中等英語教育における、米国文学とジェンダー・セ
クシュアリティ : 高等教育での教材選定と模擬授
業を通して
著者
千代田 夏夫
雑誌名
鹿児島大学教育学部教育実践研究紀要
巻
24
ページ
103-118
別言語のタイトル
American literature, gender and sexuality in
English education at junior high school :
selecting literary works and simulating
classes
BulletinoftheEducationalResearchandDevelopment,FacultyofEducation,KagoshimaUniversity 2015,Vbl.24,103-118`
中等 英語教 育 にお ける、米 国文 学 と ジェ ンダ ー ・セ ク シュア リテ ィ
ー 高 等 教 育 で の 教 材 選 定 と模 擬 授 業 を通 して
千 代 田 夏 夫[鹿 児 島 大 学 教 育 学 部(英 語 教 育)] Americanliterature,genderandsexualityinEnglisheducationatjuniorhighschool: Selectingliteraryworksandsimulatingclasses CHIYODANatsuo キ ー ワ ー ド:英 語 教 育 、 ア メ リ カ 文 学 、 中 等 ・高 等 教 育 、 教 材 、 ジ ェ ン ダ ー ・セ ク シ ュ ア リ テ ィ・は じめ に
本 稿 は2014年
度 前 期 に鹿 児 島大 学 教 育 学 部 ・
法文 学 部共 通 科 目 と して 開講 され た 「
英語 科 指導
法II(英 米 文学)」(半 期完 了)の レヴューを もとに、
中等 教 育 にお け る英 語科 教材 と して の米 国文 学 の
可能 性 を探 る もので あ る。 昨年 度 開講 の 同授 業 に
つ いて も拙稿1を記 したが、本年度 は 「
ジェ ンダー ・
セ ク シュ ア リテ ィ」 の視 座 を加 え 、そ の枠 組 み の
中 で学 生諸 氏 に動 いて も らった 点 が大 き な特徴 で
あ る。 高等 教 育 にお け る文学 作 品 の教 材 と して の
可 能性 につ いて は多 くの先 行研 究 が見 られ る が 、
中等 教 育 にお け る英 語教 材 として ア メ リカ文 学作
品 を導 入す る こと ある いはそ の可能 性 を議 論 す る
高等教育 につ いて の先行研 究は ほとん ど見 られ ない。
しか しそ の 中で大 学 学部 教育 す な わ ち高等 教 育 内
に お け る 、 後 期 中等 教 育 す な わ ち 高 等 学 校 教 育 に お け る ア メ リ カ 短 編 小 説 の 導 入 を め ぐ る 関 戸 の 論 考 は 注 目 に 値 す る2。 本 授 業 は 現 行 の 『中 学 校 学 習 指 導 要 領 』(平 成 20年3月 告 示 平 成23年4月 全 面 実 施)3に 拠 る 中 学3年 生 の 英 語 の 授 業 を想 定 し 、 教 材 選 定 お よ び 模 擬 授 業 の 実 行 を基 本 とす る も の で あ る が 、 想 定 さ れ る14-5歳 の 、 現 代 日本 社 会 の 強 制 的 異 性 愛 主 義 下 な い し ホ モ ソ ー シ ア リ テ ィ 下 に お け る 性 の 面 で の 「ゆ ら ぎ 」 に 鑑 み 、 ジ ェ ン ダ ー ・セ ク シ ュ ア リ テ ィ の テ ー マ を 設 定 した 。 現 代 日本 社 会 に お け る 特 に10代 の 「性 的 マ イ ノ リ テ ィ 」 を め ぐ る 状 況 は 劣 悪 と い っ て よ い も の で あ り、 正 し い 知 識 に 基 づ く偏 見 の 払 拭 が 一 日 も 早 く望 ま れ る4。 『厚 生 労 働 省 科 学 研 究 費 補 助 金 エ イ ズ 対 策 研 究 推 進 事 1拙 稿 「中 学 校 英 語 教 育 教 材 と し て の 米 国 文 学 作 品 一 大 学 学 部 教 育 に お け る テ ク ス ト選 定 作 業 を 中 心 に 一 」 『鹿 児 島 大 学 教 育 学 部 教 育 実 践 紀 要 』 第23巻 、95-102。 2関 戸 冬 彦 「英 語 教 育 実 践 報 告 短 編 小 説 を用 い て 教 室 を よ り活 性 化 さ せ る 実 践 事 例 研 究 」 『濁 協 大 学 国 際 教 養 学 部 言 語 文 化 学 科 紀 要 マ テ シ ス 』 第16巻 第1号2014年11月 、75-96。2013年 度 日本 英 文 学 会 関 東 支 部 第7回 大 会(2013 年6月22日 於 明 治 大 学 駿 河 台 キ ャ ン パ ス タ ワ ー)に お け る 土 屋 結 城 ・伊 澤 高 志 「英 語 教 育 に お け る 「文 学 」New Hrizonを 読 む 「行 為 か らの 一 考 察 」 も 「中 学 校 で の シ ェ ア33.2%で6社 中 ト ッ プ 」 で あ る 中 学 校 向 け の 検 定 教 科 書 NewHrizonを 代 表 例 と し た 貴 重 な 研 究 で あ る 。 「日本 英 文 学 会 『第86回 大 会Proceedings』,169-70。 3文 部 科 学 省 『中 学 校 学 習 指 導 要 領 平 成20年3月 告 示 平 成22年11月 一 部 改 正 』(東 山 書 房 、2011)。 4NHKオ ン ラ イ ン が2008年 に 掲 載 し た 平 田 俊 明 「同 性 愛 者 の 自 殺 に つ い て 考 え る(1)∼(4)」 参 照。 http://www.nhkorjp/heart-net/mukiau/shirou3.htm12014/9/21ア クセ ス 。 精 神 科 医 の 平 田 は 、 「同性 愛 者 の 自 殺 念 慮(自 殺 を 考 え た こ と が あ る)、 自殺 企 画(実 際 に 自殺 を 企 画 し 、 図 る こ と)の 確 率 の 高 さ に つ い て 欧 米 で は 各 種 調 査 で 頻 繁 に 取 り上 げ ら れ 問 題 視 さ れ て い る が 、 日 本 国 内 で は そ の こ と に言 及 さ れ て い る 公 の 文 言 を 見 か け る こ と は ほ と ん ど な い こ と 、 日本 の 政 府 は 自 殺 防 止 の 法 案 も作 っ て い る が 、 そ こ に 『性 的 マ イ ノ リテ ィ ー 』 の こ と が 含 ま れ て い な い こ と 」 を 述 べ 、 「欧 米 の 調 査 で は 、 同 性 愛 者 の 自殺 企 画 率 が そ う で は な い 人 と 比 べ て 数 倍 高 い と い う 結 果 が く り返 し報 告 さ れ て お り、 過 去20年 間 の 文 献 を レ ビ ュ ー し た 結 果 、(米 国 の 高 校 生 全 体 の 自 殺 企 画 率 が7∼13%程 度 と推 定 さ れ る の に 対 し)思 春 期 のLGBの 自殺 企 画 率 に つ い て は 一 貫 し て20∼40%程 度 の 数 値 が 報 告 さ れ て い る と 、 あ る 米 国 の 文 献 で 述 べ られ て い る 。 日 本 で も 、LGBT(レ ズ ビ ア ン 、 ゲ イ 、 バ イ セ ク シ ュ ア ル 、 トラ ン ス ジ ェ ン ダ ー)の 自殺 念 慮 や 自 殺 未 遂 に つ い て は 研 究 調 査 の 結 果 が あ り 、 そ れ を 見 る と 欧 米 同 様 に 日 本 も 深 刻 な 状 況 に あ る こ と が わ か る 」 と 論 じ る 。業 ゲ イ ・バ イ セ ク シ ュ ア ル 男 性 の 健 康 レポ ー ト2』 (こ の よ う な タ イ トル 自 体 、 ゲ イ ・バ イ セ ク シ ュ ア ル と エ イ ズ ・HIVを 直 結 させ る 偏 見 を助 長 す る も の で は あ る こ と を 付 記 し て お く)で は イ ン タ ー ネ ッ ト調 査"ResearchOnline2005"に お い て 約 6,000人 の 回 答 者 か ら5,731人(男 性 対 象 、 平 均 年 齢30・8歳 、 年 齢 構 成 は10代6・5%、20代42・ 4%、30代35・5%、40代11・4%、50代 以 上3・ 6%)の 有 効 回 答 を 得 、 様 々 な 設 問 と解 答 が 掲 載 さ れ て い るが 、 「教 育 に 願 う こ と」 の設 問 で は 、 「小 、 中 、 高 の 性 教 育 で 同 性 愛 に つ い て き ち ん と 扱 うべ き だ と思 う 」 「男 の 子 と 女 の 子 が 恋 愛 を す る の が 当 た り前 、 と い う教 育 の在 り方 で は 、 いつ ま で た っ て も 一 般 の 人 か らは ゲ イ は 宇 宙 人 の よ う な 存 在 の ま ま だ と 思 う 」 「学 校 に 通 う 時 期 と 思 春 期 と は 重 な る 部 分 が 多 い 。 自 分 が 性 的 指 向 を 自 覚 した 時 に 周 囲 は ヘ テ ロ の 人 間 で 溢 れ て お り 、 そ の 環 境 で 生 み 出 さ れ た 疎 外 感 に い ま で も 苛 ま れ て い る 」 「人 生 初 期 の 学 校 教 育 か ら性 の 多 様 性 を 教 え る こ とで 、 マ イ ノ リ テ ィ に と っ て は 社 会 の 抑 圧 を 軽 減 す る こ と に な り 、 よ り よ い 人 生 を進 む 糸 口 と して 機 能 す る だ ろ う 」 「同 性 に 惹 か れ る 存 在 も あ る こ と 、 そ う い う 指 向 の 人 で も 人 間 的 価 値 は 同 じ で あ る こ と を 初 中 等 教 育 を 通 じて 広 め て ほ し い 」 「同 性 愛 に 悩 み か つ て 学 校 で 匿 名 の 相 談 を し た が 苦 い 経 験 と な っ た 。 現 在 の 学 校 の 性 教 育 で 同 性 愛 に つ い て カ リキ ュ ラ ム に 入 っ て い る こ と を願 う 」 等 の 回 答 が 見 られ た(24)5。 「強 制 的 異 性 愛 」6 「ホ モ ソ ー シ ア リテ ィ 」7等の 基 本 用 語 に つ い て の 教 授 は 、 全 国 的 に見 て も大 学 学 部 生 向 け の 高 等 教 育 にお い て 、 ま だ ほ とん ど 為 さ れ て い な い 点 か ら、 本 授 業 は 中 学 生 向 け の 講 義 を 想 定 し つ つ 、 高 等 教 育 に お け る ジ ェ ン ダー ・セ ク シ ュ ア リテ ィ、 クイ ア ・ ス タ デ ィ ー ズ の 面 を 持 つ 意 義 も大 き く有 す る こ と とな っ た 。 な お 本 授 業 は 学 部2年 生 か ら4年 生 ま で が 受 講 し た が 、 受 講 者 全 員 が 学 問 領 域 と して の ジ ェ ン ダ ー ・セ ク シ ュ ア リテ ィ 研 究 、 ク イ ア ・ス タ デ ー ズ 以 前 の フ ェ ミ ニ ズ ム 関 係 の 授 業 の 受 講 経 験 が な く、 上 記 の 基 本 的 タ ー ム に つ い て も初 め て 知 る と い う 次 第 で あ っ た 。 今 後 の 中 ・高 等 教 育 に お け る これ ら の 分 野 の 更 な る 展 開 、 開 講 が 強 く 望 ま れ る8。 1.英 語 教 育 教 材 と し て の 文 学 作 品 の 意 義 昨 今 、 実 用 的 英 語 の 学 習 と修 得 の の ち の 文 学 と い う、 「応 用 」 と い う理 解 が 往 々 に して 聞 か れ る が 、 両 者 は 不 可 分 の も の で あ り、 ヘ ミ ン グ ウ ェ イ 短 編 を 英 語 教 育 教 材 に用 い る 理 由 と し てPavloskaが 自 身 の 四 半 世 紀 に渡 る 日本 で の 教 育 経 験 に照 ら し て 、 「文 学 は 初 級 レベ ル を 超 え た 学 生 に と っ て 、 最 上 の イ ン プ ッ トと な る 」 「(日本 人 学 生)が 文 化 的 象 徴 と し て ヘ ミ ン グ ウ ェ イ に 親 し ん で い る か ら」 と 5「 ゲ イ ・バ イ セ ク シ ュ ア ル 男 性 を対 象 と し て 、2005年 、 京 都 大 学 大 学 院 医 学 研 究 科 の 日 高 康 晴 氏(当 時 。 現 在 は 関 西 看 護 医 療 大 学 講 師)ら が 国 の 補 助 を 受 け て イ ン タ ー ネ ッ ト ・ホ ー ム ペ ー ジ 上 で 行 っ た ア ン ケ ー ト調 査(2005年8月 ∼11月 調 査 実 施)に よ る と、 約6,000人 が 回 答 し た う ち 、3人 に2人 が こ れ ま で に 自殺 を考 え た こ と が あ り、14%は 実 際 に 自殺 未 遂 の 経 験 が あ る と の 結 果 が 出 た(有 効 回 答 数5,731)。 こ の割 合 は1999年 調 査 実 施(有 効 回 答 数1,025) と ほ ぼ 同 率 で あ っ た 」 日高 庸 晴 ・木 村 博 和 ・市 川 誠 一 『厚 生 労 働 科 学 研 究 費 補 助 金 エ イ ズ 対 策 研 究 推 進 事 業 ゲ イ ・ バ イ セ ク シ ュ ア ル 男 性 の 健 康 レ ポ ー ト2厚 生 労 働 省 エ イ ズ 対 策 事 業 「男 性 同 性 間 のHIV感 染 対 策 と そ の 評 価 に 関 す る研 究 」 成 果 報 告 』http:〃www.j-msmcom/report/reportO2/reportO2 _all.pdf2014/9/21ア ク セ ス 。 6異1生 愛 の み を 正 常 とす る 近 代 社 会 の 抑 圧 を示 す この 語 は、1978年 ア ド リエ ン ヌ ・リ ッチ の 使 用 に よ っ て 広 く用 い られ る こ と とな っ た 。AdrienneRich"CompulsoryHeterosexualityandLesbianExistence"inBlood,Bread,andPoetry:Selected Prose(NewYork:W.W.Norton&Company,1994),23-75. 7「 ホ モ ソ ー シ ア ル(homosocial)」 の 語 ・概 念 は セ ジ ウ ィ ッ ク の1985年 の 著 作BetweenMenに よ っ て 本 格 的 に 用 い られ る こ と と な っ た 。 セ ジ ウ ィ ッ ク 自 身 は そ れ 以 前 か ら も 「歴 史 と 社 会 科 学 の 分 野 で 時 折 」 用 い られ て い た 用 語 で あ る と 説 明 す る が(1)、 今 日 の 社 会 分 析 に 欠 か せ な い も の と な っ た の は セ ジ ウ ィ ッ ク の 当 該 著 作 に よ る と こ ろ が 大 で あ る 。Eve KosofskySedgewick,BetweenMen:EnglishLiteratureandMaleHomosocialDesire(NewYork:ColumbiaUniversityPress, 1985). 8最 近 の 研 究 成 果 と して 眞 野 豊 「学 校 教 育 と ク イ ア ネ ス 」 「第 七 回 地 球 社 会 統 合 科 学 セ ミナ ー 多 様 性 共 存 の 可 能 性 ジ ェ ン ダ ー ・セ ク シ ュ ア リテ ィ ・ク イ ア の 観 点 か ら」2014年7月25日(主 催:九 州 大 学 大 学 院 地 球 社 会 統 合 科 学 府)於 九 州 大 学 伊 都 地 区 稲 盛 財 団 祈 念 館1階 稲 盛 ホ ー ル 。
述 べ る よ う に 、 文 化 の 一 側 面 を 学 ぶ 教 材 と し て の 文 学 の 意 義 も 大 き い9。 奥 村 の 「文 学 作 品 を読 む こ と は 、 そ の 国 の 文 化 的 、 歴 史 的 背 景 を 知 っ た り 、 そ の 言 語 を 豊 か に 彩 る 言 い ま わ しや 表 現 を 学 ん だ りす る の に 適 して い る だ け で な く 、 ホ ー ル 他 が 指 摘 す る よ う に 、 い っ た ん 物 語 に の め り込 む と 、 学 習 者 の 自発 的 な 学 習 を 引 き だ す と い う 点 で 非 常 に 効 果 的 」(傍 点 筆 者)と の 指 摘 も 重 要 で あ る10。 拙 稿 に 示 し た よ う に 、 そ の 人 々 の 暮 ら し の 基 盤 に あ る 宗 教 へ の 学 習 理 解 等 の 好 機 と も な る11。 ま た 文 学 学 習/研 究 は 情 操 教 育 即 ち 想 像 力 の 酒 養 と い う 面 も 大 き く有 す る 。 そ れ は 昨 今 の(英 語)教 育 に お け る キ ー タ ー ム 、 「実 践 的 英 語 」 と 「グ ロ ー バ ル 化 対 応 」 と は 表 裏 一 体 の も の で あ る と 言 え よ う 。 2013年12月13日 に 発 表 さ れ た 文 部 科 学 省 に よ る 計7頁 か ら 成 る 「グ ロ ー バ ル 化 に 対 応 した 英 語 教 育 改 革 実 施 計 画 」12にお い て は 、(案)と し て 中 学 校 で は 「授 業 は 英 語 で 行 う こ と を 基 本 と し 」(3) 「2014年 度 か ら指 導 体 制 整 備 を 強 力 に 推 進 」(5)と あ る 一 方 で 、 最 終 頁 の7頁 を 全 て 割 い て 「日 本 人 と して の ア イ デ ン テ ィ テ ィ に 関 す る 教 育 の 充 実 に つ い て 」 に お い て 国 語 教 育 に お け る 「古 典 に 関 す る 指 導 を 重 視 」 「文 学 教 材 の 充 実 」(7)等 が 記 載 さ れ る 。 こ の よ う に あ る 国 の ア イ デ ン テ ィ テ ィ の 根 底 に は文 学 の存 在 が 大 き い の で あ り、 な れ ば グ ロー バ ル 化 に 必 須 と さ れ る 英 語 とそ れ に 基 づ く相 互 理 解 に お い て 、 相 手 国 の 文 学 も ま た 同 じ だ け の 重 要 性 を 有 す る と考 え ら れ る の で あ る13。 上 記 計 画 の 冒 頭 に は 「高 校 卒 業 段 階 で 英 検2級 ∼ 準1級 、 TOEFLiBT57点 程 度 以 上 等 」 「外 部 検 定 試 験 を 活 用 し て 生 徒 の 英 語 力 を 検 証 す る と と も に 、 大 学 入 試 に お い て も4技 能 を 測 定 可 能 な 英 検 、TOEFL 等 の 資 格 ・献 呈 試 験 等 の 活 用 の 普 及 ・拡 大 」(1)の 記 載 が あ る が 、 英 語 能 力 は 日 本 語 能 力 同 様 、 こ の よ う な 外 部 試 験 に基 づ く テ ク ニ カ ル な 実 践 的 ア プ ロ ー チ の み に よ っ て 養 成 さ れ る も の で は な い だ ろ う14。 真 の 意 味 で の 「グ ロ ー バ ル 化 」 を 目指 す 英 語 教 育 の た め に 、 ジ ェ ン ダ ー ・セ ク シ ュ ア リテ ィ 研 究 、 ク イ ア ・ス タ デ ー ズ 、race,class,gender15に 代 表 され る 「多 様 性 」 へ の 理 解 と寛 容 と い うテ ー マ に お い て 、 文 学 は こ れ ら の テ ー マ ・分 野 を 総 合 的 に学 ぶ 最 適 な 切 り 口 と考 え られ る の で あ る 。 本 授 業 は 内 容 の 性 格 上 演 習 に 近 い も の で あ り、 模 擬 授 業 が い わ ば 通 常 授 業 の 「発 表 一プ レゼ ン テ ー シ ョ ン 」 と な る 。 し か し 一 回 の 講 義90分 内 で2 グ ル ー プ の 発 表 と い う 授 業 計 画 の 中 、 中 学 校 の 授 業 一 時 限50分 と い う 枠 を そ の ま ま 使 う こ と は 不 可 能 で あ る の で 、 模 擬 授 業 を 行 い つ つ 適 宜 短 縮 化 す る と い う 、 融 通 性 が 求 め ら れ る 。 自 らが 受 講 生 で あ る 大 学 の 授 業(高 等 教 育)と 自 らが 指 導 者 の 立 場 に立 つ 中 学 校 の 授 業(中 等 教 育)が 、 複 数 の 次 元 で 交 錯 す る 「二 重 性 」 に つ い て は 昨 年 度 も 指 摘 し た と こ ろ で あ る が 、 これ は 受 講 者 は も ち ろ ん 筆 者 す な わ ち 大 学 に お い て こ の よ う な 授 業 を 開 講 す る 者 の 高 い マ ネ ー ジ メ ン ト能 力 も 求 め ら れ る こ と を 自戒 と と も に最 初 に 強 調 し て お き た い 。 上 述 の テ ー マ の も と の ワ ー ク シ ー ト課 題 は 必 然 的 に 「恋 愛 」 につ い て 少 な か らず 個 人 的 な 面 を 表 現 す る こ 9SusannaPavloska「 ヘ ミ ン グ ウ ェ イ の 短 編 を 用 い た ラ ジ オ プ レイ の 試 み 」 吉 村 俊 子 ・安 田優 他 編 著 『文 学 教 材 実 践 ハ ン ドブ ッ ク ー 英 語 教 育 を 活 性 化 す る 一 』(英 宝 社 、2013)、162-165。 10奥 村 真 紀 「味 読 の 楽 しみ 一 英 文 学 作 品 の 言 書 を使 っ た 精 読 」 『文 学 教 材 実 践 ハ ン ドブ ッ ク 』、25。 110 .ヘ ン リー 「賢 者 の 贈 り 物 」 に お け る 「ク リ ス マ ス 」 の 日 米 の 意 義 の 相 違 を 参 照 、 拙 稿101-2。 江 藤 は ミ ル ト ン (JohnMilton,1608-1674)の 『失 楽 園 』(ParadiseLost,1674)を 通 じて キ リ ス ト教 文 化 を 学 ぶ 実 践 報 告 を 行 っ て い る 。 「ミ ル トン の 『失 楽 園 』 で 学 ぶ キ リ ス ト教 文 化 一 単 語 に 込 め られ た 意 味 を 知 る 」 『文 学 教 材 実 践 ハ ン ドブ ッ ク 』、102-105。 12文 部 科 学 省 ホ ー ム ペ ー ジhttp://www .mext.go.jp/b _menu/houdou/25/12/_icsFiles/afieldfile/2013/12/17/1342458_01_1.pdf 2014/9/18ア ク セ ス 。 13英 語 教 育 に お け る 文 学 教 材 の 重 要 性 を 説 く最 近 の 議 論 と して 、 柳 瀬 洋 祐 ・和 田 玲 ・関 戸 冬 彦 ・中 垣 恒 太 郎 ・鈴 木 章 能 「文 学 指 導 は 学 習 者 を ど の よ う に 動 機 づ け る か 」、 「語 学 教 育Expo2014外 国 語 学 習 に 対 す る 適 切 な 動 機 づ け を 目指 し て 」 プ ロ シ ー デ ィ ン グ ズ72-6、2014.本 資 料 に 関 し て 関 戸 冬 彦 氏 よ り教 示 を 受 け た 、 記 して 謝 す 。 14カ ー ト ・ヴ ォ ネ ガ ッ トJr .(KurtVonnegutJr.,1922-2007)の 「永 遠 へ の 長 い 散 歩 」("LongWalktoForever,"1960)は 高 校 の 検 定 教 科 書Prominencellに 収 録 さ れ て い る 。 関 戸 、5。 15貴 堂 は こ れ に エ ス ニ シ テ ィ を 加 え る 。 貴 堂 嘉 之 「歴 史 の な か の 人 種 ・エ ス ニ シ テ ィ ・階 級 」 有 賀 夏 紀 ・紀 平 英 作 ・油 井 大 三 郎 編 『ア メ リ カ 史 研 究 入 門 』(山 川 出 版 社 、2009)、170。
と と な る が 、 これ は 大 学 学 部 生 に お い て も な か な か 躊 躇 わ れ る と ころ で も あ り、 そ こは 開 講 者(筆 者) が 必 ず 自 身 の 課 題 答 案 を 発 表 す る こ と を 心 が け た 。 受 講 者 は 男 性9名(内2年 生2名3年 生6名4 年 生1名)女 性15名(2年 生3名3年 生10名4 年 生2名)計24名 で 構 成 さ れ 、 内 教 育 学 部 英 語 専 修 は11名 で あ りそ の 内 の2名 は 米 国 文 学 専 攻 1名 が 英 国 文 学 専 攻 、 他 の8名 お よ び 法 文 学 部 の 5名 は 英 語 や 文 学 を 専 攻 と し な い 学 生 で あ っ た 。 まず は 外 国 文 学 作 品 を 教 材 と し て 用 い る 際 に は 大 き く分 け て 原 著 を そ の ま ま用 い る 場 合 と簡 易 に 書 き 直 され 訳 注 等 が 付 い て い る こ と も多 いretold版 を 使 う二 つ の選 択 が あ る。 双 方 の違 い の確 認 の た め 、 2013年 度 と 同 じ くF.ス コ ッ ト ・フ ィ ッ ツ ジ ェ ラ ノレ ド(F.ScottFitzgerald,1896-1940)The(Treat Gatsby(1925)冒 頭 の そ れ ぞ れ を 配 布 し、 教 材 と し て の 適 切 さ を 議 論 し た16。 次 に ジ ェ ン ダ ー ・セ ク シ ュ ア リテ ィ と い うテ ー マ に 沿 っ て 何 が 出 来 る か 言 え る か 、 模 擬 授 業 と い う正 式 な 形 式 に と らわ れ な い グ ル ー プ に よ る 発 表 を 、 ア ー ネ ス ト ・ヘ ミ ン グ ウ ェ イ(EmestHemingway,1899-1961)の"Cat intheRain"(1925)17お よ び"TheSeaChange" (1931)18の ど ち ら か を 用 い て 行 う こ と と し た 。 前 者 で は 離 婚 間 近 を 思 わ せ る夫 婦 の 会 話 を 中 心 と し て 妻 側 の 台 詞 に ジ ェ ン ダ ー の 揺 ら ぎ が 見 られ 、 後 者 で は 女 性 が 同 性 の 新 し い恋 人 を 得 て 振 られ て し ま う 男 性 が 描 か れ る 、 と も に 短 編 で あ る 。 フ ィ ッ ツ ジ ェ ラル ド と 同 時 代 の ロ ス ト ・ジ ェ ネ レー シ ョ ン を 代 表 す る 作 家 で あ りな が ら、 文 体 を 筆 頭 に 作 風 の 全 く 異 な る 作 家 を示 す 意 図 が 筆 者 に は あ っ た 。 ま た 昨 年 度 の 同 授 業 に お い て 学 生 が 模 擬 授 業 で 用 い た 作 品 中3編 が ヘ ミ ン グ ウ ェ イ 作 品 で あ っ た こ と も考 慮 し た 。 な おPavloskaは ヘ ミ ン グ ウ ェ イ の 作 品 が 日本 人 学 生 の リー デ ィ ン グ 教 材 と し て 適 し て い る理 由 と して 、 「実 用 的 で あ り、 言 語 学 的 に も、 方 法 論 的 に もふ さ わ し く 、 し ば し ば 簡 潔 」 と の 理 由 を 挙 げ 、 か つ 「ヘ ミ ン グ ウ ェ イ が よ く 知 られ て い る 『男 臭 さ 』 よ り も も っ と 他 の も の を 持 っ て い る と言 う こ と」 「男 性 と女 性 の 間 の ミ ス コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン、 大 人 へ の 成 長 、死 へ の 恐怖 な ど との テ ー マ 」 を 学 生 は す ぐ に 知 る よ う に な る と 論 じ 、 ま た 2013年 度 の 本 授 業 で も教 材 と して 選 ば れ た"lndian Camp"に はJACETレ ベ ル0以 上 の 語 彙 が14語 しか な い 点 を 挙 げ る19。 ど ち ら を プ レゼ ン テ ー シ ョ ン の テ ク ス トと して 用 い る か は 各班 の選 択 に任 せ た 。 こ の 二 編 を も と に した プ レゼ ン テ ー シ ョ ン を 行 う こ と で 、 まず は24名 中21名 が 英 米 文 学 非 専 攻 者 で あ る受 講 者 達 自 らが、 英 語 文 学 読 解 と ジ ェ ンダ ー ・ セ ク シ ュ ア リ テ ィ の テ ー マ に慣 れ 、 そ し て 教 材 と して の 「会 話 部 分 」 の 扱 い や す さ や 授 業 計 画 作 成 を 体 験 して も ら う こ と と な っ た 。 そ の 上 で 、 学 期 中 に 二 回 の ロー テ ー シ ョ ン で30分 を 目安 と し た 模 擬 授 業 を 行 っ て も ら う こ と と した 。 教 材 の 選 定 か ら が 学 生 諸 氏 の 課 題 で あ る 。 一 回 目 と 二 回 目 の 間 に グ ル ー プ の 分 け 直 し を 、 初 回 同 様 グ ル ー プ 名 を書 い た く じ を 引 いて も らう とい うや り方 で 行 った 。 以 下 、 これ らの 活 動 を 通 し た 準 備 期 間 「ウ ォー ム ・ ア ッ プ 」 を 学 期 初 め の2コ マ を用 い て 行 い 、2コ マ を 教 室 内 に お け る 各 グ ル ー プ の 準 備 期 間 と し、 い よ い よ 正 式 の 模 擬 授 業 とな っ た 。 以 下 各 グ ル ー プ の 選 定 し た 作 品/テ ク ス ト と模 擬 授 業 に つ い て 論 じ る 。 な お 基 本 的 に 発 表 グ ル ー プ を 除 き 、 筆 者
16FScottFitzgerald ,TheGreatGatsby(London:WordsworthClassics,2001),2-4.F・S/フ ィ ッ ツ ジ ェ ラ ル ド 『TheGreatGatsby グ レー ト ・ギ ャ ツ ビ ー 』(IPCパ ブ リ ッ シ ン グ 、2006)、2-5。 本 作 選 択 の 理 由 に つ い て は 拙 稿95-6参 照 の こ と 。 17ErnestHemingway ,"CatintheRain,"inTheFirstForty-NineStorieswithaBriefPrefacebytheAuthor(NewYork:Scribner, 2003),167-70. laErnestHemingway ,"TheSeaChange,"inibid.,397-401. 19Pavloska ,163。 作 品 の 語 彙 数 は 教 材 へ の 導 入 に お い て 重 要 な 点 で あ る 。 「学 習 指 導 要 領 が 定 め た 語 彙 の 上 限(中 高 の 合 計)は 、1951年 の6800語 程 度 か ら1998年 ・99年 の2700語 程 度 に ま で 下 が っ た 」。 江 戸 川 春 雄 『日 本 人 は 英 語 を ど う 学 ん で き た か 一 英 語 教 育 の 社 会 文 化 史 』(研 究 社 、2008)、81。 斎 藤 は 戦 後 間 もな く出 版 さ れ た 高 等 学 校 用 英 語 教 科 書HighSchoolEnglish:StepbyStep(開 隆 堂)に お け る チ ャー ルY・ デ ィ ケ ンズ(CharlesDickens,1812-1870)の 『デ イ ヴ ィ ッ ド ・コ パ ー フ ィ ー ル ド』(DavidCopperfield,1849-50)の 原 文 教 材 使 用 を 挙 げ 、 「文 学 教 材 が 不 当 に 敬 遠 さ れ て い る こ と も さ る こ と な が ら、 そ も そ も 日 本 人 大 学 生 の 英 文 読 解 力 が 著 し く低 下 して し ま っ た 」 ゆ え に も は や 高 等 教 育 に お い て も こ の よ う な 「最 高 級 な 英 文 」 の 教 材 を 導 入 す る こ と が 難 し く な っ た こ と を 述 べ る 。 斎 藤 兆 史 「新 時 代 の 英 語 教 育 と文 学 本 ハ ン ドブ ッ ク の 推 薦 分 に 代 え て 」 『文 学 教 材 実 践 ハ ン ドブ ッ ク 』、5-8。
も含 め 他 の 受 講 者 に は 、 当 日 ま で 作 品 名 や 模 擬 授 業 の 形 式 な ど は 一 切 不 明 で あ っ た 。 つ ま りテ ク ス ト選 択 も授 業 形 態 も 、 一 切 が 学 生 諸 氏 の 自 由裁 量 に 任 さ れ て い た こ とを 、 こ こに強 調 した い。 各教 材 ・ 発 表 に つ い て の 考 察 は 発 表 の 行 わ れ た 順 番 に則 し て い る 。 ま た 各 作 品 の 版 の 選 択 も学 生 に任 せ られ 、 異 稿 等 問 題 の あ る 場 合 に 教 員 が 指 導 す る こ と と し た(本 年 度 は 該 当 な し)。 2.選 定 さ れ た テ ク ス トと 模 擬 授 業 2-(1)"ToMyMother" 最 初 に 模 擬 授 業 を 行 う こ と と な っ た 当 該 グ ル ー プ は 、 エ ドガ ー ・ア ラ ン ・ボ ー(EdgarAllanPoe, 1809-49)の"ToMyMother"を 用 い た20。1時 間 50分 ×3時 間=150分 、 模 擬 授 業 は 第3回 目 の 授 業 と い う 体 裁 で あ る 。 初 回 で 作 者 や 時 代 背 景 に つ いて 学 び 、 第2回 で 内容 に つ い て の グル ー プ ワー ク を 行 っ た の ち 、 そ れ ま で 伏 さ れ て い た 作 品 の 題 名 を 考 え さ せ る と い う の が 主 眼 で あ っ た 。 内 容 を ま ず 先 に充 分 学 習 し 、 最 後 に 端 的 に そ の 内 容 を 示 す も の で あ る 作 品 の 題 名 を考 え させ る と い う ア プ ロー チ は 、 文 学 作 品 にお け る 題 名 の 意 義 を 身 を も っ て 確 認 す る も の で も あ ろ う 。 グ ル ー プ ワー ク で 題 名 を 考 え る と い う 課 題 は 実 際 の 模 擬 授 業 で も行 わ れ た が 、"Mother""DearMother"等 々 種 々 の 意 見 が 現 れ 、 大 学 学 部 授 業 に お い て も充 分 適 用 可 能 な 授 業 案 で あ る こ と が 明 らか とな っ た 。 配 布 さ れ た ハ ン ド ア ウ ト=教 材 はB5用 紙 一 枚 で あ る 。 レイ ア ウ トの 問 題 が ま ず 挙 げ ら れ る 。 当 該 グ ル ー プ は B5用 紙 の1/2以 上 に 邦 訳 を 載 せ 、 そ の 左 に 原 文 を 日本 語 の2/3ほ ど の フ ォ ン トで 印 刷 し た が 、 こ の よ う な レイ ア ウ トで は まず 日本 語 ば か り に 目が 取 られ て し ま い 、 英 語 の 授 業 教 材 と し て は 相 応 し くな い 。 また 韻 文 を教 材 と して 扱 う こ との メ リ ッ ト ・ デ メ リ ッ ト に つ い て 考 え させ られ る 。 利 点 と して は 以 下 が 挙 げ られ よ う 。1)圧 倒 的 に 英 語 の 分 量 が 少 な い の で 物 理 的 な 「読 む 」 負 担 が 少 な い2) 音 楽 性 に 富 む こ と か ら音 読 に 適 して お り、 朗 諦 を 通 じ て 英 語 教 育 に お け る 「体 感 」 が 可 能 で あ る 。 デ メ リ ッ トは1)言 語 の 抽 象 性 が 高 ま り 一 般 的 に 散 文 よ り も 高 度 な 文 学 理 解 が 生 徒 指 導 者 双 方 に 求 め られ る2)英 詩 独 特 の 押 韻 や リ ズ ム に つ い て も 同 様 の 理 解 が 求 め られ る と い う こ と で あ る 。 な お 「平 均 的 な 大 学1,2年 生 を 想 定 」 し て い る が 「英 語 力 次 第 で は 高 校 生 に も十 分 使 用 が 可 能 」 と 「ま え が き 」 に 記 さ れ る 『EnglishthroughLiterature文 学 で 学 ぶ 英 語 リー デ ィ ン グ 』 で は 二 つ の セ ッ シ ョ ン(章)が 俳 句 と英 詩 に割 か れ 、 英 語 圏 の 日常 生 活 に お け る 親 近 性 を 挙 げ て そ の 音 読 も含 め 、 韻 文 の 積 極 的 な 教 材 使 用 を勧 め て い る21。 当 該 グ ル ー プ は 訳 者 渡 辺 信 二 氏 の 「ぼ く の 母 一 僕 の 生 み の 母 は 若 く し て 死 に/し か も ぼ く 自 身 だ け の 母 に す ぎ ま せ ん で も あ な た は/ぼ く が そ ん な に も心 か ら愛 し た 人 の お 母 さ ん で す 」 と い う 箇 所 に 基 づ く 「ヴ ァー ジ ニ ア:エ ドガ ー ・ ア ラ ン ・ボ ー の 妻 の 名 」 と い う注 に 基 づ き 、 ボ ー の 妻 の 母 親 す な わ ち 義 母 へ の 思 い を 示 し た も の と い う 理 解 を 基 盤 に 授 業 を 行 っ た が 、 ボ ー の 場 合 、 自伝 的 要 素 を 持 ち 込 む 際 に は 、 相 当 に 心 を砕 く 必 要 が あ る 。 ボ ー27歳 の 時 に 結 婚 し た 従 妹 の ヴ ァー ジ ニ ア は13歳 と い う 若 年 で あ り、 ボ ー の 性 に 関 して は 一 般 的 規 範 か らの(あ く ま で 括 弧 つ き で は あ る が)「 逸 脱 」 が 見 ら れ る 。 ボ ー は 性 に 関 し て 臆 病 で あ っ た か ら こそ 、 性 的 に未 熟 な 年 齢 の 相 手 を 選 ん だ と い う の が 通 説 で あ る が 、 教 材 と して 用 い る とき に は 近 親 姦 や 幼 児 性 愛 の 問 題 が 生 ず るた め 、 そ れ らの 問題 に対 して 確 固 た る 態 度 が 取 れ る よ う、 教 師 側 に 相 応 の 覚 悟 と見 識 が 必 要 で あ る22。 そ れ も 通 り一 遍 に そ れ ら の 性 愛 の あ り方 を 否 定 す る の で は な く 、 「性 の多 様 性 」 と い う こ と を 否 定 せ ず に、 ど こ ま で 現 行 の 社 会 通 念 や 法 と相 容 れ る も の か を 照 合 し た 上 で の 吟 味 が 必 要 で あ り、 そ れ は 中 学3 20以 下 、 各 グ ル ー プ が テ ク ス ト と し て 使 用 し た 版 を 脚 注 に 示 す 。 渡 辺 信 二 訳 『ア メ リ カ 名 詩 選 一 ア メ リ カ 先 住 民 か らホ イ ッ トマ ン へ 』(本 の 友 社A1997)、138-39。 日本 語 訳 は13 21斎 藤 兆 史 ・中 村 哲 子 編 注 『EnglishthroughLiterature文 学 で 学 ぶ 英 語 リー デ ィ ン グ 』(研 究 社、2009)、iii、37-47。 な お 阿 部 は 英 詩 の 入 門 書 に お い て デ リ ケ ー トな 詩 の 本 質 を 損 ね る も の と し て 、 昨 今 の 潮 流 に 敢 え て 抗 し、 詩 の 音 読 に 慎 重 な 姿 勢 を見 せ る が 、 本 稿 で は や は り音 読 にお け る メ リ ッ トを 重 視 し た い 。 阿部 公 彦 『英 詩 の わ か り方 』(研 究 社 、2007)、 58-630
年 生 対 象 の議 論 と して は 負 担 が 過 ぎ るか も しれ な い 。 ボ ー の韻 文 を教 材 に選 ん だ グ ル ー プ は 述 べ3グ ル ー プ あ っ た が 、 ア メ リ カ 文 学 史 上 燦 然 と輝 く名 詩 の 数 々 を 生 み 出 して い る が ゆ え に 、 難 し さ も 付 随 し て く る の が ボ ー で あ る 。 な お 「ヴ ァ ー ジ ニ ア (Virginia)」 の 語 に は 南 部 人 の 自意 識 を 強 烈 に 有 し た ボ ー に お い て 南 部 ア メ リ カ と し て の 「ヴ ァ ー ジ ニ ア 州 」 の 意 味 も 重 な っ て く る 。 そ の 点 に お い て 当 該 グ ル ー プ に は 準 備 不 足 が 見 ら れ た 。 単 一 の 邦 訳 と そ の 注 に依 拠 す る の で は な く 、 複 数 の 訳 文 の 比 較 を は じめ 、 常 に よ り深 い 事 前 の リ サ ー チ が 望 ま れ る 。 ま た 限 られ た 時 間 と い う限 界 は あ る も の の 、 授 業 計 画 そ の も の に 音 読 が 入 っ て い な か っ た こ と も悔 や ま れ る 点 で あ る 。 今 回 は 内 容 学 習 の 最 後 に 題 名 を考 え る と い う ア プ ロ ー チ で あ っ た が 、 先 に ボ ー の 作 品 と 同 じ 題 名 を 与 え 、 英 語 に よ る 詩 を 作 成 させ る と い う ア プ ロー チ の 可 能 性 も、 筆 者 によ っ て 指 摘 さ れ た 。 2-(2)"MemoriesofPresidentLincoln"from LeavesofGrass ウ ォ ル ト ・ホ イ ッ トマ ン(WaltWhitman,1819-1892)の 長 編 詩 集 『草 の 葉 』(Leavesof(Trass,1855-92)か ら 「リ ン カ ー ン大 統 領 の 思 い 出 先 ご ろ 私 の 前 庭 に ラ イ ラ ッ ク の 花 が 咲 い た と き("Memories ofPresidentLincoln,WhenLilacsLastItheDooryard Bloom'd")」 の 第10カ ン ト ー/ス ト ロ ペ (canto/strophe)が選 ば れ た23。 ジ ェ ン ダ ー ・セ ク シ ュ ア リテ ィ 、 性 の 多 様 性 の 一 例 と し て 同 性 愛 を 筆 者 が 学 期 初 頭 に挙 げ た た め 、 男 性 詩 人 が 男 性 の 大 統 領 の 死 を 悼 む と い う 図 式 に 同 性 愛 的 要 素 を汲 ん で の 選 択 で あ っ た 。 も ち ろ ん ホ イ ッ トマ ン 自 身 の 同 性 愛 傾 向 を考 え れ ば こ れ は 全 く不 自 然 な こ とで は な い の で あ る が 、 作 者 自 身 の セ ク シ ュ ア リ テ ィ よ り も ま ず 、 作 品 の み を見 て 教 材 に 選 ん だ 感 性 に 敬 意 を 表 した い 。 先 に ボ ー の 事 例 を 挙 げ て 韻 文 を 教 材 と して 扱 う際 の メ リ ッ ト ・デ メ リ ッ トを 見 た が 、 ホ イ ッ トマ ン の 場 合 、 伝 統 的 な 押 韻 に 縛 ら れ な い ブ ラ ン ク ・ヴ ァ ー ス(無 韻 詩)の 導 入 に 文 学 史 上 の 功 績 が あ る の で 、 形 式 上 の 難 し さ は 薄 れ る と言 っ て よ か ろ う 。 形 式 美 の 理 解 の 難 し さ を 体 感 す る こ と も 大 切 で あ り、 ま た 形 式 か ら離 れ た と こ ろ で よ り 内 容 が 自 由 に 謳 え る よ う に な る と い う こ と を 身 を も っ て 知 る と い う こ と も 重 要 な 体 験 と な る 。 「同 じ時 代 の ア メ リカ に 生 き た 二 人 」 で あ りな が ら 「こ の 二 人 ほ ど対 称 的 な 詩 人 は 少 な い の で は な い か 」 と渡 辺 も論 ず る24ボ ー とホ イ ッ トマ ン が と も に 韻 文 教 材 に 選 ば れ た の は 意 義 深 い こ と で あ っ た 。 一 詩 人 に よ っ てperfume,sweet,loveと い っ た 親 密 性 の 高 い 語 が 大 統 領 と い う 国 の 最 高 位 の 人 物 に ご く 自然 に用 い られ て 違 和 感 が な い 点 に 当 該 グ ル ー プ は 注 目 し、 詩 人 と 暗 殺 さ れ た 大 統 領 と の 間 に 史 実 上 の 交 流 が あ っ た か は 敢 え て 問 わ ず25、 作 品 そ の も の か ら性 的 多 様 性 の テ ー マ を 引 き だ し た 点 を ま ず 評 価 した い 。 個 人 の 感 情 を 謳 っ て い る う ち に そ れ が ア メ リ カ そ の も の と い う 普 遍 性 に ま で 拡 大 し て ゆ く の が ホ イ ッ トマ ン の 特 性 で あ る が26、 本 作 は大 統 領 暗 殺 と い う国 家 的 事 件 を テ ー マ に しな が ら、 そ れ が 個 人 の 次 元 に ま で 下 りて く る と い う 、 ま た 別 の 普 遍 性 の あ り方 を 示 して い る 点 で 重 要 な 作 品 22関 戸 は 高 校 英 語 教 育 に お け るF 。ス コ ッ ト ・フ ィ ッ ツ ジ ェ ラ ル ド 「乗 り継 ぎ の 三 時 間 」("ThreeHoursBetweenPlanes," 1941)の 教 材 使 用 に つ い て 、 作 品 の 内 容 に 鑑 み 「現 代 の 、 特 に 学 生 の 目 線 か ら の 倫 理 観 で は 「不 倫 」 そ の も の が 相 応 し い も の と は 思 え な い と す る 考 え 方 も あ る だ ろ う」 が 、 「恋 愛 、 そ して 不 倫 、 と い う 主 題 、 そ して そ れ に つ い て 考 え る こ と は 、 原 題 を 生 き る 我 々 の 社 会 に お け る 常 識 へ の 懐 疑 、 そ し て あ る 意 味 挑 戦 と も 受 け 取 る こ と が で き る 」 と 述 べ る 。 関 戸 、98。 23WaltWhitman ,LeavesofGrass(NewYork:NewYorkUniversityPress,1965),32.『 ホ イ ッ トマ ン 詩 集 世 界 の 詩27』(弥 生 書 房 、1971)、127。 24渡 辺 利 雄 『講 義 ア メ リ カ 文 学 史 入 門 編 』(研 究 社 、2011)、98。 25「 ホ イ ッ トマ ンは 、 必 ず し も リ ン カ ー ン と 口 を 利 く 機 会 は な か っ た が 、 し か し ワ シ ン トンDCで 暮 ら し て い た こ とが あ っ た た め 、 当 時 、 大 統 領 が た え ず 馬 車 で 行 き 来 す る の を 目 に し て お り 、 そ の 回 数 は 二 〇 回 か ら三 〇 回 に お よ ぶ 」。 ま た リ ン カ ー ンが 『草 の 葉 』 に 感 動 し て 朗 読 し た り 、 ホ ワ イ トハ ウ ス の 窓 か ら詩 人 の 姿 を 認 め 、 「あ れ こ そ 男 の な か の 男 じ ゃ な い か 」 と 述 べ た と い う資 料 も 残 る 。 巽 孝 之 『リ ンカ ー ンの 世 紀 ア メ リカ 大 統 領 た ち の 文 学 思 想 史 』(青 土 社 、2013)、 171-20 26高 田 賢 一 ・野 田 研 一 ・笹 田 直 人 編 著 『作 品 ガ イ ド150た の し く読 め る ア メ リカ 文 学 』(ミ ネ ル ヴ ァ書 房 、1994)、27。
で あ る 。 授 業 計 画 は50分 ×5時 間 計250分 、 教 材 が 多 分 に 手 紙 と 相 通 ず る 要 素 を も つ こ と か ら 、 「英 語 で 手 紙 を 書 いて み よ う」 とい う の が 最 終 目標 とな っ た 。 初 回 で ホ イ ッ トマ ン や リ ン カ ー ン の 伝 記 的 情 報 を 与 え 「日 本 語 で ラ ブ レ タ ー を 書 く 」 こ と を 宿 題 に 課 す 。 第2回 で 男 女 と も に2名 ず つ の グ ル ー プ を 計10班 形 成 し 、 上 述 の 日本 語 ラ ブ レ タ ー の 英 訳 を行 わ せ 一 度 回 収 、3・4・5限 で 英 訳 の 確 認 と 各 班 の 発 表 と い う も の で あ る 。 模 擬 授 業 で 配 布 さ れ た 教 材 はA4が4枚 、 原 著 と邦 訳 、 「3行 ラ ブ レタ ー を書 こ う」 と題 さ れ た ワー ク シー トが2枚 、 「他 の グル ー プ の 発 表 を 聞 い て 良 い 表 現 だ な と思 っ た 部 分 を 書 き ま し ょ う」 と指 示 さ れ た 感 想 シ ー ト 1枚 で あ る 。 一 枚 目 の 個 人 ワ ー ク シ ー トで は 「好 き な も の 」 「好 き な も の へ の 気 持 ち 」 を 書 く よ う 指 示 さ れ 二 枚 目 の グ ル ー プ ワ ー ク 用 で 「班 で 決 め た ラ ブ レ タ ー 」 「英 語 に し て み よ う!」 と い う 手 順 に な っ て い る 。 個 人 か ら班 作 業 へ と ス ム ー ス に 移 行 で き る よ う工 夫 の な さ れ た 構 成 で あ っ た 。 実 際 の 模 擬 授 業 で は 約30分 と い う制 限 も あ り 、 適 宜 筆 者 の 介 入 の も と 、 グ ル ー プ 内 で 上 述2ワ ー ク シ ー トを 行 っ た 。 結 果 は 友 人 、 母 親 、 ま た 好 物 の チ ョ コ レー トに 宛 て た 「ラ ブ レ タ ー 」 等 が 現 れ 充 実 し た も の と な っ た 。 「三 行 ラ ブ レ タ ー 」 と い う そ の 三 行 と い う制 限 が 眼 目 で あ る 。 す な わ ち 文 字 数 を 少 な く さ せ る こ とで 、 通 常 の 書 簡 が 非 常 に 詩 の 形 態 に近 く な る の で あ る 。 教 材 は 伝 統 的 な 詩 形 韻 律 に拠 らな い ホ イ ッ トマ ンで あ っ た が 、 この 「三 行 ラ ブ レ タ ー 」 に お い て は 筆 者 の 介 入 に よ り、 伝 統 的 な 韻 律 重 視 で も 自 由 詩 で も 形 式 は 問 わ な い こ と と し た 。 詩 そ の も の は 時 に 、 押 韻 や 頭 韻 を優 先 さ せ る た め に 文 法 に 沿 わ な い 英 文 を 生 み 出 し 、 ま た 省 略 や 倒 置 な ど も行 わ れ る 。 通 常 中 学3年 生 の 時 点 で は この よ う な 「文 法 に 合 わ な い 」 非 規 範 的 な 英 文 は も っ ぱ ら鑑 賞 の対 象 とな る だ け で あ る が 、 自 らそ の 作 り手 と な る こ と で 、 英 語 と い う 「生 き 物 と して の言 語 」 に取 り組 む 好 機 を得 る こ と と な る 。 そ して そ れ は と り も な お さず 英 語 の 、 あ る い は 性 に 代 表 され る 人 間 の 存 在 の 多 様 性 の 体 感 と な る の で あ る 。 初 回 の 関 連 人 物 の 基 本 情 報 の 講 義 に お い て は 、 教 師 役 た る 学 生 自 身 理 解 で き て い な い 「自 由 詩 」 「民 主 党 」 「共 和 党 」 等 の 語 が た だ 読 み あ げ られ る 様 子 が 見 受 け られ た 。 資 料 か ら の 引 用 を 孫 引 き す る だ け で は な く 、 特 殊 用 語 専 門 用 語 に 関 し て は 万 全 の 理 解 を も っ て 臨 み た い 。 2-(3)TheSunAlsoRises ア ー ネ ス ト ・ ヘ ミ ン グ ウ ェ イ(Ernest Hemingway,1899-1961)の 長 編 『日 は ま た 昇 る 』 (TheSunAlsoRises,1926)の 第 六 章 で あ る27。A4 三 枚 に わ た る 指 導 案 に 加 え て 教 材 とす る箇 所 二 頁 、 ワ ー ク シ ー ト2枚 の 配 布 で あ る 。 本 授 業 で は 模 擬 授 業 の 形 式 を 特 に指 定 し な か っ た が 、 該 当 グ ル ー プ の よ う に 指 導 案 を 作 成 した グ ル ー プ は 少 な か ら ず あ っ た 。 指 導 案/計 画 の 作 成 と配 布 は 教 育 学 部 な ら で は の 成 果 で あ り、 馴 染 み の な い 他 学 部 学 生 へ の 良 い刺 激 と も な る と言 え よ う。 単 元 目標 は 「米 国 文 学 を 通 して 、 ジ ェ ン ダ ー セ ク シ ュ ア リ テ ィ ー (マ マ)に つ い て 考 え 、 自 分 の 意 見 を 持 ち 、 発 表 で き る よ うに な る 。 ま た 、 米 国 文 学 へ の 興 味 を持 ち、 文 学 作 品 の 鑑 賞 の 良 さ に気 づ く」 と 、 担 当者 で あ る筆 者 の 意 図 を十 分 に くみ 取 っ た 内 容 とな って い る。 た だ 更 に 追 加 す る な らば や は り 中 学3年 生 の 英 語 の 授 業 と い う枠 組 み で あ る 以 上 、 英 語 教 育 教 材 と して の 可 能 性 に つ い て 触 れ て ほ し い と こ ろ で あ る 。 これ は 学 期 を 通 じ て し ば し ば 、 英 語 の 授 業 か 現 代 国 語 の 授 業 か 分 か らな い と の 声 が 学 生 諸 氏 か ら聞 か れ た 件 と も 直 結 す る 問 題 で あ る 。 「文 学 を 通 し て 人 間 存 在 を 理 解 し よ う とつ と め る こ と 」 に 英 語 も 日 本 語 も 言 語 の 別 は な い の で あ る か ら こ の 混 在 は 必 然 で は あ る の だ が 、 「英 語 科 指 導 法 」 の 枠 組 み に あ る 以 上 、 常 に 足 場 を 確 認 す る 態 度 を忘 れ ず に い た い 。 な お 引用 内 に マ マ と記 し た が 「ジ ェ ン ダ ー ・セ ク シ ュ ア リテ ィ 」 が 通 常 の 記 載 の 仕 方 で あ る こ と も 指 摘 し た 。 こ れ は 既 に 述 べ た 、 高 等 教 育 に お け る ジ ェ ン ダ ー 関 連 の 授 業 の 面 も 本 授 業 が 有 し て い る 点 の 一 例 で あ る 。 「単 元 に つ い て 」 の 項 目 の 「児 童 に つ い て 」 に お い て は 「(中学 三 年 生 は)ジ ェ ン ダ ー セ ク シ ュ ア リ テ ィ ー(マ マ)へ 27EarnestHemingway ,TheSunAlsoRises(NewYork:CharlesScribner'sandSons,1970).
の 表 立 っ た 関 心 は 見 られ な い が 、 関 心 を も っ て 学 ぶ こ と が で き る 精 神 的 な 適 齢 期 に あ る 」 と 記 さ れ て い る 。 当該 グル ー プ の テ ー マ は 「結 婚 観 の違 い」 で あ り、 第 六 章 を7限 に 分 け て読 み解 く。 と くに 「ロバ ー ト ・ コ ー ン と フ ラ ンセ ス の 結 婚 観 の 違 い に つ い て 読 み 取 る 」 と した 第6時 が 眼 目 とな ろ う 。 指 導 過 程 は 導 入 、 展 開 、 終 末 の 三 部 に分 別 さ れ 、 注 目点 と し て は 特 に 登 場 人 物 ら の 関 係 性 を 明 らか に した ワ ー ク シ ー トお よ び そ の の ち 、 そ れ を 劇 と して 行 う と い う 点 で あ る 。 こ の ワ ー ク シ ー トで は 男 女 の 性 別 が 示 さ れ た5名 の人 物 とそ の 間 の 「友 情 」 「信 頼 」 「婚 約 者 」 等 の 関 係 性 が 記 さ れ て お り 、 そ こ に 実 際 の 名 前 を 、 原 文 読 解 を 通 し て 当 て は め て ゆ く と い う 構 成 で あ る 。 模 擬 授 業 で も こ の ワ ー ク シ ー ト課 題 が 実 際 に 各 グ ル ー プ 単 位 で 成 さ れ た が 、 当 日 即 座 に 原 文 を 読 み 取 る 難 し さ を考 慮 し て も 、 良 い 意 味 で の 難 易 度 の 高 さ が 見 られ た 。 ま た ホ イ ッ トマ ン に お い て は 同 性 愛 が テ ー マ とな っ た が 、 こ こ で は い わ ゆ る 「性 的 少 数 者 」 で は な い 異 性 愛 の 男 女 の 「結 婚 」 と い う もの も ま た 、 ジ ェ ン ダ ー ・セ ク シ ュ ア リテ ィ と い う テ ー マ に 充 分 合 致 す る も の で あ る と い う確 認 が な さ れ た 意 義 は 大 き か っ た 。 二 枚 目 の ワ ー ク シ ー トで は 自分 自身 、 小 説 内 の 登 場 人 物 、 グ ル ー プ と し て の 結 婚 観 ま で 、 個 人 レ ベ ル か ら グ ル ー プ レベ ル 、 ま た 虚 構 と現 実 と い う 複 数 の 次 元 に わ た る こ と に よ り 、 自 分 自身 の 意 見 を 確 認 ・表 明 す る こ とか ら始 ま っ て 虚 構 の 人 物 内 を 「追 体 験 」 し、 また 自分 とそ の周 辺 の リア リテ ィ に戻 る と い う 、 文 学 作 品 を 義 務 教 育 に 持 ち 込 む と い う こ と の 意 義 が 端 的 に 示 さ れ る 構 造 と な っ て い た こ と は 非 常 に 高 く評 価 す べ き も の で あ っ た 。 な お 作 品 は ヨ ー ロ ッ パ を 舞 台 に し て い る た め 特 に 人 名 地 名 等 の 固 有 名 詞 に あ らか じ め の 説 明 が 必 要 で あ る こ と 、 ま た 作 家 の 説 明 と して ワ ー ク シ ー トで 用 い られ た 「ロ ス ト ・ ジ ェ ネ レー シ ョ ン 」 の 語 と題 名 の 由 来 は 作 品 の エ ピ グ ラ フ に 引 か れ た ア メ リカ 人 作 家 ガ ー トル ー ド ・ ス タ イ ン(GertrudeStein,1874-1946)の 言 と 旧約 聖 書 の 「伝 道 の 書(Ecclesiastes)」 に 依 拠 す る も の の た め 、 エ ピ グ ラ フ 自体 の 配 布 とそ の 用 語 群 の 説 明 が 必 須 で あ る との 指 摘 が 筆 者 か らな さ れ た 。 2-(4)FlowersforAlgernon ダ ニ エ ル ・キ イ ス(DanielKeyes,1927-2014)の 『ア ル ジ ャ ー ノ ン に 花 束 を』(FlowersforAlgernon, 1966)で あ る28。 文 学 の ジ ャ ン ル で はSFす な わ ち サ イ エ ン ス ・フ ィ ク シ ョ ン と され る が 、 も は や そ の 語 が 醸 し 出 す 特 定 の イ メ ー ジ を 超 え た 名 作 と し て 親 し まれ て お り、 昨 年 度 も教 材 と して 選 ばれ た29。 週3回 を4週 間 計12時 間 で エ ン デ ィ ン グ を 除 い た 「レポ ー ト13」 ま で を 、 男 女 別 に5人8グ ル ー プ で 扱 う計 画 で あ る 。 自 身 と 同 じ手 術 を 受 け た ネ ズ ミ が 死 ん で い る こ と を知 っ て い る 場 面 ま で は 生 徒 に 示 しつ つ 、 エ ンデ ィ ン グ を敢 え て 伏 し て 予 想 さ せ る と い う 点 に 特 色 が 見 られ た3°。 本 作 は ほ と ん ど が ロ ボ トミ ー 手 術 を 受 け る チ ャ ー リー の 「レ ポ ー ト」 小 説 で あ り、 模 擬 授 業 で 取 り上 げ られ た の は ま だ ス ペ ル ミ ス が 頻 出 す る 「ほ こ く さ ん 」"3d progrisriport"[sic]で あ る。 当 該 グル ー プ の ア プ ロー チ で まず 独 自性 が 見 られ た の は 、 ス ペ ル ミ ス 等 の 「間 違 い 」 を 生 徒 に 見 つ け さ せ て 「何 が そ れ を 引 き 起 こ し て い るか 」 を 考 え さ せ る と い う も の で あ っ た 。 結 論 を 先 ん ず れ ば 「耳 で 聞 い た ま ま を文 字 化 して い る 」 と い う こ と な の だ が 、 間 違 い で あ っ て も 文 学 作 品 上 の 「活 字 」 と し て 無 条 件 に 受 け 取 っ て し ま い が ち な 受 容 の あ り方 に一 石 を 投 ず る も の で あ っ た 。 ジ ェ ン ダ ー ・セ ク シ ュ ア リ テ ィ の テ ー マ に 関 し て は 手 術 後 知 能 の 高 ま っ た チ ャー リ ー が レ ポ ー ト 9に お い て 「他 人 を 意 識 す る 」 場 面 を 教 材 と し て 用 い 、 ワ ー ク シ ー トの 「チ ャ ー リー が 女 の 人 を 意 識 し 始 め た 時 の 気 持 ち を 抜 き 出 そ う!」 「初 め て 28DanielKeyes『FlowersforAlgernon』 渡 邉 容 子 解 説(講 談 社 ワ ー ル ドブ ッ ク ス 、1995)。 ダ ニ エ ル ・キ イ ス 『ア ル ジ ャ ー ノ ン に 花 束 を 〈ダ ニ エ ル ・キ イ ス 文 庫1>』 小 尾 芙 佐 訳(早 川 書 房 、1999)。 29手出不高、102。 30当 該 グ ル ー プ と は 正 反 対 の ア プ ロ ー チ で あ る が 小 説 の 結 末 部 分 の 重 要 性 を 示 す も の と して、 「短 編 小 説 の 結 末 部 分 を 読 み 、 エ ンデ ィ ン グ の重 要 性 」 を 考 え る 教 材 と し て レイ モ ン ド ・カ ー ヴ ァー(RaymondCarver,1938-88)作 品 を 扱 う 「Session 8RaymondCarverの 短 編 小 説 小 説 の 結 末 部 分 を 読 む 」 『EnglishthroughLiterature文 学 で 学 ぶ 英 語 リー デ ィ ン グ 』、 33-36を 参 照 。
他 人 を 意 識 し始 め た 時 の 気 持 ち を 思 い 出 して み よ う!」 と い う 二 間 に 取 り組 む と い う も の で あ る 。 後 者 の 、 「初 め て 「他 人 」 を 」 と い う と こ ろ が 肝 要 で あ る 。 性 の 多 様 性 を 英 語 教 育 に お け る 文 学 の 学 び を 通 して ど う扱 うか と い うテ ー マ で あ る か ら 、 異 性 愛 前 提 の 、 通 常 よ く 見 ら れ る 「異 性 を 意 識 」 と い った 記 述 は必 ず 避 け な け れ ばな らな い ので あ る 。 模 擬 授 業 で も 各 グ ル ー プ か ら活 発 な 意 見 が な さ れ た が 、 初 恋 や 急 に 発 達 し た 友 人 の フ ァ ッ シ ョ ンセ ン ス 、 第 二 次 性 徴 期 の エ ピ ソ ー ド、 ま た 女 子 高 時 代 の バ ス ケ ッ トボ ー ル 部 の キ ャ プ テ ン の 「格 好 よ さ を 意 識 して 廊 下 で す れ 違 う た び に ドキ ドキ した 」 と い う実 体 験 を 離 して く れ た 女 性 の 学 生 も あ っ た 。 最 後 の あ く ま で も 構 造 的 に見 れ ば 同 性 愛 的 な エ ピ ソ ー ドに 関 し て は 、 こ こ ま で 忌 悼 な く 語 っ て くれ る 学 生 が あ ろ う と は 予 測 し て い な か っ た の で 、 筆 者 も 当 惑 を い か に 表 わ さ ず に 、 既 述 の 当 該 講 義 の テ ー マ に 即 し て 話 題 を 広 げ て ゆ く か 、 力 量 が 問 わ れ た 瞬 間 で も あ っ た 。 既 に 同 性 愛 や 近 親 姦 あ る い は 強 制 的 異 陸 愛 、 ホ モ ソ ー シ ア リ テ ィ 等 の 基 本 用 語 を説 明 し、 頻 用 して い る 中 で の こ とで あ っ た の で 、 受 講 者 た ち が 動 揺 す る こ と もな か っ た が 、 こ れ は 中 等 教 育 に お い て そ の よ うな 場 面 が 想 定 され る 中 、 教 師 側 の マ ネ ー ジ メ ン ト能 力 が い か に 必 要 で あ る か を 如 実 に 示 す 例 で あ る 。 「他 人 を 意 識 す る 」 と い う テ ー マ 設 定 は 、 ジ ェ ンダ ー 如 何 以 前 の 「他 者 」 の 問 題 と して 非 常 に 重 要 で あ る 。 ま た と も す れ ば 「性 的 マ イ ノ リ テ ィ 」 に 比 重 が 置 か れ が ち な こ の よ う な 授 業 に あ っ て 、 上 述 の ワ ー ク シ ー ト に お い て 異 陸 愛 で 「も」 も ち ろ ん 良 い 、 と の机 問 指 導 が 見 られ た こ と も評 価 に値 す る 。 な お 模 擬 授 業 中 「精 神 薄 弱 者 」 の 語 の 使 用 が 見 られ た が 、 これ は 今 日 避 け る べ き で あ ろ う 。 差 別 用 語 の 基 準 は 被 差 別 者 の 権 利 の 回 復 に し た が っ て 時 時 刻 刻 変 化 して い る も の で あ り31、 当 該 グ ル ー プ が 使 用 し た1995年 の 翻 訳 で は 見 返 し に 堂 々 と印 刷 さ れ て い る 「精 神 薄 弱 」 の 語 も 、2014年 現 在 で は 不 適 切 で あ る 旨 、 常 に こ の よ う な 問 題 と 対 に な っ て 現 れ る い わ ゆ る 「言 葉 狩 り」 の 議 論 と と も に 、 筆 者 に よ っ て 紹 介 ・ 指 導 が な さ れ た 。 ま た 知 能 に 障 害 を持 つ チ ャ ー リー が ロ ボ トミー 手 術 を 受 け る話 で あ るた め 、 「正 常 」 「ふ つ う」 の 語 が ど う し て も頻 用 さ れ が ち で あ っ た が 、 そ も そ も ジ ェ ン ダ ー ・セ ク シ ュ ア リ テ ィ に お い て 何 が 「普 通 」 で 「正 常 」 な の か 、 そ の 線 引 き を 問 い 直 す の が 本 授 業 の 目 的 で あ っ た た め 、 そ の 点 に も 注 意 を 促 し た 。 な お 昨 年 学 生 諸 氏 に よ っ て この 作 品 が 取 り上 げ ら れ た 時 期 は 、 ロ ボ トミ ー 手 術 を 受 け た 叔 母 を も つ キ ャ ロ ラ イ ン ・ケ ネ デ ィ米 国 大 使 の 日本 赴 任 と 時 期 が 重 な っ た が 、 今 回 は 作 者 キ イ ス の 死 か ら4日 後 と い う奇 縁 で あ っ た 。 2‐(5)TheTurnoftheScrew 米 国 文 学 史 上 で もそ の 難 解 さ を も っ て 知 られ る ヘ ン リー ジ ェイ ム ズ(HenryJames,1843-1916)の 中 編 『ね じ の 回 転 』(TheTurnoftheScrew,1898)が 選 ば れ た 。 高 等 教 育 に お け る 通 常 の 米 国 文 学 講 読 な い し演 習 の テ ク ス ト と して も扱 い に く い作 品 で あ る が 当 該 グ ル ー プ はretold版 を 用 い る こ とで 巨 人 ジ ェ イ ム ズ の 名 作 を 中 学 校 の 英 語 教 育 に導 入 し た32。 生 徒 は36人 学 級 を想 定 し て い る 点 が40人 想 定 の 他 グ ル ー プ と 異 な る が 、 「英 語 の 長 文 読 解 に は 慣 れ て い る が 、 文 学 作 品 を読 ん だ こ とは な い 」 と い う 指 導 案 記 載 の 想 定 像 に 大 き な 違 い は な い 。 当 該 グ ル ー プ もA4二 枚 の 指 導 案 を 提 出 、50分 × 10時 間 でretold版 の 全 編 八 章 を 扱 う 。retold版 が 簡 易 な た め 、 前 も っ て の 教 師 側 か ら の 単 語 に つ い て の 注 釈 も つ け な い と い う。 全24章 か ら成 る 原 著 は 複 雑 な 語 りの 重 層 構 造 が 読 解 を 難 し く して い る の で あ る が 、 今 回 のretold版 で は 語 り は す べ て 家 庭 教 師 の み の 一 人 称 に 単 一 化 さ れ て い る こ と で 、 31星 乃 の 以 下 の 言 を 胸 に刻 み た い 。 「同 性 愛 な ど実 は 問 題 は な い 、 と い う の が 本 書 で の 一 つ の 到 着 点 だ が 、 た だ そ れ は 少 な く と も現 時 点 で は 「ヘ テ ロ 」 側 か ら発 す る 言 葉 で あ っ て は な ら な い 一 中 略 一 ど う で も 良 い こ と を ど う で も 良 くな く し て き た の は 、 歴 史 的 に 形 成 さ れ て き た 「わ れ わ れ 」=「 同 性 愛 者 」 で は な い 一中 略 一嘲 笑 の 対 象 とな り 、 嫌 が らせ を 受 け 、 撲 殺 さ れ 、 自殺 を考 え た 「わ れ わ れ 」 に こそ 、 「同 性 愛 な ん て ど う で も 良 い じ ゃ な い 」 と 言 う 特 権 が い っ た ん は 許 さ れ る 」(傍 点 筆 者)。 星 乃 治 彦 『男 た ち の 帝 国 ヴ ィ ル ヘ ル ム2世 か らナ チ ス へ 』(岩 波 書 店 、2006)、202。 s2HenryJames ,TheTurnoftheScrew,retoldbyChristineLindop,eds.BillBowlerandSueParminter(Sydney:OxfordUniversity Press,2002).
読 み 易 く な っ て い る 。 指 導 案 で は 「こ の 物 語 か ら 読 み とれ そ う な 恋 愛 関 係 ・愛 の 形 」 と し て 、 「家 庭 教 師 →(家 庭 教 師 を雇 っ た 姿 を見 せ な い)旦 那 様 」 「(少年)マ イ ル ズ ⇔ 家 庭 教 師 」 「(既に 死 亡 し て い る 男 性 使 用 人 の)ク イ ン ト⇔ マ イ ル ズ 」 「ク イ ン ト⇔(既 に 死 ん だ 前 任 者)ジ ェ ス ル 」 を 例 と して 挙 げ て い る 。 「→ 」 「⇔ 」 は そ れ ぞ れ 片 想 い 両 想 い を 示 し て い る 。 な お 本 格 的 な ジ ェ イ ム ズ 研 究 に お い て は 本 作 は し ば し ば ク イ ア ・リ ー デ ィ ン グ(文 学 作 品 中 の 同 性 愛 的 要 素 を積 極 的 に 読 み こむ 文 学 研 究 の 態 度)の 対 象 と な り 、 死 ん だ ク イ ン トが 生 前 に少 年 マ イ ル ズ に性 的 な イ ニ シ エ ー シ ョン を行 っ て い た と い う論 も 定 着 して い る33。 ま た 今 日 で は 語 り手 の 家 庭 教 師 が 見 た 幽 霊 た ち は 全 て 彼 女 の 妄 想 で あ っ た と す る 精 神 分 析 的 ア プ ロ ー チ に 基 づ く 解 釈 が 七 割 を 超 え る と い う34こ と も 付 記 し て お く 。 し か し 、 筆 者 の よ う な 文 学 専 攻 の 研 究 者 が と もす れ ば 陥 りが ち な こ と で あ る が 、 本 稿 が 扱 う 種 類 の 授 業 に お い て 、 緻 密 か つ 細 分 化 を 極 め る 専 門 的 な 研 究 動 向 を 必 要 以 上 に 気 にす る 必 要 は 、 と りあ え ず はな い 。retold版 を使 用 す るな らな お さ らで あ る 。 当 該 グ ル ー プ が 指 導 目 的 に 記 す 「文 学 作 品 に 慣 れ 親 し む 」 「文 学 作 品 を 深 く読 む 力 を つ け る 」 と く に 後 者 に お い て 示 さ れ た 二 点 「テ ー マ に 即 して 読 む 」 「作 品 中 に な い 部 分 を 想 像 す る こ と で 、 内 容 を よ り深 く考 え る こ と が で き る」 に注 意 し た い 。 こ れ は 、 一 見 正 し い 指 摘 の よ う で あ る が 、 「作 品 中 に 『な い 』」 も の は 扱 え な い 」 と い う 文 学 作 品 に 向 き 合 う 基 本 的 な 態 度 に 鑑 み 、 「表 面 上 に は 現 れ て い な い/直 接 は 書 か れ て い な い 」 と の 訂 正 を 行 っ た35。 模 擬 授 業 で は 最 後 の10限 目、 指 導 計 画 に は 「作 品 中 に見 つ け た 恋 愛 の そ の 後 を 考 え る 。 グ ル ー プ ご と に 発 表 す る 」 に 該 当 す る 箇 所 が 行 わ れ た 。 あ らす じ を 説 明 す る た め の 第 一 章 の テ ク ス トコ ピ ー3頁 、 ワ ー ク シ ー ト2枚 が 指 導 案 に 加 え て 配 布 さ れ た 。 「作 品 に 描 か れ て い な い 『そ の後 』」 を 考 察 の 対 象 に す る こ と は 上 述 の よ う に 文 学 研 究 に お い て は あ る 種 の 禁 じ 手 と も い う べ き も の で あ る が 、 これ も既 述 の よ う に 、 まず は 当 該 授 業 が 中 学 生 へ の 米 国 文 学 へ の 誘 い で あ る こ と に 鑑 み 、 そ の 旨 を指 摘 し た 上 で 、 あ え て そ の ま ま 取 り組 む こ と と し た 。 ワ ー ク シ ー トに お け る 「グ ル ー プ で 特 に 注 目 した 恋 愛 関 係 ・愛 の 形 」 で は 、 家 庭 教 師 か ら10歳 の 少 年 マ イ ル ズ へ の 愛 の 指 摘 が 目立 っ た 。 ボ ー の 場 合 もそ う で あ っ た が 、 大 き な 年 齢 差 と い う デ リ ケ ー トな 問 題 を 、 い か に茶 化 さ ず に真 剣 に 考 え る か が 授 業 進 行 の 要 とな る の で あ り、 ボ ー の 場 合 同 様 、 筆 者 自 身 が 緊 張 を 強 い られ た 場 面 で あ っ た 。 そ も そ も通 常 の 社 会 規 範 で 「逸 脱 」 と考 え ら れ る も の が 往 々 に し て 主 題 とな る の が 文 学 で あ り、 そ の 一 種 の 危 険 性 を は ら め ば こそ 、 文 学 は 自 由 な 思 考 へ の 強 力 な 道 し る べ とな る の で あ る 。 中 等 教 育 に お い て も高 等 教 育 に お い て も 必 要 最 低 限 の モ ラ ル で 自 ら を ま た 生 徒 ら/学 生 ら を 律 し つ つ 、 文 学 を 教 材 に 用 い る こ と の 意 義 を根 底 か ら覆 しか ね な い 、 安 易 な 自 粛 と保 守 的 思 考 は 、 厳 に 戒 め る べ き で あ る 。 な お 強 調 し て お き た い の は 、 授 業 で 用 い る の がretold版 で あ る に せ よ 、 教 師 役 の 側 は 原 著 を 読 み 充 分 に 理 解 し て お く 必 要 が あ る と い う こ とで あ る 。 そ の 覚 悟 の 点 で 当 該 グ ル ー プ の ジ ェ イ ム ズ の 選 択 に は い さ さ か 不 安 が 見 ら れ た こ と を 付 記 し て お く。 2-(6)ゲ ド戦 記4 ア ー シ ュ ラ ・K・ ル ー グ ウ ィ ン(UrsulaKroeber LeGuin,1929-)に よ る 壮 大 な フ ァ ン タ ジ ー 小 説 『帰 還 ゲ ド戦 記4』(Tehanu:TheLastBooksof Earthsea,1990)の 一 部 が 選 択 さ れ た36。 『アル ジ ャ ー ノ ン に 花 束 を 』 よ り も 更 にSF性 の 高 い 作 品 と 言 え よ う。 計7時 間 で 第12章 を 読 む 計 画 で あ る 。 『ゲ 33た と え ばKellyCannon ,HenryJamesandMasculinity:TheManattheMargins(London:PalgraveMacmillan,1997)を 参 照 。 34こ の 点 に つ い て は 北 星 学 園 大 学 の 斎 藤 彩 世 氏 に教 示 を 受 け た、 記 し て 謝 す 。 35Pavloskaは ヘ ミ ン グ ウ ェ イ 作 品 が 作 家 の 「氷 山 理 論 」 に 基 づ く 「『行 間 を 読 ま せ る 』 こ と を 余 儀 な く さ せ る 方 法 を 取 っ て い る 」 の で 「読 者 は 語 彙 に 依 存 し す ぎ る こ と な し に 、 自分 か ら ア ク テ ィ ヴ に 読 み と ら ざ る を 得 な い 」 と 述 べ る が 、 こ れ は ジ ェ イ ム ズ 始 め 他 の 作 家 ・作 品 に も 当 て は ま る こ と で あ ろ う。Pavloska,163。 36UrsulaLeGuin ,Tehanu:theLastBookofEarthsea(PenguinBooks,1992).『 帰 還 ゲ ド戦 記4』 清 水 真 砂 子 訳(岩 波 少 年 文 庫 、2009)。
ド戦 記 』 は 長 大 な ク ロ ニ クル で あ り、 第4巻 に 至 る ま で の あ らす じ が.i枚 に ま と め られ 配 布 さ れ た の は 非 常 に 有 益 で あ っ た 。 配 布 資 料 に は 「(未 亡 人 と な っ た)テ ナ ー は 生 活 の 中 で 幾 度 も フ ェ ミ ニ ズ ム の 問 題 に 直 面 す る 一後 略 一」 と あ り、 第 七 回 目 の 授 業 「作 品 か ら読 み 取 れ る 女 性 蔑 視 に つ い て 考 え る 」 と い う設 定 の 模 擬 授 業 で は12章 中 の 2頁 が 配 布 さ れ た 。 こ の 中 の テ ナ ー に よ る 「We're precious.Solongaswearepowerless」(マ マ)が ワ ー ク シ ー ト 冒 頭 に 付 さ れ 、1)な ぜ 女 性 は preciousな の だ ろ う か2)な ぜ 女 性 はpowerlessと 表 現 さ れ た の だ ろ う か3)本 当 に 女 性 はpowerless な の だ ろ う か4)現 在 の 社 会 は ど う だ ろ う 、 ま た 自分 の考 え は ど う だ ろ う か の 四 間 が 、 思 考 の 展 開 を 導 く順 で 並 ぶ 。 ま ず は 「powerlessで あ る が ゆ え にpreciousで あ る 」 と い う一 見 非 合 理 に見 え るテ ナ ー の 台 詞 が 抜 き 出 さ れ た こ と を 評 価 した い 。 こ の 矛 盾 と も見 え る イ ンパ ク トに よ っ て 、 模 擬 授 業 自体 、 ス ピ ー ド感 が 増 し 、 議 論 の 密 度 も 高 ま っ た 。 各 設 問 に 対 し て は 「子 孫 繁 栄 の 面 で の 重 要 性 」 「物 理 的 な 力 の 弱 さ 」 な ど 通 常 予 想 さ れ る も の か ら 「男 性 の 強 さ を保 証 す る た め の 『弱 さ 』」 と い う 、19 世 紀 中 葉 に お け る 「同 性 愛 の 『発 明 』」37と同 じ構 造 を認 識 した 鋭 い指 摘 ま で が 現 れ 、 大 い に湧 か せ た 。 邦 訳 も 配 布 さ れ 、 「も し 女 が 力 を も っ た ら 、 男 は 女 に な る しか な い じ ゃ な い か 。 子 ど も の 産 め な い 女 に ね 。 そ し て 女 は 男 に な る わ け か 、 子 供 の 産 め る 男 に 」 「も し も 一 方 の② 強 さ が も う 一 方 の ② 弱 さ に 支 え られ て い る の だ と した ら 、 ② 強 い 方 も絶 え ず 不 安 を 感 じ て い な け れ ば な ら な く な る 」(以 上 ゲ ドの 台 詞 、 下 線 等 マ マ)「 で も 、 女 た ち は 自 分 自 身 の 強 さ を 恐 れ て い る よ う に も 見 え る け れ ど 。 な ん だ か 自分 の こと を怖 が っ て い るみ た い」(テ ナ ー の 台 詞)な ど 、 ジ ェ ン ダ ー ・セ ク シ ュ ア リテ ィ と い う 本 授 業 の テ ー マ に 直 近 の 距 離 で 即 し た 対 話 の 場 面 の 選 択 は 、 評 価 さ れ る べ き も の で あ る 。 対 話 と い う 形 式 そ の も の が 読 み 易 い も の で あ る こ と も こ こか ら学 び 得 られ よ う 。 な お 上 述 の 他 に 、 上 記 の 下 線 や ナ ンバ リ ン グ 部 分 に 即 した 、 さ ら に 踏 み 込 ん だ ワ ー ク シ ー トも 用 意 さ れ て い た こ と を 付 記 した い 。 な お 上 述 のwelreprecious… で あ る が 「マ マ 」 と した よ う に 、 一 重 鉤 括 弧 内 に 英 文 が 示 さ れ て い た 。 こ の よ う な 日本 語(の 記 号)と 英 語 の 混 用 は 英 語 関 連 科 目 を 専 門 に し な い 受 講 者 も あ れ ば 起 こ り得 る 間 違 い で あ る が 、 専 門 の 如 何 を 問 わ ず レポ ー トや 論 文 作 成 時 の 英 語 文 献 の 表 記 に お い て 不 可 欠 な 知 識 と し て 、 そ の 訂 正 指 導 に は 徹 底 を 心 が け た い 。 後 述 の 『緋 文 字 』 の ケ ー ス にお い て 教 材 と し て 長 編 を 扱 う 難 し さ を 述 べ る が 、 『ゲ ド戦 記 』 の よ う に そ の 長 編 が 更 に 連 な る 長 大 な 作 品 で も 、 教 材 とな り 得 る こ と が 示 さ れ た 。 そ の 際 に は1)全 編 の あ ら す じ を ま ず 説 明 す る2)特 定 の テ ー マ に 絞 る3)ご く短 い 箇 所 の み を 教 材 と す る4)端 的 か つ 印 象 的 な 表 現(当 該 グ ル ー プ の 発 表 に お い て は " we'reprecious…")を も っ て 導 入 と す る 、 等 の ポ イ ン トが 当 該 グ ル ー プ の成 功 に鑑 み て 述 べ られ よ う。 ま た 対 話 と い う 形 式 が 、 相 互 にや り と り さ れ る リ ズ ム 性 ゆ え に 読 み 易 く 、 授 業 の テ ー マ も 見 つ け や す い 作 品 の 箇 所 で あ る こ と も改 め て 明 らか とな った 。 SF小 説 は 読 者 層 が 限 られ る 一 面 も持 つ が 、 昨 年 度 の ア シ モ フ の よ う に38古 典 的 作 品 を 教 材 と し て 英 語 教 育 に 導 入 す る こ と で 、 生 徒 に 新 し い 世 界 へ の 展 開 を も た らす 効 果 も期 待 で き よ う。 な お 日本 で は ゲ ド戦 記 の 名 が 浸 透 して い る が 、 原 題 は か な りニ ュ ア ンス の 異 な る も の で あ る こ とに 注 意 した い。 こ の よ う な 邦 訳 と原 題 の 乖 離 につ い て も 、 文 学 作 品 を英 語 教 育 教 材 と して 用 い る 際 に は ぜ ひ 言 及 して 、 批 判 的 視 座 の 育 成 に 役 立 て た い。 2-(7)ボ ー"ToF一 一" 再 び ボ ー の 韻 文 作 品 「Fに 」("ToF-一,"1835) で あ る39。 ボ ー は 韻 文 と散 文 の 両 面 に お い て 偉 大 な 業 績 を 残 し た 、 ア メ リ カ 文 学 史 上 で も 稀 な 存 在 で あ り、 そ の こ と に 触 れ る こ と も 一 案 で あ ろ う 。 指 導 案 で は 牛 徒 の 想 定 に 「ク ラ ス 内 で の 男 女 の 仲 37デ イ ヴ ィ ッ ド ・M .ハ ル プ リ ン 『同 性 愛 の 百 年 間 ギ リ シ ア 的 愛 に つ い て 』 石 塚 浩 司 訳(法 政 大 学 出 版 局 、1995)27-32お よ び(7)一(14)参 照 。 38拙 稿、98-99。 39渡 辺 信 二 訳 『ア メ リ カ 名 詩 選 ア メ リ カ 先 住 民 か ら ホ イ ッ トマ ン へ 』(本 の 友 社、1997)、120-21。