 28 ( 256)-.
(13) 不完備契約の下 における建設業の収益認識 (毛利) 弱い立場におかれるのである。 し か し ,本稿でと く に問題と し たいのは契約のそのような片務性ではない。建設工事の 契約そのものが不完備である点なのである。それは契約内容が価格のみで,品質につ い て は全 く 書かれて いないことなのである。 わが国の公共調達制度は一般競争入札をとっていて,その決定が専ら価格に依存 し ,品 質が考慮されて いないという。 つ まり,品質につ い ての契約内容が不完備である。だから こそ,工事完成後に工事の欠陥が見つかった時には,発注者は受注者に対 し て 一方的に追 加工事をすることができるのである0110 わが国と 欧米の入札制度の違いは,表にすれば次のとお りである。 表N - 1 わが国 入札方法 評価の基準. 指名競争入札 談合 価 格. 欧. 米. 一般競争入札 価格と品質. わが国で一 般に行われて いる建設工事をめぐる談合そのものが,収益計上基準に直接関 係 し て いるわけではない。 し か し ,入札制度の違いも含め て ,契約内容の違いは収益認識 と関わって いると考える。と く に,発注者と受注者の力の非対称性は工事完成基準を会計 慣行とする状況を生み出 し ているのではないであろうか。 長期工事おける契約の不完備は,そもそも工事契約をめぐる受注のあり方に基因する。 わが国のように指名 競争入札の場合には,価格が受注の基準となってそれが低い業者が落 札となるのである。 ところが,着工 し た後,重要なのは工事の質である。それは契約内容 にはな く ,工事完成後に明らかになる。 し かも,工事に欠陥があった場合には,発注者の 力によって受注者に工事の変更が言いわたされる。工事の品質につ いて契約内容に書かれ ない状況下では,契約内容が不備であれば,収益認識は工事完成を待たねばなるまい。 このように契約が不完備な状況下にあって,競争入札があるとすれば請負業者にとって いっそうの負担となるのであろう。不完備契約の状況下にあって,少な く とも,収益を確 保 し てい く には受注を安定 し て 獲得するほかない。ここに談合が生じる。 競争入札の場合,請負業者にとっては競争相手の提示する価格について の情報が不完全 であれば,落札するかどうか全 く 不明である。このような状況下にあって,工事完成基準 をとれば,期間の収益 TR は落札できるかどうかによって大き く 変動する。 落札 し た回数. (ID 建設工事の品質 に ついては, 金本 (1993) の指摘を参照。 -129 (257 )-.
(14) 第44巻. 第2号. が多い年度 t1 は収益は大きくなり, 少 な い年度 t2 は収益は小さくなる。. 収差. TR. t 1. 期間. tz. 期間. 図IV - I これに対し, 「談合」 による場合はどうであろうか呪 会計の立場から談合をみると上記 とは全く異なる考え方を 提起しうるのである。 そこで次のことを考えてみよう。それぞれ の建設会社が工事を請負い仕事を進める上で, 原材料, 設備, 労働を用いていかねばなら ない。これらの生産要素を使用するに要する費用を負担しなければならない。他方で, こ れら費用の負担に 見合う収益も得られよう。事業規模の拡大に伴い, これら生産要素の一 単位あたりの追加の費用と収益が一 致する点まで拡大するはずである。 会計担当者として はこの限界費用と限界収益が一致する点を見極める必要がある。ところが会計数値からは 限界収益も限界費用もみてとることができ な い。そこで会計担 当者はどうするであろう か。談合では結託によって獲得した仕事の利益を 他の業者に分配する。 そうした不利益の 部分はあるが, それを償ってあまりある利益を得ることができる。 会計上から言えば, 事 前に収益が予測できそれに応じて費用の見積り, 予定を立てやすい メ リ ッ トがある。 落札 が安定的に確保できるのであるから期間の収益が恒常的に得やすいのである。限界収益が わからないので, 平均収益を考慮する。 わが国で談合による入札方法 をとるのは, 建設契約にもともと多くの不完備があるから であろう。工事の完成を待たねば確かなことは何もわからないのである。しかし, 談合は その欠陥 を埋めることができる。談合は, 工事進行基準によらずとも完成基準によっても 平均収益を確実にさし示してくれるのである。 (I� 談合に ついては, McMillan (1990), (199 1 ) , (1992) を参照。 また式田 (1994) に現状が述 べ ら れる。 - 1 30 (258)-.
(15) 不完備契約の下 における建設業の収益認識(毛利) わが国の建設工事は, もともと双務契約ではなく片務契約 に近いことが指摘できた。そ のため に, 工事が完成, 引渡しが終了しなければ, 契約の著しい不完備は解消できない。 それ故 に, 会計上, 収益が確定するのは, 工事の完成, 引渡しを待たねばならない。しか し, 工事の完成, 引渡しに よって収益を計上すれば, 請負工事の落札のいかんで各期間の 収益は大きく変動する。これでは, 会計担 当者は工事規模の最適化を判断し得ない。そこ で, 工事を安定的 に 確保し, 収益を確保する方法が必要である。その方法が談合である。 わが国の建設会社で工事進行基準が採択される理由は次のよ う に 考える。それは談合 に よるところが大きい。談合は工事の契約が安定して確保できるとい う メ リ ッ トがある。請 負業者の立場からすれば, 競争 によらず, 業者が協調的 に仕事を得ていくことができ, 無 駄な競争を排除することができる。それは長期の仕事を安定して行っていく上でこの上な い メ リ ッ トである。しかし, 他方で特定の業者のなれあいで仕事を確保していくため, 価 格の公正さが得られぬ欠点もある。 今 日 , 談合 に対する批判が強いのも価格の公正を問題 としているのである。 談合 に つ いては, これまで専ら建設業とい う 業務の特性から メ リ ッ トとデ ィ メ リ ッ トが 論じられることが多かったのである。建設業のこ う した特性から見れば, 談合はやむを得 ない事情といわれるであろ う 。競争入札であれば仕事の確保が不規則 に なり, 業務そのも のが著しく不安定なもの に なるからである。しかし, 公正な競争とい う 立場からみれば談 合は悪であろ う 。 双方の主張はどこまでもあい容れぬもの に違いない。 談合 によって, 競争入札が安定的 に得られるよ う になると, それは工事完成基準を採択 しても結果的 に は工事進行基準と同じ効果を得るのである。競争入札の場合, 工事完成基 準をとると平均費用が入札した年度とそ う でない年度とでは大きく変化する。企業の最適 規模をどこ に おくかを決め にくいのである。従って, 会計担当者が企業の最適規模を決め る に は工事進行基準をとらざるを得ないのであろ う 。 ところが, 談合 によって契約を取る順序を決めていけば, 工事進行基準 によらずとも, それと同じ効果が工事完成基準でも得られるのである。それならばはじめから工事進行基 準をとればよかったと考えられよ う が, それができなかった。それはわが国 における建設 工事契約が他国 に 比較して著しく不完備契約であったからである。故に, 工事の完成, 引 渡し に到らなければ受注者(請負業者) にとって不公平, 不利な内容のものだったのであ る。 ともあれ談合の メ リ ッ トは, 請負業者の収益認識からすれば将来の収益の見通しがつく ことである。 競争入札の場合 には, 落札か否かのいずれかでしかない。これに対し談合と - 1 3 1 (259)-.
(16) 第44巻. 第 2号. い う のは入札の回数に対し, 落札の回数がほぽ一定していることと考えてよいのである。 数年間にある仕事の量があると, 仕事の数量が多く な ろ う と少 な く な ろ う と入札の比率は 変わらな いことを意味する。それは平均値で も ある。談合による場合には,入札の回数に 対して,落札の数が 一定にな ることであるから,次の表のよ う にな る。横軸に入札の回数, 縦軸に談合による落札の回数をとる。すると, 談合は入札の回数に対する落札の回数の平 均値と理解できる。. 落札 の回数 N. ゜. ゜. 入札の回数 図N - 2. M. つまり. 談合とは, tan. e=. p. と理解できる。 談合の場合. 収益それ 自体が当該企業の入札の平均値とな るのである。それ故に, 売上 収益の推移から限界収益を推定することができるのである。談合によ っ て 請負契約が決 まって いくのは競争人札に比較してみると, 将来の収益の予測が確実である。将来の収益 曲線が描けると同時に平均収益 も 予測できるのである。このことは. 逆に言えば, 談合が な く競争入札の世界におい ては. 建設会社の収益は極め て不安定と な るのを意味しよ う 。 収益曲線は非連続とな るであろ う 。また平均収益曲線 も 描くことはでき な い。 も ちろん, 将来の収益曲線を描くことは不可能である。 そこで. 競争入札の世界では. 契約額を建設工事の期間に配分するほかはな い。それは ある意味においては, 談合が な い世界でそれに代わる調整の仕方である。競争入札を原則 にした場合, 単純に工事完成基準は選択できな いのではな いであろ う か。競争入札では人 札できるかど う か不確実であるから. 販売基準をとると収益は全く不規則に生じることに な る。限界収益をこの会計数値から推定することはできな いのである。そこで. 競争入札 において, 限界収益を推定するには平均収益を求めるほか な い。ここに会計上生じた考え -132 (260 )-.
(17) 不完備契約の下における建設業の収益認識 (毛利) が工事進行基準であると信じる。 競争入札 は, 落札するか否かのいずれかである。この場合, 限界収益を推定するに は. 落札した契約額の平均 をとるほかない。この平均値が上向 き の時に は. 限界収益 は上昇し, 下向 き の時には. 限界収益 は下降すると推定するのである。このことを 会計に適用し収益 認識に反映で き よ う 。筆者 はこれが工事進行基準と考える。. V.. 平均収益の役割. 工事進行基準による収益が年度の平均収益を導くこと は既述の通りである。また工事完 成基準を採用しても, 談合による入札の下で は, 年度の平均収益を う ることがで き たので ある。収益の数値から会計担当者 は 何を読みと っ ているのか。また読みとることによ っ て, ど う しよ う とするのか, このことを明らかにしたい。これによ っ て, 企業理論における会 計学の 占める位置を知ることがで き るであろ う 。 総収益 TR は会計数値として は っ き りとわか っ ている。しかし, 限界収益 は会計数値か ら直接に は知ることがで き ない。限界収益を 直接に看て取ることがで き ないにしても, 平 均収益のパ タ. ー. ンは推定で き よ う 。 なぜなら生産量 Q に応じた総収益の大 き さ はわか っ て. いるので, そこから平均収益のパ タ. ー. ンを推し測ることがで き るからである。ところが,. 平均収益と限界収益 は次の関係がある。 平均収益 AR が の時に は, MR は. dAR >O dQ dTR >O dQ. である。また,. の時に は, MR は. dAR <O dQ dTR く0 dQ. つまり, 平均収益の動 き は限界収益の方向 を 知らせてくれる。この平均収益によ っ て, 限界収益パ タ. ー. ンを推定することがで き る。. ところで工事進行基準によ っ て収益 は次のよ う に認識する。. - 133 ( 26 1 )-.
(18) 第44巻. 契約価額 実際原価 予定原価. 第2号. 1. 2. 3. n- 1. n. R1. R2. R3. Rn - I. Rn. er. er. er. c;. c;. c;. c;. c;. c�. c�. すると, 各年度における総費用は次のようになる。 t. TC = :E. ,�1. c � + c�. 総費用に対する各年度の費用の割合 r は次のようになる. � c� t. r=. 1=1. � c� + c�. i=I. 期間の収益 R 1 は次のようになる。 R1. =. R · r. 総費用に対する当期費用の割合が収益の配分である。この配分率は平均収益を導くであ ろうか。少なくとも, それは工事完成期間で単純に平均した値ではない。この場合の平均 値は契約の年数には全く関係しないのである。各年度の実際原価に違いがあることに着目 して, 総費用に対する割合を得ている。これは明らかに, 重みつきの平均値である。重み つき平均値はどういう意味をもつであろうか。それは一言でいえば, 期間収益の大きさを 費用に対応したものとすることを意図している。もし, 単純に n 年で均等に配分するなら ば, その収益は費用とは全く無関係に決まるであろう。費用を考慮にいれた重みつき平均 値を採用することによって, 会計担当者は最適な生産量を決めることができるのである。 工事進行基準による収益認識は会計担当者の判断に次のように有効であろう。言えるこ とは, 工事進行基準による収益が平均収益である点である。それは工事の契約額を期間に 配分した値である。配分の基準は, 総工事費用に対する期間の工事費の割合であるから ウ ェ イ トづけられた平均値である。それ故に, 平均値に変わりはない。工事進行基準に よって平均収益を取る有効性は, おそらく, 限界収益の推定にある。 周知のように会計数 値は取引ないし取引の結果を表現している。それ故に, 会計数値からは直接には限界収益 をみてとることはできない。しかし, それでは経営者にとって, 最適な生産量や販売量を 決定することはできない。そこで, 既存の会計数値から限界収益を推定していくほかはな いのである。この推定の基礎となる数値を平均収益と考えるのである。工事進行基準によ る収益がこれに相 当する。長期請負工事を担う建設業は大手の企業とする。この企業は 自 らの手で価格を操作することができる。価格を決めるのは建設企業にあり, 生産量を増や せば価格は下落し, 減らせば価格は上昇する。売り手である建設業にとってこのような需 -1 34 (262)一.
(19) 不完備契約の下 における建設業の収益認識(毛利) 要曲線を描くことができる。 ところで, このような需要曲線の イ メ. ー. ジ は, 平均収益のパ タ. ー. ンに等しい。平均収益. は生産量ー単位あたりの単価であるからである汽 この時. 限界収益は平均収益のパ タ. ー. ンとどのような関係にあるかが問題である。ところが平均収益と限界収益の関係につ いて は, 平均収益が下降すれば限界収益も減少し. 平均収益が上昇すれば限界収益も増加する ことが明らかになっている。工事進行基準によって平均収益を導くが. そこでは会計担当 者は需要曲線を イ メ. ー. ジとして描いていると考える。それは予想価格の変動によって変わ. るであろう。しかし. そこに平均収益の推移を思い描くことによって. 需要曲線を推定し うるのである。独 占企業における売り手の行動は. 需要曲線の イ メ. ー. ジ を描くことにある. とされている。建設工事の場合. 契約額. つ まり収益が確定しているのである。 工事進行基準を選択することあるいは完成基準から進行基準へ変更することは. 当該年 度の平均収益を高めることになる。平均収益が大きくなっても. 限界収益に変わりはない。 それ故. 平均収益を高くすることが, どのような効果をもつかが問題である。工事完成基 準から工事進行基準に変更すると. 会計担当者の描く需要曲線は上方に シ フ トする。この ことは, 変更前と比べて経営者の行動にどのような効果をもたらすであろうか。 工事進行基準を採用すれば. 工事契約額を工事の期間に配分する。故に工事の進行途上 であっても収益が発生する。これに対し. 工事完成基準をとれば工事の完成. 引渡しの時 にしか収益は実現しない。それ故に. 工事進行時では完成基準をとると収益は ゼロ であり. 進行基準では部分的に収益を計上することになる。また工事完成時においては. 工事完成 基準による収益は進行基準による収益を上廻ることになるであろう。 いま既存の契約額による需要曲線が下記のようであるとしよう。この曲線は平均収益に 等しいと考える。これに新しい工事契約が加わる。工事契約額が大きい場合, 工事期間が 長期に及ぶ場合. 完成基準をとると完成年度の収益が急激に大きくなる。このことは, 平 均収益の予想がつ きにくく, 限界収益も把握できない。しかし. そうした状況下で進行基 準をとれば, 平均収益に多少の変動があってもなめらかな下降曲線である。また, 限界収 益はもとのままである。平均収益は需要曲線である。 平均収益の情報は. 請負契約である建設業の場合には特に重要であろう。それは需要曲 線そのものであるから. 各期間を通じて変動しないことが望ましい。というのは単位あた りの収益がわかることによって, 工事原価を見積もり, 工事の効率性を推し測ることがで. (I] 林 ( 1989, 1 1 9-120) 。 -135 ( 263)-.
(20) 第44巻. R. ヽ. ヽ. 第2号. ヽ. AR'. \ \. ヽ 、. 、 \ \稔. MR. ·. ヽ %. Q. 図V - 1. きるからである。既述のように長期請負工事は. 契約の性質からして受注者よりも発注者 の力関係が強く, そのために利益の最大化でなく, 仕事の効率性に力点をおくであろう。 そのために, 総収益が長期工事の完成の期間のた びに,大きく変動していては, 仕事量に 対する価格を イ メ. ー. ジ することができないのである。. 工事完成基準と工事進行基準は次の図のように イ メ. ー. ジ できる。長期の大きな契約にエ. 事完成基準をとると, 当該工事の完成時とそうでない時とでは. 平均収益が大きく移動す る。. P ' � - - - - - - - - -,- - - - \. 螂 I \� p. ". -:---_ A R ':I '- -- MR' ,. ..........、 : o. - - - - ― ズ、 ― - - - \. '. ``� -, MR I. AR. Q 図V - 2. 仕事の量が Q の時, 工事が未完成の際に平均収益は P にあり, 完成時には P' になる。 従 っ て, 同じ仕事の量であ っ ても, 単位あたりの収益は未完成の時と完成時では大きく異 なるのである。これに対し, 工事進行基準をとると, 大きな契約の場合でも, 収益が工事 期間に配分できる。 仕事の量 Q に対し, 価格が P である。は っ きりと工事収益の単価を推測できるのであ. - 1 36 ( 264 )-.
(21) 不完備契約の下における建設業の収益認識 (毛利). ヽ. \. \ \. P 卜 - - - - - - - - - - ""- - - - - \. '. AR. :. : ``` - MR Q. 図V - 3. る。このことは工事の受注者にとり大きな利点であろう。工事進行基準による収益は平均 収益であり, それは限界収益の予測を 可能にする効果をもつのである。 上記のことからして, 工事進行基準によっても工事完成基準によるとも, 収益の大きさ には違いがあっても, 内容は平均収益であることがわかる。平均収益をもとめる理由は, その値から限界収益を読みとり, 需要曲線 を描くことができるからである。. む. す. び. VI.. 建設工事の請負契約が発注者のみならず受注者にとっても不完備であることは, 上記の 通りである。契約から工事完成に到るまで, 受注者は不利な立場にある。もともと, 工事 の受注そのものが不確定である。従って, 受注を得ること, つまり, 契約を 結ぶことが収 益認識を考える出発点になるのである。 わが国の入札制度として存在する談合は, 競争による受注の不確定性を 安定したものに する制度として考えてよいであろう。着工後,たとえ受注者にとり不利な状況が続くとも, 工事が完成し, 引渡しさえすれば, 不完備契約は終了する。不完備契約の下にあっても, 談合による受注の安定性が確保できれば通常の販売と同様に引渡しをもって収益を認識し ても変動は少ない。よってわが国の工事完成基準を支えるのは, まさに談合による入札制 度と請負契約の不完備であるといってよいであろう。 これに対し, 談合がなく競争入札の制度をとる 欧米の建設契約では, 受注が著しく不確 定である。それ故, 工事完成基準をとれば, 収益は工事完成年度が多い期間と少ない期間 -137 (265 )-.
(22) 第44巻 第2号 とでは,大きく変動する。このため, 工事進行基準を採択するのであろう。もちろん, そ れが受注の仕方に影響を受けることは言うまでもない。 このように,わが国の建設業における収益認識が工事完成基準にかたよるのは,入札制 度と不完備契約にある。談合を可能にしているのは, おそらくは落札が専ら価格で決まる からであろう。しかし, 大事なことは建設工事の品質である。本当は価格と同時に品質を 建設工事の基本に据えなくてはなるまい。まさしく 欧米の入札制度と建設契約がそうであ る。わが国においても, 入札に際し価格とともに品質を求める時期が到来すれば, 入札制 度の改革とともに建設契約に変化が生じ, 収益認識の再検討にせまられよう。. 参 Adrian, J. J. 1 979.. 考. 文. 献. Construction accounting : financial, managerial, Auditing, and. tax, Reston Publishing company, Virginia. 荒井八太郎 1 967. 『建設請負契約論ー建設工事 ク レ ー ム の法律学的研究一』 勁草書房 Arrow, K. J. 1964. Control in large organization. Management Science 10 (April) : 397-408. Arrow, K. J. 1985.. The potentials and limits of market in resource allocation ; G.. R. feiwel ed, Issues in commtemporary microeconomics and welfare.. Macmi. lan, London : 107-124. Demsetz, H. 1966. Some aspects of property right. Journal of Law Economics 9 : 6 1-70. Demsetz, H. 1969.. Contracting cost and public policy ; In US Congress, Joint. Economic Cpmmitee, The Analysis and Evaluation of Public Expenditures : The PPB System, vol. 1 , Wasington : GPO, : 1 67-1 74. 林 敏彦. 1989. 『需要と供給の世界 〔改訂版〕 』 日 本評論社. Hart, 0., and B. Holmsrom. 1987. The theory of contracts ; Advances in economic thery : Fifth World Congress, T. Bewley, ed.. Cambridge : Cambridge Univer. sity Press. Hart, 0., 1988.. Imcomplete contracts and the thery of the firm.. Journal of Law,. Economics, and Organization 4 (Spring) : 1 1 9-139. Hart, 0., 1 988.. Imcomplete contract and renegotiation.. Econometorica 56 : 755-. 786. Hart, 0., 1 990.. Property rights and the nature of the firm.. Journal of Political. Economy 98 : 1 1 1 9-1 158 Hart, 0., 1 995. Firms, contracts, and financial structure.. Oxford : Oxford Univer. sity Press. Hawthorne, W. H. and H . C. Herring. 1975. A quantitative approach to the . illustration of the percentage-of-completion method. The Accounting Review - 1 3 8 ( 266 )-.
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