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アイデンティティ形成が青年の将来展望に及ぼす影響に関する臨床心理学的研究

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Academic year: 2021

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(1)平成15年度 学位論文. アイデンティティ形成が青年の将来展望に  及ぼす影響に関する臨床心理学的研究. 兵庫教育大学大学院 学校教育研究科 学校教育専攻 教育臨床心理コース.    MO20791 樋渡 千恵.

(2)            目次 問題および目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…  1. 予備調査・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 8.  目 . 的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…  8.  方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…8  結果および考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…  g. 研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…16  目 的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…  16.  方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 16  結果および考察・・・・・・・・・・・・・・…  g・・・・…   17. 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…23 引用文献・・・・・・・… 9・・・・・・・・・・・・・…  25. 謝    辞. Appendix.

(3) 問題および目的.  Erikson(1950)は,人生を8つの発達段階に分け,心理社会的側面から人間の全生涯 に関する人格発達論,つまり漸成説を図式で表し,またそれぞれの心理社会的発達段階で 獲得されるべき課題を心理社会的危機として対概念で提唱した。この漸成的図式の中で,. 思春期から青年期における心理社会的危機を「アイデンティティ対アイデンティティ拡 散・混乱」とした.Erikson(1959)によれば,アイデンティティは,各個人が青年期の. 終わりに成人としての役割を身につける準備を整えるために,成人になる以前のすべての 経験から獲得していなければならない一定の総括的な成果を意味することになる.  アイデンティティ(egoidentity:自我同一性)とは,「自分は他者と違って自分である」. という斉一性の感覚(self・sameness),および「自己はこれまでいかにして自分となって. きたのか」という連続性(continuity)ないし一貫性(consistency)の感覚である(鐘, 2002).この連続性ないし一貫性について鐘(2002)は,自分がどのように育ってきたか,. 現在が自分の過去にしっかり根ざしていることに確信がもてるかどうかの歴史的感覚であ るという.現在が過去に根ざし,過去の上に現在の自分が確実に築きあげられているとい う意識と確信は「自分」を支える重要な心理的要因である.このような確信の上に立って,. r自分」の将来が具体性を持った現実的なものとなる.しかし実際は,過去に直面する苦. 痛や恐怖から,過去とのつながりを絶とうとしたり,拒否したり,希薄なものにしたりす ることが少なくない.その結果,自己意識があいまいとなってしまう。自分が何者である のかあいまいになるに至ることがアイデンティティの拡散である(鐘,2002)..  Erikson(1959)は,過去の自己と現在の自己の連続性を確信することがアイデンティ ティすなわち自我同一性の形成であると述べている.つまり時間軸の中で,自己を統合し,. 1つの同一性に向かって統合してゆく課題を達成するのは,自我の働きであるとしている. そしてこの,同一性形成(identity formation)は,自己の見地(self・aspect)と自我の. 見地(ego・aspect)の両面を備えており,アイデンティティ形成は最初の自己是認,すな.                     1.

(4) わち乳児期における母と赤ん坊の間での微笑交換の中に見られるとし,そこに相互的な是 認と結びついた自己実現とみなすべきものがあると述べている..  鐘(2002)は,アイデンティティはライフサイクルにおける自己実現の主題として導き 出されたとし,自己実現のために,時代や文化の多様な価値の中から,実現すべき,自己 にふさわしい価値を,主体的に選択したり,新しく創造していくことがアイデンティティ 形成につながるとしている..  また彼は,アイデンティティの中核の自己意識は,思春期・青年期に突然出現するもの ではなく,乳幼児期からその萌芽が見られ,成人期,中年期,老年期と繰り返し展開され,. ライフサイクル全般の心理社会的な変容過程の危機として存在していると述べている.つ まり,青年期に限ったものではなく,ライフサイクル全般において形成し続けるものとな る..  アイデンティティに関する研究も青年期に限ったものだけではなく,成人期・中年期・. 老年期と多岐にわたって行われている.青年期以後の成人期における発達的変化の過程に. ついて岡本(1985,1986,1994:岡本・山本,1985)は一連の実証的研究を行なった. その結果として岡本(2002)は,青年期を終え成人期を迎えた人々がみな一様に獲得した わけではなく,自らのアイデンティティを間い直す岐路に立ったとき,その危機をどのよ うに認知し,対応するかによって,成人期にもアイデンティティ拡散や,社会的責任を猶. 予された時期にあるモラトリアムの状態の人々がかなりの割合で存在することを示唆して いる.このことから,青年期で獲得されるアイデンティティは,成人期でのさまざまな経. 験を経て,揺らぎながら中年期へ向かっていくものと考えられる.つまり,青年期で獲得 されようとするものの,中年期に向かう過程において変遷する可能性があり,またそのよ うに揺らぐのは,青年期でのアイデンティティが確固たるものではなく,それ自身が仮の,. 不安定なものとして存在しているのではないかと考えられる..  Erikson(1959)は,アイデンティティの拡散状態を臨床的に記述し,6つの特徴をあ げており,その1つに時問的展望の拡散がある.これは,例えば自分をまるで赤ん坊のよ.                     2.

(5) うに感じたり,逆に若さを失った老人のように感じたりすることである.何か切迫感が襲. ってきて,もう時間が足りないという感じとともに,反対に時問の経過によって自分が変 わっていくことに対する不信感と恐怖感が内在するのである.このように,いろいろな形 での時間に対する不信や混乱が見られ,将来に対する希望,つまり時間的展望が失われる という(鐘,2002)..  鐘(2002)は,自分が自分であることを定義しうる心理学的内容とは,自分自身につい ての時問的展望を持ちえることであると述べている.アイデンティティを定義しているう. ちの1つの連続性・一貫性は,自己意識が時問的な経過にもかかわらず相対的に変化しな いことを意味している.この連続性や一貫性は,将来展望としても存在しており,自己の. 存在の連続性が信頼されることによって将来に対するさまざまな展望を持つことが可能と なる(鐘,2002)..  自分の将来について考えることは,自分が自分であるという確信を持って初めてできる ことであり,これにはアイデンティティの確立が不可欠である..  鐘(2002)によれば,青年期の「自分」は,初めて自分が自分に対すると問いとして, r自分とは何者か,何者になろうとしているのか,何者になりえるのか」が始まるとして. いる.つまり,過去の自分はどうであったか,現在の自分はどうであるか,未来の自分は どうなりたいかを統合して考えることが青年期には迫られている..  また彼は,自分を歴史的にとらえなおし,これまで生きてきた自分自身の生涯に位置づ け,将来を展望することが必要であるとしている.このように,時間軸の中で自分という ものをとらえたとき,初めて将来を考え,将来展望を持つことができる..  これらのことより,アイデンティティとは過去から現在・未来へと続く時問の中で,自. 分は自分であるという確固たる自信を持つことであり,これを確立することが,時間的展 望および将来展望を持ちえることにつながると考えることができる..  ここで将来展望と述べたことは,時間的展望研究において,未来という時問を志向する 未来展望と同義とする.時間的展望,特に未来展望に関する先行研究としては以下のよう.                     3.

(6) なものがあげられる。.  白井(1985)は,小学5年生,中学2年生,高校2年生を対象とし質問紙調査法による 未来展望の発達的研究を行った.この研究によって測定された未来展望には,個人の持つ 可能性や,その個人が置かれた社会的状況も反映しているのではないかと考えられた.ま. た,小学5年生の児童期において未来志向的なのは,現在から切り離されたところの未来. をとらえて考えているからであり,中学2年生・高校2年生が現実志向的ながらも将来の ことをよく考え,未来展望の範囲が大きいのは,現在を未来と結びついたものとしてとら えているからではないかと推測している。.  白井(1989)は,現代青年が過去・現在・未来をどのようにとらえているかを文章完成 法による質問紙調査を行なった.未来について,希望と目標実現の2つの次元においてと らえられるとし,さらに希望は不安と対をなし,目標の実現は予測不可能性と対をなして おり,この2つの対によって未来展望はとらえられうるとの考えを示した..  白井(1994)はこれまでの時間的展望の研究について,過去・現在・未来を区別した上 で,それが相互にどのように関連しながら現実の行動に影響を及ぼしているのかが検討さ. れてこなかったことを指摘し,白井(1989)の結果より,現在を充実,過去を受容,未来. を希望と目標指向性の2つの側面でとらえられるとした.彼は,この4つの側面からなる 時間的展望体験尺度を作成し,大学生を対象に彼らの時間的展望を検討した。その結果,. 4つの下位尺度のうち,希望は時間的展望のどの側面とも関連し,充実感,過去受容,未. 来・希望の3つの下位尺度は相互に関連するが,目標指向性は,希望を除いた2っの下位 尺度と低い関連が見られるだけで他の側面とは異なることが示された.このことにっいて 白井(1994)は,未来を希望と目標指向性という別の側面から測定しており,また時問的 展望の各側面が相互に依存していることの反映であると説明している..  これまで時間的展望研究の中で,未来の方向が重視されてきたことは,未来に可能性が あるとの考えから基づいていると言うことができる,未来は可能性であり,それを現実化 させるのは現在である(白井,1989).現在の自分,つまり自我のレベルによって未来志.                    4.

(7) 向性も異なってくると言える..  アイデンティティと時問的展望の関連について検討した都築(1993)は,従来の研究で は時間的展望と自我同一性との関連を時間的統合の視点から検討していない点を指摘し,. 時問的統合の程度を検討する方法としてCircles Testを用い,大学生を対象にアイデン ティティとの関連について調べた.その結果,同一性達成地位は過去・未来・現在を最も 統合する状態でとらえていることが示された,また同一性達成地位は未来志向的であり,. 変化に富んだ重要なものとして未来をイメージしている点に特徴があった,逆に同一性拡 散地位は,他の地位と比較して自分の過去・現在・未来のすべてをネガティブにイメージ しており,バラバラなものとしてとらえていることが示された.このことから,自我同一. 性を達成している者は,過去の危機を経験し,それを克服して現在に至り,さらに未来も. 視野に入れていることがわかった.また同一性拡散地位は,自分の現在や未来よりも過去 を重要なものと考えていることがわかった..  杉山(1994)は,過去の自己と現在の自己の連続性を確信することが自我同一性形成の 重要な要因であり,それが達成されることによって未来に対する展望も具体性を持ち,現 実的な存在になるというErikson(1959)の見解から,大学生を対象に自我同一性レヴェ. ルによる過去・現在・未来における自己の認知について検討した。その結果,rこうなって いるであろうjという予想自己は,過去の自己,現在の自己とならんで個人の生活空間の. 中,で強い関連性を持った1本の時間軸上の自己像群として存在していた.一方,「こうな りたい」という理想自己に関しては,これらとは関連の弱い,独立した存在であった..  Shirai(1997)は,青年期と中年期における時間的指向性と自我同一性地位との関連を. 検討しところ,青年期において同一性地位は,同一性拡散地位よりもポジティブ未来指向 的であった.このことは,同一性が達成されていると未来を志向しやすいことをあらわし ているといえる..  これらの先行研究から,青年期のアイデンティティ形成が時間的展望つまり過去・現在・. 未来といった一連の時間を統合的にとらえることに大きく影響を与えていることが明らか.                    5.

(8) にされている。.  また都築(1982,1999)は,従来の時間的展望研究についての分類・整理を通じて,次 のことを明らかにした.時問的展望を発達的側面からとらえたとき,青年期においてその 変化が顕著に見られるため,青年期での発達課題を考えると,自我同一性の確立があげら れるとしている.特に大学生においては,学校から社会へという移行の時期を控えて,自 己の生き方を真剣に考えざるを得ない時期であり,それに伴って時間的展望の変化も起こ りやすくなり,長期的な時間的展望の確立が切実な課題となると言える.このため青年期 でも時間的展望の研究が多く求められるとしている。.  しかしながら,前述のとおり,時間的展望,特に将来展望において,希望は不安と対を なし,目標の実現と予測不可能性と対をなしている(白井,1991).青年期の将来展望に おいても,そこには何らかの不安が生じるものと考えられる,.  根本・中沢(1990)は,時が過ぎ行くことをふと意識した時感じる不安,つまり時間不 安を取り上げ,大学生を対象にして自我同一性との関連を検討した.その結果,自我同一 性の未確立が時間不安を高め,自我同一性の確立と最もかかわる時問不安の下位尺度は将 来の社会生活への不安であることが明らかになった..  藤井(1998)は,大学生自身が不安に気づいてなかったり,気づいても語らないことが 多かったりすることが多いという.このことから,大学生活不安尺度(藤井,1998)や就 職不安尺度(藤井,1999)を作成し,大学生の不安の構成を明らかにした.これらの尺度 は,大学生がどのような不安をどの程度抱えているかについて知るのに有効であると言え る.しかし,そのような不安を抱く大学生の状態を把握するまでには至っていない..  山本(1992)は,不安には人間的成長によりポジティブな意味を持つ成長不安と,ネガ ティブな意味を持つ抑制不安との2側面があるとし,これを検討した.その結果,青年期 では抑制不安よりも成長不安が上昇するという仮説を肯定するに至ったが,青年期のこの ような不安の上昇・低下は,アイデンティティ獲得ともなんらかの関係を持つことを示唆 しているのではないかとしている..                    6.

(9)  青年期におけるアイデンティティ形成の水準によって,将来不安や時間的展望のとらえ. 方も違うのではないだろうか,との観点に立ち,仮説としてアイデンティティ形成水準が 低ければ,将来不安が高く時間的展望を総合的にとらえられないのではないだろうかと考 えられる.逆に,アイデンティティ形成水準の高い青年は,将来不安は低く,時間的展望 も統合したものとしてとらえていると考えられる..  以上のことから,本研究では,青年期にあたる大学生が,どのようなアイデンティティ. 形成水準にあるのか,また,その水準における違いが彼らの時間的展望や将来不安とどの. ような関係にあるのかを検討することを主たる目的とした。アイデンティティ形成の測定 には,青年期がアイデンティティ獲得の時期であることを考え,従来,時間的展望研究と の関連で用いられていたステイタス法ではなく,青年期の同一性の感覚を「自己斉一性・. 連続性」「対自的同一性」「対他的同一性」「心理社会的同一性」の4次元でとらえること のできる谷(2001)の多次元自我同一性尺度を用いることとし,より明確にアイデンティ ティ形成の状態を明らかにすることにした..  本研究を実施するにあたり,まず大学生用の将来不安尺度を作成した.本研究において は,質問紙調査法により大学生を対象にアイデンティティを測定し,その形成の水準によ って3群に割り当て,時間的展望体験尺度と大学生用の将来不安尺度にその差異がどのよ うに反映されるのかといった問題を検討することとした.. 7.

(10) 予備 調 査.                   目 的  大学生用の将来不安尺度を作成し,信頼性と妥当性について検討することが,予備調査 の目的であった..                   方 法 対象:近畿圏の国立教員養成系大学および私立総合大学に在籍する大学生460名が本調査    の調査対象者として自発的に参加した。このうち回答に不備のなかった,426名が.    分析の対象となった.その内訳はTable1のとおりであった.. Table1分析対象者  大学1年生   大学2年生   大学3年生.  大学4年生.  合計. 男性  女性  男性  女性  男性  女性. 男性 女性. 男性  女性. 38. 79. 58. 96. 29. 55. 29. 42    154    272. 材料:本予備調査の目的に沿って,大学生用の不安尺度の原版が構成され,用いられた..    大学生の将来不安尺度原版の構成にあたっては,藤井(1998)の大学生活不安尺度.    より10項目,青年期における不安を二側面(成長不安・抑制不安)から検討した.    山本(1992)の不安尺度より10項目,藤井(1999)の就職不安尺度より12項目    を抽出した.項目選択の基準は,学生生活あるいは卒業後の生活において,今現在    ではなく,将来起こりうる事柄について,現段階から不安に感じることについて述.    べている項目とした.また,日常生活の中で大学生が将来に不安を抱くと考えられ    る質問項目を10項目追加した,これらの項目について,心理学を専攻する大学生3    名により項目内容が吟味され,適切な表現になるよう修正された.その結果,42の    質問項目が作成された.被調査者にはそれぞれの質問項目について4件法(「かな.                    8.

(11)    りそう思う」「少しそう思う」「あまりそう思わない」「ほとんどそう思わない」)で    回答を求めた。. 手続:大学構内で,学生,教官あるいは大学の了承を得た上で,授業終了後に調査用紙を    配布し,被調査者の自発的な回答が求められた..                 結果および考察 大学生用将来不安に関する尺度の構成.  回答を得られた426名のデータに対し,因子分析(主因子法,バリマックス回転)を実. 施した.固有値に関してはKaiserの基準を適用し,また固有値の変動状況を勘案して,7 因子解が求められた,さらに,因子負荷量が.40以下の項目や記述内容的に尺度を構成す るに値しないと判断された項目を削除し,再度因子分析を実施したところ,最終的に5因. 子32項目が得られた.この内容はTable2に示すとおりであった,  第1因子は,r9.将来行きたい会社に就職できるかどうか不安であるj r5.自分が希望し. ている会社に就職できるかどうか不安である」などの項目より,「就職不安」に関する因子 と考えられた。.  第2因子は,「35.どこかで人生に失敗するのではないかと不安を感じることがある」r19.. 将来何か恐ろしいことがおきそうな気がしてたまらない」などの項目より,「人生不安」に 関する因子と考えられた..  第3因子は,r37。留年したらどうしようと気になることがある」r29.4年間で卒業でき るかどうか,不安である」などの項目より,「学業不安」に関する因子と考えられた.  第4因子は,「31.社会人としてやっていく自信がある」「16.社会に出たらきちんとやっ. ていける自信がある」などの項目すべてを逆転項目として取り扱うことにより,r社会適応 不安jに関する因子と考えられた..  第5因子は,「26.自分に向いた職業が見つかるか不安である」「2L自分がどんな職業に 向いているのかわからず不安である」などの項目より,r職業適性不安」に関する因子と考 えられた..                    9.

(12) Table2大学生の将来不安尺度についての因子分析の結果 FI  F2   F3   F4   F5. 9将来行きたい会社に就職できるかどうか不安である. 5自分が希望している会社に就職できるかどうか不安である 17自分の希望する職につけるかどうか心配である 13もし就職できなかったらどうしようと悩むことがある. 1就職活動のことを考えると気持ちが焦る 15将来、満足の行く仕事ができるかどうか心配である 11将来、夢や理想が実現できるかどうか気がかりである. 32就職できるかどうか不安である 35どこかで人生に失敗するのではないかと不安を感じることがある 19将来何か恐ろしいことがおきそうな気がしてたまらない 38成熟した人間になるのはいつのことだろうと心配に思うことがある. 33幸せな家庭を築けるかどうか心配である 40一生一人で生きていくことを考えると不安になる. 39社会に出て仕事をきちんとやっていけるかどうか不安である 20この先結婚できるのかどうか、ふと心配になることがある. 41自分の望むことはなぜか実現しないような気がして仕方ない. 24将来、会社に入っても人間関係が不安である  8万一事故にあったり、病気をしたらどうしようと心配になることがある. 36自分は会社勤めには向いてないのではないかと悩むことがある 28会社で働くことに対して不安である 37留年したらどうしようと気になることがある. .75. 294年間で卒業できるかどうか、不安である. 。74. 18必修科目の成績のことを考えると心配になることがある. ,68.  2大学の成績のことを考えるとゆううつである. .65. 10申請した授業の単位がきちんともらえるかどうか心配である. ,63. ・31社会人としてやっていく自信がある. .78. ・16社会に出たらきちんとやっていける自信がある. ,62. ・27自分の将来が大変楽しみである. .54. *4早く社会に出てバリバリ働きたい. .44. 26自分に向いた職業が見つかるか不安である. .72. 21自分がどんな職業に向いているのかわからず不安である. ,70. 34自分が何をしたいのかわからないとふと不安になることがある. .48. 因子寄与率(%). 14.43 13.42  8.44  7.17  5.55. 累積因子寄与率(%). 14,43 27.85 36.29 43.46 49,01. 注:*は逆転項目として扱った. 10.

(13) また,下位尺度間の内部相関係数はTable3のとおりであった.. Table3 下位尺度間の内部相関係数              社会適応職業適性 就職不安人生不安学業不安                不安  不安 .51. .29. .33. .14. .40. .47. .59. 12 0 1. 就職不安 人生不安 学業不安 社会適応不安 職業適性不安. .34.  r就職不安」と「人生不安」との間(.51),「就職不安」と「職業適性不安」との問(.47),. r人生不安」とr社会適応不安」との間(.40〉,「将来不安」と「職業適性不安」の間(。59). に,それぞれ中程度の相関が見られた..  因子名や項目内容より,大学生が将来不安を感じるのは大学や就職など社会生活の場と とらえることができる,根本・中沢(1990)が,自我同一性の確立と最もかかわる時間不. 安因子が将来の社会生活への不安であるとの結果を得ていることから,ここで構成された 将来不安尺度もアイデンティティ形成との関連を知ることができるものと推測される..  また,例えば,就職不安因子において「9.将来行きたい会社に就職できるかどうか不安 である」の項目では,将来行きたい会社を自分の中でイメージすることができていること が前提となっている.また学業不安因子において,「37.留年したらどうしようと気になる. ことがある」の項目では,自分自身の現状を把握し,それによって大学生活全体がどうな るかを予想できている項目と言うことができる.ただ漠然とした不安だけにはとどまらず,. 将来の社会生活を想定した上での不安であり,将来を志向している点で意欲的なものが感 じられる,将来への不安を有していることは,将来の自分について考えることができてい ると言うことができ,将来の自己像を何らかの形で描いていると言える.つまりどのよう. な自分になりたいかという自己実現を目指すことができていると言える.これは山本 (1992)が,青年期の人間的成長や自己実現を促進する不安として定義した,成長不安を.                    11.

(14) 支持する結果と言える..  時間的な観点からとらえると,学業不安については,現在の大学生活の中における目前 の将来のことに対する不安であり,かつ,これを乗り越えることができないと,次の段階 つまり社会へ出ることができないことから来る不安とも考えることができる..  また,就職不安や職業適性不安は,就職という大学生活より次の将来を展望しての不安 であるが,将来のこととして分けて考えているのではなく,現在からつながる将来の出来 事としてとらえていると考えられる.また次の段階で,自己をいかに表現できるかという 自己実現に関する不安ととらえることもできる.これは社会適応不安にも言えることで, 社会に出て,どれだけ自己実現が可能かという不安と考えられる..  人生不安では,将来のライフイベントが多く取り上げられている.このことから,学生 生活から社会生活へ,新しいライフサイクルヘの移行に対する不安ということができる..  これらのことより,ここで構成された大学生の将来不安尺度は,現在からつながる将来 において,どのように自己実現を行なうかというところから来る不安を測定するものと考 えることができる.どのような自分になりたいかという自己実現を希求する前に,自分と は何者であるかというアイデンティティをどの程度形成しているかが重要となってくる. 信頼性の検討  信頼性を調べるために,各下位尺度についてクロンバックのα係数を求めたところ,「就 職不安」で.90,「人生不安」で.87,r学業不安」で。84,「社会適応不安」で.71,「職業適. 性不安」で.82であった.また,尺度全体については.92であった.このことは,尺度全体 として大学生の将来不安を測定する内的整合性を有するといえる.. 妥当性の検討.  基準関連妥当性を測るため,調査対象者の約半数に,日本版GHQ精神健康調査票(The Genera1HealthQuestionnaire:GHQ)(中川・大坊,1985)より「不安と不眠」(7項目),. 「社会的活動障害」(7項目)に関する14項目を抜粋し,4件法(「かなりあてはまる」「や やあてはまる」rあまりあてはまらない」「ほとんどあてはまらない」)で回答を求めた.全.                    12.

(15) 調査対象者426名のうち227名がその対象となり,不安尺度全体に関して(■ニ.49),ま たr就職不安」(■=.43),「人生不安」(r=.45),r職業適性不安」(rニ.33)に関して中程. 度の正の相関が見られた..  また残りの約半数には,自我態度スケール(EgoAptitudeScale:EAS)(日本健康心理 学研究所,1999)より,養育性(12項目),円熟性(12項目)に関する24項目を抜粋し, 4件法(「かなりあてはまる」「ややあてはまる」「あまりあてはまらない」「ほとんどあて. はまらない」)で回答を求めた.その結果,全調査対象者426名のうち219名がその対象 となり,第4因子の「社会適応不安」と弱い負の相関が見られた(■=一.27).以上の事実. から,大学生の将来不安尺度は基準関連妥当性を部分的に有しているといえる.しかしな がら,さらに他の指標との関連について検討する必要も残されている.. 大学生の将来不安についての学年差と性差.  本研究の手続きに従って得られた大学生の将来不安尺度への反応が整理された.Table4 は学年,性別ごとの全体得点および下位尺度得点の平均点と標準偏差を示したものである.. Table 4 大学生の将来不安尺度の全体得点および各下位尺度得点の平均点と標準偏差. 就職不安. Mean S.D,. 人生不安. Mean S.D.. 大学生活不安. 社会適応不安 職業適性不安 全体. Mean. 大学1年生    大学2年生. 大学3年生. 大学4年生. 男  女  男  女. 男   女. 男   女. n=38 n=79 n=58 n=96. nニ29 n=55. n=29 n=42. 22,61. 6.37 26,97. 8.04 14.00. 22,29. 5,74 28,24. 7.10. 1L94. 22,64. 5,45 26.74. 7,31 12,50. 24.27. 4.71 28.52. 7.37 11,61. 3,10. 23.00. 4,55 29.03. 6.77 12.21. 4.60. S,D,. 3.76. Mean. 9.63. S,D,. 3.09. 2.18. 2,67. 2,30. 2.25. Mean. 7,42. 7,86. 7,28. 8.41. S.D.. 2,42. 2.02. 2,47. 2.36. 3.65 10,22. 3,95 9.02. 10.17. 24.84. 5.12 29.22. 5,81 10.71. 3.69. 21,52. 6,99 28.38. 8.83 12.48. 21,69. 6.95 28,43. 8,78 9.60. 4.38. 3,56. 8.93. 9,74. 2.43. 2.97. 2,88. 8,07. 7,89. 7.66. 7,38. 2.53. 2.41. 3.16. 2.26. 8.62. 10.25. Mean. 80,63. 80,54. 78.17. 82.98. 80.93. 82.91. 78,97. 76.83. S.D.. 18.30. 15.70. 16.26. 15.32. 14.94. 13.31. 18,75. 16.97. 13.

(16)  大学生の将来不安尺度において,学年差および性差が認められるかどうかを調べるため,. 学年(4)×性(2)の2要因の分散分析を行なった.  その結果,就職不安(Fニ2.72,d伝3!418,p<.05),学業不安(F=4.41,df旨3!418,p<.05)に. おいて学年の主効果が,また学業不安(F=21.98,d伝1/418,p<。05)と社会適応不安(F=15.25,. df』1/418,p<.05)においては性の主効果が有意に見られた。有意な交互作用は見出されな かった。.  下位検定(Tukey法による多重比較:pく.05,以下同様)の結果,学年について就職不. 安では3回生>4回生,社会適応不安では1回生>3回生,1回生>4回生の関係で有意差 が見られた(不等号は有意差があることを示す,以下も同じ).性については大学生活不安 では男性が,社会適応不安では女性が有意に高かった。.  学業不安に関しては,藤井(1998)の大学生活不安尺度における日常生活不安および評 価不安の結果(男性く女性)を支持しない結果となった.藤井(1998)の尺度は広く大学. 生生活のことに関して扱っており,項目数も日常生活不安14項目,評価不安11項目と多 い.一方,大学生の将来不安尺度における学業不安は5項目と少ない.このため一概には. 比較できないが,藤井(1998)の尺度における評価不安の内容が,授業やテストといった. 評価に至るまでの過程を含んでいるのに対し,将来不安尺度では,学業成績という評価結 果のみを対象としていることに差があると考えられる.評価に至るまでの過程に対しては 女性の方が強く不安を感じ,過程ではなく結果そのものが卒業や就職などの将来に影響す るのではないかという考えから男性の方が強く不安を感じるのではないかと考えられる..  社会適応不安における性差は,項目内容から検討すると,男性では社会に出て自己実現 を行なうという自信を感じられるのに対し,女性では社会で自己実現の自信がないという. 不安の方向に働いているように感じられる.社会に出て自分を試したいという男性の自己 実現意欲に対し,女性の場合,そのような自己実現の場がないのではないか,あるいはそ のような情報が先行し,不安を高めているのではないだろうかと考えられる.また女性の ライフサイクルを考えると,今後,結婚や出産によって大きく軌道修正が迫られる可能性.                    14.

(17) もあり,そのため社会での自己実現意欲が男性よりも低いことが示されているのではない かと推測される..  学年差については,就職不安において3年生が4年生よりも高かったことは,就職活動 を終了した4年生と,就職活動を目前に控えた3年生との差であると言うことができる,  また社会適応不安については,大学生になったばかりの1年生と比べると,就職活動を. 控えた3年生,終了した4年生は,就職活動やその準備において,社会生活を現実のもの として自分に引き寄せて考えることができているのではないだろうか,また,自我の発達 が自信となってあらわれているのではないかとも考えられる..  大学卒業や就職,社会生活において将来おこりうる,向き合わなければならないライフ イベントに対して,どの程度それを目標とし,それを目指して夢や希望の実現あるいは自. 己実現に向けて将来へと歩みを進めることができるか,またこれらのライフイベントをど のくらい自分の人生に起こりえるものとして引き寄せて考えることができるかが,将来展. 望を発達させる力につながるのではないだろうか.そして,そこにはアイデンティティの 確立が大きくかかわってくると推測できる..  またアイデンティティが自己実現の主題となるならば(鐘,2002),アイデンティティ 形成が将来不安に何らかの影響を及ぼしているとも考えられる..  そこで,この結果をふまえ,本研究では,学年や性といった個人の属性ではなく,アイ. デンティティ形成水準が時間的展望および将来不安にどのように影響を及ぼしているのか を検討する.. 15.

(18) 研. 究.                   目 的  大学生のアイデンティティ形成の水準が,彼らの時間的展望や将来不安にどのように影 響を及ぼしているかを明らかにすることが本研究の目的であった..                   方 法 対象:近畿圏の国立教員養成系大学および私立大学に在籍する大学生426名が,自発的に    本研究に参加した.その内訳は,予備調査と同じであった.. 材料:本研究では,大学生のアイデンティティおよび時間的展望,将来不安を測定するた    めに以下の3尺度が用いられた。.    ①大学生のアイデンティティを測定するために,谷(2001)によって作成された多     次元自我同一性尺度(Multi・dimensionalEgo Identity Scale:MEIS)を使用し     た.本尺度は,「対自的同一性(自己についての明確さの感覚)」(5項目),「対他.     的同一性(本当の自分自身と他者から見られているであろう自分自身が一致する     感覚)」(5項目),r自己斉一性・連続性(自己の普遍性および時問的連続性の感     覚)」(5項目〉,「心理社会的同一性 (自分と社会との適応的な結びつきの感覚)」.     (5項目)の4つの下位尺度20項目で構成されている.信頼性は,内的整合性お     よび安定性の面から非常に高い値が確認されている.また妥当性も併存的妥当性,.     収束的妥当性および弁別的妥当性の構成概念的妥当性,また発達的概念からの構     成概念的妥当性も確認されている.それぞれ5件法(「かなりあてはまる」rやや     あてはまる」「どちらでもない」「あまりあてはまらない」「ほとんどあてはまらな     い」)で回答を求めた..    ②大学生の時間的展望を測定するために,白井(1994)によって作成された時間的.     展望体験尺度(Experientiα1TimePerspective Scale:ETPS)を使用した.本尺     度は「希望」(4項目),「目標指向性」(5項目),r充実感」(5項目),「過去受容」.                    16.

(19)     (4項目)の4つの下位尺度18項目で構成されている.信頼性は,内的整合性信     頼性および再検査信頼性の点から,妥当性は収束的妥当性および弁別的妥当性の.     構成概念的妥当性と併存的妥当性の点から,十分に確認されている.それぞれ4     件法(rあてはまる」「どちらかといえばあてはまる」「どちらかといえばあてはま     らない」「あてはまらない」)で回答を求めた..    ③大学生の将来不安を測定するために,予備調査で内的整合性信頼性および基準関.     連妥当性が認められた大学生用の将来不安尺度5因子32項目を使用した.「就職     不安」(8項目),「人生不安」(12項目),「学業不安」(5項目),「社会適応不安」.     (4項目),「職業適性不安」(3項目)で構成されている.回答は4件法(「かな     りそう思うj r少しそう思う」rあまりそう思わない」rほとんどそう思わない」)     で求めた.. 手続:大学構内で,学生,教官あるいは大学の了承を得た上で,授業終了後に調査用紙を    配布し,被調査者の自発的回答が求められた..                 結果および考察 青年のアイデンティティの様態.  まず,本研究で得られた青年のアイデンティティの特徴を把握するため,多次元同一性 尺度の全体得点および下位尺度得点が整理された(Table5).なお,ここでの下位尺度は 谷(2001)が質問紙作成時に得た,r自己斉一一性・連続性」r対自的同一性」r対他的同一 性」r心理社会的同一性」の4尺度の構造に従った.. 17.

(20) Table5多次元同一性尺度得点の平均値および標準偏差.   大学1年生       大学2年生       大学3年生       大学4年生  男性    女性    男性    女性    男性    女性    男性    女性. (N=38) (N=79) (N=58) (N=96〉 (N=29) (N=55) (N=29) (N=42) Mean S,D,Mean S,D,Mean S,D。Mean S,D,Mean S,D,Mean S,D,Mean S,D,Mean S,D,. 自己斉一性   17,055,0117,824,3017,224,5117,464,7917,554,8418,29 3,7619,145,7818,865,14. 対自的同一性  16,634,6415,394,3916,594,6415,094,1916,173。8015,674,5216,935,4316,554,29 対他的同一性  13,554,5115,013,8314,333,9614,714,5015,214,3615,533,1214,004,9510,674,53 心理社会的同一性16,03 3,8716,013,7617,22 3,9816,30 3,7517,72 2.7616,64 3,0918,314,2417,62 3,97. 全体      63,2615,0764,2413,1865,3613,4063,5613,8866,661L9366,1311,0168,3816,4369,6915,55.  これに基づき,学年(4)×性(2)の2要因の分散分析を行なった.その結果,対他 的同一性においては性の主効果(F=7.49,d伝1/418,p<.01)が,心理社会的同一性におい ては学年の主効果(F=3.98,df=3/418,pく.01)が見られた.Tukey法による多重比較の結果,. 対他的同一性において男く女,心理社会的同一性において大学1年生く大学4年生で有意 な関係が見られた..  男性よりも女性の方が多次元自我同一性尺度得点が高いという結果を得た対他的同一性 とは,重要な他者から認めてもらえるだろうという内的確信(Erikson,1959)である.. 重要な他者の存在とは,Erikson(1950)のいう青年期の次の段階である成人期の心理社. 会的危機であるr親密性対孤独」の点からとらえることができる.Erikson(1959)は, 自己の同一性について確信のもてない青年は人間関係の親密さからしりごみしてしまう,. 逆に自分自身についてより確実な感覚を持てば持つほど,友情や愛などさまざまな形で親 密さを持てるようになると述べている.また,青年期的愛着について取り上げ,際限のな いおしゃべりは,自分がどう感じるか,他人がどのように見えるかを告白したり,計画や願. 望や期待を話し合うことによって同一性の定義を得ようとする試みに専念すると述べてい る.他者とのかかわりや他者から認めてもらうことでアイデンティティが形成され,ひい ては親密性の獲得にもつながると考えられる.このことから考えると,女性が男性よりも. 対他的同一性が有意に高いのは,男性よりも優位に対他的同一性の面を形成し,青年期か.                    18.

(21) ら成人期に向かっているものと考えられる,.  また心理社会的同一性とは,特定の社会的現実の枠組みの中で定義されている自我へと 発達しつつあるという確信を得ること,また自我が確実な集団の中での未来に向かっての. 有効な歩みを学ぶ途上にある確信であるとErikson(1959)は述べている。心理社会的同. 一性において学年差(大学1回生く大学4回生)が見られたのは,アイデンティティ形成 において,この部分が一番大きく変化し成長することが推測される.つまり,大学に入っ. たばかりで,大学に適応することに懸命な1回生と比較すると,4回生は,大学卒業を控 え,社会に出るという将来を見据えた状況で,自分のあり方を考える力が備わってきてい. ると考えられる.またこのことから,社会との結びつきを考える中でアイデンティティは 形成され,この結びつきを考えられるということは社会へ出ることを通じて,将来展望を 持ち合わせていると言うことができる.. アイデンティティ形成の水準別に見る時間的展望と将来不安.  大学生のアイデンティティ形成の水準別に見るため,調査対象者を多次元自我同一性尺 度の総得点によって3つの群に分けた,群分けの基準は,総得点の平均値から1/2S.D.以 上得点の高い調査対象者を高得点群(H群),1/2S.D.以上得点の低い調査対象者を低得点. 群(L群),そしてこれら2群の中間得点の調査対象者を中得点群(M群)とした.各群 の平均値をTable6に示した。. Table6自我同一性尺度得点における高中低各群の平均値と標準偏差. Mean S.D..  L群.  M群.  H群. N=130. N=158. N=138. 49.58. 64.99. 80.71. 7.52. 3.77. 6.53.  H群は多次元からとらえた同一性得点を高く得ていることから,アイデンティティ達成 に向けたアイデンティティ形成高群と言うことができる.またL群は多次元的な同一性尺.                   19.

(22) 度で5割近い得点を得ているものの,アイデンティティ達成から遠いところにある形成低 群ということができる.またM群はその中間にあることから.形成中群と言える..  不安尺度の全体得点と下位尺度得点に関して,同一性水準の3群(L群,M群,H群) における平均値と標準偏差はTable7およびTable8のとおりである.. Table7 同一性水準群における時間的展望体験得点の平均値と標準偏差    同一性水準 時間的展望体験尺度. 目標指向性 希望. 現在の充実感. 過去受容 全体.   L群.   M群.   H群.  N=130.  N=158.  N=138. Mean S.D.. Mean S.D.. Mean S.D.. 10.95(2.99). 13.39(2.66). 15.54(3.02〉. 84.57*. 10.37(1.83). 12.36(2.14). 28.02*. 12.94(2.07). 15.40(2.52). 132.52*. 11.85(2.34). 13.57(2.00). 93.39*. 48.57(5.18). 56.83(6.66). 259.34*. 8.36(2.18) 10.66(2.57). 9.88(2.25) 39.85(6.49). ANOVAの自由度はいずれもdf・2/423. F値. *P〈.01. Table8 同一性水準群における将来不安尺度得点の平均値と標準偏差   L群.   M群.   H群.  Nニ130.  N=158.  Nニ138. 将来不安尺度. Mean S.D.. Mean S.D.. Mean S.D.. 就職不安. 24.66(4.88). 23.59(4.90). 2LOO(6.59). 人生不安. 32.89(6.41). 28.43(6,07). 23.50(6.75). 72.12*. 大学生活不安. 13.20(3.69). 11.70(3.52〉. 10.57(3.90). 16.92*. 社会適応不安. 11.17(2.61).    同一性水準. 職業適性不安 全体. F値. 15.9*. 9.65(2.11). 8.53(2.37). 42.1*. 9.18(1.80). 8.09(2.09). 6.24(2.36). 67.12*. 91.10(12.98〉. 81。46(12.16〉. 69.84(15.51〉. 82.54*. ANOVAの自由度はいずれもdf・2/423. 20. *P〈.01.

(23)  時間的展望体験尺度得点および将来不安尺度得点に関して多次元同一性尺度得点によっ て自我同一性水準の異なる群を独立変数とする1要因の分散分析を行なった結果,時問的 展望体験尺度およびその下位尺度,また将来不安尺度およびその下位尺度すべてにおいて,. Table7およびTable8に見られるように有意な群間差が見られた。Tukey法による多重 比較の結果, 時間的展望体験尺度およびその下位尺度においては,L群<M群<H群の関. 係で有意差が見られた.また,将来不安尺度およびその下位尺度に関しては,就職不安(L. 群>H群,M群>H群)を除く,人生不安,学業不安,社会適応不安,職業適性不安と将 来不安尺度全体において,L群>M群>H群の関係で有意差が見られた。以上のことより,. アイデンティティの低群は時間的展望を統合的にとらえにくく,将来への不安が高いこと が示され,仮説を支持する結果となった..  アイデンティティと時間的展望の関係について,都築(1993)は,アイデンティティを 同一性達成地位,権威受容地位,積極的モラトリアム地位,同一性拡散地位の4つの状態. からとらえ,同一性達成地位は,自分自身の過去,現在,未来をより統合した形でとらえ ながら,同時に未来志向的であることが示されている.一方,同一性拡散地位は,過去志 向的であり,過去イメージをネガティブなものとしてとらえたとする結果を得ている.本. 研究において,H群を同一性形成高群とし,同一性達成地位に一番近い群であるとするな らば,都築(1993)の結果を支持し,時間を統合してとらえ,将来予測される出来事に対. しても,それほど不安を感じずにいると考えられる.またL群をアイデンティティが十分. に形成されていない形成低群と考えると,この群は時間をうまく統合して考えることがで きず,また将来に対しても大きな不安を抱えていると言うことができる.しかし,ここで アイデンティティ形成低群が都築(1993)の結果が示している同一性拡散地位と言うこと. はできない.なぜならば,アイデンティティ形成低群が必ずしもアイデンティティ拡散を. 意味しているわけではないからである.アイデンティティ獲得の過程においてまだ十分に 獲得できていない,形成されていないというだけであり,それが拡散状態に陥っていると は言えないからである..                    21.

(24)  各群の得点を見ていくと,どの群も過去受容が一番高い得点率であった,全体得点の得 点率と比較しても,L群61.75%(全体55.35%),M群74.06%(全体67.46%),H群84.81%. (全体78.93%)と,約6ポイント高い値となった.同一性水準の高低にかかわらず,過 去受容の得点が高いことは,自分の過去をしっかりととらえることができていると言える,. アイデンティティ形成に必要なのは,まずは過去を受容し,過去に根ざしてから現在やそ の先の将来をとらえることだと考えることができる..  アイデンティティと将来不安の関連については,根本・中沢(1990)が,自我同一性の 未確立が時間不安を高めるという結果を得ており,自我同一性の確立と最も深くかかわる. 時間不安因子は将来の社会生活への不安であるとの結果を支持するものとなった,アイデ ンティティ形成の水準によって,水準が低いほど時間不安とくに将来の社会生活への不安. が高くなることが明らかになった.その一方で,同一性水準の得点を見ると,H群におい て各下位尺度で50%近い得点を得ており,就職不安については約65%の得点率であった.. このことは,たとえアイデンティティ形成がなされていても,将来に対してのある程度の. 不安は抱くものであり,決して将来への不安がないという状態ではないことを意味してい る。アイデンティティが獲得されたからといって不安がなくなるのではなく,アイデンテ ィティを確立することによって,人生の上で生じてくる不安や将来に対する不安にどのよ うに対処するのか,という能力が問われてくるのではないだろうか..  予備調査より大学生の将来不安は,現在からつながる将来においての自己実現の可能性 への不安であることから,アイデンティティ形成が自己実現と関連していることが推測さ. れ.Erikson(1959)・鐘(2002)の論を支持する結果となった.アイデンティティが過 去から現在・未来へと続く時間の中で,自分は自分であるという確固たる自信を持つこと から,その自信が自己実現に大きく関与していると考えられる.. 22.

(25)               総  合  考  察 考察.  本研究では,アイデンティティ形成が青年の将来展望に及ぼす影響について,アイデン ティティ形成の水準から,時間的展望および将来不安への影響について調査を行い,その 結果について検討した,.  青年の将来不安を測定するために,大学生用の将来不安尺度の作成が試みられた.因子 分析の結果,5因子32項目からなる大学生用の将来不安尺度が作成された.信頼性・妥当. 性を検討した結果.信頼性については,内的整合性信頼性が確認された.また妥当性につ いては,基準関連妥当性が部分的に確認された.下位尺度は,就職不安,人生不安,学業 不安,社会適応不安,職業適性不安と命名された.これらの尺度から,青年の将来不安は,. 漠然とした先行きの見えない不安というよりも,将来に向けての自己実現を図るための,. 意欲的な不安と考えられた.この不安は,青年期における不安が,ネガティブなものだけ でなく,人間的成長によりポジティブな意味を持つ不安を測定し,青年期の人間的成長や 自己実現を促進する不安として成長不安を定義した山本(1992)の結果を支持するものと. なった.また,どれだけ将来のことについて自分の人生を具体的にイメージできているか ということにもつながる.誰しも生きていく上で不安は抱えるものである.将来不安は自. 己の将来をイメージしているからこそ生じるものであり,そこには将来展望が大きく関わ っていると言える.このことからも青年の将来不安は,自己実現を希求する上での不安と. いうことができ,またそのような将来不安にどのように対処するかの方が,重要であると 考えられる,.  アイデンティティ形成水準が将来展望に及ぼす影響については,アイデンティティ形成 が低い段階では将来不安度は高く,また時間的展望は,過去・現在・未来といった時間を 統合的にとらえられていないことがわかった.またアイデンティティ形成が高い段階では,. 将来不安度は低く,時間的展望も統合したものとしてとらえているとの仮説を支持する結 果となった.つまり,自分は自分であるという確固たる自信を持ち合わせていることが,.                   23.

(26) 将来に向けての自己実現を希求する上での自信ともなり,過去から現在・未来へと続く時 問軸の中で,自分の存在を確認できているといえる.しかし,不安が全くないわけではな く,その不安にどのように対処するかという問題は,アイデンティティ形成の水準によっ. て変わってくるのではないかと推測される.つまり,将来不安を抱えながらどのように将 来展望意識を持ち合わせるか,アイデンティティ形成の過程において統合されてくる..  自己実現を希求する将来不安意識はアイデンティティ形成の水準に影響を受けているが これは,アイデンティティを達成することによって自己実現が可能であるとするErikson (1959)や鐘(2002)の論を支持するものとなった.自己実現のためには,自分が何者で. あるか,そしてどこへ向かおうとしているのかを自分自身が理解しておく必要があり,お. それがどれだけ意識されているかがアイデンティティの形成といえる。その形成過程にお いて,過去や現在をとらえながら,将来を志向し,時に将来不安に襲われながらも確固た る自己を発揮することによって,自己実現がなされていくと言える..  青年期のアイデンティティ形成において,鐘・人見・畑(2002)は,青年期に達しなが ら,社会が自己との関係においてとらえられず,その中にいると居心地のよい子宮のよう. な場でとらえている状態を自我の浮遊状態としてとらえ,青年のフリーターや一人旅を例 にあげ,「場所と浮遊性」r思想と浮遊性」「精神病理と浮遊性」の点から論じている..  時問軸でとらえるアイデンティティも,現在・過去・未来へと時間の中で漂うアイデン ティティをどのように方向付け,確固たる自信を持って,自己実現へと向かわせるかとい うことが青年期のアイデンティティ形成の大きな課題となってくるといえよう.. 今後の課題.  予備調査で作成した,大学生用の将来不安尺度の精度をあげることが今後の課題として 残った.妥当性が基準関連妥当性の点からのみしか検討されておらず,それも十分な妥当. 性が得られたとはいい難い.また構成概念的妥当性など,他の妥当性の面からも検討され る余地がある..  また内容的に,広く青年の将来を取り扱っているといえるかという疑問も残る.今回の.                    24.

(27) 尺度では,大学生活,就職,社会生活といった社会的な枠組みの側面と,個人の将来の夢 や希望といった個人生活の枠組みの側面とが入り混じって構成されている。.  本研究において,アイデンティティと時問的展望および将来不安の関連においては,ア イデンティティ全般の水準がどのように影響を及ぼしているかについての検討は行なった が,アイデンティティのどのような側面が,青年の時間的展望や将来不安に対して影響を. 及ぼしているかについては,分析および検討の余地を残している.本研究で使用した尺度 が,「自己斉一性」「対自的同一性」「対他的同一性」「心理社会的同一性」の構造をなして. いることから,この4側面から検討することも可能である.この4側面がどのように影響 しあい,青年のアイデンティティ形成や自己実現に影響を及ぼすかは今後の研究課題とし た.. 25.

(28) 引 用 文 献. Erikson,EH。 1950 Childhood and Society。New Ybrk:Norton&Company.  (仁科弥生 訳 1977,1980 幼児期と社会1,2 みすず書房) Erikson,E。H.1959  1(lentity and the life cycle。International Universities Press.Inc..  (小此木啓吾 訳編 1973 自我同一性 誠信書房) 藤井義久 1998 大学生活不安尺度の作成および信頼性・妥当性の検討 心理学研究,68,  441・448.. 藤井義久 1999 女子学生における就職不安に関する研究 心理学研究,70,417・420.. 中川泰彬・大坊郁夫 1985 日本版GHQ精神健康調査票 日本文化社. 根本橘夫・中沢千鶴加 1990 時間不安と自我同一性,達成動機,および自己像との関係  千葉大学教育学部研究紀要第1部,38,47・54. 日本健康心理学研究所 1999 自我態度スケール(EAS) 実務教育出版. 岡本祐子 1985 中年期の自我同一性に関する研究 教育心理学研究,33,294−306.. 岡本祐子・山本多喜司 1985 定年退職期の自我同一性に関する研究 教育心理学研究,  33, 185・194.. 岡本祐子 1986 成人期における自我同一性ステイタスの発達経路の分析 教育心理学  研究,34,352・358。. 岡本祐子 1994 成人期における自我同一性の発達過程とその要因に関する研究 風間  書房.. 岡本祐子 2002 日本におけるアイデンティティ研究の展望 鐘 幹八郎・岡本祐子・宮  下一一博 編 2002 アイデンティティ研究の展望W ナカニシヤ出版.. 白井利明 1985 児童期から青年期にかけての未来展望の発達 大阪教育大学紀要 第  IV部門,34,61・70.. 白井利明 1989 青年期・中年期の時間的展望と時間的信念の関連 心理学研究,62,.                   26.

(29)  260・263.. 白井利明 1991 青年期から中年期における時間的展望と時間的信念の関連 心理学研  究,62,260・263.. 白井利明 1994 時間的展望体験尺度の作成に関する研究 心理学研究,65,54・60.. Shirai,Toshiaki 1997 Time Orientation and Identity in Adolescence &nd  Middle Age Memoirs ofOsaka Kyoiku University,SeLIV,45,207−226。. 杉山 成 1994 時間次元における諸自己像の関連性と自我同一性レヴェル 教育心理  学研究,42,209・215.. 谷 冬彦 2001 青年期における同一性の感覚の構造一多次元自我同一性尺度(MEIS)  の作成一 教育心理学研究,49,265・273.. 鐘 幹八郎 2002 アイデンティティとライフサイクル論 ナカニシヤ出版.. 鐘 幹八郎・人見章子・畑理恵 2002 浮遊する青年とアイデンティティ形成 臨床心理  学,12,738−743.. 都築 学 1982 時間的展望に関する文献的研究 教育心理学研究,30,73・86. 都築 学 1993 大学生における自我同一性と時間的展望 教育心理学研究,41,40・48.. 都築 学 1999 大学生の時間的展望一構造モデルの心理学的検討一 中央大学出版部. 山本誠一 1992 青年期における不安の二側面に関する実証的研究 心理学研究,63,  8・15.. 27.

(30) 謝 辞.  本論文を作成するにあたり,お忙しい中ご指導くださいました,兵庫教育大学 浅川潔 司先生に,厚く御礼申し上げます.また遠藤裕乃先生,鈴木啓嗣先生には臨床活動におい てご指導賜りましたことをお礼申し上げます..  また,兵庫教育大学 渡邉 満先生,嶋崎博嗣先生,安部崇慶先生,甲南大学学生部 植. 村様には,質問紙調査票の配布に際し,多大なるご協力を賜りましたことを御礼申し上げ ます.そして,本研究に参加して下さいました,大学生の皆様にも御礼申し上げます..  その他,兵庫教育大学大学院教育臨床心理コース第3期生の皆様,浅川ゼミの院生なら びに学部生の皆様にもいろいろとお世話になりました,ありがとうございました..  この2年間,あるいは大学編入期間も含めて4年間,社会人になったはずの私が,再度 大学へ入り直し,勉強をするという,人生最大のわがままを許し,支えてくれた家族には, 感謝の気持ちでいっぱいです..  最後になりましたが,この論文を書き終え,無事修了できますことを,故 宝塚市立高 司中学校校長 中村 諭先生にご報告したいと思います..

(31)            Appendix. 多次元自我同一性尺度(谷,2001)・・・・・・・・・・・・・…. 時間的展望体験尺度(白井,1994)・・・・・・・・・・・・・…. 大学生用将来不安尺度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 日本版GHQ精神健康調査票(不安と不眠・社会的活動障害)  (中川・大坊,1985〉・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 自我態度スケール(養育性・円熟性)(日本健康心理学研究所,1999)                     o   ●   ●   ●   ●   ●   ●   ●   ●   ●   ●. −     ”n     ⋮m     拉        .W     ”皿. 1     2     3     4     5    . 6. 大学生の将来意識に関する調査・・・・・・・・・・・・・・・….

(32) Appendix1 大学生の将来意識に関する調査. 大学生の・モ来意識に する・・査.  この調査は、大学生が自分の将来について、どのような意識を持って生活をしているの かを知るために行われるものです。.  この調査票は回収後、調査者の研究の資料となり、結果は統計学的に処理いたしま す。また、この目的以外に使用されることはなく、個人の秘密は厳守いたします。  なお、ご回答なさりたくない方は、この調査票をそのままお返し下さい。.  回答いただいた調査票は一つ足りとも無駄にせず、研究に活かしていきたいと思いま す。.  ご協力よろしくお願いいたします。. あなた自身のことについてお聞かせください. 1.あなたの性別は(男・女) 2。あなたの学年は(. )回生. 3。あなたの学部は(. )学部. (調査者). 兵庫教育大学大学院教育臨床心理コース.    修士2年樋渡千恵(ひわたりちえ) 連絡先:〒673−1494加東郡社町下久米942−1.     Te1.0795−44−2117(浅川研究室).

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