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ヒューマノイドロポットの実用化に向けた二足歩行技術の開発

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(1)ピューマノイドロボットの 実用化に向けた. 二足歩行技術の開発. 2010年10月 関西学院大学大学院 理工学研究科情報科学専攻 坂本 元.

(2) 関連発表論文 1.査読付き原著論文(主著分) 1.H勾ime Sakamoto,Hamhiro Katayose,Koji Miyazah,and Ryohei Nakatsu, “Extended一㎞ee Wa1k此rHumanoid Robotwith Para11e1LinkLegs”,Intemationa1. Jouma1ofHumanoid Robotics(IJHR),Vb1ume6,Issue4,December2009. 2.H勾ime Sakamoto,HamhiroKatayose,KqjiMiyazaki,andRyoheiNakatsu,“Design. ofWa1kingPostureandFeet飾rSma11HumanoidRobottoWa1katHighSpeedover RoughTerrain”,(再投稿準備中).. 2.査読付き国際会議(主著分) 1.HajimeSakamotoandRyoheiNakatsu,“Wa1kingandRumingContro1ofSma11Size Humanoid Robot HA皿ME ROBOT”,The Thiれeenth Intemationa1Symposium on Artificia1L脆and Robotics2008(AROB13th’08),February2008.. 2.H勾ime Sakamoto andRyohei Nakatsu,“Wa1king Contro1ofSma11Size Humanoid. Robot HAJIME ROBOT18”,The20071ntemationa1Con危rence on Mechatronics. andI此mationTec㎞o1ogy(ICMIT2007),December2007.. 3.その他の発表(主著分) 1.坂本元,片寄晴弘,宮崎光二,中津良平,“平行リンク機構を用いたピューマノイド・. ロボットの膝関節伸展歩行”,ユンタテインメントコンピューティング2008.2008 年10月(芸術科学会優秀論文責)..

(3) 2.坂本元,中津良平,“小型ピューマノイド・ロボット「はじめロボット」の走行制御”,. 第13回目ボテイクス・シンポジア,5D1.2008年3月.. 4.査読付き原著論文(共著分) 1.林原靖男,南方英明,坂本元,“自律型サッカーヒューマノイドシステムCITBrains”, 日本設計工学会学会誌,“1.44,No.6,pp.18_24.2009年6月. 2.T.HemkeL H.Sakamoto,M.SteIzer,and O.von Stryk,“E価。ient Wa1king Speed. OptimizationofaHumanoidRobot”,Intemationa1Jouma1ofRoboticsResearch,Vb1. 28,No.2,pp.303_314,Febmary2009. 3.Maれin Friedmam,Jutta Kiener,Sebastian Petters,Dirk Thomas,Oskar“n StWk, and Hajime Sakamoto,“Versati1e,High−qua1ity Motions and Behavior ControI ofa. Humanoid So㏄erRobot”,Intemationa1Jouma1ofHumanoid Robotics(IJHR),VbI−. ume5,Issue3,pp.417436,September2008.. 5.査読付き国際会議(共著分) 1.M.Friedmam,S.Pe伐ers,M.Ris1er,H.Sakamoto,D.Thomas,and O.von Stryk,. “NewAutonomous Four−1egged−and−HumanoidRobots允rResearchand−Education”,. Workshop Proceedings ofS工MPAR2008,Int1.Con£on Simu1ation,Mode1ing and Programming br Autonomous Robots,(Ed.Emanue1e Meneg砒i),Nr ISBN978− 88−95872−01−8,pp.570_579,November2008.. 2.Hideaki Minakata,Yasuo Hayashibara,Katsuhiro Ichizawa,Takehito Horiuchi,. Masahiro Fu㎞ta,Shohei F屯ita,Hiroshi Kaminaga,Kiyoshi Irie,and Hajime Sakamoto,“A Method of Sing1e Camera Robocup Humanoid Robot Loca1ization. using Cooperation with Wa1king ControI”,The10th Intemationa1Workshop on. AdvancedMotionContro1(AMC’08),March2008. 3.M.Friedmam,S.Pe廿ers,M.Ris1eらH.Sakamoto,D.Thomas,andO.vonStryk,“A. New,OpenandModu1arP1a曲㎜わrResearchinAutonomousFo山一1eggedRobots”, Autonome MobiIe Systeme2007,(Ed.K.Bems and T.Luksch),Springer Ver1ag,. pp.254_260,October2007.. ii.

(4) 関連発表論文. 4.M.Friedmam,J.Kiener,S.Pe杭ers,D.Thomas,O.vonStryk,andH.Sakamoto,“枕r−. sati1e,High−qua1ityMotionsandBehaviorContro1ofHumanoidSo㏄erRobots”,Pro−. ceedings ofWorkshop on Humanoid So㏄erRobots ofthe20061EEE htemationa1 Conおrence onHumanoidRobots,pp.9_16,December2006. 5.Thomas Hemker,Hajime Sakamoto,Maximi1ian Ste1zer,and Oskar von Stryk, “Hardware−in−the−Loop Optimization ofthe Wa1king Speed ofaHumanoidRobot”,. Proceedings of CLAWAR2006:9th Intemationa1Con危rence onαimbing and Wa1kingRobots,pp.61←623,September2006. 6.Kuniya Shinozaki,Hajime Sakamoto,Takaho Tanaka,and Ryohei Nakatsu,“Com− m㎜ication and Contro1ofa Home Robot Using a Mobi1e Phone”,Symposium Di−. gest,36thIntemationa1Symposium onRobotics,p.95,December2005. 7.Kuniya Shinozaki,Hajime Sakamoto,Takaho Tanaka,and Ryohei Nakatsu,“Com−. municationandContro1ofaHomeRobotUsingaMobiIePhone”,AdvancesinMu1ti− mediaIn的mation Processing,PaれI,SpringerLNCS3768,pp.373_383,November 2005. 8.Takenori Wama,Masa枇i Higuchi,Hajime Sakamoto,and Ryohei Nakatsu,“Re− a1ization ofTai−chi Motion Using a Humanoid Robot”,Enteれainment Computing,. Springer LNCS3166,pp.14_19,September2004. 9.Takenori Wama,Masay■止i Higuchi,Hajime Sakamoto,and Ryohei Nakatsu,“Re− a1ization of Tai−chi Motion Using Humanoid Robot_Physica1Interactions with. HumanoidRobot”,Bui1dingtheInbmationSociety,K1uwerAcademicPub1ishers, pp.59_64,August2004.. 6.表彰 1.ロボカップ2010世界大会(シンガポール) ピューマノイドリーグ 「KJDサイ ズ3on3」優勝,はじめロボットを使用するDamstadtDhbb1ersチーム.. 「TEENサイズテクニカルチャレンジ」優勝・「TEENサイズ2on2」2位・「㎜Dサ イズ3on3」3位,はじめロボットを使用するCITBrainsチーム,2010年6月. 2.ロボカップ2010ジャパンオープン(大阪) ピューマノイドリーグ 「㎜Dサイ ズ3on3」優勝・「㎜Dサイズテクニカルチャレンジ」優勝・「ベストヒューマノイ. iii.

(5) ド賞」,はじめロボットを使用するCITBrainsチーム,2010年5月.. 3.ロボカップ2009世界大会(オーストリア) ピューマノイドリーグ 「ベスト ピューマノイド賞」・「KIDサイズ3on3」優勝・「膿Dサイズテクニカルチャレン ジ」優勝,はじめロボットを使用するDa㎜stadtD㎡bb1ersチーム.. 「TEENサイズドリブル&PK」2位・「KIDサイズ3on3」3位,2009年7月. 4.「日本ロボット学会賞」,2009年5月,2006年5月,2005年7月の計3回受賞. 5.ロボカップ2009ジャパンオープン(大阪) ピューマノイドリーグ 「㎜Dサイ. ズ3on3」優勝,2009年5月. 6.ユンタテインメントコンピューティング学会(EC2008) 「芸術科学会優秀論文 賞」,2008年10月.. 7.マスコミ取材等 1.朝日放送「クイズ!神助くん」,2010年4月19日(月). 2.関西テレビ「アップ&UP!」,2009年8月6日(木). 3.朝日放送rおはようコールA B C」,2009年7月30日(木).. 4.毎日新聞に連載「プラスα今週の5話」,2009年7月27日(月)∼31日(金). 5.フジテレビ「めざましテレビ」,2009年7月9日(木).. 6.NHKラジオラジオ第1「関西ラジオワイド」,2009年6月26日(金). 7.毎日新聞(阪神版)「夢へ一歩 関学大院生・坂本さん,ガンダムを作りたい」,. 2009年6月11日(木). 8.関西テレビ「よ一いドン!」の「となりの人間国宝さん」,2009年6月10日(水).. 9.産経新聞(兵庫版)「ロボカップジャパン2部門制覇,関学大院の坂本さん世界. へ」,2009年6月4日(木). 10.NHKテレビ「おはよう日本」,2009年5月30日(土). 11.NH Kテレビ「ニューステラス関西」,2009年5月11日(月). 12.朝日放送「にっぽん菜発見」,2009年1月4日(日).. iV.

(6) 概要 本研究では,我々の生活を支援するピューマノイドロボットの実用化に向けた二足歩 行技術の向上を目的とし,次の二つの研究課題,1)歩行の安定性を高め不整地を高速で 移動できる不整地歩行,2)エネルギ効率が高くかつ歩行の外見がより人間に近い膝関節 伸展歩行,に取り組んでいる.. 我々の生活を支援するロボットに求められる機能には,ヒトとのコミュニケーション機 能,人間の代替・人間と共同作業ができる作業機能,人間の活動する環境下での移動機能 が挙げられる.これらの機能を満足するには,我々人間と親和性や類似性の高いピューマ ノイドロボットが適している.ピューマノイドロボットの実用化を進めるにあたっては, 機能面では運動制御技術の向上,運用面からは省電力化という技術的課題が挙げられる.. この課題には実環境においてロボットの転倒の危険性ができる限り小さくなるように歩 行の安定性を高め,かつ消費電力が増加すると考えられる歩行動作中のエネルギ効率を高. める二足歩行技術の向上が含まれる.本研究では,1)ピューマノイドロボットは不整地 での歩行が困難であるという現状において,歩行の安定性を高め不整地を高速で移動で きる不整地歩行,2)ピューマノイドロボットのエネルギ効率が低いという現状において,. エネルギ効率が高くかつ歩行の外見がより人間に近い膝関節伸展歩行,の二つを二足歩行 技術向上のための研究課題と定めた.各研究課題に対しては以下のような手法を用いた.. ピューマノイドロボットは不整地での歩行が困難であるという現状の課題に対処する ものとして,膝を深く曲げて腰を低くし足を左右に開いた歩行姿勢と,前後に長い足裏形. 状のデザインを組み合わせることにより歩行の安定性を高め不整地における高速な動歩 行を実現した.ロボットの動揺が発振しないように,ジャイロセンサで計測したロール 方向とピッチ方向の角速度を,足首関節・股関節・肩関節にフィードバックする制御を行 い,ロボットの姿勢の安定化を図った.歩行の直進性を向上するために,ジャイロセンサ. で計測したヨー方向の角速度の積分値を,股関節のヨー軸の関節角度指令値にフィード.

(7) バックする制御を行い,ロボットの進行方向を定めた.安定性の評価基準として傾斜度 安定余裕を計算することにより,本手法の有効性を検証した.. ピューマノイドロボットのエネルギ効率が低いという現状の課題に対処するものとし て,エネルギ効率が高くかつ歩行の外見がより人間に近い膝関節伸展歩行を実現した.膝. 関節伸展歩行の膝が伸びたときの特異点間題に対処するために,脚に平行リンク機構を 採用し,胴体の姿勢を機構的に維持できるようにした.膝の関節角度の指令値は,逆運動. 学を用いた計算から求めるのではなく,直接的に角度指令値を与えた.膝関節の大きな 角速度に対する追従性を向上するために,一つの膝に二個のモータを使用した.. 本歩行手法をピューマノイドロボットの実機に組み込んで試験を実施した.不整地歩行 のロボットは,平地における最高速度400[mm!s1の37%という高い歩行速度150[mm/s1 を実現し,ロボットの世界的なサッカー競技大会「ロボカップ」の不整地歩行競技では,. 2位のロボットに比べて9倍の歩行速度で不整地を踏破して1位を獲得した.膝関節伸 展歩行のロボットは,膝の関節角度の軌道が従来歩行に比べてより人間に近いことが確 認され,消費電力が従来歩行の61%という高いエネルギ効率を実現し,ロボカップのテ クニカルチャレンジ競技では3位の結果を獲得した.本歩行手法は,ピューマノイドロ ボットの実機を使用した検証結果とロボカップで実施した参考実験の結果により,ピュー マノイドロボットの実用化に向けた実践的な歩行手法であることが確認された.. Vi.

(8) 目次. はじめに. 1. 1.1. ロボットの定義.. 1. 1.2. ロボットの歴史と現代のロボット. 3. 第1章. 1.3. 1.4. 第2章 2.1. 1.2.1 ロボットの歴史.. 4. 1.2.2 現代のロボット.... 5. ピューマノイドロボット..... 7. 1.3.1 ピューマノイドロボットの分類... 7. 1.3.2 ピューマノイドロボットの適合性.. 9. 1.3.3 ピューマノイドロボットを使用した研究例.. 10. 1.3.4 ピューマノイドロボットの実用化における課題. 11. 本研究の目的と本論文の構成.... 14. 二足歩行ロボットの歩行. 17. 二足歩行ロボットの歩行技術... 18. 2.1.1 ゼロ・モーメント・ポイント(ZMP)規範による歩行. 18. 2.1.2 受動歩行... 22. 2.1.3 非線形振動子・CPGによる歩行. 22. 2.1.4 学習・進化計算による歩行. 22. 2.2. 動物(人間)の運動制御を司る脳・神経系の制御システム... 23. 2.3. 本研究の研究課題.. 24. 不整地高速移動のための歩行姿勢と足裏形状のデザイン. 27. 3.1. はじめに... 27. 3.2. 関連研究.. 28. 第3章.

(9) 3.3. ピューマノイドロボットの仕様. 30. 3.4. 不整地歩行.. 33. 3.5. 3.4.1 歩行姿勢.. 35. 3.4.2 足裏形状のデザイン........... 35. 3.4.3 歩行軌道. 38. 3.4.4 ジャイロセンサを用いた振動制御... 41. 3.4.5 ジャイロセンサを用いた進行方向制御. 42. 試験と検討... 42. 3.5.1 傾斜度安定余裕による安定性の評価. 43. 3.5.2 ジャイロセンサを用いた振動制御の効果.. 43. 3.5.3 段差の歩行試験の結果..... 44. 3.5.4 ロボカップの不整地歩行競技の実施状況.. 48. 3.5.5 検討.. 49. まとめ.... 50. 平行リンク機構を用いた膝関節伸展歩行. 53. 4.1. はじめに... 53. 4.2. 膝関節伸展歩行...... 55. 3.6. 第4章. 4.2.1 平行リンク機構........... 56. 4.2.2 歩行軌道. 57. 4.3. ピューマノイドロボットの仕様. 62. 4.4. 試験と検討..... 64. 4.4.1 歩行試験.. 65. 4.4.2 検討... 71. まとめ.... 72. 検討. 73. 5.1. 検討と今後の課題... 73. 5.2. 展望. 75. まとめ. 77. 4.5. 第5章. 第6章.

(10) 付録A. ピューマノイドロボットの実用化に向けた競技「ロボカップ」. 79. 付録B. 小型ピューマノイドロボットの歩行制御. 81. B.1. はじめに.. 81. B.2. ピューマノイドロボットの仕様. 81. B.3. 歩行ロジック. 84. B.3.1 足底軌道.. 85. B.3.2 タイミング.. 88. B.3.3 歩行パラメータ... 92. B.3.4 歩行ソフトウェア. 93. B.4. ジャイロセンサを用いた振動制御. 93. B.5. おわりに.. 94. 謝辞. 95. 参考文献. 97.

(11) 第1章 はじめに 本論文は,我々の生活を支援するピューマノイドロボットの実用化に向けた二足歩行 技術の研究について述べる.本研究では,ピューマノイドロボットの二足歩行技術(歩行 速度・安定性・エネルギー効率・外見)の向上を目指して,1)歩行の安定性を高め不整地. を高速で移動できる不整地歩行,2)エネルギ効率が高くかつ歩行の外見がより人間に近 い膝関節伸展歩行,に取り組んでいる.. 本章では,我々の生活を支援するロボットとしてピューマノイドロボットの適合性を 述べるとともに,ピューマノイドロボットの実用化に向けて二足歩行技術の向上という 課題があることを示し,本研究の意義を述べる.L1節では本論文で議論するロボットの 定義を示す.1.2節では,二千年以上前からイメージの存在したロボットが近年の技術進 歩に伴い急速に発展を遂げている様子を示す.1.3節では,我々の生活を支援するロボッ. トには人間と親和性や類似性の高いピューマノイド型が適していることを述べるととも に,ピューマノイドロボットの実用化を進めるにあたり二足歩行技術の向上が重要な技 術的課題として挙げられていることを示す.1.4節では,本研究の意義を述べ,本章をま とめる.. 1.1 ロボットの定義 ロボットには様々なイメージや定義が存在するため,本論文で議論するロボットの定 義を最初に定める.その後,ロボットの機能を実現するための構成を述べる.. 」般の人々がイメージするロボットは様々である.鉄腕アトム・鉄人28号・機動戦士.

(12) 1.1ロボットの定義. 2. ガンダム・ドラえもんなどのアニメに登場する空想のロボット,工場で組立・溶接・塗装 作業をするアーム型の産業用ロボット,ヒト型のピューマノイドロボット,家庭用のペッ. トロボットや掃除ロボット,人間の身体に装着して力を増幅するロボットスーツなどの ロボットのイメージが挙げられる.. ロボットを研究する専門家たちは様々にロボットを定義してきた.森らは,移動性・個 体性・知能性・汎用性・半機械半人間性・自動性・奴隷性の七つの特性を持つ柔らかい機 械をロボットと定義している1).加藤は,脳と手と足の三要素,遠隔受容・接触受容器, 平衡覚・固有覚を備える機械をロボットと定義している2).手で作業し,足で移動し,脳. は動作を統括するもの,遠隔受容・接触受容器は人間の五感に相当しロボットが自分自身 の状態を認識するものとしている. 日本産業用口ボット工業会は,ロボットの定義として次の二案を提示した3)4).. 素1)生体の運動部の機能に類似した柔軟な動作機能を有し,かつ知的機能などを備え て,人間の要求に応じて動作しうるもの.ここで知的機能とは,検出・記憶などを 媒介として,判断・認識・適応・学習などのいずれかを司る能力をいう.. 案2)生体の運動部の機能に類似した柔軟な動作機能を有するもの.もしくはこの動作 機能を有し,かつ知的機能を備えたもので,人間の要求に応じて動作しうるもの. ここで知的機能とは,検出・記憶などを媒介として,判断・認識・適応・学習など のいずれかを司る能力をいう.. 本論文におけるロボットの定義は,日本産業用口ボット工業会が提示した上記の素2 に従うことにする.案2は,知的機能を備えていなくてもロボットと定義している点が, 条1と異なる.. ロボットの機能は,入力となるセンサ部・出力となるアクチュエータ部・入力と出力の 間で処理を行う演算部,から構成される.これをFig.1.1に表す.入力部は,生体の感覚. に相当するものであり,ロボットの内部・外部の情報を入力する.感覚は,感覚受容器 が一か所に限定される特殊感覚(specia1senses)と,特殊感覚以外の一般感覚(genera1 SenSeS)に分けられる5)6).特殊感覚には,視覚・聴覚・味覚・嗅覚・平衡覚・加速度覚な. どがある.一般感覚の中には体中で感じ取れる体性感覚(SomatiC SenSeS)として,触覚・. 温覚・冷覚・痛覚・かゆみなどの皮膚感覚と,関節等の位置覚・筋の長さ・腱の張力など の深部感覚がある.出力部は,生体の筋骨格に相当するアクチュエータであり,ロボット の身体を動作させる機能を持つ.身体は頭部・胴部・腕・脚などから成る.演算部は,入.

(13) 3. 第1章はじめに. Calculation. 1nput. Output. High leve1. Specia1senses. High level motor,recognition,. Sight,hearing,taste、. sme11,balance and. thinking,language,emotion、. aCCeleratiOn. memOry Low1eve1. Somatic senses Touch,temperature,. Low leve1motor. pain,kinestheticsense. (walk,balance,。。.). Actuators. Fig.1.1Function structure of robot.. 力部から得られた信号を演算し出力部に伝える.演算部は,運動に関する処理を行う下 位層と,知能に関する処理を行う上位層に大別される.上位層は,運動・認識・思考・言 語・感情・記憶などの機能を備えている.上位層の運動機能は,入力情報や記憶に基づき. 判断し一連の流れの運動を生成し,その運動指令を下位層に伝える処理を行う.下位層 は,上位層からの運動指令に基づく個々の動作(たとえば歩行やバランス)の軌道を生成. して出力部に伝えるほか,入力情報に応じて下位層内で高速な処理をして出力部に伝え る反射の機能を備えている7)8).. 1.2 ロボットの歴史と現代のロボット ロボットの歴史を振り返り,研究中のロボットも含めた現代のロボットを紹介するこ とで,過去から現在および未来にわたる人間とロボットの関わりを認識する9)10)ll).前節. の1.1節で述べたロボットの定義に基づいてロボットの起源を遡ると,二千年以上前から ロボットの概念が存在するほか,数百年前からロボットの実物が製作されるようになり,. 技術の進歩とともにロボットが進歩している様子が確認できる.特にこの数十年は,コ ンピュータ技術の急速な発展や機械技術の発展によりロボット技術の進歩が加速され,工 場で使用される産業用ロボット以外にも,医療用ロボットなどが実用化されるようになっ. てきた.最近では一般の人々がテレビやイベントでピューマノイドロボットを始めとす るユンタテインメントロボットを目にする機会がある.学校教育の中であるいは趣味で,. 市販されているホビー用の小型二足歩行ロボットに触れる経験をした人もいる.さらに.

(14) 1.2 ロボットの歴史と現代のロボット. 4. 四足歩行のペットロボット「AIBO」が市販されて一般家庭にも入ってきた.こうしたこ. とからロボットが我々の身近なものになりつつあると言える.今後ますますロボット技 術が発展するのに伴い,将来は,我々の生活環境にロボットが入り込み,ロボットが我々 の生活を支援する時代に向かうことが想像できる.. 1.2.1 ロボットの歴史 ロボットの概念としては,紀元前8世紀頃のホメロスの叙事詩「イーリアス」12)に現れ る黄金の美女が最古のものである.ロボットに関連する用語に「ロボット」・「アンドロイ ド」・「ピューマノイド」が挙げられるが,これらの語源はいずれも作家によってもたらさ れている13).1920年,チェコの作家カレル・チャペックが書いた戯曲rR.U.R.(Rossum’s Universa1Robots)」14)の申でロボットという言葉が初めて使用された.R.U.R.に登場する. ロボットは機械式のものではなく人間と同じで血が通った一種の人造人間であり,知性 はあるが心がない.ロボット工場で量産されたロボットが人間に対して反乱するという 物語である.1886年にフランスの作家ビリエ・ド・リラダンが書いた小説「未来のイブ」. に美女ロボットrアタリ」が登場し,外観も人間によく似たロボットがrアンドロイド」. と名付けられている.1940年代にジャック・ウィリアムスンが書いた小説「WithFo1ded Hands」の申で,宇宙人によって作られて人間に仕えるようにプログラムされたアンドロ イドが「ピューマノイド」と名付けられている.. ロボットの実物としては,13世紀に,翼をひろげて時を告げたと言われる,はばたく. 鶏などの機械時計が作られている.18世紀には,フランスのジャック・ド・ヴォーカン ソンは,笛吹き童子,太鼓をたたく少年の自動人形を作った.スイスのピエール・シャ. ケ・ドローは,40の文字を書くことのできる文字書き人形,ルイ14世やマリーアントワ ネットなどの四つの絵を描く絵描き人形,10本の指でキーを押して五つの曲を演奏する オルガン演奏人形(Fig.1,211))を作った.主に18世紀から19世紀にかけてヨーロッパで. 作られた西洋のからくり人形(自動機械)は「オートマタ(autOmata)」(単数形は「オー トマトン(automaton)」)と呼ばれる.. 日本では,17世紀に「からくり人形」が作られ,「竹田からくり座」において,から. くり人形の芝居興行が行われた.18世紀に細川半裁頼直が書いた,からくりの設計書 からくりずい. 「機巧図彙」には,茶運び人形(Fig.1,311)),鼓笛児童などの仕掛けが解説されている. ギェモ ン. 19世紀に,「からくり儀右衛門」と呼ばれた田中久重は,弓曳き童子,文字書き人形を.

(15) 5. 第1章はじめに. Fig.1.2TheMusician.. Fig.1.3Tea−seming automaton.. 作った.. 20世紀に入り,オートメーション技術とコンピュータの発達および原子力に関連する 技術開発によって,産業用ロボットが作り出された.組立ロボット・塗装ロボットなどの. 大量の産業用ロボットが工場等で稼働しており,人間の腕の形をしたアーム型のロボッ トが代表的である.現在に至るまでロボット市場の大部分を産業用ロボットが占めてい る15)16).1996年,本田技研工業がピューマノイドロボットを発表し,その二足歩行技術. の完成度の高さが大反響をもたらした.1999年,ソニーは四足歩行ロボット「AIBO」を 一般販売し,ペットロボットを我々の身近なものにした.. 1.2.2現代のロボット ロボット技術の進歩に伴い,現代のロボットは用途がこれまでになく拡大してきてい る.歴史の申ではユンタテインメント用として使用されたオートマタ・からくり人形が あり,現代では,産業用ロボット,特殊作業ロボット,医療・福祉ロボット,サービスロ. ボットなどの実作業やコミュニケーションの可能なロボットが開発されている.現代の.

(16) 1.2 ロボットの歴史と現代のロボット. 6. ロボットを見るとロボットの用途は今後もさらに拡大していくことが予想できる. 1)産業用ロボット. 自動化・省力化・無人化のために産業分野で使用されているロボットである.製造 業では,工作機械やその他の各種機械における加工物の取り付け・取り外し作業用 のロボット,溶接・ガス切断・レーザ加工等の作業用ロボット,組立ロボット,塗 装ロボット,検査ロボット,重量物の搬送作業やハンドリング作業用ロボットなど がある.人問の腕の形をしたアーム型のロボットが代表的である.非製造業では,. 建設工事用として造成工事の石積みロボット,ビルの解体工事用ロボット,仕上げ 工車ロボット,検査ロボット,清掃ロボットがあり,土木工出二用として,ダム・ト. ンネル・道路・橋梁工事用ロボット,検査ロボットがある.また農林業用ロボット や畜産ロボットがある. 2)特殊作業ロボット. 人問にとって危険な環境下で作業するロボットである.原子力開発で用いられた マスター・スレーブ・マニピュレータ「マジックハンド」,火災消火ロボット,海 中探査ロボット「かいこう」,惑星探査ロボットなどがある. 3)医療・福祉ロボット. 医療分野のロボットとしては,「ダビンチ」などの手術支援用のロボットが実稼働. しており,ナノテクノロジーを応用したマイクロロボット,食事配膳・院内誘導 などの病院内サービスロボット,教育訓練用ロボットなどの開発が行われている.. 福祉分野のロボットとしては,身体障害者や高齢者の機能を補助するための,食事 支援ロボット,歩行支援ロボット,盲導犬ロボット,動力義手・義足などの開発が 行われている.. 4)サービスロボット. 人問の代行あるいは助手として働くロボットである.洗浄作業・清掃作業・窓拭 き作業などをするロボット,警備用ロボット,家事作業をするホームロボット,受 付・案内ロボットなどが開発されている. 5)ユンタテインメントロボット. レジャーや遊び・娯楽で我々を楽しませるロボットである.ソニーのヒューマノイ キュ リ オ. ドロボツトrQRIo」はユンタテインメントロボットとして発表された.1999年に ソニーの四足歩行ロボット「AIBO」が一般向けに販売され,ペットロボットの流.

(17) 第1章はじめに. 7. 行が起こった.2002年,二足歩行ロボットの格闘競技人会「ROBO−ONE」17)が始 まり,二足歩行ロボットがホビー分野の新たなジャンルとして生まれた18).2009. 年7∼8月に東京で一般公開された身長18[m]のガンダム像は頭部が上下左右に動 作するが,公開期間中に400万人以上の見物者が訪れた.. 1.3 ピューマノイドロボット 我々の生活を支援するロボットを前節の1.2.2節で示した現代のロボットの分類に当て. はめると,サービスロボットに相当する.本節では,我々の手活を支援するロボットを機. 能的に見たときのピューマノイドロボットの適合性を述べるとともに,ピューマノイド ロボットの実用化を進めるにあたっての技術的課題について述べる.. 1.3.1 ピューマノイドロボットの分類 一般にピューマノイドと呼ばれているロボットには,上半身型,車輪・クローラ型,全 身(二足歩行)型の三種類があり,それぞれ以下に示す特徴がある19).. 1)上半身型のピューマノイドロボット. 下半身は床に固定されていて,上半身は頭部・胴部・腕などの人1刑と類似の身体的. 特徴を持つロボットである.双腕での協調動作は可能であるが,移動ができない ため動作範囲が制限される.. 2)車輪・クローラ型のピューマノイドロボット 下半身に車輪またはクローラを備えていて,上半身は頭部・胴部・腕などの人間と. 類似の身体的特徴を持つロボットである.平地であれば安定して効率よく移動で きるため動作範囲は広いが,段差・階段・飛び越えなどの移動には制約が出る.人 間の脚の動作は模倣できない.. 3)全身(二足歩行)型のピューマノイドロボット. 頭部・胴部・腕・脚を備え,全身が人間と類似の身体的特徴を持つロボットであ る.両足・両手を使うことで,段差・階段・飛び越えなどの人間が修一助できるあら. ゆる場所に移動して作業できる可能性がある.人間の姿形をしているため,人問 の代わりや人間と共同で作業したりするのに適している(Fig.1,420),Fig.1,521))..

(18) 1.3 ピューマノイドロボット. 8. Fig.1.5HlRP−4.. Fig.1.4HR王一2.. Fig.1.6Jeminoid.. 本論文では特に断りがない場合,ピューマノイドロボットは,頭部・胴部・腕・脚を備え 全身が人間と類似の身体的特徴を持ち,もっとも人間に近い姿形をしている「全身(二足 歩行)型のピューマノイドロボット」を指すことにする..

(19) 第1章はじめに. 9. 1.3.2 ピューマノイドロボットの適合性 我々の生活を支援するロボットに求められる機能には,ヒトとのコミュニケーション 機能,人間の代替・人間と共同作業ができる作業機能,人問の活動する環境下での移動機 能が挙げられる.これらの機能を満足するには,以下で述べるように,我々人間と親和性 や類似性の高いピューマノイドロボットが適している. 1)コミュニケーション機能. 我々の生活を支援するロボットには,ヒトとのコミュニケーション機能が必要不可. 欠である.人間同士のコミュニケーションを参考にすると,視線や指さしに代表 されるジェスチャや,「これ(この)」といった指示語などを交えての会話がコミュ ニケーションを円滑にする上で重要である22)23).このため,ロボットが人間とコ. ミュニケーションを図るには,人間と同様の姿形や表現方法を備えている方が都合 がよく,人間と親和性や類似性の高いピューマノイド型が適している24).ヒュー. マノイドロボットの人間とのコミュニケーションの適性を生かし,人間と情報を 媒介するメディアの役割をするピューマノイドロボットの研究が進められている (Fig.1,625)26)).. 2)作業機能. ロボットが作業をするためには様々な形状物の把持や道具を用いる機能が求めら れるが,特に我々の生活を支援するロボットの場合,その上さらに人間の代わりの. 作業や人間と共同作業ができる機能が重要となる.これらの人間と関わる作業に は人間と身体的に類似性の高いピューマノイドロボットが適している.人間の身 長と同程度の,いわゆる等身大のピューマノイドロボットを使用して,人間の代わ. りの作業や人間と共同作業を行う研究がすでに実施されており,ピューマノイド ロボットが建設機械を操縦したり人間と共同で板を運搬したりすることに成功し ている27).. 3)移動機能. 我々の生活を支援するロボットに求められる移動は,人間の活動する環境下での 移動であるため,人間と身体的に類似性の高いピューマノイドロボットが適して いる.人間の活動する環境は,人間が活動しやすいようにサイズや動作などのイ ンタフエースに関わる部分が人間の身体や知能に合わせてデザインされているた.

(20) 10. 1.3 ピューマノイドロボット. め,身体のサイズが人間に類似しているピューマノイドロボットは人間が移動で きるあらゆる場所に移動できる可能性がある.取っ手をつかんでドアを開けたり,. 行き先階のボタンを押してエレベータで移動したりする場合には,二足歩行型に 限らないが腕や手指を持つピューマノイドロボットは適している.また,日常生 活で見られる段差・階段・飛び越えなどでは,車輪型や多足型のロボットに比べて 二足歩行型のピューマノイドロボットが適している場合がある.. 1.3.3 ピューマノイドロボットを使用した研究例 ピューマノイドロボットの研究例 ピューマノイドロボットのこれまでの研究13)を紹介する.ピューマノイドロボットの 研究においては,ロボットのハードウェア開発や,二足歩行でのバランス確保や全身の自 由度の高さによる身体の運動制御に関わる研究が基盤となっている.. 最初の本格的なピューマノイドロボットは,1973年に早稲田大学生物工学研究グルー. プによって開発されたW肥OTL1である.WABOT−1は,口と耳を用いて簡単な日本語 で人間と会話し,目で対象物を認識し,触覚を持つ両手で物体を把持し,一歩45[s]の静. 歩行で移動できた.1993年には東京大学で小型ピューマノイドロボット「脳をもち歩か ない二脚二腕ロボット(リモートブレインヒューマノイド:㎜Hs)」が開発された.ロ ボットの身長は330[mm],体重は2[kg]であり,ボディ部とソフトウェアを司る脳部と. が物理的に分離されていた.1996年には早稲田大学で等身大のピューマノイドロボット. WABIANが開発された.W肥IAN’は,身長1660[mm],体重107[kg]であり,手で物を 把持しての歩行・情緒のあるインタラクション・遠隔操作の機能を備えるとともに,電源 以外のすべての制御装置を内蔵していた.. 1996年,本田技研工業は安定した二足歩行ができる完成度の高いピューマノイドロ. ボットP2を発表した.P2は,翌1997年にはP3.2000年にはASIM028)29)に改良され た.P2は身長1820[mm],体重210[kg],胴体部にコンピュータ・モータドライブ・バッ. テリ・無線などの必要な機器をすべて内蔵し,自在な歩行・階段の昇降・台車を押す動 作を実現した.ASIMOは,小型化・軽量化され,現在は身長1300[mm],体重54[kg]と. なっている.東京大学では,等身大のピューマノイドロボットとして,1998年にH5. 2001年にH7が開発された.H7は身長1468[mm],体重58[kg]であり,オンライン歩 行動作生成に関する研究や,三次元視覚を用いたリーチング動作生成に関する研究に使.

(21) 第1章はじめに. 11. 用された.1998年には経済産業省において国家プロジェクト「人間協調・共存型ロボッ トシステムの研究開発(Humanoid Robotics Project:H㎜)」が開始された.そして,等. 身大のピューマノイドロボットのH㎜一1・HRP−1S・H㎜一2が開発された.HRP−2は身 長1540[mm],体重60[kg]である.産業技術総合研究所ではその後,HRPシリーズとし て,ロボットアニメ調のデザイン(Fig.1.4)20),屋外作業用,女性型(Fig.1.5)21)と様々. な種類のピューマノイドロボットが開発されている.2000年,ソニーは身長500[mm],. 体重5[kg]の小型ピューマノイドロボットSDR−3Xを発表した.SDR−3Xは,その後 キュリオ. sDR−4x,QRJ0に改良された.QRIoは高速歩行や起き上がり動作を含む多様な歩行・ 床運動動作,ダンスパフォーマンス,インタラクティブな各種動作のパフォーマンス(例. えば音声で指示された色のボールをゴールに向けて蹴る)ができた.2007年,トヨタ自 動車は身長1522[mm],体重56[kg]のバイオリンが演奏できる等身大のピューマノイド ロボット30)を発表した.. 人間の特性を解明するための研究例. ピューマノイドロボットが人間の知能や動作原理などの特性を解明するために必要と されている研究例を以下に紹介するが,これはピューマノイドロボットと人間の類似性の 高さを示すものと言える.ロボットだと内部の動作を把握できるため,内部の動作を直接 知ることができない人間の動作原理の研究にピューマノイドロボットが役立っている31).. ピューマノイドロボットは,人間の生理・解剖学的,機構・運動学的,認知・心理学的機 能の数学的モデルをコンピュータソフトウェアで実現する技術「デジタルヒューマン」32). のような,人間を対象にする研究で検証のために使用されている.人間の認知の研究33). のため,人間そっくりの外観を持つ遠隔操作型実在人間アンドロイド「ジェミノイド」 (Fig.1.6)が石黒らによって開発されている25)26).人間の成長を解明するため,生体とし. ての人間の仕組みや発達過程を模倣させるのに赤ちゃんロボットが開発されている34)35).. 人間の脳の機能を解明するため,人間の脳の情報を取り出せるブレイン・マシン・インタ フェース(BMI)技術36)を用いた研究にピューマノイドロボットが使用されている.. 1.3.4 ピューマノイドロボットの実用化における課題 ロボット分野において将来の目標に掲げられているロードマップを基にして,ピューマ ノイドロボットの実用化における課題を挙げる.このロードマップには,新エネルギー・.

(22) 1.3 ピューマノイドロボット. 12. 産業技術総合開発機構似EDO)がまとめた技術戦略マップ37)と,日本ロボット学会・人 工知能学会・日本人間工学会らがまとめたアカデミックロードマップ38)が存在する.学. 術界でまとめられたアカデミックロードマップには,50年後の未来におけるロボット分 野の技術と,その技術を用いて実現される世界(ユビキタスロボット社会)のイメージが. 描かれている.中央には人間が位置し,ロボット技術は人問のために人社会と関わり環 境と調和している.ロボット技術の進化系統図には,ロボテイクスの未来を,1)社会シ ステムとロボットの知能化,2)人間を助けるシステム,3)人間と機械の融合で関係づけ. られている.このことから,ロボットおよびロボット技術は将来ますます我々の身近で 我々を支援する役目を担うことになると推測できる.. 将来のロボット産業の視点から見た技術戦略マップでは,非産業用の次世代ロボット (サービスロボット)を実用化するにあたり開発すべきことが,コミュニケーション・マ. ニピュレーション・移動・エネルギ・安全の5分野に分けて挙げられている.ロボットの 実用化を進める上でこれらの開発すべき分野ごとに,目標課題を以下にまとめる. 1)コミュニケーション分野. 人間との会話,人間のジェスチャの理解,人間がおかれている状況や人間の意図の 理解ができ,人間にとって好ましいインタフェースを備える. 2)マニピュレーション分野 様々な形状物の把持,道具を用いた作業ができる. 3)移動分野. 動的歩行・走行・跳躍・不整地移動ができ,環境認識,人間の動作の検出や,行動 計画の作成ができる.. 4)エネルギ分野 省電力・長寿命・高出力である. 5)安全分野. 障害物の回避,衝突時の安全確保ができる.. 我々の生活を支援するピューマノイドロボットの実用化を進めるにあたっては,機能 面ではコミュニケーション技術と運動制御技術,運用面ではエネルギ技術と安全技術に 課題がある.コミュニケーション技術(分野1)は,人間との会話,人間のジェスチャの. 理解,人間がおかれている状況や人間の意図の理解ができ,人間にとって好ましいイン タフェースを備える技術である.運動制御技術は,様々な形状物の把持や道具を用いた.

(23) 第1章はじめに. 13. 作業ができるマニピュレーション技術(分野2)と,動的歩行・走行・跳躍・不整地移動 ができて行動計画が生成できる移動技術(分野3)から成る.エネルギ技術(分野4)は, 省電力・長寿命・高出力の技術である.このうち長寿命・高出力はバッテリなどのエネル. ギー源やアクチュエータに関わる要因が大きいと考えられるため,ここでは取り上げな い.安全技術(分野5)は,ロボット単体以外に関わる要因が大きいと考えられるため, ここでは取り上げない.本研究では,機能面においては運動制御技術の中の移動技術,運 用面においてはエネルギ技術に関わる省電力化を研究対象とする.. 機能面においては,転倒せずに安定して移動できるピューマノイドロボットの実現が 実用化への基盤になる.ピューマノイドロボットの移動は,人間の活動する環境下で安 定して歩行できることが必要条件である.実用化を進めるにあたって大きな障害となる のはロボットの転倒である.周囲の人間や環境に危害を及ぼしてはならないため,また ロボット自身が破損することも考えられるため,ロボットの転倒は極力避けなければな らない.ロボットの転倒の危険性は,静止時よりも片足を上げて重心を移動しているい わゆる歩行動作中の方が高いと考えられる.我々が普通に生活する環境には多少の凹凸 が存在するが,このような不整地で安定した歩行を実現することは現状では困難である. 二足歩行技術はこれまでの床に固定された産業用ロボットにはない新しい技術であり,実. 用化に向けて解決しなければならない課題は多い.つまり,二足歩行技術の歩行安定性 を向上することは,ロボットが転倒せずに安定して移動できるピューマノイドロボット の実現につながる.. 運用面においては,ロボットに省電力化が求められる.実用的な使用を考慮すると,ロ. ボットの連続稼働時間は最低でも2∼3時間以上,できれば1日は求められるであろう. 電力消費が大きいのは質量のあるロボットが移動するとき,すなわち歩行と言える.歩 行中の消費電力の大きさに関しては,ピューマノイドロボットで現在主流の膝を曲げる タイプの歩行では人間の歩行に比べて10倍以上のエネルギが消費されていると言われて いる39)40).ピューマノイドロボットは自らの体重を自分の脚で支えなければならない構. 造であるために,大型で重量増につながる大容量のバッテリを搭載するには制約がある. 有線にて外部からロボットに電源を供給すると,ロボットの移動できる範囲が制限される. うえに電源ケーブルがロボットの歩行や動作の妨げになる.稼働中少なくともロボット が移動している間は内蔵バッテリにて動作し続けることが望ましい.すなわち,二足歩 行技術のエネルギ効率を向上することはピューマノイドロボットの省電力化につながる.. 現在,多くのピューマノイドロボットで歩行が実現できているため二足歩行技術は完.

(24) 14. 1.4本研究の目的と本論文の構成. 成したかにみえるが,実用レベルに達しているとは言い難い.したがって,ピューマノイ. ドロボットの実用化を進めるにあたり,転倒せずに安定して移動できる能力やエネルギ 効率などの点で,二足歩行技術の向上が重要な技術的課題として挙げられる.. 1.4 本研究の目的と本論文の構成 本節では,我々の生活を支援するピューマノイドロボットのための二足歩行技術の研究 の意義を述べ,本章をまとめる.二千年以上前からイメージの存在したロボットが,近年. の技術進歩に伴い急速に発展を遂げ,その用途が拡大している.近い将来に人とロボッ トが共存する近未来社会が現実味を帯び始めている.一方で,少子高齢化社会・情報化. 社会において,我々の生活環境に入り込み我々の生活を支援するロボットの実用化が望 まれている.我々の生活を支援するロボットに求められる機能には,ヒトとのコミュニ ケーション機能,人間の代替・人間と共同作業ができる作業機能,人間の活動する環境下. での移動機能が挙げられる.これらの機能を満足するには,我々人間と親和性や類似性 の高いピューマノイドロボットが適している.ピューマノイドロボットの実用化を進め るにあたっては,実環境においてロボットの歩行の安定性が高く,エネルギ効率の高い二. 足歩行技術が重要な技術的課題として挙げられる.現在の二足歩行技術ではまだ実用レ ベルに達しているとは言えない.本研究では,我々の生活を支援するピューマノイドロ ボットの実用化に向けた二足歩行技術の向上を目的と定める.. 本論文の構成は次のようになる.第2章で,二足歩行ロボットの歩行について現在実 施されている研究を概観した後,本研究の研究課題を述べる.本研究では,ピューマノ イドロボットの歩行安定性とエネルギ効率の向上を図ることで二足歩行技術を向上する ために,1)ピューマノイドロボットは不整地での歩行が困難であるという現状において,. 歩行の安定性を高め不整地を高速で移動できる不整地歩行,2)ピューマノイドロボット のエネルギ効率が低いという現状において,エネルギ効率が高くかつ歩行の外見がより 人間に近い膝関節伸展歩行,の二つを研究課題と定める.. 本研究で提案する二つの歩行手法の詳細は,第3章と第4章で述べる.ピューマノイ ドロボットは不整地での歩行が困難であるという現状の課題に対処するものとして,膝. を深く曲げて腰を低くし足を左右に開いた歩行姿勢と,前後に長い足裏形状のデザイン を組み合わせることにより歩行の安定性を高め不整地における高速な動歩行を実現する 手法を提案する(第3章).ピューマノイドロボットのエネルギ効率が低いという現状の.

(25) 第1章はじめに. 15. 課題に対処するものとして,エネルギ効率が高くかつ歩行の外見がより人間に近い膝関 節伸展歩行を実現する手法を提案する(第4章).本研究を実施するにあたり,ロボット の実用化に向けた研究的取り組みとして,ピューマノイドロボットの実機を使用する世 界的なサッカー競技大会「ロボカップ」(付録A)41)42)43)がすでに開催されていることか. ら,ロボカップを利用した参考実験が可能で実践的な手法の開発を目指す.. 第5章では本研究で実現した歩行手法に関する検討を行い,我々の生活を支援する ピューマノイドロボットの実用化のための二足歩行技術の向上に関して本研究全体を通 しての今後の課題を述べる.第6章で本研究全体のまとめを行う..

(26) 第2章 二足歩行ロボットの歩行 本章では,二足歩行ロボットの歩行について現在実施されている研究を概観した後, 我々の生活を支援するピューマノイドロボットの実用化に向けた二足歩行技術の向上を 目的として本研究で取り組む研究課題を述べる.これらの研究課題について実施した研 究の内容は,第3章の不整地歩行,第4章の膝関節伸展歩行で詳細に述べる. 現在のピューマノイドロボットの二足歩行技術は,ゼロ・モーメント・ポイント(ZMP). 規範による歩行,受動歩行,非線形振動子・CPG(Centra1PattemGenerator)による歩 行,学習・進化計算による歩行に大別できる.この中で,現在もっとも安定した歩行が実. 現できており実績の多いZMP規範による二足歩行制御には,計測およびモデル化して計 算することが容易でない不整地での歩行が困難な点や,制御が困難な特異点の関節角度 の使用を避けるため膝を曲げた歩行姿勢によるエネルギ効率の低さや外見の不自然さに 改善すべき点がある.. 本研究では,ピューマノイドロボットの歩行安定性とエネルギ効率の向上を図ること で二足歩行技術を向上するために,1)ピューマノイドロボットは不整地での歩行が困難 であるという現状において,歩行の安定性を高め不整地を高速で移動できる不整地歩行,. 2)ピューマノイドロボットのエネルギ効率が低いという現状において,エネルギ効率が 高くかつ歩行の外見がより人間に近い膝関節伸展歩行,の二つを研究課題と定める..

(27) 2.1二足歩行ロボットの歩行技術. 18. Walk Non learning. Active. Learning. Passive. /\. Model based Non mode1based. Fig.2.1C1assification ofwa1k contro1.. 2.1二足歩行ロボットの歩行技術 ピューマノイドロボットの二足歩行技術は,Fig.2.1に示すように,ZMP規範による歩. 行,受動歩行,非線形振動子・CPGによる歩行,学習・進化計算による歩行の四つの手 法に大別できる44).これらの四つの歩行手法の特徴を以下の2.1.1節から2.1.4節で述べ. る.また比較のために,動物(人間)の運動制御を司る脳・神経系の制御システムを次節 の2.2節で述べる.. 2.1.1 ゼロ・モーメント・ポイント(ZMP)規範による歩行 本節では,ゼロ・モーメント・ポイント(ZMP)の定義を確認し,ZMPの計算式を導 出する.その後,ZMP規範による歩行制御の特徴について述べる. ZMPは,Vukobratovi6とStepane血。によって次のように定義されている.「Fig.2.2 は足部における力の分布図である.荷重は接触面全体で同符号だから,足部の境界の内側. に存在する点に作用するこの作用点をゼロ・モーメント・ポイント,または略してZMP と呼ぶことにする.」45)44)ZMPとは足裏が床から受けるモーメントの水平軸まわりのモー. メントがゼロになる点である.ZMPは常に床面と足裏面の接触面のどこかにあり,境界 以外にあるときは足裏が床面から離れることはない.足裏が床面から離れないならば,そ. の時点では転倒していない.床面が平面であり足裏が床面と面接触している場合,足裏.

(28) 19. 第2章 二足歩行ロボットの歩行. Fig.2.2Dennition ofzero momentpoint(ZMP).. で形成される支持多角形の境界より内側にZMPが存在することはロボットが転倒しない ための十分条件になる.. ・M・の計算式を導出する・・).・M・の位置ρ・レ、ρ、ル1「,ロボットの全質凱. 重心位置・・[・、・r,運動量戸・[戸、・、れr,角運動量∫・[ム∫、ムr, 重力加速度ξ・[・・一。r,ロボットに作用する力の合計篶・,ロボット1こ作用する重 力以外のカハロホットに作用するモーメントの合計τ”〃,ロボットに作用する重力以外 のモーメント㌃鉛直軸回りのモーメントτ、・[1、、τ、ツτμrとする.動力学の法則 より以下の関係がある.. 戸. と=一・・・…. ・・・・. M. 戸=ノ;〃・・…. ・・…. @ ・・・・…. 一・・・. ・・・・・. ・・・… (2.1). …・・. …・…・. i2.2). ・… @ ・(2.3). z=τ。〃…・・. ロボットに作用する重力以外のモーメントτは, ・(2.4). τ=ρ×∫十τプ・……・・……・…・・………. ロボットに作用する力の合計は篶〃=M8+∫より,式(2.2)は 戸=Mξ十∫・…・………・…・… ……………・・・. ・…. ……・. i2.5). ロボットに作用するモーメントの合計τ”〃=cx M8+τより,式(2.3)は. ∫=c×M’9+τ……………・・・……・……………・・…・. ・…・・. i2.6).

(29) 2.1二足歩行ロボットの歩行技術. 20. 式(2.6)に式(2.4)式(2.5)を代入し,τρについて解く.. τρ=∫一・x雌十(月一M8)×ρ…………・・…………………・……・(2・7). 式(2.7)の第1行目と第2行目を書き出し,ZMP点においてモーメントτρのx要素γ要 素がOであることを用いると, τρ、・∠、・吻・声。ρ、一(声、・雌)〃・0川………・………………・(2・8). τ〃・4一塊・一声、ρ、・(声、・雌)ρ工・O一一………・・…・……・…(2・9) 式(2.9)式(2.8)をそれぞれρ、,ργについて整理するとZMPの式が得られる.. 雌・・ρ、声、一4. 〃= 雌・声、. …. ・ (210). M妙・ρ、声γ・∠、. ρ。= 雌十声、. ・・・ …. …・(211). 次に簡略化したモデルを用いたZMPの近似計算方法を示す.各リンクの重心回りの慣性 テンソルの効果を無視し,ロボットをM個の質点の集合体としてモデル化する.この場 合ロボット全体の原点回りの角運動量は. M. ∫・Σ・1・片……………・………・……・・…………・一…・…(・・1・) ’=1. 式(2.12)を式(2.10)式(2.11)に代入することで,ロボットを質点の集合体とした場合の. ZMPは次式のように導出される. Σ芝1mi{(易十9)巧一(Z’一ρ、)犬’}. ρ、= Σ芝1m’(考十9). …. (213). Σ芝1m’{(考十9)ヅ’一(Zゴーρ、泌}. ργ= Σ芝1mオ(考十9・) …・・・・. …. (214). ここで重心位置を・Fr・、γ、・、rとする.さらにロボット全体を単一の質点としてモ デル化する.この場合運動量と原点回りの角運動量は, 戸:Mろ・・・・・・・… …・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. ・(2.15).

(30) 21. 第2章 二足歩行ロボットの歩行. ・(2.16). ∫:c×ル化・・ ・・・…. 式(2.15)式(2.16)を要素に展開して式(2.10)式(2.11)に代入すると,ロボット全体を単. 一の質点とした場合のZMPの計算式は次式になる. (Z一ρ。)文. ρ、=x一 2+9 (Z一ρ、)ヴ. ρ。・γ一 2+9. …. ・ ・. (217). …. (218). これまでに導出したZMPの計算式を整理すると,厳密なZMPは式(2.10)式(2.11),ロ ボットをM個の質点の集合体としてモデル化した場合のZMPは式(2.13)式(2.14),ロ ボット全体を単一の質点としてモデル化した場合のZMPは式(2.17)式(2.18)で表わさ れる.. ZMPを歩行制御に用いるZMP規範による歩行制御は,足裏で形成される支持多角形 の境界より内側を通るZMPの軌道をあらかじめ設定し,その目標とするZMPの軌道を 実現する全身の運動軌道を生成し,さらに歩行の安定化のためにフィードバック制御系. を構成する手法が一般的である.この場合に,目標のZMPの軌道から安定な重心軌道や 全身の運動軌道を生成するためにいくつかの手法が提案されている.高西らは,目標の. ZMP軌道をFFTを用いてフーリエ級数展開して周波数領域で解き,得られた結果を逆 FFTを用いて重心軌道に変換している46).梶田らは予見制御を用いて解いている44)47).. 西脇らは高速な計算法を提案し,歩行軌道をリアルタイムに生成しリアルタイムに歩行 ができるようにしている48).本研究でもZMP規範による歩行制御を使用しているが,小 型のピューマノイドロボットに搭載可能な小型のマイコンでも計算できるように計算量. が少なくて済む歩行制御手法を考えた.あらかじめ計算したZMP規範による前後左右回 転のそれぞれの軌道をテーブルとして持ち,それらのテーブルを歩行の向きや歩幅等に 応じて伸縮し重ね合わせて使用するという手法49)である(詳細は第3章3.4.3節,第4章 4.2.2節,付録B).. ZMP規範による歩行制御は,ロボットの正確な計算モデルに基づいており,床が平面 であり,かつ計算した歩行軌道が正確に実現できることが前提条件となる.歩行軌道を 正確に実現する必要があるため,一般的には膝を曲げた姿勢を取ることで制御が困難な. 特異点の関節角度の使用を避けて歩行している.この膝を曲げた歩行姿勢は人間の普通 の歩行とは外見が明らかに異なり,エネルギ効率を低下させる要因になる.また,モデル 化して計算することが容易でない不整地での歩行は困難である..

(31) 22. 2.1二足歩行ロボットの歩行技術. ZMP規範による歩行制御は,現存する歩行手法の中で唯一きちんと安定した歩行が実. 現できている手法であり,本田技研工業のASIMO,産業技術総合研究所のHRPシリー ズ(Fig.1.4,Fig.1.5),トヨタ自動車のパートナーロボットなど,現在一般向けに実演さ. れているほとんどすべてのピューマノイドロボットに使われている.. 2.1.2 受動歩行 受動歩行とは,緩やかな斜面を重力だけを利用して下るような歩行である.受動歩行 のロボットに小さなアクチュエータを取り付け,平地を歩行できるようにすればエネル ギ効率の高い二足歩行ロボットが実現できる.このような玩具は古くから知られている. が,1990年,McGeerはその動特性を分析し,膝が自由に曲がる脚でも受動歩行ができ ることをシミュレーションと実験で示した50)51).歩行のエネルギ効率の指標である移動. 仕事率は,ZMP規範による歩行を用いたASIMOのようなロボットに比べて10倍以上 も高く人間の効率に近いと言われている39)40).. 2.1.3 非線形振動子・CPGによる歩行 非線形振動子・CPG(Centra1P砒emGenerator)による歩行とは,歩行を解析的に計画 するのではなく,環境との相互作用による安定な非線形振動を維持することで歩行運動を. 生成する手法である.CPGは動物(人間)の脊髄で行われている神経機構の仕組み(2.2 節)を取り入れたものであり,外乱や環境変動に対して制御系が柔軟に適応できること. が知られている.加藤と森は安定なリミットサイクルを持つ。oup1edvanderPo1方程式 に基づいた非線形振動子を用いて,竹馬型の二足歩行ロボットで一歩の踏み出し動作に 成功した52).多賀らは人間の筋骨格系を模した二次元モデルにCPGを分散的に配置し, 外乱に対して頑健で安定した歩行や走行が生じることをシミュレーションで示した53)54).. 長谷らは三次元モデルにCPGを階層構造に配置して,安定な歩行や走行が実現できるこ とをシミュレーションで示した55)56).. 2.1.4 学習・進化計算による歩行 学習・進化計算による歩行とは,ロボット自身に学習機能を持たせてロボット自身が歩. 行を学んでいく手法である.銅谷が開発した3リンクの歩行ロボットは,移動距離を評.

(32) 23. 第2章 二足歩行ロボットの歩行. Cerebrum Brain stem. Cerebellum. Spina1cord. Musc1e Fig.2.3Wa1kingcontro1systemofanima1.. 価関数にして乱数発生と山登り法を用いて歩行運動を学習させることにより,開発者が 予期しないような飛び跳ね歩容や転がり歩容を自力で獲得した57)58).Garisはニューラル. ネットワークをフィードバック制御に適用し,その重み関数を遺伝的アルゴリズムを用い て調整することにより,二足歩行の進化のシミュレーションを実施した59).マサチュー. セッツ工科大学(MIT)の受動歩行機械は,四個のアクチュエータの駆動パターンをオン ラインで強化学習させることにより,初期状態から20分程度で任意の床面の状態に適応 した歩行運動を獲得した60).. 2.2 動物(人間)の運動制御を司る脳・神経系の制御シス テム ロボットの二足歩行制御と動物の運動制御を比較するために,動物(人間)の運動制御 を司る脳・神経系の制御システムをFig.2.3に示す61)62)63).大脳(cerebmm)は行動計画. を生成する.脳幹(brain stem)は大脳からの指令と小脳(cerebe11um)からの情報に応. じて脊髄(spina1cord)に持続信号を出力する.脊髄は,持続信号が入力されると,脚か. らの感覚情報をフィードバックして外乱や環境変動に適応可能な,歩行に伴う周期リズ. ムをCPG(Centra1Pa杭emGenerator)と呼ばれる神経機構で生成している.小脳は脊髄 からCPGの状態や感覚情報をフィードバックして適応・協調・学習制御を行っており, 運動を円滑にする役目を果たしている.筋肉(muSC1e)は脊髄からの信号に応じてアク チュエータとして駆動し身体を動作させる.前節の2.1節で述べたロボットの二足歩行 制御の研究は,動物(人間)の制御システムの特徴を参考にしていると言える..

(33) 24. 2.3本研究の研究課題. 2.3 本研究の研究課題 本節では,我々の生活を支援するピューマノイドロボットの実用化に向けた二足歩行 技術の向上を目的として本研究で取り組む研究課題を述べ,本章をまとめる.これらの. 研究課題について実施した研究の内容は,第3章の不整地歩行,第4章の膝関節伸展歩 行で詳細に述べる.. 現在のピューマノイドロボットの二足歩行技術は,ZMP規範による歩行,受動歩行,非. 線形振動子・CPGによる歩行,学習・進化計算による歩行に大別できる.このうちZMP 規範による歩行制御は,現存する歩行手法の中で唯一きちんと安定した歩行が実現でき ている手法である.ZMP規範による歩行制御は,ロボットの正確な計算モデルに基づい ており,床が平面であり,かつ計算した歩行軌道が正確に実現できることが前提条件とな. る.このため,計測およびモデル化して計算することが容易でない不整地での歩行は困 難である.また,計算で求められた歩行軌道を正確に実現する必要があるため,一般的に. は膝を曲げた姿勢を取ることで制御が困難な特異点の関節角度の使用を避けて歩行して いる.この膝を曲げた歩行姿勢は人間の普通の歩行とは外見が明らかに異なり,エネル ギ効率を低下させる要因になる.. ZMP規範による歩行制御において,ピューマノイドロボットは不整地での歩行が困難 であるという現状を改善するために,歩行の安定性を高め不整地を高速で移動できる不整. 地歩行を一つ目の研究課題とする.ピューマノイドロボットのエネルギ効率が低いとい う現状において,エネルギ効率が高くかつ歩行の外見がより人間に近い膝関節伸展歩行. を二つ目の研究課題とする.ピューマノイドロボットの歩行に要求される性能には,歩 行速度・歩行安定」性・エネルギー効率・外見の四つの要素がある.このうち歩行速度と歩. 行安定性に関しては,歩行の安定性を高め不整地を高速で移動できる不整地歩行で取り. 組み,エネルギー効率と外見に関してはエネルギ効率が高くかつ歩行の外見がより人間 に近い膝関節伸展歩行で取り組む.. ピューマノイドロボットの実用化を目的とする本研究を実施するにあたり,実践的な 歩行手法を開発しロボットの実機に組み込んで検証を行うことにする.さらに,ピュー マノイドロボットの実機を使用する世界的なサッカー競技大会「ロボカップ」41)42)43)(付. 録A)がロボットの実用化に向けた研究的取り組みとしてすでに開催されていることか ら,ロボカップを利用して参考実験を実施し,提案する歩行手法の参考データを取得す.

(34) 第2章 二足歩行ロボットの歩行. 25. る.実践的な歩行手法の開発には,研究室の中での実験・検証に加えて,環境条件が異な. る大会会場において一般観客の前で本提案手法を組み込んだロボットをきちんと動作さ せて,他のロボットとの比較になる参考データを取得することは意義が大きいと言える.. 本研究では、ピューマノイドロボットの歩行安定性とエネルギ効率の向上を図ること で二足歩行技術を向上するために、. 1)歩行の安定性を高め不整地を高速で移動できる不整地歩行。 2)エネルギ効率が高くかつ歩行の外見がより人間に近い膝関節伸展歩行。. の二つを研究課題と定める.また、ロボットの実用化に向けた研究的取り組みとして開 催されている「ロボカップ」を利用した参考実験が可能で実践的な手法の開発を目指す.. 第3章では,歩行の安定性を高め不整地を高速で移動できる小型ピューマノイドロボッ トのデザインを提案する.膝を深く曲げて腰を低くし足を左右に開いた状態で歩行する という歩行姿勢と,前後に長い足裏形状のデザインを組み合わせた.ロボットの動揺が 発振しないように,ジャイロセンサで計測したロール方向とピッチ方向の角速度を,足首 関節・股関節・肩関節にフィードバックする制御を行い,ロボットの姿勢の安定化を図っ. た.歩行の直進性を向上するために,ジャイロセンサで計測したヨー方向の角速度の積 分値を,股関節のヨー軸の関節角度指令値にフィードバックする制御を行い,ロボットの. 進行方向を定めた.安定性の評価基準として傾斜度安定余裕を計算することにより,本 手法の有効性を検証した.. 第4章では,エネルギ効率を向上し歩行の外見を改善するため,平行リンク機構を用い て脚のモータだけによる膝関節伸展歩行を提案する.人間のように自然な膝の曲げ伸ば しを伴う歩行を「膝関節伸展歩行」と呼ぶことにする.膝関節伸展歩行の膝が伸びたとき. の特異点問題に対処するために,脚に平行リンク機構を採用し,胴体の姿勢を機構的に 維持できるようにした.膝の関節角度の指令値は,逆運動学を用いた計算から求めるの ではなく,直接的に角度指令値を与えた.膝関節の大きな角速度に対する追従性を向上 するために,一つの膝に二個のモータを使用した.本手法の有効性はピューマノイドロ ボットの実機を使用して検証された..

(35) 第3章 不整地高速移動のための歩行姿勢と 足裏形状のデザイン 本章では,ピューマノイドロボットは不整地での歩行が困難であるという現状を改善 するために,歩行の安定性を高め不整地を高速で移動できる不整地歩行の研究課題に取 り組む.歩行姿勢と足裏形状に着目し,歩行の安定性を高め不整地を高速で移動できる 小型ピューマノイドロボットのデザインを提案する.. 3.1 はじめに 近年,ピューマノイドロボットは,平地では安定した歩行をはじめ46)64)65)66)67)68)69)70). 走行さえもできるようになってきているが28)29)71)72),地面が平坦でない場所つまり不整. 地においては歩行すら満足できるものではない.ピューマノイドロボットの移動に関 する機能強化として,不整地における移動は重要な技術的課題の一つに挙げられる.非 ピューマノイド型のレスキューロボット73)74)75)76)や火星探査ローバ77)78)79)などでは,す. でに不整地における移動が実現されている.しかし,これらのロボットは,用途や環境 条件において,人間の生活空間で我々と共存するために設計・開発されているわけでは なく,人問との共存を前提としたロボットには新たな技術開発が求められる.例えば未 来のモノは人間とインタラクティブに関わることがますます重要視されてきているが80),. 人間と親和性の高いピューマノイドロボットは人間との関わりに適したモノと言える.. 本研究では,不整地における高速な動歩行を実現する小型ピューマノイドロボットの.

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