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知的財産権を用いた資金提供・調達に関する実態調査の結果と今後のあり方について

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Academic year: 2021

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(1)知的財産権を用いた資金提供・調達に関する実態調査の結果と今後のあり方について. 論 説. 知的財産権を用いた資金提供・調達に関する 実態調査の結果と今後のあり方について 川瀬 真 原 謙一 はじめに 小泉内閣は、資源の少ないわが国が今後その地位を維持・発展していくため の方策の一つとして、コンテンツ産業の振興や企業等の技術力の向上を官民あ げて支援する「知的財産立国」を提唱した。その後、2002 年にその基本的な理 念と今後の方策を定めた「知的財産基本法」が制定され、新たに内閣官房に「知 的財産戦略本部」が設けられた。2003 年からは、毎年「知的財産推進計画」が 策定され、そこで提言された方策の実現に向けて関係省庁や業界が努力を重ね てきた。 著作権や特許権などの知的財産権を用いた資金提供・調達について、例えばコ ンテンツの製作会社は一般に不動産等の資産を持たないため、優良なコンテンツ を多数有しているにもかかわらず、これらのソフト資産を活用して資金調達がで きないなどの指摘があり、資金調達手段の多様化が求められたところである 1)。 1)‌例えば、 「知的財産推進計画 2004」の第 4 章コンテンツビジネスの飛躍的拡大 2 資金調 達手段の多様化を図る(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kettei/040527f.html、閲 覧日 2014.7.19)を参照。 41.

(2) 横浜法学第 23 巻第 1 号(2014 年 9 月). そこで、制度面では、集団投資の方法に係る法制度が整備され 2)、また 2004 年の信託業法の改正により受託可能財産の制限が撤廃され、 知的財産権を用 いた信託業も可能になるなど、資金提供・調達の仕組みに関する制度整備が 進み、多様な方法が選択できるようになった。このことから、2000 年初頭か ら後半にかけて、日本政策投資銀行、わが国で最初のコンテンツ専門の民間 信託会社であるジャパン・デジタル・コンテンツ信託(JPC) (現在は廃業) 、 いくつかの都市銀行等により、実験的ではあるが、 様々な仕組みを活用した コンテンツの製作会社等に対する資金提供が試みられるようになった 3)。 しかしながら、これらの試みは新たな資金提供の方法として金融界に定着し たとはいいがたい。知的財産権については、以前から不動産や有価証券と異な り資産価値の評価に困難が伴うことや、無体物であることから権利の保全や管 理等に課題があるなど多くの指摘が行われていたところである 4)。 このようなことから、私たちは、今日新たな資金提供・調達があまり定着し ていないのは、一時期実験的に多く行われた試みの中で、制度上の問題や当該 制度の運用上の問題が生じ、プロジェクト終了後、資金提供側及び資金調達側 から提起された課題等が改善されないままになり、次のプロジェクトへと進ま なかったのではないかと考えた。 しかし、これまで知的財産権を用いた資金提供・調達の方法に関する研究は 2)‌例えば、 「特定目的会社による特定資産の流動化に関する流動化に関する法律」が「資産の 流動化に関する法律」に改正(2000 年) 、 「証券取引法」が「金融商品取引法」へ変更され た(2006 年) 。 3)‌過去の例としては、例えば日本政策投資銀行のプレリリース(http://www.dbj.jp/news/ archive/rel2004/0819_venture.html、閲覧日 2014.7.24) 、渡邊俊輔編著『知的財産 戦略・ 評価・会計』 (東洋経済新報社・2002 年)104 頁~ 119 頁、土井宏文『著作権ビジネス構 造分析』 (コンテンツ・シティ出版 2012 年)204 頁~ 209 頁などがある。 4)‌鎌田薫編『債権・動産・知財担保利用 の 実務』 (新日本法規出版・2008 年)372 頁~ 376 頁〔吉羽真一郎 大宮立〕を参照。 42.

(3) 知的財産権を用いた資金提供・調達に関する実態調査の結果と今後のあり方について. 手薄であったように思われる。とはいえ、知的財産権には不動産や動産に匹敵 する価値を生むものも存在しており、権利そのものを担保に利用するあるいは 権利の生む収益を証券化することによる資金提供・調達が考えられる。そこで、 資金提供・調達の場面に限定して知的財産権の活用の現状を調査し、その課題 を明らかにすることで、今後の知的財産権を用いた資金提供・調達に係る方向 性を検討することが本研究の目的である。 すなわち、私たちは国の科学研究費(基盤研究 (C)24530111)を得て、2012 年度には弁護士、民事法の研究者、資金提供側、資金調達側、シンクタンク の研究員からなる「知的財産権担保に関する研究会」5) (以下、単に 「研究会」 という)を設け、研究会の助言を得ながら、資金提供側、資金調達側及び学識 経験者に対し、知的財産権を用いた資金提供・調達に関するアンケート調査を 実施した。2013 年度は、アンケート調査の結果を研究会の助言も得た上で分 析・評価し、また、必要に応じて回答者や関係者から紹介を受けた企業等へ直 接出向いて聞き取り調査を行うなどして、課題の抽出と整理に努めた。 また、2013 年 9 月にはフランスにおける知的財産権を用いた資金提供や調 達の状況に関する調査を行った。ここでは、網羅的に全ての知的財産権に関し て調査せずに、とりわけ資金需要が多いと思われる 「映画」 について、その製 作に関する資金提供・調達に絞って調査することとして、映画製作会社及び金 融機関の双方に聞き取り調査を行った。 5)研究会の構成員は次のとおり(役職名は当時 敬称略)   今村 与一(横浜国立大学大学院国際社会科学研究院 教授)   楠 雄治(楽天証券株式会社 代表取締役社長)   佐々木史朗(株式会社オフィース・シロウズ 代表取締役)   土井 宏文(株式会社コンテンツ・シティ 代表取締役社長)   松田 政行(弁護士 森・濱田松本法律事務所)   澤 伸恭(有限会社オープンフィールド代表取締役) 43.

(4) 横浜法学第 23 巻第 1 号(2014 年 9 月). 本稿は、紙幅の関係で、以上の日仏における調査結果のうち重要な部分に限 定して整理・紹介した。 以下では、まず日本の資金提供側、資金調達側、学識経験者に対する調査結 果を紹介し( 「第 1 資金提供側に対する調査の結果について」 、 「第 2 資金調 達側に対する調査の結果について」 、「第 3 学識経験者に対する調査の結果に ついて」) 、その後、フランスにおける調査の結果を簡単に紹介した上で( 「第 4 海外における映画製作に対する資金提供・調達の方法について」 ) 、 今後の 知的財産権を用いた資金提供・調達制度に関する提言を行った( 「第 5 知的 財産権を用いた資金提供・調達の今後のあり方について」 ) 。. 第 1 資金提供側に対する調査の結果について Ⅰ.調査の方法 1 調査票の内容 アンケート調査票の作成に当たっては、研究会の助言を得ておおむね以下の 内容とした。 後述のとおり、資金調達側に関しては質問項目を著作権に関するものに限定 したものの、資金提供側に関してはこのような限定をせずに、著作権及び産業 財産権(特許権、実用新案権、商標権及び意匠権)を「知的財産権」と定義し た上で、質問項目を作成した。 また、質問の手順としては、まず、知的財産権を用いた資金提供の経験の有 無について質問を行った上で、資金提供を行った経験者に対しては、当該資金 提供における知的財産権の活用状況を融資及び投資に分類して、それぞれ質問 をする流れとし、資金提供を行わなかった未経験者に対しては、知的財産権を 用いた資金提供を行っていない事情等についての質問や制度に対する感想を問 う質問を用意した。 44.

(5) 知的財産権を用いた資金提供・調達に関する実態調査の結果と今後のあり方について. 2 送付先と回収率 表 1)送付先と回収数 依頼数. 回答数. 都市銀行. 5. 0. 信託銀行. 16. 1. 地方銀行. 64. 8. その他の銀行. 7. 1. 第二種金融商品取引業者. 884. 53. 監査法人. 17. 0. 社名記載なし. . 1. 993. 64. 計. 表 1 のとおり、銀行、証券会社、投資ファンド会社等の金融商品取引法上の 登録事業者等に対し郵送で調査を行った。送付先は 993 社であり、回答があっ たのは 64 社(約 6.4%)であった。 なお、64 社の内訳は、銀行が 10 社(約 16%)であり、金融商品取引法上の 第二種金融商品取引業者が 53 社(約 83%)であった。回答件数が多数に上っ た第二種金融商品取引業者 53 社の内訳としては、8 社(約 15%)が証券会社 であり、残りの 45 社(約 85%)がその他の会社であった。. Ⅱ . アンケート調査の結果 1 知的財産権を用いた資金提供の経験 表 2)知的財産権を用いた資金提供の経験の有無 (質問事項)知的財産権を用いた資金提供を行ったことがありますか。あてはまる選択肢 1 つに○を付けてください[○は 1 つ] 。 1. 融資として行ったことがある. 1. 2. 投資スキーム(信託又はそれ以外の投資家に配当を行うスキー ム等)として行ったことがある. 1 45.

(6) 横浜法学第 23 巻第 1 号(2014 年 9 月). 3. 融資としても、投資スキームとしても、行ったことがある. 1. 4. 行ったことがない. 61 計. 64. 表 2 のとおり、 「知的財産権を用いた資金提供を行ったことがありますか」 との質問に対し、資金提供の経験があると答えた金融機関等は 64 社中 3 社(約 5%)と少なかった。また、資金提供の経験を有する 3 社のうち、融資の方法 によって資金提供したのが A 社であり、投資の方法で資金提供を行ったのが C 社であった。B 社は融資・投資の両方について経験があると回答した。 なお、アンケート調査の結果から確かに資金提供を経験した会社は 3 社と少 なかったが、もともと知的財産権を用いた資金提供は特殊な方法であること、 資金提供・調達の方法は他に多くの方法があること(表 10 参照) 、アンケート 調査で分かった事例以外の事例も一定程度あることなどから、この数字を見て 知的財産を用いた資金提供・調達の現状や今後について余り悲観的になる必要 はないと考える。 (1)融資による資金提供について 融資の経験だけを有する A 社(証券会社)は、 「2000 年以降に行った知的財 産権を用いた融資による資金提供の合計件数は何件になりますか」との質問に 対し 1 件と答えた。 A 社は「商標権」を対象にしているが、 「資金提供に用いた産業財産権の数 (発明等の数) 」を質問したところ、一度に「2 以上 5 未満」との回答であった。 また、 「産業財産権を選択するにあたって考慮した事項」を質問したところ、 「経済的な価値は見込めなかったが債務者側がその産業財産権を重要視してい たから」との回答であった。さらに、担保方法は「譲渡担保」であるが、選択 に当たって考慮した事項を質問したところ「担保を実行する方法が簡易である から」との回答であった。なお、資金提供額や資金回収等に関する事項につい 46.

(7) 知的財産権を用いた資金提供・調達に関する実態調査の結果と今後のあり方について. ては回答がなかった。 A 社の調査結果は以上であるが、商標権については、権利そのものに価値 があまりなく、事業と一体になったブランド力等として価値があるところから、 A 社が商標権を選択した理由からも推測されるが、債務の弁済の促進効果を 狙ったものと考えられる。 次に、融資と投資の方法の両方の経験がある B 社(知的財産権の評価等を 行うコンサルタント会社で第二種金融商品取引業者)は、融資による資金提供 の合計件数は何件かとの質問に対し 46 件と回答し、相当数の案件を実施して いることが分かった。なお、B 社は、後述の聞き取り調査の結果、自らが融資 をしているわけではなく、 融資は提携先の金融機関が行っていることが分かっ たので、それを念頭に置いて B 社の調査結果を理解していただきたい。 B 社は、 「著作権」 、 「特許権」または「商標権」の 3 種類の権利を担保の対 象にしているが、担保方法は、いずれも「質権の設定」であった。また、この ような「融資に際して、他の担保(例えば、他の知的財産権、不動産、保証人 など)を求めたことがありますか」との質問に対し、 「保証人」を求めたこと があると回答とした。また、 「質権の設定という手段を採用したことで生じた 弊害や支障」について質問したところ、 「知的財産権に共有者がいて問題が生 じた」と回答した。これは、後述の聞き取り調査の結果から、映画について生 じた問題だと推測される。 「その他」として、特許庁における設定登録手続の 遅さ(2 ヶ月程度)をあげた。また、質権の選択に当たって何を考慮したかを 質問したところ、 「自社が質権者として登録されるので安心だから」と回答し た。 次に、 「著作権」を担保にした融資の仲介の場合、 「対象となった作品の種類」 は「映画」と「コンピュータソフト(ゲームソフトを除く) 」であり、 「資金提 供ごとに用いた著作権の数(作品数) 」は、一度に「10 以上」と回答した。ま た、担保として著作権を選択する際の考慮事項についての質問に対しては、 「経 済的評価を明確に算出することが可能だった」ことをあげた。 47.

(8) 横浜法学第 23 巻第 1 号(2014 年 9 月). 一方、産業財産権(特許権・商標権)を担保にした融資については、 「資金 提供に用いた産業財産権の数(発明等の数) 」は、一度に「2 以上 5 未満」で あるとした。そして、なぜ産業財産権を担保として選択したのかについては、 「経済的評価を明確に算出することが可能だったから」と「債務者側が産業財 産権以外の知的財産権を有していなかったから」という点をあげた。 最後に、 「知的財産権を用いた融資による資金提供を行った場合の提供額」 を質問したところ、 「1 億円以上 5 億円未満」と回答し、 「債務者から債権の全 額を回収できた案件はどの程度ありましたか」の質問に対し、 「全ての案件で 全額回収できた」と回答した。 以上が B 社の調査結果であるが、B 社は知的財産権を担保にした融資を取 り扱った件数が A 社及び後述する B 社とは桁違いに多いところから、知的財 産権担保の経験が豊富で、価値評価等の手法も社内で確立しているものと考え られる。それゆえ、調査結果においても、価値評価は明確にすることができる と回答しており、融資実績も極めて良好なようである。実績の積み重ねの重要 性が明確に出た調査結果だと考えられる。 (2)投資スキームによる資金提供 前述の B 社は、上記の融資経験だけでなく、投資の方法による資金提供の 経験も有しているが、 「2000 年以降に行った知的財産権を用いた投資スキーム による資金提供の合計件数は何件になりますか」との質問に対し 5 件と答えた。 B 社は、 「著作権」及び「特許権」を対象としているが、いずれの事例におい ても、「信託」の方法ではなく、 「投資家に配当を行うスキームによる投資の募 集」を採用したとのことであった。また、当該方法を選択した際の考慮事項を 質問したところ、 「債務者が希望していたから」及び「キャッシュフローの調 整が可能であるから」との回答であった。 また、 「資金提供を行った場合の予定額」を質問したところ、一度に「5 億 円以上 10 億円未満」であり、 「予定した資金が集まった案件はどのくらいあり 48.

(9) 知的財産権を用いた資金提供・調達に関する実態調査の結果と今後のあり方について. ましたか」との質問に対しては、 「全ての案件で予定した資金が集まった」とし、 投資家への配当については、 「予定した額の配当を行った」との回答であった。 さらに、権利ごとに投資事例について質問を行った。まず、著作権を用いた 投資事例において、 「対象となった作品の種類」は「映画」であり、 「資金提供 ごとに用いた著作権の数(作品数) 」は、 一度に 「5 以上 10 未満」との回答を得た。 また、この投資を募集する方法について、 「募集の方法は公募でしたか私募で したか」との質問に対し「私募」と回答した。そして、著作権を投資の対象と して選択した際の考慮事項について質問したところ、 「経済的評価を明確に算 出することが可能だった」点をあげた。 これに対して、特許権を対象とした投資事例の場合、 「資金提供ごとに用い た産業財産権の数(発明等の数) 」は、一度に「2 以上 5 未満」とした。その 投資の募集の方法は「私募」である点は上記の著作権の投資事例と同様であっ た。そして、特許権を投資の対象として選択した際の考慮事項について質問し たところ、 「経済的評価を明確に算出することが可能だった」とした。 以上が B 社の調査結果であるが、融資に比べて件数は少ないものの、価値 評価等の手法や良好な実績については融資の場合と同様であった。 C 社は第二種金融商品取引業者であり、上記の B 社と異なり融資の経験は なく、知的財産権を対象とした投資の経験のみを有している。C 社は「2000 年以降に行った知的財産権を用いた投資スキームによる資金提供の合計件数は 何件になりますか」との質問に対し 13 件と答えた。C 社は、 「特許権」及び 「商 標権」を対象としているが、いずれの事例においても「信託」の方法ではなく、 「投資家に配当を行うスキームによる投資の募集」であるが、当該方法を選択 する際の考慮事項については、 「投資家からの資金調達であり、資金が集めや すかったから」という点、また「債務者が希望していたから」という点、さら には「キャッシュフローの調整が可能であるから」等をあげた。 そして、上記の投資事例について、 「資金提供を行った場合の予定額」を質 問したところ、 「最も頻度が高かった金額」として「1000 万円以上 5000 万円 49.

(10) 横浜法学第 23 巻第 1 号(2014 年 9 月). 未満」をあげ、 その他に「500 万円以上 1000 万円未満」をあげた。さらに、 「予 定した資金が集まった案件はどのくらいありましたか」との質問に対しては、 「半分程度の案件で予定した資金が集まった」とし、 投資家への配当については、 「予定した額の配当を行った」案件と「配当は全く行わなかった」案件がある ことが分かった。 なお、上記の投資事例について、 「資金提供ごとに用いた産業財産権の数(発 明等の数) 」は、一度に「2 以上 5 未満」との回答であった。また、この投資 を募集する方法について、 「募集の方法は公募でしたか私募でしたか」との質 問に対し「私募」と回答した。著作権を選択する際の考慮事項については、 「経 済的評価の算出に困難はあるものの、自社が選択した以外の産業財産権と比較 すれば経済的評価が比較的容易だったから」との点、また「資金調達者側が産 業財産権以外の知的財産権を有していなかったから」との点をあげた。 C 社の調査結果は以上のとおりであるが、C 社は特許権等の産業財産権だけ を対象にした投資の方法による投資のみの経験を有しているが、実績も 13 件 あり一定の経験を積み重ねていると評価できる。そのためか、B 社と同様、権 利の価値評価には一定の自信があるように思われる。なお、B 社との共通事項 として、 応募方法は 「私募」 である。知的財産権は、不動産所有権等の他の権 利に比べて投資リスクが高いと考えられるので、知的財産の特性や仕組に一定 の知識があり、投資リスクも理解している関係者向けの投資とも考えられる。 2 経験や制度への感想・評価等 (1)経験者である金融機関等の感想 知的財産権を用いた資金提供を経験した A~C の 3 社に、 「知的財産権を用 いた資金提供を利用して有益だと感じていますか」と感想を求めたところ、 「有 益だった」と回答したのが 2 社(B 社、C 社)であり、 「有益でなかった」と 回答したのが 1 社(A 社)であった。 なお、有益であると回答した 2 社が、どの点を有益と評価したのかについて 50.

(11) 知的財産権を用いた資金提供・調達に関する実態調査の結果と今後のあり方について. は、下記の表 3 の記載のとおりであった。 表 3)知的財産を用いた資金提供に関する有益性 (質問事項)知的財産権を用いた資金提供のどのような点が有益だと感じましたか。あて はまる選択肢全てに○を付けてください[複数回答可] 。 1. 知的財産権に十分な価値があり、回収の見込があったので有益. 1. 2. 知的財産権しか財産をもっていない債務者がいたので有益. 2. 3. 知的財産権を重視している債務者から提供され、債務者の弁済 を促進したので有益. 0. 4. ベンチャー企業や不動産を持たない企業等への金融の機会が拡 大したので有益. 1. 5. その他. 0. 表 3 の回答を見ると、 「知的財産権しか財産をもっていない債務者がいたの で有益」及び「ベンチャー企業や不動産を持たない企業等への金融の機会が拡 大したので有益」との回答は、 「はじめに」の冒頭でも紹介したように、知的 財産権しか資産を有しない企業に対する資金調達の手段の多様化を求めた政府 の「知的財産推進計画」の提言が、実現可能なものと資金提供側も認めている と読み取ることができ、回答が 2 社と少ないものの、先行きに期待が持てると 感じられる。また、 「知的財産権に十分な価値があり、回収の見込があったの で有益」との回答は、一般に知的財産権の価値評価の困難性が知的財産権を用 いた資金提供の実施に関する大きな阻害要因だといわれていることに反する傾 向であり、B 社及び C 社の個別の調査においても知的財産権の価値評価が阻 害要因になっていると考えていないので、この点についても先行きの明るさが 感じられる。 なお、別の質問事項で、 「今後も、知的財産権を用いた資金提供を活用しよ うと思っていますか」と質問したところ、上記の 2 社は「思う」と回答し、活 用の意思を示した。この点からも上記で述べた先行きの期待感を裏付けている 51.

(12) 横浜法学第 23 巻第 1 号(2014 年 9 月). と考えられる。 ところで、先行きの期待感はともかくとして、経験者の目から見ると当該資 金提供に関する解決すべき課題が多いことも事実であり、下記の表 4 のとおり、 多くの課題があることが分かる。 表 4)知的財産権を用いた資金提供の課題 (質問事項)知的財産権を用いた資金提供は、どのような課題があると感じましたか。あ てはまる選択肢全てに○を付けてください[複数回答可] 。 1. 知的財産権の価値について経済的・金銭的な評価が困難である. 1. 2. 知的財産権の価値を経済的・金銭的に評価をしても、評価の後 に価値の変動がありうる(例:特許無効、著作権の侵害、発明 や表現の陳腐化、等). 3. 3. 知的財産権の処分が困難となるおそれがある(例:買手がつか なかった、買手がついたが値段が安かった、等). 2. 4. 権利保全の手続きが十分に整備されていない(例:登録の手続方 法等の未整備で制度の信頼性が薄い、登録免許税の負担大、等). 1. 5. 税務処理が複雑で難しい. 0. 6. 担保の利用にあたって企業の情報や機密を保護する制度が欲しい. 0. 7. 知的財産権を担保とするとしても、他の法律(たとえば民法等) との関係が不明確であり、利用にあたって法律的な疑問点が多 かった. 0. 8. 法的紛争のおそれがある(例:譲渡担保権の場合、自身が権利 者になるので、第三者からの訴訟提起のおそれがある、等). 1. 9. ノウハウや専門知識を有する人材が社内にいないため、知的財 産権に関する教育の充実が必要であった. 1. 10 その他. 1. (2)未経験者である金融機関等の感想 まず、 知的財産権を用いた資金提供を経験していない 61 社(表 2 を参照)に、 「知的財産権を用いた資金提供の手法に興味はありますか」と質問したところ、 52.

(13) 知的財産権を用いた資金提供・調達に関する実態調査の結果と今後のあり方について. 27 社(約 44%)が「ある」と答え、34 社(約 56%)が「ない」と答えた。 表 5)知的財産権を用いて資金提供をする方法の認知度 (質問事項)知的財産権を用いて資金を提供する方法を知っていますか。あてはまる選択 肢 1 つに○を付けてください[○は 1 つ] 。 1. 知っている. 11. 2. あまりよく知らない. 22. 3. 全く知らない. 27. 回答なし. 1 計. 61. また、表 5 のとおり、知的財産権を用いた資金提供の方法を知っていると回 答したのは未経験 61 社のうち 11 社(約 18%)であり、そもそも、提供手段 を認識している回答者が少なかった。 表 6)知的財産権を用いた資金提供を利用しなかった理由 (質問事項)知的財産権を用いた資金提供の方法を利用しなかった理由としてあてはまる 選択肢全てに○を付け、特に重視した理由の選択肢 1 つに◎を付けてください[複数回 答可、◎は 1 つ] 。 ◎. ○. 1. それまで知的財産権を利用して資金を得た経験がなく、ノウハ ウがないため、利用の仕方が不明だったから。. 10. 19. 2. 知的財産権は経済的価値を評価することが困難であるから。. 4. 5. 3. 知的財産権を利用すると、その権利に関する法的問題が発生す る不安があったから。. 1. 3. 4. そもそも知的財産権を利用した資金調達に関心がないため。. 5. 15. 5. 専門知識を有する人材など組織体制がないため。. 3. 20. 6. その他. 11. 53.

(14) 横浜法学第 23 巻第 1 号(2014 年 9 月). 次に、知的財産権を用いた資金提供の方法を利用しなかった理由を質問した ところ、表 6 のとおり、未経験の事情は多様であった。その中でも「それまで 知的財産権を利用して資金を得た経験がなく、ノウハウがないため、利用の仕 方が不明だったから」という回答が圧倒的に多く、次いで、 「専門知識を有す る人材など組織体制がないため」という意見、 「そもそも知的財産権を利用し た資金調達に関心がないため」という意見が多かった。 確かに、不動産担保融資を例としてみれば、不動産(土地・建物)という日 常生活に比較的なじみやすい目的物を扱っているため、こうした目的物に関連 する法制度も資金提供者にとって理解しやすい可能性はある。こうした事情に 加え、不動産への高い信用があいまって、不動産担保は日本ではこれまでかな り重視されてきた。このように、従来から用いられてきた担保制度を活用した 資金提供であれば、ノウハウや専門知識が蓄積され、資金提供の場面で活用が ためらわれることは少ないであろう。 しかし、こうした例と異なり、知的財産権という無体物を活用した資金提供 は目的物が日常的になじみの薄い特殊なものであるので、その法制度自体に対 する理解の浸透も十分でない可能性があり、それゆえに、無体物を活用した資 金提供の経験が乏しく、翻って、不動産担保等の他の手段がいまだに重視され てしまうということも当然の結果ともいえる。 そこで、ノウハウや専門知識を有する人材不足等を指摘する意見は、まさに 知的財産法の専門性の高さや特殊性等に起因するものと考えられる。そのため、 知的財産権を用いた資金提供の事例を増やすことは、専門的知識を有する人材 の育成・確保と表裏の関係であるといえる。したがって、今後は、人材育成と 同時に資金提供事例を増やすための方向性を具体的に考えていく必要があると いうことが分かる。 これに対して、 「知的財産権は経済的価値を評価することが困難であるから」 という意見は少なく、一見すると、知的財産権の評価の問題は同権利を活用し た資金提供の障害となってはいないようにも思われる。しかし、これは知的財 54.

(15) 知的財産権を用いた資金提供・調達に関する実態調査の結果と今後のあり方について. 産を用いた資金提供の方法を利用したことがない者の意見であり、上記のよう なノウハウや専門知識不足という大きな問題がある以上、評価の困難性が支障 になっていないというよりも、むしろ、未経験者である金融機関等では、知的 財産権を活用した資金提供を実施するにあたっての具体的問題として、評価の 問題を取り上げる段階よりも以前の段階にある回答者が多いということを示し ていると考えられる。 また、 「知的財産権を利用すると、その権利に関する法的問題が発生する不 安があったから」という意見も少なかった。しかし、この意見についても、未 経験者が、前述のとおりノウハウや知識に課題を抱えていることからすれば、 評価の問題と同様に具体的な問題として意識し、取り上げる段階にはない回答 者が多いということを示しているのではないかと考えられる。 表 7)知的財産権を用いた資金提供が有益だと感じる理由 (質問事項)知的財産権を用いた資金提供が有益だと感じている場合、その理由としてあ てはまる選択肢全てに○を付け、特に重視した理由の選択肢 1 つに◎を付けてください [複数回答可、◎は 1 つ] 。 ◎. ○. 1. 知的財産権に十分な価値があり、回収の見込があれば有益. 16. 15. 2. 知的財産権しか財産を持たない債務者がいれば有益. 0. 11. 3. 知的財産権を重視している債務者へ提供であれば、知的財産担 保が弁済を促進するので有益. 0. 6. 4. ベンチャー企業や不動産を持たない企業等への金融の機会が拡 大するなら有益. 4. 22. 5. その他. 5. 次に、表 7 のとおり、知的財産権を用いた資金提供を経験していない金融機 関等であっても、好意的な回答も多く、この資金提供の有益性を感じている回 答者も少なくなかった。 55.

(16) 横浜法学第 23 巻第 1 号(2014 年 9 月). 表 7 は、経験者である金融機関等に質問した表 3 と同じ質問をしている。こ の中で、一番意見が多かったのが「知的財産に十分な価値があり、回収の見込 みがあれば有益」との回答であったが、経験者で同様の回答した者は一定の価 値評価の手法を有している者であったが、未経験者においても、評価手法が確 立され、 制度の仕組みが整えば、 知的財産権を用いた資金提供は有益であると 考えている者が多いことが示されており、未経験者への質問においても表 3 の 解説で記したように、 先行きの期待感が持てる。 また、 「知的財産権しか財産を持たない債務者がいれば有益」及び「ベン チャー企業や不動産を持たない企業等への金融の機会が拡大するなら有益」と の回答についても一定数の回答があるが、これも表 3 の解説で記したとおり、 未経験者からも一定の支持があったことは、知的財産権しか有効な資産を持た ない企業等に関する資金提供の方法の実現可能性を示唆したものとして注目し てよいと考える。. Ⅲ . 聞き取り調査の結果 アンケート調査の結果を補完するため、資金提供を行った経験のある金融機 関等に聞き取り調査を行った。そこで得られた回答を整理すると次のとおりで ある。 1 証券会社 商標権を担保に、譲渡担保の形で融資をした経験があるとした。 知的財産権の価値評価について質問をしたところ、知的財産権の中でも特に 商標権は、そもそも債務者が無資力の際に換価を行うことが容易ではなく、そ の価値も権利そのものの価値というより、融資先のブランド力や技術力等を総 合的に評価することでしか算出できないものであるので、価値の評価という点 では困難が伴うものであるとの認識があるということであった。このため商標 56.

(17) 知的財産権を用いた資金提供・調達に関する実態調査の結果と今後のあり方について. 権を担保として融資を実現したのは、融資先企業が担保となりそうな不動産や 動産を所有していなかったものの、企業としての知名度は高くかつ当該企業が 自己の商標権を重視していたので、この権利を担保とすることに決定したとい うことであった。 したがって、上記の事案において商標権を担保の目的としたのは、経済的な 価値を評価したというよりは、むしろ、債務者が重視する財産を担保とするこ とによる弁済促進の効果を期待したからであるということであった。そのため、 この融資事案は事実上の無担保融資であると理解しているとのことであった。 さらに、この会社は、今後の事例の積み重ねには消極的であったが、知的財 産権の価値がある程度正確に評価できる場合にも、その権利を担保として融資 する可能性は乏しいのか質問した。これに対しては、この会社は証券会社であ るため、会社の性質からすれば、知的財産権の価値評価が確実であれば、基本 的には融資という形をとらず、当該権利を裏付け資産として証券化することで 投資者を募る方法をとることになるであろうとの回答を得た。 最後に、担保の形式として譲渡担保を選択したことに関連した聞き取りを 行った。はじめに譲渡担保という形式を採用した理由を質問したところ、債務 者が無資力になった場合に、譲渡担保権であれば私的実行が可能であり、担保 の実行手続が簡単であることを重視したこと、さらに証券会社では質権の設定 は担保目的の権利を契約期間中に運用できないなどの理由で従来からあまり活 用されていなかったということであった。 また、知的財産権を目的とした譲渡担保であれば、債務者(融資先企業、も ともとの商標権者)から、資金提供側に対して、当該商標権が形式的に譲渡さ れることになり、外形的には資金提供側が商標権者となる。そこで、例えば当 該商標権が第三者の商標を侵害しているなどの理由で、資金提供側が当該第三 者との商標権侵害訴訟に巻き込まれる法的リスクが生じる可能性がある。こう いった法的リスクについて、譲渡担保の設定を社内で決定した時点でどのよう に考えていたかを質問したところ、上記の融資事例では、問題を検討した結果、 57.

(18) 横浜法学第 23 巻第 1 号(2014 年 9 月). 訴訟リスクは少ないと判断したということであった。 従来、知的財産権の担保化は知的財産権の評価が困難であるという指摘がな されてきたところ、この会社の回答からは、たとえ知的財産権そのものの価値 評価が困難な場合であっても、債務者が知的財産権しか資産を持たず、その権 利を重視しているならば、同権利を担保の目的として資金提供が行われる可能 性が見いだされる。もっとも、こうした事例は無担保融資と変わらず、権利の 価値以外にも融資先のブランド力や技術力等をも評価する必要があり、これら を欠く企業にとっては知的財産権を用いた資金提供の活用可能性が低くならざ るを得ないのではないかと予想される。 なお、この会社の上記融資事案は、融資先企業に途中で新しいスポンサーが現 れたため、この会社が同スポンサーから資金回収を行い、担保の目的としてい た商標権は融資先に返還したということであった。こういった意味で、この融 資に当たって、担保権を実行する機会がなく、知的財産権を目的とした担保が 有益だったかどうかは評価できないとの感想を持っているということであった。 2 銀 行 2006 年までにアニメを対象として、その収益権を証券化する方法によって 資金提供を行ってきた。 そこで、アニメを対象に上記のような投資事例を実行したのは、どのような 理由であったのかを質問したところ、音楽やゲームは収益の幅が大きくなって しまうものの、アニメは収益の変動が少なく、その予想が立てやすかった点に 着目し、投資の対象としたとの回答を得た。また、知的財産権そのものを担保 として行う貸付ではなく、知的財産権から生じる収益権を目的とする投資とい う手段を採用したのは、利息制限法との関連が問題となるということであった。 すなわち、利息制限法では、貸付に対する利息が一定の範囲で制限されている ため(利息制限法 1 条) 、融資の方法を採用すると、この規制によって収益が 一定程度に制限されてしまうということであった。 58.

(19) 知的財産権を用いた資金提供・調達に関する実態調査の結果と今後のあり方について. 次に、投資の基礎となる対象のアニメ作品の収益をどのように算出し、作品 の経済的価値を決定したのか、その方法について質問を行った。この点につい ては、投資による資金提供を希望する資金調達者との相談の中で、資金調達者 からはアニメ作品の関連資料が多数提出されたものの、そのような資料から必 ずしも作品の経済的な価値を判断することはできない場合が多く、実際には当 該アニメ作品に原作漫画があるか否か、その原作漫画がヒットしているか否か などの情報からアニメ作品の収益を予想し、経済的な価値を算出したとのこと であった。 また、資金調達者から資金回収計画を提出してもらい、この銀行が納得でき ない場合は、必要に応じて回収計画の修正を求め、資金調達者が修正に応じな い場合には資金提供を断った事例もあるとのことであった。 このように、この銀行は一定の収益を見込んで投資を実行しており、その実 行に際しても、知的財産権そのものの価値を評価・算出することで資金提供を 行うというよりも、融資先のブランド力や成長力等を評価した上で資金提供を 行っており、ここでも、上記の証券会社が提示したのと同様、一定の体力をもっ た企業でなければ知的財産権を用いた資金提供を受ける余地が狭まるという可 能性が明らかになったといえる。 3 知的財産権の評価等を行うコンサルタント会社(第二種金融商品取引業者) 聞き取り調査をした他の会社とは異なり、この会社(前述の B 社)は、資 金提供そのものは行わず、金融機関等と提携し、知的財産権を担保にした融資 等を希望する企業から依頼を受けて当該知的財産権の価値評価を行ない、知財 評価書を依頼企業及び金融機関等に提出することや、知的財産流動化・ファイ ナンスに関するアドバイス等を行っているとのことであった 6)。 6)‌知的財産権担保評価や証券化の際の譲渡価格の評価を主たる目的にして設立された有限 責任事業組合(LLP)や外部の弁理士と連携して評価業務を行っているようである。 59.

(20) 横浜法学第 23 巻第 1 号(2014 年 9 月). 金融機関等と提携して行った案件は、 映画やコンピュータソフトの著作権、 特許権及び商標権と多くの知的財産権を対象として、前述のとおり、その方法 も融資及び投資の両方を行っており、実例の数もあわせて 50 件以上にもなる。 実例の数においては、他の金融機関とは比べられないほどの実績を有している。 そこで、この会社に対して、まず知的財産権の評価方法について質問したと ころ、知的財産権を評価する計算方法は一応確立されているし 7)、これまでこ の会社が実施した案件も多く、評価経験も多いため、知的財産権の評価そのも のが著しく困難であるとは思っていないと回答した。上記のとおり、この会社 は「映画」に関する案件も取り扱っているが、映画については、権利関係が複 雑なので製作会社が全権利を取得しているものしか取り扱ったことはないとい うことであった(製作委員会方式で作られた映画の著作権は共有なので取り扱 いが難しい 8)) 。また、シリーズものは、過去の実績があるので、評価が行な いやすいということであった 9)。 また、融資の際の掛け目率についても、不動産が 70%から 80%、動産が 30%から 50%と参考になる相場があるので、難しくはないとした。 7)‌知財評価に使われる評価方法については、①コストアプローチ法、②マーケットアプロー チ法及び③インカムアプローチ法の 3 種類の手法が存在するが、事業計画から知財によ る将来のキャッシュフローを予測し、当該キャッシュフローを割引率により現在の価値 に換算し評価するという③の手法が一般的である。鎌田・前掲注 4)376 頁[吉羽・大宮] などを参照。 8)‌製作委員会方式とは、 「映画の利用に携わる企業(配給会社、ビデオ販売会社、テレビ局、 広告代理店など)が数社集まり、互いに資金を出しあってひとつの映画の製作費を調達 するという方法」であり、たとえば配給会社 A、テレビ局 B、広告代理店 C がそれぞれ 1 億円ずつ出資し、製作プロダクション D が発注を受け、上記の合計 3 億円をもって映 画を製作する方式である(福井建策編『映画・ゲームビジネスの著作権』 (著作権情報セ ンター・2007 年)152 頁を参照。このように出資者が複数存在するため、製作委員会方 式で作られた映画の著作権は出資者等の共有となる。 9)‌例えば、 「どらえもん」や「男はつらいよ」のような一話完結型のアニメや劇場用映画の シリーズものを指していると思われる。 60.

(21) 知的財産権を用いた資金提供・調達に関する実態調査の結果と今後のあり方について. 次に、融資に当たって質権を選択した理由を質問したところ、担保の設定方 法としては、質権の方が法律的には明確であるとした上で、譲渡担保権の設定 には不明確な点もあると感じているとした。 さらに、 投資資金の回収率について質問したところ、提供した資金は全額 回収しているが、その成功の秘訣は、担保に供された知的財産権が処分でき るかどうかだと思っているということであった。そもそもこの会社も当初は、 知的財産権の価値評価だけを行っていたようであるが、事例を重ねるにした がい債務者が返済不能となった場合に、どのような方法で担保の目的となっ ている知的財産権を処分するかがはっきりしていないと融資が実行しにくい ことが分かったようである。そこで最近では銀行からの依頼を受けて知的財 産権の売却を行っているが、他社にライセンスされている知的財産権、協業 先等が製造のために必要とする特許権等は売却できる可能性があるものの、 資金提供先が債務不履行に陥ったからといってただちに売却を行うのは容易 でないので、別途行っている知的財産権の売却の仲介事業のノウハウを活か して、売却先の候補企業の一覧などを事前に作成し知的財産権を処分する場 合に備えているということであった。 なお、知的財産権を用いた資金提供は、ベンチャー企業向けと考えている人 も多いが、この会社の経験上、ブランド力、技術力等のある堅実な会社向けの 方が、仮に債務不履行になったとしても事業譲渡先も見つけやすく成功の確率 は高いとのことであった。 このように、この会社は多くの融資や投資の仲介経験を有しており、専門知 識やノウハウが確立されているため、知的財産権の評価や法律制度の運用にあ たって大きな支障を感じていないようであり、未経験企業や経験が多くない他 社の受取り方とはずいぶん異なる印象を得た。 もっとも、債務者が無資力の際の権利処分との関係では、ベンチャー企業よ りも堅実な企業の方が知的財産を活用した資金提供に向いているとの理解を示 しており、この点では、知的財産権そのものの価値を評価せず、融資先のブラ 61.

(22) 横浜法学第 23 巻第 1 号(2014 年 9 月). ンド力、技術力等を加味して資金提供を行った上記の証券会社や銀行等と共通 する理解に立っているように感じられた。 4 第二種金融商品取引業者 この会社は、地域の金融機関や地方自治体等から事業者の紹介を受け、地域 の物産の販売網の整備等に資金を供給するため、200 本以上の多様なファンド を運用している。顧客は、インターネットを経由して気に入ったファンドを選 択し、通常一口数万円の投資を行う。募集金額は通常数百万円から数千万円ま でである 10)。聞き取り調査では、これらのファンドの内、70 本程度が音楽の原 盤製作や販売促進に資金を供給するためのファンドであるとのことであった。 この会社では、ファンドの運用で利益が出れば投資家に配当を行うことに していることから、第二種金融商品取引業者として登録をしているが、他社 では対象商品やオリジナルグッズ等の提供をしたり、イベントへの参加が無 料でできるなどの特典だけで、利益の配分をしていないものも多いというこ とであった。 また、ファンドの裏付け資産は基本的に取っていないとのことであった。そ の理由を質問したところ、例えば、音楽の場合、ファンドの募集総額が比較的 少ないことなどをあげた。また、アーティストやそのスタッフが、知的財産権 の担保についてほとんど知識がなく、あまり難しい説明をすると、それならや めようということになってしまうとのことであった。 したがって、現状では、このような投資ファンドは、今まで紹介してきた事 例とは異なり、例えば、自分の好きなアーティスト等に対する応援的な要素が 強く、金銭的な見返りを追求するものではないと考えられる。 以上、この事例は、特殊な事例と考えられるが、特にコンテンツの場合は、 10)‌インターネットを使って、一般の人から資金を募集し資金調達する方法を、一般にクラ ウドファンディングと呼んでいる。 62.

(23) 知的財産権を用いた資金提供・調達に関する実態調査の結果と今後のあり方について. コンテンツの種類によってはその製作に多額の資金を要しないものもあるとこ ろから、公募を基本として、少額の金額を多くの人から集めることによって、 一定の資金を調達する方法として注目してもよいと考える。. Ⅳ . 小 括 資金提供側は、業務の範囲も広く、資金提供の方法も多様化しているが、未 経験者のうち知的財産権を用いた資金提供に「興味がある」と答えた者は、半 数程度であった(61 社中の 27 社(約 44%) 、第 1 Ⅱ. 2(2)を参照) 。これは、 一部には知的財産を用いた資金提供に関心を持っている層があることを示して いるといえる。 ただし、未経験者の中には資金提供の方法を「あまりよく知らない」 、 「全く 知らない」とする金融機関等も多いので、知的財産権を用いた資金提供事例の 仕組(専門的な知識・ノウハウ等)やその運用に当たっての課題・対策等を広 く周知し、ビジネスとして成立し得る可能性を普及していくことで、実務の関 心を高める必要があると考えられる。 次に、経験者の数がわずかに 64 社中 3 社(約 5%)と少ないが、そもそ も知的財産権を用いた資金提供が特別な資金提供方法であること、他に様々 な資金提供の方法があることなど前述した理由(第 1 Ⅱ. 1 を参照)により、 数字だけを見てあまり知的財産権を用いた資金提供の今後について悲観的に なる必要はないと考える。 その証拠に、経験者の中には、知的財産権の評価が可能だったと答えている 会社があり、特に多くの事例を経験している会社は、知的財産権の評価に関す る独自の評価システムを持っていた。知的財産権を用いた資金提供・調達で一 番困難なのは、知的財産権の評価であると一般に言われているが、ごく少数で あるとしてもその評価に関する知見を備えた会社があるということは、知的財 産権を用いた資金提供を実施する上で、この問題が決定的な阻害要因にはなら 63.

(24) 横浜法学第 23 巻第 1 号(2014 年 9 月). ない可能性を示唆している。 特に、知的財産の評価等を行うコンサルタント会社が存在することを今回の 調査で初めて知ったが、このような会社の存在は、今後金融機関等が事例を積 み重ねるための重要な要素になると考える。上記のコンサルタント会社は特定 の金融機関等の専属としてではなく、様々な金融機関等と連携し、顧客の要 望にそった資金提供の方法も提案しているとのことであったが(第 1 Ⅱ. 1(1) 及びⅢ. 3 を参照) 、このような方法は多くの金融機関等が経験を重ねることに 大いに役立つことになる。 したがって、ブランド力、技術力、経営力等を有する企業であれば、自社と 金融機関等が知的財産権に関連する法的・経済的な専門知識があれば相互の協 議によって、また資金提供・調達の当事者だけでは専門知識やノウハウに不安 があれば、上記のコンサルタント会社の力を借りるなどして、知的財産権を用 いた資金提供を実行できる可能性があるといえる。 もっとも、知的財産権を用いた資金提供には、同権利の価値そのものを評 価せずに担保とする事例も存在する(第 1 Ⅱ. 1(1)及びⅢ. 1 を参照) 。また、 少額であれば投資家が個人的に企業を応援したいという意識で資金を拠出する 可能性もある(第 1 Ⅲ. 4 を参照) 。そうであれば、仮に知的財産権を用いた資 金提供が一定の体力ある企業を対象とすることが基本であったとしても、投資 の事例であれば、企業を応援したいという個人投資家を募ってベンチャー企業 のような発展途上の企業に資金提供する可能性もあるのではないかと考える。. 第 2 資金調達側に対する調査の結果について Ⅰ . 調査の方法 1 調査票の内容 アンケート調査票の作成に当たっては、資金提供の場合と同様に研究会の助 64.

(25) 知的財産権を用いた資金提供・調達に関する実態調査の結果と今後のあり方について. 言を得て、以下のとおりに作成した。 資金調達側は、例えば特許権を保有する企業というと、かなり多くの企業が 対象となり、商標権であればほぼ全ての企業が対象になる可能性がある。そこ で、調査対象をコンテンツの製作会社に限定し、著作権に関する質問に絞って 質問票を作成した 11)。 また、質問の手順としては、最初に、回答者全員に対して、通常行っている 資金調達の方法を質問した上で、著作権を用いた資金調達の想定される不安や 利点、著作権を用いた資金調達の経験の有無について質問をした。 これを前提として、著作権を用いた資金調達を経験したことがない者に対し て、上記の方法による資金調達に対する関心やその方法に対する認識等を質問 した。著作権を用いた資金調達を経験したことがある者に対しては、融資と投 資に分けて、その内容や感想等を質問した。 2 送付先と回収率、回答した会社の内訳 表 8)送付先と回収数 依頼数. 回答数. 日本映画製作者連盟. 4. 3. 日本映画製作者協会. 57. 8. 日本映像ソフト協会. 33. 5. 日本動画協会正会員. 60. 2. 日本レコード協会. 35. 10. 287. 14. 日本音楽出版社協会 . 11)‌音楽については、音楽の著作権を担保に供する場合より、レコードの原盤権すなわち「レ コード製作者の権利」を担保に供する場合が多いので、アンケート調査票においても、 「音楽の場合は、原盤の権利(レコード製作者の権利<著作隣接権>)も含みます」 と 用語の定義をした。なお、アンケート調査の送付先から考えると、 「音楽」に関して回 答した者のほとんどは、レコードの原盤権を前提に回答しているものと推定される。 65.

(26) 横浜法学第 23 巻第 1 号(2014 年 9 月). インディペンデントレーベル協議会. 66. 2. コンピュータソフトウェア著作権協会. 161. 1. モバイル・コンテンツ・フォーラム. 130. 2. コンピュータソフトウェア協会. 344. 1. 団体非加盟. 11. 1. その他(依頼リストに記載なし分). . 12. 1,188. 61. 計. 表 8 のとおり、映像、音楽、コンピュータソフト(ゲームソフトを含む)等 のコンテンツの製作会社を中心に、業界団体の協力を得て、 主としてメールを 用いて調査を行った。送付先は 1188 社で、回答があったのは 61 社(約 5%) であった。 61 社の内訳であるが、回答した企業に「貴社の属性についてお答えくださ い」と質問したところ、 「コンテンツ制作会社」が 46 社(約 75%) 、 「一般企業」 が 3 社、 「その他」が 8 社で、 回答がなかったのが 4 社であった。 表 9)「コンテンツ制作会社」 と回答した 46 社が製作しているコンテンツの種類 (質問事項)貴社が制作しているコンテンツ種類としてあてはまる選択肢全てに○を付け てください[複数回答可] 。 1. 映画. 28. 2. アニメ. 18. 3. 漫画. 2. 4. 音楽. 24. 5. ゲームソフト. 3. 6. コンピュータ・ソフトウェア(ゲームソフトを除く). 2. 7. その他. 9 計. 66. 86.

(27) 知的財産権を用いた資金提供・調達に関する実態調査の結果と今後のあり方について. * 「その他」 については、教材、音楽出版、テレビ映画、CMなどの記載があり、1 ~ 6 の分 類に振り分けることができるものもあったが、回答者の意思を尊重し、回答は補正していない。. さらに、「コンテンツ制作会社」と回答した会社 46 社に、製作をしているコ ンテンツの種類を質問したところ、表 9 のとおり、映画、アニメ及び音楽が多 くを占めた。なお、合計が 86 になったのは、1 社で種類が異なるコンテンツ を製作しており、重複して合計しているからである。. Ⅱ . アンケート調査の結果 1 資金調達の方法 表 10)通常行っている資金調達方法 (質問事項)通常どのような方法で資金調達を行っていますか。あてはまる選択肢全てに ○を付けてください。特に頻繁に行っている選択肢 1 つに◎を付けてください[複数回 答可、◎は 1 つ] 。 ◎. ○. 1. 不動産担保を利用した借り入れ. 0. 5. 2. 保証人をつけた借り入れ. 1. 7. 3. 無担保の借り入れ. 4. 8. 4. 製作委員会方式による資金の調達. 16. 9. 5. スポンサー企業等をつのることで資金を調達. 1. 12. 6. 投資家からの資金提供をうけることで調達(出資). 1. 7. 7. 外部から資金調達をしていない(自己資金等の利用). 9. 22. 8. その他. 9. まず、資金調達側が通常行っている資金調達の方法を質問したところ、表 10 のとおりであった。また、それをコンテンツの種類別にし、数字を整理し たのが下記の表 11 である。 67.

(28) 横浜法学第 23 巻第 1 号(2014 年 9 月). 表 11)コンテンツ種類別の資金調達方法 コンテンツ. 映 画 (28社). アニメ (18社). 漫 画 (2社). 音 楽 (24社). ゲーム (3社). コンピュータ (2社). 調達方法 . ○. ◎. ○. ◎. ○. ◎. ○. ◎. ○. ◎. ○. ◎. 1. 不動産担保. 0. 4. 0. 1. 0. 0. 0. 2. 0. 0. 0. 0. 2. 保証人借入. 0. 3. 0. 3. 0. 0. 0. 1. 0. 0. 0. 0. 3. 無担保借入. 2. 5. 2. 4. 0. 1. 4. 2. 0. 1. 0. 0. 4. 製作委員会. 13. 7. 7. 5. 0. 0. 2. 3. 0. 0. 0. 0. 5. スポンサー. 0. 10. 1. 6. 1. 0. 1. 2. 0. 0. 0. 0. 6. 投資家. 0. 3. 0. 2. 0. 1. 0. 2. 0. 0. 0. 0. 7. 自己資金等. 3. 9. 2. 4. 1. 0. 5. 8. 2. 1. 1. 1. * 「コンテンツ」 欄の会社数は、表 9 の回答数に基づき算出した会社数(表 9 で 「その他 」 と答えた 9 社は除いている)であるので、 例えば 1 つの「コンテンツ制作会社」が、 映画、 アニメ、音楽の 3 種類のコンテンツを製作しているとすれば、この表では 3 社として取り 扱われている。そのため、表 11 の項目ごとの回答数の合計は、表 10 の項目ごとの合計数 より多くなっている。. 表 10 及び 11 からも分かるように、映画・アニメについては、 「製作委員会 方式 」が圧倒的に多い。劇場用映画の場合、一般に巨額の費用が必要となる ので、映画の製作、流通等にかかわる複数の関係企業から出資を募る製作委員 会方式が、わが国では最も一般的な資金調達方法といわれており、本調査でも 同様の結果となった。また、外部から資金を調達しない「自己資金等」の比率 も多かった。 2 著作権を用いた資金調達について (1)著作権を用いた資金調達の不安要素 表 12)共感できる不安要素 (質問事項)著作権を用いた資金調達を行う場合、一般に以下の選択肢のような不安が想 68.

(29) 知的財産権を用いた資金提供・調達に関する実態調査の結果と今後のあり方について. 定されています。下記のうち、不安として共感できる選択肢全てに○を付けてください。 特に重要と考えられる選択肢 1 つに◎を付けてください[複数回答可、◎は 1 つ] 。 ◎. ○. 1 これまで著作権を利用して資金調達をした経験がなく、ノウハ ウや人材がいないため不安である. 3. 17. 2 著作権の価値は経済的・金銭的に算出することが困難であるか ら、資金調達を行えるか不安である. 6. 17. 3 著作権を利用すると、その権利に関する法的問題が発生する不 安がある. 4. 15. 4 社外で日常的に法的問題を相談できる環境がないため不安である. 0. 5. 5 著作権の対象となる作品が他人に奪われてしまうという不安が ある. 1. 6. 6 著作権を共有している関係者との調整が面倒あるいはトラブル が発生する懸念がある. 15. 28. 7 著作物の製作コストの詳細な管理を行い、債権者に常に報告す る必要が生じるならば面倒である. 5. 21. 8 その他. 9. 次に、回答者全員に対し、著作権を用いた資金調達を行うとした場合に想定 される不安要素を質問した。 表 12 のとおり、いくつか想定される不安要素を選択肢に取り上げて質問し たところ、その中でも「著作権を共有している関係者との調整が面倒あるいは トラブルが発生する懸念がある」とする回答がかなり多かった。 著作権が共有されている場合は、自己の持ち分を譲渡し、または質権を設定 するときには原則として他の共有者の同意が必要となる(著作権法 65 条 1 項) 。 これは、著作権共有者間の連帯性を確保するために設けられた規定とされてお り、民法上の準共有に関する規定に対する特則である 12)。なお、共同著作物 の著作者人格権の行使についても著作者全員の合意によらなければ行使できな 12)‌加戸守行『著作権法逐条講義(六訂新版) ( 』著作権情報センター・2013 年)458 頁を参照。 69.

(30) 横浜法学第 23 巻第 1 号(2014 年 9 月). い(著作権法 64 条 1 項) 。これらの観点からみると、わが国の映像製作で多く 採用される製作委員会方式は、通常製作された映像コンテンツの著作権を複数 人の出資者で共有することになるそうであれば、本調査では映像関連の企業か らの回答が多く、特に、上記のような共有者とのトラブルという不安感が回答 の多くを占めたと思われる 13)。 映画やアニメにおける製作委員会方式による資金調達は、わが国独自の方法 であり、これはわが国の映画の製作、流通等のビジネス構造に起因するものあ る。後述の聞き取り調査においても、ある映像製作者は、投資の方法を使って 単独で資金調達を行ったが、この方法ではわが国ではビジネスを円滑に行うこ とができず、現在は製作委員会方式を活用している旨を回答しているように、 少なくとも当面資金は製作委員会方式に頼らざるを得ないと考えられる(第 2 Ⅲ.3 を参照) 。 したがって、著作権を用いた資金調達においてもこのような状況を踏まえ考 える必要があるが、上記のような点をあまり阻害要因と考える必要はない。例 えば、これも後述の聞き取り調査で分かったことであるが、映像製作会社が製 作委員会の中で自己の発言権を高めるためには、製作委員会における自己の出 資比率を高める必要があるので、自己資金を超える資金を確保するために著作 権を用いた資金調達を活用している例があった。これは新しい資金調達の方法 として、今後注目されてよいと考える(第 2 Ⅲ.2 を参照) 。また、製作委員 会方式では、調達できる資金の額に一定の限界があるといわれているが、わが 国でも国際展開も視野に入れた大型の映画製作を行う場合は、製作委員会方式 による資金調達に著作権を用いた資金調達を加え、多額の製作資金を調達する 可能性もあると考える。さらに、製作委員会に頼る必要がないような製作費が 13)‌映画の場合、原作、脚本があるときは、映画の利用に伴ってこれらの著作権が同時に働 くので(著作権法 28 条) 、事前に当該権利者との調整が必要であり、映像に音楽等の著 作物等が利用されている場合は、それらの権利者との調整も必要になってくる。 70.

(31) 知的財産権を用いた資金提供・調達に関する実態調査の結果と今後のあり方について. それほど大きくない小型の映画や映画館での上映を前提としないビデオ作品や ネット向け作品等の分野でも活用が期待できる。 ただし、ここで注意すべきは、映画製作に当たっての関係者間の契約につい てである。確かに上記のような不安要素は、わが国の映画の製作の実態と現行 著作権制度の仕組みから考えて当然のことと考えるが、上記のような問題が映 画製作前に契約の問題として処理され、予め関係者で一定の合意を得ることが できれば、当該問題は決して阻害要因にならないと考える。現状では、映像製 作会社の持分権を用いて資金調達をすることがほとんどないため、他の共有者 にとっては想定外のこととして、その対応に苦慮すると考えられるが、著作権 を用いた資金調達を活用することによるメリットを共有者間で共有できれば、 契約の締結による処理はそれほど難しいことではないと考えられる。 次に、 「著作物の製作コストの詳細な管理を行い、債権者に常に報告する必 要が生じるならば面倒である」との回答が多かった。研究会での分析や後述の 聞き取り調査によると、金融機関や投資家から資金調達を行ってコンテンツを 製作すると、資金提供者から資金の使途などの詳細な管理・報告を求められる ことが多いようである。そのため、製作現場では、管理・報告にかかる労力や 人件費等の負担が増え、結局全体的なコスト増につながりかねないため、製作 コストに関する不安要素が多く回答されたのではないかと思われる。これに対 して、製作委員会方式のように、コンテンツの製作・流通にかかわる複数の関 係者が出資者となる場合は、金融機関等の外部者ではなく、コンテンツの製作 に関わる企業からの出資であるので、製作にあたっての詳細な管理や報告は行 われないことも多いことが研究会の指摘や聞き取り調査の結果から判明してい る。 なお、 「これまで著作権を利用して資金調達をした経験がなく、ノウハウや 人材がいないため不安である」 、 「著作権の価値は経済的・金銭的に算出するこ とが困難であるから、資金調達を行えるか不安である」及び「著作権を利用す ると、その権利に関する法的問題が発生する不安がある」については、資金提 71.

(32) 横浜法学第 23 巻第 1 号(2014 年 9 月). 供側と同じ不安要素である。これについては、資金提供側と同様に、資金調達 側の経済的知識(評価方法や実際の評価のノウハウなど)や法的知識(知的財 産法の理解、その担保や投資の方法、法的リスクの予見など)の拡充が重要で あり、そのためにはやはり実例が増えること、そこから得られた知見が蓄積さ れ公開されることが重要であると考える。 (2)著作権を用いた資金調達の利点 表 13)共感できる利点 (質問事項)著作権を用いた資金調達をする場合、一般に以下の選択肢のような利点が想 定されています。 下記のうち、利点として共感できる選択肢全てに○を付けてください。 特に重要と考えられる選択肢 1 つに◎を付けてください[複数回答可、◎は 1 つ] 。 ◎. ○. 1. 著作権しか目立った財産をもっていないので、著作権の価値が 評価され、その活用ができれば有益である. 5. 21. 2. 不動産などの担保に加えて、著作権も担保として利用して資金 調達ができるのであれ有益である. 2. 17. 3. 著作権を自分が活用しながら、同じ著作権により資金調達でき るのであれば有益である. 9. 24. 4. 著作権を対象に資金調達をしても、一定期間後に自社に著作権 が戻ってくるので有益である. 6. 15. 5. 対象となる著作権が生み出す収益のみを返済原資とし、その範 囲以上の返済を行わないような調達の方法も考えられる(たと えば、対象とする著作権が生み出す収益のみを返済原資とする 融資[ノンリコースローン]や投資スキームの場合). 6. 23. 6. その他. 8. 次に、回答者全員に対して、著作権を用いた資金調達を利用する場合に想定 される利点として共感できる点について質問を行った。 これについては、表 13 のとおり、特にどの項目に回答が集中しているとい うことはなかったが、 「著作権を自分が活用しながら、同じ著作権により資金 72.

(33) 知的財産権を用いた資金提供・調達に関する実態調査の結果と今後のあり方について. 調達できるのであれば有益である」との回答が一番多かった。全体的には、著 作権を用いた資金調達に有益性を感じている企業が多いのではないかと推測で きる。 3 著作権を用いた資金調達の経験の有無 次に、著作権を用いた資金調達の経験の有無を聞いた上で、経験がない回答 者と経験がある回答者で異なる質問を行った。 表 14)著作権を用いた資金調達の経験の有無 (質問事項)著作権を用いた資金調達を行ったことがありますか。あてはまる選択肢 1 つ に○を付けてください[○は 1 つ] 。 1. 融資を受ける方法として行ったことがある. 3. 2. 金融機関が行う信託等の投資スキームで行ったことがある. 4. 3. 融資としても、投資スキームとしても、行ったことがある. 1. 4. 行ったことがない. 53 計. 61. まず、表 14 のとおり、 「著作権を用いた資金調達を行ったことがあります か」との質問に対し、資金調達の経験があると答えた会社は 61 社中 8 社(約 30%)であった。経験企業 8 社のうち、4 社は融資の方法を経験したと回答し、 5 社が投資の方法を経験したと回答した(なお、8 社のうち 1 社は融資及び 投資の両方を経験しているため、いずれの方法との関係でも回答者として計 算した) 。 (1)経験がない企業に対する調査 著作権を用いた資金調達を行ったことがないと答えた企業 53 社(表 14 を参 照)に、 「著作権を用いた資金調達の方法に興味はありますか」と質問したと ころ、 「興味がある」と答えた企業が 53 社中 23 社(約 43%)であり、経験は 73.

参照

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