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芸術作品の価値とその測定方法に関する一考察

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Academic year: 2021

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芸術作品の価値とその測定方法に関する一考察

Study on the value of art and the methods of its measurement

山口 直子

1

伊藤 孝行

1

Naoko Yamaguchi

1

, Takayuki Ito

1 1

名古屋工業大学

1

Nagoya Institute of Technology

Abstract: 芸術作品は商品として取り扱われる際,価格がつけられ取引がおこなわれる.この価格は「市場 的価値」を示している.しかし,商品として取り扱われない芸術作品も存在する.それらの芸術 作品にも価値は不随しており,その価値は作品の「本質的価値」である.本稿では,芸術作品の 「市場的価値」と「本質的価値」について考察を行い,近年急速に向上しているデータ分析の技 術を用いたそれぞれの価値測定方法についての可能性を探る.

When the art works are treated as merchandises, it puts the prices and starts business. This price indicates the art work’s “commercial value”. However, there are a lot of art works which are not treated as merchandises. Even such works have some value. That value is indicated as their “intrinsic value”. In this paper, we discuss the meaning of both commercial and intrinsic value. I also present the methods of their measurement by data analysis techniques.

1. はじめに

人々は,本稿において建造物を除く文化的有形所 産物と定義する芸術作品と向き合う際,様々な要素 に関心を抱く.作品の主題,視覚的感覚,およびそ の作品に付与された価値である.この価値は多くの 場合,作品に設定された価格を指すが,芸術作品の 価値について思索する際,商用に設定された価格の みを作品の価値と同定することは出来ない.そもそ も芸術作品には定価が存在せず,また,その需要と 供給のバランスが工業製品等とは異なる性質を持 ち,非常に多くの要素によって価格が大きく変動す る.多くの要素の中のひとつで,最も影響を及ぼす と思われているのが,人々の感覚と感性である.一 般に人々は,芸術作品の価値は商用価格であり,そ の商用価格の設定は,人々の感覚と感性によるもの であると考える.しかし,商用価格の付与された作 品は多数の人々の感覚と感性を測定した上で設定さ れたものではない. 本研究では商用価格が多数の人々の感覚と感性に 基づいた価格であるかを確かめるために,芸術作品 の価値およびその測定について考察を行い,市場的 価値と本質的価値の関係性について明らかにする. 尚,本稿において,「市場的価値」は商用に付与さ れた価格により発生する価値,「本質的価値」は主 に人々の主観的感覚と感性によって付与される価 値,と定義する.インターネットの普及やデータ分 析技術が向上する現代において本考察を行うこと は,多方面において新たな見解を創出することが期 待できる. 本稿は以下のように構成される.2 章で関連研究 について言及し,本考察の新規性を示す.3 章で二つ の異なる価値の測定方法を紹介する.4 章で測定結 果より得られる情報の利用,そして今後の考察の発 展について論じる.

2. 関連研究

既存の芸術作品の価値についての考察は,主に画商, ギャラリスト,競売人によって広く行われている. [3][4][5] 高額に取引された芸術作品に関する検証や, 現代芸術の潮流,経済と芸術作品の売買状況の関連 性等,商取引に関するものが多い.これらは先述し た価値の定義でいう「市場的価値」の考察に有益な 情報である.一方「本質的価値」についての論考の 数は多くない.その中で「市場的価値」と「本質的 価値」双方について言及し,価値形成プロセスの知 見をアートマーケティングにおいて応用するモデル についての研究を,若林(2010)[1] が行っている. 若林(2010)は,芸術作品の本質的価値の形成プロ

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セスについても言及しており,アートマーケティン グにける本質的価値と市場的価値の関係性について 実例を用いて論じられている.しかし,具体的に市 場的価値と本質的価値を数値化して双方の価値を比 較する研究は見当たらない.本稿では価値の数値化 による比較手法の確立を目指し,価値の測定方法に ついて考察する. 尚,「本質的価値」の測定方法の根底にある概念は, 集合的な意見が導く解が最も優れた解であることが 多いという集合知の考え方に由来する[2].先述した 「本質的価値」の定義における人々とは,芸術学者 やアートマーケティング関係者等の芸術作品の価値 を査定する専門家ではない一般の人々を指している. 従って,考察する価値測定方法では,一般の人々の 意見による,より全体的な価値を測定する必要があ ると考える.

3. 二つの価値の測定方法

3.1 異なる提案手法について 2つの価値の測定方法についてであるが,各々の もつ価値の性質の違いにより,「市場的価値」「本質 的価値」以下のそれぞれ異なった方法にておこなう. 3.2 「市場的価値」の測定方法 分類手法を用いて分析を行う.具体的には,まず, 作品の持つ価値測定に必要な情報をデータ化し蓄積 させたものを価格帯によって分類し,その特徴を抽 出する.次に,抽出した特徴を用いて,価格の予測 を行い,その照合をおこなう.予測価格と実際の取 引価格の差が縮まるほど各価格帯による特徴と価格 の関係性の精度は高いものとなり,実際に商取引さ れていない芸術作品においても作品の情報に基づき 市場的価値の測定が可能となる. 現状,収集する作品の情報は,以下の8点を検討 している.「製作年」,「作者の国籍」,「サイズ」,「素 材」,「エディション」,「状態」,「作品来歴」及び「展 示歴」.これらは,作家から直接取引された作品が再 度取引される市場であるセカンダリマーケットで取 引される際に開示される情報で,予想落札価格の設 定や購入価格にとって重要な情報とされている. [3][4] 情報のデータ化の方法は,各項目に選択肢を設 定し,事実に一致する選択肢を選択する手法をとる. 3.3「本質的価値」の測定方法 オンラインアンケート調査の手法を用いて,商取 引歴の有無に関わらず,絵画作品に関しての意見を 収集する.オンラインアンケート調査とは,インタ ーネット上で不特定多数の協力者よりある目的のた めに設定された質問項目に対する回答や意見を収集 する方法である.オンラインアンケート調査の手法 を採用する理由は,異なる属性のより多くの人々の 意見を収集する最もシンプルで,協力者と収集者の 負担の少ない方法のためである.また,収集した情 報をデジタル化し,分析に容易に利用できる点もあ る. 「本質的価値」の測定において今回対象とする芸 術作品は絵画作品のみに限定する.理由は,二次元 情報であるため,オンラインアンケートでも現実と 近い印象を得ることが出来るためである.また,絵 画はその表現方法が多様で作品数が大量に存在する ため,検証を行う対象として最も意義深いためであ る. 収集する情報の項目は現時点において,主に市場 的価値との比較を行うための視覚的印象を収集する ことを目的に設定している.具体的な項目としては 以下を検討している. (左:質問項目,右:質問項目を設定した理由) ①「好き/嫌い」:対象作品に対しての最も単純な意 見を収集するため. ②「対象作品を所有したいか」:所有の願望はその作 品に対して強くポジティブな感情を抱いているとか んがえられるため. ③「対象作品を独創的と思うか」:独創性は人々の未 知に対する好奇心を刺激するポジティブな要因と考 えられるため. ④「対象作品を見て心に変化が生じたか」:コンセプ トをもって製作された作品が視覚的印象のみでその 効果を発しているのかを確認するため. 以上の質問に対する回答は「はい」または「いい え」で行い,「はい」の場合1 点加算,「いいえ」の 場合1 点減点として点数付けを行う.

4. まとめ

「市場的価値」と「本質的価値」の数値化が実現 した場合,その値の差に興味深い結果が発生するか 否かが本考察における注目点である. 筆者は二つの価値の値に少なくない差が生じると 考える.なぜなら,市場的価値を形成する要素と本 質的価値を形成する要素は異なり,また形成にかか わる人々の専門知識量にも差があるためである. そこに大きな差が生じた場合,その差をもたらす要 因が具体的に何であるのかを検証する発展研究も期 待できる.もし差がさほど生じなかった場合,市場 的価値に本質的価値が反映されていることが証明さ れ,時として話題となる芸術作品につけられる一般 的な価格とはかけ離れた取引価格の発生理由につい

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て検証する素材となりうること期待される. 尚,本考察における課題としては,まずデータ収 集の作業を,いくつかの段階に分けて行う必要があ ることが挙げられる.初期段階における質問項目に 対する回答情報を検証し,質問項目に修正を加え, より精度の高い価値の測定を目指す.その理由とし て,本質的価値の定義は普遍的なものではなく,よ り多くの類似研究,意見に触れることによって変化 が生じると考えるためである. また,2つの価値測 定方法に関し,分析に必要なデータ数の設定を考え る必要がある.数量が多いほどより精度の高い結果 が得られるというのは当然であるが,最低数の設定 に関し,検討の必要がある.

謝辞

本研究の一部は,JST CREST JPMJCR15E1 の支援を 受けたものである.

参考文献

[1] 若林宏保: アート作品の価値形成プロセスについ ての一考察~アートマーケティングの実践に向 けて~,マーケティングジャーナル, Vol. 29, No. 3, pp.74-89, (2010) [2] ジェームズ・スロウィッキー著,小髙尚子訳(2006) 『「みんなの意見」は案外正しい』角川書店 [3] マイケル・フィンドレー著,バンタ千枝,長瀬まみ 訳(2014)『アートの価値 マネー、パワー、ビュー ティー』美術出版社 [4] 小山登美夫著(2015)『“お金”から見る現代アート』 講談社 [5] フィリップ・フック著,中山ゆかり訳(2016)『サ ザビーズで朝食を 競売人が明かす美とお金の物語』 フィルムアート社

参照

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