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<論文>新たな美術教育の理論と方法論、考察と実践「鑑賞学習から始まる創造活動表現」 : 鑑賞表現一体化 直接対決の美術 : 報告「一本の線の絵の実験」ワークショップ

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Academic year: 2021

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(1)<論文>. 新たな美術教育の理論と方法論、 考察と実践 「鑑賞学習から始まる創造活動表現」 ……鑑賞表現一体化 直接対決の美術. “The art of direct confrontation”by integrating art appreciation and expression : a discussion and practice on a new theory and methodlogy for art education Reporting from art workshops “experiment of one-line drawings”. 報告「一本の線の絵の実験」ワークショップ. Mihoko HARADA. 横浜国立大学大学院 環境情報学府 博士課程後期. Graduate School of Environment and Information Sciences, Yokohama National University. 原田 美穂子 要旨. 本研究は、鑑賞することが動機となり表現へ連動すると捉え、鑑賞と表現が一体化した美術教育の方法論による「鑑賞表現 一体化」プログラムと美術活動の報告である。鑑賞表現一体化の美術教育方法論は、主体性の確立を目指すプログラムである。 知識や教養に終ることなくまた技術指導に偏ることなく、鑑賞した物事に応答して表現する活動では、鑑賞物に対峙する主体が 不可欠である。鑑賞と表現が一体化した美術教育の方法論「鑑賞表現一体化」プログラムの主題は「直接対決の美術」で ある。主体と事物が対決するの意である。溢れる情報に囲まれてはいるものの今日の情報過多社会においても、与えられなけれ ば出会わない鑑賞機会こそ美術教科の教育的使命なのである。指導案を制作する教師もまた鑑賞表現一体化の方法論により準 備にあたる。鑑賞表現一体化の方法論は、情報化社会の多様性を生きる、生き方の方法論そのものである。鑑賞表現一体化 方法論によるワークショップ「一本の線の絵の実験」からは、他者とをつなぐアートの機能が浮かび上がった。. ABSTRUCT This paper presents the concept of art activities based on the“integrated art appreciation-expression program.” This program is based on the art education methodology which percieves appreciating art simultaneously motivates art expression, aiming to establish oeople’s identities. In art activities where people immediately respond to what they are appreciating, not just ending it as accumulation of their knolegedge or culture, nor be biased to acquiring art techniques, it is essential for one to be the subject that faces the appreciating object. The main theme of the integrated art appreciation-expression program is “art of direct confrontation,” whereby the subejct and the object confronts with each other. The educational mission of art course in school is giving opportunities for appreciating art which could not be possible if not given to them, even in today’s information overloaded society. Teachers also face the “integrated art appreciation-expression program” by preparing curriculum. The methodology of integrated appreciation-expression is the methodology for a way of life in living the information diverse society. The art workshops “experiment of one line drawing”based on this methodology revealed the fuction of art in connecting people to people. Ⅰ.はじめに. らわかった。美術教育における鑑賞学習の位置づけと 意義を明確にする必要があるだろう。. 中高美術科学習指導要領の「内容」は、 「表現」と. 前段の研究「美術教育の可能性と方法論…鑑賞から. 「鑑賞」の二項に分けて記述される。二項分け記述は、. 学ぶ」 (原田、2010)では、制作のためのキーワード「記. 表現と鑑賞を別物として扱う誤解を生み、 「表現」の. 号・場面・痕跡・図」が相互連関する創造活動を捉え、. 項には、絵画、デザイン、彫塑、映像メディアの分野. 鑑賞と表現が連動する方法論を模索した。鑑賞表現一. が別記され、学習指導要領の記述に従えば、おのず. 体化方法論では、対象物に対峙して応答する主体のア. と技術表現に偏りがちになる。近年、学習指導要領の. クションが表現である、とした。主題は「直接対決の. 改訂により鑑賞の扱いが変化し、鑑賞教育研究が進ん. 美術」、直接対決の美術は主体的な生き方の方法論と. だ。こうした流れは、美術教育現場からの要請ではな. 重なる。. く、社会的環境変化に起因していることが先攻研究か. 鑑賞表現一体化方法論による教育プログラムとアー. 17.

(2) 技術マネジメント研究第 15 号. ト活動実践から、本稿では「一本の線の絵の実験ワー. 時代の学びとはなんだろう。環境の変化によって教育. クショップ」を報告する。参加者が一本の線を引いて. 自体のあり方が変わり、その目的もその方法も見直さ. 一枚の絵を作るこのワークショップは、まっさらな画面. ざるをえない。まずは具体的な現実的課題として美術. に自分を表現するのではない。他者が引いた線の画面. 教育指導のガイドラインから検討してみよう。. に自分の線を上書きして制作に介入する。一枚の絵を 2-1 美 術科学習指導要領の内容、A 表現・B 鑑賞、. 皆で作る機会は、他者の痕跡を引き継ぐ場である。線. 二項分け記述について. を引くという記号化された行為は、参加者一人ひとりの 表現の違いにより、常に新しい図(イメージ)を更新し. 学校の教科指導にあたり従わねばならない指導のガ. 続ける。他者との関係性に貢献する美術の機能が実験. イドライン学習指導要領、その記述について検討する。. ワークショップから浮かび上がった。. 美術科「内容」A 表現、B 鑑賞の二項分けのなにが. 2節では学習指導要領の記述により、美術の学習. 問題なのか。ここでは小学校、中学校、高等学校とそ. が表現活動に偏る問題を提起し、3節では鑑賞教育. れぞれの違いは抜きに雑駁にとらえ検討にあたる。現. 研究が進展した背景、4節では前段の研究から引き継. 在、美術科、または図画工作の学習指導要領記述方. いで鑑賞表現一体化方法論とその主題「直接対決の. 式は、まず「目標」が掲げられ、 「内容」、 「内容の取. 美術」を提案する。5節では直接対決の美術実践の. 扱い」という順に記載される。. 一例として「一本の線の絵の実験ワークショップ」報告. 年間計画や指導案制作にあたり、参照することにな. し、本来芸術のもつ革新力が生きる方法論へ結ぶ美術. るのが「内容」ついての記述だ。 「内容」として(絵画、. 教育と美術活動を目指し進めてきた実践から、他者と. 彫塑、 〈工作〉、デザイン、鑑賞)と順に項目分類され. の関係性に貢献する今日的美術活動の機能特性の浮. ていた記述が、1977 年(S52)の改訂により「内容」 (A. 上を、最終章の結論とした。. 表現、B 鑑賞)へと書き改められ現在に至る。 「A 表 現」は再分類され(絵画、彫塑、デザイン、映像メディ. 2 美術教育の問題. ア)と項目別に記述される。指導要領は 10 年毎に見 直されるが、文化財の分類をもとにしたという、学習. 美術また芸術を言葉で説明するのは難しい。そもそ. 指導要領草案当初 1947 年 (S22)の内容が概ね保たれ、. も独自の文化を持つ日本の美的感覚を含めて美術や芸. その記述方法や文言、形式も維持されている。. 術を語ろうとすれば、歴史記述からの抜け落ちは否め ない。近代化とともに始まった学校教育は西洋を手本. 2-2 学習指導要領の記述がもたらす傾向. として形式化され、ヘーゲル「美学」に習い日本美術. 2013 年(H25)、高等学校では改訂された新指導要. が歴史化され、生活文化は民俗学に記録された。天. 領の実施年にはいった。改訂後の「内容の取り扱いに. 心や柳田等の仕事は日本近代教育文化に多大な貢献を. ついて」では、 「A 表現、B 鑑賞の関連性をもって行う」. もたらした。私たちは今もってその傘の下にあるといえ. という一文が新たにつけ加わった。表現と鑑賞は本来. よう。. 一体化した活動と捉え、美術教育実践している筆者の. だがひとつの同じ時間を共有しながら多様な有様が. 言いたいことは、この追加記述で文面化されているこ. 視覚化して飛び込んで来る今日の情報化は、歴史記述. とになる。しかし実際、鑑賞学習が定着しない美術教. や時計の進みのようには時間が進まないことを知らし. 育の現状がある。. める。多様性は時間の無効性の証である。様々な視点. 学習指導要領の歴史を通し、その目標に一貫して強. から物事を捉える難しさは生き方を難しくする。自分. 調されるのが表現力や創造性である。1947 年(S22) 、. の存在を確認するかのように、写真を撮り動画を撮りメ. 高等学校設置基準設定当初の美術は、生活を豊かに. ディアにアップできるような自在な創造的活動を可能に. する実用性に着目した科目だった。1958 年(S34)の. する情報機器の普及で、誰もが表現者になることがで. 改訂から「表現」や「創造」という文言が美術教育目. き、創造的活動が生活の中に組み込まれた環境で美. 標に加えられると、この「創造」と「表現」という言. 術を学ぶということはどういうことだろう。ほかの学業. 葉はその後の目標においておおむね継続して使われて. についても同じ事が言える。欲する情報が溢れている. きた。指導計画や指導案制作ではこうした言葉を棚上. 18.

(3) 新たな美術教育の理論と方法論、 考察と実践「鑑賞学習から始まる創造活動表現」……鑑賞表現一体化 直接対決の美術. げにして、表現の下に項目分けされた項目を並べ、ひ. 術館教育進展の 3 点を挙げる。先頃(2014 年)、ニュー. とつずつこなしていく繰り返しに陥る。逆の言い方をす. ヨーク近代美術館教育部長だったフィリップ・ヤノウィ. れば、項目別に制作指導しておけば抽象的な「表現」. ン (2013) による 『Visual Thinking Strategies (VTS) 』 が、. や「創造」の目標は全うできる。つまり目標は形骸化. ニューヨーク近代美術館教育部でヤノウィンの元でイン. し技術指導のマンネリに陥ることになる。. ターンを経験し、対話型鑑賞を普及実践している福の. 感じる事を自由に表現するとか独創的に表現すると. り子によって翻訳された。鑑賞は複合的能力をつける. いうのは教育的理想にすぎない。見聞きした情報量が. 学びの基礎であるというのが VTS の考え方である。. 自由の幅であり、何かを鑑賞することによって得た知 識や感動、そして考える事が創造活動の源である。鑑. 3-2 鑑賞教育研究盛り上がりに至る経緯. 賞と表現は本来連動し一体化した活動として捉えるこ. いずれにせよ鑑賞教育の浮上は美術館教育の進展. とができる。文部科学省が公示する美術科学習指導. に牽引されてきたといえる。2001 年(H13)発足した. 要領の内容「鑑賞」 「表現」二項分け記述は、鑑賞と. 各省庁の研究機関・センター等 60 程の独立行政法人. 表現が別な単元として扱われがちな誤解を生む。. には、文部省所轄の七つの博物館・美術館も含まれた。. . このことがその後の美術館経営と運営に大きな転機と. 3 鑑賞学習事情. なり、やがてその影響は美術館教育や鑑賞教育に及 ぶこととなる。収蔵品の保存と展示、研究に専念して. 美 術 教育界で 鑑賞教育が 声 高に叫ばれるように. いた学芸員の仕事に加え、学芸員の三大業務のなかで. なった直接的なきっかけは、1998 年(H10)高等学校. ことさら普及教育という社会教育施設としての役割がも. 1999 年(H11)、学習指導要領の改訂による「鑑賞」. とめられ、独立行政法人化し評価が導入されると、そ. の変化による。象徴的な文言として「批評」 「日本」 「映. れまでおおよそ理念的に済ませていた普及教育活動の. 像メディア」という言葉が新たに使用された。生徒が. 実質的な仕事が重くのしかかることになったのである。. 互いの作品を合評する程度で済ませるにすぎなかった. そして美術館は明らかに変わった。夏休みになると教. 「鑑賞」が、学習指導要領の改訂を機に地域の実態に. 育的で美術史の教科書的な展示が催され、語り口調. 応じ美術館との連携や新たなメディアによる情報ツー. が教育的な子ども向けパンフレットが用意されるように. ルの活用を含む発展的な指導へと変貌・発展する機会. なった。普及教育活動専任の学芸員が採用されるよう. を得ることになった。言語と結びついた鑑賞や地域の. になり、学校と連携したプログラムが試みられるなどし. 施設を利用する鑑賞が促され、同時に美術館の教育. て美術教育研究に新たな動向が開かれ、美術科教育. 普及活動として進展した鑑賞教育に刺激され鑑賞教育. の鑑賞教育を刺激した。社会的な起因による美術館. 研究が進んだ。美術教育学、大学美術教育学の学会. 運営の変化が、遠回りに教育現場を刺激したという背. 誌では「鑑賞」に関する研究が急増し、アメリカでの. 景がある。. 実践例や美術館との連携事例が報告された。. 並木誠士 (2006)は別な視点で美術館を捉えている。 展示のための「ハコ」でなく、観光と連関して個性化. 3-1 先行研究による鑑賞教育. する地方美術館に注目し美術館の多い地方をデータ化. 美術館と学校との相補的な役割の必要性を説く美術. した。また太下義之は、アートと出会う楽しみを提供. 教育学の福本謹一(2001)は、 『変貌する美術館―現. する美術館のアミューズメント化の模索と必要性を投げ. 代美術館学Ⅱ―』掲載論文「学校教育における鑑賞学. かけている。地域の実態に応じ美術館との連携や新. 習と美術館の連携」の前置きに、鑑賞教育が盛り上が. たなメディアによる情報ツールの活用を促し、これまで. る要因を分析している。まずメディアの変化、つぎにア. とは違う具体的な鑑賞学習を示した 1998 年(H10)の. メリカの美術教育が進めた(記述・分析・解釈・評価. 学習指導要領改訂による鑑賞は、先行研究分析より社. による鑑賞を提唱したフェルドマン、批評的領域を重. 会的背景が一因しているということが理解できた。美. 要視したアイスナー等が主導した discipline based art. 術教育における「鑑賞」の浮上は美術教育学の研究上. education 学問に依拠した美術教育)DBAEカリキュ. から導かれたのではない、ということがいえそうだ。. ラムの影響、最後に 1990 年代国内の美術館による美. . 19.

(4) 技術マネジメント研究第 15 号. 3-3 教室での鑑賞学習実態 . 鑑賞体験こそクリエイティブな作業工程の経験であり、. こうしていまでこそ鑑賞は美術教育の中心的話題と. 鑑賞から表現への連鎖は創造的作品制作の本来のスタ. なり、鑑賞についての実践報告や研究報告が増えた。. イルである。鑑賞・表現の連関に美術教育の醍醐味が. その高まりは学校現場から求められたのではなく、む. あり、かつ鑑賞と表現の連関は美術そのものの要点な. しろ外部に起因していることがわかった。実際バスを. のである。制作のための機能分類から鑑賞表現一体. 仕立て学年単位で美術館訪問するような特別企画を除. 化の方法論による美術教育プログラムとアート活動は. き、美術館でのプログラムは対応する子どもの人数が. 編み出された。. 限定される。学習指導要領の目標に掲げられた美術を 愛好する心情、美術の文化理解、美術文化の継承等. 4-1 鑑賞表現一体化方法論. の文言のもと、美術室で行われる鑑賞は、相変わらず. 作品についての理解と、作品から得られる心情に重. お互いの作品について感想を述べたりする合評会、教. きがおかれ感性や情操を育む鑑賞に対して、本論で提. 科書に掲載されている作品や作家の解説や調べ学習. 案する表現へと連動する能動的アプローチの鑑賞体験. が一般的な取り組みに留まっているのが実情である。. は、鑑賞者が対象である作品やモノと対峙して応答す. 美術教育の指針とすべく学習指導要領美術科の内. る経験である。鑑賞(という二次的経験)に伴うアク. 容、A 表現と B 鑑賞、二項に並ぶ記述構成からして、. ションが表現(する一次経験)となる方法論は、モノと. 二つの項目は同じように大切な内容であり、 「鑑賞」は. 出会う主体が、モノに応答して、新たなモノを表現する、 継続機能に着眼した方法論である。. 「表現」と肩を並べて重きを置かれるはずである。美 術教育学研究において鑑賞の話題が盛り上がり、学習. 観て声を上げる、観て後ずさりするだけでもいい、. 指導要領は書き換えられたが、現場では相変わらず実. 能動的アプローチの鑑賞では、観たことに対し応答す. 技指導による表現活動中心に行われがちな実態があ. る表現が評価される。たとえ心動かされることがなくと. る。. も無反応であってはならない。対象物を自分に引き寄 せ応答するということは、主体にとっての価値や快不. 4 新たな美術の理念のために「鑑賞」につい. 快とは無関係に、受容の幅を拡張する作業である。受. ての考察. 容量の限界を拡張する鑑賞表現一体化方法論は、す なわち他者への接近であり、多様性を理解する積極的. 前段の研究「美術教科の可能性と方法…鑑賞で学. アプローチである。. ぶ」 (原田、2010)では、制作アプローチのための機. 眼前のモノや画像は歴史的価値のみならず、主体の. 能を、記号・痕跡・図・場面、四つのキーワードに分. アクションを経て新たな存在意味を持つ。歴史的な本. 類し、四つの機能が連鎖する制作過程から表現活動. 来の場面から時を超え、時間錯誤に眼前(の場面)に. と鑑賞活動との連関が明らかとなった。そもそも鑑賞. 引き寄せられたモノたちは、新たな芸術の材としての. するとはどういうことなのか。過去のものであると同時. 資源である。鑑賞するだけで終わらない「鑑賞表現一. に眼前に現存する作品、または画像として再現された. 体化方法論」において、鑑賞の対象は自然のみならず、. 対象物を、 「記号」的にとらえ認識したり感覚的に味わ. 古典的芸術のみならず、キッチュまで含むあらゆるモノ. うだけでなく、 作品に表されていない (見えない) 「痕跡」. たちが鑑賞の対象物となる。. を辿ることのできる媒介物(であるモノ、あるいは作品). とりわけ対象物から視覚認識されない、解き放たれ. として鑑賞するということは、鑑賞者の(今という)時. るべき自由が潜む痕跡は創造の源である。隠れた自由. 間と過去の時間がひとつになる時間錯誤(アナクロニッ. を自らの手により獲得する作業こそ、芸術の真なる経. ク)な「場」が生まれるということに他ならない。そし. 験である。一切の価値を失ったかに思われるような瓦. て対象物と鑑賞者が対峙するその場面で、鑑賞者が. 礫でさえ、そこにある痕跡は、新たな場面に引き揚げ. 二次的に生みだす創造的「図」 、つまり(イメージ)画. られ新たな記号となって語りだすイメージ(図)の再生. 像がもたらされる。. を待つ。対象物を図像(イメージ)として把握するとい. 物との出会いの場面で鑑賞者は新しい世界を体験す. うことは、科学的な理解にとどまらず、世界観をイメー. るのである。すなわち鑑賞体験は創造的な経験である。. ジして構成することでもある。. 20.

(5) 新たな美術教育の理論と方法論、 考察と実践「鑑賞学習から始まる創造活動表現」……鑑賞表現一体化 直接対決の美術. 記号化は記憶や伝達のためだけでなくルールや物語. その原始と新たな意味が模索される。. りを生むが、モノとの対峙によって表現される芸術は、. ここでいう「直接対決」とは争いでもなければ闘い. 時間と人が介入する限りにおいて、常に同じでありえな. でもない。対象物に対峙して応答する経験を通して自. い。逆説すれば、芸術は支配的な力をもってはならな. 分なりの見解を見いだす機会であり、対象物が媒介す. い。対象物を能動的に受容する活動は、受動的に与え. る他者世界との、直線的時間軸上の歴史と今が時間. られる価値観、啓蒙的な学問に対する反骨でもなけれ. 錯誤的に機能するダイナミズムを体験できる出会いの. ばも否定でもない。対象物(である具体的なもの)を. 機会である。今日美術を通して学ぶということは、自. 媒介にして反応し応答する行動と行為は、他者と過去. 然や古典のみならず人々が関わるあらゆるモノを対象. を取り込む力強さで創造性を伴い具体的ななにかを生. に時間を超え出会うということにほかならない。. み出す。 「古きを学んで新しきを知る」ということわざ. 5 「直接対決の美術」取り組み実践. があるとおり、もの作りの態度であり、本来の作品制 作過程なのだ。 知が情報と化した今日、対象の見えない痕跡を描き. 「メディアミックス鑑賞」プログラム、レポートした見. 出す創造的学びは知の経験である。鑑賞表現一体化. たモノをプレゼンテーションし、発表者と聴衆が体験. 方法論は、美術教科の学びの方法論である以上に、. を共有する「見たモノレポート」プログラム、ともに直. 生きかたの方法論に重なる生きることそのものの方法. 接対決の美術および鑑賞表現一体化方法論の教育プ. である。言葉にしたことのなかった見知らぬ過去の記. ログラムだ。分野横断する「メディアミックス鑑賞」は、. 憶が自分自身の手によって具体的な形となり再浮上す. 例えば彫刻を鑑賞しイラストにするとか、漫画のキャラ. る、モノとの応答で新たなモノを生み出すアートの方法. クターを鑑賞し絵画や彫刻にしたり、また動画など映. は、生きることが芸術活動以上にアートなのだというこ. 像制作するなど、鑑賞から表現へと技術分野を横断し. とを教えてくれる。. て表現する。学習指導要領に従う技法別指導に対し、. 鑑賞表現表現一体化方法論において、制作のため. 「メディアミックス鑑賞」にとり技術は二次的となる。ま. の四つのキーワード「場面、図、記号、痕跡」は表裏. た見たモノについてのレポートをプレゼンテーションす. 一体に機能し、美術の方法のみならず生きることの営. る「見たモノレポート」課題は、発表者の一次経験を. みそのものの方法論を指し示す結果となった。形見の. 二次経験する聴衆と体験を共有する新たな場面ができ. 指輪を嵌めた瞬間とか、心に貼りついて消えない過去. ることで、両者にとって新たな一次経験をするプログラ. の記憶、頭のなかを繰り返すフレーズなど、日常のな. ムである。. かの小さい非日常にはっとすることがあっても、大文字. アート活動では、来場者に手持ちのグッズや準備し. の歴史から描き出さない限り知ることのない見えないも. たオブジェを展示してもらう「参加型アート」の展示、. のに支えられていることを忘れがちだ。教育の具体的. 参加者が一本の線を引くアーティストとなり参加者皆で. 課題から、今日的な教育はどうあるべきかを模索した. 一枚の絵を作る 「一本の線の絵の実験」ワークショップ、. 結果は、鑑賞表現一体化方法論による美術教育プロ. 日常空間を現実とは異なる世界感覚へと誘い、イメー. グラム実践によって導びかれた、生き方の方法論であっ. ジ体感してもらう鑑賞者と「空間を共有」するインスタ. た。. レーションを試みている。 . 4-2 鑑賞表現一体化の概念「直接対決の美術」. 5-1 一本の線の絵の実験ワークショップ報告. 作品やモノとの出会いを美術教育での「鑑賞」とい. 一本の線の絵の実験ワークショップは、2014 年春か. うことばにあてはめ、自由なアプローチで展開するアク. ら開始した実験的ワークショップの試みである。参加. ションを「表現」として提案する鑑賞表現一体化方法. 者各々が引く一本の線で刻々と変化する画面に、次の. 論の美術教育プログラムでは、作品との対峙を「直接. 参加者は一本の線を引く。鑑賞表現一体化方法論の. 対決」とした。作品やモノ達と直接対決する「直接対. 創造過程が時系列に視覚化される実験である。. 決の美術」である。直接対決と名付けた美術経験の 場では、社会的通から棚上げにされたモノたちも再び. (1)一本の線の絵の実験とは. 21.

(6) 技術マネジメント研究第 15 号. 「一本の線の絵の実験」ワークショップをこれまで 様々な機会で試みてきた。線を引いてもらうための支 持体である画紙(画面)と、線を引くためのペンや鉛 筆、絵具、筆、パステル等の画材を用意する。協力者 に一日一回だけ一本の線を引いてもらい、参加者の線 が重なって一枚の絵になる。線は長さも太さも直線でも 曲線でも自由で、線には名前と日付のサインをしてもら う。一本の線を引いた協力者全員が一本の線のアーティ ストとなるワークショップだ。線を引いた後、線に関す る情報を「線情報」と名付けて記録する。線情報とし て次の項目を帯紙に記入してもらう。. ワークショップ報告その 1 文化祭. ①線を引いた当人の名前またはイニシャル、マーク、 ②線に関するコメント、例えば線の色や使った画材、. 験」ワークショップは、在校生だけでなく賑わう文化. その日の気分などを自由な感想、. 祭の一般来場者の方々にもアートを体験していただく. ③日付け、. 機会となった。見回りや受付業務など職員としての役. 線情報を記録した帯紙は台紙に貼る。線情報を記録す. 割分もこなしながら限られた時間内でのワークショップ. ることにより、たった一本の線を引いたその一瞬がか. だったが、文化祭に訪れた就学前の幼児から小学生、. けがえのない時間だったことに気づくことができると同. 年配の方々はじめ地域の方々に 1.6 × 4 m程の大画面. 時に、一本の線が線を引いた参加者の一瞬を証明する. に自由なそれぞれの線を引いてもらう事のできたワー. ことになる。. クショップとなった。. 協力者の方々のかけがえのない一瞬が一本の線とな. 「一本の線の絵の実験」のやり方をを理解してもら. り、かけがえのないそれぞれの線が重なり一枚の絵が. うために小さい教室を割り当ててもらい、既にワーク. できるこのワークショップは、他の人の線が重なる度. ショップを行った際の「一本の線の絵の実験」作品例. に刻々と変化してゆく。線を引いてくれる人の線を引く. を展示した。ルールと手順を大書した紙を貼った。一. パフォーマンスは身体表現でもある。線情報を読みな. 本の線を引く体験してもらうため、小さめの画面(60 ×. がら一本一本の線を鑑賞することもできる。その 1 か. 45㎝)を机上に用意した。線が重なり絵らしくなって. ら 26 回まで行ってきた鑑賞して表現するこの実験ワー. ゆく廊下の大画面をみて 「なんだろう」と思っていた人や、. クショップはこれまで概ね好評である。参加者が楽し. 躊躇していた人も体験ルームで要領を得て大画面にトラ. んでくれた様子が線情報のコメントからも読み取れる。. イしてくれた。線情報のコメントには、. また「一本の線の絵の実験」の画面は或る時を境にフ ラクタルの図に似てくる。突如平面作品として完結する。. 「ぼくはにんげんだ」. その時点を見極め実験を終了すると作品として完成さ. 「ストレスを解消できた」. せることもできる。. 「イクイナリュウト 蛇行 Blue line 2014.9.14」. . 「こうこうはいったらびじゅつぶはいる 」 「青い線をかきました、おくがふかい…。H 26.9 月 14. (2)一本の線の絵の実験ワークショップ報告その 1. 日 N・K 」. 日時 2014 年 9 月 14 ~ 15 日(文化祭). 「戸高祭楽しかったです!来年も来たい…絵に参加でき. 場所 戸塚高校 4 F美術室 A 前廊下壁面・美術室 C. て よかったです。9/14 H iroka 」 2014 年、高校の文化祭は、2 日間で 7 千人もの来場. 「40 年振りの学園祭 うれしいよ~ T・M 」. 者があり、後夜祭では打ち上げ花火が上がる地域の祭 りとしても楽しんでもらえるイベントだった。有志企画と. 等の書き込みがあった。文化祭に来場した大人や子ど. して個人参加させてもらい 「一本の線の絵の実験」ワー. も達も参加してくれ、線情報のコメントからもアートを. クショップが実現できた。文化祭「一本の線の絵の実. 楽しんでくれたように思えた結果だった。またワーク. 22.

(7) 新たな美術教育の理論と方法論、 考察と実践「鑑賞学習から始まる創造活動表現」……鑑賞表現一体化 直接対決の美術. ショップ参加者には文化祭に足を運んだそれぞれの想 いがあることがわかる。そうした想いが線を引くという 行為で表現され、線情報のコメントに言葉で記録され た。参加者にとり文化祭に訪れた経験をより客観的な 自身の経験として確かめる機会となったのではないだ ろうか。すなわちこのワークショップは、何気ない時間 経過で為される経験が、かけがえのない一瞬のかけが えのない経験だということの確認作業だといえる。 (3)一本の線の絵の実験ワークショップ報告その2 日時 2014 年 12 月 24 ~ 29 日(展示). ワークショップ報告その 2 川口アトリア展覧会. 場所 川口市立アートギャラリー「アトリア」展示室A んなコメントがあった。. 入口エントランス 2014 年暮れも押し迫る 12 月 24 日(水)から 28 日. 「心の中に一本の線を引けた気分です。ありがとうござ. (日) 、ギャラリーにて『HAPPY HOLIDAYS!! ハラタ. いました。」. ミホコ 1st/ HAPPY DRAWING!! 一本の線の絵の実. 「更なる未来に向け一本の線を引かさせて頂きました。」. 験⑰』と題した展示とワークショップを開催した。. 「もっと!! 明るい日本になりますように!」. 展示とワークショップを開催した川口市立「アトリ. 「ラプンツェルみたいになりたい」. ア」は、埼玉県川口駅に程近いイトーヨーカドー「アリ. 「大徳柚月 げいじゅつであそんだ☆ 」 . オ」隣アートパーク内にある。80 年の歴史を閉じたサッ. 「宗高萌絵子 き色のせんをひきました。」. ポロビール埼玉工場跡地が新しい街へ都市開発された. 「となりの作品 てんにてんじしました。12 月 23 日」. 折、工場を支えてきた松杭を床材に再利用したギャラ. 「きゅうけいせい Merry Christmas!」. リーをサッポロビール株式会社が新しい街へ寄贈した. 「大澤杜和 すぐにきてでも、できた、だけでうれしかっ. のがアートギャラリー「アトリア」である。隣接する大. た。12/24」. 型ショッピングセンターとマンションの建つ住宅街の中. 「なな くるくるあおのせん たのしかった 12/25 . 央アートパークにある「アトリア」は、人とアートが触れ. ☆」. 合うよう設計されたというコンセプトのとおり生活する. 「J・T お正月にむけて…しめかざりをイメージした緑. 人々の日常に続くアートスペースだった。ギャラリー前. で描いてみ ました。2014 12/26」. の公園では子供達の遊ぶ姿が絶えることなく、遊んで いた子供がトイレを使うためにギャラリーに入ってきた. ガラス越しに子どもが参加する様子を見ていたのだろ. りする。下見に訪れた時、他の美術館やギャラリーで. う。中国人の母親が「四歳の子どもできますか」と聞き. は考えられない日常と隣り合わせのアート環境に感動し. に来た。 「もちろん」と答えると、ママ友引き連れ小さ. てこのギャラリーを使わせてもらうことにした。. い子ども達がぞろぞろやってきて参加してくれた。まだ. ガラス張りのエントランスに用意した「一本の線の絵. 就学前の子どもがひらがなで名前とコメントを書いてく. の実験」画面は、線が引かれる度に変化していく様子. れた。母親は「中国語でいいですか」、 「もちろん」、中. を、公園を抜けマンションから駅方面へ向かう人、大. 国語でコメントしてくれた。また毎日公園に遊びに来る. 型ショッピングセンターへ入って行く人、公園で遊ぶ人. のだという小学生は、最初に線を引いた日から三連続. たちにみてもらうことができる。また線を引く様子もま. でやってきてくれた。友達もつれてきてくれた。友達が. たガラス越しに見える。 「アトリア」の環境的な特性が. 線を引くのをみて「もう一度線を引きたい」という。 「一. 生かされ、冬休みのギャラリー、多くの方々、公園で. 日一回、一本だけ」のルールをいうと「なぜ一本だけな. 遊ぶ子供達、特に小さい子供達が大勢参加してくれた。. のか」と質問もしてくれた。最終日、お父さんを連れて. 主宰した筆者が楽しかった。線情報のコメントにはこ. きてくれた。お父さん「こいつがどうしても行きたいっ. 23.

(8) 技術マネジメント研究第 15 号. ていうから」と言う。その男の子はゲーム機の録画機 能を使い、2× 2.5 メートルの一本の線の絵実験画面 と展示室のインスタレーションした作品を撮影してくれ た。お父さんは海のイメージの絵を前に「気に入った ので携帯で撮っていいか」と、 「もちろOK」だ。みん なで線を引く絵の噂を聞きつけてきたのか、二人連れ 女の子が「線を引いていいですか」とやってきて、線 情報を貼った表に友達の名前を探している。仲良く二 人で声掛け合い一緒に線を引いてくれた。展示室の絵 を見た感想も書いてくれた。通りかかりの女性が「いつ までやっているの、子どもを連れてきたい、 お金はい. ワークショップ報告その 3 横浜国大教育人間科学部. るの」と聞く。 「28 日まで、6 時まで毎日、フリーです」 と説明すると、3時過ぎに娘と孫を連れてきて三世代. 画材と線情報コメント用筆記用具・糊等を用意した。 ワー. で線を引いてくれた。. クショップ時間内は、担当者(企画者当人である筆者. 東京都に隣接するベットタウンの川口には若い父親. 自身)が在廊し、ラウンジを出入りする学生や教員に. が多いように思えた。以外と多かったのが、父親が. 声かけしてワークショップに参加してもらった。人口密. 子どもを連れてくるパターンだった。母親は隣の大型. 度の低い土曜の大学構内、いまどきの大学生が参加し. ショッピングセンターで買い物をしているのかもしれな. てくれるか不安だったが、参加してくれた後、経過を覗. い。 「線を引いてみようか」と子どもに参加を促すだけ. きにきてくれた学生もいた。線のアートは迫力があり横. でなく、父親自身も線を引くのを楽しんでくれたように. 国生のアート力が証明されたように感じられた。線情報. みえた。展示やワークショップのコンセプトにも興味を. には以下のようなコメントがあった。. 持ってくれて、ざっくばらんに感想を述べ質問をしてく れた。年迫る 12 月、皆でつくるアートをきっかけにアト. 「2/7 YND 卒論発表会を見に来ました。最初の線. リアで出会った方々の、日常の一コマ、生活の一場面. を引かせてもらいました。不思議とこれから絵がどう. で、それぞれ一本の線を引いた一瞬一瞬が重なり一枚. なっていくのか気になるのが面白く思います。 」. の絵となった。そして参加者と制作した一枚の絵には、. 「ちの♡ ちのの底力はこんなものじゃない. 2/7」. 6日間の会期を通して出会いのドラマがあった。. 「Keji 2/7 大学での全カリキュラム終わったで~!! (仮)」 「DA DA DA DA DA 2015・2・7 おぴん」. (4) 一本の線の絵の実験ワークショップ報告その 3. 「2/7 H・I なぞですね」. 日時 2015 年 2 月 7 日(土曜) 11:00 ~ 1500 場所 横 浜国立大学教育人間科学部講義棟 7 号館 1 F入口ラウンジ横ウッドデッキ . (5)一本の線の絵の実験ワークショップ報告その4 日時 2015 年 4 月 3 日(金) 14:00 ~ 18:00. 「一本の線の絵の実験⑳ in 横国教育人間科学 . 場所 横浜国立大学環境情報中央研究棟Ⅰ. Vol 1 」と題し開催した大学構内でのワークショップ. 1 F入口エントランス階段横ガラス壁面. は、 教育人間科学部講義棟 7 号館〈1F〉ラウンジのウッ ドデッキの耐震鉄骨に、ロール紙を貼付け 1.3 m× 5. 2 月に引き続き「一本の線の絵の実験 21 in 横国. mの大画面を用意した。画面脇には、ワークショップ. 環境情報学府 Vol.2 」と題し開催したワーク. のルールとやり方を理解してもらうためルールを箇条書. ショップイベントは、教育人間科学部での第 2 弾として. きしたパネルと、過去に行ったワークショップ時の写真. 環境情報学府研究棟で行うことができた。入学式日程. 報告をイーゼルに架けパネル展示した。. と重なり多くの学生はじめ先生方々が参加してくれた。. 床や壁面等が汚れないよう養生し、据え置きテーブ. 4 階吹き抜け壁面に設置する画面が上階から見降ろし. ルを一台使用して机上には墨汁・絵具・パステル等の. ても眺められるよう変形五角形の画面を用意した。線. 24.

(9) 新たな美術教育の理論と方法論、 考察と実践「鑑賞学習から始まる創造活動表現」……鑑賞表現一体化 直接対決の美術. 線を引くだろう人への見返りのないあるいは無責任な贈 与でもある。またどんな線を引くか、どうのように線を 引くか、画材や色を選ぶところから主体的な活動が無 意識的に始まっている。重なり合う線が加わる毎に画 面が変化し、一本毎に線を引く主体が違うので、同じ 線を引くことができない。全てが異なる線ゆえ際立つ 線は引けなくても、自分にしか引けない線が「主体的 行為」を際立てる。画面を観て応答するアクションの 直接対決のワークショップでは、線を引くわずかな時 間が唯一無二の 「生きる一瞬」 として象徴的にプロデュー スされ、参加者の「生きた瞬間」が一本の線となる。 ゆえに参加者が一本の線を引くアーティストになるワー クショップなのである。作品を鑑賞するだけでなく、アー トを体験してもうことは、受動的視点から能動的視点 への転換である。たとえ参加しなくても、何かやって いるなと認知してもらうだけで、日常にはない画面と動 ワークショップ報告その 4 横浜国大環境情報学府. きが通り過ぎる人の時間と空間に介入することになる。. を引いてもらう人の背丈からして、 画面の縦高は2.5メー. 6 最後に. トルが限界だが、ワークショップがある程度が進んだ. 他者との関係性をもたらす美術の機能特性. 段階で、画面を縦に回転させ画面の高さがでるよう工 夫した。ガラス壁前の耐震鉄骨に 8 mのロール紙を縦. 本稿では、日頃携わる美術教育を切り口に鑑賞表. 方向に貼付け、画面を上にスライドできるようセッティ. 現一体化方法論を提案し、その実験的実践の試みた。. ングした。エントランスに 5 角形の大画面アートが実現. 本来鑑賞と表現は一体化しているはずという主旨に基. した。大学構内では知人以外はすれ違いざま挨拶する. づき、鑑賞表現一体化方法論の過程で生み出されるも. こともない。このイベントをきっかけ知らない学生や先. のこそアートであり、また鑑賞表現一体化方法論は生. 生にも会釈はしようと心を改めた。以下は線情報のコメ. き方の方法論そのものであるという考え方による教育. ントの一部抜き書きだ。. プログラムとアート活動実践の一例である。情報があ ふれ取捨選択に追われる。しかし情報を選択するだけ. 「竹○○ 気づいたら、描いていました。2015 4/3」. でなく情報の扱いを習得する必要があるのではないか、. 「MasudaMami よくわからないけれど描かせてもらい. 向き合うモノまたは情報に(どのように応答するのか). ました。2015 4/3」. 直接対決する方法の提案である。. 「4/3 今日は入学式でした!! 新しい環境でがんば. 直接対決を主題に鑑賞表現一体化の方法論で行っ. ります!!伊○○○ 」. てきた実践を報告にまとめながら思うのである。鑑賞. 「多くの“線”と絡まる.人と人の関係みたい.」. から表現へ連鎖して生みだされたモノ達は、再び他者. 「4/3 変なことやってんなーって思いました.」. との共有を可能にする体験の場を生む媒体であること に気づかされる。表現された新たなモノ達は時空を超. 5-2 「一本の線の絵の実験」ワークショップ検証. えて他者へとつなぐ、差異を乗り越え共有感覚の可能. 「一本の線の絵の実験」ワークショップの画面を観て、. 性が付帯する賜物なのである。なんでもないような小. その画面に応答して、線を引くというアクションは、画. さい事柄に丁寧に向き合っていくことこそ他者とともに. 面の図に参加者が介入しつつ、図を引き継ぐということ. 生きることであり、学びの基本のような気がしている。. に他ならない。画面に対峙するのみならず、それまで. 鑑賞、表現いずれの美術活動も、能力や感性の伸長、. に線を引いた知らない人たちへの応答でもあり、次に. 文化理解といった個人的な教育効果のみならず、他者. 25.

(10) 技術マネジメント研究第 15 号. との関係性における美術活動の貢献に着目した実践と. 館の連携」加藤哲弘ほか編『変貌する美術館学―. して継続しつつ模索を深めていきたい。. 現代美術館学Ⅱ―』昭和堂掲載論文 2001「福本」 pp.68-77 フィリップ・ヤノウィン(2014)京都造形芸術大学アート ・. 参考文献. コミュニケーション研究センター訳「学力を伸ばす美. 太下義之(2001) 「美術館・博物館のアミューズメント化・. 術鑑賞」淡交社 新教育研究会編(1948) 『新制中学研究叢書第一号. 総合施設化」 『変貌する美術館 現代美術館学Ⅱ昭. 総論』日本教育振興会. 和堂. 文部省(1952) 『中学校高等学校学習指導要領図画工. 並木誠司(2006) 「美術館の可能性」学芸出版社. 作編試案昭和 26 年改訂版』東洋館出版. 渡部蓊(2006) 『臨時教育審議会・その提言と教育改. 西田藤次郎(1968) 『編小学校学習指導要領の展開図. 革の展開』学術出版局. 画工作編』明治図書出版. 岡倉天心(2001) 『日本美術史』平凡ライブラリー. 岡田清(1963) 『美術鑑賞入門』造形社. エリオット・アイスナー 仲瀬律久他訳『美術教育と子. 原田美穂子(2010) 「美術教育の可能性と方法…鑑賞. どもの知的発達』黎明書房. から学ぶ」. 岡田匡史(2010) 「対話型鑑賞、鑑賞能力の発達、鑑 賞批評メソッドの研究」 『美術教育学』31 福本謹一(2001) 「学校教育における鑑賞学習と美術. 26.

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参照

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