• 検索結果がありません。

群馬県吉岡町大久保集落におけるかしぐねの維持管理の実態

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "群馬県吉岡町大久保集落におけるかしぐねの維持管理の実態"

Copied!
12
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

群馬県吉岡町大久保集落における

かしぐねの維持管理の実態

小手田 めぐみ・石 田 寿 信・田 中 麻 里

Actual condition of premise forest named

“Kashigune” in Ookubo, Yoshioka town, Gunma

Megumi KOTEDA, Toshinobu ISHIDA and Mari TANAKA

群馬大学教育学部紀要 芸術・技術・体育・生活科学編 第55巻 99―108頁 2020 別刷

(2)
(3)

群馬県吉岡町大久保集落における

かしぐねの維持管理の実態

小手田 めぐみ1)・石 田 寿 信2)・田 中 麻 里3) 1)吉岡町役場 2)智恵蔵設計事務所・群馬大学非常勤講師 3)群馬大学教育学部家政教育講座 (2019年9月25日受理)

Actual condition of premise forest named

“Kashigune” in Ookubo, Yoshioka town, Gunma

Megumi KOTEDA

1)

, Toshinobu ISHIDA

2)

and Mari TANAKA

3)

1)Yoshioka town hall

2)Chiezo architectural office・Part-time lecturer Gunma University 3)Department of Home Economics, Faculty of Education, Gunma University

(Accepted on September 25th, 2019)

ABSTRACT

  We can find variety of premise forest surrounding a residence in Japan. There are several places to remain the landscape harmonizing these premise forest and traditional wooden houses in Gunma. The premise forest is

called “Kashigune” in Gunma. We conducted a field survey and interview to the residents who have the Kashi-gune along the old street in Ookubo, Yoshioka town.

  We found the actual condition of Kashigune. The Kashigune is consisted of Oak wood and lined up north

of the site to prevent a fire and strong wind from the mountain. The highest one is 8 meters. Most of the resi-dents ask a private company to prune Kashigune. There are several reasons to keep Kashigune not only func-tional reasons such as preventing a fire and strong wind but also receiving inheritance and legacy from the ancestor. There are several problems to maintain Kashigune such as pruning cost and burden of cleaning up fallen leaves in the autumn. The policy to keep beautiful landscape with premise forest and wooden houses is expected by the local government. Furthermore, it is necessary that many people recognize the landscape as

pre-cious legacy in the town. It is important to have opportunities to know kashigune through education at school and outside school events.

(4)

1.はじめに

1−1 研究の背景と目的  屋敷の周りに植えられた樹木のことを屋敷林とい う。屋敷林は全国各地で見られるが、その役割や樹 種は地域によって異なる。海沿いの地域であれば防 砂、防潮としてアカマツやクロマツなどが植えられ、 強い山風が吹く地域では防風林としてカシやタケ、 サンゴジュなどが植栽され、沖縄県のように台風が 強い地域では、フクギ、チャーギ、ガジュマルなど が植えられる。地域に伝わる知恵と工夫により、そ の地域に合った屋敷林が植えられ、現代まで受け継 がれてきた。  屋敷林を意味する言葉も地域ごとに複数あり、民 家と同様に地域性が見られる。東日本大震災の際に は、いぐねと呼ばれ宮城県で見られる屋敷林は、防 砂や防風の機能だけでなく津波に対しても有効で あったことが分かっている。津波で押し寄せる流木 や漂着物が屋敷内に入るのを防ぎ、また自宅が流出 するのを防ぎ、屋敷内の土砂やものの流出を防い だ1,2)  群馬県では防風や防火のために、樫で作られた 「かしぐね」という屋敷林が発達し、今日まで養蚕 住宅とともに伝統的な景観を築いてきた。しかし、 維持管理の難しさや住宅の建て替えなどの理由によ り、減少傾向にある。かしぐねのもたらす効果は、 防風、防火、日除け、防塵、住宅の目隠しなど幅広 く、長きにわたって人々の暮らしと密接に関わって きた。  本研究では、都市化が進む中、今もなお、かしぐ ねが数多く残る吉岡町大久保集落を対象に、かしぐ ねの維持管理の実態と課題を明らかにすることを目 的とする。 1−2 既往研究  屋敷林の実態を明らかにした研究はいくつか見ら れる。不破・藤川は、明治期の831枚の銅版画をも とに関東地方における屋敷林の樹木構成パターンが、 北方系と南方系の屋敷林に分かれることを明らかに した3)。南方系は、温暖な地域で植生するソテツや ツバキ、柑橘類などが植えられ、敷地周辺に発達し た高い生垣があることが特徴であり、台風などの風 に対する備えとしている。屋敷背後林はシイノキ、 ニッケイなどの常緑広葉樹とマツが原型であり、蔵 の近くの面状樹木はほとんど見られない4)。北方系 は、季節風の防護に主眼をおき、スギを主体とする 屋敷背後林と蔵のそばに植えられる防火のためのシ ラカシの面状樹木が特徴であり、北関東で発達する 傾向を指摘している5)  安藤・小野は、沖縄県島備瀬集落におけるフクギ 屋敷林に1万8,143本のフクギが存在していること を明らかにした6)。集落景観を守るためには、観光 資源としてフクギ屋敷林を保全していく必要がある と述べている。また、沖縄県粟国島・西集落では 9,769本のフクギが存在し、最大で幹周り約270cm、 推定樹齢約350年のフクギが存在していることを明 らかにした7)。残念ながら粟国島町役場が配布して いる『粟国島観光ガイドマップ』では、フクギや屋 敷林については全く触れられていない。安藤・小野 は維持管理体制を整えるためには観光資源として保 全活用を図ることと、200年以上の歴史をかけて築 き上げた屋敷林景観の重要性を再認識すべきだと述 べている。そして、備瀬、粟国島、今泊、渡名喜島 の4集落を調査・比較し、それぞれの地域特性を明 らかにしている8)。仲里は、沖縄県のフクギ屋敷林 を対象に植栽位置と、サイズ構成を明らかにした9) そして、フクギが建築用材として伐採されたことで、 過剰防風を防ぎ、巨大化を抑えたと述べ、現在のフ クギ屋敷林を安全に維持するためには計画的な間伐 などの管理対策が必要であると指摘している。  防風効果については、沖縄民家の屋敷林を対象に 風速の減衰値などを実測した古川・山田が、屋敷林 の防風効果を明らかにしている10)。沖縄民家の屋敷 林はフクギを用いた場合、北側は樹高は9 m、間隔 は1 mで、南側は樹高は8 m、間隔は1.2mくらい で構成させると防風効果が高く、日常の涼風も取り 入れることができるという。  日射遮 効果については、梅干野・小高が富山県 砺波市の散居村の屋敷林を対象に、夏季の晴天日に おける屋外空間の表面温度を算出し、どの位置にど

(5)

れほどの高さの屋敷林があると高い日射遮 効果が 得られるのかを明らかにした11)。敷地の西側と南側 に高木が植栽されているときに日射遮 効果が最も 高い12)  屋敷林の変容については、安藤・小野が、沖縄県 中北部集落に置ける屋敷林の変化を、三時点(1945 年、1972─1974年、2003年)の航空写真の比較と 聞き取りを通して明らかにした13)。屋敷林の減少の 理由として、沖縄戦争の影響、公的理由による伐採、 私的理由による伐採の三点を挙げた。とくに、屋敷 林が急速に減少した時期は沖縄戦争後(1945年) から沖縄返還(1972年)にかけてで、沖縄戦争に おける米軍の土地収用の影響が大きかったことを述 べている。公的理由による伐採については、道路整 備や区画整備によるもので、私的理由による伐採に ついては、住宅の堅牢化や生活様式の変化などによ るものであるとし、それらの伐採の積み重ねによっ て、屋敷林の大半が姿を消したことを明らかにして いる。  青池は、古くからのかしぐねが現在でも多く残る 前橋市総社町山王地区を対象に、かしぐねの維持管 理の実態についてヒアリングをもとに明らかにし た14)。塊村である山王地区では、一人の庭師が地区 内のほとんどのかしぐねの剪定を行っている。住民 がかしぐねを維持していく意向については、積極的 な意見も消極的な意見もみられ、どちらとも言えな い意見が最も多かった。明治以前から存在する大規 模なかしぐねが現存する地区であるが、近年では伐 採が行われるようになっているため、かしぐねの維 持管理の対策として剪定費用の負担を軽減する必要 があると述べている。  吉岡町ではシラカシでできた屋敷林がほとんどだ が、植生位置や剪定などの実態は明らかになってお らず、住民のかしぐねに対する意識、維持管理の課 題を明らかにした研究は行われていない。 1−3 吉岡町大久保集落の概要  吉岡町は、群馬県のほぼ中央に位置し、北は渋川 市、東と南は前橋市、西は榛東村に隣接し、面積は 20.50km2である。町内は、上野田、下野田、小倉、 北下、南下、陣場、大久保、漆原の8つの大字から 成っている。大久保集落は吉岡町の東端にあり、か しぐねと養蚕住宅が町内で唯一まとまって残る地域 である(図1)。  江戸時代、佐渡奉行街道の宿場として栄え、かつ ては「大久保の長宿」と呼ばれたように、南北にか け長さ2 kmほどもあったと言われている。吉岡村 史によると「慶長七(1602)年三宮七日市より大久 保宿を出す」とあり、大久保の長屋は17世紀初頭 にできたとされる15)。しかし、江戸時代元文三(1738 年、高崎から渋川につながる三国街道ができると、 これまで佐渡奉行街道を通っていた荷物運送は、新 設された三国街道を通るようになった。以降、佐渡 奉行街道は三国街道の脇往還となり、衰退していっ た。調査対象地域である佐渡奉行街道周辺の土地は、 古くから三津屋、田端、久保田、上町、中町、下町、 下中町、大下町という8つの小字名に分かれており、 現在でも住民の多くが小字名を使用する(図2)。 表1 大久保集落の世帯数と人口 年 世帯 人口(人) 昭和50年(1975647 2,619 昭和60年(1985875 3,463 平成 5 年(19931,083 4,051 平成15年(20031,701 5,410 平成24年(20122,612 7,687 平成29年(20173,034 8,549 図1 養蚕住宅とかしぐね 群馬県吉岡町大久保集落におけるかしぐねの維持管理の実態 101

(6)

 近年、集落の西側では大きなバイパスが通ったこ とにより、インターチェンジや大型商業施設ができ、 住宅地の開発やアパート建設も著しく、都市化が進 んでいる。前橋市や高崎市などの市街地にもアクセ スしやすく、世帯数、人口ともに増加している(表 1)。 1−4 研究の方法  大久保集落のうち佐渡奉行街道沿いには養蚕住宅 やかしぐねが数多く残る。佐渡奉行街道に面する、 かしぐね所有住宅は全36軒見られた。そのうち調 査協力の得られた31軒の住宅でヒアリング調査を 行った16)。調査期間は2016929日(土)∼2016 年12月24日(土)である。

2.大久保集落のかしぐね

2−1 かしぐねの実態と分布   か し ぐ ね は 最 も 高 い も の で8 m、 一 辺 の 長 さ 30.6m、最も低いもので高さ2 m、一辺の長さ3.6m、 平均で高さ5 m、長さは20.7mである。北から吹き つける空っ風を防ぐための北側一列型が最も多く、 次に多かったのが北側と西側に配されるL型であ る(表2、図3)。31軒のかしぐね所有住宅のうち、 養蚕住宅が19軒、一般住宅は12軒であり、一般住 宅のうち11軒が元養蚕住宅である。一般住宅に建 て替えた後も、養蚕住宅の名残でかしぐねが残って いる。ヒアリングによると養蚕業で栄えた時代、大 久保集落のほとんどの住宅が養蚕住宅であり、蚕を 飼育するために室内の温度を一定にしなければなら ず、そのために火を使う機会が多かった。燃えやす い木造住宅を火災から守るため、かしぐねを植える 養蚕住宅が多かったという。 2−2 かしぐねの変容  かしぐねの形に変化があった住宅は31軒中22軒 ある。そのうち昭和に変化があったものが4軒、平 成に変化したものは13軒である。昭和に変化した 4軒のうち、道路の拡幅によるものが2軒(S20年代、 S30年)、住宅の建て替えによるものが1軒(S45 年)、手入れが大変だからというものが1軒(S63 年頃)である。平成以降は、13軒中9軒の住宅が 手入れが大変だからという理由でかしぐねの高さを 低くしている。時代が進むにつれ、手入れの負担を 考慮しながら、かしぐねの形を変え維持している。 表2 かしぐねの位置と住宅形態 (軒) 北 西 東 北西 北東 西南 北西東 計 養蚕住宅 9 1 1 5 2 0 1 19 一般住宅 8 1 0 1 0 1 1 12 図2 佐渡奉行街道と大久保集落

(7)

3.かしぐねの維持管理

3−1 管理方法  整然と刈り込まれたかしぐねを維持していくため には、最低でも年に1回の剪定を必要とする。剪定 方法で最も多かったものは、「業者に頼む」(22件) で、71%であった。次に多かったものが「自分また は家族が切る」(6件)で19%である。「業者に頼む」 場合のかしぐねの高さは4.5∼8 mで、「自分または 家族が切る」場合のかしぐねの高さは、3.5∼5 m であり、比較的小規模のものを自己管理していると 考えられる。また、「業者に頼む」とした22件のう ち、11件が町内にあるU造園に依頼している。  剪定の時期は、かしぐねをきれいにしてから正月 を迎えることが良いとされているため、10∼11月 頃から剪定を依頼し、ほとんどの住民が12月には 剪定を終わらせている。多くの住民が秋から冬に剪 定をしているのに対して、春に剪定を済ませる住民 もいた。秋から冬に剪定をする理由として「春に切 ると木がどんどん伸びるから、年に2回剪定をしな くちゃいけなくなる。だから木があまり生長しない 冬に切るのが良いんだ」という意見があった。一方 で、春に剪定をする理由として「12月に切る家が 多いが、それだと防風にならない。春頃に切ると、 夏に芽が吹いて冬は防風林になる」という意見が あった。  費用はかしぐねの規模、手入れの日数、職人の人 数、同時に手入れを行う庭木の有無などによって異 なるが、最も安くて1万5,000円、最も高くて24 万円、平均で9万円ほどである。また、クレーン車 など特殊な機械を使用した場合や、剪定により出た 大量の枝葉を業者が回収する場合には、別途で費用 がかかる。住民によっては、剪定で出た枝葉を畑に まいて肥料としたり、畑で燃やしたりしている。 3−2 かしぐねの剪定  かしぐねの剪定は、実際にはどのように行われる のか。業者に依頼している22件中もっとも多い11 件が依頼している町内のA造園の剪定作業を示す。 2016年12月26日(日)、大久保集落の南端に位置 図3 佐渡奉行街道と大久保集落 群馬県吉岡町大久保集落におけるかしぐねの維持管理の実態 103

(8)

するIT家で、朝8時から作業を開始し、暗くなる 17時頃に終了した。作業は時期によって異なり、 日が暮れるまで行う。  A造園には6人の男性職人がおり、この日は3人 (26歳、39歳、76歳)がかしぐね、他の3人(39歳、 40代、60代)が庭木の剪定をした。15尺(約4.5m) のはしごをかしぐねにかけ、木ばさみや剪定ばさみ (職人は羅紗ばさみと呼ぶ)、大ばさみ(刈り込みば さみ)、のこぎりといった道具を用いて剪定を行っ た(図4∼6)。  はしごの高さは5尺、10尺、15尺の3種類あり、 かしぐねが10尺のはしごよりも高い場合は、高所 作業車に乗り剪定をする。しかし、IT家のように 裏の道路が狭く作業車が入れない家では、10尺以 上の高さでもはしごだけで刈り込みをしていく。風 が吹くと切った枝葉のゴミが舞ってしまうため、か しぐねの剪定は必ず朝一番に取りかかり、午前中に 終わることが多いという。切る面積の多い北のカシ グネは、家側と道路側の両方にはしごをかけ、2人 がかりで一気に切っていく。「毎年やっていると同 図4 5.5mのかしぐねに15尺のはしごをかけて剪定 をする39歳の職人 図5 左から木ばさみ、剪定ばさみ、大ばさみ、のこ ぎり 図6 剪定の様子(9時、10時、11時)

(9)

じところで切ってるから、ばんっていう切り口がで きるんですよ。」と職人が言うように、切る場所の 目安があり、そこに えて切るようにしているため 毎年同じ高さになるという。  かしぐねを切るときは、はしごに膝をかけ、下か ら上に向かって刈り込んでいく。上まで切ったら降 りてはしごをずらし、東から西の方向へと少しずつ 場所を移動させながら切っていく。剪定の際には、 出来上がった完成形をイメージしながら、なるべく どの面も平らになるように仕上げているという。最 後にブロワーで風を飛ばし、枝葉やゴミを落として 終了となる。  地面には予めブルーシートを敷いておき、切った 枝葉やゴミをシートの上に落としていく。山積みに なった枝葉をブルーシートでくるみ、パッカー車に 詰める(図7)。トラック10台分ほどの枝葉の量で あれば、パッカー車1台に詰めきることができる。 ここで出た枝葉やゴミなどはA造園で処分するの ではなく、沼田市の民間処分場に置きに行き、処分 してもらっている。 3−3 かしぐね維持に対する居住者の意識  かしぐねを今後も維持する意向について、「維持 していく」(28件)が90%と多い一方、「切ってし まうかもしれない」(3件)も10%見られた。  維持する理由で最も多かったものは「先代から受 け継いだものだから」(11件)で35%の住民が、先 祖や亡き家族の気持ちを受け継ぎ、歴史の積み重 なったかしぐねを残したいとしている(図8)。次 に多かった「残していきたい」(5件)では、「自分 が生きている間は残したい」や「樫が枯れるまでは 残したい」という意見があった。全ての内容を見る と、精神的な要因と機能性によるものに分類できた。 また「火災よけ」と「家や蔵を守ってくれる」(と もに4件)では、「火事のことを思うと切れない」 や「かしぐねがあると蔵にひびが入りにくい」と いった意見があった。かしぐねがあることにより利 点があるため、残したいとしていることが考えられ る。精神的な要因と機能性の両方を答えた住民は3 人いた。全体的に維持することに対して積極的な住 民が多かった一方で、「残したいが子どもがいない ので、自分ではどうしようもできない」と、消極的 な理由による現状維持をする住民も1人いた。  「切ってしまうかもしれない」とした3件の理由は、 「家を建て替えるときに切ってしまうかもしれない」 が2件、「邪魔なのでいつか切りたいと思っている」 が1件であった。 3−4 維持する場合の良い点と問題点  かしぐねを維持する良い点について、多かったも のは「風よけになる」(20件)で64%であった(図 9)。次に多かったのは「火災よけになる」(14件)で、 実際に近隣で火災が起きた住宅もあり、「かしぐね があったから火が燃え移らなかった」のように、防 火効果を実感しているという回答も7件あった。  かしぐねを維持するときの問題点について、多 0 2 4 6 8 10 12 (件) 生まれたとき から当たり前 切ろうと思った ことがない 残していきたい 先代から受け継 いだものだから 風を防ぐ 目隠し 家や蔵を 守ってくれる 火災よけ 図7 パッカー車に枝葉を積む 図8 かしぐねを維持する理由 群馬県吉岡町大久保集落におけるかしぐねの維持管理の実態 105

(10)

かったものは「落ち葉の片付け」(11件)であった (図10)。樫の木は常緑樹なので常に葉が茂ってい るが、強風が吹きつける秋から冬にかけて枯れ葉が 落ちるため、その掃除に負担を感じている住民が多 い。次に多かったのは「費用」(8件)である。こ れらの負担を軽減させるために、片付けや費用に対 する方策が必要であると考えられる。 3−5 維持するために必要なこと  維持するために必要なことは何かを全員に聞いた ところ、「必要性を感じること」と「手入れをする こと」が最も多く、ともに7件みられた(図11)。「必 要性を感じること」では「防風や防火のためだと思 うこと」(4件)などの意見があり、「手入れをする こと」では「手入れをしないと残していけない」(5 件)などの意見があった。次に多かったのが「費用」 (6件)で、うち5軒の住宅は毎年の剪定費用が10 万円以上であり、高額な剪定費がかかっている。「気 持ちをもつ」(5件)では、「かしぐねに対する愛情 が必要」(2件)や「自分で守っていこうという意 思」(2件)など、かしぐねや維持に対する気持ち が必要という回答が見られた。 3−6 屋敷林を維持するための方策  カイニョという屋敷林で有名な富山県砺波市では、 散居景観保全事業の一環として、市が剪定費用の半 額を負担する補助がある。島根県出雲市では築地松 という屋敷林に、剪定費用の1/3から1/2を補助し ている。屋敷林に対して助成を行っている地域は他 にも、埼玉県久喜市、長野県松川村などがあり、前 橋市では保存樹木に指定されている屋敷林(かしぐ ねを含む)に補助がある。また、落ち葉の処理につ いて、千葉県野田市では剪定枝や落ち葉の無料回収 を市が行っており、群馬県明和町では、落ち葉によ る腐葉土作りの無料講習会を実施している。  各地で行われている補助や落ち葉などの対策が吉 岡町でもなされた場合、どのようになるのかを考え 表にまとめた(表3)。  富山県、島根県、長野県のように、屋敷林に対し て特別な枠組みがあり、剪定費用も数万円の補助が なされれば、住民にとっても維持管理の負担軽減に なる。埼玉県、東京都、群馬県を比べると、保存樹 木の指定金額に差があり、埼玉県のような金額だと 少ないと感じる住民がいるかもしれないが、反対に 東京都のような金額だと残していこうと思う住民も 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 その他 特になし 景観が良い 目隠し ゴミを防ぐ 日よけになる 火災よけになる 風よけになる (件) 邪魔 日陰になる 家に弊害が起きる 特になし 手入れが大変 費用 落ち葉の片付け 0 5 10 15 (件) 0 2 4 6 8 わからない 家とかしぐねとの適度な距離 風が吹くこと 近隣との関係 気持ちをもつ 費用 手入れをすること 必要性を感じること (件) 図9 かしぐねを維持する場合の良い点 図 10 かしぐねを維持する場合の問題点 図 11 かしぐねを維持するために必要なこと

(11)

いるのではないかと考えられる。千葉県、北海道で 行われている落ち葉・剪定枝の無料戸別回収では、 重たく数袋にもなる落ち葉をごみ捨て場まで運ぶ必 要がなく、それらが堆肥や遊歩道のチップになって 再利用されるなど、住民にも環境にも良い取り組み と考える。群馬県明和町で行われている腐葉土づく りは、自宅で手軽に腐葉土を作ることができるため、 環境にも良く、市町村の負担も少ないと考えられる。

4.まとめ

 大久保集落のかしぐねは、北側一列型が多く、大 きいもので高さ8mである。住民の多くが業者に剪 定を依頼しているが、時代の流れとともに、手入れ の負担を考慮しながら形を変え、今に至っている。 かしぐねを維持する理由については、防風、防火な どのかしぐね本来の機能性に加え、先代から受け継 いだものなどという精神的な要因がある。  かしぐねを維持する上で、費用や葉の片付けが問 題となっているが、現在吉岡町ではかしぐねに対す る施策はとられていない。今後もかしぐねを維持し ていくためには、剪定に対する助成金の導入や、剪 定枝や落ち葉の無料回収など、行政に対する働きか けも必要であると考える。  さらに、残したいという気持ちをもつことも維持 をするためには必要であることから、実際に住んで いる人がそのように感じるだけでなく、周囲の人々 も歴史と伝統のあるかしぐねの価値を理解していく ことが大切である。  小学校などにおいては地域学習を行うなかで、地 域の特徴ある景観を作り出している要素としてかし ぐねと養蚕住宅について、生活科の町探検や社会科 の学習時に学ぶことも有効と考える。広く認知され るために、広報などで吉岡町のかしぐねの効果や保 全の必要性をアピールすることも有効であると考え る。リーフレットを作成し、まち歩きにを行うこと で多くの人々に大久保集落のかしぐねが作り出す景 観を見てもらい、その町並みがもつ雰囲気を感じて もらうなど学校以外での住教育も重要と考える。 脚注 1)今西純一(2012)「用と美を兼ね備えた景観―白砂青松 の 海 岸 林 と 平 野 の 屋 敷 林 ―」『 建 築 雑 誌 』Vol.127, No.1631,pp.22-23,日本建築学会 2)氏家深志・馬場弘樹・大澤啓志・石川幹子(2013)仙台 平野における居久根の塩害被害と防災機能に関する研究― 宮城県岩沼市玉浦三軒茶屋地区を事例として―、日本都市 計画学会都市計画論文集,Vol.48,No.1,pp.100-109 3)不破正仁・藤川昌樹(2009)「明治期の関東地方におけ る屋敷林の樹木構成パターンとその分布―銅版画分析をも と に し て ―」 日 本 建 築 学 会 計 画 系 論 文 集,Vol.74, No.638,pp.855-862 4)不破正仁・藤川晶樹(2010)「千葉県夷隅地域における 南方系屋敷林の原型とその変容実態―明治期銅版画と現状 との比較分析に基づいて―」日本建築学会計画系論文集, Vol.75,No.650,pp.821-828 表3 各自治体の屋敷林に対する助成と吉岡町での適応 地域 行われている補助・対策 吉岡町 例または備考 富山県砺波市 屋敷林の剪定金額の1/2補助 ◎ 9万円→45,000円 島根県出雲市 屋敷林の剪定金額の1/3補助 ◎ 9万円→6万円 長野県松川村 屋敷林の剪定補助(限度額4万円) ◎ 9万円→5万円 埼玉県久喜市 保存樹木の指定 △ 1本につき年間1,800円 東京都武蔵野市 保存樹木の指定 ◎ 1本につき年間6,000円 群馬県前橋市 保存樹木の指定 ○ 1本につき年間3,000円 千葉県野田市 落ち葉・剪定枝の無料戸別回収 ◎ 落ち葉や枝葉のごみ処理が楽になる 北海道旭川市 落ち葉・剪定枝の無料戸別回収 ◎ 落ち葉や枝葉のごみ処理が楽になる 群馬県明和町 腐葉土づくり ◎ 自宅で手軽にでき、市町村の負担も少ない 群馬県吉岡町大久保集落におけるかしぐねの維持管理の実態 107

(12)

5)不破正仁・藤川晶樹(2011)「栃木県都賀地域における 北方系屋敷林の原型とその変容実態―明治期銅版画と現状 との比較分析に基づいて―」日本建築学会計画系論文集, Vol.76,No.666,pp1407-1414 6)安藤徹哉・小野啓子(2008)「沖縄島本部町備瀬集落に おける福木屋敷林の実態」日本建築学会計画系論文集, Vol.73,No.630,pp.1729-1733 7)安藤徹哉・小野啓子・凌敏・廣岡周平(2010)「沖縄島 粟国島における福木屋敷林の実態」日本建築学会計画系論 文集,Vol.75,No.649,pp.603-608 81)安藤徹哉・小野啓子・凌敏(2010)「沖縄島およびその 近海離島における福木屋敷林の地域特性」日本建築学会計 画系論文集,Vol.75,No.657,pp.2589-2597 9)仲里長浩(2010)「沖縄県に現存する福木屋敷林の巨大 化の現状と木材資源としてのフクギの利用との関係」日本 建築学会計画系論文集,Vol.76,No.665,pp.1259-1265 10)古川修文・山田水城(1997)「沖縄民家の屋敷林の形態 と防風効果―屋敷林の居住環境に関する科学的評価法の研 究  そ の1―」 日 本 建 築 学 会 計 画 系 論 文 集,Vol.62, No.494,pp.105-112 11)梅干野晃・小高典子(2010)「砺波散居の屋敷林を対象 とした熱収支数値シミュレーションによる日射遮 効果の 解 析 」 日 本 建 築 学 会 計 画 系 論 文 集,Vol.75,No.647, pp.95-103 12)梅干野晃・小高典子(2011)「屋敷林を有する砺波散居 に形成される夏季の微気候に関する実験調査研究」日本建 築学会計画系論文集,Vol.76,No.659,pp.75-81 13)安藤徹哉・小野啓子(2008)「沖縄県中北部集落におけ る屋敷林の変化に関する研究―三時点(1945,1972-74, 2003)の航空写真の比較と聞き取りを通して―」日本建築 学会計画系論文集,Vol.73,No.630,pp.1723-1728 14)青池恵梨(2009)「前橋市総社町山王における屋敷林(か しぐね)の維持管理に関する研究」群馬大学教育学部卒業 論文 15)吉岡村教育委員会(1980)『吉岡村史』p.1020 16)全 36 軒の住宅のうち、拒否 2 軒、留守 2 軒、空き家 1 軒であった。 謝辞  現地調査にあたり、漆原造園土木の皆様、大久保集落の住 民の方々には、快く調査に応じていただき、深く感謝申し上 げます。

参照

関連したドキュメント

森 狙仙は猿を描かせれば右に出るものが ないといわれ、当時大人気のアーティス トでした。母猿は滝の姿を見ながら、顔に

て当期の損金の額に算入することができるか否かなどが争われた事件におい

熱が異品である場合(?)それの働きがあるから展体性にとっては遅充の破壊があることに基づいて妥当とさ  

2 環境保全の見地からより遮音効果のあるアーチ形、もしくは高さのある遮音効果のある

都調査において、稲わら等のバイオ燃焼については、検出された元素数が少なか

 講義後の時点において、性感染症に対する知識をもっと早く習得しておきたかったと思うか、その場

一方、高額療養費の見直しによる患者負 担の軽減に関しては、予算の確保が難しい ことから当初の予定から大幅に縮小され